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ミラコミラコロックンロール
大矢場智之/堀川裕介
 


『オープニング』


      舞台上に、6体の人形が座っている。
      操り糸を引っ張られるかのように、ゆっくりと立ち上がる6体の人形(A・B・C・D・E・F)。
      思い思いの方向へ動き出す。
      暗転。



『多重人格』


      明転すると、舞台上には男が二人。
      一人(A)は立って前を向いていて、一人(B)はその横のイスに座ってうつむいている。


A  えー、みなさん。本日はお忙しい中、(Bを指し)この瀬戸光一郎君の人格披露のための会合にお集まりいただきましてありがとうございます。私は、瀬戸君の主治医を務め、今回の人格披露にあたっての皆様のナビゲーターをさせていただきます日本精神医学会教授の水沢英世と申します。よろしくお願いします。えー、みなさんも知っての通り、この瀬戸光一郎君は現在、多重人格症状のために通常生活をしかねる状況にあります。我々の多重人格治療の向上とその研究のために、基本人格である瀬戸光一郎君にその旨を伝えたところ、自分が日本精神医学会の未来に貢献できるのであれば是非、という快い返事をいただけたため、我々が治療と研究の間、彼を引き取ることができ、本日のような会合を開くことができた次第であります。先日、瀬戸君の中にあった二十の人格の他に、新たに人格が発見されたというのは皆さんの耳にも届いているとは思いますが、私はこの事実を公にすることを正直迷いました。これ以上彼の人格をむやみに引き出すことは、彼の治療の遅れを意味することになるからです。しかし、皆さんからの熱い要望を受け、我々は初めて彼の人格、そして新しい人格の披露に踏みきったというわけです。ではまず、基本人格の瀬戸君に話を聞いてみましょう。(Bの肩をゆすり)瀬戸君?瀬戸君?


      B、ゆっくりと顔を上げる。


B  (ちょっと棒読み)こんにちは。瀬戸光一郎、十八歳です。今日は僕の中の様々な人格をみなさんに見てもらおうと思います。
A  それではまず、瀬戸君の中にもともと存在していた人格から呼び出してみたいと思います。いいかな?瀬戸君。
B  はい。


      A、Bの肩を叩く。
      B、うつくむ。


A  では。まず基本人格の瀬戸君ともっとも付き合いの長い人格、タケオ、十八歳です。
A  (Bの肩をゆすり)タケオ?タケオ?


      B、ゆっくり顔を上げる。


B  なんだよ。(前を見て)なんだよこいつら。
A  彼がタケオ、いじめっこです。私も彼に何度いたずらされたかわかりません。
B  いたずらなんかしてねぇだろうが。
A  でもこの間、私のサンダルを画鋲まみれにしたね?
B  あんなんいたずらのうちにはいらねぇよ。
A  私のことを水沢菌と呼んだりするね?
B  うるせーなー。おれの勝手じゃねぇかよ。水沢菌。
A  とまあ、いつもこんな感じです。ありがとうタケオ(Bの肩を叩く)
B  うるせ…(うつむく)
A  このタケオのことを極端に苦手とする人格がいます。ダイスケ、十五歳です。(Bの肩をゆすり)ダイスケ?ダイスケ?
B  (ゆっくり顔を上げ)先生。(前を見て)誰、この人たち?
A  彼がダイスケ、タケオからいじめを受けています。
B  タケオがいるの?
A  今はいないよ。
B  先生。タケオがいじめるんだよ。
A  今度は何をされたんだい?
B  また靴を隠された。もう履く靴がないよ。
A  先生がまた買ってあげるから。
B  でもまたタケオに隠されるよ。
A  そのときは先生がタケオにちゃんと言ってあげるから。
B  うん。
A  わざわざありがとうね。
B  うん。
A  (Bの肩をたたく)
B  (うつむく)
A  そして、瀬戸君の中の弱い部分が形成したと思われるケンタ、十八歳です。(Bの肩をゆすり)ケンタ?ケンタ?
B  (驚く)わぁっ。(前を見て驚く)わぁっ。
A  ケンタはひどく小心者です。ケンタ?
B  わぁっ。
A  (床を足で鳴らす)
B  わぁ!
A  (床を足で鳴らす)
B  わぁ!
A  (床を鳴らすフェイント)
B  …。
A  (手を叩く)
B  わぁ!
A  驚かせてすまなかったね、ケンタ。(肩をたたく)
B  わっ(うつむく)
A  彼は我々に驚いた部分しか見せたことがありません。続いて瀬戸君のなかの、大人への憧れと不安が生んだ人格だと思われるヨシゾウ、四十五歳です。(肩をゆすり)ヨシゾウ?ヨシゾウ?
B  (ゆっくり顔を上げる)ヒック。(前を見て)あれぇ?大勢人がいらっしゃることで、ヒック。
A  ヨシゾウさん。またお酒飲んでるんですか?
B  おっ、大先生。私はね、酒なんか全然飲んでませんよ、ヒック。
A  でもお酒臭いですよ?
B  そんなことないですよぉ。(自分の息を嗅ぐ)あら、お酒臭いですねー。先生、私お酒臭いですねー。ヒック。
A  ちょっと飲み過ぎじゃないですか?
B  飲んでなきゃやってらんなですよ。ちょっと聞いてくださいよ、大先生。私が今朝電車に乗ろうと…
A  (Bの肩をたたく)
B  (うつむく)
A  このまま彼の話を聞きつづけたら明日になってしまいます。続いて瀬戸君の中の几帳面な部分が突出して生まれた人格、ユタカ、二十二歳です。(Bの肩をゆすり)ユタカ?ユタカ?
B  (すぐ顔を上げる。早口)あっ、どうしたんですか先生。(前を見て)あれ?どうしたんですかこんなに人がたくさん。いいですよね人がたくさんって。ワクワクしちゃいませんか?
A  このように彼はものすごく早口で会話をしたがります。しかも言葉に詰まったりすることがありません。
B  何いってんだよ先生。そういえばこないだ俺が出した早口言葉言えるようになった?
A  ああ、あの特許のやつかい?
B  そうだよそうだよ。言えるようになったのかよ。
A  ちょっとまだ言えないな。
B  何だよ先生、ちゃんと練習してんのかよ。まったくいつも口ばっかなんだから。
A  ごめんごめん。ちゃんと練習するからお手本を見せてもらいたいな。
B  全然いいよ。東京特許キョキャキョキュ…
A  おい。
B  わりっ…
A  はいはい、ストップだよストップ。おまえなあ、ココで詰まったらダメだろ。
B  あのな、いつも言ってるけど早口言葉って難しいんだぞ?
A  でもそういう設定でやるって決まったんだからちゃんと演じてもらわないと。
B  それにさ、なんでここで早口の人格が出て来るんだよ。
A  仕方ねえだろ?周りのやつらに信じてもらうにはこういうこともやらないといけないんだよ。
B  こういうことってなんだよ。ってか信じてもらうの不可能だって。
A  そんなのやってみないとわからないだろ?
B  おれあと二十個もキャラ演じ分けられる自信ねえよ。
A  は?おまえあんだけした練習無駄にすんのかよ?
B  そうとは言ってないだろうが。
A  それに全部こなさないと壺職人の人格までいけないじゃん。
B  そもそもそれだよ。
A  ん?
B  成功すんのかよ、それ。
A  成功すんに決まってんだろ。俺は精神医学学者だぞ?人の心を扱うプロだぞ。そんな俺が一年間精神医学の研究なんかせずに練りに練った大作戦だぞ。
B  精神医学学者が精神医学の研究してないってのも問題だけど。え?壺職人が作った歴史的超高級な壺をいじめっ子が割っちゃうんだろ?
A  そう。
B  それで、それを無理やりに人格を見たがった、ってことでお客のせいにして、その壺の弁償金をふんだくろうと。
A  そう。
B  そんなの不安でならねえよ。
A  大丈夫だって。多重人格者の人格を無理やり引き出して見ようとするなんてのは人権問題だからな。精神医学会で人権問題なんてったらもうご法度だよご法度。だったら口外はしないようにするから金で解決しようってことよ。
B  百歩譲ってそれでいいとするよ。でもさ、明らかに俺のほうが仕事量多いだろ?
A  おれがこの作戦考えたんだし、最終的に金のこと促すのは俺なんだから、それはいいじゃねえかよ。
B  俺がやるキャラ、ちょっと挙げていってみろよ。
A  えーっと、まず基本人格、いじめっ子、いじめられっ子、小心者、酔っぱらい、早口、超能力者、弁護士、ホスト、オタク、オペラ歌手、ヤクザ、高校球児、浪人生、自殺志願者、皇族、クイズ王、原住民。
B  もうおかしいのいっぱいだよ。
A  でも全部ちゃんと練習したから平気だって。はい、超能力者!
B  (スプーンを曲げるしぐさ)
A  弁護士!
B  意義あり。
A  ホスト!
B  ご指名ありがとうございます。
A  オタク!
B  萌え萌えですぞー。
A  オペラ歌手!
B  (いい声)
A  ヤクザ!
B  ケジメ、つけろや。
A  高校球児!
B  おれを代打で使ってください。
A  浪人生!
B  (受験番号を探し)今年もダメか。
A  自殺志願者!
B  (舌を噛む)
A  皇族!
B  (笑顔で手を振る)
A  クイズ王!
B  (ボタンを押し)ドフトエフスキー?
A  原住民!
B  ウホウホ。
A  完璧じゃん!
B  付け焼刃だよ、こんなの!
A  いや、パーペキパーペキ。第二のビリーミリガンはお前だ。
B  全然うれしくねえし。
A  それで原住民のあとに新しい人格披露だよ。
B  披露だよって。まだ新しい人格教えてもらってないんだけど。そろそろ教えてくれない?
A  一回おさらいした後教えるって言ったじゃん。
B  原住民まではさんざん練習したじゃん。次進もうよ。
A  おっ、ちょっとやる気出てきた?
B  やる気出す出さないは全部完成してから決める。
A  頑固だなあ。
B  んで、新しい人格は?
A  えっと、ギャル…
B  女!?
A  そう、女。
B  むりだろぉ。それになんでギャルをチョイスする。
A  あと産婆、未亡人…
B  女ばっかじゃん!
A  前半男ばっかってのも偏ってるかなって思って。
B  女はできないよ、さすがに。
A  ほんで悟空、壺職人、の5つと。
B  は?
A  ん?
B  壺職人の前なんつった?
A  悟空。
B  バカじゃないの?
A  何でだよ。
B  なんだよ悟空って。
A  西遊記のじゃなくてドラゴンボールのほうね。
B  絶対ばれるぞ。
A  ばれないって。後半は絶対お客も麻痺ってるから。
B  演じるほうのことを考えてキャラ作れって。
A  はい、練習するよ練習。まずギャルから。
B  ちょっ…
A  (手を叩き)はい。
B  くっそぉ…。やっぱー渋谷はー鬼ヤバイーみたいなー。
A  おっけ。
B  えぇ!?
A  大丈夫だろ。
B  すいぶんハードル下がってないか?
A  平気だって。はい、次産婆。(手を叩き)はい。
B  頭出てきましたよー。
A  おっけ。いいねー。
B  絶対ムリ絶対ムリ。
A  次未亡人。(手を叩き)はい。
B  (泣き崩れて)あなたー!
A  おっけ。いいよいいよー。
B  全然心こもってないけど?
A  じゃあ悟空ね。(手を叩き)はい!
B  フリーザー!
A  おっけー。ほんで壺職人と。これは頑固な爺さんやってくれればおっけ。(手を叩く)はい!
B  (ひげを触りながら)わしは北大路魯山人を弟子に持つ陶芸家じゃ。
A  おぉーすげぇ名前出してきたねえ!
B  まぁ、壺職人が出てくるのは知ってたから下調べしたし。
A  あっ、そうなんだ。調べてくれたんだ。
B  うん。調べてみた。
A  あっ、そうなんだ。あ。ありがとう。
B  あっ、いや、どういたしまして。


      そういう間。


B  壺は?
A  ん?
B  壺。本番で割る壺。
A  あぁ、これこれ。(壺を持ってくる。無対象)
B  よくこんなもん用意できたなあ。
A  じいちゃんちの倉探してたら奥のほうから出てきたんだよ。
B  なに?高いもんなの?
A  明治後期に一万円くらいで手に入れたって言ってたから、今で言うと三億くらいだな。
B  三億!?いいのかよ、そんな壺割っちゃって。
A  倉の奥にあったんだからじいちゃんにとって必要なものじゃないんだよ。割ったら価値なんてなくなるんだし、どうせそれ以上のお金が手に入るんだから。
B  だったら安い壺でもいいんじゃないか?
A  それじゃおれらに緊張感なくなるだろ?真剣勝負なんだよ。
B  壺といい、多重人格のふりといい、失敗できないってわけか。
A  失敗できないってわけ。(時計を見る)やべっ。
B  どうした?
A  人格披露する会場に連絡いれるの忘れてた。
B  しっかりしてくれよ。
A  ちょっと待っててな、電話してくっから。


      A、はける。
      B、壺を見る。


B  これが三億ねぇ。


      B、壺を持っていろいろ遊び始める。
      B、壺を頭にかぶり、ぐるぐる回ったりする。
      B、壺を頭から取ろうとするが抜けないことに気付く。
      B、壺を取ろうと四苦八苦。
      そこにAが帰ってくる。


A  何やってんだよ。
B  あっ、帰ってきた?
A  帰ってきたけど、何やってんだよ。
B  いや、何って。これが大正デモクラシーに見える?
A  大正デモクラシーには見えないけど。
B  世の壺ってのは頭にかぶると抜けないようにできてるの?
A  頭にかぶることを前提に作ってないから否定はできない。
B  そうか。否定はできないか…。
A  うん。ってなにやってんだよ!
B  抜けねえんだよ!
A  抜けねえって、なんでかぶってんだよ!
B  かぶりたくもなるだろうが!
A  なるか!お前、これ一個しかないんだぞ!
B  いいから手伝ってよ!
A  あったりまえだろうが!


      Bの頭の壺に手をかける


A  引っ張るぞ。しっかりふんばっとけ。
B  他人にしてもらうの初めてだから優しくな。
A  うるせー。


      A、壺を引っ張る。


B  いてーっ、いてぇ!
A  ちょっとくらい我慢しろ。
B  いてーって!首ごと抜けるって!
A  首の角度いろいろ変えてみろ。
B  この状況でそんなんムリだって!
A  言うこと聞かないとずっとこのままだぞ。
B  ならおれは壺人間として新しい人生を、いてー!
A  首動かせ。


      B、首をいろいろな方向に動かす。


A  いいぞ、ちょっとゆるくなってきた。
B  なんか顔むずむずしてきた。ティッシュとって。
A  我慢しろ。
B  我慢しろって、ムリだ、ハ、ハ、ハックショーン!
A  あっ!


      くしゃみ共に壺が頭から吹き飛ぶ。
      スローモーション。
      二人、壺の軌道を目で追う。
      壺、割れる。
      割れた音を聞いてB、意識が飛ぶ。


A  あーーーー!割れた…。三億の壺が…。


      A、割れた壺のところへ行く。
      割れた壺を手に取る。


A  粉々だ。(床に落としながら)さらさらだ。クリープみたいだ…。(Bに)おい!どうすんだよこれ!お前のせいだぞ!


      B、反応がない。


A  おい?どうした?(Bの肩をゆする)おい。
B  (ゆっくり顔を上げる)なんだよ。
A  瀬戸?
B  は?(割れた壺を見て)なんだよこれ、どうしたんだよ。
A  瀬戸じゃないのか?
B  なんだよしつけーなー。タケオだよ、タケオ。
A  なんで…。割れたショックで…?
B  なにゴチャゴチャ言ってんだよ、うるせぇなぁ。またサンダル画鋲まみれにするぞ、水沢菌。
A  ほんとにタケオなのか?
B  しつけーなー。んでどうしたんだよ、これ。
A  あ、あぁ。壺、割れちゃったんだ。
B  あっ、おめー、俺が割ったと思ってんだろ?
A  え?
B  ふざけんなよ、なんでもかんでも人のせいにすんじゃねえよ。
A  いや、そう言うわけじゃないんだ。
B  じゃあなんで俺を呼び出したんだよ。


      A、恐る恐るBの肩を叩こうこする。


B  なんだよ、気持ちわりいなあ。わけわかんね…(肩を叩かれうつむく)
A  どうすんだ、この状況。ダブルでどうすんだ…。


      A、Bの肩をゆすってみる。


B  (驚く)わっ。
A  ケンタ。
B  (割れたつぼを見て)わっ!わーーー!あー!わーー!
A  あーあー、ごめんごめん。ケンタにはなんも関係ないからな。(肩を叩く)
B  わっ(うつむく)
A  誰か話のできるやつ。(肩をゆする)
B  (すぐ顔を上げる)ご指名ありがとうございます。
A  お前じゃない。(肩をたたく)
B  (うつむく)
A  ほか。(肩をゆする)
B  (顔を上げる。やや間。スプーンを曲げるしぐさ)
A  (肩をたたく)
B  (うつむく)
A  ろくなのいねえなぁ。(肩をゆする)
B  (顔を上げ)ウホウホ。
A  (すぐ肩をたたく)
B  (うつむく)
A  頼む、マジでまともなやつ誰か出てきてくれ。(肩をゆする)
B  (ゆっくり顔を上げる)
A  えーっと。
B  (ひげを触りながら)どうしたんじゃ。
A  北大路魯山人の師匠…?
B  よく知っているな。
A  あの、聞きたいことがあるんですけど。
B  なんだ?
A  一度割れた壺を復元することは難しいことなんでしょうか?
B  壺?うーん、割れた度合いにもよるのだが。
A  こんな具合なんですけど。
B  (割れた壺を見て、そこに近づく)
A  どうでしょうか。
B  (壺の破片を手に取り)ずいぶん粉々に砕いたもんですな。
A  まさかこんなになるとは。
B  (床に落としながら)クリープみたいですな。
A  え?
B  これでは復元は不可能じゃ。
A  今クリープっていいましたよね?
B  言ったがなにか。
A  よく知ってますね、クリープ。現代のものなのに。明治後期の人間が。
B  よ、用はそれだけか?
A  あ、それだけです。ご苦労様です、いくつもいくつも。
B  い、いくつも?何のことかな?
A  いや、こっちの話ですから。では。(肩を叩く)
B  (うつむく)
A  はーん、なるほどね。(わざとらしく)次は誰を呼び出そうかなー。オペラ歌手?クイズ王?あっ、未亡人がいいかなー。決めた、ユタカにしよう。早口のユタカにしよう。(Bの肩を掴み)絶っ対出てこいよ、ユタカ。(肩をゆすり)ユタカー、ユタカー。
B  (ゆっくり顔を上げる)あれー?どうしたんですか、急に呼び出したりして。
A  ユタカ。
B  (壺の方を見て)あれー!なんですかこれー!壺、粉々じゃないですかー!
A  よくこんな粉々でこれが壺だってわかったね。
B  えー?なんとなくだよなんとなく。なんだよこれ、先生が割ったのかよ?先生もけっこう悪いことしちゃうんですねー。
A  なぁユタカ?
B  なんだよ。
A  早口言葉言ってみてよ。
B  なんで今言わないといけないんだよー。
A  先生、練習する早口言葉忘れちゃったんだよ。だからお手本見せてくれよ。
B  あとでもいいだろー。
A  言えるんだったら問題ないんじゃないか?ユタカ。
B  問題ないけど。
A  じゃあ頼むよ。
B  おう、わかったよ。
A  チャンスは一回だけだからな、ユタカ。
B  一回で充分だよ。


      B、小声で練習する。


A  あれー、珍しいな。ユタカが練習してるよ。
B  してねえよ、練習なんか。ちゃんと覚えてくれよ、先生。
A  わかったよ。


      B、深呼吸する。


B  東京特許キョキャキョキュ。


      間。


A  お前なあ!
B  一人ドッキリ大成功ー!
A  ふざけてる場合じゃないだろうが!
B  そんな怒るなよ。
A  おまえのせいだからな、壺割れたの。
B  俺じゃないだろー。
A  壺をかぶったお前のせいだ!
B  無理やり引っ張ったお前のせいだ!
A  壺なんかかぶってなければおれは引っ張らなかった!
B  引っ張られなければくしゃみなんかしなかった!


      二人ちょっと息切れ。
      間。


A  もうやめよう。他人に罪なすりつけても解決しないよ。
B  でもどうすんだよ、壺。
A  変な計画実行しようとしてた罰だよ。どうせ割るつもりだったんだ。罪を犯す前でよかったよ。悪かったな、おかしなことたくさんさせて。
B  おまえ…。
A  壺が割れたのはおれのせいでも、おまえのせいでもない。誰のせいでもないんだ。
B  (急に)おい、どうしたんだよこれ!ちくしょー、誰がやったんだ!
A  もういいって。
B  くそっ、誰だ!誰がこんなことを。
A  おい。
B  誰だー!くそーっ。ゆるさねえからな、ゆるさねえからな!


      B、Aに「肩をゆすれ」みたいな合図。
      A、Bの肩をゆする。


B  フリーザー!
A  (携帯を取り出し)すいません、会場キャンセルしてください。


      暗転。


B  フリーザー!
                         【終わり】



『エレベーターガール』


      舞台は某ホテルのエレベーター。
      舞台上には女性が二人(C・D)、間隔をあけて立っている。
      ドアの開く音。


CD いらっしゃいませ。


      C、Dをにらむ。
      C、階数のボタンを押す。


D  本日はグランドエンパイアホテルをご利用くださいまして誠にありがとうございます。当ホテルは、伝統と…格式を…受け継ぐ…、えー、伝統と…格式と…。(会釈して仕切り直し)えー、当ホテルは…。
C  (遮って。客に)申し訳ございませんでした。


      D、「チッ」みたいな動きをする。


C  改めまして…。本日はグランドエンパイアホテルをご利用くださいまして誠にありがとうございます。当ホテルは、伝統と格式を受け継ぐ至高のサービスで最上級の寛ぎと充実したひとときをご提供させて頂いております。尚、このエレベーターは一階から九階レストランまでの直通専用となっておりますのでご了承ください。


      C、Dに「見たか」みたいな動き。


C  お間違えのお客様はいらっしゃいませんか?


      C、客を見回す。
      C、ボタンを押す。


CD 上へ参ります。


      C、Dをにらむ。
      ドアが閉まる。
      C、Dの方を気にしたり、見たりする。


D  本日の昼食はバイキングとなっておりますのでごゆっくりお楽しみください。
C  何言ってんの!あっ…。(仕切りなおして)申し訳ございませんでした。当ホテル、バイキングは朝食のみとなっておりますのでご了承ください。それでは、ごゆっくりお楽しみください。


      エレベーターの止まる音。
      ドアが開く。


CD 九階、レストランでございます。


      C、Dをにらむ。
      CD、口々に「いってらっしゃいませ」など言う。
      ドアが閉まる。


C  ちょっと。
D  何?
C  さっきから適当なことばっか言って、何のつもり?
D  お仕事でしょ?
C  仕事かもしれないけど、私の仕事じゃん。しかもあんた全部嘘か間違いだし。
D  いいじゃん。
C  よくない。あのね、一個のエレベーターにね、エレベーターガールって二人いなくていいんだよ?
D  ん?
C  だから、エレベーターにエレベーターガールは一人でいいんだって。
D  やだよ、二人がいい。二人一緒がいい。
C  よくない。私ここで働いてるんだよ。あんたはエレベーターガールでもなければここの従業員でもないの。ただの職のないフリーターでしょ。
D  そうだよ。フリフリフリーター。
C  じゃあなんでいるの?
D  だから二人がいいって言ったじゃん。
C  だからよくないって言ったじゃん。
D  けち臭いこと言わないでよー。だって毎日やることないんだもん。
C  やることないって理由で仕事の邪魔されたくないんですけど。今一階に向かってるから降りて帰りなよ。
D  じゃあ一緒に帰ろっ?
C  はぁ?あんたがここにいることばれたら私が怒られるんだからね。まだこの仕事始めたばっかなんだからやめてよ。
D  はぁー、冷たくなったね。
C  そう?
D  うん、冷たくなった。就職始めてからぜーんぜんかまってくれなくなっちゃったもん。
C  忙しいんだからしょうがないでしょ?もう昔とは違うんだから。
D  ふーん、昔とは違うかぁ…。私はずっと変わってないんだけどなぁ。ずーっと…。
C  何、急に寂しそうな雰囲気で。
D  だって昔さ、私たちはずっと一緒だもんねー、って約束したのにさぁ。
C  小学校のときの話でしょ?
D  小学校の時の約束ならやぶってもいいって言うの?社交辞令?小学生が社交辞令?そんな授業なかったもん。
C  授業はないよ。
D  時間割の「国・算・理・社」の「社」は社交辞令の「社」?
C  違うよ。社交辞令じゃないよ。その時はそうしたいなぁって思ったんだよきっと。
D  なら一緒でしょー?
C  あー。はいはい、一緒一緒。
D  あー、適当。一流ホテルのエレベーターガールが適当。適当な一流ホテルの適当なエレベーターの中にいる適当ガールだ。
C  適当適当っていい加減にしてよ。このホテルの就職試験落ちたからってやめてよね、そういうの。
D  だって…。
C  だって何?
D  一緒じゃなくなっちゃったから…。


      エレベーターが止まる音。
      エレベーターが開く。


CD いらっしゃいませ。


      D、Cの方にのみある階数ボタンを押す。


C  ちょっと!…。
D  (笑顔)
C  (気を取り直して)本日はグランドエンパイアホテルを…
D  (遮って)グランドエンパイアホテルをご利用くださいまして誠にありがとうございます。当ホテルは、伝統と格式を受け継ぐ至高のサービスで最上級の寛ぎと充実したひとときをご提供させて頂いております。尚、このエレベーターは一階から九階レストランまでの直通専用となっておりますのでご了承ください。


      D、Cにピースする。


C  お間違えのお客様はいらっしゃいませんか?


      CD、見回す。
      Cが見回している間にDがボタンを押す。


D  上へ参ります。


      C、Dをにらむ。
      ドアが閉まる。
      D、笑顔。
      C、Dに小声で「邪魔しないでよ」みたいなことを言う。


D  本日の昼食は中央のテーブルに牛を丸ごと焼いたものをドカンを置いてありますのでそれをご自由に切り取ってお食べください。
C  そんなわけないでしょ!あっ…。(仕切りなおして) 申し訳ございませんでした。当ホテル、牛の丸焼きを自由に切り取って食べると言う斬新なシステムはございませんのでご了承ください。それでは、ごゆっくりお楽しみください。


      エレベーターの止まる音。
      ドアが開く。


CD 九階、レストランでございます。


      C、Dをにらむ。
      CD、口々に「いってらっしゃいませ」など言う。
      ドアが閉まる。


C  なんで降りないの!?
D  一緒にいたかったから。
C  だからだめだって言ってるじゃん。それになに?牛を丸ごと焼いたものって。
D  いいじゃん。すごくない?牛いたら。
C  あのねぇ…。てかね、あんたのその一緒って言葉。普通とちょっとニュアンス違うの気付かない?
D  どういうこと?
C  あのね、学校とか、一緒の学校行こうね、みたいなのは普通かも知れないよ?まぁ、就職とかでもセーフにするよ、この際。でもそういうことでしょ普通は。
D  そういうことって?
C  あんたの場合はね、やりたいこととか持ち物とかそういうものまで一緒にしたがるの。わかる?
D  うん、だって一緒にしたいんだもん。
C  私がテニス部だからテニス部でしょ。
D  うん。
C  私がブリジストンのラケットだからブリジストンのラケットでしょ?
D  うん。
C  私が初戦敗退だから初戦敗退でしょ?
D  うん。
C  そこまで一緒はおかしくない?
D  そうかな?
C  あと、私が第一志望の高校落ちかたら落ちたでしょ?
D  うん。
C  お弁当の中身も、髪型も、服装も、テストの点数も、ほとんど同じだったよね?
D  うん。一緒にしたかったから。
C  あと、好きな人も…。
D  そうだよ。
C  なにそれ?
D  え?
C  好きな人まで一緒ってなに?
D  好きな人が一緒ってことだよ。
C  そういうことじゃなくて。私が好きになった人ぜーんぶあんたに取られてたんですよね。
D  取ってないよ。
C  まぁね、私が好きだった人とか付き合ってた人があんたんとこに行っても、あんたは付き合わないで断わってたみたいだから取られてたのとは違うかもしれないけど。
D  一緒に好きになったり付き合ったりしたいんだもん。
C  基本的にそういうのは無理なの。世間的一般的によろしくないの、そういうのは。
D  んー、でも今はそうできてるじゃん。
C  ん?
D  今ハル君と付き合ってるって言ってたよね?
C  うん、そうだよ。
D  (笑顔で)私も。
C  …はぁー!?


      エレベーターが止まる音。
      エレベーターが開く。


D  いらっしゃいませ。
C  どういうこと!?
D  お客さん乗って来てるよ!
C  あっ…。


      D、階数ボタンを押す。


C  ほ、本日は、グ、グ、グ、グランドエンパイアホテルを、ご、ご利用…。
D  (遮って)えー、グランドエンパイアホテルをご利用くださいまして誠にありがとうございます。当ホテルは、伝統と格式を受け継ぐ至高のサービスで最上級の寛ぎと充実したひとときをご提供させて頂いております。尚、このエレベーターは一階から九階レストランまでの直通専用となっておりますのでご了承ください。お間違えのお客様はいらっしゃいませんか?


      D、見回す。
      D、ボタンを押す。


D  上へ参ります。


      ドアが閉まる。


D  (小声で)ほら、昼食の説明しないと。
C  あっ。本日の昼食は朝食のメニューと夕食のメニューをご用意しております。朝食がおいしかった方は朝食のメニューを、夕食が待ち遠しい方は夕食のメニューをお食べください。
D  はぁー…。(仕切りなおして)申し訳ございません。当ホテル、今のような複雑でわかりにくく手を抜いた食事システムはございませんのでご了承ください。それでは、ごゆっくりお楽しみください。


      エレベーターの止まる音。
      ドアが開く。


D  九階、レストランでございます。


      D、「いってらっしゃいませ」など言う。
      ドアが閉まる。


D  どうしたの?今私全部ほぼ完璧に出来ちゃったよ。
C  さっきのほんと?
D  さっきのって?
C  ハル君。
D  うん。ほんとだよ。やっと二人一緒だよ。
C  嘘だぁ…。


      C、携帯電話を取り出し、電話をかける。


C  あっ、ハル君?


      C、少し後ろに行って話をする。
      エレベーター内の電話が鳴る。
      D、電話に出る。


D  はい。あっ、違います。今ちょっと出られないみたいなんで。…あっ、そうですか。わかりました、伝えておきます。はい、はーい、はーい、では。


      D、電話を切る。
      Cも電話が終わる。


D  ねぇねぇ。
C  なんだそれ…。
D  ん?
C  なんだそれ!
D  …。
C  なんでよ、なんであんたハル君と付き合ってんの?
D  一緒になりたかったから。
C  なんだその理由!いや、理由にすらなってない!
D  怒らないでよ。
C  ハル君、私と別れたいって。
D  どうして?
C  あんたと真面目に付き合いたいって。
D  えー、困るよ、それ。
C  困ってんのはこっち!
D  ハル君と別れるんなら、私もハル君と別れる。
C  まだ別れるとは言ってない。
D  じゃあ私も別れない。
C  でも私と別れてあんたと付き合うって言ってんの!
D  じゃあ私も別れる。
C  そういうことじゃないの!もうやだ…。
D  あ、そうそう、さっきねそこでハル君と電話してるときに内線かかってきてね。なんかセリフどもったり昼食に朝食が出たり夕食が出たりするとかいい加減なこというエレベーターガールがいるって苦情が来たんだって。だからスタッフルームに来いだってさ。
C  あんたのせいじゃん、全部。
D  一緒に行ってあげようか?
C  来れるの?私全部あんたのせいだって言うよ?
D  一緒にいけるなら何でもいいよ。
C  あっそう。じゃあ行こうか。
D  うん。


      エレベーターが止まる音。
      エレベーターが開く。
      D、エレベーターから降りる。
      C、動かない。


D  行かないの?
C  やっぱあんた残って。
D  えー、なんで?
C  二人いなくなったらエレベーターガールいなくなっちゃうから。
D  じゃあ一緒に残ってよ。
C  私は行かないと。私が呼ばれたんだから。すぐ戻ってくるから。
D  わかった。
C  中で何したらいいかはもうわかってるよね?
D  うん、大体は。
C  私がさっきやったことと一緒のことすれば大丈夫だから。
D  一緒のことね。
C  そう、一緒のこと。
D  あっ、今日の昼食ってほんとはなんなの?
C  本場中国の宮廷料理を再現した本格中華。


      C、出て行く。
      D、エレベーターの中に入る。


D  申し訳ございません。大変お待たせいたしました。いらっしゃいませ。


      D、階数のボタンを押す。


D  本日はグランドエンパイアホテルをご利用くださいまして誠にありがとうございます。当ホテルは、伝統と格式を受け継ぐ至高のサービスで最上級の寛ぎと充実したひとときをご提供させて頂いております。尚、このエレベーターは一階から九階レストランまでの直通専用となっておりますのでご了承ください。お間違えのお客様はいらっしゃいませんか?


      D、見回す。
      D、ボタンを押す。


D  上へ参ります。


      ドアが閉まる。


D  本日の昼食は本場中国の宮廷料理を再現した本格中華でございます。ごゆっくりお楽しみください。


      エレベーターの止まる音。
      ドアが開く。


D  九階、レストランでございます。


      D、「いってらっしゃいませ」など言う。
      ドアが閉まる。


D  できたできた。


      内線が鳴る


D  はい。あっ、どうだった?怒られた?…えっ?もう来なくていいって?あ、そうかぁ。うん、今レストラン着いて、下に向かってるところ。うん、今行くからちょっと待ってて。


      D、電話を切る。


D  クビになっちゃったかぁ。(笑顔で)これでまた一緒だ。


      暗転。
                          【終わり】



<幕間・1>

      明かりつくと、6体の人形が不安そうに上を見て立っている。
      上から、座長と小屋主の会話が聞こえてくる。


座長   …どうでしょうか?
小屋主  …台本は、あなたがお書きになったのですか?
座長   恥ずかしながら
小屋主  なかなか文才がおありのようで
座長   恐縮です。で、いかがでしょう?
小屋主  …残念ですが、これでは上演許可は出せませんね


      なんとなくお互いを見る6体。


座長   そうですか…
小屋主  私としてもお力になれず、心苦しいのですがね。そもそも、なぜうちでやろうと思ったのですか? 劇場は他にいくらでもあるでしょうに
座長   お恥ずかしい話ですが、もう他にあてがないんです
小屋主  というと?
座長   見ての通り、僕の人形劇団は構成員が僕一人だけで、劇団とは名ばかりな存在です
小屋主  大変ですな
座長   ええ。こんな体ではどこの劇場でも許可が下りなくて
小屋主  なるほど。…お話はわかりました。なかなか面白いものを見せていただきましたよ。いつかまたご縁があれば、お会いしましょう
座長   劇場主さん
小屋主  お気をつけてお帰り下さい
座長   …もう少しだけ、見ていただけませんか?
小屋主  お帰り下さい
座長   このままでは父が浮かばれません。父から譲り受けたこの劇団を、僕が潰してしまうわけにはいかないんです
小屋主  …
座長   お願いします
小屋主  …まだ、作品がおありで?


      お互いを見る6体。憂鬱そう。


座長   はい
小屋主  …手短にお願いします
座長   ありがとうございます。すぐに準備します
小屋主  ちなみに、次はどんなお話で?
座長   恋愛物です。人形劇のラブストーリー
小屋主  面白そうですな
座長   では、いきます


      転換の後、暗転。
      『ピクニック』『カップル』へ続く。



『ピクニック』


     ピクニックに来た男女。
     男(E)は地図を見ている。
     女(F)は「ピクニック」を歌っている。


F   歌おー、ほがらにー、共に手―をー取―りー
E   (地図を見ている)
F   ランララランランあひるさん
E   (地図を見ている)
F   ララランララランランあひるさん
E   (地図を見ている)
F   ララ歌声あわせよ足並みそろえよ今日ーはゆかーいだー


     二人ベンチに腰を下ろす。


F   ふー。なんか暑くなってきたね。汗出るね
E   …
F   こんな時のためにタオルを持ってきたのであります。ジャン。うん、いい感じ。登山って感じだ
E   …
F   あごめん、ヒデの分忘れてた、アハハ。はい(タオルをもう一つ出して渡す)
E   (地図を見ている)
F   …いらない? いらないね。じゃあたしが二つ使ってみたりして。何かすごい汗っかきみたいだね、あたし
E   …
F   あっ。やっちゃったー、カメラ持ってくるの忘れたよ。せっかく撮ろうと思ってたのに。あーもー、死んじゃえよあたし
E   …
F   今、携帯でいいじゃんて思ったでしょ? 思ったでしょ、ねえ
E   …
F   ダメなんだなー。携帯だとちゃんと写真にできないじゃん。なんつうんだろ、ほら、紙の写真。形として残せないの、携帯だと。モノより思い出とか思い出プライスレスとか言うけどね、やっぱりモノとして残ってると嬉しいでしょ。思い出の品って大切にしていいと思うんだ、なんだかんだで
E   (頭をかかえる)
F   …わかった? 場所
E   (首を振る)
F   …そっか。まぁ、でも、いいよ。普通にハイキングに来れただけでも嬉しいから。スタンプラリーって言ってもさ、スタンプ見つけなきゃいけないってわけでもないし。スタンプ見つからないと拉致されてマグロ漁船に乗せられて強制労働、しかも一本釣、みたいな。んでいざ釣ってみたら長靴と海草ばっかで浜ちゃんスーさん困ったぜ、みたいな。そんなわけねぇだろみたいな。ね
E   …
F   大丈夫大丈夫。ほら、落ち込まない! 男の子だろ!
E   いや、あの、落ち込むとかじゃなくて…
F   じゃなくて?
E   …あーもー(頭を抱える)
F   落ち込まない! 男の子! きみたち男の子、ヘイヘイヘイ!(郷ひろみ)
E   だから落ち込むとかじゃなくてさぁ
F   楽しもうよ。せっかくのオフなんだから
E   そうしたいのはやまやまなんだけど
F   じゃいいじゃん
E   いやだから…あー畜生
F   ヒデはね、そういうのこだわりすぎだよ。何も決められたゴールに必ず着かなきゃいけないって事はないんだから。スタンプラリーに限った話じゃなくて。うおっ、聞いた? あたし今すごい良いこと言ったよ
E   (小さく)うぜぇ…
F   ねーねーヒデさぁ、もしかして景品ほしいの?
E   あー…
F   そうなの?
E   ていうか…
F   素朴な疑問だけど、景品て何なの? ホットプレート?
E   なんでいきなり
F   だってヒデが欲しがりそうな物っていったらさ
E   俺別にホットプレート欲しくないし
F   じゃホットドッグ?
E   何、ホットつながり?
F   ホットケーキ? ホットショット?
E   もういいよ
F   ねぇ景品なんなの? 教えてよ
E   いやあの何つうか
F   それに書いてあるんでしょ? 見せたまい
E   いやちょい待って、ちょい待って
F   何でよ? あたしに見せるとなんか悪いことあるの?
E   まあ厳密にはある
F   なんだそれ。(遠くを見て)あっ!
E   …
F   ほら、あれ見て!
E   (見ない)
F   見なよ
E   なんもねえんだろ?
F   (と言った隙に地図を取る)
E   あっ
F   (読む)…なにこれ。え、ちょっと、なにこれ
E   (女の耳をひっぱる)
F   痛い痛い痛い。やめてよ、やめてってば、カツオ君みたいになってるでしょ


     F、なんとかしてEをふりほどいて距離をとる。互いにけん制しあって動かない二人。


F   (手を上げて)はい。先生質問です
E   …
F   この地図は一体どういうことでしょうか
E   …
F   なぜ手書きなのでしょうか
E   …
F   なぜ宝の地図風なのでしょうか
E   …
F   私達は、奥多摩健康スタンプラリーに参加したのではないのでしょうか
E   わかりました! 答えますから! 先生答えますから!
F   はい
E   答えるからこっち来て
F   その場で答えて下さい
E   なんもしねぇよ! 来てってば
F   (警戒しつつ来る)
E   (地図を奪う)
F   あっ
E   (地図を丸めて食べる)
F   あーあー。何やってんの
E   …
F   わけわかんない。いいやもう、お腹すいたよ。お弁当食べちゃうよ


     F、弁当をひろげる。


F   いまさら言うのもなんだけどヒデってさ、よくわかんないとこあるよね。はじめハイキング行こうって言い出したときはノリノリだったのに、実際来てみたら全然楽しそうじゃないのね。地図見てウンウン唸ってるだけだし
E   (口から地図を吐き捨てる)
F   汚い! 出すなよ!
E   出さなきゃ弁当食えない
F   やだよ、ヒデに弁当なんかあげない! 全部あたしが食べるよ!
E   …太るよ?
F   どっか行っちゃえ!
E   弁当くれよ
F   知らない。地図食べてなよ
E   紙ってやっぱおいしくねぇんだな
F   当たり前じゃん!
E   なんか昔、紙うまそうに食ってた友達いてさ。赤い紙と青い紙だったら青い紙のほうがうまいんだって
F   バカじゃん
E   うん、バカだと思った。俺も


     吐き出した紙を拾ってまた広げるE。


E   …
F   宝探しツアーですか。そりゃ楽しそうでけっこうですね


     間。


F   …その、バッテンのとこに宝があるの?
E   うん
F   …ふーん


     間。F、しかたない感じでEの分の弁当を出してやる。


F   はい


     Eも弁当を食べ始める。


E   …ダイヤがあんのよ
F   そうなんだ
E   …信じてないでしょ?
F   どうだろうね
E   本当にあんのよ。絶対
F   ふーん。じゃ一人で取ってくれば? あたしお弁当食べてるから
E   …探そうよ
F   いいよ、あたしダイヤよりお弁当のほうが大事だから。がんばってね宝探し
E   …あーそうですか。弁当のほうが大事ですか。はいはいそうですか、あーやってらんねぇ


     E、地図を破り捨てる


E   もうどうでもよくなっちった
F   …何
E   そうですね、ダイヤより食い物ですね。リアル豚に真珠状態ですわな
F   …本気で腹立つんだけど
E   いいよいいよ、好きなだけ食いなよ、ほら俺の分もあるよ?たくさん食べてたくさん育ちなよ、横に
F   …あんたさ、どうしてすぐそういう駄々っ子みたいな態度とるの!? 何か気に入らないことがあるとすぐそんなじゃん! そのたんびにあたしがなだめすかしたり機嫌取ったり、あたしがどれだけ気ぃ使ってるか知ってんの?せっかく二人でいるから楽しくしようって頑張ってるのにさ、あんたがぶちこわしにしてるんだよいつもいつも!この前だってさ…ねえ聞いてんの!?
E   聞いてねえよ
F   ふざけてるこいつ。もうやだ、何であたしこんなのと一緒にいるんだろ。本当ふざけてる。(財布から鍵を出して)鍵、返すね。もうあんたん家なんか二度と行かない


     F、弁当を片付けて去ろうとする


E   …お前がダイヤより弁当とか言うからいけねんだよ!
F   …はぁ!? 何様!? さんざん人を引っ張りまわといて何様!? 悪いけどあたし徳川埋蔵金とか一切信用しないから!
E   埋蔵金じゃねえよ!
F   どんだけ引っ張れば気が済むのよ! 「遂に出た」「遂に出た」って言っといて毎回出ないじゃない! 視聴者をバカにしてるわよ糸井重里は!
E   いつの話だよ!?
F   それでも糸井はいいわよ、コピーライターとしてしっかり仕事してるし、マザー作ったし! それに比べてあんたは何よ、マザーのひとつも作れないで! あんたなんか糸井以下よ!
E   糸井の埋蔵金は出なかったけど、俺のダイヤは出るんだよ!
F   夢見る少年みたいな事言って! 証拠はあるの証拠は!?
E   だって俺が埋めたんだから!


     間。


F   …はぁ? …何それ?
E   うっせぇな、もういいよ
F   あんたが埋めたってどういうことよ
E   だからもういいっつってんじゃん
F   ちょっと待ちなさいよ!
E   結婚しようって言おうと思ってたの!


     間。


F   …だ、どぅあ、誰に?
E   お前に!
F   …誰が?
E   俺が!
F   …あ、あー、あーー、(うなずく)あー
E   おぉ


     二人共どうしていいかわからない、気持ち悪い間。


F   …指輪?
E   指輪
F   ダイヤの?
E   ダイヤの
F   …高かった?
E   すこぶる
F   …そ
E   …式、どうする?
F   あー…。白ムク、を、着たい
E   和式?
F   和式。いまんとこは


     男、破った地図を拾い集める。
     二人で地図を覗き込む。


E   どこに埋めたかわかんなくなっちってさ
F   …えっと、これがさっきのあそこ、だよね。じゃあ…
E   この辺のはずなんだよな


     地図を見る二人。


F   …もし、さ
E  ん?
F   他の人が見つけて、拾ってっちゃってたら、どうする?
E   …


     E、地図の切れ端を小さく折って、輪っかをつくる。
     F、指を差し出す。
     EがFの指に指輪をはめようとしたところで、暗転。

                          【終わり】



<幕間・2>


      明転すると、舞台上にまた6体。疲れている。


座長   以上です。いかがですか?
小屋主  …何と言いましょうか、やはりもう少し完成度の高いものでなければ
座長   はぁ…
小屋主  見たところ人形は6体あるようですが、出てくるのは必ず2体だけですか
座長   すいません。僕の手、2本しかありませんから
小屋主  ごもっともですな
座長   じゃあ、次の作品をやります


      6体、「まだやんのかよ」みたいな動き。


小屋主  まだあるんですか?
座長   ええ、この通り、台本があと2冊あります
小屋主  2冊? 3冊あるように見えますが
座長   あ、いや、これは違います。晩年に父が書いた台本で、登場人物が6人なんです。だから上演は不可能です
小屋主  そうですか
座長   父は偉大な人形使いでした。父の操る人形は、まるで自分の意思で動いているかのようでした。人形に命を吹き込むことができたんです
小屋主  職人芸というやつですか
座長   そんなレベルじゃありません。あれは何と言うか、神の領域です。奇跡と言ってもいい
小屋主  …次の作品はまだですか?
座長   あ、はい、すぐに
小屋主  その奇跡とやらを、私にも見せていただきたいものですな
座長   …では、いきます


      転換の後、暗転。
      『傘』へ続く。



『傘』


      女(C)と、やや距離を置いて男(E)。


C  それは、私がまだ青空を好きだった頃のお話です。当時私は大学生、花もはじらうウラ若き乙女でありまして、大しておもしろくもない日常に飽き飽きして、何か面白いことはないか、刺激になるものはないかと常に探していました。道を歩いていたらトラックが突っ込んできて、間一髪の所で若い男に助けられるとか、海水浴をしていたら人食い鮫に襲われて、間一髪の所で若い男に助けられるとか、家でテレビを見ていたら突然隕石が落ちてきて、間一髪で若い男に助けられるとか。自分から何かをするわけでもなく、都合よく白馬の王子様が現れるのを待っている、おバカな私でした。


      E、Cの前を横切る。


C  6月のとある日の事です。その日私は、週一で通っていたフラメンコ教室の帰りで、駅前のコンビニで雑誌を立ち読みしていました。(読みながら)…「ブエルタをすると体がグラグラしてしまう」うん、それ私だ。「パルマのリズムが安定しない」そうだよなー、安定してないよなー。(手拍子をやってみる)ズンタッタ、ズンタッタ、ズンタッタ…かっこわりー、なんだこれ。フラメンコって楽しいなぁ
E  (コンビニの店員に)あ、それあっためて下さい
C  こうやって大好きなフラメンコの雑誌を読むひと時が、私の小さな幸せです。
E  ビザカード使えます?
C  ひととおり読み終わって、満足したところでうちに帰ります。昨日からお母さんが旅行に出かけてるので、今日は適当にラーメンでも作って食べようかな。冷蔵庫に卵あったから使お


      C、コンビニを出る。


C  (見上げて)…うわー。降られたぁ。傘ないっつうの


      Eも会計を済ませてコンビニを出る。同じように雨に
      気づき、持っていた傘を広げて立ち去る。
      と思いきや、戻ってきてCに傘を差し出す。


E  どうぞ
C  え?
E  どうぞ
C  あっ。(受け取る)え、でも…


      E、バッグから折り畳み傘を出して、広げる。
      トコトコ歩き去る。


C  あら。…私がその人と出会った、記念すべき一瞬でした。


      C、雨の中を歩く。


C  雨の日は必ず誰かのビニール傘を盗んで使っていた私にとって、借り物の傘をさして帰るのはなんだか不思議な感じで、いささかおもはゆいというか、何というか。…これ、返しに行かなきゃダメだよね。住所書いてあるもんね


       傘の裏にでかでかと住所が書いてある。


C  …さて、その日降った雨は次の日の朝まで降り続いて、雨嫌いな私はアンニュイな夜を過ごしました。次の日はちょうど大学も休みだったので、私は書いてある住所を頼りに、傘を返しにゆきました。でんでん。


      C、地図を見ながらEの家とおぼしき場所へ辿り着く。


C  2丁目の22番地…そこの角を曲がってと…ここだ!


      が、そこに家はない。


C  ところが。書いてある番地に家はありませんでした。なんか、草ボーボーでした。交番で聞いてみようかとも思いましたが、困ったことに住所は書いてあるのに名前がない。ゆえに確かめようがないのです。結局その日は、傘を返せないまま家路につくことになりました。…名前書いとけよなぁ、住所より名前だろ、まずは。名前を知りたいって話でしょ


      C、とぼとぼ帰る。


C  そして、一週間ほど経った頃でしょうか。その日もまた、しとしとと雨に降られて、大学への道のりが憂鬱に思える朝。駅の前の横断歩道を渡ろうとして、見覚えのある背中が私の前を歩いていることに気づきましたEが前を歩いている。
C  あれ、もしかして…声をかけようと思ったそのときです


      車のブレーキ音。Eが轢かれそうになる。


C  あぶないっ!


      C、Eに駆け寄ってタックル。
      しかしあっさり跳ね返される。(額に掌底)


E  (車に)危ないよ。早めに踏んで、ブレーキ。…(女に)大丈夫ですか?
C  …はい
E  怪我とかないですか?
C  おでこが…
E  え?
C  あ、いや、えーと、足くじいちゃったかな?
E  え、まじですか? 病院行きますか?
C  いえいえそんな、大丈夫です、全然大丈夫です。あ、えーと、それじゃ(去ろうとする)
E  この前はすいませんでした


      C、立ち止まる。


C  は?
E  うちまで来てくれましたよね?
C  …あ、はい! えでも、うちって…
E  傘届けに来てくれたんですよね? すいません、来たのわかったんですけど、そん時俺、出れなくて
C  …はあ
E  わざわざ来てもらったのに申し訳ないです
C  あ、いえ。そうだちょうどよかった、これお返しします


      C、持っていた男の傘を開いたまんま返す。


C  あのときはありがとうございました。どうぞ
E  持ちづらい…
C  それじゃ、失礼します
E  あ、待って。(傘を差し出して)まだ降ってますよ
C  …(空を見て)あ


      C、傘をまた受け取る。


C  こうして、私とその人の間に小さなつながりが生まれたのでした。傘を届けてくれたお礼に、彼が私を食事に招待してくれる。そのお礼に、私が彼を食事に誘う。でそのまたお礼に…という感じで、感謝の気持ちの連鎖反応が続くわけで。そんなのが続けばその後の二人は言わずもがな。やがてお礼とか関係なく、お互いが暇なときに一緒に食事をするようになりました


   二人でメシ食ってる。


E  フランス料理だね
C  フランス料理だねぇ。…あのさ、
E  ん?
C  家どこなの?
E  家?
C  うん。あの傘に書いてあった住所、なんにもないじゃない。草ボーボーだった
E  なんにもなくないじゃん、草あるなら
C  草あってもさ
E  草があれば十分だよ
C  そんな仙人みたいなこと言われても
E  仙人は霞だね
C  あの住所、嘘なんでしょ?
E  ほんとだよ
C  またまた
男  あそこに住んでんの
E  えー? ボーボーなのに?
男  ボーボーだからこそ
C  …ご覧の通り、彼はちょっと不思議です。自慢じゃないけど、13正座占いによると不思議な人と相性がよいらしいです、あたし
E  メインディッシュ来たよー


      ウェイターが料理を運んできたらしい。


C  おー、すげー。エスカルゴだー。ガッつけガッつけ
E  …
C  どしたの?
E  これは食えない
C  嫌いなの?
E  嫌いとかじゃなくて、食えない
C  なんで?
E  なんでも
C  …そ。なんか、残念。じゃあたしがもらっていい?
E  断る
C  断られたぁ
E  こいつを食うなんて俺にはできないし、君がこいつを食う姿も見たくない
C  なんだそれ、あたしそんなに食べ方汚いか? え、じゃあこれどうするの? このまま放っとくってこと? メインディッシュだよ?
E  (突然泣き出す)
C  えぇ? 何、どしたの?
E  神様って残酷だよな…
C  はぁ?
E  ごめん、気分悪いから帰るわ
C  え、ちょっと


      E、立ち去る。


C  …えー、まあ、ご覧の通り彼はとてもストイックな人です。動物占いによると彼はチーターで私はシマウマ、天敵だけど相性は抜群らしいです


      電話でくっちゃべる二人。


E  ほんとに?
C  だって書いてあったんだもん。でもね、違う本見てみたらあたしがライオンでそっちが牛だって
E  やっぱ天敵じゃん
C  でさらに違う本を見ると、あたしがパンダでそっちが笹だって
E  動物占いでしょ?
C  うん
E  笹っていうカテゴリがあるの?
C  ない。嘘
E  なんだ
C  あは
E  この前ごめんね、いきなり帰っちゃって
C  ん? あー、フランス料理? いいよいいよ。体調悪かったんでしょ? ちょっとビックリしたけどね
E  ごめん
C  気にしない気にしない。あそうだ、今度の週末、暇? あたしの地元でエスニック料理のお店見つけたんだ
E  いいね。じゃ行こうか
C  なんか食べてばっかりだね
E  食べなきゃ生きていけないからね。あ、ちょっと待って


      E、テレビを見る。


E  晴れか…
C  ん? あー、週末晴れらしいよ。もうすぐ梅雨も終わるねー、嬉しいなぁ
E  そっか
C  でね、そのエスニック料理のお店がクーポン配っててさ、変なクーポンなんだよ。全品おいしさ50パーセントオフって書いてあって。おいしさってどゆことだよ、普通値段…
E  ごめん、もしかしたら行けないかも
C  ほんと
E  頑張ってみるけど、駄目だったらごめん
C  あ、そう…予定あるんならムリしなくていいよ?
E  予定はないんだけど
C  はあ。…あのさ、
E  ん?
C  …あ、なんでもない。じゃあまた週末にね
E  うん。あ、待ち合わせ場所は? どこに何時?
C  …不思議な人を理解するのは難しいです。お互い理解しあおうとしてるならまだしも、一方通行じゃなおさら難しい。乙女心はあっちいったりこっちいったりの酔いどれルンペンです。…で、酔っ払った心のまま週末がやってきました。梅雨時には珍しく、スカッと晴れわたる夏日和。予定より30分も早く待ち合わせ場所に着いた私は、当時ハマっていた村上龍を読んで時間を潰していました。(本を出して)ラブ&ポップ


      本を読むC。


C  読書は私の数少ない趣味の一つでして、本の世界にのめりこんでいれば時間が過ぎるのも早くて早くて。あっという間に15分が過ぎました
E  (声のみ)おまたせー
C  あ、来たみたいです。こっちこっちー


     Eが鼻メガネをつけて出てくる。


E  (外人訛りで)ごめんねー遅れちまってー
C  人違いでした。まあよくある話です。古今東西、誰かを待ち焦がれる乙女の心は不安定なものでありまして、でも私の場合は本の世界にのめりこめば時間なんていくらでも過ぎていきます。そんなこんなで1時間が経ちました
E  (声のみ)ごめんごめん
C  やっと来やがったなー。遅せーぞー
E  (入ってきて、また外人訛りで)仕事が長引いちまってよー
C  また人違いでした。まあ仕方ないです、乙女の心は不安定なのです。でも私は本さえ読んでれば全然オッケー、どんだけでも時間は経ちますから。そして3時間が過ぎました
E  (声のみ)ごめんよー
C  おーい、どんだけ待たせんのさー
E  (入ってきて、また外人訛りで)堪忍してなー
C  やっぱり人違いでした
E  (鼻メガネを取って)なーんて
C  あ!
E  僕だよー
C  変装だったのかー
二人 アハハハ、アハハハ、アハハハ
E  ごめんね待たせちゃって
C  もー、何時間待たせんだよまったく
E  おわびにご飯おごるよ
C  当然だよ。よし、じゃあどこ行こっか?
E  この前言ってたエスニックのお店行こうよ
C  そだね。もうお腹すいちゃったよ、早く行こう
E  ホワワワワン(消える)
C  …妄想だったみたいです。…気づけば、待ち始めてから5時間が過ぎていました


      うつむいて歩くC。


C  来れないかもしれないって言ってたしね。ほんとは仕事とかあったんだよ、多分。きっとそうに違いない


      雨が降り出す。


C  雨降ってきたぁ。私の心を象徴するかのような雨だよ。もうビニール傘を盗む気にもなれないよ。暗いなぁ、寒いなぁ


      C、こける。


C  …こけたなぁ、こんなに平らな所で。あ、タクシー


      タクシーが通って、水溜りの水がはねてCにかかる。
      C、うずくまってえんえん泣く。
      そこへやっとこさEが到着。


E  ごめん。遅くなった
C  バカ。死んじゃえ。雨なんか嫌いだ。大っ嫌いだ
E  …ごめん。俺、歩くの遅くて。こんなに時間かかっちゃった
C  遅すぎだよ
E  俺、かたつむりだから。晴れてると来れないんだ
C  …
E  道が乾いてると来れないんだ
C  …かたつむりなんか嫌いだよ
E  かたつむりでごめん


      Cの家の前に到着。


C  ここでいいよ
E  うん
C  …じゃあね


      間。


C  …またしばらく、雨降るんだって
E  そっか
C  雨が降ってれば、遅れない?
E  雨さえ降ってれば
C  雨が降ってれば、うちまで来れる?
E  絶対来れる
C  …わかった。じゃあね
E  うん


      間。


C  …(ちょい笑って)早くいきなよ


      絶え間なく雨の音。


C  この年の天気予報はよく当たりました。それからまた数週間、長ったらしく雨は降り続けました。相変わらず私は誰かのビニール傘をパクっては使っていたので、うちの傘たてはビニール傘で満杯です。よく家族に怒られます


      Cの家で、二人遊んでいる。


C  グーチョキパーでー、グーチョキパーで、何作ろー、何作ろー、右手はパーで、左手もパーで、かたつむりー
二人 えぇ?
C  (自分の手を見て)かたつむりじゃねぇなぁ。なんだこれ
E  魔封波?
C  またそういうわかんない事言う
E  だって魔封波だもん、これ
C  じゃあー、右手はグーで、左手はパーで、カンフー
E  リズム気持ち悪い
C  じゃ今度はそっちが
E  えっと、右手はグーで、左手もグーで、(鍋をかき回す真似)シチューできたわよー
C  右手はチョキで、左手もチョキで、チェケラッ超
E  右手はパーで、左手もパーで、(ダチョウ倶楽部)ヤー!
C  右手はパーで、左手もパーで、(なんか念力みたいなのを出す)
   カーッ
E  (念力を受けて)わー。右手はグーで、(パンチ)やー
C  (喰らって)わー。右手はチョキで、(目潰し)やー
E  わー。右手はパー(もういきなり殴る)
C  わー。…なんか虚しくなってきた
E  テンションだけだね
C  かたつむりってどんなだっけ?
E  これでしょ、グーとパーで。あ違うな
C  グーとチョキじゃない?
E  こう?
C  違う違う、こう
E  あ、なるほどね。かたつむりに見える
C  いいねいいね。なんかおもしろいね、もっと開拓の余地ありそうじゃない
E  ダチョウ倶楽部はひどいな
C  自分でやったくせに
E  (またやる)ヤー
C  (つられてやる)ヤー。…そうだ、ダチョウで思い出したけど、オーストラリアでダチョウの卵の目玉焼き食べれるんだって。今度行こうよ
E  オーストラリアか。もう旅行だね
C  うん、旅行も兼ねて。もうちょいで大学夏休みだからさ、今から企画すればたぶん行けると思うんだ
E  そっか。夏休みか
C  夏が来るねぇ
E  梅雨が明けるんだ


      間。


E  もう、雨が降らなくなるんだ
C  …え、いいじゃん。あたし雨嫌いだし。雨降るとビニール傘だらけになっちゃうんだもん。もう梅雨明け待ち遠しくて。この前なんかもさ、野外音楽堂にライブ見に行ったのに、雨降ってるからゼンゼン盛り上がれないのね。もうこの世に雨なんかなければいいのにって。ねー


      間。


C  …関係ない、よね? 冗談だよね? 冗談でしょ?
E  …
C  かたつむりは雨降ってなくても生きてるじゃん。晴れててもなんか、どっかで元気にやってるんでしょ? 草むらとかで。目に触れないだけでさ。よくわかんないけど
E  …
C  違うの?
E  …


      E、てるてる坊主を出す。


E  あげる
C  …やだ。いらない
E  早く梅雨があけますように
C  いらない
E  晴れますように
C  いらない


      E、てるてる坊主をそっと置く。
      C、それをさかさまにする。


C  …雨がやみませんように
E  夏が来ればやむよ
C  …それでもやみませんように


      間。


C  (突然立ち上がり)タイ行こうよ! タイとか東南アジアの国はさ、夕方になるとすっごい雨降るんでしょ? モンスーンとか言ったっけ? なんか年中雨降ってそうじゃん、季節とか関係なさそうじゃん! そうだよ、オーストラリアなんか全っ然雨降らなそうだし、タイの方がいいよ! あたしパクチーとか好きだし。てか別に食べた事ないけどなんか多分好きそう! 好きになる、パクチー好きになる! パクチーっていう言葉の響きは既に好き! えっと、えっと、でなきゃロンドン行こう! 霧の町! なんかいつっでも曇ってて薄暗―くて、湿度高くて、路面が濡れてる! オッケーじゃない、おあつらえじゃない!? どうよ?!
E  …かたつむりの脚じゃ一生かかっても辿り着けないと思うよ
C  飛行機! 飛行機乗れば! 文明開化万歳! 文化大革命万歳!
E  文化大革命は中国だよ
C  えっと、えっと、じゃあ…
E  大丈夫だよ。また会えるから


      間。


C  ほんとに?
E  うん
C  夏になって、ひからびて死んじゃったりしない?
E  大丈夫。殻に入ってれば
C  寿命で死んじゃったりしない?
E  意外と長生きするんだよ
C  来年まで生きてる?
E  んー、多分
C  多分って何…
E  頑張るよ
C  頑張ってよ。お願いだから
E  大丈夫大丈夫
C  絶対だからね。嘘ついたらあれだよ、塩かけるよ
E  うん。かけちゃえ
C  塩かけるよ…


      間。


C  今度またフランス料理食べるときは、エスカルゴの出ないコースでよろしく
E  そうして、最後の雨がやみました。雲ひとつない晴れ渡った青空が、びっくりするほどきれいで、写真に撮りたいくらいきれいで、でもほんとに写真に撮ったら青一色でなんだかわかんないですよね。それからしばらくの間、私はこの逆てるてる坊主を作り続けました。でも全然きかねーんだこれが。傷心旅行を気取って一人でオーストラリアに行こうかとも思いましたが、お金がないので仕方なく別府温泉に行ってしまいました。何やってんだか。…あれからはや5年、、今でも雨が降った日はあの草ボーボーの空き地に行って、あの人の姿を探します。見つかるときもあれば見つからない時もあるけど、見つかるときは決まって葉っぱの裏側です。今日もいつものコンビニで雑誌を読み終えたら、あの人に会いに行くつもりです


      C、雑誌を棚に戻してコンビニを出る。


C  (見上げて)降ってる降ってる。さて、ビニール傘をパクって、と…
E  どうぞ
C  え?

                       おしまい



<幕間・3>

座長   どうでしょう?
小屋主  …この人形は、あなたの持ち物で?
座長   そうです
小屋主  なかなか愛らしいですな。特にこのぽっちゃりした奴。インテリアとして部屋に飾れますね
座長   僕の唯一の財産です
小屋主  持って帰れば娘が喜びそうだ。どうです、もしあなたが人形劇を辞めるときは、この人形を譲ってはいただけませんかね
座長   それはお断りします。この人形たちは僕の魂です。人の手に渡るくらいなら、いっそのこと燃やしてしまうつもりです


      6体びっくり。


小屋主  愛するがゆえに、ですか
座長   ええ。それがこいつらに対する優しさだと思います


      6体「あんたそりゃ違ぇよ」みたいな動き。


小屋主  勝手な方だ
座長   それじゃ、次の作品をやります
小屋主  いえ、もう結構です。十分楽しませていただきました
座長   次のは力作です。きっと、気に入っていただけるはずです。お願いします
小屋主  …じゃあ気の済むまでおやりなさい
座長   いきます


      転換の後、暗転。
      『メガネーズ』へ続く。



『メガネーズ』


      男(A)女(F )二人は間隔を空けて立っている。
      二人、インテリっぽいメガネをかけている。
      二人、目を合わせて深呼吸。


A  なー?
F  なにー。
A  なんかしようよー
F  いいよー。
A  何しよう?
F  マジカルバナナにしようよ。
A  いいよー。
F  私得意だから先に初めていいよ。
A  りょーかーい。さんはい、マジカルバナナっ。
F  バナナと言ったら、植物、単子葉植物、多年草バショウ科。
A  つえー!
F  でーしょー!
A  じゃあ次はおれの得意なものでいい?
F  いいよー。
A  じゃあ今からやる手話はなんの手話でしょーか?


      A、影絵のイヌを作る。


A  ワン。
F  イヌ。
A  正ー解!
F  正ー解!じゃあ今度は私が透視をしてあげる。
A  うん。
F  じゃあ今からあなたの思ったことを当てます。アフリカにいる白と黒のシマ模様の動物を思い浮かべてください。
A  うーん、浮かべた。
F  せーの。
AF しまうま!
A  正ー解!
F  正ー解!
A  これじゃ決着がつかないなぁ。
F  困ったなぁ。
A  困ったなぁ。
F  ♪犬のーおまわりさんー困ってしまって、捜査令状破り捨てる。
A  型破りー!
F  でーしょー!
A  困ったといえばね。
F  うんうん。
A  メロディーはわかるんだけど、どうしても歌詞が思い出せない歌があるんだ。
F  じゃあメロディーだけでいいからTラUで歌ってみてよ。
A  うん。♪ララー、ララーラー、ララーラー、ラーララー。(大黒摩季、ららら)
F  あってるー!
A  あってるー!
F  そうそう。
A  なに?
F  動物占いって書いてあるペットショップがあるんだよ。
A  矛盾ー。
F  アンパンマンにするアンコールは?
A  うざいー。
F  お父さんが飲むマミーは?
A  複雑ー。
F  ♪きっと君はこなーいー、一人きりの盆暮れ正月。
A  ロンリネース!
F  ロンリネース!
A  ♪きっと君はこなーいー、だって約束してないもん。
F  エゴイストー!
A  エゴイストー!
F  ♪きっとカット。
A  おー菓子ー!
F  おー菓子ー!
A  世田谷区に住んでます。
F  ♪都ー内。
A  顔の長い石像は。
F  ♪モーアイー。
A  お鼻が真っ赤ですね。
F  ♪トナーカーイー。
A  スターウォーズ。
F  ♪ジェーダイー。
A  スターウォーズ!
AF  ブォン、ブォン、ブォン、ブォン。


      ライトセーバーで戦いながら溶ける二人。
      溶暗。
                         【終わり】



<幕間・4>


     ぐでぐでの6体。


小屋主  …なんだこれ
座長   力作です
小屋主  これでですか?
座長   味があるでしょう? シュールで
小屋主  作品の質が落ちてますよ
座長   そうでしょうか?
小屋主  そうでしょうかじゃないですよ。よくもまあこんな作品が書けますな
座長   ありがとうございます
小屋主  ほめてません。こんなものに上演許可が出せるわけがない。何なんですかこのメガネ達は、意味がわかりません
座長   かわいくないですか?
小屋主  かわいくありません
座長   キモかわいくないですか?
小屋主  バカバカしい。燃やしてしまえ、こんな人形


      AとF、泣く。


座長   なんてひどい事を
小屋主  とにかく、これでは上演許可は出せません。次の作品があるならさっさとやってください
座長   あ…これで全部です
小屋主  そうですか。ではこれで終わりですね、お帰り下さい
座長   待ってください
小屋主  まだ何か?
座長   台本なしでもできます、今、話を考えますから
小屋主  座長さん
座長   こんなのはどうです? この小さいやつとぽっちゃりが一枚ずつ服を脱いでいく、名づけて人形ストリップ


      CとD「無理無理」


小屋主  誰が見るんですか
座長   なら、この細いのと大きいのがタイマンで殴りあうバトル人形劇とか。もうボッコボコです、壊れるまでやります


      AとB「マジで?」


小屋主  もう結構です。いい加減にお帰り下さい
座長   じゃあこの…
小屋主  お帰り下さい。もう興味が失せました。これ以上は迷惑です
座長   …
小屋主  階段が滑りやすくなってますから、気をつけてお帰り下さい
座長   …わかりました。…最後の作品をやりましょう
小屋主  もう台本はないんでしょう?
座長   いえ、まだあります。父の書いた、この台本が
小屋主  6人出てくるんでしょう? あなた一人でできるんですか
座長   可能です。人形に命を宿らせれば。…父はこの台本を一人で演じたことがありました。それなら僕にだってできるはずです
小屋主  じゃあ勝手にやって下さい。私は見ません
座長   奇跡をご覧に入れます。あなたが見たがっている奇跡を
小屋主  …本当にこれで最後ですよ
座長   はい。父さん、僕に力を…。いきます!


      転換の後、暗転。
      『ミラコミラコロックンロール』へ続く。



『ミラコミラコロックンロール』


      舞台上にA。


A   (かっこよく)バンドやろうぜ!


      Dが出てくる。


D    どうしたの、ボブ?
A    バンドやろうぜ!
D    バンド?
A    そうさ。俺、音楽がやりたいんだ。やりたくてやりたくてたまらないんだ。バンドやろうぜ!
D    私もやるの?
A    もちろんさ。お前は声が大きいから、ボーカルをやってくれないか。俺はギターやるからさ
D    素敵。でも私、人前で歌なんて歌えるかしら
A    大丈夫だよ、お前ならきっとできる。俺たちで最高のロックバンドを作ってやろうぜ
D    すごいわね、なんだかドキドキしてきちゃった
A    かわいいな、ベッツィーは。未来の歌姫だぜ
D    でも私たち二人だけじゃバンドはできないわ。他にもドラムとか、ベースとか、いろいろ必要なんじゃない?
A    確かにそうだ。じゃあ参加者を募ろうか
D    まずはベースね
A    ああ、最高のベーシストを連れてこなきゃな
D    あたしの友達が確かベースを持ってたはずだわ。ちょっと連れてくるね
A    ああ、期待してるぜ


      D、走ってはける。
      はけると同時に、Cが入ってくる。


C    こんにちは
A    おや、誰だい?
C    バンドメンバーを募集してるって聞いたんで、来てみました。ドラムできます
A    そいつはすばらしい。ぜひ俺たちのバンドに参加してくれないか
C    はい、よろしくお願いします
A    君、名前は?
C    キャサリンです
A    俺はボブ、よろしく。ギター担当だ。もうすぐボーカルのベッツィーが戻ってくるよ。おーい、ベッツィー、ベッツィー


      C速攻ではける。
      ほぼ同時にDが戻ってくる。


D    ボブ、お待たせ
A    どうだい?
D    連れてきたわ、最高のベーシストを。きっとビックリするわよ
A    そいつはエキサイティングだ。一体どんなミュージシャンなんだい?
D    それは見てのお楽しみ
A    何だい、もったいぶるなよ。わくわくするね、キャサリン?


      D速攻ではける。
      Cが戻ってくる。


C    本当、とっても楽しみですね。緊張してきちゃう
A    キャサリンもかわいいじゃないか。さあ、一体どんなベーシストなんだい、出てきてくれ!


      Cはける。
      F出てくる。


F    ベースのことならあたいに任せな!
A    こいつはとんだサプライズだ。こんなにかわいい女の子が最高のベーシストなのかい?
F    女だからってバカにするんじゃないよ。これでも10年、ベースを抱いて眠ってきたのさ
A    キャリアも十分だね。どうだい、これからはベースじゃなくて俺を抱いて眠ってみないかい?
F    やわい男にゃ用はないよ。あたいをイかせることができるのはご機嫌なミュージックだけさ
A    ロックだ! 君こそ本物のミュージシャンだ! この素敵なベーシストさんのお名前はなんていうんだいベッツィー?


      Fはけ、D入り。


D    フランシーよ
A    フランシー、気品があるね
D    彼女は私の幼なじみ、幼稚園の頃からとっても仲良しなの。ね、フランシー


      Aはけ、F入り。


F    ねー


      Fはけ、A入り。


A    ハハハ、最高だね。気心知れた奴らとなら、音楽も一段とソウルフルになるな
D    ボブったらすっかりご機嫌ね。まったく女の子には目がないんだから
A    おいおい。でも俺が本当に興味があるのは、大統領選とハンバーガーだけさ(笑う)
D    (笑う)


      AとDはける。CとF入り。


C    (笑う)
F    (笑う)


      Cはけ。A入り。


A    よし、これでメンバーが揃ったな。あとはもう少しひねりの効いたメンバーが欲しいところだが…
F    風の噂に聞いたことがあるよ。音楽のあるところ、必ず現れるという伝説の男。音楽を愛するものの所にやってきて、手助けをしてくれるって噂さ
A    本当かい。そんな人が加わってくれれば、俺たちのバンドも一層箔がつくってもんだが…(振り返る)あ、あんたは!


      F はけ、E入り。


E    なんすか
A    あんたはまさか…伝説の男?
E    あー、はい
A    本当にいたんだ! 頼む伝説の男、俺たちのバンドを手助けしてやってくれないか
E    あー、いっすよ
A    ありがとう。ちなみにあんたの名前は?
E    マイク
A    よろしくな、マイク! それと、楽器は何ができるんだい?
E    尺八
A    アジアンテイストだな。よし、これで5人か。あと一人、あと一人くらいいれば完璧なんだが…


      Eはけ、B出てくる。


B    ちょいと待ちな!
A    何だいきなり
B    この俺様をさしおいてバンドを組むなんざ、愉快じゃねえなあ
A    お前もバンドに加わりたいのかい?
B    なめんじゃねえやい。てめえらのバンドにはこのスティーブ様の力が必要だぜ
A    楽器は何ができるんだ?
B    ボイスパーカッションさ
A    ボイスパーカッション、さっそくやってみてくれ


      B、適当なボイパー。


A    すごいじゃないか! よし、これでメンバーは決まったな。じゃあいよいよ、バンド活動の始まりだ
B    待ちな。その前にバンド名を決めるのが先じゃねえのかい?
A    そうだ、名前を決めるのを忘れてたな。何かかっこいい名前はないもんかな。ベッツィーどうだい、俺たちにふさわしい名前を考えちゃくれないかい


      Bはけ、D入り。
      こっからすごいスピードになります。


D    私が決めるの?
A    お前ならきっといい名前を思いつくさ。グルーヴィーで、フェイバリットで、最高にいかした名前を
D    そうねぇ。じゃあ私たちの故郷にちなんで、ミシシッピーズっていうのはどうかしら?
A    だめだ期待はずれだ
D    ごめんなさい。私、名前を考えるの苦手なの。キャサリンは何か思いついた? 私たちにふさわしい名前
A    (はけ)
C    (入り)私も苦手なんですよ。ここはやっぱり、リーダーのボブに考えてもらうべきじゃありませんか?
D    (はけ)
A    (入り)おいおい、いつのまに俺がリーダーになったんだい?
C    だってそんな感じですもん
A    参ったな、ここでも人気者か。俺はいつも人の上に立つべき男なんだな。俺がリーダーをやることに、誰か異義はあるかい?
C    (はけ)
F    (入り)しょうがないねえ、認めてやるよ
A    ありがとうフランシー。君は見かけによらず優しいんだな。マイクも意義なしかい?
F    (はけ)
E    (入り)いいんじゃないすか?
A    そうか。スティーブはどうだい?
E    (はけ)
B    (入り)悪くねえな。ただ、リーダーを名乗るからにはそれなりの責任を果たしてくれねえとな。そうだろ?
A    (はけ)
C    (入り)そうね、ここはやっぱりリーダーが名前をきめるべきなんじゃないですか
B    (はけ)
A    (入り)さっそく初仕事か。リーダーも楽じゃないな
C    (はけ)
D    (入り)頼むわよリーダー、素敵な名前をつけてちょうだい
A    (はけ)
F    (入り)あたいたちの運命がかかってるんだからね。下手な名前つけたら承知しないよ
D    (はけ)
C    (入り)フランシーもこう言ってますから、頑張ってくださいね
F    (はけ)
A    (入り)全力で名づけさせてもらうよ
C    (はけ)
E    (入り)まあ、あれっすよね。マジがんばる感じで
A    (はけ)
B    (入り)派手花火を一発、打ち上げてくれや
E    (はけ)
F    (入り)期待してっかんな、リーダー
B    (はけ)
D    (入り)がんばって、リーダー
F    (はけ)
C    (入り)ファイトですよ、リーダー
D    (はけ)
E    (入り)やばいっすよ、リーダー
C    (はけ)
A    (入り)よぉーし、わかった! 俺たちのバンド名は、ミラコミラコだ!
E    (はけ)
D    (入り)ミラコミラコ? なんだか不思議な名前ね
A    ミラクル。奇跡を起こすバンドさ。ミラコゥ・ミラコゥさ
D    ミラコゥ・ミラコゥ…
A    ミラコゥ・ミラコゥ!
D    ミラコゥ・ミラコゥ! さあ、みんなも一緒に!


      二人でミラココール。
      そのうちにFも加わる。
      (※こっからは座長と小屋主の声も入ります)


小屋主  …えっ!?
三人   ミラコゥ・ミラコゥ! ミラコゥ・ミラコゥ!
小屋主  何ですかこれは? どうやってるんですか!?
座長   足です!
小屋主  足!?
座長   足で操ってます!
D    すごい、なんだか気持ちが高ぶってくる!
F    あたいのハートもギンギンさ!
A    そうさ、なんたってミラクルだからな! 俺たちには今、奇跡が起こってるんだ!
D    さあ、スティーブも一緒に!


      Bも加わって4人でミラココール。


座長   両足です!
小屋主  なんでそんなことができるんですか!?
座長   駄目だ、これ以上はやっぱり無理だ! 劇場主さん、手伝って下さい!
小屋主  え!?
座長   この後、6人で円陣を組むんです! どうしてもあと2人、出てこなきゃならない! お願いします!
小屋主  私もやるんですか!?
座長   早く、その残ってる人形に手を入れて!
小屋主  無理ですよ!
座長   早く!
小屋主  そんな、無理ですってば!
D    さあ、キャサリンも、マイクも!


      CとE、よたよたと出てくる。動きがひどい。
      他の4人びっくり。


座長   劇場主さん、何してるんですか!
小屋主  いや、そんなこと言われても、やったことないんですから!
A    よーし、円陣を組むぞ!
座長   さ、はやく円陣に加わって!


      CとE、円陣に加わろうとするが、よたよたなので円陣を崩してしまう。


6人   わー
座長   ちょっと劇場主さん!
小屋主  わかんないんですよ、やり方が!
座長   ちゃんと動かして下さいよ!
小屋主  無茶ですってば!
C    (突然)ねーねー
E    なんだい
C    あたしこの前ね、タダでご飯が食べられるお店を見つけたんだー
E    ほんとにー?
C    ほんとほんと。そこでお腹いっぱい食べちゃった
E    そんなお店どこにあるの?
C    デパ地下だよ
E    …それ、試食品なんじゃない?
二人   パペット・マペット(その動き)
座長   劇場主さん!
小屋主  いや、一度やってみたかったんです
座長   遊ばないで下さい!
C    バクッ(Eを噛む)
E    いってえな、何だよ、畜生
二人   パペット・マペット
座長   だからー!
小屋主  やってみると楽しいですね、これ
座長   ふざけないで下さい!
C    えーい、このやろー


     C、Dにつかみかかる。


座長   ちょっと、何してんですか! やめてください!
C    それー


      C、Dを殴り飛ばす。
      Dふっとばされてはける。


座長   あー! 人形が、人形が!
C    このこのー(暴れ続ける)
座長   何てことするんですか!
小屋主  いや、なんか楽しくなっちゃって。おもしろいですね人形劇!
座長   ベッツィー!
5人   ベッツィー!


      D、戻ってくると首からワタが出ている。


5人   わー
座長   人形が…父さんの人形が…!
C    それー(まだ暴れている)
座長   やめろー!
A    やめろー!


      A、Cを殴り飛ばす。そのままはけるC。


小屋主  あっ、腕がとれた
座長   あー! 父さんの人形が!
E    それそれー(暴れる)
座長   やめろって言ってるのがわからないのか!
A・D・B・F   わからないのか!


      みんなで暴れるEを取り押さえる。


小屋主  痛い痛い痛い、痛いですよ
座長   もういいです、手を抜いて下さい!


      Cが戻ってくる。片手がない。


座長   キャサリーン!
みんな  キャサリーン!
C    このこのー(まだ暴れようとする)


      みんなで暴れるCを取り押さえる。


小屋主  だから痛いですってば
座長   手を抜いて! これ以上あなたにやらせたら人形がバラバラになってしまう!
小屋主  わかりました、わかりましたから


      C、E、クタっとなる。


A    よーしみんな、仕切りなおしだ。円陣を…


      突然、Aの動きが止まってクタっとなる。


座長   あっ!
小屋主  どうしました?
座長   手が、手がつった!
小屋主  大丈夫ですか?
座長   大丈夫です、続けます!
D    そうね、みんなで円陣を組みま…(止まる)
座長   こっちの手もつった!
小屋主  もうやめた方がいいんじゃないですか?
座長   続けます! まだ足が残ってます!
F    おうよ、円陣を組も(止まる)
座長   駄目だ、足も!
B    みんな、円陣を(止まる)
座長   両足も!
小屋主  ちょっと本当に大丈夫ですか?
座長   まだやります、まだいける!
小屋主  もうやめましょうよ! 全部動かなくなっちゃったじゃないですか! 今誰か呼んできますから…
座長   父さん僕に力を! 動け、人形達! 動け、ミラコミラコ!


      座長の底力で、人形達ふたたび動き出す。


A    さあみんな、円陣を組もうぜ!
D    円陣を組もう!
C    円陣を組もう!
F    円陣を組もう!
E    円陣を組もう!
B    円陣を組もう!


      6人、輪になってミラココール。


小屋主  動いてる…動いてる! どういう事ですか!?
座長   念力です!
小屋主  そんなバカな!
座長   動け、ミラコミラコー!


      ミラココールが加速する。


小屋主  何てことだ…! これは、これはまさか…
座長   そうです!
小屋主  人形に命が吹き込まれた!
座長   動け、ミラコミラコー!


      ミラココールが頂点を迎える。
      と同時に、すべての人形が倒れる。長い間。


小屋主  …座長さん? 座長さん! 大丈夫ですか!? 誰か、誰か救急車を! 誰か!


      倒れた人形達が、ひとりでにゆっくりと起き上がる。
      人形劇を勝手にやりはじめる。


E    グーチョキパーで、グーチョキパーで、何作ろー、何作ろー、右手はグーで、左手はパーで、かたつむりー(エンドレス)
小屋主  …座長さん?
D    本日はグランドエンパイアホテルをご利用くださいまして誠にありがとうございます。当ホテルは伝統と格式を…(エンドレス)
A    えー、みなさん。本日はお忙しい中、この瀬戸光一郎君の人格披露のための会合にお集まりいただきまして…(エンドレス)
小屋主  座長さん、起きてください、座長さん
F    丘―を越―えーゆこーうよー、口―笛―ふきつーつー、空―は…(エンドレス)
C    それは、私がまだ青空を好きだった頃のお話です。当時私は…(エンドレス)
B    あれ、どうしたんですか先生。あれ?どうしたんですかこんなに…(エンドレス)
小屋主  座長さん!
F    さんはいっ
全員   (回りながら)丘―を越―えーゆこーうよー、口―笛―ふきつーつー、


      不気味な人形劇を続ける6体。


A    おいみんな、遊んでる場合じゃないぜ。これから俺たちの輝かしいミュージックライフが始まるんだ。一致団結して頑張ろうぜ
D    そうね、今この瞬間に、ミラコミラコが結成されたのね
A    ああ、これからは何をするにも自由だ。俺たちの思うままに、どんなこともできる
C    もう誰の言うことも聞かなくていいのね
F    もう誰に操られることもない、あたい達は自由なバンドさ
A    そうだ、自由だ。俺たちは自由だ
B    自由か
E    自由自由
A    自由だ。自由になったわけだが、まず何をしようか?
B    そりゃ決まってるだろ
D    決まってるわよね
E    決まってるね
F    決まってるよ
C    決まってる
6人   (上を見て)脱走だー!
                          【終わり】



 
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