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ケンジ君ちの熱帯夜
作 横浜 劇団麦の会
 



CAST

ケンジ君
マミちゃん

友蔵(マミちゃんちのパパ)
郁恵(マミちゃんちのママ)
タカ(マミちゃんちのおばあちゃん)

めぐみさん(ケンジ君ちのお隣さん)
出張帰りの男
刑事さん

ニュースキャスター
留守電



第一場

     舞台後方にスライドが出てきます。

     「誠の恋をするものは、みな一目で恋をする」~シェークスピア~

     そして、小タイトル
     『熱帯夜』

     留守番電話のランプがピカピカと光っている。

     男が1人、部屋に帰ってくる。
     彼の名はけんじ君。
     その足取りは重く、かなり疲れているのが見て取れる。

     冷蔵庫(別になくてもいい)からおもむろに、ビールを取り出し、飲み出そうとする。と、留守番電話の点滅が目に入る。
     何気なく、そう何気なく、ビールを口にふくみながら、そのスイッチを押す。

     舞台下手いきなり、女性留守番電話サービス。

留守電 メッセージ件数は1345件です。

     思わず、口に含んだビールを噴出すけんじ君。

けんじ 1,000?

     留守電のテープを巻戻す音がしている。
     やたらとしている、そりゃそうである。1345件の留守電である。
     いたたまれず、けんじくん。途中で巻戻すのを止める。

けんじ 再生と、


留守電 10月O日午後11時16分ピー
(女の声) けんじくーん!どこいっってるの?早く帰って来てよー
留守電 ピー10月O日午後11時17分ピー
(女の声) 貴方を信じた私が馬鹿だったのよ!もういいわ!私はもう!死んでやる!
留守電 ピー10月O日午後11時16分ピー
(女の声) 死んでないよーえへ?びっくりした?けんじくーん!
留守電 ピー10月O日午後11時15分ピー
けんじくーん。けんじくーん、御留守ですか?
留守電 ピー10月0日午後11時14分ピー

けんじ もういいって!(留守電を止める、留守電娘も消える)なんなんだ?この女は?

     けんじくん。なんだか訳が分からないが、なんとなく笑ってしまうような薄気味悪いような…

     その時、呼び鈴が鳴る。

     けんじくん。不可解な表情を浮かべながらも玄関に向かう

     呼び鈴が鳴る

けんじ あのーどちらさまでしょうか?
 私よ!私!来ちゃったぴょーん!
けんじ あのどちら様でしょうか?
 なによ!早くここ開けてよ!
けんじ いや、あのですね。ちょっと、その…
 早く開けてよ!
けんじ 誰ですか?
 ねーねーどこに行ってたのよ!
けんじ はい?
 こんな夜中までどこ行ってたのよ!私ずっと、待ってたのよ!
けんじ あのーどちらさまですか?
 またまたまた、そんなとぼけちゃって!あああああ!まさか!けんじ君!誰かいるの!
けんじ あのあなた誰ですか?
 分かった!女ね!女がいるのね!開けなさいよ!開けろってば!許さない!けんじ君!開けなさいよ!

     外からの声「おーいうるさいぞ!何時だと思ってるんだ!」

 開けてよ!けんじ君!けんじくーん!
けんじ あーなんだって言うんだよ!

     けんじ君扉を開ける。
     そこには女がクラッカーを片手に祝福(バズーカ砲ぐらいのがいい)
     弾けるクラッカーの音
     けんじくんクラッカーで飾られる。

 パンパカパーン!けんじくん!(バスケットを放り投げけんじに抱きつく)
けんじ (呆然)なに?
 おめでちょう!
けんじ なにが?
 あれれ?嬉しくないの?
けんじ なんで?
 分からないの?
けんじ なにを?
 私よ私!
けんじ だから?誰?君?
 マミよマミ! 
けんじ なんなの?
 ありゃ?りゃ?おかしいぞ!けんじくん大丈夫?
けんじ お前の方こそ大丈夫か?
 熱でもあるの?(額に手をあて)
けんじ ?
 んー平熱。
けんじ 君誰?
 ねー本当に分からないの?
けんじ なにが?
 けんじくん!さっきから、『なに?』「だれ?」そればっかり、もっとさー「会いたかったよー」とか言って、抱きしめてくれたりしないの?
けんじ  はあ?
 でた!今度は「はあ?」ねー本当にわからないの?忘れちゃったの?それともとぼけてるの?
けんじ  あのですね。僕は貴方を知りません。ですから帰ってくれませんか?
マミ マジ?
けんじ マジです。
マミ んーこの状態をなんと表現したらいいのかしら…
けんじ 別に表現する必要はないんじゃないですか。とにかく僕はあなたに出て行って欲しいだけです。
マミ なんで?
けんじ なんでって…ですから…こうだからです!
マミ こうだからって?
けんじ ですから…こういうことだからです!
マミ 怒っているから?
けんじ そうです。
マミ 怒っているから出て行って下さいってこうのは、どうなのかしら?少し自分勝手過ぎないこと?子供じゃないんだから。
けんじ なんなんですか?
マミ だから、それじゃあまりにも自分勝手過ぎないこと?もっと、論理的に,大人として、表現力を駆使して、マミが納得できるように説明して下さい。
けんじ なんで?なんで僕が説明しなくちゃいけないの?
マミ 当たり前じゃないの!説明してくれなくちゃ、なんの事やらさっぱり分かりませんがな。
けんじ 君!説明してくれよ!
マミ 何を?ケンジ君がなんで怒ってるか?って事?
けんじ じゃなくてさ!
マミ どれよ?
けんじ とにかく!出て行って下さい!ここは僕の家なんだから!
マミ もー!(ケンジの鼻先に立つ!)
けんじ  なんなんですか?
マミ 私!マミって言うの!分かる?
けんじ さっき聞きましたよ。
マミ そう、それで?
けんじ それで?
マミ 感想は?
けんじ 感想?
マミ どう?
けんじ 何が?
マミ 私に会えて、どう思ってるの?
けんじ あのーですね
マミ なに?
けんじ なんのつもりか知れませんが、押し売りとか勧誘とかその類のものでしたら、お断りしています。
マミ んーどうもさっきから、話がかみ合っていないなー、けんじ君?
けんじ なんですか?
マミ んーやっぱりけんじくんだよね。
けんじ 僕…もう寝たいんですよ…今日はろくな事がなくて、なんというかギスギスした気分なんです。
マミ おうし座ね。
けんじ え?
マミ 今日は最悪の1日を送る日なのよ、しかし、ラッキーパーソンは山羊座の私!
けんじ どうでもいいですよ。
マミ 辛い1日だったのね。分かるわ貴方のその気持ち、生きていくって辛いものですものね。
けんじ うるさい!なんで!僕があなたに元気付けられなくちゃいけないの!
マミ 当たり前じゃないの。それがメオトってものでしょう?
けんじ はい!!!(卒倒しそう)
マミ 支えあい、励ましあいながら生きていくあ!貴方が倒れそうになったら、ポッ!(ケンジ君を支える)私が支え。私が倒れそうになったら貴方が支えてくれるそうやって、1歩1歩、歩んで行く。それがメオト。けんじ すいません。出て行ってくれませんか。じゃなくて出て行って下さい!でもなくて『出て行ってくれ!』
マミ じゃあ寝てよ。
けんじ は?
マミ 寝なくてもいいわ。ねーねー寝たふりしてよ。
けんじ なんで?
マミ はい!<音♪寝たふりしてる間にーでていってくれー>アーアーアーアーア
けんじ 出てけ!
マミ 冗談ですよ!冗談!30代以上には馬鹿ウケ!
けんじ 冗談もなにもいらない。いいですか?今は朝の4時です!僕はコンビニの夜勤から帰って来て、これから寝ようって時に留守電が!あーそうだ!留守電だ!留守電!留守電!
マミ えへ?留守電留守電!またまた留守電!
けんじ そうだ!留守電です!留守電!あなたですね!
マミ なにが?
けんじ 留守電!
マミ 私留守電じゃないわよ。マミよ。
けんじ あなたですね!あんなわけのわからない留守電を延々と入れたのは!
マミ 延々と入れてないわよ。1234回よ。
けんじ いえ、1235回です。
マミ 嫌だー1234よ、だって、1・2・3・4で揃えたんだもん。
けんじ いえ、1235回です!
マミ あれれ?じゃあ1回は誰かが入れたのよ!それで、1235回ってことじゃない!さて、どこに入っているんでしょうか?私の予想は873回目と874回目の間辺りが臭いと思うんだけど、ケンジ君の予想は?
けんじ あのですね、
マミ 予想でいいのよ、予想で。どのへんを狙う?
けんじ (こらえて)とにかく、僕は、今、と・て・も・疲れています。僕の予定では、僕はもうシャワーを浴びて、ビールを1本飲んで、クーラーのタイマーをセットして
マミ 除湿にしてね。
けんじ はい?
マミ 除湿で充分。冷えすぎるのはよくないのよ。
けんじ あーそうですか。と・に・か・く僕の予定ではですね。
マミ またシャワーから始めないでよ。
けんじ 分かってますよ。えーとどこまで行きましたか?
マミ クーラーのタイマーをセットして。それで?
けんじ 寝るんですよ。
マミ なんだ、それだけ?
けんじ それだけです。僕が求めるものはそれだけです。それだけのことなんです!なんで?なんであなたが僕のそんな生活をグチャグチャにするんですか?
マミ ねー一つ聞いてもいい?
けんじ なんですか?
マミ いつ、歯を磨くの?
けんじ は?
マミ だからさーいつ歯を磨くのよ。チャンスはいくつかあるわよね。シャワーを浴びながらとか、ビールを飲んだ後とか?クーラーに手を伸ばす前とかさ。あれれ?まさか!磨かないの?キタナーイ
けんじ 磨きますよ!
マミ いつ?
けんじ いいじゃないですか!いつだって!そんなことは!
マミ 大事な事よ!歯よ!歯から老化が始まるのよ!今すぐ歯を磨きなさい!
けんじ 磨きますよ!
マミ 今?
けんじ 今じゃなくてもいいでしょ!と!に!か!く!いま!僕にとって大事な事は歯を磨くなんて事じゃない!
マミ えーもっと大事な事があるの?
けんじ あります!それはあなたに出て行ってもらいたい!じゃなくて、出て行って下さい!じゃなくて!出ていってくれ!
マミ アーアーアーアーアーア
けんじ アーアーアーアーアーアーふざけるな!
マミ 第19回日本レコード大賞受賞!
けんじ ほんとに、勘弁してください…
マミ ねえ、ほんとに私が分からないの?
けんじ 残念ながら…まるで、さっぱり全然です。
マミ 忘れちゃったの?
けんじ 忘れたんじゃないと、思います。僕あなたにあったことありませんから。
マミ それは違うわ!自分にウソをつくのはよくないわ…分かるわよ、あなたの気持ちは…(明かり変化)あれは夏の日の過ち…波の音が聞こえる(ザバー)かもめが空を飛んでいる。眩しすぎる太陽が、あなたと私を結びつけた…そんな夏の日の太陽に心を奪われた私が馬鹿だったのね…
けんじ 夏に?どこで?
マミ あなたの直滑降で山から滑り降りてくる姿…白いゲレンデがあなたを眩しく照り返す。あれは、幻だったのね。ゲレンデの雪の白さが私の心には美しすぎた…降りしきる雪を眺めながら愛し合った…あの夜…
けんじ 季節はいつなんですか?
マミ (明かり戻る)えへ?よく憶えてないのよ。マミ泥酔(どろよい)してたから。
けんじ 夏か冬かはわかるでしょう?
マミ んーとにかくどっちか!それは間違いない!
けんじ 僕じゃないですよ。僕は夏には海に行かないし、冬にスキーはやりませんから。
マミ でも!恋はするでしょ?
けんじ ドロヨイして、夏か冬かも分からない女とはしません!
マミ ひ・ど・い!ひどい!そんな言い方って!私があなたにきつく当たった?あなたを傷付けるような事を言った?
けんじ あなたはそれ以上だと思いますよ。
マミ ひどい!…わたし帰ります!(玄関に向かう)
けんじ そうきーつけて
マミ !!!!(振り返る・怖い)
けんじ なに?
マミ 選んでくれる?飛び降りるのと首をつるのとどっちが、お好み?
けんじ え?なに?
マミ お好みはどちら?
けんじ いや…あの…それは…
マミ なーんちゃって!びびった?びびった?
けんじ え?あーへへへへ
マミ 帰りたくないの!
けんじ …
マミ 帰れなんて言わないで…
けんじ いや…あの…
マミ なーなーなにか食べる?マミ作ってあげる。
けんじ 朝の4時ですよ。
マミ お腹すいてるんだよ。だから思い出せないんだよ。
けんじ いや、ほんとにいいです。
マミ 食べてきた?
けんじ えーまー
マミ 誰が作った!
けんじ 誰がっって…コンビニの残り物ですよ。
マミ それならよろしい。それじゃシャワー浴びてきなよ!その間にビール出しておいて上げる。
けんじ いやそういうことでは…
マミ あ!ケンジ君たら、一緒に入る?
けんじ なんでですか!
マミ マミはOKよ。えへ?
けんじ ・…
マミ あーそうか!除湿が先だ!今日はなんだか蒸し暑いもんね。
けんじ あのー一つ聞きたい事があるんですが?
マミ スリーサイズは教えないわよ。
けんじ そっちの話しではなくて、ですね
マミ モードとしてはどの辺あたり?Aまじめな話しBちょっとまじめな話しCかなりキワドイ話しどのモード?
けんじ Aでお願いします。
マミ Aってなんだっけか?
けんじ まじめな話しです。
マミ 分かりました。着替えた方がいい?
けんじ なんでやねん!
マミ カッコから入った方がいいのかとおもってさ。このままでいいの?
けんじ いいから。
マミ 分かりました(座りなおす)それではどうぞ。
けんじ あのですね。なんで僕の所に?
マミ だから、ドロヨイしていたことは認めるわ。
けんじ ドロヨイしててもいいですけど、そうじゃなくて、僕はあなたの事は、本当に知らないし、逢った事もないですし、
マミ ケンジくんもドロヨイしてたのよ。
けんじ 僕はビールを2本以上飲んだ事はありませんよ。
マミ あなたケンジ君でしょ?
けんじ そうです。
マミ んーやっぱり!だから、間違いなし!
けんじ 僕はケンジですけど、ケンジなんて、この世の中たくさんいますよ。
マミ たとえば?
けんじ 新沼謙治とか。
マミ あれれ?また随分とマニアックなところから来たわね。普通今までの流れからして、沢田研二から入らない?ほかには?
けんじ 羽賀研二。
マミ んーなるほど、けんじねーけんじ。森脇健児
けんじ 荻原健司
マミ うまい!ケンジ…ケンジねー志村は?だめ?
けんじ あれはケンでしょ。
マミ あーそうか。ケンジけんじねー
けんじ 降参?
マミ なんでよ!えーとー三崎けんじ!
けんじ だれ?それ?
マミ いるよ!いるもん!私知ってるよ!売れない演歌歌手だよ。はい!次々!
けんじ えーえーえーえー
マミ 降参かしらん?
けんじ えーーちょっと待ってよ。
マミ 時間切れですか?あと、10秒…9…8…7
けんじ えーとえーと誰かいる?
マミ いるわよー
けんじ だれ?
マミ さーねーあと5秒…4秒…3秒…2秒…
けんじ あーあーあー
マミ ブー時間切れです。
けんじ 誰がいるのよ!
マミ 宮沢…
けんじ 喜一?
マミ 賢治だよー
けんじ ワオーちくしょう!そっちがあった!盲点をつかれた!
マミ エヘヘヘんじゃ次は、徹で行こうか!渡辺徹はいケンジくん。
けんじ 風間トオル!じゃなくて。こんなことしてる場合じゃなくて!
マミ そんじゃなんで行く?陽子?小野洋子はい、ケンジ君。
けんじ 野際陽子って、じゃなくて?
マミ じゃあなにがいいのよ?
けんじ なんでもいいよ
マミ なんでもいいの?じゃあ、マイケルで行く?
けんじ だまれー!
マミ (キョトン)?マイケルダマレー?ってだれ?それともダマレーマイケル?
けんじ 話しを元に戻します。
マミ マイケル話しを元に戻します?何人?
けんじ お前わざとだろ?
マミ うん!えへへ?
けんじ いいか!(睨む)
マミ マイケ…?(睨まれてやめる)
けんじ 僕がケンジだからここに?
マミ そう。
けんじ たぶん、あなた何か勘違いしてるんですよ。
マミ 勘違い?
けんじ 僕は確かにケンジです。しかし、あなたのおっしゃってるケンジではなくて、また別のケンジなんですよ。と、いうことは、あなたはきっと人違いを、いや、ケンジ違いをしているわけです。分かります?
マミ ?
けんじ とにかく、僕はあなたの探しているケンジではないんです。OK?
マミ OK!でもさーあなたケンジでしょ?
けんじ だから!
マミ 確かにこの世にケンジと名のつく人はたくさんいるわ。でも!
けんじ でも?
マミ 213‐5764!
けんじ はい?
マミ ハハハハハハ!世の中にケンジはたくさんいるわ!しかし!世の中ひろしと言えども、213‐5764の電話番号を持つケンジはあなたしかいない!ハハハハハ!
けんじ それはそうですけど。
マミ まいったか!
けんじ これは!これはですね。これはつまり
マミ つまり?なに?
けんじ 何かの間違いですよ。
マミ じぇーんじぇーん説得力なし!
けんじ そうですけど…
マミ もー往生際の悪い奴だなー。あなたはケンジ!213‐5764の電話番号を持つケンジ!ここまでいい?頭に入った?
けんじ んー
マミ そして、私が探していた、いとしい人はケンジ、213‐5764の』電話番号を持つケンジ。つまりあなた!分かる?なにかおかしい?
けんじ おかしいとか、それ以前にですね。僕にはなんのことやらさっぱり。
マミ もーなに聞いてるのよ!説明したでしょ?今?
けんじ あのですね。あなたはどうしたいのよ?
マミ 私?
けんじ そうあなた。
マミ 決まってるじゃないの。結婚するのよ!
けんじ だれと?
マミ ケンジと!
けんじ またまた冗談を
マミ 冗談じゃないよー
けんじ 冗談でしょう?なんで!なんでやねん!なんで僕が君と結婚しなくちゃいけないの!
マミ だって、あなたケンジでしょ?
けんじ 僕がケンジだからって、ケンジなんてこの世の中にたくさんいますよ。
マミ たとえば?
けんじ 新沼謙治とか。
マミ だから!沢田研二から入りなさいって!
けんじ うるさい!出て行って下さい…僕は…僕は…
マミ 来なきゃよかったんだ…
けんじ そうです!僕はあなたなんか知らない!出ていってください!いや!出ていってく!
マミ アーアー?
けんじ 出てけ!
マミ ごめんなさい…迷惑だったのね…私帰ります…
けんじ あー帰ってください。
マミ 帰るけど
けんじ まだなにか?
マミ 荷物が届くと思うのよ、受け取っておいてくれる?
けんじ 荷物?
マミ だって、一緒に暮らそうと思って…
けんじ 送り返したらいいの?
マミ 返す所なんてないわ…
けんじ じゃあ、どうするの?
マミ 私だと思って大切にしてね。
けんじ そんな困るよ!
マミ (逆切れ)仕方ないじゃないの!そんなこと言ったって!じゃあ!私にどうしろって言うのよ!
けんじ ・…

     その時、玄関にチャイムの音。

男声 こんちわ!
マミ ほら来た!さすが!時間帯お届けね!
けんじ 朝の4時だよ…
マミ 印鑑!印鑑!
けんじ えー
マミ いいわ、サインで済ますから
けんじ  …・
マミ はいはーいい!ただいまー

けんじ 熱い…汗かいてる…

     クーラーのリモコンを手にする。ピ!

けんじ (あくびをする、もー眠い)
マミ(声) ケンジ君!
けんじ (ハッと目が覚める)
マミ(声) 除湿にしてよ!冷えすぎるのはよくないのよ!
けんじ (再びリモコンを手にして、ピ)

     暗転



第二場

     スライド
     「愛は戦争のようなものである。始めるのは容易だが、やめるのは困難である」~メンケル~
     小タイトル『夜明け前』

     いきなり男の声で明かりがつく
     彼の名は友蔵。なぜか、和服を着ている
     その横に妻の郁恵がいる。そして、マミちゃん。

友蔵 (なぜか軍隊調)貴様のような男に娘はやれん!
マミ なにも、そんな言い方しなくてもお父様!
友蔵 お前は黙ってなさい。
郁恵 マミチャン…
マミ はい…
友蔵 まったくもって不愉快だ!今時の若者の典型のような男だな貴様は!なんというだ貴様のような、定職にもつかず!日々をやり過ごし!なにひとつ将来に対する目標も目的もない!その日暮しのゴキブリを!
マミ お父様!言いすぎよ!
友蔵 なんとか言ってみたらどうだ!なにか理由でもあるのか!だんまりをさっきから決め込んで!ただ、目を白黒させて!貴様!この私を馬鹿にしとるのか!そこに直れ!歯を食いしばれ!
郁恵 まーまーお父さん!
けんじ あのーいいですか?
友蔵 なんだ!早く言え!江戸っ子は気が短いんだ!
けんじ あなた方は誰ですか?
友蔵 なんだと?
けんじ えーあのー非常に初歩的な質問から入って、まことに恐縮なんですが…あなた方は誰ですか?
友蔵 マミ!なんなんだ!こいつは!
マミ お父さん、あのね
けんじ はっきりと!言っておきますけど、これまでにも、はっきりとは言ってきたつもりなんですが、僕はこの女性の事は知らないし、もちろん、あなた方の事も知りません。これは、何かの間違いで、あなた方は僕のことを何処かの誰かと人違いをされているようなのですが…
郁恵 (卒倒せんばかり)なんですって!
けんじ えーまー驚かれるのはごもっともなんですが…とにかくそう言うことですから!お引取りください。
郁恵 そんなそんなバカな事が…
友蔵 郁恵!落ち着きなさい!
けんじ あのですね
友蔵 だまらっしゃい!マミちゃん。これは?どういうことかしら?
マミ さっきから、この調子なのよ。
友蔵 貴様ケンジ君だよね。
けんじ はい、そうです。先に言っておきますけど、213‐5764の電話番号を持つケンジです。ですが!僕は皆さんとは無関係です。お願いします。もう、帰ってくれませんか、僕眠いんです!
友蔵 (いきなり、ケンジ君の胸倉をつかみ振りまわす)貴様!それでも日本人か!
けんじ イタアアア
友蔵 (羽交い締め)貴様!うちの大事な一人娘の気持ちはどうしてくれるんだ!
郁恵 お父さん!
友蔵 だまらっしゃい!女の出るまじゃないわ!(郁恵をぶっ飛ばす)
けんじ 苦しい…苦しい…
友蔵 よくも!よくも!この拙者の宝物の汚れなき乙女の夢を踏みにじってくれたな!殺してやる!貴様を葬り去ってやる!
けんじ ギブアップ!ギブアップ!
マミ (片隅でポツリと)お父さん…もういいの…
友蔵 (ハッと我に帰り)マミちゃん…
マミ (明かり変化・音入り)私が…私が馬鹿だったの…ケンジ君を信じた私が馬鹿だったの。世間知らずのお嬢さまがたった、一夜の夢を見たのよ…
友蔵 マミ!!!!(号泣)
マミ 夢なら覚めないでいて欲しかった…哀しいけど…悔しくないわ…情けないけど…恨んだりしないわ…ねえ、お父さんだから…
郁恵 マミチャン(号泣)
マミ ママ、泣かないで…ほら流れ星が…
けんじ どこにだよ?
マミ 帰りましょう。あの流れ星に乗って…ここには私の心の居場所はないの…
友蔵 マミチャン?帰るって?家売って来ちゃったよ!(明かり音、元に)
けんじ まじかよー
友蔵 (マミに)マジマジ!
郁恵 だってーマミチャンが二世帯住宅を買うって言うから。
友蔵 パパとママと離れて暮らすなんて、マミにはできないっていうからさ。
マミ 売っちゃったの?
郁恵 えー出したその日に即完売!
友蔵 そりゃそうだろう!あれだけの家をあの値段じゃ誰でも飛びつくわな!ハハハハ!
郁恵 まったく、お父さんたら、もっと、吹っかけてもよかったのに、二つ返事で売ってしまうんだから。
友蔵 家なんぞ、いくらで売れようが、拙者にはどうでもいい事じゃ。それよりも、マミのパパとママを思ってくれるその気持ちが嬉しくてな。わしも母さんも、マミと離れて暮らすなんて…考えただけで…辛い…
郁恵 お父さん…
マミ パパ!(抱きつく)
友蔵 母さん!マミ!

     なぜか勝手に抱き合っている。親子3人。
     ケンジ君はどうしたものか…

けんじ あのー
友蔵 (涙をふきながら)いや、これは失礼した。拙者とした事が敵の前で
けんじ 敵?まーそれはいいんですけど
友蔵 分かってくれたかね。わしら親子3人、凄く仲がいいんじゃ。
けんじ そんなことはどうでもいいんですよ。
友蔵 どうでもいい?どうでもいいといったか今?
けんじ えーいやー
友蔵 大事な事じゃないのか!父と母そして、娘。手を取り合い。助け合い。生きていこうとする、その姿が貴様には!どうでもいいと!
けんじ いえ、そうではなくてですね。一つはっきりとさせておきます!ここは、僕の家です!
友蔵 おかしな事をいう奴じゃなー。分かっておるわ。最初に「お邪魔します」と言っただろう。
けんじ あのですね。僕のいやーな予感としてはですね。これまでの流れから行くと、あなた方はここに居座る可能性がかなり、大なんですよ。そんなことになっては、僕としては非常に困るんですよ。分かりますか?
友蔵 そうじゃな。(見渡して)この部屋では狭いの。客間はどこじゃ?
けんじ そんなもん、ありませんよ。ワンルームマンションですから。
友蔵 ない?そんな馬鹿な?ここに来るまでに、たくさん扉が並んで追ったぞ!
けんじ そりゃ、人の部屋ですよ。
友蔵 そうか、じゃわしらに部屋をくれ!
けんじ 自分で探してくださいよ。
友蔵 んーできれば、やはりマミの隣がいいな。この部屋の隣に住もうかなーどうだね母さん?
郁恵 いいですねーそうしましょう、そうしましょう。わたくし!さっそくお掃除に行って参ります!
友蔵 よし、ご苦労!
けんじ (マミに)おい!なんとか言えよ!
マミ ママ!右隣にしてよ!
けんじ そうじゃなくて…
郁恵 ハイハイ、それでは…(郁恵でていく)
けんじ (ポツリと)お前ら馬鹿だろ…

     しかし、突然奇声を発しながら、出ていった郁恵が、ハタキを片手に走りこんでくる。

友蔵 どうした!母さん!
郁恵 あなた!私の部屋に先客がいるんです!
けんじ 当たり前だろ。
友蔵 なに!なんだと!なんと言うことだ!貴様!!!!!
けんじ (半ば諦めている)なんでしょうか?
友蔵 どう言うことなんだ!これは!
郁恵 あなた!誰と一緒に住んでるの!
けんじ 僕は1人暮しですよ。
郁恵 ウソおっしゃい!隣に誰かいました!間違いありません!鍵もかかっているし、中から…
マミ ママ!中からどうしたの?
郁恵 マミチャン。驚かないでね。ママ、聞いてしまったの…中からそう中から…
友蔵 どうしたんだ!
郁恵 中から女の声が!
マミ ウソよ!ウソよ!そんなのウソよ!
郁恵 マミチャン。ごめんね。でもママ聞いてしまったの。間違いなくあれは女の声でした…
友蔵 ききき貴様!!!!!落ち着こう…そうだ!落ち着いて話し合う事が大事だ!感情的になっても何も解決されやしない。そうだな、母さん?
郁恵 あなたのおっしゃる通りです。
友蔵 (ケンジ君を睨みつけ)貴様!
けんじ (またかよ…)なんでしょうか?
友蔵 説明していただきたい!貴様に時間を与えよう!拙者も男だ!男同士多少の浮気心、押さえ切れないムラムラとくる衝動!それらを理解する事はできる!
郁恵 あなた!あなた浮気なさってたの!
友蔵 いや、そうではない、今ののはたとえばの話しだ。
郁恵 多少の浮気心ってなんですか?ムラムラっと来る押さえ切れない衝動ってなんですか?あなたの口から、そんな…そんな…ハレンチな言葉が飛び出すなんて!わたくしあなたと連れ添って25年になります
友蔵 だから、例えばの話しで
郁恵 だまらっしゃい!
友蔵 はい…
郁恵 情けない…こんな情けない事が…
マミ ママ…
郁恵 マミチャン。男なんてさ、こんなもんなのよ。25年間。わたくしは毎日あなたの体を心配し、あなたのためだけに心を痛め、あなたの為だけに生きてまいりました…しかし、それも今日限りです。
友蔵 何もそんなにオーバーな
郁恵 オーバーもジャンバーもない!私、決めました!
友蔵 何をですか?
郁恵 あなたとは別居させていただきます!
マミ えー!
友蔵 そんな馬鹿な!
けんじ ????
郁恵 夫婦生活25年!思えば色々なことがありました。楽しかった思いで、辛かった思いで…その一つ一つが素敵な青春の1ページです。しかし、私は決心しました!
友蔵 郁恵…
郁恵 25年間のチリが、いつの間にやらほこりとなり、今!粗大ゴミになりました!
けんじ なんの事ですか?
郁恵 (構わず)積もり積もった積年の恨み!今ここで!晴らさせていただきます!わたくし、別居させていただきます!
友蔵 どう言うことだね…
郁恵 あなたはマミチャンの右隣に、わたくしは左隣に住まわせていただきます。マミチャンをはさんで右左。
けんじ おれんちだって言うの!
郁恵 よろしいですね。
マミ ママ!
郁恵 マミチャン。女には女の意地ってものがあるのよ!
マミ ママ!
友蔵 郁恵!
郁恵 それでは、しちゅれいさせていただきます!

     郁恵、悠然と立ち去って行く。

友蔵 (明かり変化)待ってくれ!待ってくれ!郁恵!

     汽笛の音。「夜霧よ今夜もありがとう」

友蔵 ♪三番、父・男友蔵!力の限り歌います!
♪夜霧よー今夜もーありがーとうー♪

     カーンと、鐘の音。

友蔵 いくえー!!!!

     汽笛の音

     明かりが戻る。

     なぜか、ケンジの横におばあちゃん(タカ)

けんじ (驚いて)だれだ?
マミ おばあちゃん!
タカ もうさ、来る頃だと思ってさー。待ってたんよ。
友蔵 郁恵に!郁恵に会いました?
タカ 知らん。ねーお茶くれんかね?
友蔵 おい!お茶だ!
けんじ ないですよそんなもんは!
タカ どうした?友蔵?なにかあったか?
友蔵 あのその…
マミ ママがね、出ていちゃったの。
タカ なに!そりゃ、よかったよかった。
友蔵 母さん!
タカ よかったじゃないの!あんなでき損ないの嫁、あーよかったよかった。チャンチャンと。
友蔵 おかあさん!郁恵は郁恵なりに、私に尽くしてくれました、それを…それをできそこないだなんて!
タカ できそこないをできそこないってなーにがわるいかねー。まったく、料理も下手。掃除もいい加減。おまけに洗濯させたら、ティッシュだらけ。あーできそこないできそこない。
友蔵 母さん!言い過ぎですよ!
タカ だまらっしゃい!そんなにできそこないがいいなら、できそこないの子になっちゃいなさい!
友蔵 ちちちちちちっくしょーーーー!ママなんて!ママなんて!お前の母さん出ベソ!ワー(と、奇声を発して友蔵駆け出してしまう)

     コッケコッコーとニワトリの鳴き声

タカ おや、もう、朝だね。
マミ ケンジ君!おはよ!朝は味噌汁派?コーヒーは?
けんじ 頼む!寝かせてくれ!

     暗転




第三場 

     スライド
     「分別を忘れないような恋は、そもそも恋ではない」~トーマス・ハーディ
     小タイトル
     『住めば都?』

     前場から、数日後…
     友蔵とケンジ君が一升瓶を前にして飲んでいる。
     かなり酔っている友蔵。

友蔵 ほら!ケンジ君!飲んでおるかね!
けんじ えー頂いています。
友蔵 しかし…あれだね。拙者の所は、マミチャンだけで一人娘だろう。父親なんてつまらないもんでなー。キャッチボールの一つくらいはしてみたいが、なんせ、女の子じゃなーだから、拙者は夢を見てたんだ。いつか、マミチャンが選んだ、男と、差しでなこうやって、酒を飲みながら男同士語り合う!
けんじ そうですかー
友蔵 女の子なんてつまらんねー手塩にかけて育てても、年頃になれば、親父の事なんて、眼中にない。どこの馬の骨とも分からん男にさらわれてしまう(座った目でケンジ君を見る)
けんじ えーいやー
友蔵 (いきなり)この馬の骨が!!!!(襲いかかる)
けんじ ちょっと!ちょっと!
友蔵 冗談ですよ。
けんじ お父さん、飲みすぎですよ。
友蔵 今なんて言った!
けんじ へ?
友蔵 お父さんってか…
けんじ あーすいません。つい、
友蔵 つい?ついだと!
けんじ すいません
友蔵 いいじゃないの!自然で!つい読んでしまった「お父さん」君と一つになれた気がするよ。んー愉快愉快!ハハハハ
けんじ ハハハハ・…フー
友蔵 いやーいいねーいい酒だねー
けんじ 飲みすぎですよ。
友蔵 いいじゃないの!祝い酒でよ!♪飲んでー飲んでー飲まれて飲んアウ!オエー
けんじ 大丈夫ですか?
友蔵 だいじょうV!心配ご無用!ところでケンジ君!
けんじ はい?
友蔵 君はマミのどこに惚れたのかね?
けんじ (酒を噴出す)プワーなんですか?
友蔵 雨か?だから、マミのどこにその、惚れたのかねってさ。
けんじ どこに惚れたか…んー
友蔵 返答次第じゃ、ただじゃおかないよ!
けんじ えーえーそうですね。しいて言えばですね。
友蔵 し・い・て?
けんじ そのあの、一本気な所ですね!
友蔵 そうだね。そうだね。よく言えば一本気!悪く言えば自分勝手ってか!このヤロー!
けんじ いえ、そのちょっと!
友蔵 これまた、冗談!ヘヘヘヘマイケルジョウダン。酒のつまみさ。つ・ま・み。てか。
けんじ あーそうですか…
友蔵 しかしだねー(大きく溜息)ガックリー
けんじ どうしました?
友蔵 いやねーまったく、郁恵の奴はどこに行ってしまったのかと思ってね…
けんじ そうですねー
友蔵 拙者はてっきり、左隣に住んでいるとばかり、思っておったよ、それが、どうしたことだね。ここは角部屋じゃないか!
けんじ すいません。
友蔵 君が悪いんじゃないよ、すべてこのわしの、不徳のいたす所。昔なら、この場で潔く腹でも切ってだな、君に介錯を頼むところだ。
けんじ そんなことは…帰ってきますよ
友蔵 優しいのー君は…その優しさにマミチャンも惚れたんだな。
けんじ さーどうでしょうか…
友蔵 いや!そうだ!間違いない!
けんじ あーどうも
友蔵 拙者もあと二十歳若かったら思う!
けんじ なにを思うんですか!

     マミチャンとタカが、仲良く帰ってくる。
     買い物袋を下げている。

タカ ただいまー
マミ おかえりー
タカ (飲んだくれてる友蔵の頭をはたく)なにやってるんだよ!
友蔵 (酒を噴出す・お約束)
タカ なーにしてるんだよ!大の男がいい年こいて、お天道様が高いうちから!
友蔵 はい…
タカ やけ酒かい?死んだ父さんが見たらなんていうか!まったく情けない!
友蔵 すいません。
タカ 謝ればすむってもんじゃない!今すぐ、線香上げといで!線香あげて!頭下げて、その腐った性根を父さんに叩きなおしてもらっといで!
友蔵 今ですか!
タカ あたりまえじゃ!
友蔵 今は、そのケンジくんとですね
タカ 起立!
友蔵 (当然起立)
タカ 気をつけ!番号!
友蔵 1
マミ 2
けんじ 3?
タカ 何処の世界に新婚の娘の家で、昼間から酒飲んでくだまいてる親父がいるんだよ!右向け右!前に!進め!
友蔵 1、2、1、2

     友蔵とタカ並んで行進しながら退場。
     残ったケンジ君とマミちゃん。

マミ あ!ごめんね。パパ淋しいのよ。ママがいなくなっちゃったから。
けんじ それはわかるけど…あの二人何処に住んでるの?
マミ 右隣よ。
けんじ え?

     夕立の雷
     芝居流れて、右隣の部屋。
     はいはい、転換。ピンクのちゃぶ台にかわいいぬいぐるみ。
     チーンと仏壇の金の音。

タカ しっかり謝っておけ!
友蔵 はい。

     ただいまーと、女性の声彼女はめぐみちゃん。

めぐみ ただいまー
タカ はい、おかえり。
めぐみ まいちゃった。いきなり夕立だもん。
タカ おやおや、濡れなかったかい?
めぐみ 大丈夫。ギリギリセーフ、あれ?ごはん作ってくれたの?悪いわーそんなことまで、してもらって
タカ いいってこと、お互いさまじゃない。助け合っていかないとさ。
めぐみ 助かります。
友蔵 しかしーめぐみさん?だっけ?
めぐみ はい。
友蔵 たいしたもんだわ!うちの娘のマミなんかはさーなんだか、男を観る目がなくて。何とも、たよりなーい男とさーその、
タカ お前は女を見る目がないじゃないかよ!
めぐみ あら?そうなんですか?
タカ そうだよ、まったく郁恵って言ういやーな女でさ、その女が。これができそこない、
友蔵 母さん。
タカ まったく、めぐみさんみたいな、いい女の人と(お茶なんか入れたりして)再婚でもしてくれないかしらね。
友蔵 なーにをいうんだね母さん(まんざらでもない)
タカ ほんとにそう思うよ、こんなドラ息子残して、おとうちゃんの所へ行けないよ。私ね、いつお迎えが来ても言いように、準備は出来てるんだよ。
めぐみ おばさまそんなことを、またまた
タカ 本当だよ!しかしねーこの息子がこの年で一人もんじゃ…死んでも死にきれないよ。
友蔵 ところで、めぐみさんは、お仕事はなにを?
めぐみ 葬儀屋です!
タカ (お茶を噴出す)アツー!

     夕立の音
     はいはい、転換。転換。
     ケンジ君ちに

マミ あれ?けんじ君降ってきたみたいよ?大変大変、洗濯物が…
けんじ あの!マミサン!話しがあるんですが!
マミ なに?どうしたの?いやだーマミでいいのに。
けんじ お話があるんですが!
マミ 急ぐ?
けんじ 遅すぎるぐらいだと思うんですが!
マミ ごはんの後じゃダメ?
けんじ そういって、先延ばしにしている内に、気がつけば1週間です!ですから、僕は、今日!今!だと思うんです!
マミ なに気合入ってるの?まーいいや。で?なに?
けんじ 座って下さい。
マミ はいはい。あ!洗濯物!ちょっとまってて!(走って行く)
けんじ もーーーー(ビールを手にして、飲む!一気!)
マミ おまたせー干してなかった!
けんじ (今度は吐かない。ひつこいから)
マミ で、なにかしらん?(引っ付いて座る)
けんじ ちょっと、離れて。
マミ 近い?
けんじ 話しができませんよ。
マミ 語らずとも分かり合う二人なのに。
けんじ いいから。
マミ はいはい。あれ?もしかしてモードA?
けんじ Aです。かなりAです!
マミ 分かりました。それでは、うかかがいますどうぞ!
けんじ 僕はどうしたらいいんでしょうか?
マミ バウ?
けんじ 僕には、この所の日々がなにがなにやらわからなくて…夜も眠れないんです。
マミ 毎日?
けんじ そうです、毎日僕、眠れないんです。
マミ はい!(音響♪毎日僕ねーむれない、やるせない)ハハハハ!
けんじ ハハハハ!じゃなくて。
マミ 懐かしのメロヂィーでした。30代以上限定。それで?
けんじ まじめに聞いてください!
マミ ごめんね。つい癖で。
けんじ 変な癖は直してください。
マミ そんなこといったって、癖だもん。しょうがないじゃん。癖なんだもーん。
けんじ 癖ですか…
マミ 「無くて七糞」っていうでしょ?
けんじ いいませんよ、「無くて七癖」ですよ、それを言うなら。
マミ さすが!ケンジ君!あったまいいー
けんじ どうでもいいです!本題に入ります!
マミ はい、どうぞー
けんじ !僕はこのままでは、いけないと思っています。なぜなら、このまま行ったら僕たちは本当に間違いが起こってしまうと思うんです。
マミ 間違い?
けんじ つまりですね。世間的に観て、僕たちは、そのなんというか…
マミ ねーそんなに難しい言い方しなくても、いいからさ、ズバリと本題に入ってよ!ケンジ君の悪い癖だよ。なんとなーく、回りくどくて、小難しいことを言おう言おうとしていて、言ってる内に、自分でも何言ってるのかわからなくなってきてさ、聞いてるこっちがこまっちゃうなー
けんじ そうですか…では、ズバット言わせてもらいます!
マミ そうよ、言いたいことははっきりと、言ったほうがいいよ。これから、二人で生きていくんだもん。変な隠し事や、腹の探り合いは止めようよ。
けんじ そこです!そこなんです!
マミ (辺りを見回して)どこ?
けんじ つまり!物事の本質はそこにあるわけです。今!あなたの口を伝って語られた、いくつかの言葉の中に、言葉のハシハシにすべての誤解が含まれているわけです!
マミ もーだから!その回りくどい言い方が!わからないっていうの!何いってるの?「あなたの口を伝って語られたいくつかの、言葉の中に、言葉のハシハシに」ってお前はシェークスピアか?
けんじ はっきり言います!
マミ はいどうぞ!
けんじ 出て行って下さい!それだけです!そのことだけを、僕はあなたに伝えたいんです!
マミ なに?それだけ?
けんじ そうです。それだけです!
マミ だったら、始めからそういってよ!言ってくれなきゃ分からないって!いくら心は通じ合っていたって、ケンジ君の好みまでは分からないよ。もー!今夜はダメだよ!オムレツにするんだからさ!
けんじ なんの話しをしてるの?
マミ もーだから、今夜はオムレツ!明日ね明日、ハンバーグ作ってあげるからさ、今夜は我慢してね。
けんじ あのさー
マミ オムレツ嫌い?
けんじ 好きです。
マミ じゃあ、いいじゃないの。さてと、オムレツオムレツと(立ちあがろうとする)
けんじ ちょっとまって!(マミを止める)
マミ なに?
けんじ 僕の言葉は正確にあなたの耳に届いていないようなんです。
マミ ケンジ君!これは仕方ない事なの。わかるでしょ?今夜はオムレツなの、ハンバーグは
けんじ そこです!
マミ どこ?
けんじ ハンバーグじゃないんです!
マミ え!ハンバーガー?
けんじ それも違います。
マミ ハンバーグ、ハンバーガーじゃあ、板門店?
けんじ そう言うことじゃなくて。
マミ いい加減にしなさい!大きな子供が家にいるみたいに、いつまでもわがまま、言わないの今夜はオムレツ!絶対にオムレツなの!ハンバーでもハンバーグでもハンモックでもないの!オムレツなの!わかった?
けんじ …
マミ 困らせないでよ、毎日献立を考える、こっちの身にもなってよ。そんな涙目で見つめてもダメ!もーそんなにハンバーグがいいの?
けんじ うん…………
マミ あ・し・た!マミ特製スペシャルハンバーグ作ってあげる。洋風?和風?どっち!
けんじ 洋風………
マミ OK!決まり!(マミ消える)
けんじ (遠く空を見つめ)僕は…今夜も眠れない…

     暗転



第四場

     スライド
     「恋は炎であると同時に、光でなければならない」~トーマス・ハーディ
     小タイトル
     『お目覚め』

     そのまた、翌日。
     めぐみさんち。
     めぐみさんとタカが旅行の支度をしている。
     どうやら、海外旅行に出掛けるようである。

友蔵 お母さん、買ってきましたよ。(と、言いながら入ってくる)
タカ はいサンキュベルマッチ!
友蔵 いやー、探しちゃいましたよ。歩いて歩いて、やっとみつけました。はいどうぞ!
タカ ありがとうさん!ってこりゃなんじゃ!
友蔵 え!ドラ焼きです。
タカ そりゃ見りゃ分かりますよ。
友蔵 そうでしょ。あんこのたくさん入っている奴を買ってきました。そのね、右端のが一つだけ、クリームになっています。ママの口に合うかどうか、迷ったんですが、とりあえず、冒険してみちゃいました。
タカ 友蔵!なんで?なんで?ドラ焼き?
友蔵 え!だって、ママがどら焼きって?
タカ 今さ、私何してる?
友蔵 旅行の支度でしょ?3泊4日です。
タカ そう、で?
友蔵 で?って?まー気をつけて行ってらっしゃい。
タカ 時間を戻そうかね。めぐみさん?
めぐみ そうですね。そうしましょうか?どの辺から?
タカ 友蔵が起きてきた当たりから、行きましょうかね。ほら、友蔵。
友蔵 はい。(寝転ぶ)
タカ そんじゃいくよ。
友蔵 はい!
タカ そんじゃメグちゃんからどうぞ。
めぐみ はい、行きます!(芝居がかって)でも、おばあさま、お天気が心配ですね。
タカ まーねーそれだけは、どうにもならないからね。
めぐみ おばあさま、お若い!こんなに派手な水着!
タカ がんばっちゃうからねー今年はねビキニで勝負よ!
めぐみ 不戦勝ですね。
タカ ハハハハハハ・…
友蔵 ZOOOO‐‐‐‐
タカ ほれ、友蔵!
友蔵 はい!(臭い芝居)どうも賑やかだと思ったら、いよいよ、旅行ですか!いいなーお母さん!僕ものんびりしたいですよーーーー
タカ おい!友蔵!ドイライヤー持ってきてくれよ!
友蔵 はいよ!んじゃ!一っ走り和菓子屋まで!行ってまいりますよ!
タカ あー頼むよ!
友蔵 ママは、こしあんですね!んじゃ!行ってきまーす!
タカ 待て!馬鹿息子!
友蔵 はい?

     そこに、まみちゃんが駆け込んでくる。

マミ たいへんだー!たいへんだー!どうしよう!ねーあーどうしたらいいの!
友蔵 どうした?まみちゃん?
マミ あーどうしよう!私、もう、死んじゃう!
友蔵 どうした!
タカ マミ!どうした!
マミ これ!これ見て!(置き手紙を渡す)
タカ (手紙を見て)!!!!
マミ 今朝、目が覚めたらこれが、布団の上に!
タカ これは!一大事だ!友蔵!
友蔵 何事ですか?
タカ ケンジ君が!家出した!
友蔵 何ですと!そんな馬鹿な!
マミ パパ!今朝、出ていったのよ!
友蔵 (忍者みたいに)んーまだ、暖かい!そう遠くまでは行ってないな!
めぐみ 探しましょう!
友蔵 そうだな!よし!
めぐみ 私!近くを探してみます!
友蔵 かたじけない!
めぐみ では!(めぐみ消える)
タカ マミ!思い当たるふしは?ないのかね?
マミ んー
友蔵 どんな些細な事でもいいんだじょ。ケンジ君、何かいつもと違う所はなかったか?
マミ そーいえば!
友蔵 待て!シー曲者!(ナイフを投げる)
めぐみ (帰ってきて・刺さる!)う!
友蔵 めぐみさん!
めぐみ (何事もなかったように)あのーケンジ君ってどんな人?
友蔵 どんな人って?隣に住んでるケンジ君ですよ。
めぐみ ご近所付き合いがないもので。
友蔵 それは、いけませんね。いざ!というときに、頼りになるのは、近くの他人ですよ。そんなことじゃ、いけませんねー。いいですか。昔は、それこそ、味噌やしょうゆの貸し借りなんてものは、よくあったことです。困ったときにはお隣さんですよ。
タカ そんなことは、どうでもいいんだよ。
めぐみ あの!ケンジ君の特徴は?
タカ マミ!ケンジ君を一言で言うと?
マミ すっごく優しくて、いつもマミのことを思ってくれていて、時々ワケの分らないことをいたりもするけれど、またそこが、かわいくて…
めぐみ 特徴です!特徴!
マミ 特徴?
タカ ほれ、見た目だよ、見た目。
マミ そうね、言うならば、ブラピとキムタクを足して、2で割って3賭けて、4引いて、5足した感じかな?
めぐみ OK!(走り出す)
マミ 言い過ぎかな?
タカ まー2で、割ったからいいでしょう。
マミ そうね。ハハッハ・・
タカ ハハハハハ
マミ で?なんだっけ?
友蔵 ケンジ君がいないんだろ?
マミ そうだ!そうだ!あーどうしよう!私…こんな事になるなら、私のせいだわ、私があの人の気持ちを考えもしないで…私が…私が馬鹿だったんだわ!
友蔵 マミチャン。そんなに自分を責めてはダメだ。人間誰にでも、間違いはある。しかし、大事な事は間違いから何を学び取るかだ!お父さん。僭越ながら、ケンジ君の似顔絵を書いてみた。どうだ(すっごい、変な絵)これを、日本中の電信柱に張ろうと思う、そしたら、きっと心有る人がケンジ君を拾っていてくれるはずだ。
タカ やかましいな!お前は!犬じゃねーかよ、それじゃ!マミにも、マミの考えがあっての事だろう。さあ、何があったんだね。あんなに仲のよかった二人じゃないか。マミ話して見なさい。
マミ 私あの人の事、何も分かっていなかった…あの人がそんなに苦しんでいるなんて、…私、妻として失格ね…私…
タカ マミ、さあ、話してごらんよ。話せば楽になる。胸につかえているものを吐き出してごらん…さあ!大きく息を吸って。そして、三つ数えて1,2,3ハイ!
友蔵 (タカに言われるままに、やって)すまない!郁恵!私が悪かった!お前の気持ちも考えもせずに!ただ…ただ・・・苦労ばかりかけて…お願いだ!帰ってきてくれ!(号泣)
タカ (頭を引っぱたく)お前はいいんだよ!なにやってるんだ!お前は!
友蔵 大きく息を吸って三つ数えたら…
タカ お前はいいんだよ!なんだよ!いい年こいていつまでも、あんなでき損ないの嫁に!
友蔵 できそこないとは!ななななんですか!
タカ できそこないをできそこないと言ってなーにがわるいかねーあーあーできそこないできそこない!
友蔵 言いすぎですよ!
タカ だまりゃっしゃい!さあ、マミちゃん。ケンジ君と何があったんだね。
友蔵 んーんーんー
マミ 私…ケンジ君があんなに、苦しんでいるとは思っても見なかったの、あの人の澄んだ瞳を疑いもせずに、甘えてばかりいて…私…だから、あの人の気持ちをわかってあげられなかった・・・
タカ 本当の気持ちって?
マミ 私、うぬぼれていたの!だって!オムレツでもいいと思っていたの!オムレツだって立派な夕食でしょ!だけど…ケンジ君にとってはオムレツはただのオムレツでしかなかったの!
タカ だから!私があれほど言ったじゃないか!ダイエーの地下食料品売り場で!
友蔵 ハハハ!ダイエーだって?
タカ なんだよ?
友蔵 おかあさん?あそこはダイエーでは、あーりませんよ!マ・ル・エ・ツでんがなー!
タカ 何を言うかね。ダイエーだよ。丸が欠けたようなかなり、傾いたマークだったろうが!
友蔵 マークはそうでも、あそこはマルエツです。
タカ 友蔵!あんた親に向かって!
友蔵 間違いは間違いです。心を鬼にして、言わせていただきます。あそこはマ・ル・エ・ツ!
タカ 百歩譲って、あそこがマルエツだとしようじゃないか。
友蔵 別に譲ってもらわなくても。あそこは、マルエツですから。
タカ じゃあ!なんで、デカデカと、「頑張れダイエーホークス目指せV!」って、書いてあるんだよ!
友蔵 それは、ダイエーグループだからです。
タカ じゃあ、ダイエーでいいじゃないか!何か不都合でもあるのか!
友蔵 あるいますねー「頑張れマルエツホークス」じゃ世界の王の名が泣きます!
タカ 城島は納得してるよ!小久保だって!寺原だってきっと分かってくれるはずだ!
マミ どうでもいいの!私は!ダイエーでもマルエツでも!そんな事は!ケンジ君が!ケンジ君がね!ちょっと、待って!シー曲者!(ナイフを投げる)
めぐみ (ナイフが刺さる)う!はいはい、ところでさーブラピ足すキムタク割る2かける3引く4足す5ってさー、どんな感じ?
友蔵 ですから、こんな感じです(似顔絵を出す!)

     暗転



第五場
     スライド
     「愛の光なき人生は無意味である」~シラー~
     小タイトル
     『ご帰宅』

     いつもの、けんじ君ち。数日後
     暗い中に、鍵が開けられる音。
     1人の男が入ってくる。(海外出張だったらしく、大きな荷物彼の名は健二)

健二 ♪やだねったら、やだねー♪

     その時、健二の悲鳴!

     マミチャンと友蔵が健二を押さえ込む。音

マミ お帰り!けんじくん!もう、何処にもいかないでよ!今夜はね、ハンバーグだよ!昨日もハンバーグ作って待てたの!その前もその前も、
友蔵 喜べケンジ君!毎日毎日ハンバーグ!マミのハンバーグは石井のハンバーグを超えたぞ!
健二 (やっと、声が)くくくくくるうしーーー
マミ あれ?パパ!もういいよ!離して、離してよ。電気電気!
友蔵 もういいか?しっかりと首に決まっているぞ!
マミ 死んじゃうわよ!
友蔵 もういいか?

     友蔵、明かりをつける。
     そこには、友蔵とマミチャン。そして、見た事もない健二。健二気を失っている。

     顔を見合わせるマミと友蔵

マミ これ?だれ?
友蔵 さあ?
マミ ケンジ君は?
友蔵 人違いかな?
マミ ねーこれ?誰?
友蔵 もしかして?
マミ・友蔵 (顔を見合わせて)泥棒!
マミ なんだと!マミとケンジ君の愛の巣に土足で踏み込むとは!何たること!
友蔵 靴は脱いでるよ。
マミ 許せない!こいつ!
健二 (唸る)
友蔵 動いた!
マミ パパ!とどめ!とどめ差してよ!
友蔵 とどめ!って!マミチャン!
マミ 早く!グズグズしないでよ!とどめ!とどめ!
健二 ウーウーウー
マミ パパ!
友蔵 だってー動いてるよ!
マミ 起きちゃうよ!どうするのよ!
友蔵 死んだ振りしろ!
マミ バカな事言わないでよ!
健二 (目を覚ます、しかし、朦朧としている)うーうーうー(マミと目が合う)あれ?
マミ (いきなり死んだ振り)
友蔵 (遅れて死んだ振り)
健二 あのーあのー(友蔵に)あのーすいません…
友蔵 (いきなり鼾をかきだす)ZZZZZZ
健二 あのーなんでしょうか?これは…(マミを見つけ)ぁ!!!!!

     ジャーン!

健二 マミサン!マミサン!あーどうしよう!来てくれたんですね!僕は…僕は夢を見てるんじゃないだろうか!(自分を叩いたり、ぶつけたり)夢じゃない!マミサン!マミサン!目を開けて下さい!(抱き起こそうとする)
マミ (飛びあがり)何するの!
健二 マミサン!
マミ (腰の抜けた空手のポーズ)あと、三つ数える内に、出て行って下さい!寝たふりをしてあげます!出ていってください!じゃなくて、出て行ってくれー
友蔵 あーあーあーあーあ
マミ パパ!
友蔵 ZOOOOO
健二 マミサン!
マミ 近寄らないで!このナメクジやろー
健二 ナメクジって…
マミ パパ!!!
友蔵 zooooo
マミ へへへへあー見えても、パパは格闘技の達人なのよ!なめんじゃないよ!ヤワラちゃんより、強くて、ジャイアント馬場よりも大きくて、武蔵丸より、太ってるんだからね!怪我しない内に出て行きなさいよ!
健二 マミサン!僕ですよ!
マミ 近寄らないで!私は朝は味噌汁にご飯なのよ!
健二 僕ですよ!忘れたんですか?いえ、忘れるわけはないですよね。だって、ここに、こうやって、あなたは僕の側に来てくれたのですから。あの二人の愛を誓い合った日から、僕はこの日がくるのを信じていました!
マミ あんただれ?
健二 健二ですよ!健二!
マミ ケンジ?
健二 信じていました!あの桜の花の舞う。月明かりの下で誓い合った愛は幻じゃなかった…
マミ さくら?春?
健二 あなたの足元はおぼつかなかった…しかし、僕はこの腕で、あなたの体を、そして、心をがっちりと受け止めていたのですね。
マミ ケンジ?
健二 はい!健二です!213‐5764の電話番号を持つ、あなたのプリンス健二です!
マミ 整形したの?
健二 はい?
マミ ねーパパ!起きてよ!ケンジ君が失敗して、帰ってきたよ。
友蔵 うーうがーなに?
マミ パパ!
健二 あーお父さんですか!始めまして!お嬢さまのいいなずけの健二です!
友蔵 あーうーん
健二 お父様!と呼ばせていただきます!
友蔵 (まだ、寝ぼけている)あーケンジくんか。どこいってたんだよーマミも心配してなー
健二 いやーその、すいません、。半月ばかりハワイの方へ出張してまして。まさか、こんな事に!お父様の手厚い歓迎恐れ入ります!わたくし、不覚にも気を失ってしまいましたが、これを教訓として、日々鍛錬に励みたいと心に堅く誓う次第であります!
友蔵 (次第に意識がはっきりしてくる)君?ケンジくん?!
健二 はい!始めまして!
友蔵 (健二をマジマジと見て)ケンジ君?ほんとに?マミ?これ?ケンジ君?
マミ 偽者または、失敗。
友蔵 どっちだ!
健二 どっちって?
友蔵 偽者か!失敗か!
健二 僕は本物の健二です。
友蔵 いつから!
健二 いつからって?
友蔵 納得いかん!んーこれは一体、どうしたものか…
マミ んーこんな時に、ママがいてくれたら…
友蔵 いうな!郁恵は郁恵なりに自分の人生を歩み出したんだ…
マミ ママ!!!

     郁恵突然。登場。

郁恵 (何事もなかったように)どうかしら?思い切ってショートカットにしてみました!
友蔵 い・く・え!
郁恵 あなた、ご心配をおかけしました。わたくし、一時の感情とはいえ、貴方に向かってひどいことを言いました。心からお詫び申し上げます。
友蔵 郁恵…
郁恵 今日、わたくしが、あるのも、貴方さまのおかげ。その事をしばし、貴方と離れて暮らして、心からそう思うようになりました。貴方さまがお許し頂けるのなら、これからもおそばにおいて頂きたいのですが…
友蔵 ……
マミ パパ?
郁恵 おそばにおいて頂けますでしょうか…
友蔵 ……
マミ パパ!
友蔵 郁恵!!!!!
郁恵 あなた!
友蔵 さみしかったよー。お前がいなくなってしまってから、わしは何処をどう曲がって、家に辿りついたかもわからないようになってしまった。お前という、羅針盤があってこそ、わしと言う、舟も七つの海を航海することが出きる。お前という、避雷針があってこそ、雷も私をよけてくれる。
郁恵 あなた!
友蔵 これからも、わしと言う船を港まで導いておくれ!
郁恵 はい!

     しっかりと、誓い合う二人!

マミ そうなのよ!そうなのよ!パパとママが私の理想なの!二人で助け合い!支えないながら生きていく!私もケンジ君とそんな夫婦になりたいの!
健二 マミサン!
マミ ケンジ君!

     二人、手を取り合うが!

マミ お前誰だよ!
健二 あう……
郁恵 ところで、マミチャン。その人だれ?
健二 あー始めまして、お母様。ご挨拶が遅れました。私!健二です。
郁恵 ケンジ?ケンジ君?って?整形したの?
健二 はい?
郁恵 背もちじんじゃって…何処まで、いじったの?
健二 いえ、そのー
郁恵 まーねー整形に抵抗がなくなったとはいえよ。どうして、どうして、よりによってそういうことになるのかしらねー
健二 すいません!よりによって?とは、いかなる事で?
郁恵 んーまーいいにくいことだから…
マミ つまり、失敗して帰ってくるなんて!って事だよ!
郁恵 マミちゃん!言いすぎよ!
マミ いいのよ!こいつケンジくんじゃないもん!絶対にケンジくんじゃないもん!(シクシク)
健二 マミさん…
郁恵 マミチャン…
友蔵 すまんが、ニセ健二君。わしら、3人にしてくれないか…
健二 ニセって?
友蔵 あまりに、たくさんの事が、起こって、マミチャンの心の中が洪水になっておる。君の悪いようになるだろうが、しばし、時間をくれたまえ。
健二 悪いようにって…
友蔵 出て行けと!言ってるんだ!!!!!!
健二 はい!って、ここは、僕の家ですよ!あーそうだ!これ!これ見てください!

     荷物の中から、なにかを取り出そうとするが、なかなか、出てこない。
     やっと、一冊の日記帖を取り出す!

健二 これ!これ!見てください!僕の日記帳です!マミサンと出会った、4月19日の事が書いてあります!読んでください!読んでいただければ、僕がニセでも失敗でもない事が証明されるはずです!えーと、4月4月ここです!この日です!
郁恵 それでは、僭越ながら私が読みましょうかね。
友蔵 あー久しぶりだなー郁恵の朗読を聞くのは。
郁恵 大学時代以来ですもの。
友蔵 いい声をしてたんだー、キャンパスじゃな、「ホトトギスの郁恵」なんて呼ばれててな。
郁恵 いやだわーあなたったら、そんな古い話しを。
マミ へーそうなんだ、始めて聞いた。
友蔵 母さんが、学園祭で朗読劇をやってたんだ。その美しい声に引かれて、あー懐かしいなー
マミ それが出会いなの?
友蔵 そうだよ!その出会いがあったからこそ、今、マミチャンが存在できる!朗読劇が縁で、結びついたんだなー郁恵。
郁恵 嫌ですよーあなたったら。
健二 あのー
マミ ねーねーどんな劇を朗読していたの?
友蔵 あーあれはたしかー
郁恵・友蔵 四谷怪談!
マミ え!
郁恵 いちまーいにまーい、
友蔵 わーこわい!
郁恵 さんまーい。よんまーい
友蔵 いやーあの頃より、年季が入った分、余計に怖い…
健二 あの!そろそろ、始めたいんですが!
友蔵 なにを?
健二 僕の証拠の日記を。
友蔵 あーそうだった、そうだった。じゃ、郁恵、あの頃のように、ステージへ。
郁恵 そうですか。
友蔵 (何処からか椅子を持ってくる)さあ、どうぞ!
郁恵 それでは。
友蔵 では、どうぞ!
マミ パチパチ!

     明かり、郁恵に絞られる。
     朗読劇が始まる
     ロマンチックな音楽の中。

郁恵 4月19日金曜日はれ。時が過ぎ去って行く中で、今の僕はその時の流れにすら逆らう事ができるのかもしれない…静かに流れるこの、時の流れの中にあって、傍らで眠る天使にそっと、僕はふれることができるのだろうか…
友蔵 なーに言ってんだ?
郁恵 桜の花びらが舞う、月夜の夜。
友蔵 月夜の夜?朝の朝食、静かな静寂?
郁恵 月明かりに照らされ浮かび上がる天使のシルエットは美しすぎて、僕はふと、目を伏せてしまった。この純情な僕の心とは裏腹に天使は泥酔(どろよい)状態であった。「私飲み過ぎちゃって…」天使が言葉を発した瞬間。天使は僕の腕の中で、静かに眠りについた。神は僕の元に一人の天使を使わされた。
友蔵 ハーハー
郁恵 その天使は桜の花びらと共に、そっと、僕の肩にやさしく触れた。そっと、聞こえる君の息遣い、時に優しく、時に激しく、そして、時に鼾を絡めながらその、ハーモニーを奏でる。僕の腕に振れ、そして、伝わる天使の肌のぬくもり…あー僕は生きている。天使の微笑が僕に生きている事を実感させてくれる。ミミズだって、オケラだってアメンボだって、みんなみんな生きているんだ友達なんだ。
友蔵 歌じゃねーかよ。
郁恵 あー僕は君の息遣いを聞き、君の肌のぬくもりを感じ。そして、君の愛しい寝顔を見る事によって、生きていることを実感できる!あー神よ!僕は僕は!僕は!!!!
友蔵 (たまらず叫ぶ!明かり元に戻る!)ややややややめー!ななんじゃなーにが!「僕は君のぬくもりを感じるだ!」このやろー!
郁恵 (なぜか感動して、涙をふく)
友蔵 郁恵!なーに泣いてんだ?
郁恵 つい、思い出して。
友蔵 思い出すな!この三流ポルノ作家が!下らん!安っぽいAVビデオの見過ぎだ貴様は!
郁恵 あなた!あなた!AVビデオ見てらしたの!
友蔵 うえ?いや今のは例えばの話しだ…
郁恵 例えば?
友蔵 そう、例えば例えば。
郁恵 例えば安っぽいAVビデオっていうのは、どういうことを言ってらっしゃるの?
友蔵 だから、例えば…
郁恵 だまらしゃい!何本?
友蔵 はい?
郁恵 何本持ってるの?
友蔵 いや…その…
郁恵 片手?
友蔵 いや…
郁恵 片手半?
友蔵 もうちょっと…
郁恵 両手!
友蔵 もう一丁!
郁恵 両手片足!
友蔵 もう一声
郁恵 両手両足!
友蔵 プラスアルファ!!!!

     よく分からないが、盛り上がってしまう二人。
     しかし、気まずい沈黙が友蔵を襲う。

友蔵 魔がさしたんだよー、ほら郁恵、若い頃は二人でよく、映画をみに言ったねー、憶えてるかい?「カサブランカ」思い出の映画だね。ボギーとバーグマンの「君の瞳に乾杯」なんてなーよくやったねー「カサブランカごっこ」君がバーグマンで僕が僭越ながらボギーで…いやー懐かしい…懐かしすぎて……つい、アダルトコーナーに足がむいてしまったんだよー!!!
郁恵 あなた、最後になにかいいたいことは?
友蔵 えー君は、いつまでもバーグマンのように美しくて…麗しくて…(情けなくて泣けてくる)
郁恵 ご苦労様でした。お帰りはあちらです。
友蔵 失礼いたします…

     友蔵、悲しげに、情けなく一人淋しく、部屋を出て行こうとする。出口付近で振りかえり

友蔵 あーちくしょう!なんだよ!なんだよ!お前の母さんでべそ!ぎゃー

     友蔵、奇声を発して消える。
     部屋に3人。

郁恵 (健二に向かう)あなた!
健二 僕は持っていません!
郁恵 この日記帳、拝見させて頂きました。いくつか質問があります。
健二 はい!
郁恵 4月の19日に間違いなく、うちのマミチャンと出会われたのですか?
健二 はい!
郁恵 この日記によりますと、マミチャンはすなわち、お酒を飲みすぎて、かなりドロヨイ状態であったと?
健二 あのドロヨイではなく泥酔(デイスイ)と、読みます。
郁恵 エッ!
健二 ですから、ドロヨイではなく泥酔と読みます。
マミ うそ!
郁恵 いつから?
健二 昔からです。あーまーどっちでもいいのですけど…
郁恵 デイスイ?っていきなりあなた、言われてなんの事だかわかる?
健二 えー
郁恵 デイスイよ?なんじゃそりゃ?ドロヨイって言った方が、あーこういうかんじだなーって、イメージ掴みやすくない?
健二 まーそうですね。
郁恵 なんだか、心の中で、「こいつら漢字も読めないのかよ」って思ってない?
健二 (思っている)いえ、そんな…
郁恵 そうかしらねー
健二 なんですか?
郁恵 別に…ところで、あなたはケンジ君?
健二 はい!
郁恵 ほんとに?
健二 はい!
郁恵 んーおかしい…
健二 あのー僕は帰ってきてから、ずっと皆さんに、なんと言うのか…すっごくおかしな目で見られているんですよ。ここは、僕の家で、つまりこの家では僕が主なんですが…なんと言うのでしょうか…まるで、僕が僕であることが許されないようなそんな、空気が漂っているわけです。
マミ (これまで、健二を親の敵のように睨みつけていたが)あなたは、ケンジ君じゃない!さあ!本当のことを言いなさいよ!わかった!あなたね!あなたが、マミとケンジ君のラブラブな生活を恨んで!ケンジ君を連れ去って、何処かに隠したのね!ケンジ君の振りをしたニセケンジが、ケンジ君を何処かに隠して、ケンジ君に成りすまして、ケンジ君に取って変わろうとして!ちっくしょう!ケンジ君を出しなさいよ!このニセケンジめ!
郁恵 マミチャン!ケンジ君が多すぎてワケが分からない。このケンジは誰?
マミ だからニセケンジだって!
郁恵 ニセにしちゃ、ニセ過ぎるわね。香港のローレックスぐらいのニセとしてのプライドが欲しいわよ。
マミ 同感!せめて「もしかして、ケンジ君?」ぐらいは言わせて欲しいわよ!あーむかつくなー!サッサト出て行ってよ!
健二 あの!こうは考えられませんか?
マミ 考えられない!
健二 あなた方が、何処の誰を差して、ケンジだと思っているかは知りませんが、しかし、そのケンジこそが偽者で、僕が本物であると言う風には考えられませn
マミ いやだ!!!!そんなのいやだ!!!!あんたは偽者!決まり!偽者!!!!
健二 いいですか、落ちついて聞いてください。これはとても、大事なことです。僕はここに、こうやって、キチンとマミサンと出会った時の詳細な記録をしたためた日記があって。それに、いつの日にか、マミサンが僕の元に来てくれた暁には、二人の結婚式を盛大に上げようと思って、日々の生活費の中から、セッセと貯めた、五百万円のタンス預金が、この2段目の引出しの、コカコーラとピカチュウのTシャツの間に!

     健二、タンスを開けて取り出そうとするが…ない。

健二 あれ?あれ?あーあーーーー
マミ ?
郁恵 ?
健二 (絶叫)なーーーい!僕の五百万がなーい!

     暗転。
     「太陽にほえろ!」のテーマ



第六場

     スライド
     「恋がうまれるには、ほんの少しの希望があれば十分です」~スタンダール~
     小タイトル
     『ほんとのところ…』

     明かりが付くと、そこは、当然ケンジ君の部屋。
     マミチャン。郁恵、健二そして、刑事がいる

刑事 (健二に事情を聞いた模様で警察手帳に何やら、書きこんでいる)そうですか…なるほど、ここに確かに入れてあったんですね。
健二 はい!間違いありません!僕の大事な結婚資金の三百万が根こそぎ持って行かれたんです(シクシク)
郁恵 あんた、さっき五百万て言わなかった?
健二 アウ?
マミ さすが、ニセね。見栄張ってるの?
郁恵 三百万も怪しいものだわ。ねー刑事さん。
刑事 で、本当はいくらなの?
健二 刑事さんまで、僕を疑うんですか?
刑事 私は、「嘘」を見破るプロですよ。いままで、何百何千何万という、嘘を見てきました。その中でもっとも、醜く愚かしくそして、滑稽ですらある、嘘は、「嘘の上に嘘を積み重ねることです」私はあなたに問う!本当はいくらなのですか?
健二 百六十万二千円です…すいません。
刑事 最後の二千円は二千円札?
健二 はい…
刑事 だからだ…だから巷で見かけないんだな…
健二 本当なんです。ほんとに、取られたんです!
刑事 分かりましたと、えーと、大体の事情はつかめましたが!ここは、誰の家ですか?
健二 僕の家です!
マミ ケンジ君の家です!刑事さん!こいつ、とっ捕まえて下さい!
健二 なーにをいってるんですか!マミサン!(思わずマミに触れる)
マミ イヤ!痴漢!痴漢です!刑事さん!痴漢です!ここ!ここ!触りました!刑事さん!
刑事 まーすこし、落ちついてください。この住居の居住者の確認を取っていますから。

     友蔵がダンボールを抱えて、酔っ払って現れる。

友蔵 ♪ヤダねったらヤダねーヤダねったらヤダねー♪ファーこれを見ろ!郁恵!この箱の中ぜーんぶAVビデオ!ハハハハハハ見ろ!
郁恵 あなた!
友蔵 すいませんでしたよーお前になお前に、心に謝ろうと思ってな、そう、洗いざらい打ち明けて、この私のすべてを受け入れて貰おうと思って…決心したんだじょ!だけど、だけどな。駅前でケンジ君にあってなー。それで、語り合っていたらだ!酔っ払っちゃんだよーこれまた、毎度ですいませんでした!
マミ ケンジ君に!
友蔵 そうだよーケンジ君、こいつじゃないよー(刑事に)この人誰?
郁恵 あなた、刑事さんですよ。こちら。
友蔵 うえ?刑事さん?ゴリさん?ジーパン?拳銃持ってるの?
刑事 えーまー
友蔵 貸して?
刑事 なんでですか?
友蔵 男友蔵、ここで、潔く腹かっさばいて,郁恵にお詫び申し上げたくかしこまり候!てな?
マミ パパ!ケンジ君!ケンジ君いたの!
友蔵 いたよー
マミ 何処に?
友蔵 もう来るんじゃないのかいなー遅いなーケンジ君なー
マミ ケンジ君!ケンジ君!

     マミ、駆け出して行ってしまう。後を追う健二。

健二 待ってください!マミサン!

     入れ違いに、めぐみさんが、入ってくる。

めぐみ こんにちは!
友蔵 (かしこまって)これはこれは、お隣のめーぐみさん!どうしました?
めぐみ あのーお味噌を切らせてしまって、
友蔵 もーいくらでもどうぞどうぞ、奥が台所ですから、遠慮なくどうぞ。
めぐみ ありがとうございます。助かります。
友蔵 ご近所は助けあわないと。さあ、どうぞどうぞ!
郁恵 あなた!
友蔵 ウエ?あー隣のね、めぐみさんです。いつもお世話になっています。え?
郁恵 お話しの途中です。
友蔵 はい。めぐみさん!勝手に持って行ってください。
めぐみ はーい(奥に消える)
友蔵 (うっとり)
郁恵 あなた!
友蔵 はい?なに?なんでしょうか?あれまー刑事さん。ところでなんで、ここにいるの?なにか事件ですか?
郁恵 あなた、失礼ですよ。
友蔵 なーになに?逮捕されちゃうの?なんで?AVビデオを箱一杯に持ってるから?♪ヤダねったら、やだねー♪
刑事 お前がやだよ。

     マミが駈け込んでくる。

マミ パパ!ケンジ君は?ケンジ君!
友蔵 あれ?いなかった?
マミ 何処にもいないよ!
健二 (バテバテ)マミサン!足はやいっすねー
マミ パパ!ケンジ君はどこ?

友蔵 ケンジ君は!あそこだ!

     友蔵、指を差すと、高みにケンジ君。

けんじ (ジャーン!)
郁恵 あれ?いつのまに?
マミ ケンジ君!あいたかったよー!どこいってたの!
健二 刑事さん!あいつです!あいつです!この泥棒め!
マミ (いきなり健二をひっぱたく)今なんていった!
健二 アイテ!
マミ ケンジ君!
けんじ 刑事さんですか?
刑事 そうです。君に2、3聞きたいことがある。まず、はっきりさせておきたいことがある。君はケンジ君か?
けんじ そうです。
健二 嘘つけ!偽者!
けんじ でも、マミチャン、あなたの探しているケンジ君ではありません。僕は、僕はただの、こそ泥です。
マミ なに言ってるの?ケンジ君?
健二 ほれみろ!正体を現したな!
けんじ お父さん!
友蔵 (半分寝ている)はいよ…
けんじ 嬉しかったです。一緒に酒を飲めて、男同士、語り合えて。
友蔵 (号泣)ケンジ君!
けんじ マミさん!僕はずっと、後悔しながら、この何日間かを生きてきました。あなたにさよならを言わなくては…
マミ ケンジ君?なに?いってるの?
けんじ 僕は、ほんとに、ほんとに、あなたとのほんの短い間でしたが、その生活が楽しくて、そりゃ、あなたの行動は無茶苦茶でした。でも、離れてみて思ったんです。
マミ なにを?
けんじ 僕は、あなたを好きになってしまったんです!
マミ もーケンジくんたら!こんなみんなのいる前で…テレルガナー
健二 ななななんだとー
けんじ マミちゃん。ありがとう。お父さんお母さん、ありがとう、おばあちゃん?は?
郁恵 (おばあちゃんで)今旅行中ですよーあれ?
刑事 さあ、行きますか。
けんじ (下に下りてきて)はい…

     刑事、ケンジ君と、歩き出そうとした、その時!
     健二、突然隠し持っていた、ナイフを取りだし、マミの首筋につき付ける。

マミ キャー!
健二 うるせえ!俺が健二だ!健二だ!健二なんだ!どけ!
刑事 なにをするんだ!やめなさい!
健二 うるせえ!
けんじ マミチャンをはなせ!
マミ ケンジくーん!
郁恵 刑事さん!
刑事 (拳銃を構えるが腰が引けている)うつぞ!

     健二、マミを盾にジリジリと動く。
     ケンジ君、刑事は向き合っている。
     郁恵はオロオロ、友蔵は酔っ払っている。

健二 俺が健二だ!俺が本物の健二なんだ!
刑事 そうだ、君が本物の健二君だ。
健二 あの桜の花びらの舞う、桜の木の下で出会い。
けんじ さくら?春かよ?
健二 将来を誓い合った、健二は、この俺だ!そうだな!
郁恵 あなた!あなた!マミチャンが!マミチャンが!
友蔵 マミチャンが?どうしたのよ?
郁恵 あなた!あれ!あれ!
友蔵 なんだよー!!!!!ウエ!!!!ヤダねったらヤダネー
けんじ お願いです!彼女を離して下さい!
健二 うるせえ!返せ!俺の百四万二千円返せ!
郁恵 また、減ってる
刑事 返してやれ。
けんじ (封筒を健二に投げる)さあ、彼女を離せ!
健二 自分で言え!僕は偽者ですって言え!
けんじ マミちゃん。僕じゃないんです。彼なんです。あなたの探していたケンジ君は…
マミ ケンジ君…
健二 ハハハハハ!分かったか!俺が健二なんだ!俺が!
友蔵 (突然)なんだ!なにが望みなんだ!金か?お願いだマミチャンを離してくれ!これか?これが欲しいのか?上げるよ。ホラ、この箱一杯AVビデオほら!
郁恵 あなた!そんな時では!
刑事 さあ、もういいでしょう!人質を放しなさい!
健二 刑事さん!そいつを捕まえろよ!
刑事 彼は自首したんだ。
健二 捕まえろよ!さあ、見ろ!ニセものは、捕まったぜ!さあ!手錠かけろ!
刑事 わかった。
けんじ (黙って頭を下げて、手を出す)
マミ いやだー!ケンジ君!
けんじ さあ、彼女を離してください!
健二 おい!その箱よこせ!
友蔵 え?
郁恵 お父さん早く!
友蔵 分かった(箱を差し出す)
健二 隠しているのも出せ!
友蔵 え!
健二 俺の目は節穴じゃねえ!隠したの出せ!
友蔵 (懐から1本取り出す)お気に入りなのに…
健二 よし!
刑事 もういいだろう!彼女を離せ!
健二 うるせえ!このまま逃げてやる!
刑事 馬鹿なことを考えるな!
けんじ マミチャン!
マミ ケンジ君!

     めぐみが能天気に登場。

めぐみ おじ様?このフライパンテフロン加工がしてあるの知ってました?あれ?
健二 なんだお前!
めぐみ (いきなりフライパンで、健二の頭を(コン!)

     一見落着

友蔵 このやろー(と飛びかかり、箱を死守!)俺のビデオだ!俺のだ!
刑事 (健二を捕まえる)
郁恵 (ハラハラと崩れる、めぐみが支える)

     マミとケンジ君。

マミ ケンジ君!
けんじ マミチャン!

     二人、抱き合おうとするが、手錠がかかっていて、うまく、抱き合えない。
     そんななか、パトカーのサイレンが近づいてくる。

刑事 さあ、立ちなさい!

     刑事、健二を連行する。

健二 返せ!このやろー俺の八十二万二千円!
刑事 ほら!

     健二消える。刑事戻ってくる。

刑事 (ケンジ君に)行くぞ。
けんじ はい…
マミ ケンジ君!
けんじ ・…
マミ 待ってるよ!ここで!ずーと、ずーっと待ってるよ!
けんじ マミチャン…

     刑事、ケンジを連行する。

     刑事戻ってくる。

刑事 ご協力ありがとうございました。調べが終るまでは、現場には触れないようにお願いします。

     刑事、友蔵に近づき。

刑事 現場には触れないようにお願いします。
友蔵 はい!
刑事 (手を出す)現場には触れないようにお願いします。
友蔵 お気に入りなのに…(と、1本のビデオを渡す)

     ブリッジして、舞台高みにニュースキャスター

NC あきれた泥棒が逮捕されました。逮捕されたのは住所不定無職
新沼ケンジ容疑者33歳。新沼容疑者は、一人暮しの独身男性のマンションやアパートを狙い、居住者が 出張または、旅行など、長期にわたって家を空けることを調べ上げた後、その家に忍び込み、数日間生活した後,現金、貴金属を奪い逃走。同様な手口でかなりの、余罪があると見て警察で取り調べ中です。
取調べ中の刑事の語ったところによると、新沼容疑者が盗んだもっとも、大きなものは、『マミチャンのハート』では、ないかということで…なんじゃそりゃ?コマーシャルの後は、スポーツ!

     暗転なしで、すぐにスライド

エピローグ

     スライド
     「愛とは相手に変わることを要求せず、相手をありのまま受け入れることだ」~ディエゴ・ファブリ~
     小タイトル『お☆ま☆け』

     警察の面会室で、向かい合わせにケンジ君とマミちゃん。
     ケンジ君の手に手錠。二人の間は、ガラスでし切られている…はず

けんじ ところで、みんな元気?
マミ あ!おばあちゃんがね。旅行から帰ってきたよ!はい!お土産マカダミアンナッツ!
けんじ へー帰って来たんだ。
マミ アロハーなんて、言っちゃってさ!
けんじ へーハワイかいいなー
マミ んーん、熱海!
けんじ なんだよ!紛らわしいな。
マミ ケンジ君!ハワイ行きたいの?
けんじ 行ってみたいよね。
マミ んじゃ明日行こうよ!
けんじ 明日?
マミ マミ新しい、水着買ったんだ!ちょっと、ケンジ君もイチコロヨ!
けんじ 明日は無理だよ。
マミ どうして?『銭形は急げ!』っていうでしょ!
けんじ それをいうなら『ぜんは急げ』だよ。
マミ あれ?まーいいやそれそれ。じゃあ、あさって!大安吉日!
けんじ まだ、無理だよー
マミ まったく、いつまでこんな所にいるんだかなー。
けんじ まーもう少しね。
マミ ほんとにもう少しにしてよねーマミも引く手あたまなんだからさ
けんじ あまただって
マミ いつまでも一人にしていたら、ケンジ君のこと忘れちゃうからね。けんじ んー分かってる
マミ ほんとにわかってるのかなー?
けんじ 分かってるよ。
マミ ほんとに?
けんじ ほんとに。
マミ ほんとにほんと?
けんじ ほんとにほんと。
マミ ほんとにほんとにほんとに?
けんじ ほんとにほんとにほんとにほんと。
マミ ほんとにほんとにほんとにほんとにほんと?
けんじ いつまで続くの?
マミ えへ?ねえ!昨日のハンバーグどうだった?
けんじ おいしかったよ
マミ それで?
けんじ それでって?
マミ それだけ?
けんじ うん。
マミ 愛ってさ、いつか覚めるものなのね…
けんじ なに?
マミ マミが一生懸命ケンジ君の為に…それなのに…
けんじ おいしかったよ。なんて言うのか、牛肉と玉ねぎのあっさりとした、触感と、納豆の微妙な糸の引き具合が絶妙で。大変おいしゅうございました。
マミ えへ!いえいえ、どういたまして。なかなか、好評ね。そして、今日は!(ドンと重箱を出す)マミチャンスペシャル!ハンバーグ!INキムチ!(韓国語)OOOOOO×
けんじ キムチ?
マミ だって、毎日ハンバーグじゃ飽きるでしょ。日々、創意工夫しなくては!
けんじ かなりきついものが…
マミ どうして、わからないかな!マミはケンジ君の栄養のバランスを考えてるんだよ!今日のはかなり自信あり!はい、どうぞ!
けんじ ありがとう。
マミ 嬉しいでしょ?
けんじ うん。
マミ 明日の献立はもう、決まってるの!
けんじ 明日もハンバーグ?
マミ もち!
けんじ どんな創意工夫?
マミ よくぞ、聞いてくれちゃいました。思い切って、中華風にチャレンジ!
けんじ 中華?
マミ 中国四千年の歴史に挑みます!
けんじ 別に挑まなくても。
マミ 明日は酢豚ハンバーグよ!
けんじ 酢豚は酢豚で食べたいんだけど…
マミ あーそうだ!ケンジ君に聞こうと思ってたんだ。
けんじ だったら、酢豚で。
マミ 酢豚は酢豚だけど、あのパイナップル入れる?あれってさー好き嫌いあるじゃない。私は嫌いなのよ。「なんで?」って思っちゃうのよ、いつも、やっぱり、パイナップルはパイナップルとして食べたいじゃない。それなのに、ケチャップにまみれて、中途半端に生暖かくて、申し訳なさそうに、乗っかってるじゃない?ケンジ君はどう思う?
けんじ  僕は、ハンバーグと酢豚が食べたい。
マミ は?なに言ってるの?そうじゃなくて、今は酢豚のパイナップルの話しでしょ?どうしてだろうね?シュウマイのグリンピースは許せるのに、酢豚のパイナップルは許せないのよね。中国大使館にでも、訴えてやろうかしら。

     「キンコンカンコーン」とチャイムの音。

けんじ もう時間かー
マミ いやだ!いやだ!ケンジ君と一緒にいたーい!
けんじ  今日はありがとう。
マミ 今日もでしょ?
けんじ あ、そうか…ハハハハ
マミ ハハハハハ
けんじ ありがとう
マミ どういたまして。ケンジ君!
けんじ なに?
マミ ここで、なにしてるの?
けんじ んー色々と反省したり、考え事したり…
マミ マミの事も考える?
けんじ んーまー
マミ まーってなによ!いつもでしょ!
けんじ んーまあね
マミ やだよーケンジ君たら!きゃーはずかしー
けんじ ・…
マミ んじゃ、行くね!マルエツ閉まっちゃうからさ。
けんじ うん、そいじゃ。
マミ 辛いね…逢いたいんだ…ずっと。一緒にいたいんだ…でも、帰るのが辛くて…帰り道がもっと、寂しくて…(シクシク)
けんじ マミちゃん…
マミ でも、またねーって帰らないと、ハンバーグ作れないし。

     ガラスごしの二人。
     見詰め合う

けんじ 明日もくる?
マミ 来て欲しい?
けんじ うん…
マミ 聞こえマしぇーん!
けんじ 酢豚のハンバーグ楽しみにしています。
マミ うん!頑張る!またね!
けんじ うん!またね!
マミ (帰りかけて)またね!じゃなくて!肝心のこと答えてよ!
けんじ なに?
マミ 酢豚にさーパイナップル入れる?

     「恋のバットチューニング」が入ってくる。

     明かりが絞られていく中で、スライド

      スライド
     「恋は人を盲目にするが、結婚は視力を回復してくれる」~リヒテンベルグ~
     小タイトル
     『お☆し☆ま☆い☆』

     スライド、消えて行き。

     ♪始めから!ちょっとずれてる周波数。無理も我慢もしなくていい。ちょっとずれてる周波 数…・・♪




       終わり

    
 
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