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たむけるタイムカプセル
岩野秀夫
 



○登場人物
・2002年
 とうこ(女・高校3年・文芸同好会会長)
 石田(男・高校3年・文芸同好会)
 なつき(女・高校3年・文芸同好会)
 あや(女・高校3年・文芸同好会)
 ふみか(女・高校3年・文芸同好会)
 清水(男・顧問)

・2012年
 とうこ(女・県の臨時職員)
 石田(男・書店店員)
 なつき(女・主婦(妊婦))
 あや(女・執筆業) 

1 1つのテーブルにいすが4脚用意されている。
  それがはす向かいに4セット。
※ABのテーブルはCDのテーブルより一段高い位置にあることが望ましい。

たむけるタイムカプセル

18歳のとうこ(以下「18とうこ」)がA3に、28歳のとうこ(以下「28とうこ」)がA2に座っている。
※以下、人物名の前の数字は年齢を指す。
18とうこは原稿校正中。
28とうこは本を読んでいる。
18とうこ、考えこんでいる。

18とうこ「んー…」

ABのテーブル並びの下手(以下「AB下手」「AB上手」)より、ふみかが来る。
28とうこ、AB下手に視線を送るが、何事もなかったかのように本に視線をおろす。
ふみか、そーっと18とうこに後ろから近づき、18とうこの背中越しに原稿を読む。

ふみか「何してんの?」
18とうこ「わ!びっくりした!」

18とうこ、振り返ってふみかを見る。

ふみか「あたしだよ」
18とうこ「誰?!」
ふみか「ふみか」

18とうこ、無視して校正に戻る。

ふみか「おーい、ふみかだよー」

28とうこ、またAB下手に視線を送る。

18とうこ「(笑いながら)今頃来たの?みんな待ってたんだよ」
ふみか「ごめん、起きられなくて!」
18とうこ「石田くん達、印刷機のところで待機してんだけど、今日、やけに印刷機混んでてさあ」
ふみか「ねえ、あたし声涸れてない?あー」
18とうこ「ふみか、きのうの打ち上げ、ホントうるさかったもんね。歌っているひとより騒いでたし」
ふみこ「とうこもじゃん」
18とうこ「うそ!あたし、おとなしくしてた!」
ふみこ「一緒に花*花、歌ったっしょ!」
18とうこ「それだってふみかが強引にマイクをもたせたから…」
ふみか「思い出思い出!♪(前奏から口ずさんで)タンタンタンタンタン!♪あ~よかったな~、あなたがいて~、ああ~よかったな~、あなたといて~、あ~」
18とうこ「(歌を遮るように)お母さんに言われたんだ。もう卒業なんだから、少しは大人らしくなさい、って」
ふみこ「それ、ちがう」
18とうこ「は?」
ふみか「とうこのお母さんは、おとなしくなさいって言ってたんだよ、大人らしくなさい、じゃなくて」
18とうこ「はぁ?」
ふみか「ホント、うっさいからね!とうこってば」
18とうこ「ふみかに言われたくない」
ふみか「にしては繊細なものを書けるんだから、意外」
18とうこ「失敬な」

28とうこ、再び下手に視線を送る。

ふみか「誰もいない…卒業式の余韻残る教室で…自身の作品に没入ですか…」
18とうこ「うーん…」
ふみか「ちゃんと作品寝かせた?『限りなく透明に近いブルー』だって何度も寝かせては書き直し、寝かせては書き直ししてたんだよ」
18とうこ「まあ、やったつもりなんだけど」
ふみか「印刷、始まっちゃうんでしょ。今更、どこが気になってんの」
18とうこ「お父さんの腎臓、移植されるとこさ、あそこって、もっと細かく書く必要あったかもって」
ふみか「それ自分で言ってたじゃん。あの手術で横たわっているところは、ラストで主人公がベッドで泣きながら横になっているシーンと重なってるから、なんちゃらかんちゃら」
18とうこ「いや、そうなんだけど…今けっこうあっさり描いてるんだけどさ、手術の描写、もっと書き込む必要あるかなって」
ふみか「ふーん。そっかぁ、うーん…まあ、どっちでもいいじゃん」
18とうこ「あんたに訊いたあたしがばかだった」
ふみか「(否定して)ううん。とうこはばかじゃない。とうこは推薦もとれたし、我が文芸同好会の会長もやっている。ばかなのは…」
18とうこ「ばかなのは…?」
ふみか「(否定して)ううん。きっと誰もばかじゃない」
18とうこ「なんだよ」
ふみか「でも、きっとそう。みんなばかなのよ」
18とうこ「(笑って)ふみかが一番ばかだね」
ふみか「マクベスでしょ!きれいは汚い、汚いはきれい!」
18とうこ「だからあ、どうなのよ、この場面は」
ふみか「だからあ、手術受けてる時って、主人公は意識ないわけでしょ」
18とうこ「ああ…」
ふみか「なんかへんじゃない?描いてあると」

18とうこ、ふみかをまじまじと見つめて

18とうこ「やっぱちがうね、今年のふみか。ひと味もふた味も」
ふみか「(独特な構えのポーズを取り)お?!」

急にほめられて、ふみか構える。

18とうこ「いいよ、アクの強さがいい感じ!」
ふみか「(嬉しい)えー、そう?」
18とうこ「よし、じゃあ印刷手伝ってこよ!」

18とうこ、原稿を束ねて片付け始める。

ふみか「あれ?もういいの?」
18とうこ「さ、行こ。石田君たち、待ってるから」

18とうこ、原稿を持ち立ち上がる。
ふみか、18とうこの両肩に手をのせて、そのまま2人AB下手へ去る。

ふみか「ねぇ、アクってさあ、強くて良かったんだよね?」


2 2012年(平成24年)3月
28とうこ、AB下手に視線を送る。
28石田がAB下手からくる。

28とうこ「石田くん?」
28石田「…会長」
28とうこ「(笑って)もう会長じゃないよ」
28石田「や、でも、会長はやっぱり文藝堂の会長だから」

28とうこ、苦笑する。

28石田「会長、ひさしぶり」
28とうこ「うん…ありがと。来てくれて」
28石田「ん…」
28とうこ「…座って」
28石田「ああ…」

28石田、A3に座る。
28とうこ、まじまじと28石田を見つめて

28とうこ「変わんないね」
28石田「え?そんなことない。もうおっさんだよ」
28とうこ「そんなこと言ったら、あたしだっておばさんになっちゃうよ」
28石田「あ、いや、ちが、そういう意味じゃなくて」
28とうこ「(笑って)すぐあせるとこ、高校の頃とおんなじ」
28石田「からかうなよ」

28とうこと28石田、少しの間、無言。

28石田「(28とうこの本に)何、読んでたの?」
28とうこ「『西の魔女が死んだ』」
28石田「昔、読んでなかったっけ」
28とうこ「読んでた。よく覚えてるね」
28石田「会長に勧められて読んだ記憶ある。おばあちゃんが出てくる話だよね」
28とうこ「そう。それが西の魔女」
28石田「でも、それ以外あんま覚えてない」

28とうこ、微笑する。

28石田「最近のは?なんか読んでる?」
28とうこ「最近のは(読んでない)…」
28石田「そっか。でも、最近のでも結構面白いのあるよ。『もしドラ』って知ってる?」
28とうこ「もしも、ピータードラッガーを高校野球部の女子マネージャーが…」
28石田「まあ、そんなようなタイトル。随分長いこと売れ筋でね」
28とうこ「へぇ。え、石田君、何の仕事してるの?」
28石田「書店の店員」
28とうこ「そっか。頑張ってるね」
28石田「まあ、いろいろあるけどね。リーマンショックってやつ?百年に一度の不況ってのを今体験しているよ。会長は?何してるの?」
28とうこ「あたしは、こっちで県の臨時職員」
28石田「だから東京から戻ってたんだ。いつから?」
28とうこ「去年の10月。まあ、期限付きだから。いつまでいられるか」
28石田「お母さん、一緒なの?」
28とうこ「(否定)ううん」
28石田「じゃあ、お母さんは…」
28とうこ「石田君は、文藝堂のみんなと会ってた?」
28石田「あ、いや…会ってないよ。みんな、どうしているんだか」
28とうこ「そうなんだ」
28石田「うん」
28とうこ「あたしのせい…だよね」
28石田「え…いや、ま、なんとなくね…あ、そうか。今日やっぱりみんな呼んでるんだ」
28とうこ「うん」
28石田「そうか…そうなんだ。久しぶりだな」
28とうこ「ねえ、寒かったでしょ。何か頼む?」
28石田「そうだね…(手をあげ、店員を探し)すみません!」


3 2002年(平成14年)3月
18石田がE(スペース)上手から来る。
18石田は立腹している。

18石田「まったくあいつら…」

18とうことふみかがE(スペース)下手から来る。Dのテーブルあたりで

ふみか「あ、石田!」
18石田「(ふみかと18とうこに気付き)会長!捜したよ」
18とうこ「ごめーん」
18石田「てか、やっと来たか、ふみ」
ふみか「待ってたよ、石田」
18石田「何を言って…」
ふみか「(18石田の言葉を遮るように)印刷、どうなった?混んでんだって?」
18石田「(怒りながら)そ、それが…それどころじゃなくてさぁ」
ふみか「(嬉しそうに)何?何?」
18とうこ「どうしたの?」
18石田「次うちらの番って時に、化学部の連中が割り込んできてさ」
18とうこ「ええ?!」
18石田「あや氏が抗議してたら、さらに脇から園芸部が割り込んできて」
18とうこ「何でえ?」
18石田「こっちで言い争っているうちに演劇部が使いだしちゃって」
18とうこ「えーっ」
ふみか「底辺同士が争って…」
18とうこ「ちょっと!」
18石田「底辺って言うな!」

ふみか、神妙な顔。

18とうこ「それで、あやちゃんとなっちゃんは?」
18石田「らちあかないからって、なつが先に会長を探しに行ったんだけど。会長、なつには会ってない?」
18とうこ「うん。あたし、とにかく、あやちゃんとこ行ってくるよ」

18とうこ、E(スペース)上手へむかう。

18石田「さて、じゃあ、僕はなつを探すか」
ふみか「ケータイで呼べばいいじゃん」
18石田「あ、そっか」

18石田、携帯電話を取り出し、18なつきにかける。
ふみか、バッグからマスキングテープを取り出す。
部屋の中で、携帯電話の呼び出し音が鳴る。

18石田「(過剰に怒りながら)なんだ!なつのやつ!不携帯だ!」
ふみか「まあ、そう怒るな」
18石田「なつに怒ってるんじゃない!」
ふみか「なんだよ」
18石田「…園芸部のやつら、俺の作品のタイトル見て笑いやがった」
ふみか「タイトル何だっけ」
18石田「(小声で)『わたしはステラーカイギュウ』」
ふみか「え?何?」
18石田「『わたしはステラーカイギュウ』」
ふみか「そうそう!ステラーカイギュウ!」
18石田「不憫な生き物なんだよ。人類に発見されてから、わずか27年で絶滅した生き物でさ。もちろん人類が絶滅させたんだ。記録によれば、最後に漁師が2匹のステラーカイギュウを撃ち殺して、それ以降もう誰もステラーカイギュウを見た者はいない。その漁師を主人公にした話なんだよ。この世からいなくなるステラーカイギュウと家族から忘れられていく漁師を重ねて描いているんだよ。でも、そのステラーカイギュウって響きだけで鼻で笑いやがって…」
ふみか「ほんとにね」

18石田が話している間、ふみかはDのテーブルに自分のバッグからマスキングテープの山を取り出し、タワー型に積み重ねる。

18石田「何してんの?」
ふみか「石田、これ!ちゃらーん!」
18石田「マスキングテープ?どうした?」
ふみか「いや、ほら。石田、言ってたじゃん。うちららしい、文集にしたいって」
18石田「そりゃ、まあ」
ふみか「これで、製本したらよくね?背表紙だけで、すぐうちらの卒業文集ってわかるっしょ」
18石田「あぁ、そう…かも」
ふみか「いや、実はいろいろ買ってみたんだけど、ゆうべどれにしようか迷っちゃってさぁ。いろいろデザインあって、これなんかもいいなって思ったやつなんだけどね」
18石田「え、今、その話するの?」
ふみか「最後の文集なんだから、やっぱ、みんな背表紙揃えたいよね。もっと分厚い文集になるんだったら、ジャンプの単行本の背表紙みたいに、並べて一枚の絵みたいになるってのもありなんだけど、ちょっと厚みがたりないからさ」
18石田「へぇ。いいかもね」
ふみか「だろ?」
18石田「いいんだけど、いいんだけどさ」
ふみか「なんだよ」
18石田「まあ、いいんだけど、文集っていうか作品集なんだから、製本テープは黒か白じゃないかと」

ふみか、一瞬の間の後、マスキングテープのタワーを崩す。

ふみか「だよな」
18石田「でも、まあ、会長とかの考えもあるだろうから、後で聞いてみよう。それに」
ふみか「(少し怒りながら)なに」
18石田「今はそれどころじゃない」

ふみか、速攻でマスキングテープをバッグにしまう。しまい終えた後、18石田の方をむき

ふみか「石田、お前はやっぱりアレだな。毛が三本足りないな」

18なつき、E(スペース)下手から来る。ふみかと18石田のやりとりを遠巻きに見つめる。

18石田「いや、え、そう?」
ふみか「少しは田辺聖子でも読んどきな」
18石田「悪いけど、僕、しっかり生えてる」
ふみか「そういうこと言ってるんじゃない」
18石田「え?」
18なつき「ふみちゃんにとって、田辺聖子はバイブルだからー」
ふみか「なつ」
18なつき「ふみちゃん、あれ持ってきたよー」
ふみか「(含み笑いして)持ってきた?」
18石田「あれって何?」
18なつき「ふみちゃんがねー、今日のために購買のコロッケパン買っといてって」
ふみか「ほら、みんなもう食べられなくなるしさ。最後にもう1回、みんなで食べたいじゃん、コロッケパン」
18なつき「だから、最後の購買の日に、コロッケパン、みんなの分も買っといたんだ」
18石田「おお!(嬉しそう)」

18なつき、自分のバッグから、ジップロック(2~3個)を取り出す。中には、ラップで個別に包まれたコロッケパンが5個。それを、Cのテーブルに置く。
18石田、ふみか、Cのテーブルに集まる。

18なつき「待ってたよ!」
18石田「うまそうだな、おい!」
18なつき「みんなそろってからだよー」
18石田「なんだよ、ふみが遅れなきゃ、すぐ食べられたのに」
ふみか「あたし、来た時には石田いないし」
18なつき「会長もいなくてさー」
18石田「さっき、戻ってきたよ」
18なつき「本当―?」
18石田「今、あや氏のところに行ってる」
18なつき「すれちがいだねー。でも、今日、印刷キビシイかもね」
18石田「うん…」
18なつき「(ふみかに)さっきもね、印刷機のトコで、園芸部から『同好会は後にして』とかさー、化学部からは、顧問呼んでこいよ、なんて半笑いで言われてさー」
ふみか「しみせんを?」
18なつき「清水先生ねー」
ふみか「分が悪いな」
18なつき「あやちゃん、知らなくてさー。清水先生のこと」
ふみか「あや氏、超越してるから」
18石田「トランセンダンタリズムだ」
ふみか「やっちまったからな、しみせん」
18なつき「ちがうよー。清水先生がやっちゃったわけじゃないでしょう」
ふみか「でも、しみせん、責任とらされたじゃん」
18なつき「えー、これってそういうことなの」
18石田「おい(やめよう)」
ふみか「(聞かずに)あたりまえでしょ!たった2年で、しかもあんな遠くに異動だよ」
18なつき「そっかー、そうだよねー」
ふみか「しかも新婚なのに」
18石田「ふみ!」
ふみか「まさか披露宴が送別会になっちゃうなんてね!」
18石田「よせって!」
ふみか「(不機嫌そうに)何」
18石田「いや、とにかく、会長呼んでくるわ」

18石田、E(スペース)上手へ去る。
18なつきとふみかはCのテーブルに座りそのまま話す。


4 2012年3月
AB下手から28なつきが来る。28なつきはお腹が大きい。ほぼ臨月。

28なつき「会長ー」

28とうこと28石田が、28なつきの方を向く。

28とうこ「なつきちゃん…」
28石田「なつ…」
28なつき「石田くん、来たんだー」
28石田「まあ」
28とうこ「なっちゃん、お腹…」
28なつき「そう。もうすぐなんだ」
28石田「そうか。おめでとう」
28とうこ「(28石田とかぶるように)おめでとう」
28なつき「ありがとー」
28石田「結婚してたこと知らなかった。(とうこに)知ってた?」

28とうこ、首を横にふる。

28なつき「2年前。会社の同期と」
28とうこ「そう」
28なつき「会長は?」
28とうこ「だから、もう会長じゃないんだけど」
28なつき「でも、なんかねー」
28石田「ねえ」

28なつきと28石田、笑いあう

28とうこ「あたしはまだまだ。ねえ、座って座って」
28なつき「(A4に座りながら)石田君は?」
28石田「僕は、まあ」
28なつき「えー、おめでとー」
28石田「いや、まだ婚約中なんだけどさ」
28とうこ「おめでとう」
28石田「どうも」
28なつき「みんな、大人になっちゃったねー」
28石田「どうかね。まだ、ふみやあや氏は来てないし」
28なつき「ふみちゃんにあやちゃん。懐かしいー。文藝堂のみんな呼んだの?」
28とうこ「うん」
28石田「濃い2人がまだなんだ」
28なつき「まあ、きっとふみちゃんは遅れてくるしー、なんて」
28石田「そう!だいたいあいつは遅れてくるんだよな!」
28なつき「ねー」
28石田「そのくせ、なんかあいつのアイディアで話がまとまったりすることが多くてさ」
28なつき「うちらの文芸同好会を『文藝堂』にしたのもふみちゃんだったの、覚えてる?」
28石田「そうそう。名前つける時に、みんなのイメージがなかなかまとまらなくてさ」
28なつき「で、遅れてきたふみちゃんが『文芸同好会』略して文芸同でいいじゃんって。なんなら『同』の字をお堂の『堂』にしようってね」
28とうこ「石田君あの時、文藝堂なんてカステラみたいだって抵抗したんだけどね」
28石田「でも、ふみのやつ、どうせまとまらないんだからイメージは象徴的な方がって、カステラが象徴になるかよくわかんないけど、うやむやにまとめようとしてさあ」
28なつき「でも、あやちゃんが、『芸』の字は難しいほうの『藝』じゃなきゃおかしいって」
28石田「あの文藝春秋の文藝な。あや氏らしいよな」
28とうこ「(笑って)あや氏」
28なつき「あれ、なんであや氏ってなったんだっけー?」
28とうこ「あやちゃんはどこか超越していたから」
28石田「トランセンダンタリズム」
28なつき「よくそんな小難しい単語覚えてられるねー」
28とうこ「頭がまだ柔らかかったから、あの頃は」
28石田「同感。本だっていくらでも読んでいられたもんな」
28なつき「わかるー。あたし一晩で10冊読んだことあったよ」
28とうこ「すごいね」
28石田「なつは詩集担当だから。1冊が短いんだよ」
28なつき「なんだっけ。俵万智に始まって、銀色夏生、谷川俊太郎、工藤直子、銀色夏生、金子みすづ、茨木のり子、銀色夏生」
28石田「多いなあ、銀色夏生」
28なつき「うちにいっぱいあったんだー」
28とうこ「あたしも何冊か紹介してもらった。金子みすづがあんな風に取り上げられるなんてね」
28なつき「ねえ。あたしとしてはちょっと複雑。茶化されたりしてるとさ」
28石田「え、どれだっけ。金子みすづの…」
28とうこ「こだまでしょうか」
28なつき「いいえ誰でも」
28石田「あれか」
28なつき「いい詩なんだよ」
28石田「わかるよ。『「遊ぼう」って言うと、「遊ぼう」って言う』」
28なつき「『「馬鹿」って言うと、「馬鹿」って言う』」
28「そうそう。あと何だっけ」
28なつき「『「もう遊ばない」って言うと、「もう遊ばない」って言う。そうしてあとで、さみしくなって…』」
28とうこ「すごいねー。よく覚えてるねー」
28なつき「大好きだったもん。文藝堂のみんなに会いたかったよー。嬉しいなー」
28石田「会いたいな。ふみにあや氏」
28とうこ「呼んではいるんだけどね」
28石田「ふたりとも来るかな?」
28なつき「来て欲しいなー」


5 2002年3月
18とうこ、18石田、18あやがE(スペース)上手から来る。

ふみか「あ、あや氏来た。あや氏!」

18あや、怒っている。18あや、Dのテーブルに、卒業文集の原稿を叩き置く。
ふみか、独特の構えのポーズを取り

ふみか「あれ?ご立腹?」
18あや「会長、清水先生は?」
18とうこ「今日、来ないんじゃない?」
18あや「至急、呼ぶべき」
18とうこ「え、なんで」
18あや「抗議に決まってる」
18とうこ「まあまあ」
18あや「不愉快極まりない。あいつら清水先生のことも侮辱してた」
18とうこ「え…」
18あや「みんな知ってるのか?清水先生の異動の理由」

18石田、18とうこ、18なつき、顔を見合わせる。

18あや「石田、知ってるのか」
18石田「知ってるか、知ってないか、と言われたら…そりゃ…何というか」
18あや「ふみは知ってるのか?清水先生に何があったか」
ふみか「そりゃ、うちらの担任だからね!」
18とうこ「ふみか!」
18あや「ならば、まことにふみのクラスのタイムカプセルの企画、流れちゃったのか?」
18とうこ「まあ…」
18あや「清水先生の失態で?!」
18とうこ「失態というか…あの」
18あや「ふみ、まことか」
ふみか「まあ、しみせんが責任とらされたのは事実かな」
18あや「清水先生、何やらかした?」
18とうこ「だから、やらかしたというか」
ふみか「タイムカプセルに入れる原稿をなくしちゃったんだよね」
18あや「なんと!」
ふみか「『10年後の私へ』ってみんなが書いたやつ」
18石田「おい」
18あや「うーむ…」
18石田「いい加減にしろって」
18あや「じゃあ、みんなが言ってたこと、まことだったのか」
18石田「先生、異動しちゃうんだから、もういいだろ」
18あや「責任とらされたって、そういうことか」
18石田「だから、そうとは限らない…」
18あや「清水先生、来て2年だもんね、早いよね。石田もそう思うでしょ」
18石田「いや、まあ、うん…」
ふみか「(石田に)大丈夫?動揺してない?」
18石田「してないよ!」
18あや「むきになるところがあやしい」
18石田「いや、別に、おれは、そんな」
ふみか「動揺してる」
18石田「してないよ!」

清水がE(スペース)下手から来る。
清水、お茶の葉の缶の入った紙袋を持っている。

清水「何、動揺してるんだ、石田」

みんな、清水の方を向く。

18石田「あ!」
18とうこ「先生」
清水「みんな、昨日はお疲れさま。文集できた?」
18石田「いえ…」
18とうこ「あれ?今日来ることになってましたっけ」
清水「文藝堂の活動に、顧問が来ないわけにいかんだろう。ほら、差し入れ持ってきた」

清水、紙袋を持ちあげる。

清水「でも、なんで印刷できてないんだ。そんなにかかるものでもなし」
18石田「印刷機、使えないんですよ」
清水「なんでぇ?」
18石田「他の部活の連中にとられちゃって」
清水「えー?」
18なつき「あたし達ならんでたのに、同好会は後にしろって横入りされたんですよー、ひどくないですかー」
18あや「それに、文句あるなら顧問呼んで来いって言われましたよ」
清水「あ、そう。じゃ、行ってやろうかな」

清水、E(スペース)上手へ行こうとする。
18とうこ、18石田、清水を止める。

18とうこ「待って!待って!」
18石田「今、先生行くと、こじれるから!」
清水「どういうことだ?」
18とうこ「酒くさ」
清水「におう?昨日、遅くまでつき合わされたからな」
18あや「先生きいたよ」
清水「うん?」
18あや「タイムカプセルのこと」

18のみんな、息をのむ。

清水「そうか…」

18のみんな、清水を見つめる。

清水「もしかして、部活の連中に、何か言われたか」
18あや「言われた」

清水、うなづいて、お茶缶を持ち上げ

清水「こないだ、かみさんの実家から送られてきた。かみさんの地元、お茶処でね」
18とうこ「かみさんだって」
清水「うん?」
18とうこ「別に」

清水、18なつきに紙袋からお茶缶を取り出し、

清水「なつき、悪いがみんなにお茶入れてもらえるか」
18なつき「はい…」

18なつき、お茶缶を受け取る。

18とうこ「手伝うよ」
18なつき「うん。先生もコロッケパン食べる?」
清水「購買の?」
18なつき「そう」
清水「なんであんのよ、そんなのが」
18なつき「ふみちゃんのアイディアで、今日みんなで最後の購買のコロッケパン食べようってなって」
清水「いいねぇ!俺も喰えなくなるからな。ご相伴にあずかろうかな」

18なつき、18とうこ、E(スペース)下手へ去る。

清水「2人が戻ったら、話すよ。みんなにも、会えなくなるし、俺からきちんと伝えなくちゃならんな」


6 2012年3月
近況を語り合う28とうこ、28石田、28なつき。

28石田「そうか、なつは今いわきか」
28なつき「ただ、また引っ越すかもしれなくてさー(おなかをさすりながら)だんながねー、もっと離れたところがいいんじゃないかって」
28とうこ「仕事は?育休とってるんじゃないの?」
28なつき「(苦く笑い)丁重にお引き取り願われた感じだったねー。お仕事したい人は大勢いるし、でも、こっちのお仕事なんて限られてるし、まあ、いろいろあるんだー」
28石田「わかる気がする」
28なつき「あたしもこの子が幼稚園入る前に、落ち着きたいしねー。石田君、仙台って言ったっけ?」
28石田「うん。いっとき埼玉に行ってたんだけど、仙台の親戚のつてでね。そのままそこで働いてる」
28なつき「仙台かー。どう?いいところ?物価高い?」
28石田「いや、正直来たばっかりだからまだ…(28あやに気づく)あれ?」

28あや、E(スペース)上手から現れる。中央あたりで立ち止まり、腕時計を見る。

28なつき「会長は、今福島市?」
28とうこ「うん」
28なつき「福島市ってさ…」
28石田「あれ、あや氏じゃない?」
28とうこ「え?」
28なつき「どこー?」
28石田「ほら、あそこ」
28とうこ「ああ。そうだ」

28あや、ちらっとみんなを見る。
28石田、テーブルの下にかくれる。

28石田「わ?!」
28なつき「なんで、かくれるのー」

28とうこ、28あやに手をふる。
28あや、気づいて、一度E(スペース)下手へはける。

28石田「(28とうこに)あや氏はどこに住んでたの?」
28とうこ「東京。高円寺ってとこ」
28石田「なんだ、会長と行き違いか」
28とうこ「あたしは高円寺じゃなかったけど」

28あや、AB下手から現れる。

28とうこ「…あやちゃん!」
28あや「やはり、みんなだったか」
28石田「(笑って)あや氏!」
28あや「石田、ふけたな」
28石田「余計なお世話だ」
28なつき「元気だったー?」
28あや「なつか、なんだそのおなかは」
28なつき「赤ちゃんだよー」
28とうこ「あやちゃん、来てくれてありがとう」
28あや「会長か」
28とうこ「元ね」
28あや「10年ぶり」
28とうこ「うん…」

28あや、バッグから手紙を取り出す。

28あや「(みんなに)みんなもか?」

28石田、28なつき、各々手紙をとりだす。

28あや「よく、今の住所がわかったな」
28とうこ「みんな、年賀状くれたりしてたから、そこからいろいろ調べて。でも、なんで知ってるんだろうって思うよね。感じ悪かったらごめんね」
28あや「待ち合わせ場所は、和食レストラン『まるまつ』」
28とうこ「本当はいつも行ってた『まるまつ』にしたかったんだけど」
28あや「そうもいかない。それはいい。時間は、今日の15時。みんなこうして集まった」
28なつき「ふみちゃんがまだだけどね」
28あや「ふみの流れる時間は、うちらと違うから」
28石田「ビリーピルグリムみたいだ。って違うか」
28あや「『スローターハウス5』だな」
28石田「さすが、あや氏!よく覚えてる」
28あや「『そういうものだ、プーティウィッ』ってやつな」
28石田「(嬉しい)そうそう!」

28とうこ、A1にずれる。

28とうこ「あやちゃん(A2をどうぞ)」

28あや、A2の席を見るが、通り過ぎてB7に座る。

28なつき「あやちゃん」
28あや「私はここがいい」

28とうこ、うつむく。
28石田、ためいき。

28あや「ちなみにあたしは、石田のステラーカイギュウも覚えてるぞ」
28石田「な!」
28なつき「あったねー、ステラーカイギュウ」
28あや「なんだっけ、作品のタイトル」
28とうこ「『私はステラーカイギュウ』」

みんな大笑い。
周囲から白い目を向けられたようで

28石田「あ、すみません」

それでも、みんなくすくす笑い。

28石田「あや氏」
28あや「なんだ」
28石田「言っとくけど、あや氏の卒業文集の作品だって、結構キテるやつだったからな」
28なつき「え、石田君覚えてるの」
28石田「プロット報告会で、あや氏の内容聞いて、本当にぶっとんだ」
28なつき「どんなんだったっけー」
28石田「確か、シベリアの永久凍土の中で氷漬けになっていた線虫が、何万年という時間を生きていて、その中で、月と語らう、そんな話だった。月が潮汐力の影響で地球から遠ざかっていく。少しづつお別れが進む月と氷漬けの線虫の交流…」
28なつき「よく覚えてるねー」
28とうこ「超越してる」
28石田「だよな。あや氏らしい」
28なつき「それって、刻々と別れが近づいていたあたし達のことだったのかも」
28石田「え…」
28あや「今、気づいたのか、石田」
28石田「そんな裏テーマあったのか」
28なつき「そうだよ、きっと。会長だって、お父さんの腎臓を移植された女の子が、体内でお父さんとつながりながらの、お父さんとの別れを描いてたし、あたしも、別れの連作詩集を書いたから、みんな、なんとなく別れがテーマになっていったんだよねー」
28あや「石田だけは違うがな」
28石田「いいだろ、別に」
28あや「なんたってステラーカイギュウだからな」
28とうこ「ちなみにふみかは、卒業式の一日を過ごす一人称の『わたし』の話だった。文藝堂のみんなも出てきて、限りなく現実に近い。でも、書いた時期はまだ卒業式のずっと前だから、あくまでも想像における主人公の『わたし』の卒業式の一日」
28なつき「そんなプロットだったっけー」
28石田「いいな。読みたいな。てか、書きたくなってくるな、久々」
28とうこ「最近は書いてないの?」
28石田「いやぁ、もうすっかり遠ざかってしまって」
28とうこ「もったいないね」
28なつき「会長は?書いてないの?」
28とうこ「うん…もうね。なっちゃんは?」
28なつき「あたしは、実は、たまにね。メモ程度でうかんだものを書いてるんだー」
28石田「おお!」
28なつき「でも全然、作品にしようなんて考えてないから」
28石田「あや氏は?」
28あや「あたしは。書いてるよ」
28とうこ「やっぱり!」
28なつき「すごーい!」

28あや、嬉しさを隠そうとするが隠し切れない。

28石田「よくやれるなあ!一体いつ書くんだよ!」
28あや「時間はつくるものだよ、石田」
28石田「だって、仕事しながらで、そんな時間ないだろ」
28あや「そこをつくるんだ」
28石田「あや氏、今、東京なんだって?仕事何してんの?」
28なつき「どんなの書いてるのー?」
28あや「今は言えない」
28石田「なんだよ」
28あや「ふみがまだ来てない。来てからまた同じ話を繰り返したくない」
28なつき「あやちゃんらしい」
28石田「どうせ遅れるぞ、ふみのことだから」
28あや「だろうな」
28なつき「でも、あとふみちゃんだけかー。そういえば清水先生は来ないの?」
28とうこ「うん。手紙出してない」
28なつき「あら、意外ー」
28とうこ「どうして?」
28なつき「だって…ねえ…」
28とうこ「えー、何?」
28なつき「だって…会長、清水先生のこと好きだったでしょう」

一瞬の沈黙

28なつき「あれ?」
28あや「そうだったのか」
28とうこ「どうだったかね」
28あや「まことか?」
28とうこ「えー?」
28なつき「これって言っちゃいけないことだったけ…」

みんなの話が続く。


7 2002年3月
みんなの分のお茶とコロッケパンを18なつきと18とうこがE(スペース)上手から持ってくる。
18なつきがお茶を配る。
18とうこがコロッケパンを配る。清水の分だけ、半分になっていて、その残り半分は18とうこの分となっている。

清水「(配るのを見ながら)これな、かみさんの実家に行った時に」

18とうこ、清水にコロッケパンを渡す。

18とうこ「はい」
清水「お、サンキュ。で、かみさんのところに行った時にいただいたんだ」

清水、お茶を飲みうなずく。

清水「…みんな、悪いな。迷惑かけて。さて、どこから話したらいいのかな」

18のみんなはコロッケパンとお茶を食べながら

清水「まず、断っておきたいのは、自分の異動が、今回のタイムカプセルの件と関係するのかはっきりしない。だから、あまり邪推しないでくれよな。…うちのクラスが卒業記念にタイムカプセルを企画していたのは事実だ。な、とうこ、ふみか」

ふみかはうなづく。
18とうこ、目をそらす。

清水「みんなに『10年後のわたしへ』ってタイトルで手紙を書いてもらって、原稿も集まって、さぁこれからタイムカプセルを買って、卒業式を待って埋めよう、という段階でさ…俺、みんなが出してくれた原稿、なくしてさ…」

清水、お茶をのむ。
18石田、18なつき、ふみか、18あや、お茶を飲む。妙にタイミングが合い、みんな同時に飲む。

清水「…うん、俺、職員室でちゃんと管理していたつもりなんだ。家に持ち帰っていないし。でも、ある時、忽然と原稿はなくなった。クラスのみんなに2回目の原稿依頼をしたら保護者に知れることになって…ま、そりゃそうだわな、かなり問題となったわけだ…まだ、タイムカプセルを買ってなかったのが幸いだったな。予算を執行してなかったから、急きょの代替えを用意できた。」
ふみか「本当、急ごしらえだったね。でも、先生がひとりひとりにくれた手紙は悪くなかったよ」
清水「まあ、でも、一部の親御さんには、こっぴどくやられたね。管理不行き届きだ、個人情報が洩れたら責任どうとるんだ、とかね。もう、間に合わなかった。職員会議でもいろいろ言われたし。すまん、このへんは愚痴だな。ま、そんなわけだ。原稿はまだ、見つかっていない」

しばしの沈黙。
18とうこ、立ち上がる。

18とうこ「おかわり、入れてくるね」

18とうこ、おぼんを取って、みんなの茶碗を回収していく。

清水「みんな、ありがとうな。この文藝堂の顧問になれて、良かったと思っている。みんなの思いが作品に昇華されるのを見るのは、とても楽しかったよ。うん…」

清水、こみあげるものがあり、言葉が続かない。

18とうこ「あたし、印刷機、見てくる」

18とうこ、E(スペース)上手へ向かう。
清水、立ち上がりながら

清水「あ、俺も行くわ。他の部の奴らいたら、ひとこと言ってやらんと…」

清水、後を追う。
28とうこと清水、E(スペース)上手へ去る。


8 2012年3月

28あや「あ~、じゃ、やっぱり清水先生のこと」
28なつき「知らなかったの、あやちゃんだけかもー」
28とうこ「そう?」
28石田「うん、まあ…」
28なつき「それにね、もしかして石田君は会長のこと好きだったかもって、思ってたよー」
28石田「な…」
28なつき「会長気づいてた?」
28とうこ「気づいてたも何も…ねぇ石田君」
28石田「別に僕は…」
28なつき「違ったかなー」
28あや「乱れ飛んでいたな、文藝堂」
28なつき「じゃあさ、会長会長!今だからってことで教えて」
28とうこ「何?」
28なつき「清水先生には告白したのー?」
28とうこ「…覚えてないよ」
28なつき「ほら、みんな覚えてるかな。私たちの卒業文集の印刷で、会長が印刷機のところへ行った後、清水先生も後を追っていったことあったでしょ」
28とうこ「そうだっけ…」
28なつき「ふみちゃんがね、もしかしたら、いいもの見れるかもって、見に行こうって、わたしとふみちゃんで後をついていったの」

※この時、ふみかと18なつきがE(スペース)上手へ去る。

28なつき「あの時、私、2人にちょっと何かあったんじゃないかって思ってたんだー」
28とうこ「…どうして」
28なつき「その後の会長、少し様子がおかしかったから…」


9 2002年3月
AB上手から18とうこと清水がくる。

18とうこ「だから、化学部と園芸部がそんなことしてきた後、演劇部も割り込んできたらしくて」

ABのテーブルを過ぎたあたりで立ち止まる。
AB上手にふみかと18なつきが現れる、18とうこと清水の様子を袖に隠れてうかがう。

清水「なあ、とうこ」
18とうこ「はい?」

清水、周囲を確認する。
ふみかと18なつき、身をひそめる。
清水、18とうこに接近する。

18とうこ「お酒くさい」
清水「悪い…」
18とうこ「もう、何?」
清水「気を悪くしないで聞いてくれないか」

18とうこ、うなづき、清水を見つめる。

清水「タイムカプセルに入れるはずだった原稿のことなんだ。集めたクラスのみんなの原稿をとうこがまとめて、職員室に持ってきてくれたよな」
18とうこ「はい」
清水「俺の席でそれを受け取って、机の…こう…脇のほうに置いた。少しそこで話をして…で、俺が学年主任に呼ばれて」
18とうこ「そうだったっけ」
清水「うん、俺の結婚式の席次のことで呼ばれたんで、覚えてるんだ。で、俺が席を離れて、戻ってきてしばらくしてから、みんなの原稿がなくなっていたことに気づいた…」
18とうこ「はあ…」
清水「俺が戻ってきた時には、とうこもいなくて」
18とうこ「…?」
清水「あれ?ちがったっけ?」
18とうこ「正直、よく覚えてない」
清水「いや、とうこはやっぱり、もういなかったような…ちがったかな…まあ、とにかく、最後に原稿を見てるのは、俺ととうこだからさ。とうこ、何か知らないか」
18とうこ「…」
清水「あの日、お前が何かの原稿をカバンにしまいながら職員室から出てきたのを見ている奴がいてな」
18とうこ「え…」
清水「いや、俺が否定しておいたから気にすることはないんだが。そいつには他言無用にしといたから、そいつと俺しか知らないことだ。ただ、そんなこともあったから、ちょっとお前にきいてみたくてな」
18とうこ「文藝堂の原稿じゃないですか。先生に添削してもらってた」
清水「うーん…」
18とうこ「よく…覚えてないですけど」
清水「そうか…」
18とうこ「はい」

5秒間沈黙

清水「(うなづきながら)ま、へんなこときいて悪かったな」
18とうこ「別に」
清水「お母さん、元気か」
18とうこ「ええ」
清水「お前は東京行くもんな」
18とうこ「ええ」
清水「出発、明日か」
18とうこ「うん」
清水「お母さんには、お前しかいないからな。さみしいだろうな」
18とうこ「先生は?」
清水「うん?」
18とうこ「あたしいなくなってさみしい?」
清水「寂しいさ、そりゃ」
18とうこ「あたしの住所、教えるから、覚えてて。あたし独り暮らしだから」

18とうこ、清水の耳元でささやこうとする。
清水、18とうこを押しとどめる。

清水「ばか、俺はもう結婚してんだ」

清水、18とうこから少し離れて

清水「早くいこう。みんなの最後の文集、間に合わなくなる」

清水、AB下手へ去る。18とうこ、少ししてから追いかけ、AB下手へ去る。
ふみかと18なつき、AB上手から現れる。
ふみか、AB上手を見つめる。

18なつき「なんだろうねー、タイムカプセルの原稿のこと、きいてたみたいだけど…」
ふみか「行こ…」

ふみか、18なつき、AB上手へ去る。


10 2012年2月

28なつき「どう?あの時、先生と何もなかったの?」
28とうこ「覚えてないよ、本当に」
28なつき「そうなのー?」
28とうこ「うん」
28なつき「ふーん」

28石田、時計を見て

28石田「それで…いつまでふみかを待つ?」

みんな、各々時間を見る。

28石田「あいつ、もうさすがに来ないよ」
28なつき「えー(残念)」
28あや「ふみから連絡は?」

28とうこ、首を横にふる。

28石田「ふみは連絡よこさんだろう」
28あや「それもそうか」
28なつき「ふみちゃん、どこに住んでるの?」
28とうこ「ずっと地元だったみたい。ただ…あのね…」

28とうこ、1度深呼吸して

28とうこ「ふみかね…連絡とれてないんだ」
28石田「ああ…ふみはつかまらなかったか」
28とうこ「違うの。って言うかね。行方不明なのよ。あれ以来…あの地震以来…」
28石田「え…」

一同、息をのむ。

28なつき「本当なの?」
28とうこ「うん」
28石田「マジか」
28とうこ「もともとはね、ふみかのお母さんからあたしのケータイに連絡がきたんだ。ふみかね、仕事先で被災して…行方がわからなくなってるんだって、そう言ってた。ふみかのお母さん、あたしに聞くの。ふみかから連絡きてないかって。…あたしにあるわけないのにね。お母さんに連絡しなくて、なんであたしに連絡すんの?ずっと会ってないあたしにさ…でも、それでもって細い糸をたどったんだと思う。ふみかのお母さんからの連絡があって…あたし、ふみかのタイムカプセルを確かめたくなった。」

一同、言葉が出ない。

28とうこ「ふみかのお母さんにね、今日のこと手紙で送ったんだ。あたしもね、なんか信じられなくて…だから、今日も、できるだけふみかを待ってあげたくてさ…」
28あや「連絡あったのか。ふみのお母さんから」
28とうこ「ううん(否定)」
28あや「じゃあ、来ないだろ。今度は」
28石田「あや氏、そういう言い方は…」
28あや「幻想をいだくのは勝手だが、一番つらいのはふみのご両親だ。お母さんにしてみたら愛娘のいない日常が続いてるんだ」
28とうこ「そうなんだよ、あやちゃん」

28とうこ、一息ついて

28とうこ「…ふみかのお母さん、こんなこと言っててね。ふみかのことだから、なんでもなかったみたいに帰ってきそうな気がしてるって。だから…あの子の部屋、あの子のマグカップ、あの子の歯ブラシ、あの子のパジャマ、あの子の集めた本、そのままにして待っているって」


11 2002年3月
ふみか、18なつき、18あや、18石田がいる。ふみか、見てきたことをみんなに報告している。

ふみか「結構、盛り上がってて。こう、とうこがしみせんに顔近づけて」
18石田「おい」
ふみか「なに」
18石田「やめろよ。へんな誤解を与えるな」
ふみか「だって本当なんだもん。(18なつきに)ねえ」
18なつき「まあ、間違いではないんだけどー」

E(スペース)上手から18とうこと清水が来る。

清水「じゃ、俺きいてくるな」
18とうこ「はい」

清水、そのままE(スペース)下手へ去る。

ふみか「おかえり!」
18石田「印刷機どうだった?」
18とうこ「それが、印刷機、故障したみたいで、なんか印刷機がこう…開いてて、もう誰もいなくて、清水先生(印刷機を)みたんだけど、やっぱダメで、ローラー取り替えてみるって職員室戻ってった」
18石田「そっか…ねえ、会長」
18とうこ「何?」

18石田、18とうこを連れて、みんなと少し離れて隅の方へいく。

18とうこ「え?え?ちょっと…」

ふみか、そんな18石田と18とうこを見つめる。

18とうこ「どうしたの?」
18石田「会長、清水先生と何かあった?」
18とうこ「は?」
18石田「や、その…なんて言うか…先生にへんなことされなかった?」
18とうこ「えー?されないよ。されるわけないでしょ」
18石田「そっか。なら、いいんだけど」
18とうこ「へんなの。何で?」
18石田「や、ほら…清水先生、手が早いとこあるし…会長に顔近づけてたって」

18とうこ、思わず声が大きくなる。

18とうこ「はあ?!誰?!そんなこと言ったの?!」
18石田「別に、誰が言ったとか関係なくて」

18とうこ、ふみかや18なつき、18あやを見る。

18とうこ「…別に、なんでもないから」
18石田「なんでもないって何?何かされかけた?」
18とうこ「関係ないでしょ、石田くんには」

18石田、思わず声を荒げる。

18石田「関係なくないだろ!とうこのこと、心配してんだよ!」

ふみか、18なつき、18あやの3人、18石田と18とうこを見つめる。
18石田、急に冷静になっていく。

18石田「…でも、まあ、いいよ。会長に何もなければさ」
18あや「何かあったのか?」
18とうこ「ごめん、石田くん。(みんなに話すように)聞かれたの、タイムカプセルに入れる原稿のこと。心あたりがないかって」
18あや「なんで会長に訊いたの?」
18とうこ「…あたしと先生が職員室で話した時には、原稿があったんだけど…それが最後だったらしくて…」
18あや「最後に原稿を目撃しているのは清水先生と会長なわけね」
18とうこ「え…あたし、知らないよ」
18あや「聞いた時からひっかかっていたが、妙な話なんだよな。職員室にある原稿が、原稿だけがなくなるなんてな」
18石田「どういう意味だよ、あや氏。会長が取ったっていうのかよ」
18あや「事実と可能性の話をしているだけ。落ち着け、石田」
18石田「お、落ち、落ちついてるよ」
18なつき「会長、知らないって言っているんだからー」
18あや「じゃあ、やはり清水先生の失態による紛失か」
18石田「だから、それは…」
18あや「最後に原稿を見たのが、清水先生と会長。場所は職員室。会長は原稿を目撃後、退室。それ以降、原稿は見ていない。では、紛失の理由として可能性が高いのは何だ」
ふみか「あや氏、ホームズみたいだな!」
18あや「それを言うなら、コナンドイルって言ってほしい。想像力を働かせているのは作者だ。ホームズは密室殺人の謎は解けても、アマゾン奥地の恐竜は思いつかない」
18石田「あや氏はわかるのか。原稿がどこにあるか」
18あや「…まず、考えられるのは、清水先生に恨みを持つ、同僚の先生の犯行。または、このタイムカプセルの実行を阻止したい、何者か」
18石田「それは、誰?」
18あや「わからん!…まだな」
18なつき「でも、さっき清水先生言ってたよね。会長が原稿の束をもって職員室から出てきたところを見た人がいるって」

18とうこ、18なつきを見つめる。

18とうこ「見てたの?」
18なつき「え、いや、あの、ねえ、ふみちゃん」

18とうこ、ふみかを見つめる。

ふみか「まあ、ちょっと心配してさ」
18とうこ「なんの心配よ」
ふみか「ってゆうか、あれだろ。あの時持ってたのは、文藝堂の原稿だったんだろ」
18なつき「あ、そっか」
18あや「いつ頃の話?」
18とうこ「えっと…」
18あや「清水先生に原稿の添削依頼したのって最近では。でもタイムカプセルの件って、もっと前のはずなのでは」
18とうこ「そうだっけ…」
18あや「会長?」
18とうこ「ち、ちがう…」
18石田「あや氏、会長疑ってんのかよ」
18あや「なんか気になるんだよね、霞の向こうに隠れる真実、藪の中」
18石田「いい加減にしろ」
18なつき「もう、あやちゃん」
18あや「じゃあ、なんだったの。会長が持ってた原稿の束って」
18とうこ「や…え…」
18あや「持ってたんでしょ」
18石田「お前、会長を犯人にしたいのか」
18あや「そうは言ってない。でも、3年1組のタイムカプセルの原稿の紛失に合わせて、会長は何かの原稿の束を持っていた。じゃあ、それは何」
18とうこ「それは…」
ふみか「わかった、あたしから言おう」

18とうこ、ふみかを見つめる。

ふみか「あれ、実は、清水先生に読んでもらっていた、とうこの初めての長編小説なんだよね」
18あや「は?」
ふみか「だから、とうこが初めて書いた処女長編。まあ、とうこはもう処女じゃないけど」
18とうこ「ばか!関係ないでしょ!そんなこと!」

ふみか、独特な構えのポーズをとりながら

ふみか「でね、清水先生からこっぴどく酷評されて、しょげながら持ち帰ったのだ、と後日とうこから聞いた…気が(する)」
18あや「(18とうこに)そうなの?」

18とうこ、うなづくので精一杯。

ふみか「みんな、言っとくけど、清水先生には言うなよな!うちらにでさえ、隠してたことなんだぞ!これ以上、とうこを傷つけるなよ」
18なつき「ごめんね…会長」
18とうこ「いいって」
ふみか「とうこ、すまん、もう隠し切れなかった。だけど、これでいい!もう隠すことない!」


12 2012年3月

28とうこ「ふみか…」

28とうこ、立ち上がり、バッグを持ってB6の位置へ行く。座らず、そこでバッグから原稿の束を出し、テーブルに置く。
原稿の束は経年の劣化により、少し茶けている。

28石田「それは?」
28とうこ「原稿だよ。あたしのクラスの。タイムカプセルに入れるはずだったみんなの原稿」
28なつき「えー…」
28石田「なんで、会長が…持ってる…」
28あや「やっぱり、会長だったんだね」

28とうこ、うなづく。

28あや「そうか…うちらに会おうとしなかった理由も、わかった気がする」

28なつき、泣き出す。

28なつき「あーあ…そうだったんだー。ちがってほしかったー」
28とうこ「ごめんね…」

28とうこ、B6に座りこむ。

28石田「でも、どうして…」
28なつき「…いろいろあった清水先生がいきなり結婚するって知って…何かしたくなったんでしょ。会長は女の子だから。女の子だって女だから…」
28あや「どういう意味か、わかるか石田」
28石田「うーん…ただ、加藤鷹が同じようなこと言ってた気がする。女は女であるって」
28あや「深いな、鷹」
28なつき「(泣きながら)誰…?加藤鷹って」
28石田「え…特殊俳優?」


13 2002年3月
清水、E(スペース)下手から来る。

清水「みんな」

みんな、清水に注目する。

18あや「清水先生」
ふみか「あや氏!」

18 あや、ふみかを見る。
ふみか、18あやを見返す。

清水「どうした?」
18あや「別に…」
清水「印刷機な、製版のローラーが故障したみたいで、今日はもう無理だな」
18石田「えー」
清水「用務員さんに聞いてみたけど、業者が動けるにしても、来週になるそうだ。今日はもう、みんな帰れ」
18石田「え、でも先生、みんな揃うの今日だけなんですよ」
清水「うん、まあ、でもどうしようもないな」
18なつき「そんなぁ」
清水「とうこは明日、出発だから…石田」
18石田「はい」
清水「お前、副会長だろ。修理の目途がついたら連絡すっから、そん時また印刷の段取り、調整しよう、な」
18石田「はい…」
清水「じゃ、とうこ、早くみんな帰せよ」
18とうこ「はい」

清水、E(スペース)下手へ去ろうとする。ふと立ちどまり

清水「とうこ、元気でな。向こうでもがんばれよ」

清水、去る。
力が抜けるみんな。

18なつき「お茶でもいれようかね」

18なつき、お茶の準備に向かう。

18石田「会長」
18とうこ「ん?」
18石田「清水先生と一応、完成まではやるからさ、後で送るわ。せっかくの最後の作品集だから、中途半端に終わらせたくない」
18とうこ「うん…」
18石田「結構、手ごたえあったしさ」
18とうこ「あの、あたしやるから。まかせといて」
18石田「いいよ。忙しいでしょ。明日、出発なんだし」
18とうこ「まかせといてよ。あたし落ち着いたら、全員分コピーか何かして、完成させて、後で、みんなに送るからさ」

18なつき、お茶缶を開ける。
お茶缶を開ける音。ポン!

ふみか「ん?」

ふみか、18なつきの方をむく。

ふみか「なつ、今、なんて言った?」
18なつき「え?何も言ってないよー」
ふみか「今、何か、ポン!って」
18なつき「ああ、これー?」

18なつき、一度蓋を閉め、再度お茶缶を開けてみる。ポン!

ふみか「それだ!」
18石田「どれだ?」
ふみか「それだってば!」

ふみか、18なつきのところへ。
ふみか、18なつきの手からお茶缶を取り、蓋を閉め、缶を開ける。ポン!

ふみか「これでしょ!」

きょとんとするみんな。

18石田「どれだよ」
ふみか「タイムカプセルでしょ!タイムカプセル!みんなの原稿をこれに入れて埋める。10年後、みんなで堀りに行こう!」
18石田「ええ?」

みんな、視線でやりとりする。

ふみか「楽しみじゃん、みんなの高校最後の作品が、10年後にやっと読めるなんて!」
18石田「おいおい」
ふみか「ねえ!やろうよ!原稿どこ?原稿?!」

ふみか、原稿を探し見つける。
ふみか、お茶缶に原稿を入れる。

18あや「それだけじゃあ、密封されないから10年もたないぞ」
18石田「のるのか?あや氏?!」
18あや「お茶缶の中で原稿が朽ち果てるのが関の山さ」
18とうこ「本当にやるの?」
18あや「原稿自体を密封して、さらに缶も水気が入らないようにしないと」
18なつき「ジップロックあるよ」
ふみか「おお!」
18石田「でも、缶の密封はどうする?」
ふみか「…これしかない!」

ふみか、マスキングテープをもって来る。

ふみか「これでぐるぐる巻きだ!」
18なつき・18石田「おおー」
18あや「どこに埋める?」
ふみか「3年1組が埋める予定だったところ。あそこが空いてる」
18あや「大丈夫か?10年後、学校まだあるか?」
ふみか「そりゃ、あるでしょう!」
18とうこ「みんな本気?」
18石田「まあ、やるか。いい思い出になる」
18なつき「せっかく思い立ったのです。思い立ったら決心して、気が変わらないうちに、さっと実行にうつしましょう。ムーミン谷の11月でフィリフヨンカがいいこと言ってんだー」
ふみか「フィリ?誰?」
18なつき「フィリフヨンカ。ムーミンだよ」
ふみか「ああ、あれね(知らない)」
18石田「みんなの作品を読むのも10年後か」
18あや「みんな、恥ずかしすぎて…死ぬぞ!」
18石田「なんのおどしだ」
18なつき「せっかくだからさー、会長の小説も入れようよー」
18とうこ「え…」
ふみか「それは…」
18あや「いいんじゃないか。どうせ、恥かくんだから」
18石田「読みたいな!会長の処、処、」
18なつき「処女長編」
18あや「青いな、石田」
ふみか「まあ、すでに会長は処女じゃ」
18とうこ「いいから!」
ふみか「でもさ、ここにないんだよね」
18なつき「あ、そっかー」
18石田「そうだった」
ふみか「いいんじゃない、この卒業文集だけで」
18石田「残念だなあ」
18なつき「ねー」
18あや「会長、取ってきてよ」
18とうこ「え…」
18あや「うちら、待ってるからさ」

18とうこ、ふみかを見つめる。

18とうこ「えーと…ちょっとどこにしまったか覚えてなくて」
18石田「データはあるでしょ」
18とうこ「データ…?」
18石田「会長、書く時、いつもワードで打ってるでしょ」
18とうこ「そうなんだけど…」
ふみか「そういえば原稿って手書きだったよね」
18なつき「えー、じゃあ長編を手書きしたの?」
18とうこ「うん…」
18あや「やるな、会長!作家って本来そうあるべきだよ!」
18とうこ「…がんばってみた」
18あや「会長、持ってきなよ。待ってるからさ!」
18とうこ「えー…」
18あや「まさか、捨ててないよね」
18とうこ「まさか…」
18あや「最初の作品だもんね」
ふみか「そしたらさ、これからここも冷えてくるからさ、場所変えよう」
18石田「どこ」
ふみか「どこでもいいんだけどさ、あたしと会長で原稿取りに行って、合流するから」
18なつき「確かに冷えてきたねー」
18あや「でも、それ埋めにまた学校戻るんでしょ」
ふみか「ああ、そうか。そしたら近くでいいからさ」
18石田「じゃあ、いつものまるまつ?」
18なつき「きっと高校最後のまるまつだねー」

みんな、雑談をしながら荷物をまとめ、片付けを始める。
18石田、18なつき、18あや、E(スペース)下手へ去る。


14 2012年3月

28あや「(18のみんなが荷物をまとめ始めたら)でも、あの日、会長もふみかも来なかった」
28なつき「それから2人に会えなくて…2人とも成人式にも来なかったしさー」
28とうこ「ふみかも来なかったの?」
28なつき「そうだよー。寂しかったー」
28とうこ「そっか…」
28石田「で、結局、タイムカプセル埋めに行ったの?」
28とうこ「あの日は埋めに行ってない。だって、すぐにはあたしの長編は用意できないもの」
28石田「そうか…職員室から出てきた会長が持っていたのが、みんなの原稿なら、会長の処女長編は元々なかったわけか」

28あや、28なつき、28石田を見る。

28石田「…なんだよ」
28あや「石田、大人になった」
28石田「とにかく、埋めたかどうか、わかるのはふみだけってことか」
28とうこ「ふみかとはあれから連絡とってなくて。でも、10年たった」
28なつき「え…」
28石田「まさか」
28あや「行く気…?」

28とうこ、うなずく。

28石田「これから高校へ行くってこと?」
28とうこ「あたしの長編を用意しないと、10年後、タイムカプセルを掘り出した時、あたしの嘘がばれる。だから、きっと、ふみかは、あたしの長編を書き上げて、みんなの卒業文集と一緒にして…それから、みんなに内緒で、こっそり埋めに行ったはず」
28石田「まさか…第一、そんなのふみの筆跡ってすぐばれるじゃないか」
28とうこ「そうかもね」
28あや「そもそも、書くわけがない。こう言っちゃなんだけど、あのふみかだよ」
28とうこ「そうだよ」
28あや「会長、あんた見たの」
28とうこ「見たのって?」
28あや「ふみが埋めているところ」
28とうこ「見てないよ」
28あや「ふみから『埋めたよ』とかの連絡あった?」
28とうこ「ない」
28あや「でしょ。会長、埋めてないよ。タイムカプセル。ふみのお母さんが持ってんだよ」
28とうこ「聞いたけど、知らないって。そういうのは、見当たらないって。だからやっぱり、埋めてあるんだよ」
28あや「よしんば、本当にふみが埋めたとしても、それでも、学校には行けない」
28なつき「そうだよー」
28石田「あのあたり一帯、立ち入り禁止区域なのわかってるだろ。そこら中に検問所があって、警察がはってる。大体、行ってどうするんだよ!被ばくするんだぞ!」
28とうこ「わかってる」
28あや「これだけのリスク、あるかどうかもわからないタイムカプセルを見つけに行くために、負うほどのものでもないと思うのだけれど」
28とうこ「ふみかはね、1年の時からずっとあたしのそばにいてくれたんだ。入学してすぐの頃、あたし浮いててさ。うまくみんなになじめなくて教室でひとりで本を読んでいた。昼休みに、独りで本読んでたら、ふみかがふっとやってきて、空いていたあたしの前の席に座った。あたし、気づいてふみかの方をみたら、ふみか、いつものこう…」

28とうこ、ふみかの独特の構えのポーズをとる。

28とうこ「あたし、ほっといてまた本を読み始めた。ふみかも、あたしに話しかけるでもなく、本を読み始めた。2人で話をするでもなくただ本を読んでた。そんなことが何日か続いたんだけど、なぜかあたし、嬉しくて、そのうち、ぽつぽつとお互いの好きな本の話を始めて、いつの間にか…体育の移動の時とか、放課後とか、ふみかとはずっと一緒にいるようになった。文芸同好会を立ち上げようって言いだしたのもふみかだった。その文藝堂のタイムカプセルなんだよ。あたし確かめなくちゃ。ふみか、きっと待ってるはず。ふみかに会いたい。会いたいんだよ」
28あや「…しかし、解せないな。じゃあ、なぜ、会長とふみは会わなくなった?」
28とうこ「それは…」
28あや「なぜ、あの日、2人とも来なかったんだ…?」


15 2002年3月
みんなはすでにまるまつに出発している。
残るは、18とうことふみか。

ふみか「じゃあ、いい?打ち合わせどおり、タイムカプセルは埋めたことにして、話を合わせて。後であたしが埋めておくから」
18とうこ「ねえ、やめよう。こんなの無理」
ふみか「これしかないって!」
18とうこ「だってあたしの作品なんて無いんだよ」
ふみか「まかせて!あたし、書いておくから!」
18とうこ「え…?」
ふみか「あたし、書いといて、一緒に埋めとくから」
18とうこ「そんなの筆跡でばれるでしょ」
ふみか「とうこの(筆跡)に似せて書いておくから。見るのは10年後!ばれないばれない!」
18とうこ「そう…?」
ふみか「テーマは今決めた!とうこにとってのあたし。このテーマなら長編描ける!」
18とうこ「赤毛のアンのシリーズみたいな?」
ふみか「失われた時をなんちゃらみたいな」
18とうこ「チボー家の人々みたいな」
ふみか「大…大菩薩…なんちゃらみたいな」
18とうこ「もう!バカなんじゃないの!?」
ふみか「あたしが嘘じゃなくすから。まあ、安心してなって」
18とうこ「でも、嫌だな…みんなに嘘つきたくない」
ふみか「じゃ、とうこ書いてよ。あたしのこと。長編で」
18とうこ「ええ?」
ふみか「しばらく待ってるからさ!」
18とうこ「どれくらい?」
ふみか「半年?一年?」
18とうこ「うーん…」
ふみか「ま、いいや、連絡待ってる!出来たら、その時、また会おう!で、また一緒に歌おうね、花*花」
18とうこ「また?」
ふみか「いいじゃないの、思い出思い出!とうことは…会えなくなるからさ。大好きなんだよね。(前奏から歌いだす)タンタンタンタンタン、♪あ~よかったなあ~、あなたがいて~」
18とうこ「いつから知ってたの?」
ふみか「ん?」
18とうこ「いつから?あたしが盗んでいたこと」
ふみか「まあ、ずっとかな」
18とうこ「ずっと…って、いつ」
ふみか「ずっとはずっとだよ」
18とうこ「はじめから?」
ふみか「そんなことどうでもいいじゃない!さ、行こう」
18とうこ「はじめから知ってたの?」
ふみか「…しみせんだって知ってたでしょ。しみせん、教室を出るとうこを見た人がいるって、言ってなかった?」
18とうこ「…」
ふみか「さ、もういいじゃない、行こ行こ!」

ふみか、18とうこの両肩に手を載せて行こうする。
18とうこ、体をよけて、ふみかの手から逃れる。
18とうこ、ふみかを恐れるように見つめる。

ふみか「とうこ…」

18とうこ、E(スペース)下手から去る。
ふみか、しばし立ち尽くし、その後歌いだす。

ふみか「♪あなたーとはじめーて、出会った日からー、どれくらいの時がたったのだろうー(ずっと歌う)」


15 2012年3月

28とうこ「みんな、聞こえる?」
28石田「え…?」

ふみかの歌う『あ~よかった(花*花)』に耳を傾ける。

28とうこ「これ。この曲」
28なつき「店内の?」
28とうこ「そう」
28石田「単なる有線放送だろ」
28とうこ「これ、ふみかと最後に歌った歌なんだ」

みんな、聴き入る。
(ふみかはサビまで歌った後、しばし立ちつくし、E(スペース)下手へ走り去る)

28とうこ「ああ…あたし、行かなきゃ」

28とうこ、立ち上がる。

28石田「会長」
28とうこ「みんな、来てくれてありがとう。みんなに会えて本当に嬉しかった。タイムカプセルがあったか、どうか、みんなにまた手紙だすね」

28とうこ、下手へ歩きだす。

28石田「会長」

28とうこ、立ち止まる。

28石田「僕も行くよ」
28とうこ「だめだよ。婚約してるのに」
28石田「ひとりで行って何かあったとき、どうすんだ。街灯なんか点いてないし、家の灯かりもない。雑草がしげってるし、野生化したペットやイノシシがうろうろしている。人の暮らしのにおいはもうない。もう会長が覚えている景色なんかないんだ」
28あや「石田」
28石田「なに」
28あや「あんた、まだ、とうこのこと想ってんだね」
28石田「ばか。ともだちだからだろ」
28あや「じゃあ、あたしが行くってなったら、やっぱり一緒に行ってくれるのか?」
28石田「…」
28あや「なんでだまんのよ」
28石田「ちが、ちが、あや氏はそもそもいかなそうだなって思ったんだよ」
28とうこ「ありがとう。石田君。でも、いいんだよ、もう。石田くんは、結婚するんだし、危険なことをさせるわけにいかない」
28石田「あや氏、行ってやれよ」
28あや「あたしなら、どうなってもいいのか」

28とうこ、荷物をまとめる。

28とうこ「タイムカプセル探してくる。みんな、元気でね」
28あや「どうやって行く」
28とうこ「車で来てるから、どこか立ち入り禁止区域に入る前に停めて」
28石田「無茶だよ。何キロ歩くことになるんだか」
28あや「線量計、もっているのか」
28とうこ「一応」
28あや「防護服は」
28とうこ「あるよ」
28あや「懐中電灯は」
28とうこ「ある。ありがと、あやちゃん。心配してくれて」
28あや「いっとくけど、ふみがタイムカプセルを埋めてるなんて、信じてないから」
28とうこ「…わかった」
28なつき「とうこちゃん…やめなよ。お母さん、心配するよー」
28とうこ「うちは、そういうのないから」
28石田「会長…僕はね、今日、みんなに会えて嬉しかったって、会長言ってたけど、僕もすっげえ嬉しかったんだ。僕にとって、自分の好きなこと、自分の本当に好きなことを普通に仲間で話せたことって、この高校の文藝堂だけなんだ。放課後、みんなに僕の好きな本の話をするのが、みんなの好きな本の話を聞くのが、いつも楽しみだった。あの、放課後の図書室…」

18石田、E(スペース)下手から来て、D13に座る。

28あや「(18石田の登場を待たず)そういうことか」
28石田「何」
28あや「なんで、石田がいつも最初に来てたのかわかった」
28石田「え?」
28あや「さみしいやつ、石田…」
28石田「なんだよ、あや氏だって結構早かっただろ」

18あや、E(スペース)下手から来てD16に座る。

18石田「あや氏!あれ読んだ?」
18あや「あれってあれか。飯島愛の『プラトニックセックス』か?」
18石田「バ(カ)…僕はそんなの…」
18あや「実は結構いいかもしれないぞ、わからんが」
28あや「あたしは孤高なの。石田と違う」
28石田「おい!」
28なつき「でも、あたしが来る時って、大体あやちゃんと石田君で楽しそうに話してたよー」

18なつき、E(スペース)下手から来てD15に座る。

18石田「なつ!あれ、読んだ?」
18なつき「ハリーポッターでしょ。今、秘密の部屋の途中だよー」
18石田「いや、それじゃなくて…」

18石田、18あや、18なつき、語らう。

28なつき「それから会長が来て」

18とうこ、E(スペース)下手から来る。
18とうこは、Cのテーブル付近で立ち止まる。

18石田「会長、あれ読んだ?」
18とうこ「『模倣犯』でしょ。清水先生、推薦図書。長いからまだ途中」
18石田「いや、それじゃなくて」
18とうこ「あれ?ふみかは?」
18なつき「まだ来てないよー」
18とうこ「もう!編集会議するから遅れないでってさっき言ったのに!」
18石田「まあ」
18あや「ふみのことだから」
18とうこ「遅い!」
28とうこ「あたし、行くね」

28とうこ、荷物を持って出ていこうとる。

28石田「待った」

28石田、席を立ち、28とうこの手をつかむ。
28とうこ、28石田を見つめる。
18とうこがD14に座ろうとするタイミングで、ふみか、E(スぺース)下手から来る。

18とうこ「あ!」
ふみか「おう!」
18とうこ「もう!今日は卒業文集の編集会議だから遅れないでって言って…」
ふみか「(前のセリフにかぶせて)言ってたから、こうしてやって来た!」

ふみか、18とうこの前を通り過ぎ、Dのテーブルの脇に立つ。

18とうこ「えらそうに…」

18のみんな笑う。
ふみか、18とうこをD14に座らせ、自分はDのテーブルの傍らで立ち話する。
18のみんな、話が弾む。

28石田「近くまで行くよ、一緒に」
28とうこ「え…」
28石田「読みたいんだ。ふみのに限らず10年前のみんなの作品。みんなは?」
28なつき「あたしは…ごめん」

28なつき、おなかをさする。

28とうこ「もちろんだよ」
28石田「あや氏、どうする?」
28あや「…」

28あや、みんなを見つめることもせず、じっと前を見る。
28石田、自分を納得させるようにうなづき

28石田「会長、行こう」
28とうこ「だめだよ、石田くん」
28石田「でも」
28とうこ「石田くんは、ちゃんと奥さんのこと考えて」
28石田「じゃあ、どうするんだよ」
28とうこ「あたし、ひとりで行って、みんなに報告するから」
28あや「無かったらどうする」
28とうこ「…さみしいけどそのまま報(告)…」
28あや「あったらどうする」
28とうこ「あったら、みんなにコピーか何かで」

28あや、立ち上がり、みんなの方を向く。

28あや「あたしはね、あったとしても、無かったとしても、それで、あたし達は…文藝堂は終わると思う」
28とうこ「そんな…」
28あや「みんなには、もうそれぞれの生活がある。これで別れたら、また、バラバラになって、みんな人生に追われる。タイムカプセルの件は、また10年後くらいには、『ああ、そんなこともあったな、みんな元気かな』って…片隅においやられる」
28石田「あや氏」

28あや、みんなを見ながら

28あや「あたしは、ふみが会長の代わりに長編を書けたかどうかは問題じゃない、と思う。もっと大切なこと、それはあたし達が文藝堂でいることなんだと思う。文藝堂で居続けることなんだと思う。文藝堂のあたしたちが持っているもの、それは想像力でしょ」
28とうこ「あやちゃん」
28あや「タイムカプセル、掘りに行きたい。でも、それは待とう。いつか、無事に掘りに行ける日まで。いままでさんざん、ふみはあたし達を待たせたんだ、今度はふみに待ってもらおう。それに…ふみが帰ってくれば、内容聞けるし。それまで、あたし達ができること、何かあるんじゃないの、会長」
28とうこ「あたし達、何かできるかな」
28あや「想像しよう」
28なつき「会長」
28石田「会長」

ここで、18のみんなが大笑いして盛り上がっている。28のみんな、18のみんなの方を見る。

28なつき「高校生かな?」
28石田「多分ね」
28なつき「10年前の私たちみたい」
28あや「そう、あんな感じだったな」
28石田「あや氏が?」
28あや「…何?」

28石田と28なつき、こらえながら笑いあう。

28あや「何…」

28とうこ、ふみかの方を見つめる。
ふみか、28とうこの視線に気づく。
ふみか、会釈し、独特の構えのポーズをとる。
28とうこ、少し驚くが会釈を返し、ふみかと同じ独特の構えのポーズをとる。
ふみか、D14に、18とうこと無理やり一緒に座り、18のみんなとの会話に戻る。
28とうこ、しばらくふみかを見つめるが、やがて、28のみんなに向き直り、

28とうこ「…やっぱり、みんなに会えてよかった」

28のみんな、微笑みあう。

28とうこ「じゃあ、せっかくなんで卒業10周年記念号いきますか」
28石田「お!」
28なつき「会長ー」
28とうこ「あやちゃん、編集会議するから、こっち来て」

28あや、A1に来て座る。
28とうこA2に座る。

28とうこ「みんな原稿お願いね。ページ数は、どうしようか。みんなどれくらい書けるかな」
28あや「会長は長編描きな」
28とうこ「え…」
28あや「描けるはず。巻頭は会長の長編でいこうよ」

28石田、28なつき、うなづく。
28とうこ、うなずく。

28とうこ「わかった。石田君書ける?式前で忙しいんじゃない?」
28石田「書く時間なんてつくるものだ」
28あや「どこかで聞いたな」
28なつき「あたし、書きたい!お母さんになるってわかってから、なんかね、あふれ出すものがあるんだよね」
28あや「あたしは、はっきり言ってノーギャラじゃ、もう書けないよ」
28とうこ「そうしたら、コロッケパンでギャラ払うから」

28のみんな笑う。

28石田「テーマはどうする」
28とうこ「テーマはもちろん」

ふみかの笑い声が聞こえる。
18のみんな、28のみんなの打ち合わせが続く。
暗転。




 
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