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ランドサイド

作 別役慎司
 

■登場人物
<ランドサイド>
・イセビ……しっかりものの少年
・ロウヤ……好奇心旺盛な少年
・ハクセン……闘い好きの少年
・ニレ……男勝りな少女
・ホオヅキ……ちょっとぼけた婆や
・ヘナ……知性ある大人の女性
・トキワナ……落ち着きのない女性
・チヅル……イセビの母親
・リンドウ……おとなしい少女
・ヌバタマ……厳格な長老の側近の男性
・ルリ……イセビの婚約者
・オノエ……年老いた長老
・ワビスケ……教育係をする男性
・カエデ……博識な女性
・ヨツバ……ルリの親友
・タマノオ……長老に仕える女性
 

<シーサイド>
・エイリオ……シーサイドの少年
・ビルート……シーサイドの少年
・ジェイク……シーサイドの大人の男性












      男:9 女:10
 
 
舞台はT字型。舞台前面は張り出し舞台で、ここがメインのアクティングエリアとなる。舞台後ろはプロセニアムのステージ上。その奥にはホリゾントがある。
 
 
「ランドサイド」
牧歌的な陸地の集落。小さな国。山川草木の豊かな恵みを受けて、静かに暮らす民族。ランドサイドのものたちはクリーム色の衣服を着ている。
 
 
OPENING
 
    客電が落ち、スクリーンに、山や平原の平和的な自然の風景が現れる。
    音楽。照明がつく。
    役者たちが登場。(スクリーンは収納され、映像は消える)
    「地のダンス」

 
 
SCENE1
 
   イセビ、ロウヤ、ハクセン、ニレは前面のエリア、木の棒を持っている。後方に数名残り、その他の人物は退場する。カエデはメモを取りながら野草を眺めており、ワビスケは、遠巻きに少年たちを眺めている。ヘナとホオヅキは、干した山菜をザルに入れている。脇にはこれから干す山菜を載せたザルがある。ホオヅキはいつのまにか干した山菜をこれから干す山菜のザルに入れている。
 
ハクセン (ロウヤに)もういっちょ勝負だ!
ロウヤ よし、こい!
 
ハクセンとロウヤ、木の棒で闘い合う。
 
ニレ ちょっと、あたしにもやらせなよなー!
ハクセン 女は引っ込んでろ。
ニレ むかつく!
イセビ やめときなよ、ニレ。ケガするぞ。
ニレ こんなやつらに負けるか。
 
   ハクセンがロウヤを負かす。
 
ロウヤ いてて!
ハクセン どうだ!
ロウヤ ハクセン、お前はちょっとは手加減しろよ!
ハクセン 次。
ニレ よし、あたしだ!
ハクセン お前はダメだ。ワビスケさん、勝負しましょう。
ワビスケ (気持ち悪い笑い方をして)おれと勝負だって? わかってないんだなぁ? 大人と子供の違いというものを。おれとじゃ勝負にならないけど、まぁ、ちょっとくらいは違いを見せつけちゃってもいいかなぁ?
 
   ルリが通りかかる。
 
ワビスケ (自慢したそうに)うんん、じゃあ、貸してご覧、その棒を。このワビスケ様の棒さばきを見せてあげよう。(ハクセンたちに近づく)
ニレ お、ルリだ。
ルリ (手を振る)
イセビ (少し恥ずかしそうに手を振る)
ニレ おーおー、熱いねぇ。
ハクセン (ムッとして)イセビ、勝負だ!
イセビ なんでだよ?
ハクセン いいから!
 
   ハクセン、イセビに向かっていく。イセビ、ニレの木の棒を取って、闘う。
 
ワビスケ (二人の間に挟まれて)うぉっ! 待て! 危ない!(やっと逃げ出す)ロウヤ、そいつを貸せ!
ロウヤ (木の棒を投げる)
ワビスケ (その棒を受け取り、闘っている二人の棒を押さえつける)はいっ、そこまで!
ハクセン 邪魔しないでくださいよ! つまんないなぁ。
ルリ (イセビに)大丈夫?
イセビ うん。
ハクセン (またムッとする)
ワビスケ こんな棒で闘いの真似事しなくても、もっと面白い遊びがあるだろう?
ハクセン 木登りはもう飽きた。ランドサイドで一番高い木にも登れますよ。
ロウヤ もっとスリリングなことがしてみたいです。
ハクセン 冒険がしてみたい。
ロウヤ おれ、シーサイドに行ってみたいな。
ハクセン おー、おれも!
ワビスケ シーサイド~?
 
   ヘナもピタリと作業を止め、耳を傾ける。
 
ワビスケ ダメだ、ダメだ。いったいどこからそんな話を聞いたんだか。おれたちは平和なんだ。そんな冒険する必要ない。
ハクセン・ロウヤ (不満そうに)え~?
ハクセン お前もシーサイド行ってみたいだろ?
イセビ まぁ。
ルリ ダメよ。とても野蛮な人たちだっていうじゃない。
ワビスケ そうだそうだ。
ロウヤ ワビスケさん、行ったことないでしょ?
ワビスケ 行ってなくても知ってるんだ。
ハクセン なんだよ、それ。
ヘナ (少年たちの所へ)あんたたち、シーサイドに行きたいですって?
ワビスケ そうなんだよ。いってやってくれ、ヘナ。
ヘナ シーサイドは、わたしたちと全く違う国。河よりも大きな「海」とともに暮らす民族。
ロウヤ (わくわくして)海。
ヘナ 海は怪物のような自然。入るだけで山崩れのように襲ってくるの。
ハクセン (おののいて)うぇ~。
ホオヅキ 海は恐いよ。
ルリ ホオヅキおばあちゃん。
ホオヅキ そんな海と暮らす民族だ。危険な荒くれ者だらけだよ。
ヘナ そう! ランドサイドから絶対に出ちゃダメよ。シーサイドに見つかったら殺されちゃうんだから。
ホオヅキ そうだよ。(山菜を握って、見せて)シーサイドではこのような山菜は一切取れないという。海という怪物に食われて、シーサイドは砂の国になっておるのだ。(山菜をザルに入れる)
ロウヤ こえ~。
ヘナ (山菜を見て)おばあちゃん、それ、これから干すものよ。ザルに入れないで!
ホオヅキ おぉ、そうか?
ヘナ また仕分けしないと。もう~、ワビスケ!
ワビスケ なんでおれが怒られるの!?
ヘナ 手伝って! 


    ヘナ、元の場所に戻る。ワビスケもついていき、ザルの山菜の選別を手伝う。
 
ロウヤ シーサイドって、そんな恐いとこだったんだな? 
ニレ びびってんのかよ、ロウヤ?
ロウヤ なにいってんだよ、おれは……。
ニレ 行ってみてーなー、シーサイド! 海に食われてみてぇ。
ハクセン 馬鹿だろ、お前。
ニレ なんだと~?
ルリ あんたたちは危ないことしか興味ないの? こんな人たちとつるんでいたら乱暴な人になっちゃうよ。行こう、イセビ。(イセビの腕を引っ張る)
イセビ いや……あぁ……。
 
   ルリ、イセビを連れて退場。
   不機嫌なハクセン。
 
ニレ 諦めなよ。あの二人婚約してるんだから。
ハクセン (慌てて)なにいってんだよ! 全然関係ねーし! おれの方が強えーし!
ニレ 誰も強さで選んでないよ。
ハクセン くそー! よしっ、絶対にシーサイドに行ってやる。
ロウヤ おいおい、本気か?
ハクセン イセビも連れて行ってやる。それでおれが一番だってわからせてやる。
ロウヤ なんの争いだよ。
ニレ 賛成。
ロウヤ お前、ただ行きたいだけだろ? 無理だよ。行かせてくれないし。
ハクセン こっそり行こうぜ。
ロウヤ すぐにバレるよ。そんで、晩ごはん抜き一週間だ。
ニレ で、おやつ抜きも一週間だ。
ハクセン じゃあ、長老直々に、行ってくれって頼まれればいいんだろ?
ニレ どうやって?
ハクセン それをこれから考えようぜ。よっしゃ、秘密基地に集合だ!
 
   音楽。
   ハクセン、ロウヤ、ニレ、退場。
 
 
 
SCENE2
 
   長老の間。
   長老オノエを先頭に、ヌバタマ、ワビスケ、タマノオ、トキワナが登場。
   オノエが中央に座り、脇にヌバタマ、タマノオ、トキワナが座る。四人は後方エリア。
 
ワビスケ それでは、彼らを呼んで参ります。
 
   ワビスケ、退場。
 
ヌバタマ なんだというのだ、あの少年たちが一大事の連絡だとは?
タマノオ おかしなことを考えていなければよいのですけど。
トキワナ えぇ、あの子たちは、いつもなにかしでかしますから。
 
   ワビスケに連れられて、ロウヤ、ハクセン、ニレが現れる。オノエの前に跪く。少年たちは前方エリア。
 
ワビスケ さぁ、どうしたんだ? いってみろ。
ハクセン 長老。大変なことが発覚しました。
オノエ ほぉ。
ハクセン 先ほど、鍛錬のために林に入っておりましたら、怪しげな者どもを数名見ました。その怪しさたるや、とても怪しく……
ヌバタマ どう怪しいのだ?
ハクセン その……怪しい身なりに、怪しい会話をしており……
ヌバタマ 具体的にいえ。
ハクセン (助けを請うようにロウヤを見る)
ロウヤ え? あ……海、海です。
オノエ 海?
ロウヤ 見るもおぞましい海の絵が描かれた服を着ておりました。
ヌバタマ 見るもおぞましい海の絵とは、どういうものだ?
ロウヤ それは……(助けを請うようにニレを見る)
ニレ え? あ……背筋が凍り付くような、恐ろしい形相をした怪物でした。あれはもう海に違いありません。
 
   オノエ、ワビスケ、タマノオ、トキワナ、顔を見合わせる。
 
オノエ (咳払いをし)……それで?
ニレ どうやらランドサイドの偵察をしているようでした。シーサイドのものたちに違いありません。
ロウヤ ランドサイドに侵略してくるつもりです!
ワビスケ おい、お前たち、真面目にいってるのか?
ハクセン ホントです! おれら、ホントに見たんです! すげー、怪しかったです!
ヌバタマ ハクセン、言葉遣いに気をつけなさい。
ハクセン あっ(口を手で覆う)
ロウヤ もし、シーサイドが侵略してくるなら大変なことになります。どうかぼくたちにシーサイドへの偵察を許してください!
ヌバタマ なんだと? 正気でいっているのか?
ハクセン・ロウヤ はいっ!
ハクセン おれたちで、シーサイドの動きをつかんで参上つかまつります!
ニレ なにいってんだよ。
オノエ ふむ……。
 
   オノエ、ワビスケとヌバタマを手で招く。タマノオ、トキワナも近づく。
 
オノエ (小声で)どう思う?
ワビスケ (耳元で)先ほどシーサイドの話をしておりましたので、でっちあげでないかと……。
タマノオ (小声で)恐ろしい国だと理解していないのですね……。
ワビスケ (小声で)説明はしたのですが……。
ヌバタマ (耳元で)少年たちの話は信憑性に欠けますな。
オノエ (小声で)だが、本当にランドサイドでないものを見たというのなら放ってはおけん。
トキワナ (小声で)国は混乱します。
ハクセン (小声で)やべぇ、疑われてるぞ。
ロウヤ (小声で)お前の喋りが下手だからだぞ。
ハクセン (小声で)ふざけるな、お前がおかしなこというからだろ。
ロウヤ (小声で)嘘ついたなんてバレたら、一ヶ月おやつ抜きだぞ。
ニレ (小声で)静かに。
 
   そこに、イセビが現れる。
 
イセビ 失礼します。
ニレ イセビ。
イセビ (跪き)三人の話は本当です。私も人影を見ました。こちらに気づくと、急いで逃げていってしまい、はっきりとはわからなかったのですが。
ニレ (小声で)マジで?
ヌバタマ (耳元で)真面目なイセビがいうとなると信憑性がありますね。
ワビスケ (耳元で)いわされているだけかもしれませんが。
オノエ (小声で)よし。ではこうしよう。周辺の偵察はヌバタマ、お前がやれ。ワビスケ、お前は少年たちとともにシーサイドを目指せ。
トキワナ (小声で)本当ですか?
タマノオ 待ってください、長老。
オノエ (小声で)様子をうかがうだけだ。(ワビスケに)お前が監督していれば大丈夫だろう。だが、決して深入りはするな。おそらく冒険がしたくて嘘をついているのだろうが、たまには冒険も悪くない。ワシも若い頃には反対を押し切ってシーサイド まで冒険したことがある。
ワビスケ (ビックリして)そうなんですか?
オノエ 海を一目見て、腰を抜かして逃げ帰ったものだ。そのときの地図をお前に与えよう。
ワビスケ は。
オノエ (少年たちに)よし。お前たちの話を信用しよう。
ハクセン・ロウヤ・ニレ (喜んで)ありがとうございます!
オノエ ワビスケとともに、シーサイドの動向を調査してきてくれ。ただし、シーサイドのものとは一切接触するな。外から様子を見てくるだけだ。くれぐれも注意するようにな。危険だと感じればすぐに引き返すのだ。よいな?
ロウヤ はい!
ハクセン 約束します! 
イセビ あの、私も行ってよろしいでしょうか?
タマノオ あなたは結婚を控えているでしょう?
ハクセン 行きたがってるならいいんじゃないですか~?
タマノオ しかし……。
ハクセン 花婿修行ですよ。
タマノオ 花婿修行?
オノエ まぁ、よい。
イセビ ありがとうございます。
タマノオ ニレは残りなさい。
ニレ どうしてですか!
トキワナ あなたは女の子でしょ? 
ニレ そんなの差別です! あたしも行きたい!
トキワナ あなたには、もっと女の子らしいことをしてほしいわ。
ニレ 嫌だ、嫌だ! あたしも行く!
オノエ (ため息をつく)じゃあ、行きなさい。
ニレ やったー! ありがとうございます!
トキワナ 長老!
オノエ まぁ、よい。では、ワビスケの指示を受け、気をつけて行ってきなさい。
ハクセン わかりました!
ロウヤ さぁ、ワビスケさん!
ワビスケ ちょっと待て、急かすな!
 
   ハクセンたち、ワビスケを引っ張って退場。
 
トキワナ あぁ~、心配だわ。
ヌバタマ 本当によろしいのですか?
オノエ あの子たちは、ランドサイドの未来を創っていくもの。経験をさせるにはいい機会だ。
タマノオ ただ……イセビは控え目な子ですし、いじめられていると感じるときさえあります。
トキワナ それじゃあ、なお心配ではないですか。
オノエ 大丈夫。大人が問題あるとみなしている多くのことは、子供たちにとっては成長のためのハードルに過ぎない。あの子たちに乗り越えさせるのだ。自然に成長する ……それが自然とともに生きる我々の成長の仕方だ。
トキワナ ええ、そうですね。でも、もしシーサイドが攻めてくるということが本当であったら?
オノエ ふぁっ、はっ、はっ。
タマノオ 長老、笑い事では……。
オノエ ヌバタマ、一応念を入れて調べておいてくれ。
ヌバタマ はい。(トキワナに)大丈夫ですよ。ランドサイドは永遠に平和です。
 
   音楽。
   オノエ、ヌバタマ、タマノオ、トキワナ、退場。
 
 
 
SCENE3
 
   一面に広がる花畑。
   カエデとリンドウが歩いてくる。
 
リンドウ きれいな花……。
カエデ この太陽のように輝いた黄色い花はイモーテル。
リンドウ 摘んでいい?
カエデ どうぞ。イモーテルはキズ薬にも使えるし、感染症の治療にも使えるの。女性にとっては肌にもいいわ。
リンドウ (花を摘んで、香りをかぐ)いい香り……。
カエデ ハクセンやロウヤたちが、シーサイドに行くといっていたわ。無事に戻って来れればいいけれど……。念のために薬草は多めに作っておいた方がよさそうね。(花を摘む)それから、鎮痛効果のあるラベンダーも。リンドウ、次はラベンダー畑を見せてあげる。
リンドウ ラベンダー?
カエデ こっちよ。
 
   そこに、チヅルが現れる。誰かを探しているよう。
 
カエデ あら、チヅルさん。
チヅル あ、こんにちは。
カエデ どうかしましたか?
チヅル うちの子を見ませんでしたか?
カエデ イセビですか? いえ。
リンドウ 川沿いを歩いてた。
チヅル 本当? ありがとう。
カエデ 結婚式はいつになるの?
チヅル 親の心の準備は出来てるんだけど、当人はまだ決意が固まりきらないみたいで。
カエデ まだ若いものね。
チヅル しっかりしてほしいものだわ。
カエデ あの年代の中では一番しっかりしてるじゃないですか。
チヅル (軽く笑い)それでは、また。
カエデ はい。
 
   チヅル、去る。
 
カエデ じゃあ、行きましょう。
リンドウ うん。 
 
   カエデとリンドウ、去る。
 
 
 
SCENE4
 
   川辺。川のせせらぎ。
   イセビとルリが歩いてくる。
   少し遅れて、チヅルが現れる。イセビとルリを見つけて、物陰に隠れて様子をうかがう。
 
ルリ どうしたの? 黙ったまんまで。
イセビ ……。
ルリ 最近冷たい。マリッジブルーってやつ?(無理に笑う)
イセビ ……。
ルリ ちょっとー!
イセビ (振り返り、真剣な顔で)ルリ、好きだよ。
チヅル !
ルリ えぇー!(意表をつかれて、すっとんきょうな声を上げる)なになに、急に?
イセビ 結婚はしたい。けど、その前にやり残してることがたくさんある気がするんだ。
 
   間。
 
ルリ ……例えば?
イセビ 冒険。
ルリ 冒険?
イセビ おれ……いまいち自分にまだ自信がもてない。こんな自分でルリと結婚して、胸を張って守ってやれるはずがない。もっと、自信をつけたいし、勇気をつけたいんだ。父さんは、母さんを守ることが出来ずに死んじゃっただろ? おれは、もっと強くなりたい。
ルリ ……。
チヅル ……。
イセビ ハクセンたちとシーサイドの偵察に行くことになった。
チヅル !
ルリ シーサイド……? そんな危ないことすることないよ。
イセビ 長老の許可も下りてる。
 
   チヅル、思わず出て行こうとする。
 
ルリ 断りなよ。断っていいんだよ?
イセビ 違う。おれは行きたいんだ!
 
   チヅル、止まる。
 
ルリ ……。なんでこんな大事なときに?
イセビ 大事なときだからこそだよ。シーサイドに行って、自信と勇気をつけられたら、結婚式を挙げよう。
 
   間。
 
ルリ 今度は、ちゃんと約束できる?
イセビ ……うん。
 
   チヅル、また隠れる。
 
ルリ ……わかった。無事に帰ってきてよ。
イセビ うん。心配かけさせちゃうけど……。
ルリ 大丈夫。わたしも、甘えちゃうとこ多いから、これを機会にじっと我慢することも覚えるね。
イセビ ありがとう。
 
   二人、手をつないで去る。
   チヅル、物陰から出てくる。
 
チヅル ……はぅ!
 
   胸をときめかせて、去る。
   暗転。
 
 
 
SCENE5
 
   夜。山中。
   焚き火の音。
   ワビスケ、ハクセン、ロウヤ、ニレ、イセビが焚き火に当たっている(前方エリア)。皆、疲れた様子。彼らは軽装ではあるが、必要最低限の食料・水を持っている。
 
ロウヤ あ~~、足が痛い。
ハクセン 思った以上にきつかったな~。
ニレ (眠っている)
イセビ あとどのくらいなんですか?
ワビスケ (地図を見て)そうだな。朝出発すれば、昼頃には着くはずだ。
ロウヤ あと少しだ~。
ワビスケ うん。お前たちよく頑張ったぞ。今晩は交代で火の番をするからな。お前たちは先に寝てろ。
ハクセン はい~。
 
   少年たち、寝ようとする。
   数時間が経つ。
   イセビは立ち上がり、火の近くから離れ、星空を眺める。ルリのことや自分のことを思っている。イセビの動きに目が覚めたハクセンは、ロウヤを突っついて起こす。ワビスケは寝てしまっている。
 
ハクセン (ワビスケに気づいて)うおっ、寝てるよこの人。
ロウヤ 頼りねぇな~……。お、イセビは?
ハクセン (指さす)ルリのことでも考えてるんだろ。
ロウヤ ちっ、いいなあ。な、な、ボーイズトークしようぜ。
ハクセン なんだよボーイズトークって気持ち悪いな。どこの国の言葉だ? ……それよりさ。
ロウヤ ん?
ハクセン シーサイドに行くからには、海を見てみたいよなぁ。
ロウヤ でも、離れてうかがうだけだぞ。シーサイドとの接触は一切ダメなんだから。
ハクセン 見れそうにないなぁ、このままじゃ。というか、おれ的にはシーサイドの連中がどれくらいの強さなのか知りたいね。
ロウヤ 野蛮で危険な奴らだっていってたから、相当強いだろ。
ハクセン おれたちの方が強いって。
ロウヤ なんだよ、その自信。
ハクセン 闘ってみてーなぁ~。
ロウヤ おいおい、なに考えてんだよ?
ニレ (目を開けて)確かめてみたいな?
ロウヤ 聞いてたのかよ。ちょっと待てって。
ニレ 男なら挑むべしだ。
ロウヤ お前女だろ。
ハクセン どのみち、ちらっと見て帰るなんて気じゃなかったろ?
ニレ このチャンスを待っていた。
ロウヤ 嘘つけ。
ハクセン 決まりだ。
ロウヤ マジで?
 
   ハクセン、一度イセビの後ろ姿を確認し、ワビスケの手元にある地図を奪う。そして、焚き火の火をたいまつとしてロウヤ、ニレに持たせる。
 
ハクセン よし。行くぞ。
 
   イセビが気づく。
 
イセビ おい。
 
   ハクセンたち止まる。
 
イセビ もしかして……。
 
   ハクセンたち、ダッシュする。
 
イセビ ワビスケさん! ハクセンたちが! 早く!
 
   逃げるハクセンたちを見失ってはならないとイセビも追いかける。
   退場。
 
ワビスケ ……んあぁ?(起きるが寝ぼけている)ん? あれ? なに? え? いな い? 大変だー! ど、どうしたらいいんだ? 探すか、長老に報告にいくか?
 
   遠くからイセビの「待てー」という声が聞こえる。
 
ワビスケ あっちだ! 待て、お前らー!
 
   ワビスケも追いかける。
 
 
 
SCENE6
 
   イセビやハクセンたちがランドサイドを出て二日目。
   昼。鳥の鳴き声。
   ヘナとホオヅキが登場。ホオヅキはカゴをしょっている。
 
ヘナ もうよさそうね。今年はリンゴの木がたくさんの実をつけたわ。太陽のエネルギーをたっぷり含んで、おいしそう。おばあちゃん、わたしが実をもぐから、カゴに入れていってちょうだいね。
ホオヅキ わかったよ。
 
   ヘナがリンゴをもいで、ホオヅキに渡し、ホオヅキがカゴに入れる。しかし、ホオヅキはカゴに入れているつもりだが、全部外して、一つも入っていない。(リンゴについてはパントマイムでも構わない)   
   そこにルリとヨツバがやってくる。
 
ヨツバ 元気だしなよ。あんたが心配しててもしょうがないじゃない。帰りを信じて待っててあげないと。
ルリ うん、わかってる。自分でも言い聞かせてるんだけど。シーサイドって、とてつもなく危険なところっていうから……。
ヨツバ ランドサイドから外に出てはいけないのが昔からの言い伝えなのに、どうして長老はこんな指令を出したのかな?
ヘナ リンゴが全部外れてるじゃないの!
ホオヅキ そうかい? あらら。
ヘナ ちゃんと狙いを定めて投げ入れてちょうだいね。
ホオヅキ わかった、わかった。
ヨツバ ……やっぱり狙いがあるってことだよね?
ルリ イセビは、自分から行きたいっていってた。
ヨツバ 男ってわかんないね~。大事な婚約者を置いて。なに? シーサイドでもっといい女を探そうってわけ?
ルリ ヨツバ。
ヨツバ ごめんごめん。そんなわけないよね。
ルリ 自信と勇気を手に入れたいっていってた。
ヨツバ そっかぁ。たぶん、男としての超えなきゃいけない壁ってものがあるんだろうね~。
 
   そこにヌバタマが現れる。
 
ヘナ あら、調査のほうはいかが?
ヌバタマ 昨日、今日と見た限りでは、まったくそれらしき形跡はない。やはりあいつらのでまかせでしょうな。(ホオヅキに)おお、ホオヅキ婆さん、元気かい?
ホオヅキ これはこれはヌバタマ様。長老になられるのはいつかな?
ヌバタマ いやいや。長老もホオヅキ婆さんも長生きしてもらわなくては。また膝が痛くなったらいってください。
ホオヅキ いつもいつもありがとさん。
 
   ホオヅキ、深々と頭を下げる。
 
ヘナ リンゴが落ちる! ちゃんと背負ってちょうだい!
ホオヅキ おお、ごめんよ。
 
   ヘナとヌバタマ、リンゴを拾う。
 
ヨツバ やっぱり未来を背負っていく若者に期待を込めてってことかな?
ルリ 女って、損よね。わたしもニレみたいに一緒に行くっていったらよかったかな?
ホオヅキ リンゴを一ついかがですか?
ヌバタマ ありがとう。(リンゴをかじる)うん、うまい。
ルリ 海に食べられなければいいけれど……。
ヨツバ 様子を見てくるだけでしょ? 大丈夫だよ。
 
   遠くからワビスケの声がする。
 
ワビスケ おーい!
ルリ 帰ってきた?
 
   ワビスケ、傷ついたハクセンに肩を貸して、客席後方より登場。すぐ横には、ロウヤを支えているニレ。ハクセンとロウヤはケガをしている。イセビの姿はない。
 
ヌバタマ よく戻ってきた、お前たち。(駆け寄り、異変に気づく)どうしたんだ、その傷は? ハクセン、ロウヤ! なにがあった?
ルリ イセビは?
ヌバタマ そうだ、イセビはどこに?
ワビスケ 申し訳ございません。長老に連絡を。すぐに会議の招集をお願いいたします。
ルリ いや! イセビはどこにいるの! ねぇ、ワビスケさん!
ワビスケ すまない……。
ルリ いやー!
 
   音楽。
 
 
 
SCENE7
 
   長老の間。
   険しい表情で、オノエ、ヌバタマ、トキワナ、タマノオが座っている。(後方のエリア)
   長老の前には、ワビスケが跪き、ハクセン、ロウヤは、ヘナから治療を受けている。ルリが遠巻きに不安と恐怖を抑えながら見ている。その横にはヨツバがルリを支えるように立っている。   
   カエデがやってくる。
 
カエデ 新しい薬草を持って参りました。
 
   カエデも治療に当たる。
 
オノエ ……それでは、お前が見失った隙に、少年たちがシーサイドに行ってしまったのだな。すぐに追いつけなかったのか?
ワビスケ 地図を持って行かれてしまっていたので。申し訳ございません。
ハクセン (半泣きで)おれたちが悪いんです。
ワビスケ ようやくシーサイドにたどり着いたときには、このようにボロボロの姿をしており……とにかく逃げ帰ってくるのを優先しました。
ヌバタマ 一体何があったのだ?
ロウヤ 奴らにやられました! 噂通り野蛮で汚い連中です。長老、報復しましょう。 奴らをやっつけてください。
トキワナ はわわ、なんということを!
オノエ まぁ、落ち着け。
ニレ 黙っていても、向こうから攻めてきます!
ハクセン 早く戦争の準備を!
タマノオ 戦争!
ロウヤ お願いします!
オノエ ぬぅ……。
ヌバタマ それでイセビは?
ニレ あいつは捕虜にされました。
ヌバタマ 捕虜だと?
 
   ルリ、ショックにへたりこむ。
 
オノエ まさかこのような事態になるとは。
ワビスケ (土下座して)申し訳ございません。私の責任です。
ハクセン ワビスケさん、やり返しましょう。
ロウヤ みんなで闘えば負けません。
ワビスケ 戦争ということでしたら、このワビスケ、先陣に立って命果てるまで戦い抜きます。
ヘナ お待ちください! 戦争などもっての他です。まずは向こうの代表者と話合いをするべきです。
ロウヤ 言って聞く連中じゃないですよ! 隙を見せた途端にやられます。
トキワナ ランドサイドの歴史に戦争はありません。戦争とは無縁の平和な国、それがランドサイドでしょう?
オノエ 元々戦争の末に分かれたのが、シーサイドとランドサイドだ。何百年経っても、相容れぬか。
 
   ルリ、長老の前に出てきて跪く。
 
ルリ お願いします。イセビを助けてください! 必要とあればわたしも武器を持ちます。
ハクセン ルリ……。
ヌバタマ 少なくとも、イセビを取り戻さなくてはなりませんな。
オノエ うむ。
ヘナ 長老! 相手は人間です。話が出来る相手です。まずは使いの者を出して対話を。
トキワナ 戦争となったら、更なる被害が出ます。
ヨツバ じゃあ、イセビはどうするんですか?
ワビスケ 一刻を争います。
オノエ とにかくシーサイドに行かなくては、なにも解決しない。男どもは戦いの準備を。女どもは、薬草と非常食の準備を。
カエデ 薬草は私が指示いたします。
トキワナ 非常食は私が。
タマノオ 私は人々が過度の恐れを抱かないよう安心させに参ります。
 
   カエデ、トキワナ、タマノオ退場。
 
ヌバタマ よしっ、手分けして男手を集めよう。
ワビスケ はい。
オノエ 警護のものと、シーサイド派遣のものと分けるのだ。いつどこから侵攻してくるかわからん。国には女子供がいる。警護を手厚くし、派遣は精鋭を集めろ。
ヌバタマ・ワビスケ わかりました。
 
   オノエ、ワビスケ、ヌバタマ、相談しながら退場。
 
ハクセン おれたちも行くっす。
ヘナ あなたたちはまず手当をしなきゃ。
ヨツバ 無理しちゃダメよ。
ロウヤ いーや、目の前でぶっ倒さなきゃ気がすまねぇ。
ハクセン 今度こそ負けないぞ、ロウヤ!
ロウヤ おお!
 
ハクセン ルリ。待ってろよ。
ルリ ありがとう。
ハクセン おれの方が、断然かっこいいって所を見せてやるからな。
 
   ルリ、ハクセンを平手打ちする。
   ルリ、去る。
 
ハクセン おっ、お~~、いってー!
ロウヤ 今のはお前が悪い。
ニレ 最っ低。
 
   ロウヤ、ニレ、去る。
   チヅルが血相を変えて駆け込んでくる。
 
チヅル イセビが帰ってきてないというのは本当ですか?
ヘナ (顔を曇らせ)ええ。捕虜にされたと。
チヅル 捕虜?
ヘナ これから、男たちがシーサイドに向かいます。必ず、助け出しますので、気をしっかり持ってください。
チヅル こんなことなら、あのとき止めればよかった……!
 
   ヘナに慰められながら、チヅル退場。
   音楽。
 
 
  
SCENE8
 
   三日後。
   花畑。
   リンドウが花を摘みながら歩いてくる。
   疲れた顔でカエデが来る。カエデはカゴをしょっている。
 
カエデ あ~、腰が痛い。でも、頑張らなきゃ。
リンドウ お花がいっぱい消えちゃったね。
カエデ 一人分の薬を作るのに、(腕を広げて)こーんなにいっぱい必要になるの。でも、花や草は刈り取ってもすぐに育つから。一年後には、また元通りになってるわ。人間はそうもいかないのよね。
リンドウ 命は大事だね。
カエデ そう。
リンドウ いつ帰ってくるの?
カエデ もうそろそろ、帰ってきてもいい頃だけど……。
 
   木の棒を持ったルリがやってくる。後ろにはヨツバ。
 
ヨツバ やめなって、そんな危ないもの持って!
ルリ 止めないで。
カエデ どうしたの?
ヨツバ ルリが、自分も戦うっていって聞かないんですよ。
ルリ だって、もう三日も経つのに、まだ帰ってこないんだよ! わたし、もう我慢できない。わたしもシーサイドに行けばよかった!
カエデ ……なんでこんなことになったんだろう? チヅルさんも床に伏せっているというし……。
ヨツバ とにかく落ち着いて。
ルリ ヨツバにわたしの気持ちなんてわからないよ!
ヨツバ いっとくけど……わたしもつらいし、みんなもつらいんだよ。
ルリ わかってるよ。だけど、好きな人が無事帰ってくるかわからない気持ちなんて、あんたにわからないでしょ!
ヨツバ わかるよ……。
ルリ ……?
ヨツバ わたし、ハクセンのことが好きなんだもん。
ルリ そうなの? そんなの初耳だよ?
ヨツバ (恥ずかしそうに)まぁ、いいじゃない。
ルリ そっか……。ごめんね。わたしも、気持ちをわかってあげられなくて。
ヨツバ ううん……。
 
   間。
 
リンドウ 帰ってきた!
ルリ え?
リンドウ 違う、知らない人! 
 
   リンドウが指さすその先に、青色の衣服を着た男たちが客席後方より登場。
   エイリオ、ビルート、ジェイクの三人である。ジェイクは魚を入れるカゴを携えている。
 
カエデ 見たこともない青色の服! シーサイド?
ヨツバ そんな! シーサイドが攻めてきた?
カエデ (リンドウに)早く逃げなさい! そして男の人を呼んできて!
リンドウ (急いで逃げる)
ヨツバ 戦争に負けたの?
 
   ルリ、木の棒を振りかぶり、シーサイドのものたちに向かって駆けていく。
   そこに「待って!」という声。
   イセビが現れる。
  
ルリ イセビ!
 
   ルリ、イセビの方に走っていき、抱きつく。
 
イセビ ルリ!
 
   抱きしめ合う二人。顔を見合わせるシーサイドの三人。微笑む。
   イセビだけでなく、ハクセン、ロウヤ、ニレ、ヌバタマ、ワビスケも現れる。ワビスケは深いケガをしており、ヌバタマに支えられている。抱きしめ合う二人を見る。
 
ニレ (二人を見て)おいおい。
ハクセン (二人を見て)おいおい。
ロウヤ (二人を見て)おいおい。
 
   イセビとルリ、離れる。
 
ハクセン (ガックリして)命からがら帰ってきてこれかよ?
ヨツバ みんな無事だったんだね。(ハクセンに)あんただけは死ぬかと思ってた。
ハクセン うるせーよ。
カエデ よく見たら、傷だらけじゃない。
ヌバタマ うむ、特にワビスケが……。
カエデ 早く治療をしないと。
ワビスケ 大丈夫です。手当はしてもらったので。それより……
ヌバタマ シーサイドから使者が来ている。まずは長老にご説明を申し上げなければ。 話さなければいけないことがたくさんある。
 
   ヌバタマ、ワビスケとシーサイドの三人、見つめ合う。
   音楽。
 
 
 
SCENE9
 
   長老の間。
   舞台後方エリアにオノエ。横に、トキワナ、タマノオ、ヌバタマ。舞台前方エリアにはシーサイドのものたち。彼らと向かい合う形で、ワビスケ、イセビ、ハクセン、ロウヤ、ニレがいる。
 
オノエ ふむ。ケガ人を出しはしたが、よく皆無事に戻ってきてくれた。イセビも、こうしてランドサイドに戻ってこられて実に喜ばしいことだ。
イセビ ご心配をおかけしました。
オノエ さて、シーサイドにてどのようなことがあったのか、話を聞こう。
ハクセン そのことについては、おれたちから説明させてください。
 
   ハクセン、ロウヤ、ニレ、立ち上がり、長老と向かい合う形で一列に並ぶ。   
ハクセン あの……(突然土下座して)申し訳ございませんでした!
 
   慌てて、ロウヤとニレも土下座する。
 
ハクセン あの……おれたちが、ぼく……わたしたちが全部蒔いた種なんです! ご飯抜きでもなんでも罰を受けます!
シーサイドの連中 (軽く笑う) 
タマノオ ちゃんと説明しなさい。
ハクセン あの……
ロウヤ ぼくたち最初から嘘をついていたんです。
トキワナ 嘘?
ロウヤ はい。シーサイドが侵略してくるとか。
オノエ まぁ、それについては十中八九嘘だろうと思っていた。
ロウヤ え? あ、そうなんですか?
オノエ だが、お前たちがケガをして戻ってきたのは事実であるし、イセビが戻ってこなかったのも事実だろう? 
タマノオ なにがあったの?
ロウヤ 申し上げにくいんですが……
ニレ (立ち上がり)あたしが説明します。まず、ワビスケさんが寝ている隙に地図を拝借して、あたしたちはシーサイドに行きました。イセビは、何度か止めようとしたんですが、結局一緒に行くことに。そして、(エイリオ、ビルートの所に)向こうに 着いてすぐに、彼らと出会いました。エイリオとビルートです。
エイリオ・ビルート (立ち上がり、恥ずかしそうにお辞儀をして座る)
ニレ ですが、ちょっとした口論から、力比べをしようってことになって、1対1での決闘が始まったんです。イセビは勝ったんですけど、ハクセンとロウヤが負けて……。
ハクセン う~、穴があったら入りたい!
ニレ それで逃げ帰ってきて、報復を嘆願したんです。
オノエ なんと、それではあのケガは少年同士の喧嘩によるものか?
ロウヤ 悔しかったんです。
ワビスケ 悔しかったで済むか! おまえたちが後先考えずに口からでまかせをいうから、こんな大事に発展したんだろうが!
ハクセン・ロウヤ すみません。
タマノオ イセビは?
イセビ (立ち上がり)私は、エイリオに勝ったお陰で、シーサイドの人たちから認められ、しばらく滞在させてもらっていたんです。
ジェイク シーサイドは力あるものを認めます。
ビルート まぁ、エイリオが軟弱だったってのもあるんだけどな。
エイリオ う……。
ジェイク これ。慎みなさい。
ワビスケ てっきり捕虜にされてると信じ込んで、飛び込んでいってしまいました。
ヌバタマ それで戦争状態に。
イセビ 「イセビを返せ」という叫び声を聞いて驚きました。慌てて戦いを止め、ようやく誤解も解けましたが、双方に怪我人が。
オノエ なるほど、そういうことか。
ヌバタマ シーサイドから攻めてくるどころか、勝手に我々から攻めていってしまったのです。
オノエ ではこちらに全面的に責任がある。シーサイドの方々には申し訳ないことをした。
ジェイク いえ。力比べをけしかけたこちらにも責任があります。
ビルート すみません。
ジェイク 怪我といっても、ランドサイドの方より頂いた薬草で手当てして頂きました。実によく効く薬ですね。
オノエ それはよかった。
ジェイク 薬というものはシーサイドにはほとんどありませんから。そこでぶしつけで失礼ではありますが、一つお願いがありまして……エイリオ。
エイリオ はい。(立ち上がる)実は、ぼくの友達で、原因のわからない病に苦しんでいるものがいます。なにか、効きそうな薬があれば、分けて頂けないでしょうか?
オノエ もちろんだ。
エイリオ ありがとうございます!
タマノオ カエデという博識な女性がおります。彼女に任せればどんなケガも病もたちどころに治してしまいます。
ビルート すげ~。
ジェイク (たしなめるように)ビルート。いや、さすがはランドサイド。我が長老がおっしゃっていた通り、平和的で心の豊かな国です。これは、シーサイドで獲れる魚です。土産にと献上するよう持たされました。どうぞお納めください。(カゴを渡す)
オノエ これはありがたい。喜んで頂こう。お心遣いに感謝する。シーサイドの長老に是非感謝を伝えてほしい。(トキワナに渡す)
ジェイク 確かに。
トキワナ (カゴを覗いて)大きいっ。
タマノオ (カゴを覗いて、恐る恐る)あの……この魚はどこで獲れたものなのですか?
ジェイク
 もちろん海です。
トキワナ (恐怖に顔を引きつらせ)海!
ビルート (小声で)なんかすげぇ顔してるぞ?
トキワナ (ぶつぶつと)恐ろしや、恐ろしや。
 
   トキワナ、カゴを持って退場。
   オノエ、立ち上がり、シーサイドのものたちの近くへ。
 
オノエ ランドサイドとシーサイドは元は一つの民族。我々はあなたがたを歓迎する。今晩はゆっくりしていかれるとよい。
ハクセン 宴だ!
ワビスケ お前は、自分の立場をわかってるのか! お前たちは朝まで、今後一切ランドサイドを出ないという誓約書と反省文を書かせる!
ハクセン・ロウヤ・ニレ え~~!
ロウヤ せっかく仲良くなったのに!
ニレ また行きたい!
ワビスケ よくそんなことがいえたもんだな!
オノエ まぁよい、ワビスケ。我々も子供たちを縛りつけすぎていた。人は本来自由を愛するものだ。特に若いときは探求心が旺盛だ。出るなといえばいうほど出たくなるだろう。
ハクセン さっすが長老。
ワビスケ ハクセン。
オノエ 思うに、ランドサイドとシーサイドはお互いにないものを持っている。今後はお互いに手を取り合いながら、交流を深めていこうではないか。
ジェイク ありがとうございます。シーサイドも有益な交流を望んでおります。
ビルート (ハクセンたちの肩を叩き)よかったな。
ハクセン これで木登りの勝負もできる。
 
   微笑ましく少年たちを見る長老。
   イセビが長老の前に跪く。
 
イセビ 長老にご報告があります。
オノエ どうした?
イセビ ルリと結婚することを決めました。
オノエ おぅ、ようやく決めたか。
イセビ はい。シーサイドへの旅で、ようやく自分に自信を持つことができました。
オノエ 実にめでたいことだ。
ニレ・ロウヤ (ハクセンの背中を叩いて励ます)
ハクセン (ため息をつき)こうやって、おれたちは大人になってくんだな。
 
   笑うビルート、ロウヤ、ニレ。
 
 
 
SCENE10 
 
   祝いの音楽。
   夜。
   ランドサイドのものも、シーサイドのものも、皆集まって宴をしている。
   
   オノエ、ヌバタマ、ジェイクは酒を飲みながら話に盛り上がっている。
   トキワナ、タマノオは食事を運んだり、皆の世話をしている。
   カエデは、ワビスケの傷口に薬を塗っている。
   ホオヅキはリンドウに滑稽な踊りを教えており、ヘナがおかしそうに見ている。
   ハクセンとビルートが相撲を取っている。横ではロウヤ、ニレ、エイリオが応援している。
   (全てアドリブ)
 
   そこに、白い服を着たイセビとルリが並んで歩いてくる。イセビの頭には月桂樹が、ルリの頭には花冠が載っている。彼らとともに、ヨツバ、チヅルが泣きそうな顔で続いてくる。
   皆、気づいて、祝福の声を上げる。
   エイリオの所へ。
 
エイリオ (近づいて、イセビに握手を求め)おめでとう。
イセビ (握手しながら)ありがとう。ルリ、彼がそうだよ。
ルリ あなたがイセビの命の恩人なんですね。
エイリオ いや、そんな。
チヅル 息子がお世話になりました。
ルリ 夫がお世話になりました。
エイリオ いえいえ! ぼくこそ、彼のおかげで一回り成長することが出来ました。
 
   ニレらの所へ。
 
ニレ おめでとう!
ロウヤ しっかりやれよ!
ハクセン ……。
ビルート ハクセン、さてはお前、あの子のことが……
ハクセン うるせー! もっかい勝負だ!
ビルート よし、こいっ!
ヨツバ ハクセン、がんばれ!
ハクセン おおっ! おれはどんっどん強くなるぞー!
 
   ワビスケらの所へ。
 
ワビスケ おめでとう、イセビ、ルリ。
ルリ ありがとうございます。
イセビ ワビスケさんより先に結婚してごめんなさい。
ワビスケ うおっと!
カエデ 一本取られたわね?
ワビスケ 結婚したからには、おれみたいに無茶はするなよ。
イセビ わかってます。
 
   オノエらの所へ。
 
オノエ おめでとう。
イセビ・ルリ ありがとうございます。
オノエ さきほど話を聞いたが、海に入ったというのは本当かね?
イセビ はい。
オノエ (驚き)これはなんと勇敢な……。
ジェイク 海は確かに怪物のような存在ですが、同時に多くの恵みや強き力を与えてくれる女神のような存在でもあります。
ヌバタマ 確かに強くなったように見える。
トキワナ でも、なにかあったらなんでも相談するのよ?
イセビ はい。
タマノオ ルリのお父様はまだすねてるの?
ルリ ええ。母が慰めてます。
チヅル せっかくの晴れ姿なんだから見てあげないとね?
タマノオ イセビのお父様も天国でご覧になってることでしょう。
チヅル きっとそうです。喜んでるに違いありません。
ヌバタマ 実に立派に育ったもんだ。
オノエ イセビとルリの結婚、そしてランドサイドとシーサイドの交流を祝して、またランドサイドの永遠なる繁栄を願って、皆で歌おう。
 
   

「地の歌」

空を行く太陽の光
一面に降り注ぎ
この土地に恵みと愛を
私たちに希望を

茂る大樹 美しい川
恵みの雨に輝く緑
全てを包む ゆりかご
大地がもたらす息吹
大地に生きる命

   ランドサイドの皆、並んで歌う。


   幕。


 
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