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ダブルエッジ 〜志を護る刃〜
作 中藤和晃
 



CAST
吉田 稔 Minoru-Yoshida
常盤 司 Tukasa-Tokiwa(沖田総司)Souji-Okita
木戸 孝 Takasi-Kido(桂 小五郎)Kogoroh-Katura
第三十七代 鷹村守王 37th Suoh-Takamura 第四拾四代 鷹村守王 44th Suoh-Takamura
常盤 京 Kyou-Tokiwa(純彗)Jyunkei
常盤 勇 Yuh-Tokiwa(近藤 勇)Isami-konndoh
                   


暗闇の中、浮かび上がる人影

 「ボクの憧れている人は、この世にはもういません…。血風と志を抱き、時代を駆け抜けていった彼は、ボクに大切なこと残し、逝ってしまいました…。」

稔&京 「人は護るために生きる!」

 「彼の真意は、幼かったボクにはわかりませんでしたが、でも、きっとボクにも護るモノが出来たら解るんだと思います。そして、彼の大きな背中を目指し、生きていくことに決めたんです!」

沖田 「そんな、彼は私の宿敵でした…。京の治安を守るため、私と私の仲間は彼と幾度となく刃を交え、たくさんの仲間が死に、私は生き残りました…。そして、私は誠の旗と、志半ばに散った狼たちに誓いました…。最強の維新志士である彼を討つということを…。そして、その望むべき日がついにやってきたのです…。祇園囃子が聞こえるあの晩、彼は私の前から姿を消したのです!」

 「1864年6月5日 京都、三条小橋!」


【幕末】

暗闇の中集まる人影、おそろいの法被をまとっている。どうやら新撰組のようだ。



沖田
 「近藤先生! 次の池田屋で三件目です! はやくしないと京が火の海に!」

近藤 「わかっておる! しかし、今は一軒一軒シラミ潰しにさがしていくしかないのじゃ!」

沖田 「もしかしたら、土方さんの隊が遭遇したのでは?」

近藤 「それならば、それで伝令がくるはず! 今は自分が出来ることをやれ、沖田!」

沖田 「はい! 先生。」


どうやら池田屋に到着したようだ…


近藤
 「主人はおるか? 御用改めでござるぞ…。」


中から何も反応がない…。そして、近藤は戸を蹴破り踏み込む!


沖田
 「新撰組だ! 無礼いたせば容赦なく斬り捨てる!!」


その瞬間、刀を持った志士たちが現れ乱戦に!


近藤
 「行くぞ沖田!」

沖田 「はい、近藤先生!!」


沖田と近藤、奥に踏み込む!
吉田稔 桂小五郎 鷹村守王登場!



  「小五郎! 屋根伝いに対馬屋敷に行け! 新撰組はオレが引き受ける!」

小五郎 「稔、何を言うんだ! オレも一緒に戦う! 死ぬときは一緒だ!」

  「小五郎! 俺達の誓いを忘れるな! オレも必ず後で行く!仲間を護るために戦う俺と譲刃は「一騎当千」!!」

小五郎 「稔…。すまない! そして、約束しよう「志刃」を腰に四民平等な平和な時代を作ることを…。稔、新しい時代の夜明け…、一緒にみよう!」


桂小五郎退場
そして、稔と共に刀を構えようとする守王



守王
 「稔…。あなた一人では死なせません。あなたが死ぬときは私も死ぬときです。」

  「オレは死なないと言ってるだろう!守王、お前も行け! お前は小五郎を守り維新を達成するのだ!」

守王 「なぜです! 我が一族は自分で護るべき人を決めます! 小五郎様ではありません!」

  「守王、わかってくれ…。オレとお前が死ねば誰が小五郎を護るのだ?二人してこんな所で死ぬわけにはいかない…。」

守王 「やはり死ぬ気なんですね! 大丈夫です! 二人ならばこの危機を乗り越えられます!」

  「守王…。」

守王 「ならば、あなたが小五郎様を追ってください! この場は私が引き受けます!」

  「ならぬ…。オレはこの場で仲間を護らなければならない!」

守王 「なぜです!」

  「純彗から受け継いだ、この「譲刃」を振るう使命だからだ!」

守王 「…。」

  「それに、もう時間切れのようだ…。」

守王 「えっ?」


血塗られた法被を纏い、沖田総司登場!


守王
 「新撰組、一番隊組長 沖田総司…。」

沖田 「やはり、いましたね。これほど重大な計画。警護役としてあなったがいると思っていました…。今日こそ「誠の旗下に散った狼」たちの鎮魂のため、「長州派最強の盾」吉田稔! あなたを討つ!」

  「やっこさんはオレが目当てだ…。守王、小五郎をたのむぞ…。」

守王 「稔、死んではいけません…。時代はあなたのような人を必要としています。そして、私も…。」

  「時代に求められているのならば、必ず生き残る! だから、安心して待っていろ!」


守王、うなずき小五郎の後を追うように退場!


沖田
 「茶番はすみましたか?」

  「あぁ、待たせて悪かったな…。 それじゃぁ決めようじゃないか?時代に求められているのは、オレなのかお前なのか!?だが、覚悟しておけ…。譲刃を手にした俺は不敗なり!!」

沖田 「望むところです!」


しばらくの打ち合い、両者互角のようだ…。


  「さすがだな、新撰組一番隊組長の名は伊達じゃない…。」

沖田 「あなたこそ、今までウチの隊士が返り討ちにあったのがよくわかります。」

稔  「おぉ? 認めてくれるのか? オレのことを。」

沖田 「認めましょう! あなたは私があった中で最強の敵です! そして、必ず殺します!」

  「…そんなこと言っていると、折角の良い女なのにだいなしだぞ、総司。」

沖田 「おのれ、愚弄するのか!」


打ち合いの再開、一見沖田が攻めているように見えるが荒々しい太刀筋


  「守王もそうだが、最近の良い女は自分の意志で刀を振るう。オレとしては、赤子を育てる女子の手は、血で汚されるべきでは無いとおもうのだがな…。お前はどう思うよ! 総司!」

沖田 「オレは近藤先生や、土方先生、そして、新撰組のために女であることを捨てた!」

  「そう言ってる限り、お前は女だよ!」


稔の横なぎが沖田の胴を打つ! しかし、峰打ちのようだ。


沖田
 「うぅっ…。あなたの勝ちです…。時代は私よりもあなたを必要としているみたいですね…。」


譲刃を鞘に戻す


沖田
 「何故刀を戻す! 止めをさせ!」

  「オレの「譲刃」は女を斬るための刃ではない。志を護るための刃だ…。」

沖田 「そんな詭弁が通じると…(咳き込む)」

  「総司!? お前、肺を病んでいるのか!?」

沖田 「あなたには関係ない!」

  「熱もあるじゃないか! お前、そんな体で!」

沖田 「ふん、私はもう永くない…。しかし、生きている限りは誠の旗の下に刀を振るい続ける!(再び咳き込む)」

  「馬鹿野郎! そんな事を言うヤツがいるから俺たちは維新を行うのだ!」

沖田 「何?」

  「何かのために生きるんじゃない! 自分のために生きるんだ!封建的なモノには囚われず、自分の護りたいものを護るんだ!」

沖田 「私の護りたいもの…?」

  「そうだ! お前の護りたいものだ!家柄や出身ではない、自由な意思で護っていけるお前だけの宝だ!」

沖田 「私だけの宝…?」

  「病を治し、新しい時代に生きてくれ…。オレは新しい夜明けのため、近藤を討つ!」


血溜まりの中、立っている近藤勇


沖田
 「近藤先生!」


沖田、稔を後ろから刺す!


  「そ、総司…。」

沖田 「すみません、お心遣い感謝します。 ですが、やっぱり私は新撰組の沖田総司なんです。私の宝は、近藤先生であり、土方先生であり、やっぱり新撰組なんです。お詫びは地獄でします…。 その時は私を女としてみてください。」


沖田咳き込み倒れる


  「この大馬鹿野郎…。」


階段の上にたつ稔。そして全ては夜の闇の中に消え、
階段から大きいものが落ちる音が木霊する…。




【現代】

舞台上で腰掛ける少年。
赤色灯にヘルメット、プロテクター
何かの準備をしているようだ…



  「…よし。」


すると、司がいきなり駆け込んで一発殴る!


  「何が「よし」だ! 何が!?」

  「姉ちゃん、何するんだよ? 痛いじゃないか…。」

  「京、あんた、また「父さんの敵討ちだ!」とか言って夜回りする気なの?」

  「当たり前だ! 犯人がまだうろついてるのに、オレがのんびりしている訳にはかないだろ?」

  「それに何よ! この赤色灯は!? あなた、交通誘導でもする気?」

  「「ライトセイバー」と言えよ…。スターウォーズのジェダイの騎士だってこれで戦ったんだから!」


司、赤色灯を取り上げ頭にもう1発


  「痛ッ! 何すんだよ〜。」

  「もう〜、あなたのアホさ加減ときたら…、たまに、姉であることが恥ずかしくなるわ…。」

  「姉ちゃんは女だからわからないんだよ! 女は家を守っていれば良いんだ!犯人は必ずボクが警察に突き出す!」

  「そんな事言いながら逆に、「職務質問」」されたのは誰だっけ?お姉ちゃん、また警察に行くなんて嫌だからね…。」

  「あの時は、あの時だよ、今度はそんなへましないって…」

  「きょお〜、あんたはまだ子供なんだから勉強でもしていなさい。」

  「姉ちゃんは悔しくないのかよ! 父さんが「通り魔」にあって殺されたんだぞ!敵をとりたくないのかよ!」

  「はい、はい。 あんたなんか行っても返り討ちに合うのがオチなんだから、さっさとお風呂にでもはいて寝なさい…」

  「姉ちゃん! また、子供扱いして! オレは十分…」


司、京を奥の部屋に連れて行き、また戻ってくる。


  「私だって…敵、取りたいし、悔しいよ…。お父さん…。」


人が階段から落ちるようなもの凄い音


  「何?」


京、お風呂に入ろうとしていたのか上半身裸で駆け込んでくる!


  「姉ちゃん、何の音?」

  「解らない…、階段の方からしたみたいなんだけど?」

  「まさか…泥棒…?」

  「まさか…。もう、京ったら冗談言わないでよ…。」

  「そうだよね…?」

  「京? ちょっと見てきてくれる?」

  「嫌だよ、姉ちゃん、姉ちゃんが行ってよ」


二人笑う


  「うっ、うう」

二人 「…。」

  「やっぱり誰かいる!」

  「今の声、なんか苦しそう…。お父さんが帰ってきたのかな?」

  「お父さん…?」

  「やっぱり、成仏出来なくて、助けを求めているんだ!…父さん、必ず敵を取るから安心して!」

  「そんなぁ、人類が火星に行くような時代に、幽霊なんて非科学的な…。」

  「姉ちゃん…。火星にはまだ行ってない…。」

  「例えよ、例え! 京はすぐに上げ足をとるんだから…!」

  「うっ、うう」

  「でも、誰かいることは間違いないみたいだね…。」

  「京?」

  「何?」

  「本当にお父さんだと思う?」

  「どうだろう? でも、ウチには姉ちゃんとオレしかいないはずだし…。死んだお父さんが心配して見にきたのかも…。 天国から通り魔に襲われた怪我を押して…。」

  「お父さん! 今、助けてあげる!」


父親の話が出て、いてもたってもいられなくなった司
急いで音のなった方へ行く!



  「姉ちゃん、待って! まだ、お父さんの幽霊と決まったわけじゃ!むしろ、泥棒の可能性のほうが!!」


後を追う京、そして血まみれの稔を発見する二人


  「お父さんじゃない…?」

  「姉ちゃん、大丈夫?」

  「うん、でも、知らない人が倒れてる…。」

  「誰だ! 変な格好をして! 名を名乗れ!!」

  「うっ…」

  「無理よ…、だって、ひどい怪我だもん…。京! 奥の部屋へ連れてって!私、木戸先生に連絡するから…!」

  「えっ…? こんな、誰だか解らないヤツを助けるの…?」

  「こんな酷い怪我をしている人、ほっておけるわけないじゃない!」

  「解ったよ…。」


稔をベッドに寝かしつける京、そして、勤王刀「譲刃」に気づく。


  「日本刀。まさか、こいつが!! 父さんの敵!…あれ? 何だろう…。何か懐かしい感じがする…本物の刀なんてはじめて見るのに…。」


そして、光が京に集まっていく



【幕末】


  「純彗、こんな時間に呼び出してどうしたんだ? 子供は寝る時間だぞ。」

純彗 「また、ボクを子供扱いして…、せっかく良いモノをあげようと思っているのに、そういう事言ってるとあげないよ。」

  「すまん、すまん。お前は、平安時代から続く刀匠、彗派の当主だもんな。お前の打った刀はそんじょそこいらの刀とは質が違う!ちまたでも西日本随一との評判だ!」

純彗 「誰がそんなこと言っているんだ?」

  「長州派維新志士の間でも評判だぞ?」

純彗 「失敬な、ボクの打った刀は日本一だ!」

  「ふふっ、そうだな、お前の刀は日本一だ。」


二人笑う


  「ところで、何の用なんだ? 純彗?」

純彗 「君の勤王刀が出来たから、持ってきたんだ…。」

  「俺の勤王刀…? 俺には勤王刀なんて必要ない!」

純彗 「稔!」

  「たしかに、安政の大獄で松蔭先生が殺され、長州藩も小五郎を中心に倒幕派が主流となった。そして、晋作も奇兵隊を組織し、武力によって世を正そうとしている…。しかし、この国の未来を案じ続けた松蔭先生はそんなことを望んでいたとは思えないんだ!俺は、刀をうのではなく、説得と誠意をもって改革を行うつもりだ!」

純彗 「稔…、それがあまっちょろい「幻想」だということは君にもわかっているはずだぞ…。」

  「…。」

純彗 「このまま、小五郎や晋作が走り続ければどうなるかお前なら想像できるだろ?親友である二人を見殺しにするのか?あの二人だけじゃない! このまま戦いが始まれば、第2、第3の吉田松陰が生まれるんだぞ!悲劇をまた繰り返すのか!」

  「松蔭先生…。」

純彗 「…その時、君の人道守護流はどうする?」

  「わからない…。だが、我が剣の理は「人の道を持って全てを護る」こと…。出来ることなら、誰一人と血を流さず維新を達成したかったのだが…。あの悲劇は二度と繰り返してはいけない…。俺は、松蔭先生の…、いや、この国の未来を育む志を絶対に護る!」

純彗 「そして、ボクが打ったこの刀は「志」を護る刃。最強の勤王刀「譲刃」だ!」

  「勤王刀、ゆずりは…。」

純彗 「最強である「譲刃」は、志なきものには渡せぬ…。もし、譲刃が志なき者の手にわたったら、最凶の殺人剣に成り下がる。だが、君ならボクの理想を通りの使い方をしてくれると信じているよ…稔。」

  「純彗…。」

純彗 「ボクの刃を使って、「志を護る盾」として、維新を生き残ってくれ…。」

  「わかった! 俺は譲刃を振るい、俺たちの志を護ることを誓う!」

純彗 「ありがとう…。」


閃光の中、消えていく二人…



【現代】


  「何だったんだ…、今のは、俺はコイツに会ったことがあるのか?」


そして、救急箱を持って司登場。


  「京、様子はどう?」

  「あッ、姉ちゃん…」

  「木戸先生、すぐに来てくれるって。 それまでにちょっと看ておきましょ。」

  「姉ちゃんが治療するの!?」

  「何よ、文句あるの? これでも、名医と評判だったお父さんの娘なんだから大丈夫よ!あんたもよく治療してあげたでしょう?」

  「姉ちゃんの治療、無茶苦茶痛いんだよな…。」

  「何か言った?」

  「いいえ、何も。」

  「それに、木戸先生がくるまでの応急処置だから大丈夫よ。」

  「あのヤブ医者が来たって意味無いと思うけど…。」

  「京!」

  「だってそうだろう? あいつがヤブじゃなかったら父さんは助かったんだ!」

  「そんなこと言ってはいけません! 先生だって全力をつくしてくれたんだから…。」

  「ふんだ!」


京退場。チャイムがなって


  「あっ、はい。」

木戸 「すみません木戸ですけど、往診にきましたよ…。」

  「あっ、木戸先生! お待ちしておりました。」

木戸 「今日はどうしたんです? 京くんとまたケンカでもしたのですか?いつも言ってるじゃないですか、喧嘩で刃物を使っちゃダメだって…。もう、司ちゃんって可愛い顔してやることエゲツナイんだから…。この間だって…」

  「いえ、実は…。」

木戸 「いいえ、何も言わなくともわかっております!何処です? 血まみれで気を失ってる京くんは?」

  「いえ、違うんです!」

木戸 「それとも、もう手遅れなんですか?」

  「違うんです!」

木戸 「しょうがないなぁ〜、死亡届には事故死ということにしておきますから、安心してください!」

  「(ドスを聞かせて)違うと言っとるだろ! わりゃぁ!」

木戸 「…。」

  「あら、私ったら大きな声を出してはしたない…。」

木戸 「…あいかわらず、冗談が通じませんねぇ…。」

  「急患がいるのに冗談を言わないで下さい!!」

木戸 「じゃぁ、ケガをしたのは司さんですか?」

  「いえ!」

木戸 「それでは、どなたが?」

  「お侍さんです!」

木戸 「はい?」

  「ですから、お侍さんが怪我したんです!」

木戸 「はぁ…。」

  「もう、いいですから来てください…!」


稔の寝ている所に連れて行かれる


木戸
 「この方は?」

  「お侍さんです」

木戸 「いや…、そうじゃなくて…」

  「階段の下に倒れていたんです!」

木戸 「…。」


話しても通じなさそうなので治療に入る


木戸
 「階段から落ちた割には打撲傷が少ないな…。 それより背中からの刺し傷がひどい…。」

  「背中からの刺し傷…。 じゃぁ、父さんみたいに日本刀で!」


光につつまれ電話が鳴る…。


  「はい! 常盤ですけど…。」

木戸 「あっ、司ちゃん! 木戸ですけど。」

  「あら、木戸先生、ご無沙汰しております。 どうしたんです? そんなにあわてて…。」

木戸 「司ちゃん、落ち着いて聞いてくれよ、落ち着いて、落ち着いて…。」

  「木戸先生が落ち着いて下さい。 ほら、深呼吸してください。すって〜、はいて〜、すって〜、はいて〜、落ち着きましたか?」

木戸 「はぁ、はぁ…、ゆうさんが、ゆうさんが刺された!」

  「父さんが!」

木戸 「はやく! 京くんを連れて病院に!」

  「はい! あのぉ!!」

木戸 「何!?」

  「入院の用意とか保険証はいります?」

木戸 「そんなの後で良いから早く来て!」

  「はい!」


再び光に包まれ、そこは病室に…
司、京、木戸の三人がいる
木戸、シーツをかけベッドの頭元には線香がたっている…



木戸
 「ご臨終です…。」

  「父さん!」

木戸 「出血多量によるショック死です。」

  「どうして、どうして、こんな事になるんだよ!」

木戸 「すみません、私の力が及ばなかったばっかりに…。」

  「そうだよ! どうして、父さんを助けてくれなかったんだ!」

木戸 「…すみません。」

  「お前さえしっかりしていれば、お前さえ…。」

  「京! やめなさい、木戸先生だって全力を尽くしてくれたんだから!」

  「だって!」

木戸 「いえ、京くんの言う通りです。あれだけお世話になった勇さんを助けられないなんて、医者として私は…。」

  「そう自分を責めないで下さい。 悪いのは父さんを刺した通り魔です。木戸先生だって父さんと共に働いていた一流のお医者様なのですから…。」

木戸 「司ちゃん…。」

  「そうだよ! 犯人は! 犯人はどうなったんだよ!?」

木戸 「凶器となった日本刀を持ったまま未だ逃走中だそうです…。」


京、病室を飛び出そうとする


  「京! 何処に行くの!?」

  「決まっているだろ! 父さんの敵討ちだ!!」

  「犯人も解らないのに、どうするのよ!」

  「今時、日本刀を持ち歩いてる奴なんているかよ!」

  「だから、行っちゃだめよ!」

  「姉ちゃん!」

  「京はお姉ちゃんを一人にする気? 父さんが死んで、あんたも死んだらお姉ちゃん、ひとりぼっちだよ…。」

  「姉ちゃん…。」

  「警察の人たちだって一生懸命犯人を捜してくれてるんだから、ここは耐えて、ねぇ…。」

  「姉ちゃん…。」

  「木戸先生、すみません…。ちょっと、京とお父さんと三人にしてもらえませんか?」

木戸 「あっ、すみません、気が付きませんで…。何かあったらナースコールで呼んでください。すぐに来ますから…。」


木戸退場


  「お父さん…」


三度光の中に包まれていく。


  「木戸先生! 犯人はお父さんを刺した人と同じなの? ねぇ!?」

木戸 「傷口だけではわかりませんけど、かなり深い刺し傷です…。包丁やナイフでこんなに深い刺し傷が出来るかどうか…。」

  「じゃぁ、お父さんと同じように日本刀で…」

木戸 「おそらく…。」

  「この話、京には内緒にしてもらってて良いですか?あの子、聞いたらすぐに飛び出しちゃいます!」


玄関の扉が開き、勢いよく閉じる音!


  「あの馬鹿…、聞いてたわね! 木戸先生、すみません! 私、京を連れ戻してきます!」

木戸 「そうした方が良い! 彼の傷からみて犯人はそう遠くない…。」

  「はい、お侍さんをよろしくお願いします。」


司退場、一通りの治療を終えて…。


木戸
 「しかし、こんな見事な刀傷、ゆうさん以来だな…。それなのによく生きている…、並外れた生命力だ…。」


木戸、譲刃に気づく


木戸
 「彼も刀を持っているのか…、そりゃ、「お侍さん」だもんな。」


木戸、譲刃を抜いてみる…。


木戸
 「…この刀も凄まじい。 それも、恐ろしいほど人を斬った刀だ…。拭っても、拭いきれない人の脂…。それなのに、刃こぼれもせずに残っているなんて、一体どんな魔法を使ったんだ…。」


そして、あたりは光に包まれていく



【幕末】


小五郎
「稔! これがお前の勤王刀「譲刃」か? すさまじい名刀だな」

  「あぁ、純彗には良いように丸め込まれた気がするが、その刀でお前と維新を護ってやるよ!」

小五郎「失敬だな…、オレだって神道無念流を極めた男だぞ? そりゃぁ、お前には負けるが、例え京に行っても自分の身くらい守れるさ!」

  「お前の実力は、斎藤先生と同じくらい知っている。それに打ち合ったって、オレが10本中6〜7本取れたら良いほうだ。」

小五郎「おいおい、買いかぶりすぎだよ。」

  「しかしな、小五郎。 どうして純彗がオレじゃなくお前に「志刃」を渡したのか考えてみてくれ…。」

小五郎「それは、凶える正義の尖兵として、松蔭先生の敵を討つためだ!」

  「気持ちはわかる、しかしな小五郎、お前の手まで血で染める事はないんだぞ…。それに、お前の志は「敵討ち」なんてチッポケなものではないだろう…。」

小五郎「…。」

  「小五郎、お前の役割を考えろ、今のお前の立場は何だ?」

小五郎「長州派維新志士筆頭…。」

  「そうだ、お前は維新という祭りの神輿なんだぞ! その神輿が血で汚れていたら誰が担いでくれるんだ!?」

小五郎「…」

  「汚れ役は、オレや他の人斬りたちに任せろ…。お前は絶対に人殺しになんてなるんじゃないぞ…。」

小五郎「お前はそれで良いのか? あれほど、殺人剣を嫌っていたのに…。人殺しとして、時代に名を残すことになるんだぞ…。」

  「平和な時代が俺の業の上に成り立つのなら、喜んで礎となろう!」

小五郎「わかった…。剣客、桂小五郎は死んだ! 今日は俺の武士としての命日だ!」

  「ありがとう、小五郎…。」

小五郎「だが、これだけは約束してくれ…。」

  「何だ?」

小五郎「もし、誓いを破り「志刃」が血で汚れるようなことがあったら…。その時はお前の手で…。譲刃でオレを斬れ!」

  「小五郎!」

小五郎「稔…。それがお前の…。譲刃を持つ使命だ…。お前の手で「志刃」の志を護ってくれ…。」

  「わかった、それが志を実現するお前の望みならば…。」

小五郎「ありがとう…。稔…。」


そして、彼らは光に包まれていく…



【現代】


木戸
 「勤王刀「譲刃」…。この刀がそうだというのか…。まさか…。」


木戸、信じられない様子ながらも刃を抜き稔に刀を振り下ろそうとする…。
司、京を連れて帰ってくる。



  「もう、京! あんたって子は!?」

  「姉ちゃん離せ! 痛い! 耳がちぎれるよ!!」


木戸、刀を鞘に戻し笑顔に戻る。


  「すみません、お一人に任せてしまって…。お侍さんの容態はいかがですか?」

木戸 「えぇ、治療のほうはもう終わりましたよ。 しばらく安静にしていればじきに目を覚ますと思います。」

  「ありがとうございます。こんな事、木戸先生にしかお願いできなくて…。」

木戸 「良いんですよ。私も、ゆうさんにはお世話になりましたし、これくらいの事しかできませんから…。京くん、元気なのは分るけど、あんまりお姉ちゃんを困らせたらだめだよ。」

  「い〜だ!」

  「京!」


京退場


  「すみません、先生。京には後できつく言い聞かせておきますから…。」

木戸 「良いんです。別に気にしていませんから。ところで彼はどうします?何でしたらウチの病院に入院させましょうか?」

  「いえ、そんなこれ以上先生にご迷惑をおかけするわけにいきませんし、それに彼、「保険書」や「お金」持ってないようななんで、気が付くまではウチで面倒見ます。」

木戸 「いえ、素性もわからない人を置いておくのも危険ですし、あなたのお父さんの事もあります! 私の事なら気にしないで下さい。」

  「本当、木戸先生にはお世話になりっぱなしです! これ以上気を使わないで下さい。彼がいればきっと京も一人で出ていく事はなくなると思います。それに、ちょっと…。」

木戸 「そうですか…。わかりました、何かあったらすぐ電話してくださいね。」

  「ありがとうございます。」

木戸 「それでは、私は失礼します。」

  「先生、この件はくれぐれもご内密に…。」

木戸 「わかっています。それでは、お大事に…。」


木戸退場


  「父さん、犯人は必ず…」


司は、何かを決意し、稔の事を見つめている。
そして、舞台は闇に消えていく…。


【暗転】


暗闇の中、一人佇む稔



  「ここはどこだ…。 暗い…。オレはどこにいるんだ…。」


ちょっとした錯乱状態、だが、すぐに平静を取り戻す…。


  「そうか…、オレは池田屋で総司に刺され、階段からころげ落ちた…。ということはここはあの世か…。ふん、泰山府君へのお目通りの準備でもするかな…。」

純彗 「みのる!」

  「純彗か! あの世へのお迎えがお前とは泰山府君も人が悪い…。」

純彗 「何言ってるんだよ、稔はやり残した仕事があるのに、もう死ぬ気なの?」

  「純彗…。 維新は小五郎もいるし、アイツを護る盾には守王がいる…。小五郎最大の危機はオレが死ぬことによって回避できたんだ…。オレの武士道は死ぬことにみつけたり…。オレがいなくても維新は達成できるだろう…。」

純彗 「たしかに、維新は4年後には達成されるよ…。」

  「何?」

純彗 「それも、武力による維新達成ではなく、お前が理想としていたとおり十五代将軍慶喜にて天皇に大政が奉還された…。池田屋では、宮部さんを中心とした過激派は討たれたものの、小五郎を中心とした尊攘派が生き残った結果だな…。」

  「さすがあの世…、そんなことも解るのか。だったら、オレの役目は終わったはず、これで安心して泰山府君にお目通り出来る…」

純彗 「だが、小五郎とオレの志が血によって汚された…。」

  「志刃がどうかしたのか…?」

純彗 「「志刃」が狂える武器として使われている…。」

  「俺たちの「信念の象徴」が…。」

純彗 「稔、頼む…。志刃を…、小五郎の手から取り戻してくれ…。」

  「純彗、どういう事だ! 志刃は、まだ小五郎が持っているのか!? 純彗!」


純彗退場・再び閃光の中消えていく…



【現代】


  「純彗!」


司が入ってくる


  「あら、起きました? 駄目ですよ、ひどい怪我なんですからまだ寝ていないと…。」

  「総司!」


とっさに腰に手をやる稔。 しかし、「譲刃」は腰には無く少しはなれた所に…。


  「あっ、怖がらないで下さい。 犯人はいませんから…。」

  「総司、どういうつもりだ…。」


司の動きを警戒しながら、じわりじわりと「譲刃」に近づく。


  「どんなつもりもありませんよ、それに、私の名前は司です。「そうじ」という名前ではありません。」

  「つかさ…? 何を言ってるんだ、それに帯刀もせず、その傾いた服装はなんだ!」

  「この服、そんなに似合っていませんか? 結構気に入ってたのに…。それに、あなたの格好の方がよっぽど変ですよ!」


ついに「譲刃」に手が届き、居合の構えをとる、何かあれば一足飛びで斬りかかれるであろう…


  「そうそう、あなたの服、穴が空いていますからコレに着替えて下さい。父のモノなので、サイズが合うかどうか解りませんけど…。」

  「よるな!」

  「…。」

  「それ以上近づけば、斬る…。」


司、気にせず服を持っていく


  「近づくなと言っておるだろう!!」

  「…。」

  「本当に斬るぞ!!」

  「あなたには、そんな野蛮なことは出来ないと思います…」

  「…。」

  「あなたの目は、優しく清んでいます…。そして、何よりも強い…。そんな目をしたあなたが、むやみに人を傷つけるとは思えません…。」

  「…。」

  「それに、本当に斬る気があるんでしたら、私はとっくに斬られていますよ。」


稔、刀から手をはなす。


  「ここは何処だ…。」

  「私の家ですよ…。」

  「…どうして、俺はこんな所にいるのだ…。」

  「さぁ、それは私が聞きたいです。あなたは、ウチの階段の下で倒れていたんですよ?」

  「階段の下?」

  「えぇ、大きな音と共に血まみれのあなたが階段の下で倒れていたんです。覚えていないんですか?」

  「いや、俺は京の池田屋にいたはずなんだが…。そうだ、他の志士は! 小五郎はどうなった!!」

  「わかりません、私たちが見つけた時はあなた一人でした…。」

  「そうか…。」


京がいきよい良く駆け込んでくる


  「姉ちゃん!」

  「京?」

  「アイツは!」

  「目を覚ましたわよ。」

  「そんなの解てるよ…。」

  「純彗!」

  「じゅんけい? 何言ってるんだよ、ボクの名前は京だよ、きょう!」

  「…。」

  「本当です、この子はじゅんけいという名前ではありません。彼は、私の弟の京です…。」

  「総司の弟が純彗? ふざけるな!純彗、どういうことだ!」

  「だからボクは純彗ではないって!それよりお前はウチで何してたんだ!?」

  「そんな事どうでも良い! それよりココは何処なんだ!」

  「ボクの質問に答えろよ!」

  「…純彗、本当にオレがわからないのか?」

  「だからボクは純彗じゃないって!」

  「はいはい、そこまで〜!」

  「姉ちゃん!」

  「ここは自己紹介からはじめましょう☆」

  「自己紹介?」

  「はい、私の名前は常盤司。研修医をやっています。好きな言葉は健康第一! ほら、京も!」

  「…常盤京、10歳。小学生。」

  「では、お侍さんの番ですよ!」

  「…俺の名は吉田稔。 長州派維新志士だ。」

  「維新志士?」

  「うそをつくな! 明治維新なんて100年以上も前にあった出来事だぞ!そんな、歴史上の人物がここにいるわけがない!」

  「明治維新? 「維新」の事を明治維新と呼んでいるのか!?」

  「ちがうのか?」

  「いや、俺は維新を見届けたわけではない。池田屋で新撰組に急襲され、総司と斬りあい、階段から落ちた!そして、気が付いたらここにいた…。」

  「総司さんというと、私に似ている?」

  「そう、新撰組一番隊組長 沖田総司」

  「新撰組の沖田総司!?」

  「総司を知っているのか?」

  「いや、詳しくはしらないけど幕末を生きたヒーローの一人だよ」

  「ヒーロー?」

  「あぁ、英雄のことかな?」

  「新撰組が英雄なら、幕府側が勝利したのか!?」

  「うんう、勝ったのは官軍。維新志士の方だよ。」

  「ならば、何故新撰組が英雄となる?」

  「カッコよかったからかな?」

  「カッコよかった? それはどういう意味だ?」

  「う〜ん、「尊敬」できるっていう意味かな?己の義と信念の元に戦った狼たち。 不業の最後を遂げたけどとってもカッコ良かった人たちなんだろうね…。」

  「ホウガン贔屓という奴か…。 たしかに、敵であったとはいえ、信念が違うだけで、尊敬できる者たちでであったことにはちがいない。」

  「京?」

  「なぁに?」

  「あんた、見かけによらず賢いのね」

  「見かけによらずは余計だよ! それに、今、調度学校で習っているところなんだよ。」

  「それだったら教科書持ってきて、稔さんに見せてあげたら?」

  「…姉ちゃん、頭良い! すぐ、とってくるよ」


京、自分の部屋に教科書を取りに行く!


  「やっぱり、何処か抜けてるわね…。…どうかしたんですか?」

  「いえ…。」

  「信じられないんですね?」

  「何をです?」

  「ココがあなたのいた時代とは違うということです。」

  「…たしかに、そうかもしれません。あの地獄のような時代が終わり、真に平和な時代が訪れたなんて…。そして、もし、本当にそうだとしたら信じられないでしょうね…。」

  「何がです?」

  「私があなた方の言う「幕末」の時代から来たという話です。」

  「そんな事ありません! 何より本物の日本刀とその装いからして、現代の人とは思えませんし…それに…。」

  「そして…?」

  「あなたが、嘘をついているようには思えませんから…。」

  「私も、あなたが嘘をついているとは思えません…、ですが…!」


京が教科書を持って駆け込んでくる!


  「姉ちゃんあったよ!」

  「稔さん、どうぞ…。」


稔、教科書をパラパラとめくってみる…


  「稔さん、わかりますか?」

  「…わからん?」


そりゃぁ稔に、現代語で書かれてる教科書など読めるはずがない…
楽しそうな雰囲気の中暗転


稔、暗闇の中現れる…



  「オレは罪人(とがびと)である…。時代がどうであれ、志士を護る最強の盾として生きたオレの人生は、数多くの死体の上になりたっている…。この「譲刃」という名の刃も、どんなにキレイ事を言っても人殺しの道具…。オレが人斬りである事実は代わらない…。」


沖田総司登場


総司
 「私は罪人(とがびと)である…。京の治安と仲間を護るためとはいえ、数多くの人を刺してきたこの手は血によって汚れている…。誠の文字は免罪符ではない…。どんなにキレイ事を言っても私は人殺しだ…。


純彗登場


純彗
 「ボクは罪人(とがびと)である…。新しい時代の為とはいえ、我が身を削り、数多の刃を打ち続けたことは、人殺しに手を貸したこと…。そして、ボクの刃は数多くの命を吸った…。ボクは人殺しの道具を作った男なんだから…。」

3人 「私は罪人(とがびと)である…。私の罪は消す事は出来ない。そして、一生その傷を背負って生きるだろう…。だが、後悔をしない! 理想と信念と志を護った私の刃と共に新しい時代がやってきたのだから!」


小五郎登場、「志刃」を振り上げ皆の気持ちを受け止める…。
だが、突然、純彗と総司を斬り倒してしまう…。



  「小五郎!」


「次はお前の番だ!」というばかりに、剣を構え間合いをつめる
そして、斬りかかる!



  「やめろ〜!」


閃光の中、全てが消え、あたりは静寂に包まれる…
光が収まると、譲刃を抱え座りながら眠っている稔



  「夢か…。 今日はいろいろな事があったからな。それに、小五郎があんな事をするはずはない…。」


司登場


  「眠れませんか?」

  「総…。つかささんでしたっけ?」

  「そうですよ、そんなに「そうじ」さんって人に似ているんですか?」

  「えぇ、似ているもなにも、もう生き写しです…。」

  「新撰組の沖田さんでしたら、男の方なんですよね?」

  「いえ、貴方みたいにとても美しいオナゴです。 まるで狼のように気高いオナゴ…。」

  「それ、誉めているんですか?」

  「もちろん誉めてます。でも、気分を害されたのなら謝ります! すまん。」

  「いえ、気にしてないですよ。でも、あなたは本当に幕末の京都にいらっしゃったのですか?」

  「えぇ、信じてもらうのは難しいかもしれません…。それに、俺自身もまだ信じられないのですから…。」

  「信じられない?」

  「えぇ、江戸の幕府が倒れ、維新を達成してから100年以上も月日がたっているなんて…。」

  「…見に行ってみます?」

  「えっ?」

  「稔さんが望んだ未来がちゃんと出来てるかどうか見に行ってみます?私、明日休みなんで案内しますよ!」

  「良いんですか?」

  「えぇ! でも、そのかわりその格好は目立ちすぎるんでちゃんと着替えてくださいね。」

  「今の人は、みながこんな装いをしているのか?

  「みんながってわけではないんですけど、稔さんが今着ているような格好は特別な日にしか着ないんですよ。」

  「そうか…、郷にいれば剛に従え…。明日はこの装いを纏おう…。」

  「ありがとうございます。 私は何を着ていこうかな〜。」

  「司さん…。」

  「はい?」

  「どうしてこんなことになってしまったのでしょう?」

  「…きっと、時代が稔さんのことを必要としていたからだと思います…。」

  「…。」

  「稔さんが幕末にすべきお仕事は全て終わってしまったんで、新しいお仕事で現代に呼ばれたんですよ、きっと。」

  「新しい仕事か…。」

  「それでは、私は失礼します。何かありましたら遠慮なく言ってくださいね。」

  「かたじけない。」


司、稔から離れると京が登場


  「姉ちゃん…。」

  「京! まだ、起きてたの?」

  「あいつから何か聞き出せた?」

  「うぅん。 まだ…。」

  「そう…。ところで、姉ちゃんは信じているの?」

  「何が?」

  「あいつが、維新志士だっていうこと。」

  「う〜ん。どうかな?」

  「そうだよね、突拍子もない話だしすぐには信じれないよな…。」

  「でもね…。」

  「でも?」

  「稔さんが嘘をついてるようには思えないの…。」

  「姉ちゃん?」

  「自分のことを維新志士だ! って名乗って何の意味があるのかしら?」

  「確かに何の意味もないよな…。」

  「そうでしょ? でも、彼は自分が維新志士であることを言い続けている…。…っていうより、維新志士であることに誇りを持っている。」

  「維新志士って凄い人たちだよね…?」

  「えっ?」

  「だって、日本の為に新しい時代を作り上げた人たちだろ?彼らがいなければ、ひょっとしたら日本はアメリカの一部だったかもしれないもんね。」今の日本に、そんな熱い人っているかなぁ?」

  「そうねぇ、「クーデターを起こしてまで日本を変えよう!」なんて思っている人はいないでしょうね…。」

  「あいつ…、今の日本をみてどう思うんだろう…。」

  「京?」

  「今の日本って、本当に維新志士たちが望んだ社会なのかな?」

  「それは解らないわね…。でも、これだけは言えるわよ…。」

  「えっ?」

  「これからの日本を良くするも悪くするのも現代に生きる私たち次第だ!ってこと。私たちには維新志士のような刀は無いかもしれないけど、きっと、未来を切り開くための刃は心に眠っているわよ…。」

  「…姉ちゃん、よくわからない…。」

  「京はまだ小さいからね…。」

  「また、子供扱いして!」

  「ごめん、ごめん。 でも、そろそろ寝ないと明日起きれないわよ。学校があるんでしょ?」

  「わかったよ…。じゃぁ、お休み!」

  「おやすみ。」


京退場


  「私の心の刃はどんな未来を斬り開くんだろう?」


司退場、そして全ては闇に包まれる…
街の雑踏の中、稔と司が現れる…。



  「おぉ、凄い人だなぁ〜、今日は祭りか?」

  「いいえ、いつもこれ位人はいますよ。」

  「そうか! しかし、建物がデカイな! しかもこの建物や地面は石で出来ているのか?」

  「石? あぁ、コンクリートやアスファルトのことですか?」

  「これならば、大八車も苦労せず走れる…。農民や商人もさぞ喜んでいるだろう!」


そこに、車が走りすぎる…。


  「人や牛が引いてないのに、大八車が勝手に走っているぞ!!」

  「今のは自動車と言うんですよ。ガソリンで走っているんです。」

  「ガソリン?」

  「地下にある燃える液体のことです。 今ではこれがないと私たちとっても困るんです…。」

  「臭水のことか! 時代は変わったのだな…。」

  「稔さん、お腹すいたでしょう? 何か食べますか?」

  「おぉ、そうだな…、なにか旨い物はあるか?」

  「あそこにクレープ屋さんがありますから、クレープでも食べます?」

  「くれーぷとな? それは旨いのか?」

  「美味しいですよ! きっと、稔さんも気に入ると思います。」

  「そうか…、娘! くれーぷとやらを2つくれ」

クレープ屋(守王)
   「…いろいろとメニューがありますけどどれにします?」

  「一番のススメを貰おう!」

クレープ屋(守王)
   「ウチのクレープは全部オススメですよ!」

  「これは1本とられた…。」

  「稔さん、私はチョコバナナのクレープが食べたい。」

  「…? ならば、オレもそれにしよう。 娘、それを2つくれ!」

クレープ屋(守王)
   「ありがとうございます。ふたつで525円になります。」

  「…釣りはいらぬ。」


寛永通宝を渡され、固まるクレープ屋


クレープ屋(守王)

   「…。」

 「これでは足りぬのか?」

  「あぁ、私が払います。525円でしたよね?」

クレープ屋(守王)
   「ありがとうございます。」


クレープを渡す。
そして、二人は階段に腰をかける



  「司さん申し訳ない、もう寛永通宝は使えないのだな。」

  「あぁ、気にしないで下さい。クレープくらい安いものです。」

  「そう言ってくれると助かる。」

  「…どうですか、現代は?」

  「わかりません、俺がいた時代とはあまりにも違うがゆえ…。それに、おなじ日本とはとても思えません。」

  「そうですよね。」

  「ですが、これだけはわかりました…。」

  「何です?」

  「四民が平等で、平和な時代がやってきたということです。」

  「それはどうでしょう?」

  「司さん?」

  「たしかに、平和で幸せな時代だと思います。ですが、今の日本が理想の世界だとは私は思いません。」

  「そうだとしたら、俺は立ち上がらなければなりませんね…。志半ばで散っていった者たちのために、維新を再び行わねばなりません、この譲刃に誓って!」


稔、譲刃を掲げる!


  「稔さん! そんなモノどこに持ってたんですか?」

  「ずっと、腰にさしてましたが?」

  「今は、刀を差して歩いちゃダメなんですよ! すぐしまってください!」

  「そうなのか? これは失礼した。」

  「…稔さん、もう刀でどうこういう時代じゃないんですよ…。」

  「ならば、どうすれば良い?」

  「稔さん…。」

  「俺は、刀と思想しか知らぬ…。そんな時代遅れの人間はどうすれば良いのだ?」

  「それは、これからゆっくり見つけましょう! 私もお手伝いします。」

  「司さん…。かたじけない…。」

  「暗くなってきましたし、そろそろ帰りましょうか?」

  「そうですね、今日は有意義に過ごせました。それに、懐かしい気配にも会えましたし…。」


クレープ屋の方を見る


  「えっ…?」

  「いえ、何でもありません、帰りましょう。」

  「あっ、待ってください。」


稔、司退場。そして、あたりは夜の闇に包まれる。


  「おい、出て来い…。」


静かに時が流れる…


  「昼間からずっとつけて来ているだろ…くれーぷ屋…。」


しかし、返事はない。


  「見事な暗行だが、相手が悪かったな。覚えがある…。鷹村家の者だな?」


守王登場


守王
 「何者です? 何故我が一族の事を知っているのです?」

  「昔、知り合いがいてな…。 だが、その者の方がもっと上手く気配を消していた…。」

守王 「嘘をつかないで下さい! 私以上に暗行が出来るものなど、この世にいるはずがない!」

  「そうだな、奴はもう100年も前に死んだらしい…。」

守王 「…」


馬鹿にされたのかと思い、刀を抜く守王


  「まぁ、待て。ここで騒ぎを起こすのは、お前としても望むところではないだろう?表へでろ…。」

守王 「上等です…。」


その様子を遠くから見ている、二人が出て行くのを確認し電話をする木戸。
暗転・しばらくたって電話のベルが鳴る。



  「は〜い。」


辺りが明るくなり、そこは川原…。


  「昼間も見たが変わったな…。 ここが日本だということが今だ信じられぬ…。」

守王 「…。」

  「ここが、俺たちの望んだ新しい国…。」

守王 「あんまり良い国ではないがな…。だからこそ、私みたいな人間が必要となる…。」

  「どういうことだ?」

守王 「さぁな、私に勝つことが出来たら教えてあげますよ!」


守王、稔に斬りかかる! だが、刀も抜かず難なくかわす稔


守王
 「さすがですね…。」

  「本当に平和な時代が来たようだな…。鷹村家の者がこの程度の実力とは…。」

守王 「何を!?」

  「刀も抜かず、しかも、手負いの俺相手に一太刀も与えられないなんて、時代が平和だった証拠だ…。」

守王 「小手調べはこれまでです! 後悔したくなければ刀を抜きなさい!」


守王、稔を突き刺そうとするが、見事に交わされ柄を掴まれる。


  「俺がいた時代は常に全力だった…。 相手が実力を出す前に一撃で斬り倒す…。それが生き残るための唯一の論理…。不意打ちだろうと、多勢だろうと関係ない。お前を見ていると、俺たちが望んだ「新しい平和な時代」が来たんだと確信したよ。」

守王 「貴様のいた時代や場所など関係ない! 私は私の仕事をまっとうする!」


再び稔を突き放す守王。そして袈裟斬り! だが、やはり柄を掴まれる。


  「そういう一本気なところは鷹村家の人間らしいな…。今、お前が守護している人物は誰だ? 何故、俺を狙う!」

守王 「舐めるな! 44代目鷹村守王。何があってもクライアントのことを話しはしない!」

  「どうしてこう鷹村家の者は頑固なんだ?だが、この時代でオレの素性を知っている者など限られている…。依頼者は木戸とかいう医者だろう…。奴は何者なんだ?」

守王 「だから、しゃべらないと言っただろう!」


やけくそ気味で斬りかかる守王。しかし、余裕綽々で避ける稔。
刀では勝てないと観念したのか、拳銃を取り出す!



守王
 「勝負あったな…。」

  「短銃か…。 竜馬が使ってヤツだな。結果重視の鷹村家らしい考え方だ…。」

守王 「うるさい、孝様は生きたまま連れ帰れと言っていたが、もうやめだ…。 この場で死ね!」

  「木戸とはそんなに良い人物なのか?護ることを生業としていた鷹村家が暗殺を手がけるほど、素晴らしい人物なのか?」

守王 「…!?」

  「どうした?」

守王 「嘘を言うな! 鷹村家は代々暗殺を手がけた一族だ!」

  「嘘ではない、オレが知っている鷹村守王は自分の愛する者を護りきった…。だからこそ、俺たちが望んだ人民のための新時代が訪れたのだ!」

守王 「…!」

  「お前に「鷹村家は暗殺家業」と教えたのは木戸なんだな…?鷹村守王の名と理は一子相伝のはず…。先代はどうした?」

守王 「黙れと言ってるでしょう!」あなたが言っていることが正しいか、孝様が正しいか、この技によって見極めます!」


守王、刀を手にし、構えを取る


  「鷹村流刀剣術「四神」の構えか…。 ならば、俺も幕末の京を共に生き抜いたこの技にてお相手しよう…。」


稔、居合の構えをとる


守王
 「居合か…。 ならば、先手必勝!! チェ〜スト!!」


一瞬の閃光! 決着がついたようだ…。


  「紙一重だったな…。「四神」は朱雀・青龍・白虎・玄武の四種類の斬撃を繰り出せる、非常に先読みの難しい技。」

守王 「ならば、先の先をとっての居合ですか…。 私の完敗です。」

  「俺の譲刃から繰り出される「横一文字」は、動乱の時代を生き抜いた唯一無二の殺人剣。平和な時代には必要の無い剣だ…。」

守王 「しかも、鞘打ちとは…。 何故です…。」

  「君は、俺たちの作りあげた平和の時代の申し子だ…。そんな君を譲刃で斬るわけにはいかない…。」

守王 「心も体も完全に負けたと言うことか…。」

  「守王、教えてくれ! 木戸とは何者なのだ! 何故俺を狙う!」

守王 「四神のことまで知っているとなると、あなたの話は嘘ではないですね。先代は…、父は私が3歳の頃に事故で死にました。母もその時に…。身寄りもない私を拾ってくれたのは、孝様のお父様でした…。後から聞いた話ですが、私の先祖が孝様の先祖、孝允様と一緒に幕末の京都で戦ったらしいです…。そういう縁もあって、私は木戸家に引き取られました…。」

  「木戸孝允? そんな志士名を持った志士など記憶にはないな…。」

守王 「木戸という名前は維新を達成したのちに名乗った名前だそうです。幕末の志士名は桂小五郎。」

  「桂…小五郎。」

守王 「孝様とは小さい頃からずっと一緒でした…。ですが、あの刀を抜いたとたん変わってしまわれました…。幕末より木戸家に受け継がれる刀「志刃」を!!」

  「志刃がどうかしたのか!?」

守王 「志刃を知っているんですか!? あの、忌まわしき妖刀を!!」

  「忌まわしき妖刀…?」

守王 「あの刀を抜いたとたん孝様はかわられました…。あんなに優しかったのに、志刃を持ったとたん「試し斬り」と称し小動物を斬り殺しはじめたんです。そして、人斬りに発展するまで、そう時間はかかりませんでした…。」

  「馬鹿な…。志刃が妖刀であるはずなど…。」

守王 「嘘ではありません! そして、孝様は自分で斬った人たちを自分の病院に運び、臓器の密売を行っているのです!」

  「臓器の密売? それは悪いことなのか?」

守王 「とても悪いことです! 生きている人の心臓や肝臓を切り取り、売り払うのですから…。」

  「心の臓を捕られたら死んでしまうではないか! それに、臓物を売るとはなんたる外道!!」

守王 「お願いします! 孝様を助けてください! 志刃の呪縛から孝様を救ってください!!」


遠くから銃声! 守王倒れる!!


  「守王!」

守王 「うっ、孝様…。」

  「守王、大丈夫か?」

守王 「お願いします、孝様を…、孝様を…。」


気を失う守王。


  「全ては木戸から始まったのか…。」


守王を抱え、決意を胸に退場する稔
暗転



勇と司、どうやら司の思い出のようだ…。


  「お父さん!」

  「司どうしたんだい?」

  「今度のお休みどこか連れてよ!」

  「今度のお休みか…。急患が入らなかったらね…。」

  「ぶぅ〜、また、それだ! そう言っていつも連れてってくれない☆」

  「ごめん、ごめん。 でもね、病院にはお父さんを待っている患者さんがいるんだよ。司も、お腹が痛くて苦しいとき、すぐにお父さんに看て欲しいだろ?」

  「うん、苦しいのやだ…。」

  「だからね、お父さんは苦しい人がいたら助けてあげたいんだよ。司なら解ってくれるよね?」

  「でも、私、お父さんと会えないと寂しい…。」

  「司…。」

  「わかった! 私、お医者さんとお父さんのお嫁さんになる!そうすれば一緒にいられるよ☆」

  「(笑いながら)そうだね、それが一番だ!でも、司が大人になったら、お父さんはおじいちゃんだけど良いかな?」

  「うん、良いよ☆」

  「でも、結婚してもおじいちゃんだからすぐ死んじゃうかもしれないよ。」

  「お父さん、司残して死んじゃうの? 嫌だよ、私より先に死んじゃぁ! 司、寂しいよう〜(泣)」

  「ごめん、ごめん! お父さんは死なない! 司を残してなんて絶対に死なない」

  「本当?」

  「本当。」

  「絶対の絶対だよ!」

  「絶対の絶対。」

  「絶対の絶対の絶対だからね!」

  「絶対の絶対の絶対。」

  「じゃぁ、指きり!」

司&勇「指きりげんまん嘘突いたら針千本の〜ます。指切った!

  「お父さん、だ〜い好き!」


幸せなひと時、さめて欲しくない夢。
だが、現実に引き戻される…・



  「姉ちゃん! 姉ちゃん!!」

  「!? …京? どうしたの?」

  「あいつがいないんだ!」

  「あいつって…、稔さん?」

  「そうだよ、あの侍がいないんだよ!」

  「そんな! 稔さん、行くとこなんて何処にも無いのに!」

  「でも、いないものはいないんだよ!」

  「探しましょう!」

  「うん!」


稔、守王を抱えて入ってくる…。


  「稔さん!」

  「今戻った…」

  「どうしたんです! こんな時間に? それより、その人は? …あっ、鷹村さん! 鷹村さんじゃないですか? 酷い怪我! 早くそこに寝かせて下さい…。」


司、治療の準備のため退場


  「今まで何してたんだ?」

  「…。」

  「こんな時間に何処へ行ってたんだ?刀まで持ち出して…。」

  「俺と譲刃は常に一緒だ…。」

  「そういう意味じゃなくて…。」


稔、守王を残し出て行こうとする…。


  「どこに行くんだよ…。」

  「野暮用だ…。」

  「言えよ!」

  「俺がこの時代に来た理由がわかったのだ!」

  「えっ?」

  「京と言ったな…。 姉上を大切にな! 守王を頼む!!」


稔退場。司入ってくる…。


  「あれ、稔さんは…?」

  「行っちゃったよ。」

  「えっ?」

  「自分がこの時代に来た理由がわかったんだって…。」

  「そう…。」

  「姉ちゃん…、4人分の朝食とお風呂の用意して待っててくれる?」

  「良いけど…、どうして?」

  「俺、確かめてくる! あいつが何をしようとしているのか?あいつがどんな未来を斬り開くのか!」


京退場


  「京! 待ちなさい! 京!!」


司、京を見送り、守王を看る。
そして、何処かに電話しているようだ…。
しばらくして暗転。



  「ここか…。」

  「稔!」


京、登場


  「京…、やっぱり来たか…。」

  「お前みたいな怪しいヤツをほっとくほど、お人よしじゃないよ。ボクは…。」

  「帰れ! と言っても帰らないよな…。」

  「短い付き合いなのによくわかってるじゃない。」

  「そういうところも純彗にそっくりだ。」

  「誉め言葉としてとっておくよ…。それより、やぶ医者に何か用なの?」

  「やぶ医者?」

  「木戸のヤツのことだよ。」

  「あぁ、幕末の約束を果たしにな!」

  「約束?」

  「あぁ、親友と交わした大切な約束だ!」

  「その約束は守れそうなの?」

  「そのためにココにいる!」

  「その約束が守れるかどうか、俺が見届けてやるよ!足手まといになるなよ!」


京、病院の中に入っていく!



  「おい! …そういう処まで純彗に似ているとはな…。」


所狭しと走り回る京。同じく木戸を探す稔。しばらくすると京が何かみつけたようだ…。


  「健康診断書…「常盤勇」? 父さんの健康診断書だ…。何々、酒もタバコも吸わない生真面目な常盤勇氏は素材として最適である…。なんだこれ?」

木戸 「京くん? 人のモノはかって見てはいけないってお父さんには習わなかったのかい?」

  「やぶ医者!」

木戸 「まったく、お姉ちゃんの言う通りおとなしくしておけば死なずにすんだのに…。」

  「父さんはお前が殺したのか!」

木戸 「「殺した!」だなんて人聞きが悪い…。 勇さんは病気に苦しむ沢山の患者さんのために医者として、その身を犠牲にしただけだよ…。」

  「どういうことだ!」

木戸 「頭の悪いガキだな! お前の父さんはパーツとして切り売りされたんだよ!心臓や肝臓、網膜、血液にいたるまでキレイさっぱり売れたんだよ!」

  「そんなぁ…。」

木戸 「なに、心配するな…。もうすぐお前も同じ所へ送ってやる! 大好きなお父ちゃんの所へなぁ!」


木戸、志刃を振り上げ京を斬ろうとする!
轟く雷鳴! 木戸の体が固まり、刀を落とす、どうやら飛礫が手に当ったようだ!
飛礫を片手で遊びながら稔登場!



  「お前…。」

木戸 「タイミングの良い到着ですね…、吉田稔さん。」

  「貴様とは初対面のはずだが、全然そんな気がしないな…。木戸孝。」

木戸 「私は2度目ですよ、あなたの傷を看たのが初めてでした…。」

  「それはすまないことをした…。命の恩人に飛礫を食らわしてしまうとは…。」

木戸 「いいえ、かまいませんよ…。あなたの身体ももうすぐ莫大なお金に換わるんですから! 今すぐ、肉塊にしてあげます! この志刃で!!」


木戸、刀を拾い、稔に斬りかかる! 稔は刀を抜き、木戸の太刀を捌く!


  「貴様! 志刃をそんなくだらない事に使うんじゃない!」

木戸 「何を言うんです! 剣は凶器、剣術は殺人術! 人を斬る以外に刀の使い道なんてあるわけが無い! これが、刀の本当の使い方なんですよ!」

  「たしかにそれは否定せぬ! だが、私欲に狂った剣など人を不幸にする凶剣にすぎぬ!」


激しい打ち合い! 


木戸
 「そういえば、親父も同じ事を言っていたよ…。だが、こんなに良く斬れる刀を飾りとして置いておくだけなんて、私には出来ないね!」

  「貴様! 志刃で何人の人を斬ったんだ!!」

木戸 「そんな事は覚えていないな!そうそう、だが、最初に斬ったことは今でも覚えている! そこにいるクソガキの父親だよ!」

  「…!!」

  「貴様!!」


激しい打ち合いが続く…。あまりの凄さに京は呆然と見ている…


  「すげぇ〜。」

木戸 「さすが最強と呼ばれた維新志士! あの傷でこれほどとは…。」

  「平和な時代に生きたとは思えない殺人剣…。その凶行、俺の手で終わらせる!」


再び打ち合う、だが経験の差か次第に稔が押し始める!
そして、稔の小手が決まり木戸は志刃を落とす。



木戸
 「うぅっ…」

  「勝負あったな…」

木戸 「まだだ…。」


木戸、拳銃を取り出し標準を稔にあわせる


木戸
 「形勢逆転だな…。」

  「魂のこもらない鉛弾など、オレには通用しないぞ…。」

木戸 「ほざけ!」


拳銃を2発撃つ! しかし、稔に2発共譲刃で弾かれる…


  「発射口が見えているんだ、どんな弾道だろうと見切ることに造作などない!」

木戸 「ならば、これならどうだ!」


銃口を京の方に向ける


木戸
 「貴様は交わせるだろうが、ガキはそうもいくまい…。」

  「卑怯者め…」

木戸 「死ぬか生きるかの幕末に生きてた割には甘いヤツだな…。こんなこと日常茶飯事だっただろう?」

  「志士も幕臣も、思想はちがえど己の信念のために戦った侍たちだ! 貴様のような外道などいるはずがない!」

木戸 「そんなことどうでも良い! …動くなよ、動くとこのガキの頭がぶっとぶぞ!」

  「撃てよ…。」

木戸 「…何?」

  「父さんの敵が討てるチャンスなんだ! 自分の命が惜しかったら、こんな所に来るか!!」

木戸 「辛勝な覚悟だな…。 だが、君の相方は考え方が違うようだぞ…。」

  「えっ?」


譲刃を地面に置く稔


  「お前。」

  「譲刃は人を護るために生まれた刃だ…。人を護るために不必要なら捨てる…。」

  「稔…。」

木戸 「最後の別れはすんだか?」


木戸、銃を稔に向ける…。


木戸
 「お前の内臓も、有意義に使ってやるから潔く死ね!」


木戸、発砲! しかし、稔にはあたらない…
何発も、何発も撃つがやはり稔には当らない、やがて弾切れ…。



木戸
 「何故だ! 何故当らない!!」

  「何度も言ったろう…。どんな弾道だろうと見切ることに造作などない! 貴様のような外道、許しはしない!」

木戸 「…うぁっ、あぁ〜!」


京を放し木戸、逃げるように退場…。


  「…稔。」

  「京!」


恐怖の余り、胸に飛び込んできたとおもいきや…。


  「何やってるんだよ、逃げちゃったじゃないか…!」

  「志刃もここにある、ヤツにはもう何も残されていないよ…。」


…と志刃を拾い上げる! すると重い扉が落ちる音と共に、いきなり白い煙が噴出す!


  「…なんだ! 急に煙が!」

木戸 「(下品な笑い声)奥の手は最後までとっておくものだ!」

  「木戸!」

木戸
 「…その部屋はな、万一の時の為にガス室にしておいたんだよ…!そして、噴出しているのは今流行の炭そ菌だ!」

  「ゴホッ! ゴホッ(咳き込む)」

  「京!」

木戸 「まぁ、臓器が使えなくなるのは残念だが、流行にのれて幸せだろう?オレからの心ばかりのプレゼントだと思って受け取ってくれ!(高笑い)」

  「炭そ菌!?」

  「ウィルス! 病原菌のことだよ!!」

  「おぉ! 時代も進んだものだな! 病まで武器になるのか!?」

  「呑気なことを言ってんじゃない!」

  「まぁ、助かるにはあの扉を破れば良いんだろ?」


稔、志刃を手に居合の構え…


  「あの鉄の扉が破れるのか!?」

  「斬鉄か…。 やったことはない…!」

  「稔!」

木戸 「そうだろう、そうだろう! たとえ最強の維新志士といえども斬鉄など簡単に出来るか!それにな、今の金属は昔と比べても質がちがうぞ! チタン製の防護壁、そう簡単に破られてたまるか!」

  「そうだな…。でもな、何故だろうか…。 しくじる気がまったくしない…。」

木戸 「!?」

  「志刃は初めて手にしたが、良い刀だな…。」

木戸 「そうだ! その刀があれば何人も人が斬れるぞ!その刀こそ最強の殺人剣だ!」

  「違う! 志刃は俺たちの夢を斬り開くための刃だ!貴様のような外道にはわからんだろうがな!」

木戸 「そんな詭弁など、わかろうとも思わないね!だが、夢を斬り開くための刃も今となっては只の殺人剣だ!」

  「そうかもしれん! だが、この未来ある若人を救うため!今一度、理想の刃となれ! 志刃よ!!」


稔、居合の構えから「横一文字」を放つ! そして、崩れる扉!



木戸
 「嘘だ! 厚さ50mmのチタン鋼を斬れるはずがない…!?」

  「言っただろう…。「志刃の刃は夢を斬り開くための刃」だと…今から行く…、首を洗って待っていろ…。志刃を血で汚した罪、己の血で償わせてやる…!」

木戸 「終わりだ…、もう、全てお仕舞だ!! ヒャヒャヒャヒャ…。(狂ったように笑って退場)」

  「稔、ダメだよ…。稔まで志刃を血で汚しちゃいけないよ…。」

  「解っておる、策を講じる奴の性根は臆病なのものだ…。今のは奴を懲らしめるための狂言だ…。」

  「まったく、稔ったら人が悪いんだから…。(咳き込む)」

  「京、お前は小さいから先程の煙にやられたのだろう…。ちょっとここで待ってろ…、木戸を取り押さえたら医者の所へ連れていく!」

  「また、ボクを子供扱いして…。それに、ここも病院だよ…、とんでもないヤブ医者だけどね…。」

  「そうだな、すぐ迎えに来る。待ってろ!」


稔、木戸を追って退場! 入れ替わりに司が入ってくる!


  「京!」

  「姉ちゃん」

  「京、大丈夫?」

  「(咳き込む) 姉ちゃん、稔を…、稔を追って…。」

  「京、しゃべっちゃダメ!」

  「父さんを殺したのは通り魔なんかじゃない! 父さんを殺したのは…(気を失う)」

  「京!」


司、京の首元に手をあて、気を失っていることを確認し安堵のため息。
そして、床に置かれている譲刃を拾い、稔の後を追う…。
あたりは暗闇に消えていく…。


明かりがつくと狂って笑っている木戸。
そして、稔が入ってくる…



木戸
 「ひゃひゃ…、終わりだ! もう、全て終わりだぁ〜!」

  「もう、全て終わったな…。」

木戸 「ひゃひゃ…」

  「…誰だ?」


司、登場


  「司さん! どうしてココへ…?」

  「木戸先生! 木戸先生大丈夫ですか!」

木戸 「ひゃひゃ…」

  「狂ってる…。稔さん、あなたがやったんですか?」

  「あぁ…。」

  「それに、鼈甲の鞘に入った日本刀…。 やっぱり木戸さんが言ったとおり、あなたが…」

  「司さん!?」

  「帰してよ…、お父さんを、優しかったお父さんを帰してよ…。」

  「司さん?」


狂乱した司、譲刃を構える…


  「お父さんの敵は私が討つ! それが、わたしの斬り開くべき未来!」


司、刀を振り回す


  「やめろ! 司さん!! 誤解だ!!」

  「言い訳なんか聞きたくない! 父さん!」


何か意を決したように稔の動きが止まる
そして、稔に対して譲刃を突こうとする…。
その瞬間、京が駆け込んでくる!



  「姉ちゃん! やめろ!」

  「えっ?」


しかし、勢いは止まらず、しかも大の字になって司の突きを受け止める…。


  「ゴホッ、ゴホッ…(咳き込む)」

  「稔!」


倒れる稔、そして駆け寄る二人…。


  「…稔さん、どうして…?」

  「拳銃の弾丸でもかわせるのに! どうして、姉ちゃんの? 素人の突きがかわせないんだよ!?」

  「司…。死ぬ気だっただろう?」

  「…どうして、それを?」

  「!?」

  「きみが、総司と同じだからだよ…。総司はいつも言ってた…「オレが死ぬときは、近藤先生や土方先生より先だ!」と…奴は新撰組隊士の使命のつもりで言っていたんだろうが、実際は違う…。総司は「寂しがり屋」なんだ…。」

  「寂しがり屋?」

  「そうだ、総司は自分と親しい人が死ぬことを非常に恐れていた…。失うことが怖かったんだ…。」

  「あなたは私のことは全てわかるんですね?」

  「姉ちゃん?」

  「たしかに私は、死ぬことなんて怖くはない! でも、失うことが怖いんだ!近藤先生や土方先生、新撰組のみんな…、そして、稔さん! あなたにも死んで欲しくない!!」

  「総司、初めてお前の本音が聞けたような気がするな…。冥土に良い土産が出来たぞ…ゴホッ」

  「しゃべらないで! 今、病院に連れて行くから!」

  「ここも病院だよ…、とんでもないヤブ医者だけどな…。それに、自分の体のことは自分がよくわかる…、オレはもう助からない…。」

  「稔…。」

  「京、泣くなんてお前らしくないじゃないか…。」

  「泣いてなんか…、泣いてなんか…。」

  「そうだな…。お前は鉄のように強い子だ…。でもな、その強い心も鍛えなければ意味が無い…。鉄を鍛え、鋼鉄とし、刃を打って刀となれ…。純彗の打った譲刃のように、全てを護る刃となれ…お前ならきっとなれる…。ゴホッ、ゴホッ…。」

  「もう、しゃべらないで!」

  「最後の仕事だ…。」


稔、立ち上がり志刃と譲刃を胸に階段を上っていく…。


  「稔!!」

  「志刃…、譲刃…、俺たちが望んだ、平和な時代がやってきたんだ…。お前たちも、二度と血で汚れなくて良いんだ…。」

  「稔さん!」

  「総司、生まれ変わったら、来世こそ幸せになろうぞ…。」

  「いや、死なないで…。」

  「京! お前の心が作る最後の勤王刀の名は…「未来!」この刃で、俺たちが作った時代を…より素晴らしい国に作り変えてくれ!」

  「稔…、お前、カッコいいよ…。新撰組なんかよりもずっと…。」

  「ありがとう…。そして、さらばだ!」

二人 「稔〜!」


閃光の中、階段から落ちる音…。全ては闇の中に消えていく…。


  「その後、彼を…、稔を見た者はもういません。やぶ医者は捕まり、司法の手によって裁かれ、父さんの無念は晴らせたと思います。不思議なことにお姉ちゃんは、あれから、稔の事を言わなくなりました。ですが、ボクにとって彼と過ごした運命の3日間は、忘れられない日々となりました…。そして、ボクは、ボクの胸に眠る心の刃…「未来」とともに、あの大きな背中を追いかけていきます! とってもカッコいい、最強の維新志士吉田稔を!」


階段の上にたつ吉田稔。
そして、それを追うように登る京!
一つの時代が終わり、新しい時代が幕をあける…。
その新しい時代の主人公の名は、常盤京!
彼の将来は誰にもわからないが、きっと、京はカッコいい大人になるのであろう。
京の理想の男、吉田稔のように…。



 
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