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探偵プロフェッショナル
作 未来永劫
 



登場人物
○ 剣持 洸(あきら)(32) 総合探偵社『マーシャル・エージェン シー』横浜支局の探偵
○ 橘  あおい(23) 横浜支局の新人探偵
○ 秋本ななえ(26) 女優
○ 伍 代  了(48) 横浜支局の支局長
○ 鳥山 三郎(38) 芸能事務所『ムーンライト・リミテッド』の社長
○ 梶原 涼子(36) ななえのマネージャー
○ 木村 健二(42) 横浜支局の副局長
○ 秋本 義樹(37) ななえの兄
○ 秋本 洋子(32) 義樹の妻
○ 秋本 玄太(8)  義樹の息子
○ 早瀬 丈一(32) 剣持の元同僚
○ 加藤 新一(27) ななえのファン



○ ある部屋の一室(夜)
(主要キャスト、スタッフ、 クレジット)
ジョキ! ジョキ! ジョ キ!
作業机に向かい、ハサミを使って雑誌を切り抜いてゆく男の手。
カーテンで閉め切られた部屋は薄暗く、男の顔はハッキリと判別できない。
男、切り抜いた記事に接吻(くちづけ)すると、それを丁寧にスクラップブックへ貼り付ける。
記事には、「秋本ななえ 新作映画に意欲燃やす」。
そして、黒髪のロングヘアの女性の写真。その透明感のある美貌。
男、親指の爪を噛みながら、その記事を見つめる。

○ みなとみらい線・新高島駅(別の夜)
電車待ちする一人の女性―それは、写真に写っていた秋本ななえ(26)。
アナウンス「間もなく2番線、電車が通過致します……(以下続く)」
ななえ以外にあまり人の姿はない。
ななえ、突如、視界がぐらつく。
地面に落ちるななえのバッグ。
いつのまにか、ななえの身体は線路上に。
ななえ、ハッと我に返り、顔を上げる。
電車が警笛を鳴らし、迫り来る。
線路上のななえ。
迫り来る電車。
ななえ「!!」
(暗転)

○  タイトル―「探偵プロフェッショナル」

○ JR 関内駅・ホーム(12月始めの朝)
電車が滑り込み、吐き出される乗客。
その中に、グレーのスーツに身を包んだ橘あおい(23)の姿。黒い髪を短くカットして、ボーイッシュな雰囲気。

○ 総合探偵社『マーシャル・エージェンシー』横浜支局(以下横浜支局と略称)・正面玄関
近代的な3F建てのビル。
あおい、嬉々として見上げる。

○ 同・ 局長室
仏頂面をしてデスクに座っている男が、伍代了(48)。あおいの履歴書に目を通している。
その傍に立っている、いかにも気の弱そうな男が、木村健二(42)。
椅子に座って向き合っているあおい。
木 村 「私は副局長の木村。そして、こちらにいらっ しゃるのが伍代局長だ」
伍代、チラリとあおいを見るが、すぐに目を履歴書へと戻す。
木 村 「(伍代の横から履歴書を覗き)へえ、もともとは警察官になりたかったの?」
あおい「ハイ」
木 村 「いい大学出てるじゃないか。どうして警官にな らなかったの? これならキャリアとして通用するのに」
あおい「はあ……でも、法律を学ぶうちに、警察でも扱わない問題ってけっこう多いンだなあって思って、それでこの仕事を……」
木 村 「(伍代に)いいンじゃないでしょうか? こう いう娘(こ)は探偵にうって つけですよ」
伍 代 「(きっぱり)青臭いな」
あおい「?」
伍 代 「肝心なことが抜けてる。(あおいに)いいか?  この仕事はビジネスなんだ。いかに多くの依頼人と契約を交わして、いかに会社のために貢献するか……それを頭に置いておかないと、長くは務まらない」
あおい「はあ……」
伍 代 「期待してるぞ」

○ 同・ 廊下
歩くあおいと木村。
木 村 「今日から一か月間は剣持に同行して、色々教わるンだな」
あおい「剣持さん?」
木 村 「調査達成率80パー セントの名探偵よ。ま、ビジネスマンとしては怪しいけどな。(窓越しに部屋を指差し)あいつだよ」
あおい「(見て)あの人が……?」
木 村 「そう、あいつが……」
と、言いかけた途端、眉を顰(ひそ)める。
部屋の中― ヨレヨレのスーツを着た小柄な男が大口を開けてとイビキを掻いている。剣持洸(あきら)(32)である。

○ 同・ オフィス
他の社員が忙しく立ち回る中、剣持は呆れるほどの居眠り。その間抜けな顔。
木村、あおい、部屋に入り、
木 村 「(つつく)剣持?」
剣 持 「ZZZ……」
木 村 「(怒鳴る)剣持!!」
剣持、椅子から転げ落ち、あたふた立つ。
剣 持 「ハ、ハイ?」
木 村 「何やってンだよ! ホラ、今日から新人 の……」
剣 持 「?(と、あおいを見る)」
あおい「橘あおいと言います」
剣持、あおいをジロジロ見 る。
剣 持 「ちょっと(と、木村を外へ連れ出す)」
あおい「?」

○ 同・ 廊下
向き合って立っている剣持と 木村。
剣 持 「何でこんな時に限って女なんか……」
木 村 「(宥(なだ)める)まあまあ、気持ちは分かるけど、本社が決めたことなんだから……それに見てみろよ。結構可愛いじゃないか」
剣 持 「そういうのは問題じゃないですよ」
木 村 「お前がしっかり見張ってれば、これまでのようにはならないって。な?」
剣持、窓越しにあおいを見てハッとする。
あおい、剣持のデスクの上に置かれてある奇妙なアイテムを触っている。それは拳銃型の機器である。

○ 同・ オフィス
剣 持 「(入って)ああ! バカ、触るな!!」
あおい「え?」
すると、あおいの手の中で暴発。
銃の先端からはカラーボールが発射され、木村の顔に蛍光塗料がベットリ付く。
木 村 「………」
あおい「………」
剣 持 「だから止(よ)せって言ったン だ……」

○ 都市高速
東京方面に走る剣持の車(ルノー)。
剣持の声「探偵ってのは、人間が一生に一度世話になるかどうかの商売だろ? これから依頼を申し込もうって人間は慎重になる」

○ ルノー・車内
運転する剣持と、助手席のあおい。
あおいは話に耳を傾けながらメモを取る。
剣 持 「……そこで、まずオペレーションセンターが見積の相談を受ける。で、その相談書をもとにエージェントが相手先に出向く」
あおい「(手を止めて)エージェント?」
剣 持 「探偵のこと。おれたち探偵ってのは調査だけ やってれば、それでいいってわけじゃアない。相手先と契約も結ばなきゃいけない。だから、エージェント」
あおい「やっぱりノルマとかも?」
剣 持 「あり、あり、大ありヨ! ひと月に最低二件。 前はこんなふうじゃなかったンだけど、一年前から出資元が変わってサ、契約契約ってバカの一つ覚えみたいに……おかげでこっちはえらい迷惑よ」
あおい「そんなこと、探偵学校では習わなかったンだ けどなあ」
剣 持 「もう辞めたくなったか?」
あおい「べつにそんなワケじゃ……」
剣 持 「カンベンしてくれよ。辞めるンなら、一か月経ってからにしてくれ。でないと、おれに響くンだからな」
あおい「?」
剣 持 「ま、仲よくやろうや」

○ 芸能プロダクション『ムーンライト・リミテッド』・正面玄関(六本木付近)
剣持とあおい、入って行く。

○ 同・ 社長室
椅子に座っている剣持とあおい。剣持はテーブル上にパンフレットを広げている。
能面のように表情を崩さず、彼らと向き合っている男は、鳥山三郎(38)。
鳥 山 「(冷静な口調)契約しましょう」
剣 持 「ハ? ……あの、プレゼンがまだ終わってないンですけど……」
鳥 山 「それは結構です。お宅の会社についてはこちらも存知ております。TVでよく紹介されますからね。コストが安くて、短期間で調査を済ませてもらえると有名 ですよ」
鳥山、一枚の写真を剣持へ手渡す。
写真―秋本ななえ。
鳥 山 「ご存知ですか?」
剣 持 「………」
あおい「ひょっとして、女優の秋本ななえさんじゃないですか?」
鳥 山 「ええ。うちの事務所に所属しています。(剣持 に)ご存知でない?」
剣 持 「え? い、いや、知ってますよ。実はファンなンです、ぼく。ホラ、あのドラマ、何て言ったっけなあ……そうそう、『不滅の森』! あれは最高でしたね」
鳥 山 「彼女は出演していませんよ」
剣 持 「(気まずそう)……」
鳥 山 「その娘(こ)の素行調査をお 願いしたいンです」
剣 持 「はあ……で、具体的にはどういう?」
鳥 山 「実を言うと、ななえは半年ほど前から奇妙な行動が目立つようになり ましてね、突然全身を震わせたり、撮影の現場では放心状態になるようなことが多くなって仕事に身が入らない。一か月前にはこんなことがありました。休暇の 日に買い物に出かけたンですが、その帰り道……」

○ みなとみらい線・新高島駅(イメージ)
線路上にななえの姿。
ぐんぐん迫り来る電車。
ななえ「!!」
ななえ、咄嗟に身を躱(かわ)す。
その傍を電車が通過する。

○ 『ムーンライト・リミテッド』・社長室(イメージ明け)
鳥 山 「ななえは何者かに突き落とされたと主張するンですが、目撃者は誰もいません。警察ではななえが自ら飛び込んだのではないかと見ています」
剣 持 「それにしても、よくそれだけのことが公(おおやけ)にならなかったもんですね?」
鳥 山 「私はマスコミに知人が多いですから」
剣 持 「はアん、なるほど」
鳥 山 「そんな調子だから、私としてはあの娘(こ)を現場に出したくありません。それで、今は仕事をストップさせて、自宅待機を言い渡しているンです」
剣 持 「ななえさんがそうなられたのに、何か心当り は?」
鳥 山 「恐らくノイローゼか……麻薬」
剣持、あおい「!?」
鳥 山 「ななえには梶原涼子というマネージャーを付けています。その梶原が見たというンです。ななえが密かに何かの薬を服(の)んでるところを……ななえはここ のところ落ち目ですからね。麻薬に手を出しても不思議ではありません」
剣 持 「分りました。つまり、ななえさんがクスリに手を出しているのかどうかを調べたい……そういうことですね?」
鳥 山 「クスリをやってたとしても、警察には言わないでいただきたいンです。こちらで内密に処理しますので」
剣 持 「承知しました。(あおいに)契約書」
あおい、ブリーフケースから 契約書を取り出し、テーブルの上へ。
剣 持 「では、こちらにサインを……ア、実印は今日お持ちでしょうか?」
鳥 山 「大丈夫です」
剣 持 「そりゃよかった。実印がないと、無効になってしまうンです。それで、契約期間はどれぐらいをご希望で?」
鳥 山 「(サインしんがら)24時間 体制で監視してください。期間は三週間」
剣 持 「(目を丸くして)さ、三週間!?」
鳥 山 「(顔を上げ)何か?」
剣 持 「(しどろもどろに)三週間も必要ないと思うンですが……どうでしょう? 十日ということにされては?」
鳥 山 「十日で証拠を掴む確信が?」
剣 持 「腕には自信があります」
鳥 山 「100パー セントですか?」
剣 持 「いや、そう言われると……」
鳥 山 「じゃア、三週間で」
剣 持 「それなら、こうされてはどうです? とりあえず十日間の契約を結んでおく。それで、契約が満了して納得されなければ、延長を申請するということで。その ほうが手付金も安くで済むわけだし……」
鳥 山 「お宅の会社では、場合によって延長が受理されないことがあるそうですね」
剣 持 「ハ?」
鳥 山 「調べは付いているンです……それとも、他の会社と契約したほうがいいとでも?」
剣 持 「いや、とんでもない!!」
あおい、訝しげにその様子を見ている。

○ 中華街のレストラン・店内(午後)
ランチを取る剣持とあおい。
あおい「先輩、訊いてもいいですか?」
剣 持 「先輩は苦手だな。剣持でいいよ」
あおい「さっき契約期間は短いほどいいって言ってま したね? どういう意味です?」
剣 持 「ああ、そのことね……(あおいの背後を見て) おい、あれ、何だよ?」
あおい「え?(と、ふり返る)」
剣持、あおいの皿からおかずを何品かつまみ、急いで口の中へ運ぶ。
あおい、視線を戻すと、自分の皿からおかずが何品か消えている。
あおい「………」
剣 持 「うちの会社はほかと比べて手付金が高い。でもな、その分、契約期間が長くなれば、料金が割安になっていく。ところが、こんなやり方をまともにやってみ ろ。会社は損するいっぽうだろ? 会社としては、 エージェントたちに短期契約をじゃんじゃん挙げてほしい。手付金でごっそり儲けたいって魂胆なんだ」
あおい「でも、依頼人はいつも短期契約を希望するとは限らないじゃないですか」
剣 持 「まあな……おい、誰か呼んでるぞ」
あおい「え?(と、ふり返る)」
剣持、またおかずを奪い、それを頬張る。
あおい「(視線を戻し)……」
剣 持 「そういう場合……依頼人が長期契約を申し出て きた場合は、とりあえず一、二週間の契約を結ばせる。もし契約が満了して調査内容に納得しなけりゃ、延長を申請すればいいとか何とか言って説得するんだ」
あおい「ああ、それで剣持さんはさっき……」
剣 持 「そうよ。ところが、延長を申し出てきたら、言葉巧みにそれを断るようにする」
あおい「どうして?」
剣 持 「延長は長期契約と同じで、儲けが少ないからだよ」
あおい「じゃア、延長を断られた依頼人は、その後どうなるンです?」
剣 持 「そんなの、知ったことじゃないさ」
あおい「それじゃア、詐欺じゃないですか!」
傍を通りかかった母子連れ―
子 供 「あの人、詐欺師だって」
母 親 「パパとおんなじね」
剣 持 「(あおいに)バカ、声が大きいよ」
あおい「延長を引き受けるって言っといて、実際は引き受けないなんて、そんな……」
剣持、契約書を手渡し、
剣 持 「(指差しながら)約款のここのことろを読んでみろ」
あおい「(読む)延長は場合によって受理されない場合がございます予めご了承ください……(顔を上げ)だからって……」
剣 持 「一度契約書に判をつけば、すべてを合意したってことになる。だから、詐欺でも何でもないわけよ」
あおい「………」
剣 持 「それにな、調査のすべてが達成されるわけじゃない。一か月かけようが、一年かけようが、解決できないものは解決できない。それよりも、別の調査に取りか かったほうが、時間を無駄にしなくて済む。エー ジェントの歩合にもなるしな」
あおい「でも、それって何か違うような……」
剣 持 「おい、あそこの席の奴、オダギリジョーじゃな いか?」
あおいも今度こそは騙されまいと、
あおい「そう言えば、さっきからあそこの綺麗な女の人、剣持さんのこと見てますよ」
剣 持 「ホントか? どれ?(と、ふり返る)」
あおい、剣持の皿からおかずを奪おうと箸を延ばす。
が、剣持、ちゃっかりと自分の皿を持ち上げ、食べながら後ろの席を伺う。
あおい「………」

○ ベルメゾン(ななえのアパート)・外観(一週間後の夜)
洒落たレンガ風の8F建て。
あおいの声「もう張込んで一週間にもなるのに、ななえさん、一歩も外に出ないですね」

○ 湊ビル・一室(剣持たちの張込み場所)
カーテンの隙間からは、正面のベルメゾンの様子が一望できる。
剣持、窓際の椅子に腰かけて監視。
剣持の前には三脚付きの一眼レフ。
シュラフに潜り込み、仰向けのあおい。
あおい「ゴミは管理人が捨ててくれるし、食料品は宅配便だし……第一、運動不足にならないのかな。ねえ?(と、剣持を見る)」
剣持、椅子に座ったままウト ウト。
あおい「ちょっと、剣持さん?」
剣 持 「(目を開け)ううン?」
あおい「困りますよ、眠ったりしたら」
剣 持 「寝てないよ」
あおい「目閉じてたじゃないですか」
剣 持 「もの思いに耽ってたンだよ。人生とは何ぞや、 世界とは何ぞやってね」
あおい「(呆れて)寝ないでくださいね、交代まであと三時間もあるンだから」
剣 持 「分ってるよ」
あおい、目を閉じて眠りに就こうとする。
が、気になって剣持を見る。
剣持、目を開けたままイビキ。

(時間経過)
あおい、窓際で監視役。
シュラフに潜っているのは、剣持。
剣 持 「いやあ、悪いね。ここンところ、疲れが激しくてさ……(瞼を閉じ)三十回ったばかりなのに、やっぱ年齢(とし)なのかな……」
あおい「(一眼レフを覗いて)剣持さん、ちょっと来てください」
剣 持 「おれは今、寝るので忙しいンだ」
あおい「大変なンですよ!」
剣持、シュラフを纏ったま ま、まるでみの虫のような格好でピョンピョンと跳ねて、あおいのもとへ。
あおい「(一眼レフを)見てください」
剣 持 「(覗く)?」

○ 一 眼レフのファインダー越し
酔っ払った若い男三人が、若い女二人組を車の中に連れ込もうとしている。
あおいの声「助けましょう」
剣持の声「バカ言うなよ。騒ぎがでかくなって、ターゲットにおれらのことが知られでもしたら……」

○ 湊ビル・一室
あおい「でも、このままだと、あの娘(こ)たち、連れられて行きますよ!」
剣 持 「誰かが助けるさ」
あおい「だって、周りに誰もいないじゃないですか!!」
剣 持 「(ちょっと考えて)よし、そんじゃあ、警察に……(と、携帯電話を取り出す)」
あおい、一眼レフを覗く。

○ 一 眼レフのファインダー越し
女、必死に抵抗していると、 男の一人が彼女の頬を引っ叩く。

○ 湊ビル・一室
あおい、急ぎ足に部屋を出て 行く。
剣 持 「オイ、行くな! 止(よ)せって」

○ 路上
あおいに突き飛ばされ、尻もち付く男の一人(男1)。その傍には男2、男3。
あおい、女二人組を庇うようにして立ち、
あおい「行って」
女  「でも……」
あおい「あたしは大丈夫だから」
女二人組、そそくさと逃げて行く。
物陰では、剣持が冷や汗をかきながら、携帯電話をかけ、
剣 持「もしもし? 警察? 事件だよ、事件!」
一方、男ども、あおいをジロ ジロ見て、
男 2 「ああん? 何だ、おめぇはよ?」
あおい「見りゃ分るでしょ? 女だよ」
男ども、ゲラゲラと笑い、
男 3 「女って名前なンだってさ」
男 2 「チョー受ける」
あおい「あんたたちみたいに知能指数30未満の人間には、そのほうが覚えやすいでしょ」
男 2 「何ンだア!?」
男 1 「待てよ。こいつ、誘ってほしいのかも。よく見れば、可愛いじゃん。おれ、こういうの、タイプかも」
と、あおいの胸元を触る。
男2、3、ニタニタと見ている。
と、あおい、男1の手首をぐいっと掴むと、相手の身体を床に叩きつける。
男 2、3「(唖然)……」
男 1 「(起き上がり)調子乗りやがって……」
男1、あおいを突き飛ばす。
あおい、尻もち。
が、すぐにぱっと起き上がると、男1めがけて跳び蹴り。
男 2 「くそ!」
男 3 「このお!」
と口々に罵りながら、あおいに立ち向かって行くが、すぐに返り討ちにされる。
一方、携帯電話で話す剣持は、
剣 持「頼むから、すぐに来てくれよ」
と、電話を切り、ふり返る。
剣 持 「(目を丸くする)!!」
あおいは無傷であるが、男三人が叩きのめされて地面に転がっている。
あおい「戻りましょう」
剣 持 「あ……ああ……」

○ 双眼鏡越し(朝)(日替り)
ななえ、アパートから出てく る。
目立たない、モノトーン系の洋服。
あ おいの声「動き出しました!」

○ 湊ビル・一室
窓際で、一眼レフを覗く剣持と、双眼鏡を覗くあおい。

○ 走るバス・車内
座席で揺られているななえ。
吊り革に掴まって監視する剣持。

○ 元町商店街
歩くななえと、尾(つ)ける剣持。
ななえ、立ち止まり、ある店のショウ・ウィンドウを眺める。だが、その目は背後の様子を警戒している。
剣持、知らぬ顔で通過して、角を曲がる。
待機しているあおい。
二人、すれ違いざまに、手と手をパンッとタッチさせる。
ななえ、ふたたび歩き出す。
今度はあおいがその後を尾ける。

○ ××精神科・表
少し離れた場所で張込む剣持とあおい。
あおい「やっぱりノイローゼでしょうか?」
剣 持 「………」

○ 同・ 中
ななえ、窓口で処方箋を受け取る。

○ 同・ 正面入口
ななえ、入ろうとしていた男にぶつかり、
ななえ「ア、ごめんなさい……」
と、顔を伏せ、急ぎ足に去って行く。
それを見送る男―変装している剣持。

○ 湊ビル・一室(その夜)
剣持、紙袋を見ている。
紙袋―「処方箋 秋本ななえ様」
あおい、剣持に詰め寄って、
あおい「じゃア、これって、ななえさんのバッグの中から?」
剣 持 「ああ」
あおい「それじゃ、まるで掏摸(すり)……違反です。 刑法第235条に違反しています!」
剣 持 「(キザッたらしく、チッチッチッと舌を鳴らし て、首を横に振る)」
あおい「?」
剣 持 「清濁併せ呑むのが、おれたち探偵」
剣持、袋から錠剤を取り出 し、見る。
剣 持 「何だ、こりゃ?」
あおい「(見て)……」

○ 喫茶店・店内(日替り)
片隅の席に座っているななえと梶原涼子(36)。キャリアウーマンらしく、パリッとスーツを着こなしている。
離れた席に陣取り、剣持とあおい、ななえと涼子の様子に目を光らせる。
あおい「あの女(ひと)はたしか……」
剣 持 「マネージャーだよ。梶原涼子とかいう……」

(カットバック)
ななえと涼子。
ななえ「社長に取り次いでほしいの。早く謹慎を解いてほしいって」
涼 子 「(笑って)謹慎だなンてそんな……」
ななえ「涼子さん、わたしが知らないとでも思ってるの? 最近、わたしに仕事が回って来ないのは、社長がわたしを人前に出したくないからなンでしょ?」
涼 子 「(何か言おうとする)」
ななえ「分ってるンだから! わたしがノイローゼになったって、皆んな思い込んでる。本当はそうじゃないっていうのに」
涼 子 「………」
ななえ「ごめんなさい……家に籠ってると、ついイライラすることが多くて……」
涼 子 「ねえ、ななえ、ものは考えようよ。せっかく休みを貰ったンだから、これを利用してもう一度自分を見つめ直してみたら?」
ななえ「見つめ直すって……?」
涼 子 「最近、あなた、自分のイメージを壊す役ばかり演(や)ってるじゃな い? あなたの魅力は、透明感のある美しさなの。それを落ち目になったからって、自分から脱ぎ捨てるようなことを……」
ななえ「通り一辺倒の売り方をされたから、落ち目になったのよ」
涼 子 「でも、イメージを壊してから、人気は落ちる一方でしょ?」
ななえ「ファンの人たちは戸惑ってるだけ。そのうち、きっと応援してくれるから」
涼 子 「わたし、そうは思わない。透明感を失っていく ななえなんて、誰も見たくないの」
ななえ「………」
涼 子 「今ならまだ間に合う。もうそれ以上透明感を失わないで」
ななえ「じゃあ、わたしに辞めろっていうのね? 役者のお仕事を」
涼 子 「そんなことじゃ……でも、自分を貶めてまで、 この仕事に執着しなくても……」
ななえ「わたしには芸能界しかないのよ、自分の居場所が……」

(カットバック)
指向性マイクがななえの席に向いている。
剣持とあおい、それぞれイヤホンを耳に差し、ななえたちの会話を盗聴している。
ななえの声「小さい頃からずっとそう……お芝居することでしか、自分の存在ってことを確かめられなかったの……だか ら……」

(カットバック)
ななえと涼子。
ななえ「何としても生き残りたい……生き 残らなきゃいけないの。誰が何と言おうと……あの男がどんな脅しをかけてきても……」

(カットバック)
剣持、あおい、顔を見合わせる。
涼子の声「あの男って?」
ななえの声「あの男よ、前にも話した……」

(カットバック)
ななえと涼子。
涼 子 「まだ気にしてるの? 言ったでしょ? あれはななえの思い過ごしだって」
ななえ「やっぱり涼子さんは信用しないのね」
涼 子 「(弱った表情)……」
ななえ、憂鬱そうに窓外に目を移す。

○ 伊勢崎町商店街・紅茶専門店の店頭(夕方)(日替り)
ななえ、紅茶を吟味している。

○ 玩具店・店内
剣持、窓ガラス越しに、正面の店で紅茶を買おうとしているななえを監視。
店の主人、訝しげに近寄る。
主 人 「お客さん?」
剣 持 「(ななえを見ている)」
主 人 「(肩を叩く)お客さん?」
剣 持 「ん?」
主 人 「さっきからずっとそこに突っ立ったままですけど……買うンですか?」
剣 持 「あ? うん……」
と、バツが悪そうに目の前に あったゴリラのマスクを触る。
主 人 「それなんかどうです? 今度のクリスマスに。 お子さんも喜びますよ、きっと」
剣 持 「そうかな……」
主 人 「(マスクを手に取って)どうです? 被ってみては?」
剣 持 「いや、いいですよ」
主 人 「まあまあ、そう遠慮しないで」
剣持、強引にマスクを被せら れる。
主 人 「ホラ、ピッタリじゃないですか」
ゴリラの剣持、窓外をチラリ と見る。
ななえが買い物を済ませ、店の外へ。
剣持、急いでマスクを脱ごうとする。
が、脱げない。
ななえを見ると、どんどん遠ざかる。
あたふたする剣持。
そこで、剣持、五千円札を主人に掴ませ、急ぎ足で店を出て行く。
主 人 「お客さん、お釣、お釣!」

○ 伊勢崎町商店街
歩くななえと、尾けるゴリラの剣持。
ななえ、ピタと立ち止まり、ふり返る。
ゴリラ、立ち止まり、空を見上げている。
ななえ「………」
ななえ、ふたたび歩き出す。
ゴリラも歩く。
ななえ、またふり返る。
ゴリラ、白々しくタバコをふかしている。
歩き出すななえ。
ゴリラ、追う。
歩調を速めるななえ。
ゴリラも歩調を速める。

(時間経過)
警官に連行されるゴリラ。

○ JR 桜木町駅付近
あおい、携帯電話へ。
あおい「え!? 見失っちゃったンですか?」
剣持の声「面目ない」

○ 交番
剣持、携帯電話へ。
剣 持 「でも、そう遠くには行ってないはずだ。あとは頼んだぞ」

○ 歩道(夜)
人気がない。
歩いているのは、ななえ一人。
と、ななえ、フッと立ち止まる。
そして、怯えた表情でゆっくりふり返る。

○ ななえを探すあおいのショット

○ 京浜急行の高架下
人通りがまったくない。
ななえ、怯えた表情で後退りする。

○ 川沿いの道
ピー! と、けたたましいベルの音。
あおい、ハッとふり返る。

○ 京浜急行の高架下
あおい、駆けつける。
すると、服装を乱したななえが、その場に呆然としゃがみ込んでいる。
その足元では防犯ベルが鳴り響く。
あおい「(駆け寄り)どうしたンです!?」
ななえ「……いま……男に襲われて……」
あおい「襲われた?」
ななえ「(震えながら、頷く)」
あおい「その男の特徴とか分りますか?」
ななえ「(震えている)」
あおい「服装は?」
な なえ「カーキ色のジャンパー」
あおい「それで、どっちに逃げましたか?」
ななえ「(ある一方を指差す)」
あおい「ここを動かないで」
あおい、ダッと駆け出す。

○ 歩道
あおい、辺りを見回す。
が、それらしき男は見当たらない。

○ 京浜急行の高架下
あおい、戻ると、
あおい「?」
そこにななえの姿はない。
紙袋に入った紅茶が置き忘れてある。
あおい「(拾って)……」

○ 別の歩道
あおい、ふと見ると、ななえの姿。
あおい、その後を追う。

○ 『ムーンライト・リミテッド』・社長室(数日後)
剣持とあおい、鳥山と対面している。
鳥山は報告書に目を通しながら、
鳥 山 「そうですか……ななえはまだそんなことを言ってるンですか……」
剣持、あおいと訝しげに顔を見合せると、
剣 持 「そんなことって……じゃア、ご存知なんですね、社長さんは? ななえさんが何者かに狙われてるってことを……」
鳥 山 「(苦笑)狙われてるなんてとんでもない。発作ですよ、それがあの娘(こ)の」
あおい「発作?」
鳥 山 「それにしても、まだあのことを気にしてるなんて……(ななえの処方箋)しかも、精神安定剤まで服(の)んだりして…… これは相当の重症ですね」
剣持、あおい「(キョトンとしている)」
鳥 山 「いえね、実のところ、最近のななえの活動を好ましく思ってない連中がいるンです、ファンの中にはね。ななえの汚れ役なんか見たくないって言って……それ で、脅迫状を送りつけてきた人間もいたンです」
あおい「それじゃア、ななえさんはひょっとしてその男に……電車に飛び込んだのも、その男に突き落とされたンじゃ?」
鳥 山 「私もななえからその話を聞かされて、ずいぶん 警戒したものです。関係者にもそのことを言い渡したりして……ところが、ある時、ななえがこう言ったンです。あの男がTV局の駐車場で襲いかかってきたっ て。この話を聞いて、私は怪しいと睨んだンです」
剣 持、あおい「(ジッと聞いている)」
鳥 山 「TV局は警戒が厳しい。とても部外者が入れるような場所ではないンです。だから、ななえはノイローゼか何かにかかっているンじゃないかって、私は思った ンです」
あおい「でも、あの怯え方は尋常じゃありませんでし た」
鳥 山 「それなら、お訊きしますけど、あなたは実際、 ななえが襲われる現場を目撃されたのでしょうか?」
あおい「(口籠る)それは、その……」
鳥 山 「幻覚ですよ。脅迫状が送られたことに対して、 ななえは神経質になり過ぎた。そこからノイローゼになった。ノイローゼの症状がななえに幻覚を見せているンです。ま、麻薬の症状でないのは幸いでしたけ ど」
あおい「………」
剣 持 「じゃア、調査内容にはご満足を? 延長を申請されるなんてことは……」
鳥 山 「満了ということで結構です」
剣 持 「(安堵して)そうですか? ハハ、そりゃよかった、助かります」
鳥 山 「ハ?」
剣 持 「いやいや、べつに」
あおい「最後にお訊きしても?」
鳥 山 「何でしょう?」
あおい「これから先、ななえさんはどうなるのでしょ う?」
鳥 山 「そうですね……病状が回復するまでは当分、このままの状態かと……」

○ 都市高速
横浜方面に走るルノー。
あおいの声「剣持さんは、ななえさんが本当に幻覚を見てると思います?」
剣持の声「そうなんじゃないの? それを裏づける証拠も色々あるンだし……」

○ ルノー・車内
運転する剣持と、助手席のあおい。
あおい「何か、吹っ切れないンだよなあ」
剣 持 「余計な詮索は失敗のもとだぞ」
あおい「?」
剣 持 「納得のいくまで調べてみたい気持ちは分るよ?  でも、いつまでもズルズル引きずってたら、次の調査に支障が出てくる。忘れちまえよ」
あおい「………」

○ あおいのアパート・部屋(その夜)
パジャマ姿のあおい、腕を頭の後ろで組んで、仰向け。物思いに耽っている。
あおい、寝返りを打つ。
と、目の前には、ななえが落として行った紅茶の缶が置かれてある。
あおい、それを手に取る。

○ ベルメゾン・402号室・玄関(翌朝)
私服のあおい、紅茶の缶を抱えたまま、インターホンを鳴らす。
ふと天井を見ると、監視カメラがこちらを向いている。
ななえ、少しだけ扉を開け、警戒したようにあおいの顔を見る。
あおい「あ、こないだは、どうも」
ななえ「(ジッと見ている)……」
あおい「あの、これ(紅茶)を……」
ななえ「(ジッと見ている)……」

○ 同・ 居間
陽当りのよい、広々とした部 屋。
中央にはダイニングテーブルが置かれ、あおい、席に座っている。
その傍では、ななえが紅茶を注いでいる。
あおい、ふっと視線を移すと、トレーニングマシーンが置かれてある。
あおい「(独り言)運動不足にはならないわけ だ……」
ななえ「え?」
あおい「いや、べつに」
ななえ「(紅茶を差出す)どうぞ」
あおい「ア、どうも」
あおい、紅茶を口に運び、何 を話してよいものかと思いを巡らせる。
あおい「ななえさんって、背が高いンですね。いくつ ぐらいあるンです?」
ななえ「168……」
あおい「いいなあ……あたしなんか、学生時代、毎日牛乳を1リットル飲んでたンですけど、ダメでした。骨が丈夫になるばっかしで。たぶん、あたしなんか、 木製のバットで殴られても、平気なんじゃないかな」
ななえ「………」
あおい「………」
あおい、紅茶を飲んで、言葉を探し、
あおい「これってアールグレイですね? あたし、 アールグレイ好きなンですけど、あんまし缶カンで売られてないンですよね? 日本人の口にはあまり合わないのかな」
ななえ「橘さんでしたね? あなた、普通のお仕事さ れてるンじゃないでしょ?」
あおい「はい?」
ななえ「一度会っただけで、わたしの居場所が分るなンて……」
あおい「………」
ななえ「新聞社の方ですか?」
あおい「いや、そんなンじゃ……実は……」
と、自分の名刺をななえに差 出す。
ななえ「(名刺を見て)『マーシャル・エージェンシー』……探偵さん?」
あおい「実は、あそこでお目にかかってから、あなたの後を尾けてみたンです。それで、気になったことがあって……あの後、警察には被害届を出されませんで したね? どうしてです?」
ななえ「(俯く)……」
あおい「警察に行くと、マズイことでも?」
ななえ「(俯いたまま)……」
あおい「ひょっとして、あの男を庇ってるンです か?」
ななえ「(顔を上げ)普通、庇ったりしますか? 自分に危害を加える人間を……」
あおい「じゃア、どうして?」
ななえ「べつに盗(と)られたものもな かったし、ケガさせられたわけでも……通り魔ですよ」
あおい「それは嘘ですね?」
ななえ「?」
あおい「あれが通り魔だっていうンなら、どうして玄関先に監視カメラを取り付けてるンです? それに防犯ブザーを持ち歩いたりして……」
ななえ「こういうお仕事をしてると、警戒心が強くな るンです」
あおい「普段から狙われてるンじゃないですか、あの男に? ねえ、ななえさん、あたしは探偵です。警察に行けない理由があるのなら、何でも話してくださ い。力になりますから」
ななえ「お願いを聞いてくださるンですね?」
あおい「何でも」
ななえ「それなら、二度とわたしに近寄らないでくだ さい」
あおい「………」
あおい「あなたにはそのことが言いたかったンです」
あおい「………」

○ あおいのアパート・部屋(午後)
TVをぼんやり眺めるあお い。
と、電話が鳴る。
あおい「(出る)はい、橘です」
剣持の声「剣持だ。休日のところ申し訳ないンだけ ど、ちょっと会社に出てきてくれ」
あおい「今からですか?」

○ 横浜支局・局長室
剣持とあおい、立ったまま、 デスクの伍代と向き合っている。
伍代はいつも以上に不機嫌。
木村、その様子をハラハラと見守る。
あおい「(目を丸くして)え? ななえさんがそう言ってきたンですか?」
伍 代 「ああ。お宅の社員に売込みをかけられて迷惑してる、二度と顔を出さないように注意してくれって。クレームの電話だ」
あおい「ちょっと待ってください。第一、あたしは研修中ですよ? 売込みかけたって、一円の得にもならないじゃないですか!」
伍 代 「とにかく相手にはそう受け取られたンだ。それとも何か? サインでも貰いたかったのか?」
あおい「真相を確かめたかったンです。ななえさんが誰かに狙われてるのかどうか、本人の口から聞きたかったンです」
伍 代 「それを聞いてどうしようと思った?」
あおい「だから、もし、狙われているンなら、あたしが力になるって……」
伍 代 「それが売込みだと言うンだ!!」
あおい「………」
伍 代 「いいか? お前は秋本ななえの家にズカズカ上がり込んで、相手が訊かれたくないことを根掘り葉掘り訊こうとした。つまり、相手のプライバシーを侵害しよ うとした。会社の看板に泥を塗るようなことをしたンだ。非常識きわまりない!」
あおい「………」
伍 代 「それに、非常識と言えば、何だ、その服装は?  普段着のままで。ここはコスモワールドとは違うンだぞ?」
あおい「(声を詰まらせ)スミマセン……」
伍 代 「(木村に)本社もずいぶんな奴を回してくれたな? 人選ミスだぞ、これは」
木 村 「(弱ったような笑み)」
剣 持 「いや、こいつ、休暇だったから、ウッカリして たンです。(あおいに)なあ?」
あおい「………」
伍 代 「それから、お前だよ」
剣 持 「ハ?」
伍 代 「お前の管理能力が足りないから、こんなことに なるンだ」
剣 持 「そんなムチャですよ。こんなことやるなんて言ってなかったンだから……」
伍 代 「何年この仕事やってる? 相手の態度から次の行動を読み取るンだな」
剣 持 「(呆れる)」

○ 赤レンガパーク(夕方)
あおい、ベンチに座ってしょんぼり。
剣持、近づいて、缶珈琲を差出す。
あおい「?」
剣 持 「ホレ」
あおい「(缶珈琲を受け取る)」
剣持、あおいの隣に座り、珈琲を飲む。
剣 持 「あんまし気にすンじゃないぞ、伍代の言うことなんか。いつもあんな調子なンだからサ。いちいち気にしてたら、神経がもたねえよ」
あおい「気になんか……あたしが気になってるのは、 ななえさんのことですよ」
剣 持 「(苦笑)まだ言ってるよ、こいつ」
あおい「ねえ、剣持さん、ななえさんと契約を結んで もらえませんか?」
剣 持 「(珈琲を吹き出しそうになる)」
あおい「そうすれば、あたしたちは思い切り調査がで きるようになるンです。局長に文句は言わせませんよ」
剣 持 「おいおい、秋本ななえはおれたちに嗅ぎ回られ るのを嫌がってンだぞ?」
あおい「ななえさんは誰かに狙われてると主張したの に、誰も信用してくれない。それで、人間不信に陥ってるンですよ、きっと。心の底では誰かに助けを求めたいンですよ。警戒心を解いてやれば、ななえさんは 真相を話してくれるンじゃないでしょうか?」
剣 持 「慈善事業は性に合わねえよ」
あおい「これはビジネスですよ。契約が結べれば、剣持さんにも歩合が付くンだし……」
剣 持 「(チラリとあおいを見る)」
あおい「だからね、こうするンです。ななえさんより 先に、あたしたちが不審者の証拠を掴む。それをななえさんに提示する。そうすれば、ななえさんだって……」
剣 持 「もし、契約しないって言われたら?」
あおい「(口籠る)その時は……」
剣 持 「それに、不審者だっているかどうか分らないンだ。動き回って、やっぱりいませんでしたってことになりゃ、どうする?」
あおい「………」
剣 持 「(立ち上がる)できない相談だ……おれにはもう時間がないからな」
あおい「どういう意味です?」
剣 持 「(本題に戻り)それに、あの女(ひと)だって、危なくなりゃ警察に駆け込むだろうよ」
あおい「だから、そうできない何かがあの女(ひと)にはあるンですよ! (考えて)ひょっとしたら、警察内部にななえさんを狙ってる奴がいて……」
剣 持 「(呆れて)ハヤカワ・ミステリか? そのうち、CIAの陰謀なんて言い出すンじゃないだろうな?」
あおい「あたしは真面目です」
剣 持 「それが弁護士を目指してた奴の発想なのかね え……」
あおい「人間一人の命に関わることかも知れないンですよ? あの女(ひと)には最後の砦になるものが必要なンです。アラモの砦みたいにね」
剣 持 「おれは、アラモの連中みたいに心中するつもりはないからな」
あおい「(諦めたように)……所詮、あたしたちはサラリーマンなンですね……」
剣 持 「?」
あおい、これまでにないほど落ち込む。
剣 持 「(近寄って)なあ、あおい……おれだってサラリーマンになりたくて、会社に入ったンじゃない。探偵って仕事には、推理小説を捲るような面白さがあるから な。自分の好きなことができれば、会社の利益な んて知ったことじゃない、そう思ったこともあったよ。でもな、この会社で長くやってくためには、頭を低くして生きることだ。それが組織ってものの仕組みな んだ」
あおい「………」
剣 持 「お前もあと一、二年すりゃ分るよ」
あおい、席を立ち、歩き出 す。
剣 持 「何、帰るの?」

○ 海岸通
黙々と歩くあおいと、機嫌を 伺う剣持。
剣 持 「あおい? あおいちゃん?」
あおい「(黙々と歩く)」
剣 持 「ア、そうだ、メシでも食べよう、な? この近くに美味(うま)い店があるンだ。ワタリガニのクリームパスタ。ア、何だったら、おれが奢るよ。だから、 な?」
あおい、手を挙げて、タクシーを止める。
剣 持 「?」
あおい「(ふり返って)あたし、カニは嫌いなンで す!」
と、乗り込んで、タクシー、 発進する。
剣 持 「………」

○ 横浜公園付近
歩いていた剣持の足元にボールが転がる。
剣 持 「?(と、拾って、辺りを見回す)」
声   「スミマセーン」
キャッチボールをしていたと思われる少年が、合図を送っている。
剣 持 「いくぞ?」
剣持、投げてやる。
と、ボールが通行人の後頭部を直撃!
剣持も少年二人組も、唖然。
通行人の男、頭をさすりながら、少年二人に詰め寄って、
男   「危ないじゃないか!」
少年1「おれたちじゃないよ」
少年2「(指差す)あの人だよ」
男   「?(と、見る)」
剣持、木陰に隠れ、こっそり見ている。
男   「剣持じゃないか?」
剣 持「(気づいて)早瀬?」

○ ショットバー・店内(夜)
剣持、早瀬丈一(32)と向き合って座っている。早瀬は物静かな男である。
早 瀬 「疲れてるな?」
剣 持 「え?」
早 瀬 「顔色で分るよ。これでも薬剤師だから」
剣 持 「(苦笑)実言うとそうなンだ。最近すぐに眠たくなる」
早 瀬 「年齢(とし)だな」
剣 持 「バカ……ストレスだよ」
早 瀬 「ストレスか……ま、無理もないだろうな。伍代が局長に就任して、おれも三日目から胃の調子がおかしくなった。その点、お前なんかよく耐えてるよ」
剣 持 「お前はいいタイミングで辞めたよ。あれから出資元が変わってな……」
早 瀬 「ああ、噂には聞いてる。営業成績の悪いエー ジェントは、片っ端にクビにされるそうだな? お前なんかキツイんじゃないか? バカ正直な性格だからな……」
剣 持 「働けど働けどわが暮らし楽にならず、じっと手を見る」
早 瀬 「ところで、みんなはどうしてる? 小山内なんか元気か?」
剣 持 「辞めたよ、お前が辞めて三ヵ月後に」
早 瀬 「神崎は?」
剣 持 「三か月前に辞めた」
早 瀬 「ひょっとして工藤も?」
剣 持 「ああ」
早 瀬 「じゃア、同期で残ってるのは、お前だけってことか?」
剣 持 「松下はいるよ。本社に栄転だ」
早 瀬 「あいつは要領がよかったからな」
剣 持 「………」
早 瀬 「(ため息を吐いて)小林局長が生きててくれれば、みんな辞めずに済んだのにな……何でまた、心臓麻痺なんかで……」
剣 持 「ストレス……いや、小林さんは殺されたンだよ、会社にな」
早 瀬 「ええ!?」
剣 持 「なあ、早瀬、おれは最近、よく思うンだけどな……小林さんは顔に出すことはなかったけど、けっこう無理してたンじゃないのかな。あの人は自分が納得する まで調査を続けろ、会社の利益なんか二の次 だって、そういう人だった。でも、会社は利益を優先させろって、あの人を押さえつける。小林さんはその重圧に押し潰されたンだよ」
早 瀬 「………」
剣 持 「伍代局長にも問題はある。出資元にも問題がある。でもな、一番の元凶は、会社の営業方針なんだ。利益にならない依頼は片っ端から切り捨てて、社員を歯車 の一部にしか思っていない。その本質はずっと前からあったンだ。ただ、局長や出資元が変わったことで、それが露骨に見えるようになった……それだけの話な ンだ」
早 瀬 「そこまで憤りを感じてるなら、どうして会社を辞めないンだ?」
剣 持 「おれにはお前みたいに薬剤師の資格があるわけでもなし……探偵しか能がないからな……」
早 瀬 「お前は探偵を続けたいンだろ? だったら、何も会社にしがみつかなくても……」
剣 持 「じゃア、訊くけど、福利厚生のある探偵社が今の日本にどれだけある? 失業と隣り合わせなんて、真っ平だな」
剣持、グイッとグラスのカクテルを呷(あお)る。
早 瀬 「やっぱり年齢(とし)取ったよ、お前は……」
剣 持 「?」
早 瀬 「いいか? お前はまだ三十二。おれみたいに女房、子供だっていない。まだまだ潰しは効くよ……なあ、剣持、自分を諦めるな。世の中ってのは、お前が思っ てるほど狭くはないのかも知れないぞ?」
剣 持 「………」

○ 山下公園
剣持、手すりに寄りかかり、海を見る。
その物思いに耽る表情。
海の向こうでは、ベイブリッジのネオンが明滅をくり返している。

○ 横浜支局・オフィス
珈琲ポットの前で珈琲を飲んでいた剣持、思わずこぼしそうになって、
剣 持 「(目を丸くして)ホントですか!?」
木村、「辞表」と書かれた封筒を差出し、
木 村 「今朝来たら、おれのデスクに……」
剣持、木村から「辞表」を引ったくり、
剣 持 「(読む)……一身上の都合から退社させていただくことをお許しください。なお、給料は日割計算でお願いします。橘あおい」
木 村 「家に電話しても出ないし、携帯もつながらないンだ」
剣 持 「だから、女は嫌だって言ったンですよ! あいつらはね、気に入らないことがあると、すぐにこういうことやらかすンだから」
木 村 「お前、何かやったンじゃないのか?」
剣 持 「何かって?」
木 村 「(ニタリと)おっぱい触ったとかさ」
剣 持 「やるワケないでしょ!! そんなことしたら、今頃病院送りですよ」
木 村 「(宥める)まあ、まあ」
木村、周りの社員の目を気に して、
木 村 「(声を潜めて)それより、局長はまだこのことを知らない。今日一日バレないようにしてやるから、連れ戻して来い」
剣 持 「(不貞腐れている)」
木 村 「できるか?」
剣 持 「まあ、行く宛はだいたい分りますけど」

○ ×× 精神科・表(午後)
出てくるななえ。
少し離れた場所から監視するあおい。

○ 元町商店街
歩くななえと、尾けるあおい。

○ ベルメゾン・402号室・寝室(夜)
ななえ、ベッドに潜る。

○ 路上
あおい、ベルメゾンを見上げている。
402号室の明かりが消える。
あおい、ブルブルと身震い。
北風があおいの頬に叩きつける。
あおい、マフラーで口元を覆い、腕組みして体温の温存を計ろうとする。

○ 商店の軒下
シャッターが閉まっている。
あおい、自販機でホット珈琲を買う。
あおい、フタを開け、飲もうとすると、
「バアッ!!」
と、ゴリラのマスクを被った男が電柱の陰から飛び出す。
あ おい「!!(と、 思わず仰け反る)」
ゴ リラ「ハハハ、おれだよ、おれ」
と、ゴリラ、マスクを脱ごう とするが、なかなか脱げない。
あおい「(睨んで)怪しい奴……」
ゴリラ「バカ、バカ、おれだって!!」
あおい、問答無用、ゴリラに跳び蹴り。
吹っ飛ぶゴリラ。
ゴリラ、仰向けのままピクリともしない。
あおい、ゴリラのマスクを脱がせると、
あおい「!?」
剣持が目を回している。

(時間経過)
剣持、あおい、睨み合っている。
あおい「あたしは帰りませんからねッ」
剣 持 「それだとおれが困るンだ。(あおいの手首を掴 んで)な? 帰ろう」
あおい「(振り払う)嫌ですよ」
剣 持 「(手首掴む)帰ろう」
あおい「(振り払う)嫌!」
剣 持 「(洋服を掴んで)帰るンだって!」
あおい「嫌ですって!!」
あおい、剣持を思い切り払い退ける。
剣持、シャッターに頭をぶつける。

(時間経過)
あおい、立ったまま珈琲を飲んでいる。
剣持、うずくまってイジケている。
剣 持 「おれな、本当だったら一か月前にクビになってるンだ。営業成績が横浜支局で最下位なンだ。それがずっと続いていた」
あおい「?」
剣 持 「でも、最近になってようやくコツが掴めてきたンだ、成績を上げるためのコツがな。今、ここでクビになったら、これまでの苦労が台無しになる。そこで、最 後のチャンスを貰ったンだ。この一か月でお前の研修を勤め上げること、そして、一か月以内に二件の契約を挙げること。会社はその条件でおれのクビを見直 すっていうンだ」
あおい「………」
剣 持 「あと一件契約が取れれば、チャラになる。でも、今、お前に辞められたら、おれが会社に残ってる口実がなくなる。つまり、即座にコレ(首を切る真似)なん だ」
剣持、立ち上がって、あおいに詰め寄り、
剣 持 「あと五日だ。五日経てば、お前の研修は終わる。会社を辞めようがどうしようが好きにしたらいい。でも、あと五日だけおれの傍にいてくれないか? 頼む よ」
あおい「でも、その五日のうちに、またあの男が現れるかも……」
剣 持 「よし、じゃあ、こうしよう。今日から二日間は おれがお前に付き合う。でも、残りの三日間はお前がおれに付き合う。これでどうよ?」
あおい、考える。
剣持、ジッとあおいの反応を待つ。
あおい、頷く。
剣 持 「よし、決まりだな。じゃ、指キリ」
と、小指を差出す。
あおい、指キリを交わす。
二人、思わず微笑み合う。

○ 停車したルノー・車内(深夜)
運転席の剣持と、助手席のあおい。二人とも毛布を被っている。
剣持、窓外を見る。
と、サンタの格好をしたヘベレケの女を、男二人が支えながら通り過ぎて行く。
剣持、ベルメゾンを見上げる。
所々のベランダにはクリスマスツリー。
剣 持 「お前、今日は予定とかないの?」
あおい「何のです?」
剣 持 「だって、今日はイエスさんが生まれた日だよ?  例えば彼氏とデートとかさ」
あおい「いませんよ、そんなもの」
剣 持「別れちゃったンだ?」
あおい「もともといませんよ」
剣 持 「へえ、そうなんだ」
あおい「ずっといませんよ」
剣 持 「(目を丸くして)そうなの!?」
あおい「男の人ってみんなそうなんです。あたしが少林寺やってるって分ると、みんな避けて行くンです」
剣 持 「そりゃ、災難だな……」
あおい「もう馴れました。これからもずっとそうなんですよ。たぶん、ずっと……」
あおい、何気なく剣持を見 る。
と、剣持、あおいの顔をジッ と見ている。
あおい「……な……何です?」
剣 持 「お前、可愛いのにな」
あおい「え?」
剣 持 「運がなかったまでだよ、これまではな。男を好きになったりはするンだろ?」
あおい「ええ……そりゃ、人並みには……」
剣 持 「だったら、次に好きになった男にはモーションかけてみなよ」
あおい「モーション?」
剣 持 「例えば、積極的に話しかけてみるとか、お洒落でもしてみるとか」
あおい「髪の毛染めるのは嫌ですよ」
剣 持 「何も茶髪にしろとは……そうだ、ネックレスなんかいいンでないの? アクセサリーひとつで女の印象って、結構変わってくるもんだぞ?」
あおい「あたしに似合うでしょうか……?」
剣 持 「似合うさ! おれはバカが付くぐらいに正直者なんだぞ? 似合わない奴にはこんなこと言わないよ」
あおい「ホントに?」
剣 持 「ああ」
あおい「ホントにホント?」
剣 持 「ああ」
あおい「ホントにホントにホントに?」
剣 持 「しつこいねえ、お前も」
あおい「(恥ずかしがって)やだ、もう!」
と、剣持を小突く。
剣 持 「(小突き返す)何すンだよ」
あおい「やだ!」
あおいは軽く小突き返したつもりだろうが、剣持はサイドガラスに頭をぶつける。
剣 持 「(頭をさすりながら)……」
あおい「(火照った頬を掌で覆っている)」

(時間経過)
剣持とあおい、パンを頬張っている。
と、剣持、前方を見て、手を止める。
剣 持 「おい(と、肩を突つく)」
あおい「?」
剣持の指差す前方を見る。
窓外―ベルメゾンの傍に挙動不審の男。
身長は175〜180cmぐらいの痩せ型。
帽子を目深に被っている。
男、佇んだまま、402号室を見ている。
あおい「アパートの住人でしょうか?」
剣 持 「そう見えるか?」

○ 双眼鏡越し
男、パイプ伝いにベルメゾンの壁をよじ登っていく。
あおいの声「あの男がななえさんを襲うとしたら……どう やって部屋の中には?」

○ 4F 建てのビル・屋上
そこからはベルメゾンの通路を真正面に望むことができる。
剣持、一眼レフを覗き、その傍ではあおいが双眼鏡を覗いている。
剣 持 「錠前ぶっ壊すことだってできるだろうさ。何が何でも部屋に入りたいンならな」

○ 双眼鏡越し
男、4F通路に出る。
そして、402号室の傍に来て、止まる。
男、天井の監視カメラを見上げる。
そこは監視カメラの死角になっている。

○ 4F 建てのビル・屋上
固唾を呑んで見守る剣持とあおい。

○ 双 眼鏡越し
男、懐からスパナを取り出 し、監視カメラを破壊する。
あおいの声「間違いありません! あの男はななえさんを狙っています」

○ 4F 建てのビル・屋上
あおい「(剣持を見て)どうします?」
剣持、カメラのシャッターを 切る。
あおい「どうします?」
剣 持 「(写真撮る)」
あおい「(苛々と)どうするンですか!?」
剣 持 「(ファインダーから目を離し)分ってるよ!  とりあえずお前はアパートの傍で待機してろ」
あおい「了解」

○ 同・ 階段
駆け下りるあおい。

○ ベルメゾン・4F・通路
男の足元に破壊された監視カメラ。
男、手袋をはめた手で針金を取り出し、錠前に差し込む。

○ 4F 建てのビル・屋上
剣持、しきりにシャッターを 切る。
が、ふっとその手を止めて、
剣 持 「?」

○ 一眼レフのファインダー越し
男、手を止めている。
住人の夫婦が歩いて来る。
夫婦は男の様子を訝しげに見る。
男、去って行く。

○ 4F 建てのビル・屋上
剣持、トランシーバーを掴 み、
剣 持 「(呼びかける)あおい! あおい!!」
あおいの声「こちら橘」
剣 持 「奴が出て行く。尾行しろ」

○ ベルメゾン・正面入口
男、後ろ髪引かれるようにして出て行く。
あおい、物陰から出て、尾行を開始。

○ 道
歩く男と、それを尾けるあおい。
男、角を曲がる。
あおい、急ぎ足で近づき、角を曲がる。

○ 別の道
あおい、来て、男の姿を見つける。
黒い4WDに乗り込む男の後姿。
車にはナンバープレートがない。

○ 4F 建てのビル・屋上
剣 持 「(トランシーバーに)何? ナンバープレートが外されてる!?」

○ 国 道16号線
磯子方面へ走る黒の4WD。
それをルノーが追跡。

○ ルノー・車内
フロントガラス越しには、 4WD。
運転しているのは、あおい。
助手席の剣持、一眼レフの照準を4WDに合わせ、シャッターを切る。
剣 持 「(撮り終わり)これからは少し離れて奴を尾行 する。いいか? 気づかれるなよ。このまま奴の住処を突き止めてやるンだ」
あおい、ぐんとスピードを落 とす。
剣持、携帯電話をかけて、
剣 持 「剣持だ。今、ターゲットを追跡してる。おれの車一台だと、見失うかも知れない。悪いけど、これからちょっと手伝ってくんねえかな?」
女エージェントの声「ごめん。わたし、今、都内のほうにいるンだよね」

(時間経過)
剣持、引き続き携帯電話で話す。
男 エージェントの声「すみません。ぼくも張込み中で、身動き取れないンです」
剣 持 「そっか」
男エージェントの声「剣持さんたち、今、どの辺り走ってるンです?」
剣 持 「(標札見て)金沢区に入ったところ」
男エージェントの声「ああ、それだったら横須賀に連絡してみたらどうです? エージェント回してくれるかも」

(時間経過)
剣持、引き続き携帯電話で話す。
オペレーターの声「こちら、『マーシャル・エージェ ンシー』横須賀支局、斎藤が賜ります」
剣 持 「横浜支局、剣持と言います。今、ターゲットを 追って、金沢八景付近を通過してるところなンです。お忙しいところ恐縮ですが、エージェントを至急回してもらえませんでしょうか?」
オペレーターの声「剣持さん、失礼ですが、横須賀支局の局長に承認をお取りですか?」
剣 持 「いいえ」
オペレーターの声「承認がないと、エージェントをお貸しすることは……」
剣 持 「分ってます、分ってますよ! でもね、今は一刻を争うンです。ひょっとしたら人間一人の生き死にを左右するかも知れないンです。何とか考慮してもらえま せんか?」
オペレーターの声「あいにく、私の一存では決めかねるので……」
剣持、前方を見ると、巨大な トレーラーが割り込み、視界を遮る。
剣 持 「それなら、局長をお願いします」
オペレーターの声「本日はもう帰宅しました」
剣 持 「じゃア、局長の電話番号を教えてください」
オペレーターの声「あいにく、私の一存では決めかねるので……」
剣 持 「副局長はいらっしゃいますか?」
オペレーターの声「帰宅しました」
剣 持 「副局長の電話番号は?」
オペレーターの声「あいにく、私の一存では決めかねるので……」
剣 持 「(カッとなって)決めかねてンじゃねえよ、ぼけ!! (怒りを抑え)分った、分った。あんたが職務熱心なのはね。でも、このことに関してあんたに責任は ない。おれが責任を取るから」
オペレーターの声「あいにく、私の一存では決めかねることなので……」
剣 持 「斎藤さんとか言ったな? 今日のことは上層部に取り上げてもらうからなッ」
オペレーターの声「いや、それは……」
剣 持 「私の一存では決めかねるので。(と、電話切っ て)クソったれ!!」

○ 一車線の道路
信号が赤に変わる。
4WD、トレーラー、ルノーの順で停車。
トレーラーの車体はルノーの視界をすっぽりと遮っている。
信号―赤から青へ。
4WD、発進する。
が、トレーラーは停車したままである。

○ トレーラー・運転席
運転手、ウトウトしている。

○ ルノー・車内
あおい「もう! 何してンのかな」
と、クラクションを鳴らす。

○ 一車線の道路
前のトレーラーに続き、発進するルノー。

○ ルノー・車内
剣持、右側の小道を見て、 ハッとする。
剣 持 「おい、前の奴を追い越せ」
あおい「交通法第27条に違反します」
剣 持 「ゴチャゴチャ言わずに早く!!」

○ 一車線の道路
ルノー、対向車線を跨いで、前方へ。
と、4WDの姿はない。

○ ルノー・車内
あおい「車が消えた?!」
剣 持 「やっぱし、さっきの道に曲がったンだな? 引き返せ」

○ 一車線の道路
ルノー、急旋回し、引き返す。
すると、脇に控えていたパトカー、発進。

○ 小道
ルノー、曲がって来る。
しばらく進むと、前方に4WDの姿。
が、後方からパトカーのサイレンが鳴り、
パトカー「そこのルノー、停まりなさい! そこのルノー、停まりなさい!!」

○ ルノー・車内
あおい「(不安げに)どうしましょう!?」
剣 持 「得意の跳び蹴りでやつけて来いよ」
あおい「そんなムチャクチャな!」

○ 小道
ルノー、道路脇に停車する。
その前方にパトカーも停車する。
剣持とあおい、車から降りる。
4WD、闇の向こうに消えて行く……。
剣持、あおい「(なす術な く見送る)……」

○ ベルメゾン・402号室・居間(翌朝)
テーブル上には、監視カメラの残骸。
ななえ、驚愕の表情で見つめている。

○ 横浜支局・現像室(午後)
剣持、写真を現像液に浸す。
現像液の中の写真―ななえの部屋に侵入しようとしていた男の姿が浮かび上がる。
その時、携帯電話が鳴って、
剣 持 「(出る)ハイよ」

○ バスターミナル
あおい、物陰に潜んで、乗客の中に並ぶななえを見張っている。
ななえ、旅行カバンを抱えている。
あおい「(小声で携帯電話に)ななえさんがバスに乗ろうとしています」

○ 横浜支局・現像室
あおいの声「あの分だと、どこか遠出しそうな感じで すね」
剣 持 「引き止められるか?」

○ バスターミナル
あおい「何とかやって……(と、バスのほうへ視線を 戻すと)アア!!」
バスが発進する。
あおい「ちょっと待って!!(追いかける)」

○ バス・車内
揺られているななえ。
窓外では、あおいが走りながら、ななえに向けて合図を送っている。
気づかないななえ。
あおい、電柱に激突!
ななえ、まったく気づいていない。

○ 横浜支局・オフィス(夜)
剣持とあおい、席に着いている。
剣持はイヤホンを耳に差して、録音したテープを聴いている。
額に絆創膏を貼ったあおい、ガックリと肩を落として元気がない。
剣 持 「(イヤホンを外し)ななえさんの居場所が分っ たぞ」
あおい「(顔を上げ)ホントですか?」
剣持、イヤホンを差出す。
あおい「?(と、テープ聴く)」
ななえの声「もしもし? お兄ちゃん?」
男の声「ななえか?」
ななえの声「うん……急で悪いンだけど、明日、そっちに行ってもいいかな?」
あおい、訝しげに剣持を見 る。
剣 持 「こんなこともあろうかと思ってな、アパートのモジュラージャックにちょいとイタズラしといたのさ」
あおい「有線電気通信法第9条違反。違反したら、1 年以下の懲役、もしくは20万円以下の罰金」
剣 持 「警察に訴えるか?」
あおい「(首を横に振って)清濁併せ呑むのがこの商 売……でしょ?」
剣 持 「(ニタリと)分ってきたじゃない?」
あおい「(微笑む)」

○ 長野県戸隠村(翌朝)
白銀の山々。

○ 秋本義樹の家・表
人里離れた場所。
ペンションのような2階建ての丸木小屋。

○ 同・ 1F・居間
暖炉の中で薪がパチパチ音を立てている。
食卓に着いているななえと、新聞を読むひげ面の大男。男は秋本義樹(37)。
ななえ「ねえ、お兄ちゃん? しばらくここに置いて もらってもいいかな?」
義 樹 「(顔を上げ)?」
ななえ「……ダメ?」
義 樹 「何かあったのか?」
ななえ「そんなンじゃないンだけど、しばらくゆっく りしたいと思ってね」
義 樹 「だったら、広島に帰ったほうがいいンじゃねえのか? 親父もおふくろも喜ぶぞ」
ななえ「(苦笑)そしたら、お父さんたち、うるさいンだもん。実家に帰って来いって」
義 樹 「そりゃそうだろうよ。家出同然にウチを出て行ったンだからな」
そこへ秋本洋子(32)、 珈琲を運んでくる。その温厚そうな雰囲気。
洋 子 「何言ってンのよ。あなただって、お義姉さん夫婦にお義父さんたちを任せきりのくせに……」
義 樹 「………」
洋 子 「わたしは賛成よ。ななえちゃんがいてくれれば、玄太だって喜ぶし……」
ななえ「ありがとう」
義 樹 「仕事のほうはいいのか?」
ななえ「(無理して笑顔作り)うん」

○ 同・ 庭先
ななえ、楽しげに、秋本玄太 (8)と大きな雪だるまを作っている。
と、頭部が転げ落ちそうになり、
ななえ「玄太、もっと雪を持ってきて」
玄太、しゃがんで、雪を掻き 集める。
と、向こうに人の姿を見つけ、
玄 太 「?……」
ななえ「(玄太に)早く、早く!」
ななえも人の姿に気づいて、
ななえ「?……」
剣持とあおいが立っている。
あおい「その節はどうも」
剣 持 「こいつがご厄介をかけたようで」
ななえ「………」

○ 同・ 1F・居間
食卓に着いている剣持、あおい、ななえ。
ななえ、不審者の写った写真に驚きの表情を隠し切れない。
あおい「ななえさんを襲ったっていうのは、この男 じゃないンでしょうか? ななえさんを線路に突き落としたのも、脅迫状を送りつけてきたのも……」
ななえ「どうしてそのことを?」
剣 持 「独自に調べさせてもらいました」
ななえ「………」
ななえ、写真を置くと、席を立つ。
剣持、あおい「?」
ななえ、暖炉に薪を焼(く)べる。
ななえ「どうして……そんなにわたしのことを気にかけてくださるンです? わたしがどうなろうと、あなた方には関係ないことじゃないですか?」
あおい「それは……その……」
剣 持 「探偵だからですよ」
ななえ「?(剣持を見る)」
あおい「?(剣持を見る)」
剣 持 「これは殆ど病気みたいなものでしてね、一つの疑問があれば、徹底的に突き詰めてみなきゃ気が済まない。こいつ(あおい)なんか、おれが止せって言ったの に、ずっとあなたの傍を離れなかったンですからね」
ななえ「(あおいを見る)」
あおい「(照れくさそうな笑み)」
剣 持 「契約するかどうかはあなたの自由意志。でも、 今、あなたの身にどんなことが起ってるのか、話していただけると光栄です。もちろん、話す、話さないもあなたの自由です。おれたちは警察じゃありません。 証言を強要する権利なんかありませんからね」
剣持、ななえの表情をジッと伺う。
ななえは俯いたまま何も言わない。
剣 持 「そうですか……では、失礼しました。(あおいに)帰るぞ」
あおい「でも……」
な なえ「待ってください」
剣 持、あおい「?」
ななえ「その男は半年前からわたしに尾きまとっている……ストーカーです」
あおい「ストーカー? それなら、どうして警察に相 談しないンです?」
ななえ「警察には行きました。何度も、何度も所轄の警察に……でも……」

○ 所轄署・応接室(回想)
ななえと刑事、向き合って座っている。
刑事、「裏切り者! 死ね」と殴り書きされた手紙を眺めている。
ななえ「引越しても、何度も何度も送られて来るンで す。それに無言電話は毎晩。その送り主がわたしを殺そうとしてるンです」
刑 事 「しかしねえ、われわれは刑事事件に発展しないかぎり動くことができないンです」
ななえ「(何か反論しようとする)」
刑 事 「それに、こういう手紙は芸能人にはよくあることなんでしょ? ま、あんまり気にしないことですよ」
ななえ「………」

○ 義樹の家・1F・居間(回想明け)
ななえは再び食卓の席に着い ている。
剣 持 「警察にこれ以上相談しても無駄だ、そう思ったってわけですね?」
ななえ「(頷く)」
あおい「じゃア、このままストーカーの言いなりになるつもりですか?」
ななえ「言いなりというつもりでは……ただ、黙殺していれば、あの男もいずれ諦めるンじゃないかって、そう思ったンです。橘さんが探偵だって打ち明けてく れた時、わたしは本当のことを話したかった。助けがほしかった。でも……探偵を雇ったなんて相手に知られたら、もっともっと大変なことが起るンじゃない か? 相手を刺激することになるンじゃないか? それ が不安なンです。だから、このままでいたほうが……」
あおい「でも、黙殺を決め込んで、少しは事態が良くなりましたか? ななえさんが大人しくしてるのをいいことに、あの男はますます攻撃をエスカレートさせ てるじゃないですか!」
ななえ「それはそうですけど……」
剣 持 「こいつの言う通りですね。この問題を決着させるには、二つに一つです。奴を監獄に叩き込むか、あなたが命を落とすか」
ななえ「………」
剣持、小指をななえの目の前に突き出す。
ななえ「?」
剣 持 「指キリです。おれたちは奴の手足に楔(くさび)を打ち込んでみせます。こんな山奥に隠れなくたって、これからは大手を振って歩くことができるンです…… どうです?」
ななえ「(考える)……」
が、ななえ、決意して指キリを交わす。
剣持が微笑むと、ななえも微笑み返す。
あおい、微笑ましくそれを眺めている。
暖炉の炎がパチパチと音を放つ。

○ ベルメゾン・402号室・居間(二日後)(朝)
電話が鳴る。
ななえ「(警戒したように取り)……はい?」
鳥山の声「あ、私だ。久しぶり」
ななえ「……社長?」
鳥山の声「今日、事務所のほうに来てほしいンだ。話 したいことがある。来年からのお前の身の振り方についてな」
ななえ「(少し緊張する)!?」

○ 横浜支局・局長室(その頃)
剣持、伍代と向き合ってい る。
伍 代 「その一件、お前に任せるわけには行かないな」
剣 持 「ど、どうしてです!?」
伍 代 「ストーカー調査がどんなものか分ってるはず だ。大抵は持久戦になる」
剣 持 「しかし、ストーカーの証拠はもう目の前まで挙 がってるンです。あとはもう一度姿を現すのを待って、素性を突き止めるだけで済むンです。運がよければ、一、二週間ぐらいでカタがつきますよ」
伍 代 「運がよければ、の話だろう? ストーカーだってバカじゃない。素性がバレないように工夫しているだろうよ。手こずるのは目に見えている。すると、どうな る? お前はその現場にかかりきりになる。他の 契約はそっち除けになる」
剣 持 「でも、今回は確信があるンです」
伍 代 「そんな大口叩くのは、仕事ができるようになってからだな」
剣 持 「………」
伍 代 「今度の調査はすぐにカタがつきます、次こそはすぐに……その言葉に私は期待をかけてきた。でも、その都度裏切られた。お前はどうして長引く調査ばかり引 き受けてくるンだ?」
剣 持 「べつに意識してるワケでは……自分なりに納得したいからやってるンです」
伍 代 「ハードボイルド気取りか知らないが、そんなこ とばかりやってるから成績が上がらないンだ。それに、忘れたワケじゃないだろうな? 約束の期限は今日だ。秋本ななえのほかに契約の見込みはあるのか?」
剣 持 「(ボソリと)……浮気の調査が一件」
伍 代 「秋本ななえとの契約はまだだったな?」
剣 持 「実印をもらえなかったので、まだ……」
伍 代 「(腕時計を見て)夕方六時まで時間をやる。浮気調査の契約を挙げて来い」
剣 持 「(何か言い返そうとする)」
伍 代 「それができないようなら……分るな?」
剣 持 「………」
伍 代 「用件はそれだけだ」
剣 持 「一つ、お訊きしてもいいですか?」
伍 代 「何だ?」
剣 持 「秋本ななえの一件はどうなるンです?」
伍 代 「ああ、そのことか……」

○ 六本木付近(正午)
『ムーンライト・リミテッ ド』のビル。
その傍には、ルノーが停まっている。
剣持の声「今日一杯でお前の研修は終わりだ」

○ ルノー・車内
運転席の剣持と、助手席のあおい。
剣 持 「年明けからは本社のほうで講習会がある。二週間みっちり、契約の取り方をマスターして来るンだな」
あおい「冗談でしょ? こんな大事な時期にななえさんから目を離せってンですか!?」
剣 持 「もうすぐおれと入れ替りに、ほかのエージェン トが来ることになってる」
あおい「確かなことなンですか?」
剣 持 「局長がそう言った」
あおい「嫌ですよ、あたし」
剣 持 「あおい、言うことを聞け! ななえさんにも電話して、ちゃんと了解を貰ってる」
あおい「ななえさんはあたしたちのクライアントなンですよ? それをどうしてほかの人間に渡すなんて……」
剣 持 「言うことを聞け!!」
あおい「………」
剣 持 「おれたちが担当しようが、ほかの誰かが担当しようが、かならずストーカーは挙げてみせる……なあ、あおい……お前を見てると、おれの不器用な部分が重 なって仕方ない。だから、お前にはおれみたいになってほしくない。お互い利巧になろうや」
あおい「………」

○ 『ムーンライト・リミテッド』・社長室
ななえと涼子、鳥山と向き合い、座っている。
ななえ「え? それじゃ、来年からは……」
鳥 山 「そう……そろそろ仕事してもらおうかと思って な……」
ななえ「(目を丸くして)ホントですか?」
鳥 山 「でも、今年みたいなことはもうカンベンしてく れよな」
ななえ「大丈夫。もうそんな心配、おかけしませんから」

○ 同・ 表
出てくるななえと涼子。
涼 子 「よかったね、ななえ」
ななえ「うん」
が、ななえの表情が凍りつ く。
そこには剣持たちの姿がないのである。
ななえ、キョロキョロと見回す。
涼 子 「どうしたの?」
ななえ「いや……べつに……」
ななえ、都会の真ん中にポツリと置き去りにされたような感じ。
ななえの表情がみるみる不安で曇る。
(暗転)

○ 横浜の空(朝)(年明け)
雲行きが怪しい。

○ あおいのアパート・部屋
あおい、新聞を見て、愕然としている。
新聞記事―「秋本ななえさん 重態」

○ 都内のホテル・正面玄関(午後)
憮然とした剣持、入って行く。

○ 同・ パーティ会場
表札には、「『マーシャル・ エージェンシー』グループ 新春懇親会」の文字。
重役連中と談笑する伍代の姿。
そこへボーイが来て、伍代へ耳打ち。
伍 代 「?(と、ボーイの指す方向を見る)」
あおいが立っている。

○ 同・ 廊下
剣持、来て、
剣 持 「(何かに気づいて、見る)?」
あおいと伍代が立ったまま口論している。
伍 代 「秋本ななえの一件は、事故なんだ。警察もそう 判断している」
あおい「ななえさんは襲われたンです! 例の男はななえさんが一人になるのを見計らった。そして、事故を装って、工事現場の角材を頭の上に落としたンで す。誰かが見張ってれば、こんなことには……」
伍 代 「私はエージェントを差し向けるつもりだった」
あおい「局長はあたしが何も知らないとでも思われてるンですか?」
伍 代 「何がだ?」
あおい「さっき、会社の人たち全員に確認を取ったンです。そしたら、局長からそんな命令は受けてないって……誰一人として」
伍 代 「そうする前にあんなことになった」
あおい「いいえ、違いますね。局長は天秤にかけたンです。あの一件に関われば、エージェントは身動きが取れなくなる。その分、営業成績が落ちることになり ますからね」
伍 代 「じゃあ、訊くが、エージェントが来ないという 時点で、どうして彼女は電話して来なかった? 守ってほしい意思があるなら、それぐらい当然のことじゃないか!?」
あおい「あの女(ひと)はあたしたちに代わる誰かが来ると思ってた。なのに、助けは来なかった。それで、また人間不信になったンです。あたしたちが信じら れなくなったンです。せっかく心を開く ようになってたのに……」
伍 代 「それで? お前は小言を言うためにこんなところまで出向いたってわけか?」
あおい「エージェントを総動員してください。あたし たちの手であれが事故じゃないってことを立証するンです」
伍 代 「契約も結んでないのに、どうしてそこまでやる必要が……」
あおい「契約を結ばせなかったのは、局長の責任じゃないですか!?」
伍 代 「………」
あおい「みんなに号令をかけてください。これは会社の信用……探偵の威信にかかわる問題なンですよ?」
伍 代 「そんなことできるか(去ろうとする)」
あおい「それなら、この問題を上層部に報告します」
伍 代 「?」
あおい「責任は免れませんよ」
伍 代 「責任? (笑って)それは筋違いじゃないのかな?」
あおい「どういう意味です?」
伍 代 「お前たちが勝手に口約束したンじゃないか、秋本ななえとな。私の許可もなしに……それでも、私の過失なのかな? 一流大学出のくせ、案外頭が回らないン だな」
あおい「………」
伍 代 「それから、今日の私に対するお前の発言、しっかり覚えておく。覚悟しとけ」
伍代、向こうに剣持の姿を見つけ、
剣 持 「何だ、お前は新年の挨拶に来たのか?」
だが、剣持はこれまでのように弱腰になることなく、キッと伍代を見据えて、
剣 持 「人間が一人、死にかけてるンですよ」
伍代、無視して立ち去ろうと する。
と、剣持、襟首を掴み、首を締め上げる。
伍 代 「!!」
あおい「!!」
剣持、真っ赤になるほど伍代 を締め上げ、
剣 持 「おれは……おれはどうせ落ちこぼれですよ。でもね、あんたにはもっと根本的な欠陥がある。義務教育からやり直すンだな」
剣持、伍代を床に投げつけ る。
そして、一瞥をくれて、去ろうとすると、伍代、立ち上がって、
伍 代 「剣持……お前、こんなことして、ただで済むと思うなよ……」
剣 持 「分ってますよ」
剣持、懐から封筒を出し、床に投げる。
封筒には「辞表」の文字。

○ 同・ 正面玄関
雨がしとしと降っている。
軒下で空を見上げている剣持とあおい。
あおい「利巧になるンじゃなかったっけ?」
剣 持 「これが利巧な選択さ」
あおい「(微笑む)」
剣持、ネクタイを解(ほど)き、投げ捨てる。
剣持とあおい、肩を並べ、歩き出す。
地面には雨に濡れるネクタイ。

○ 『ムーンライト・リミテッド』・社長室(夜)
剣持、鳥山と向き合って、 座っている。
鳥山、少々取り乱した様子で、不審者の写った写真を見て、
鳥 山 「まさか……本当にこんなことが……」
と、震える手で写真をテーブルに置き、
鳥 山 「それで、私はこれからどのように?」
剣 持 「社長さんはマスコミに顔が広いンでしたね?  そのお力を貸してほしいンです」
鳥 山 「マスコミをどうするンです?」
剣 持 「ここだけの秘密ですけどね……」

○ 横浜中央病院・個室(その頃)
昏睡状態のななえ。
その傍でジッと見守るあおい。

(O・L)
○ 邸宅・表(朝)(一か月後)
閑静な住宅街に建つガレージ付きの家。

○ 同・ 2F・廊下
五十代ぐらいの女(新一の母)、部屋のドアの前に、食事を置いて、
新一の母「新ちゃん? 朝ごはん置いとくからね。あったかいうちに食べるのよ?」

○ 同・ 2F・新一の部屋
ここは冒頭に登場した薄暗い部屋。
机の上にはななえに関するスクラップブックが広げられ、壁一面はななえの写真やポスターで埋めつくされている。
TVの前にしゃがみ込んでいる、蒼白い肌の長身の男―加藤新一(27)。
レポーターの声「(TVから)さて、現在、横浜中央病院で治療中の秋本ななえさん……」

○ TV 画面
朝のワイドショー。
レポーター、新聞記事を指しながら、
レポーター「秋本さんの所属する事務所によりますと、秋本さんの回復は良好。この分だと、二週間後には回復できる見込みということなんですねえ……(以下 続く)」

○ 邸宅・2F・新一の部屋
新一、親指の爪を噛み、TV画面を食い入るように見ている。

○ 茂みの傍の道(夜)(日替り)
黒い4WDが停車している。
医者の白衣を着た新一、降り立つ。

○ 横浜中央病院・通路
新一、辺りを警戒しながら歩く。
院内は水を打ったような静けさ。
新一、ハッと物陰に身を潜める。
看護師が通り過ぎて行く。
新一、見送ると、ふたたび歩き出す。

○ 同・ ななえの病室の前
表札―「秋本ななえ」

○ 同・ 病院
新一、忍び足で部屋の中へ。
ベッドの上には、ななえと思しき人物が布団をすっぽり被り、寝息を立てている。
新一、ベッドに近づく。
そして、ポケットからストッキングを取り出し、それをロープ状に捻(ねじ)ると、ゆっくり と布団を剥がす。
が、横たわっていたのは、かつらを被って女装した剣持。
剣 持 「優しくしてね」
新 一 「!!(思 わず身を仰け反らせ、転倒)」
剣 持 「(勝ち誇ったように笑い)まんまとニセの情報に踊らされたようだな? お前のフィアンセはとっくに退院したよ」
新 一 「………」
剣 持 「ちなみにお前の顔はちゃんと撮らせてもらったぞ。ほら(と、天井を指差す)」
天井には監視カメラが据えてある。
剣 持 「(ニタリ)さて、これからどうする?」
新一、ペーパーナイフを取出 し、構える。
と、剣持、新一の顔にカツラを投げる。
相手が怯むと、その隙に、剣持、布団を被せ、力一杯床に押さえ込む。
剣 持 「(殴る)肉団子にしてやるぞ、この!!」
そして、ベッドの上に立つ と、そこから跳び蹴りを食らわせる。
布団の中身はぐったりとなる。
剣持、満足そうに額の汗を拭うが、
剣 持 「(ふっと視線を移して)?」
新一、いつのまにか布団から抜け出て、剣持の独り相撲を見ている。

○ 同・ 通路
新一、逃げる。
と、突如、物陰からパッと人影が飛び出し、新一の胸部を跳び蹴り。
あおいである。
新一、起き上がると、後退り。
反対側を見ると、剣持が立ちふさがる。
挟み撃ちの新一。
が、咄嗟に剣持を押し退け、走る新一。

○ 同・ 2F・ロビー
あおい、窓を開け、表を見 る。
新一、茂みの中に逃げ込もうとしている。
剣持、駆けつけると、
あおい「奴が茂みの中に!」
剣 持 「こいつを使え!!」
剣持、拳銃型の蛍光塗料発射 器を渡す。
あおい、狙いを定め、撃つ。
逃げる新一の背中に蛍光塗料が命中。
あおい、窓から飛び降りる。
剣 持 「!!」

○ 同・ 表
あおい、足を挫き、一瞬顔を歪める。
剣 持 「(頭上から)大丈夫か?」
が、あおい、足を引きずり、駆け出す。

○ 茂みの傍の道
新一、4WDに乗り込む。

○ 4WD・ 車内
新一、震える手でエンジンをかける。
新 一 「(前方を見ると)!?」
30mほど先にあおいの姿。
新一、ふり返ると、バックは行き止まり。
新一、一瞬動揺するが、ギアをドライブに入れて、車を急発進させる。

○ 茂みの傍の道
あおいに向け、突進してくる4WD。
が、あおい、一歩も退こうとはせず、蛍光塗料発射器を構える。
あおい、撃つ。

○ 4WD・ 車内
蛍光塗料がフロントガラスに命中。
新一、視界を失う。

○ 茂 みの傍の道
みるみる突進して来る 4WD。
あおい、挫いた足が思うように動かない。
来る4WD。
身動きできないあおい。
が、間一髪、剣持、あおいに抱きつき、地面を転げるようにして身を躱す。
そして、間もなく車の衝突する音が響く。
剣持、あおい「(見る)?……」
石塀に激突し、白煙を上げて いる4WD。
新一、よろよろと車から出てくる。
そして、頭から血を流しながら、断末魔の虫ケラのようにのろのろと這う。
と、見上げると、剣持とあおいがいる。
剣 持 「ゲームセット……だな?」
新 一 「………」
新一、ぐったりとその場に膝を付き、呆然とする。
―沈黙―
新一、くすくすと笑い出す。
剣持、あおい「?」
新一、いつしか声を立てて笑っている。
剣持とあおい、怪訝そうにその様子を見ている。
新一、なおも笑う。
あおい、ムッとする。
そして、力任せに新一の頬を叩く。
(暗転)

○ 長野県戸隠村の山道(午後)(数日後)
ルノーが登って行く。

○ 義樹の家・庭先
剣持、車から降りる。
ふと見ると、窓からななえが見ている。
頭には包帯、片腕にはギプス。

○ 同・ 1F・居間
剣持、テーブルを挟み、ななえ、涼子の両名と向き合って座っている。
ななえ、報告書に目を通し、
ななえ「……ポートサイド探偵社?」
剣 持 「実は、おれとあおいで事務所を起こしたンです。と言っても、事務所はおれの自宅なンですけどね」
ななえ「(俯く)……」
剣 持 「?」
ななえ「ひょっとして、二人とも、わたしのせいで会社を辞められたンじゃ……」
剣 持 「(笑顔で)そんなンじゃないですよ」
ななえ「?」
剣 持 「三十過ぎにもなってバカなようですけどね、確かめたくなったンです。世の中ってのがどれだけ広いのかってね」

○ 同・ 庭先
車に乗り込んだ剣持の傍に、 ななえと涼子が立っている。
剣 持 「梶原さんも一緒にどうです? 東京まで送り届 けますけど……」
涼 子 「わたしはまだ、今後のことをこの娘と話しておきたいから」
剣 持 「そうですか、それなら……(ななえを見て)そ れじゃ、元気で。また何かあったら連絡してください」
ななえ「何かあったら大変でしょ?」
剣 持 「(苦笑)そうでした」
ななえ「(笑う)」
剣持、窓を閉め、車を発進させる。
それを見送るななえと涼子。
ななえの表情は晴れ晴れしい。

○ 山道
ルノー、下りる。
と、携帯電話の着信音。
ルノー、道路脇に停車する。

○ ルノー・車内
剣 持 「(携帯電話に)はいよ」
あおいの声「橘です」

○ あおいのアパート・部屋
あおい「(携帯電話に)たった今、警察の人が来たンですけど、それで、気になることを……加藤新一のほかに怪しい人間を見なかったかって……」
剣持の声「ハア? 何言ってンだ?」
あおい「加藤は本星じゃないって言うンです」

○ 剣持とあおいの電話越しのやり取り
剣 持 「(凍りつく)!?」
あおい「加藤にはアリバイがあったンです。ななえさ んが線路に突き落された時も、それから事故に見せかけて殺されそうになった時も……」
剣 持 「でも、おれたちはあの男がななえさんに襲いかかろうとしてるところを見たンだ」
あおい「それがね、殺意はなかったそうなんです。ななえさんをレイプしようとしたのは認めたンですけど……だから、つまり、ななえさんの活動を快く 思わない人間がもう一人いるってことに……」
剣 持 「ちょっと待て、ちょっと待て! 警察はこのこ とをななえさんに言ったのか?」
あおい「それが……長野の家に電話しても、つながらないって言うンです」
剣 持 「(頭を殴られたようなショック)しまった……おれたちは目先のことばかりに囚われすぎた……」

○ 義樹の家・1F・居間
涼子、ななえの口をガーゼで塞ぐ。
ななえ、抵抗しようと必死だが、しだいに意識が薄れ、床の上に倒れ込む。

○ 同・ 表
電話線が切断されてある。

○ 山道
ルノー、引き返す。

○ 義樹の家・2F・子供部屋(数分後)
ななえ、椅子に躰を縛り付けられている。
その傍には、無表情の涼子。
ななえ「(朦朧と)どうしてこんなこと……」
涼 子 「(無表情のまま)どうして? 自分の胸に聞いてみることね。わたしは何度も忠告したはず。自分のイメージを傷つけるなってね」
ななえ「………」
涼 子 「(顔を掴み)可愛い……この透明感……なのに、ななえは自分の手でそれを壊そうとしてる……ガマンできない……だから、考えたの。まだこの魅力を失わな いうちにあなたが消えてしまう。そうすれば、 ずっとずっと、これからもずっとあなたは可愛いままでいられるのよ」
ななえ「涼子さんは……狂ってる……(もはや意識が薄れる寸前)」
涼 子 「麻酔が効いてきたようね? 恐がらなくてもいいのよ? わたしもすぐにそっちに行ってあげる」
と、ななえの頬をゆっくりと舐め回す。

○ 同・ 庭先(さらに数分後)
ルノー、到着し、剣持が降り立つ。

○ 同・ 1F・居間
剣持、飛び込む。
剣 持 「ななえさん!!」
辺りはしんと静まり返っている。
剣持、警戒したように辺りを見回しながら進む。
その時、自然に隣の部屋のドアが開く。
剣 持 「?」
と、ドアに歩み寄り、隣の部屋を覗く。
が、誰もいない。
剣持、一通り確認し、ドアを閉める。
と、背後から突如、斧を振りかざした涼子がワッと襲いかかる。
剣 持 「!!(と、 咄嗟に身を躱す)」
反れた斧が剣持の背後の壁に突き刺さる。
が、涼子、斧を引っこ抜くと、間髪入れず、鬼のような形相で剣持を襲う。
剣持、涼子の腹に蹴りを入れるが、その拍子、斧の先端が剣持の太腿を傷つける。
剣持、バランスを崩し、床に倒れる。
涼子、襲いかかる。
剣持、傍の小物を投げつけ、涼子の頭に命中させる。

○ 同・ 1F・台所
サイフォンの中で煮えたぎる珈琲。
剣持、壁に寄りかかり、躰を支えると、棚を開けて、出刃包丁を手に取る。
剣持、見ると、涼子が立っている。
剣持、サイフォンを掴み、相手の顔めがけて煮えたぎった珈琲をぶちまける。
涼 子 「ああああ!!」
蹲って七転八倒する涼子。
剣持、包丁で刺そうと一瞬考えるが、すぐに思い留まり、包丁を投げ出す。

○ 同・ 1F・居間
剣持、蹲(うずくま)った涼子に飛びかかり、その手から斧を奪い取ろうとする。
が、剣持、払い除けられる。
涼子、片方の手で顔を覆ったまま、闇雲に斧を振り回す。
這いずり回る剣持。
そして、暖炉の前まで。もう後がない。
涼子、顔から手を離し、剣持を睨む。
その顔は焼けただれ、鬼そのもの。
剣 持 「(目を見張る)!!」
涼子、斧を抱え、ゆっくり剣持のほうへ。
剣持、何か手はないかと辺りを見回す。
と、目の前に火掻き棒がある!
涼子、斧を高々と振り上げる。
剣持、火掻き棒を手に取り、突き出す。
―沈黙―
二人は少しの間、固まったまま動かない。
が、やがて涼子、力なく斧を床に落とす。
涼子の胸元には火掻き棒が突き刺さっている。
涼 子 「(唖然)……」
そして、涼子は床に崩れた。
涼子、しばらくは痙攣(けいれん)していたが、やがて目を開けたままピクリともしなくなる。
剣 持 「(ジッと見ている)……」

○ 同・ 2F・子供部屋
剣持、意識を失ったななえを揺さぶり、
剣 持 「ななえさん! ……ななえさん!!」
ななえ「(目を開き)剣持……さん……?」

○ 同・ 1F・居間(夕方)
床に倒れた涼子の亡骸。
その傍に佇み、見下ろしている剣持、ななえ、義樹。
ななえ、泣きじゃくる。
義樹、ななえを抱きしめる。

○ 同・ 庭先
雪がしんしんと降っている。
パトカーのサイレンが聞こえる。
(F・O)

○ イベントホール・会場(一年後)
映画の製作発表に、報道陣が詰めかけている。しきりにカメラのフラッシュ。
ステージ上には、映画の関係者。
その中には、ななえの姿もある。
会場の後方では、剣持とあおいがその様子を見守っている。
司会者「……それでは、これより出演者の皆さんに、 ひと言ずつちょうだいしたいと思います。では、まず秋本ななえさんから」
会場、拍手。
ななえ「今日はお忙しいところ、お集まりいただきまして、ありがとうございます。ひと言っていうことでしたけど、何と言ったら……あの、よろしくお願いし ます」
会 場 「(ドッと笑う)」
司会者「それではそっけないンじゃないですか? 秋 本さんにとって今回の映画は初主演作ということですが、この喜びをどなたにお伝えしたいですか?」
ななえ「そうですね……まず家族、そして、わたしをいつも応援してくださるファンの方々ですね……それから……」
ななえ、会場後方に剣持とあおいを見て、
ななえ「それから、すべてを投げ打ってわたしを支えてくれた人……ずっと陰で見守ってくれた人たちに……」
剣持とあおい、微笑む。
ななえ、二人に向けて微笑む。

○ 道路
ルノーが赤信号で停止する。

○ ルノー・車内
運転席の剣持と、助手席のあおい。
剣 持 「お前、ななえさんのあの目、見たか? アレはおれに惚れてるな」
あおい「何、言ってるンだか」
剣 持 「おれは探偵だぞ? 人を見る目は確かなんだか ら……くそお、こんなことなら、ちゃんと口説いとくンだったなあ」
あおい「高嶺の花ですよ。それより、剣持さんにはタンポポがお似合いですよ」
剣 持 「え?」
あおい「ねえ、そう言えば、ワタリガニのパスタが美味しい店があるって言ってましたよね? あたし、お腹(なか)すいちゃった。 連れてってくださいよ」
剣 持 「お前、カニは嫌いじゃなかったっけ?」
あおい「何でもチャレンジですよ」
剣 持 「………」
あおい「ホラ、信号変わった」
剣持、首を傾げ、あおいを見る。
あおいの首元には、小さな水晶の付いたネックレスが光っている。

○ 道路
ルノー、動き出し、その姿が町の中に消えて行く。
エンドロール、流れて……。

―THE END―



 
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