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最後の男達
作 辻野正樹
 


人物

西山健一(20代)

古田義男(20代)

小林二郎(20代)


○シェルター・中

殺風景な密室。

西山健一(20代)、ぶつぶつ言いながらパソコンのキーボードを叩いている。(マイムで。つまり、そこにはパソコンは無い)

古田義男(20代)、入ってくる。

古田「課長!」

西山「おお、君は、古田君だったね。新入社員の」

古田「はい」

西山、パソコンを打ち続ける。

古田「課長、何をやってらっしゃるんですか?」

西山「ああ、これか。これは、エクセルだよ」

古田「エクセルですか?」

西山「そう。エクセルだよ。わが社は、今年から、仕事をコンピュータ化したから、エクセルで、なんでも仕事ができてしまうんだよ」

古田「そうですか。すごいですね。僕はウィンドウズがいいと思うんですけど」

西山「いや、今の時代は、エクセルなんだよ」

古田「さすが課長ですね」

西山「うん」

古田「そんなことより、僕の企画書は、見ていただけましたか?」

西山「うん、目は通させてもらったよ」

古田「いかがでしたか?」

西山「何がだね?」

古田「企画書です。新しいビジネスモデルを提案する、そして、これからの時代に先取りして、先読みして、そして、先走りした企画なんです」

西山「君、こんな企画が通ると思ってるのか?」

古田「ダメですか?」

西山「ダメだ!」

古田「ど、どうしてですか?」

西山「お前は、まだ経験が浅いから分からないだろうがな」

古田「どこが悪いんですか!」

西山「古田君、ビジネスを考える上で、一番大事なものは何だか知ってるか?」

古田「それは、それは……、グローバルスタンダードと、マーチャンダイジングじゃないでしょうか」

西山「バカ野郎! 一番大事なのは、アウトソーシングと、コッカースパニエルだ!」

古田「わかりました。じゃあ、一から出直します。もう一度チャンスをください!」

西山「チャンスはあと一度きりだぞ。お前に、そのチャンスを生かす事が出来るかな?」

古田、さらさらと企画書を書き直し、

古田「新しい企画書です!」

西山「早い!」

古田「読んでください!」

西山、読みながら、

西山「古田君、これだ! これだよ! 私が求めていた企画はこれなんだ! 君にこのプロジェクトを任せよう!」

古田「本当ですか! ありがとうございます!」

西山「一緒にこの会社を変えていこう!」

古田「課長! やりましょう!」

西山「やるぞ!」

古田「やるぞ!」

西山「やるぞ!」

古田「やるぞ!」

古田、一人で盛り上がる。

古田「ああ、俺、サラリーマンやりてえ!」

西山「なんかさ、このゲーム、もうやめない?」

古田「何で?」

西山「だって、出来ない事を遊びでやってみるのって、なんか、だんだん切なくなってくるじゃん」

古田「どうせ出来ないことなんだから、せめて遊びでやったっていいだろう」

西山「悲しくなんない?」

古田「俺が、もし会社員になってたら、めちゃめちゃ出来る会社員になってたと思うよ」

西山「絶対ウソだよ」

古田「いや、すぐ社長になってたよ」

西山「まあ、でも、お父さん社長だったもんな」

古田「そうだよ。会社員になるんだったら、最終的には社長になんないと」

西山「お父さん、年収どのくらいだったの?」

古田「わかんないけど、結構すごいと思うよ。こんなシェルター、家につくれるくらいなんだから。5億円くらいあったんじゃない」

西山「5億円! すげえじゃん!」

古田「いや、知らないけどな。西山、お前、俺と友達でよかったな」

西山「何でだよ」

古田「だって、俺の親父が社長で金持ちだったから、こんなシェルター持っててさ、そんで、お前は、たまたま俺の友達だったから、シェルターで生き残ることが出来たんだろ」

西山「うん、まあ」

古田「ラッキーじゃん」

西山「でも、やっぱ、二人で生き残るってのも、つらいよな」

古田「はあ? 何、俺のおかげで生き残れたのに、不満なの?」

西山「不満っていうか……。なあ、本当にみんな死んじゃったのかな?」

古田「まあ、核兵器が飛んできたら、やっぱみんな死ぬんじゃないか」

西山「俺らの他に、誰も生き残ってないのかな」

古田「わかんないよ。俺らみたいに、シェルターで生き延びてる人はいるかもしんないし。誰か生きてたら、ここのシェルター見つけて、ドアをノックしてくれるよ」

西山「そのことなんだけどさ、誰か生き残ってる人がいたら、シェルターのドアをノックしてくれるはずだって、いつも言うけどさ、ここ、一軒家の地下だからさ、こんなとこにシェルターがあるなんて、誰も気づかないんじゃないの?」

間。

古田「……ああ、俺、会社員なりたかったなぁ」

西山「でも、俺の父さん、会社の愚痴ばっか言ってたよ。だから、会社員って、そんなに楽しくないんじゃないの?」

古田「どんな愚痴言ってたの?」

西山「よく覚えてないけど、いっぱい仕事してるのに、給料が上がらないみたいなこととか、ボーナスがどうとか。あと、休みが全然取れないとか。そうだ。俺、子供の頃、日曜日に父さんに映画観に連れてってもらう約束してたのに、仕事で行けなくなったとか、そういうのよくあったもん。俺、父さんに、ドラゴンボールの映画連れてってもらうの楽しみにしてたのに、仕事でいけなくなったって言われて、すごいくやしかった、あんとき。(次第に涙声になる)父さんも、ここに連れてくればよかった。父さんも、母さんも、本当に死んだのかな……」

間。

古田「そうだ、今度、結婚ごっこしない?」

西山「結婚?」

古田「もし、核爆弾なんか飛んでこなくて、普通に暮らせてたら、俺、絶対、会社員になって、結婚もしてると思うんだよな」

西山「うん……」

古田「なあ、やろうよ」

西山「どっちが女役?」

古田「こないだ俺、女役やってやっただろう」

西山「わかったよ。え、シチュエーションは?」

古田「プロポーズのところやろうよ」

西山「どんな?」

古田「あのさ、よく、電車の自動改札通ろうと思ったら、ガチャッて閉まっちゃうことあんじゃん。定期が切れてたりとかで。そんでさ、戻ろうとしたら、後ろの人がすぐ後ろに来ててさ、ぶつかっちゃうことあんじゃん。そこで、男と女が出会って、っていうのどう?」

西山「わかった」

古田、マイムで、自動改札を通ろうとすると、扉が閉まる。

古田「ああ、しまった。定期券が切れてるんだ」

古田、戻ろうとすると、西山とぶつかる。

西山「あら……」

古田と西山、お見合い状態。

古田「結婚してください」

西山「はい」

手を取り合う二人。

西山「なるか? こんな風になるか?」

古田「ああ! 結婚したかったなぁ」

西山「うん」

古田「女の子、生き残ってないかな」

西山「ううん……」

古田「女の子が生き残ってなかったら、人類、滅んじゃうな」

西山「そうだな」

間。

古田「あれ、知ってる? 何かの魚だったと思うんだけど、オスがメスに変わったり、メスがオスに変わったりするんだって」

西山「どういうこと?」

古田「だから、子孫を残すためには、オスとメスが必要じゃん。その魚の集団の中で、メスがいなくなったら、オスの一匹がメスに変わるんだって」

西山「性転換ってこと?」

古田「そう。本物のメスになるんだよ。子供も生めるような」

西山「へえ、すごいな」

間。

古田、西山の股間を触る。

西山「女になってないよ」

古田「やっぱり? ああ、結婚してえ! もう一回結婚ごっこしよう」

西山「今度、お前が女役やってよ」

古田「いやだよ!」

西山「だって、さっき俺がやったじゃん」

古田「今日はお前が女役やるの! 明日俺がやってやっから」

西山「もう……。今度は、どんなの?」

古田「新婚生活やろうよ」

西山「ベタな感じでいい?」

古田「いいよ」

結婚ごっこ、再びはじまる。

西山、料理をしている。

古田、帰ってくる。

古田「ただいま」

西山「おかえんなさい。早かったのね」

古田「うん。お前の顔が早く見たくてね」

西山「もう、ちゃんと仕事してるんですか?」

古田「お前のことばっかり考えちゃって、仕事にならないよ。あれ、今日はカレー作ったの?」

西山「あなたの好きなカレーですよ」

古田「うまそうだな」

西山「お風呂もわいてますよ。カレーにする? お風呂にする? それとも……」

古田「それとも?」

西山「それとも……」

古田「(小声で)これは、『それとも、ワ・タ・シ』みたいな?『私を食べて』みたいな?」

西山「それとも、ハ・ヤ・シ?」

古田「ハヤシライスも作ったのね。カレー作って、ハヤシライスも作ったのね」

西山「だって、あなたカレーも好きだけど、ハヤシライスも好きでしょう?」

古田「好きだけど、どっちかでいいんだよ。カレーかハヤシか」

不意に、ドアをノックする音が外から聞こえる。

古田・西山「え!」

古田「今、聞こえた?」

西山「うん」

古田「絶対聞こえたよな」

西山「うん」

古田「どうしよう?」

西山「どうしようって、開けなきゃ!」

西山、扉に向かう。

古田「ちょっと待って!」

西山「何?」

古田「大丈夫かよ」

西山「大丈夫って?」

古田「本当に人間か?」

西山「人間じゃなかったら、何なの?」

古田「わかんないけど、放射能で突然変異した、何か怪物的な……」

西山「ええ! 怪物?」

古田「わかんないけど、いきなり血とか吸われるかもしんないぞ」

西山「血を? 吸われたくない! いや!」

古田「それか、なんか、いきなりケツの穴とか吸われるかもしんないぞ」

西山「ケツを? 吸われたくない! いや!」

再び、ドアを叩く音。

西山「でも、やっぱ、人間なんじゃない?」

古田「そうかな……」

西山「もしかして、女の子かもしれないよ」

古田「え! 女? 女の子? 女の子で、ケツの穴吸ってくれるの?」

西山「いや、それは違うよ」

ドアを叩く音。

二人、顔を見合わせて、扉の方へ駆けていく。

扉を開けると、小林二郎(20代)が駆け込んでくる。

小林「ああ! 助かった! ありがとうございます! よかった!あ、私ね、このシェルターの販売代理店に勤めてまして。だから、どちらの御宅がうちのシェルターを持ってらっしゃるか分かってたんですよ。顧客リストがありますから。それで、この地区だと、こちらの古田さんの御宅の地下にシェルターがあるから、何かあったときは、こちらに逃げ込もうって決めてたんですよ。本当、すみません。お客様が購入されたものだから、社員の僕がそこに逃げ込むなんて、本当はダメだってわかってるんですけど、でも、命がかかってるときに、そんなこと言ってられないですからね。あの、なるべくご迷惑はかけませんから……」

古田と西山、耐え切れず、号泣して小林に抱きつく。

小林「ああ……。あの、よかったですね。お互い生き残れて」

古田「もう、誰も生きてないと思ってたんですぅ!」

西山「よかった! よかった! 外の様子はどんな感じなんですか? 他にも生きてる人は?」

小林「いや、自分も、ニュース見て、すぐにここに逃げてきたんですよ。だから、そのあとどうなったか全然わからないんです」

西山「え、すぐに逃げてきたんですか?」

小林「はい。いや、あんまりもたもたしてたら、交通もマヒしちゃって、動こうにも動けなくなるんじゃないかと思って、すぐここに飛んできたんです」

古田「すぐっていうのは、どういうことですか?」

小林「いや、だから、ニュース見て、すぐですよ」

西山「すぐって言っても、あれから10年ですよ」

小林「はあ? 10年?」

古田「10年間、どうされてたんですか?」

小林「10年っていうのは、どういうことですか? え、そちらは、あれですか? ミサイルのニュースを見て、このシェルターに避難してこられたんですよね?」

古田「そうですよ。ロシアかどこかわかんないけど、核兵器が日本に飛んでくるだろうって聞いて」

小林「ロシアじゃなくて、北朝鮮ですよ。北朝鮮が核ミサイルを発射したんですよ」

西山「北朝鮮? 北朝鮮ってことはないでしょう」

小林「いや、北朝鮮ですよ」

西山「北朝鮮が核兵器なんか作れますかね」

小林「北朝鮮、核兵器持ってたんですよ。知らないんですか? え、10年? 10年って、どういうことですか?」

古田「だから、10年ですよ。1999年12月31日に、ここに避難してきたんです。僕の父親と、僕と、たまたま遊びにきた友達の西山と」

西山「俺、そのとき、何も知らなかったんですよ。2000年問題って、何か聞いたことはあったんですけど、まさか、そんな、コンピューターの誤作動で、核兵器が発射されるなんて、そのとき初めて聞いて、びっくりしましたよ。だけど、俺、ラッキーでしたよ。たまたま古田の家に遊びに来たら、今からシェルターに避難するから、お前も一緒に来いって言われて……」

小林「え、え、ええ? ちょっと待ってください! 2000年問題? 2000年問題って言いました? 2000年問題って、あの2000年問題ですか? コンピューターが1999年までしか認識できないから2000年になったら、いろんなコンピューターが誤作動起こすとか言われてた……」

古田「え、何か、まずいですか?」

小林「えええ! あなたたち、99年の大晦日から、ずっとここで避難してたんですか? ええ? 10年間?」

古田「いや、あの、まあ、何ていうか……」

小林「冗談じゃなくて? ウソじゃないですか?」

西山「あの……、あれですか、もしかして、2000年になって、核兵器とか、飛んで来なかったりします?」

小林「いや、俺、ちょっと、事実を告げるのが怖いんですけど」

西山「じゃあ、もしかして、コンピューターの誤作動で、電車が脱線したり、飛行機が墜落したり、信号機がおかしくなって、車の事故がそこら中で起こったりとかってことも、なかったり……」

小林、必死で笑いをこらえる。

古田「お前、今、笑いそうになってるだろう?」

小林「いや、笑ってません」

古田「絶対笑いそうになってる!」

小林「笑いそうになってません!」

西山「じゃあ、ちゃんと答えてよ! 2000年問題で、核兵器は飛んで来なかったの?」

小林「わかりました。答えます」

小林、一旦、気持ちを静めて、

小林「2000年問題で、核兵器は……」

小林、堪えられず、爆笑してしまう。

小林「(笑いながら)やばい! すごすぎる! 2000年問題だって! 完全に忘れてた! 久しぶりに聞いた! 2000年問題だって!」

西山「何も起こらなかったの? 2000年になっても、何も起こらなかったの?」

小林「(笑いながら)いや、俺の口から、事実を告げるのは、あまりに残酷すぎて。だって、10年でしょう? 10年、ここで暮らしてたんでしょう?」

西山「やっぱり、何も起こらなかったんだ! 何にも起こらなかったんだろう?」

古田「いや、でも、そんなわけないだろう!」

西山「何も起こらなかったんだよ! どうしてくれるんだよ! お前のせいだぞ!」

古田「はあ?」

西山「お前のせいで、俺、こんなところで10年も。お前が無理矢理ここに連れ込んだんだぞ」

古田「無理矢理じゃねえだろう!」

西山「お前が俺のこと騙して……」

古田「騙してねえだろうが!」

西山「騙したじゃねえかよ! 何にも起こんなかったんじゃねえかよ! はっ! うちの父さんと母さんは? (小林に)じゃあ、父さんと母さん、生きてるの?」

小林「いや、まあ、それは私はわかりませんから……」

西山、着替え始める。

古田「どうする気だよ」

西山「行くんだよ! 俺んちに! 父さんと母さん、生きてるんだよ!」

西山、出て行こうとする。

小林が、それを止める。

小林「ダメですよ!」

西山「何でだよ!」

小林「だから、北朝鮮が核ミサイルを発射したんですよ!」

西山「本当かよ!」

小林「本当ですって。だから私、ここに避難してきたんですから」

西山「絶対嘘だ! 俺、外に行く」

小林「死にますよ! 被爆しますよ!」

西山「……いつ?」

小林「何が?」

西山「いつ核ミサイル、発射されたの?」

小林「ついさっきですよ」

西山「西暦2000年じゃなくて?」

小林「さっきです」

西山「西暦2000年は?」

小林「何も起こってません」

西山「で、さっき核ミサイルが発射されたの?」

小林「そうです」

西山「俺らのこの10年間は?」

小林「無駄です」

間。

西山「(古田に)お前のせいだ!」

古田「俺のおかげで助かったことに変わりないだろうが!」

西山「はあ? 何言ってんの?」

古田「確かに、ちょっとシェルターに逃げ込むのが早かったけど、今、お前は、このシェルターにいるおかげで、生きてるんだぞ!あの時、俺が誘わなかったら、今、核爆発で死んでるんだぞ!」

西山「『ちょっと早かった』って、早すぎだろう! (小林に)じゃあ、今、外には出れないの?」

小林「せっかく10年間ここに避難してたのに、今外に出たら、台無しじゃないですか」

西山「ええええ……。もう! 何だよ、この状況!」

古田「とりあえず、一旦落ち着こう」

西山「落ち着けるかよ」

小林「それにしても、本当にここで10年も生活してたんですか?」

古田「うん」

小林「食事は? 何食べてるんですか?」

古田、裏を指して、

古田「裏の巨大冷蔵庫に30年分の缶詰があるの」

小林、裏の方に向かって、

小林「すごい、30年分の食料、よく集めましたね」

古田「親父、そういうところはすごいんだよ」

小林「そういえば、お父さん、どちらにいらっしゃるんですか? お父さんと一緒にここに避難したってさっき……」

古田と西山、顔を見合わせて、

古田「あ、まずい!」

裏の方から、小林の悲鳴が聞こえてくる。

小林、叫びながら走ってきて、

小林「人が! 人が!」

古田「ああ、だから……」

小林「人が冷蔵庫に! 死んでます! 凍ってますよ!」

古田「だから、親父」

小林「親父? お父さん? 一緒に避難した?」

古田「3年位前に。死んでも、埋めるとことかないから」

小林「埋めるとこないからって、冷蔵庫に入れておいたんですか?自分の父親を?」

古田「じゃあ、どうすればよかったんだよ!」

小林「何で亡くなったんですか?」

古田「いや、わかんないよ。病気だよ。医者じゃないから、何の病気かなんてわかんないよ」

小林「平気なんですか? お父さんの遺体と一緒に、ずっと生活してて、平気なんですか?」

古田「そりゃ、はじめはつらかったけど、もう3年もこの状態だから」

小林「信じられない」

古田「じゃあ、どうすりゃよかったんだって! だいたい、お前、このシェルター売ってる会社の奴なんだろう? だったら、こういう場合どうすりゃいいのか、教えてくれよ。シェルターの中で、人が死んだら、どうすりゃいいのか!」

小林「そんなこと私に言われても……」

西山「それに、そもそも、このシェルター、おかしいよ。外の様子が全然わからないから、外が安全なのかどうか、わかんないよ」

小林「ああ、でも、外の様子を監視するカメラとモニターとかはオプションでつけられたんですけど」

西山「そうなの? (古田に)お前の親父、何でそれつけてないの? ていうか、テレビは? テレビとかも普通に放送されてたってことだろう?」

小林「もちろん」

西山「じゃあ、せめて、シェルターの中でテレビを観れるように作ってあったら、外が安全だってわかったのに!」

小林「テレビのアンテナ、ついてますよ。(指差して)そっちに」

西山「あれ、やっぱりテレビのアンテナの差込だったの? (古田に)何でお前の親父、テレビつけないの? バカじゃないの?」

古田「知らねえよ! 食料準備することしか頭まわんなかったんだろう!」

西山「最悪じゃん! (小林に)え、じゃあ、今、外の状況を見る方法は無いの? 安全かどうか」

小林「無いですよ。モニターも無いし、テレビも無いんだから。あ! 携帯!」

小林、携帯電話を取り出し、

小林「圏外!」

西山「早いだろ! ちょっとくらいドキドキさせろよ!」

古田「でもさ、本当に北朝鮮から核ミサイルが飛んできたの?」

小林「本当ですよ。ニュースで言ってたんですから。まあ、北朝鮮は、人工衛星だとか言ってるんですけど」

間。

西山「え、じゃあ、もしかして本当に人工衛星かもしれないの?」

小林「まあ、そうですね」

西山「まあ、そうですね? まあ、そうですね?」

古田「お前、ふざけてんのか?」

西山「どうするんだよ! 外でたら、死ぬかもしれないけど、何にも起こってないかもしれないんだぞ! どうするんだよ! お前の会社から買ったシェルターなんだから、お前、何とかしろよ!」

小林「いや、私だって、まさかモニターもテレビも設置してないなんて思いもしないですよ! 何やってんすか! あんたら、バカか!」

西山「お前、外出ろ! 出てけ! 出て行って、安全かどうか確かめろ!」

小林「イヤですよ。あなた、さっき出て行くって言ってたじゃないですか。あなた行けばいいじゃないですか!」

古田「お前が行けよ! お前の会社のシェルターだぞ! だいたい、このシェルター、俺んちのものなんだから、お前、何勝手に入って来てんだよ! 出て行けよ!」

西山「早く出てけ!」

小林「そうですか。分かりました。じゃあ、出て行きますよ。でも、外に出て、安全だったとしても、あんたらのことほっておきますよ。そしたら、あんたら、また何十年も、死ぬまでここで暮らすんですよ」

西山「わかった。いいよ。それでもいいから出てけよ」

小林「いいんですか? 本当に助けに来ませんよ」

古田「かまわない。早く出てけよ。助けに来ないなんて、そんなこと出来るわけないんだから」

小林「あ、嘘言ってると思ってるんですか? 俺、本当に、あんたらのこと、無視しますよ。助けに来ませんよ!」

古田「わかった」

西山「早く出てけよ」

間。

小林「ごめんなさい。嘘です。出て行くの怖いんで、ここに居させてください」

西山、古田、舌打ち。

西山「じゃあ、こうなったら、何かで勝負しよう。勝負して、負けた奴が外に出る」

古田「じゃあ、百人一首のカルタがあるから、これで勝負しよう」

小林「よし、望むところだ!」

西山「あんた! 騙されるな! (古田を指して)こいつはな、中学の時、百人一首クラブに入ってたんだぞ!」

小林「汚ねえ! 危うくひっかかるところだった」

古田「だったら、何で勝負するんだよ!」

小林「相撲! 強い男が生き残るべきなんですよ。相撲で勝った男が強い男でしょう? 絶対相撲です!」

西山「わかった! それええ!」

西山、小林を投げ飛ばす。

小林「汚い! まだ『ハッケヨイ、ノコッタ』って言ってないだろう!」

西山「ハッケヨイ、ノコッタ!」

西山、小林を投げ飛ばす。

小林「今のなし! だって、土俵をどこにするかまだ決めてないし」

西山「じゃあ、どこが土俵なんだよ」

小林「土俵は、ここ」

と、言いながら、円を描く。

小林、西山の不意をついて、

小林「ハッケヨイ、ノコッタ!」

小林、また投げ飛ばされる。

小林「俺の負けだ。だけど、(古田を指して)そっちのお前には負けないからな。ハッケヨイ、ノコッタ!」

小林、古田を投げようとするが、逆に投げ飛ばされる。

倒れる小林。

西山・古田「やった! やった!」

西山と古田、喜んで大騒ぎする。

ふと、気付くと、小林が、倒れたまま泣いている。

西山と古田、小林の様子に気付く。

小林「(泣きながら)俺、負けた。俺、死にたくないよ。死にたくないよ!」

小林、泣き続ける。

古田「……もう、いいよ。泣くなよ。俺が行くから」

西山「え、古田……」

古田「もともと、俺が西山を無理矢理ここに連れてきたんだから」

西山「何言ってんだよ。無理矢理じゃねえよ。俺が自分の意思でここに避難したんだから」

古田「だけど、俺のせいで、お前は10年間も無駄にしちゃったんだから」

西山「無駄ってなんだよ。無駄ってなんだよ。お前と一緒に10年間過ごして、楽しかったんだぞ。(次第に泣き声になって)それを、無駄ってなんだよ! お前と二人の10年間が無駄だって言うのかよ!」

古田も泣き声になって、

古田「俺も、俺も、お前と10年間一緒に過ごして、すごく楽しかったんだぞ! だけど、俺のせいで、こんなことになったんだから、俺が責任とって、外を見に行く!」

西山「いや、俺が行く!」

古田「俺が行く!」

西山「俺が行くって言ってんだよ!」

古田「俺が行くんだよ! 何言ってんだよ!」

二人、喧嘩になる。

小林「俺が行けばいいんだろう! 俺が行くよ。俺、相撲に負けたんだから!」

古田「お前、関係ないだろう!」

小林「関係ないって何ですか!」

三人、喧嘩になる。

口論しながら、出口へと向かっていく三人。

そして、シェルターの扉が開かれる。



                  (完)

 
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