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| 夜空が僕らをみつめてる |
| 作 辻野正樹 |
○明慶学院大学・屋上（夕）
殺風景な屋上。
奥に塔屋があり、塔屋の扉をあけると、階段がある。
ベンチや、塀の落書き、飲み散らかしたジュースの缶などから、学生たちの社交場になっていることがうかがえる。
浜田吾郎（３０）、宇宙人のような奇妙な格好（前身タイツ）で、奇妙なダンスを踊っている。
それを見ている千葉松子（３０）。
浜田「（踊りながら）ここはちゃんと腕を伸ばすのね」
踊り続ける浜田。
浜田「で、こうきて、こうきて、こう」
浜田、ポーズを決める。
間。
浜田「どう？」
松子「どうって……」
浜田「やってみる？」
松子「私が？ いいや」
浜田「なんで？ 一人でやるより、一緒にやったほうがいいんだよ」
松子「でも、なんか、難しいや。私、ダンスとか、全然」
浜田「簡単だって」
浜田、再び踊り始める。
浜田「こうでしょ、こうでしょ、で、こう」
松子「その踊り、浜田君が考えたの？」
浜田「なわけないじゃん。研究家だよ」
松子「研究家？ 踊りの研究家？」
浜田「違うよ。ＵＦＯ研究家！」
松子「ああ」
浜田「古代人は、ＵＦＯと日常的にコンタクトを取ってたんだよ。それを証明する遺跡とかいっぱいあるんだから」
松子「ナスカの地上絵とかでしょう？」
浜田「あと、ストーンヘンジとかさ、日本にだっていっぱいあるんだよ。東北にあるストーンサークルとか、あと、土偶なんて、どう見たって宇宙人だもんね。絶対、あれ、宇宙人を見た昔の日本人がさ……」
松子、まったく聞いていない。
浜田、松子の無関心な様子に気付いて、
浜田「松子さんって、大学ん時から、あんま興味なかったよね？」
松子「ああ、そうでもないよ。好きだったもん。ＵＦＯ」
浜田「何派だったっけ？ そういう話、大学ん時、したっけ？」
松子「何派って？」
浜田「だから、好きなＵＦＯ。葉巻型とか、アダムスキー型とか」
松子「ああ、なんか、（奇妙なジェスチャーで）こういうの？」
浜田「それ、スピルバーグの「宇宙戦争」のやつでしょう？」
松子「よくわかったわね！」
浜田「あれ、観たんだ」
松子「うん」
浜田「やっぱ観るよね。元ＵＦＯ研究会としてはね」
松子「観る観る」
浜田「あ、でさ、ＵＦＯ研究家が、古代人はＵＦＯと日常的にコンタクトを取ってたんじゃないかって仮説を立てたの。で、おそらく古代人は火をたいて、周りで輪になって、おどったりしてＵＦＯを呼び出したんだろうって」
松子「あ、じゃあ、今の踊りがＵＦＯを呼び出す踊りなの？」
浜田「……そうだよ！ 今気付いたの？」
松子「うん」
浜田「え、じゃあ、俺、なんで踊ってると思ってたの？ 恥ずかしい！ 意味もなく突然踊りだしたヘンなやつだと思ってたの？ うわあ！ 恥ずかしい！」
松子「ごめん、ごめん。だって言わなかったから」
浜田「聞いてよ！ 突然ヘンな踊りはじめたら、『その踊り何？』って普通聞くでしょう？」
松子「ごめんね」
浜田「うわああ、最悪、恥ずかしい」
松子「あ、じゃあさ、ついでに聞いとこうかな」
浜田「何、何？」
松子「なんでそんな格好してるの？」
浜田「だから宇宙人！」
松子「宇宙人？」
浜田「宇宙人が寄ってきやすいように、宇宙人の格好をしてみたの！ 仲間がいると思って、寄ってくるかもしれないでしょう」
松子「ああ、なるほどね」
浜田「だから、そういうことは早く聞いてよ！ なんで、この格好で奇妙な踊りを踊る男を普通に受け入れるの？」
松子「うちのお母さんもよくそういう格好して踊ってたから、違和感なくて……」
浜田「そうなんだ」
松子「あ！ あれ、もしかして、ジャズダンスだって言ってたけど、本当は、ＵＦＯ呼ぼうとしてたのかな？」
浜田「ううん、わかんないや。まあ、とにかく、そのＵＦＯ研究家が、すごい古い文献とか、壁画に描かれてる絵とかを研究して、独自にこの踊りを考案したの」
松子「でも、こういうの（浜田の踊りを真似て）なんか見たことあるよ」
浜田「ピンクレディーだよ」
松子「ピンクレディー？」
浜田「ピンクレディー、知らない？」
松子「いや、ピンクレディーは知ってるけど」
浜田「ピンクレディーとかも取り入れたんだよ」
松子「え、そうなの？ え、この踊りって、古い文献とか、壁画に描いてあった踊りを再現してるんでしょう？」
浜田「いや、違うよ。古い文献とか、壁画に描かれてる絵とかを研究して、独自に考案したんだよ」
松子「……ってことは、要するに、その研究家が、勝手に考えた踊りってこと？」
浜田「……まあ、勝手にっていうか、まあ、ねえ……」
間。
浜田、再び踊りだす。
浜田「ねえ、松子さんも踊ってよ」
松子、突然、激しく踊りだす。
浜田「松子さん、そんな動き、無かったよ」
松子、踊りをやめて、
松子「ごめんね、私、本当は、ＵＦＯって、そんなに興味ないんだ」
浜田「え……」
松子「『宇宙戦争』観たのも、ただ、トム・クルーズがかっこいいからってだけの理由でさ」
浜田「いいんだよ。そんなの。はじめはみんなそんなもんなんだから。宇宙に興味を持つのに、きっかけなんてなんでもいいんだよ。トム・クルーズが見たいから『宇宙戦争』を観にいって、そこからだんだん興味がわいてきて、広がっていけばいいんだから」
松子「ああ、確かに、興味が広がって、『宇宙戦争』みた後に、ビデオで『ミッション・インポッシブル』を観て、『７月４日に生まれて』と『トップガン』まで観ちゃって……」
浜田「いや、トム・クルーズの興味じゃなくて！ 宇宙！ ＵＦＯ！」
松子「ああ……。正直言うとさ、あんまりＵＦＯって信じてないんだよね」
間。
浜田「え？ 今、何て？」
松子「だから、ＵＦＯとか、あんまり信じてないの」
浜田「ＵＦＯ研究会だったのに？」
松子「ＵＦＯ、信じてないし、ナスカの地上絵がどうとか、葉巻型がどうとか、そういうこと言われてもキツイっていうか……」
浜田「キツイ？」
松子「ＵＦＯの映像とか、写真とか、あんなのいくらでも作れるじゃん」
浜田「じゃあ、キャトルミューティレーションは？」
松子「何？ キャトル何？」
浜田「知らないか。牛の血がね、全部抜き取られてんの。宇宙人の仕業だって言われてて」
松子「蚊でしょ」
浜田「蚊じゃないよ。全部だよ。体中の血、全部だよ！」
松子「やぶ蚊じゃないの？」
浜田「やぶ蚊じゃないよ。だから、体中の血、全部だよ！」
松子「アシカじゃないの？」
浜田「アシカじゃないよ！ バカにしてる？ じゃあ、あれは、ミステリーサークル。あれは絶対ＵＦＯの仕業でしょう」
松子「あれ、うちのお母さんが作ってたよ」
浜田「お母さんが？ お母さん、すごいね！」
松子「おばあちゃんちに行ったとき、近くに麦畑があったから、絵、描くとかいって」
浜田「ミステリーサークル作っちゃったの？ すごいね！」
松子「で、その周りで踊ってた」
浜田「それ、やっぱり、ぜったいＵＦＯ呼ぼうとしてたんだよ」
松子「漢字で『米』って書いたの」
浜田「麦畑なのに？」
松子「うん。ミステリーサークルなんて、みんな、お母さんが作ってるのよ」
浜田「全部は無理でしょう！ 世界中にあるんだよ」
松子「世界中のお母さんが作ってるんじゃないの？」
浜田「なぜお母さんなのかわからないけど……」
松子「とにかく、そういうの、信じないの。ＵＦＯとか、ミステリーサークルとか」
間。
浜田「じゃあ、なんでＵＦＯ研究会、入ってたの？」
松子「……」
浜田「部長がいたから？」
間。
浜田「あのさ、聞いたんだけど、部長が死んでから、松子さん、誰とも付き合ってないんでしょう？ 何で？ そんなに部長のこと、好きだった？」
松子「……」
浜田「そりゃ、そうだよね。でもさ、もう、８年だよ。松子さんが、誰かと付き合ったとしても、部長、怒らないと思うよ。ていうか、誰かと付き合って欲しいと思ってるよ。きっと。なんていうの？ 幸せになってほしい、みたいな……」
松子「……うん」
浜田「だからさ、付き合おう」
松子「え？」
浜田「あ、いや、誰かとさ、誰かと付き合って、幸せになろう」
松子「ああ、誰かと」
浜田「あ、いや、あのさ、誰かとっていっても、そりゃ、誰でもいいってわけじゃないと思うよ。松子さんにも、好みとかあると思うし。でも、たとえばさ、相手が部長もよく知ってる人だったら、納得してくれるんじゃないかな。部長がね。全然、どこの馬の骨かわからんようなやつと松子さんが付き合うよりはさ、たとえば、ＵＦＯ研究会の誰かとかさ……」
松子「私、ダメなの」
浜田「……ダメ？」
松子「うん、ダメなの」
間。
浜田「あ、いや、違うよ。別に、俺と付き合ってくれって言ってるわけじゃないよ。誤解、誤解。じゃなくて、誰かとつきあった方がいいじゃないかって、誰でもいいんだけど……」
松子「そういう気、無いの」
浜田「付き合う気、無いの？ 誰とも？」
松子「うん」
浜田「何で？ そんなの、おかしいよ。部長、絶対喜ばないよ」
松子「別に、いいじゃない。私がどうしようと」
浜田「よくない！ よくないよ！」
松子「何で？」
浜田「何で？ 何でって、だって……」
松子「浜田君に関係ないでしょう」
浜田「関係ないことないよ」
松子「何で？」
松子、去ろうとする。
浜田「どこ行くの？」
松子「みんな迎えに行ってくる」
浜田「迎えになんか行かなくていいでしょ。ここだってわかってるんだから」
松子「だって、みんな遅いんだもん」
浜田「もうすぐ来るよ。６時集合だから」
松子「６時？ ５時じゃないの？」
浜田「あ、いや、うん、６時」
松子「うそ、５時って言ってたよ、電話で」
浜田「ごめん、間違えた。本当は、６時」
松子「何で？」
浜田「何でって、別にわざとじゃないよ。松子さんに間違えて５時って言っちゃったから、松子さんだけ待たせるの、悪いと思って、俺も５時に来たんだけど……ごめん」
松子、階下に降りようとする。
浜田「あ、松子さん！」
松子、振り向きもせず、去ろうとする。
真野の声「おお！ マッコチャン」
松子「真野さん！」
階段を真野慎司（３３）が登ってくる。
真野は、大きな天体望遠鏡を持っている。
真野「おう、浜田」
浜田「うっす」
真野「……何だ、その格好」
浜田「宇宙人に決まってるじゃないっすか。宇宙人が、ＵＦＯに乗って、くんじゃないっすか。そしたら、俺の事見て、仲間だと思って、近づいてくるかもしんないじゃないっすか」
真野、望遠鏡をセッティングしながら、
真野「お前は、あいかわらず賢いな」
浜田「バカにしてんすか？」
真野「そんなんで宇宙人がよってくるわけ無いだろ」
松子「ほらね。そんなんで宇宙人寄ってこないって」
真野「色が違う。グレイがかった緑色なんだよ」
松子「そういう問題？」
真野「いや、しかし、懐かしいな」
ベンチを指して、
真野「あ、これ、俺が公園で拾ってきたやつじゃん！ すげえ、まだあったのかよ！」
浜田「拾ってきたっていうか、盗んできたですけどね」
真野、グラウンドの方を見て、
真野「見ろよ。野球部」
浜田「うん」
真野「うわ、へたくそ。なんであの球をエラーするかね」
浜田「かわってねえ。うちの大学、ほんと、スポーツダメですよね」
真野「まあ、スポーツだけじゃなくて、頭も悪かったけどな」
浜田「うん」
真野、望遠鏡をセッティングし終える。
浜田「この望遠鏡も、また懐かしい。真野さんが持ってたんすね。部の持ち物だったのに、自分のものにしちゃってたんすか」
真野「仕方ねえじゃん。だって、俺らの代でＵＦＯ研究会つぶれちゃったんだから、捨てるのもったいないだろ」
松子「（真野に）浜田君、面白いの。さっき、宇宙人を呼ぶダンスを踊ってたの」
真野、突然、いましがた浜田が踊っていたのと同じ踊りを踊りだす。
松子「ええ！ 何で知ってるの？」
真野「これ、知らないの？ 有名なＵＦＯ研究家が考えたダンスなんだよ」
松子「有名なんだ」
真野「マッコチャンも、ほら」
松子「いや、私は……」
真野「三人で踊ったら絶対ＵＦＯがやってくるよ」
松子、暫く逡巡するが、踊り始める。
さっきと同じ動き。
真野「あ、そうだ」
真野、鞄から雑誌（ムー？）を取り出して、
真野「さっき、買ってきた。ＵＦＯ特集」
真野、浜田に雑誌を見せて、
真野「ほら、すごいだろ」
真野、松子の踊りを見て、
真野「マッコチャン、そんな動きないよ」
浜田、急にテンション上がって、
浜田「うわ、なんすか、これ」
真野「ミステリーサークルも、最近のは、すごいんだよ」
浜田「こんなの、どう考えても人間が描いたもんじゃないですよね」
真野「あ、これ、すごいだろ。日本で見つかった奴」
真野、ページを指差す。
浜田「あ……」
真野「麦畑にさ、漢字で『米』って書いてあんだよ」
松子、はっとして、真野の方を見る。
真野「あ、これこれ！」
浜田「あ！ （松子に）松子さん、載ってるよ！」
松子「何？」
浜田「ほら、これ！」
松子、雑誌を覗き込む。
浜田、雑誌を読み上げて、
浜田「武蔵野市明慶学院大学周辺では、１２年周期で巨大ＵＦＯが目撃されている。この地域でＵＦＯらしきものが目撃されたという記録は、もっとも古いもので４８年前の１９５８年、昭和３３年にさかのぼる。（雑誌から目をはずして）すっげえ。４８年前だって。松子さん！」
真野「知らなかったのかよ」
浜田「知ってますよ」
真野「知ってんのかよ！」
浜田「（雑誌を読んで）４８年前の４月１７日の新聞に不思議な光る物体が空を飛んでるのを何人もの人が見たって、新聞に出てるんだって！ すげえ！ ねえ、松子さん！」
真野「知らなかったのかよ」
浜田「知ってますよ」
真野「だから、知ってんのかよ！」
浜田「当たり前でしょう。４８年前の４月１７日、３６年前の４月１７日、２４年前の４月１７日、で、１２年前の４月１７日が、この写真ですよ」
浜田、雑誌のページを指差す。
真野「うちのＯＢが撮ったやつだろう」
松子「その写真って、本当にここから撮ったの？」
真野「本当だよ。ほら、見てみろよ」
真野、松子に雑誌を見せる。
真野「（写真を指差して）ここに、ほら、あそこのビルがあんじゃん」
松子「ああ、本当だ」
浜田「この写真、マジすげえよ。俺さ、結構ＵＦＯの写真いろいろ見てきたけど、そんなかでも、この写真はかなりランキング上位ですよ。だって、どうみたってこれマザーシップですもん。松子さん、やっぱ、いるよ。ＵＦＯ」
真野、カメラをかまえる。
真野「絶対、これよりすごいの撮ろう」
浜田「来ますかね」
真野「来るよ」
浜田「本当に宇宙人が降りて来たらどうしよう」
真野「ここにか？」
浜田「うん」
真野「お前のこと仲間だと思って？」
浜田「うん」
真野「なるほどねえ」
浜田「やっぱバカにしてんでしょう」
真野「でも、大学時代ＵＦＯ研究会だったのに、ＵＦＯ見たことないのって、コンプレックスだもんね」
浜田「あ、やっぱ？」
真野「そりゃ、そうだよ。俺、こないだ、合コン行ったのよ。会社の後輩がセッティングしてくれたやつなんだけど、結構可愛い子ばっかでさ。うわあって思ってたの。そしたら、女の子が可愛いのはいいんだけど、男の方も、レベル高いの。俺の後輩も、結構格好いい奴で、国立の大学出てるんだけど、そいつの友達がまた偏差値高いやつばっかなの」
浜田「偏差値高くてかっこいい奴ばっかなんだ。勝ち目ないじゃん」
真野「いや、でも、俺も、一応大学出てるし、顔だって悪くないだろう？」
浜田「どうっすかね。微妙じゃないっすか」
真野「微妙じゃねえよ。失礼な。（松子に）なあ」
松子「あ、ああ……」
真野「俺だって、こいつらに引けはとってねえぞって思ってたのよ。で、自己紹介とかして、大学の時のサークルの話になってさ。大学時代、何やってたかって。で、一人の奴が、アメフトやってて、日本代表に選ばれたことがあるっていうの。女の子とか、『すご〜い』って感じになってさ。で、他の奴も、なんかすごいの。バンドやってて、レコード会社からデビューの話が来たんだけど、就職したいから蹴ったとかさ、サーフィンの何とか大会で優勝したとかさ」
浜田「勝ち目ないじゃん」
真野「そうなんだよ。で、俺の番になって、まあ、言ったのよ。普通に。『ＵＦＯ研究会』にいたって。そしたらさ」
浜田「そしたら？」
真野「結構受けたのよ。みんな食いついてくんの。『え〜、すごい、私もＵＦＯ大好きなのぉ』とか言ってさ」
浜田「おお、やったじゃん」
真野「だろ？ で、俺も、ちょっと気分よくてさ。まあ、確かに、アメフトで日本代表とか、バンドでメジャーデビューとかもすごいよ。すごいけど、『ＵＦＯ研究会』も捨てたもんじゃないなと」
浜田「どうなんだろうな」
真野「で、そこまではよかったんだけど、女の子の一人が、『私、ＵＦＯ見たことあるの』って言い出したの。『なんか、オレンジ色の光でぇ』とか言うの。そしたら、アメフトの男が『あ、俺も見たことある』とか言って、後輩なんかも、『俺、アダムスキー型見た』とか言いやがんの。とにかく、なんか、俺もＵＦＯ見た、私もＵＦＯ見た、とかいう話ですごい盛り上がってんの」
浜田「やったじゃん」
真野「何がやったんだよ？」
浜田「だって、真野さんの話で盛り上がったんでしょう？」
真野「いや、俺の話で盛り上がったんじゃねえんだよ。ＵＦＯの話で盛り上がったの。俺、みんなが盛り上がってる間、話できなくて、ショボンだよ。だって、俺ＵＦＯ見たことないもん」
浜田「ああ……」
真野「みんながＵＦＯの話で盛り上がってるのに、俺は、テーブルの上にあった爪楊枝の数かぞえるしかないの」
浜田「悲しい。ＵＦＯ研究会なのにＵＦＯみたことないんだもんな」
真野「そうだよ。アメフトで日本代表になって、さらにＵＦＯ見てるやつもいんだよ。俺、ＵＦＯ研究会だったくせにＵＦＯみたことないんだよ」
浜田「情けない。泣きたくなってきた」
真野「お前だって見たこと無いくせに」
浜田「まあ、そうだけど」
真野「結局、俺が一番可愛いと思ってた子と、そのアメフトの奴がカップル成立っぽい感じになっちゃってよ」
浜田「元アメフト日本代表で、偏差値高くて、顔よくて、ＵＦＯみたことある奴にはかなわないの仕方ないじゃん？」
真野「だから、今日、絶対ＵＦＯ見る」
浜田「まあ、ＵＦＯ見たら女にもてるようになるわけじゃないっすけどね」
真野「いや、ある。あるよ。ＵＦＯ見たら、女にもてるような気がする。なあ、マッコチャン！」
松子「なあって言われても……」
真野「結局、山崎だけだよな。俺らの代でＵＦＯ見たことあるの」
浜田「……え、部長はＵＦＯ見たことあるの？」
真野「いや、わかんないけど」
浜田「わかんないけどって……」
真野「だって、言っただろ。山崎、死ぬ前の日、俺んとこの留守電にメッセージ入れてたって。（声色を真似て）『俺、これから宇宙人に会いに行ってくる』。宇宙人に会いに行ってくるだぞ。絶対あいつ、ＵＦＯみたんだよ。なんか、宇宙人の秘密を知っちゃってさ、消されたんだよ」
浜田「宇宙人に殺されたってこと？」
真野「だってよ。次の日だぞ。『宇宙人に会いに行く』って留守電にメッセージがあって、次の日に突然死んだって言われたら、どう考えたって何か関係あると……」
松子「やめてよ」
間。
真野「……あ、ごめん」
浜田「真野さん、無神経ですよ。松子さんの気持ち考えてくださいよ」
真野「お前、なんだよ。マッコチャンに怒られるのはわかるけどよ、お前に偉そうに言われる筋合いねえだろう」
浜田「別に偉そうに言ってないですよ。松子さんの気持ちを考えろって言ってるだけじゃないですか」
真野「それが偉そうだって言ってんだよ」
浜田「真野さん、本気で言ってんすか？ 部長が宇宙人に殺されたって」
真野「別に、本気じゃねえよ」
浜田「本気じゃないのに、何で言うんすか？」
真野「だってよ、気持ち悪いだろう？ 死ぬ前の日に『宇宙人に会いに行く』なんて留守電に入れられたんだぞ！ 次の日にマジで死んでんだぞ！」
浜田「気持ち悪いってなんすか？ 松子さんがいる前で、部長のこと気持ち悪いなんていうことないじゃないですか！」
真野「別に、山崎が気持ち悪いって言ったんじゃねえだろう！ ああ！ もういいや！」
浜田「もういいってなんすか！」
松子「ごめん。やめて。喧嘩しないで」
浜田「松子さんが謝る事ないよ」
松子「でも……」
間。
真野「……俺だってさ、山崎が死んで、つらかったんだから。俺、山崎のこと、結構好きだったんだから」
松子「知ってるよ。山崎君、よく言ってたもん。真野さんとは一番気が合うって」
真野「俺さ、お前らと歳違うじゃん。あんなバカ大学に三浪してくるようなの、俺くらいしかいないじゃん。だから、（浜田に）お前ら、俺のことバカだと思ってんだろ？」
浜田「はあ？ 真野さんのこと？ バカだなんて思ってないっすよ」
真野「でも、なんか、壁があんじゃん。お前なんか敬語でしゃべるし」
浜田「え、ため口の方がいいっすか？」
真野「山崎は普通にため口でしゃべってくれて、なんか、普通に友達って感じに接してくれてさ……」
松子「山崎君、真野さんのこと、一番の友達だと思ってたと思うよ」
浜田「そういえば、部長がはじめに言い出したんだよ。今日、集まろうって」
真野「そうだよ。８年後の４月１７日にＵＦＯが来るから、その時みんなでまた集まって、ＵＦＯ見ようって。あいつが言い出したんだ。あいつ、好きだったんだよ。ＵＦＯ研究会が」
スーツ姿の笹本章一郎（３０）が現れる。
笹本、三人のしんみりした空気を感じて、
笹本「あれ……」
真野「おう、久しぶり」
浜田「おう」
笹本「何か、暗くない？」
真野「暗くねえよ」
笹本「（松子に）久しぶり」
松子「……うん」
笹本「ここ、懐かしいな。あ、差し入れ、持ってきた」
笹本、お菓子などを袋から出す。
笹本「出張行っててさ、今帰ってきた」
真野「あいかわらず忙しそうだな」
松子「私、お酒買ってくる」
笹本「何、まだ全然飲んでないの？」
真野「飲み会じゃねえぞ。ＵＦＯを見るのが目的なんだから、酒なんか飲んだら、決定的瞬間を見逃すだろ」
松子「でも、いいんじゃない？私、買ってくるよ」
浜田「じゃあ、俺も行くよ」
松子「いい。私、行くから」
真野「三沢酒店、コンビニになってたよ」
松子「ほんとに？ ショック！」
真野「だろ？」
真野「俺も行くよ。あそこのおばちゃん、挨拶しとかないと。（三沢酒店のおばちゃんの物真似で）あんたら、学生のくせに、酒ばっかり飲んでないで、勉強しなさいよ」
笹本「懐かしい！」
松子と、真野、買出しに行こうとする。
浜田「やっぱ、俺も行く！」
真野「何でお前まで行くんだよ」
浜田「だって……」
真野「笹本とＵＦＯ見張ってろよ！」
浜田「ああ……」
真野と松子、去る。
浜田「よっ」
笹本「何？」
浜田「何が？」
笹本「いや、その格好」
浜田「宇宙人」
笹本「……ああ」
浜田「『ああ』って何だよ」
笹本「何が？」
浜田「この格好してんだぞ。みんな久しぶりに集まるから、俺、楽しみにしてて、テンション上がっちゃって、こんな格好してきたんだぞ。それに対して、『ああ』かよ！」
笹本「ごめん。なんて言えばよかった？」
浜田「別にいいよ」
間。
笹本「室田は？」
浜田「まだ」
笹本「来るんだろう？」
浜田「うん」
笹本「室田が来たら、全員集合だな」
浜田「うん」
笹本「室田さ、彼女できたらしいよ」
浜田「マジで？」
笹本「うん。メールに書いてあった」
浜田「うわぁ。超へこむ」
笹本「へこむよな」
浜田「超へこむ。なんであいつに彼女ができるの？室田だよ。俺が女だったら、死んでも室田とは付き合わないよ」
笹本「俺だってそうだよ」
浜田「室田ってさ、なんかヘンな顔だよな」
笹本「うん。ヘンだ」
浜田「そう。ヘンなんだよ。あの顔は、どう考えてもヘンな顔だ。あいつに彼女が出来るなんてどう考えてもおかしい」
笹本「うん。絶対おかしい」
浜田「なんであいつに彼女ができて俺らに彼女できないんだろうな？」
笹本「なあ」
浜田「どうせブスだろう？絶対ブスに決まってるよ。室田と付き合う女なんかブスに決まってんじゃん」
笹本「なんか、キャバクラで働いてる子だって」
浜田「キャバ嬢？」
笹本「らしい」
浜田「うそだろ？ 何であいつがキャバ嬢なんかと付き合えるんだよ。絶対、ウソだよ。室田が勝手に付き合ってると思ってるだけだろ？」
笹本「話聞いたら、そうでもないらしいよ」
浜田「絶対ウソだ」
笹本「あいつ、通いつめたんだって。その子が働いてる店に」
浜田「マジで？ 俺、通いつめたことあるけど、絶対付き合えないよ。なんか、本当に俺に気がありそうなこと言うんだよ。ビジネスじゃなくてさ、本当に付き合ってくれそうな雰囲気出すんだよ。でも、絶対無理。え、マジで？本当だったら、超うらやましい」
笹本「うらやましいよな」
浜田「可愛いかな？」
笹本「室田の彼女？」
浜田「うん」
笹本「やっぱ、キャバ嬢だから、可愛いんじゃない？」
浜田「超うらやましい」
笹本「超うらやましいよな」
浜田「なんであいつがもてて、俺らもてないんだよ」
笹本「本当だよな」
浜田「笹本、お前、彼女できた？」
笹本「できたよ」
浜田「エエエ！ 何だよ、それ！」
笹本「何で？」
浜田「彼女できたの？」
笹本「うん。まだ付き合って３ヶ月くらいだけど」
浜田「はあ？ 何だよ、それ！」
笹本「何で？」
浜田「今、お前、どう考えても彼女いない風な感じでしゃべってただろう？」
笹本「そうかな」
浜田「そうだろう。なんだよ、俺、めちゃめちゃ格好悪いじゃんかよ。お前、だって、室田のことうらやましいとか言ってたじゃんかよ！」
笹本「ああ」
浜田「何でうらやましいんだよ。お前、彼女いるんだったら、うらやましくないだろうが！」
笹本「ああ」
浜田「『ああ』って何だよ！」
笹本「何で？」
浜田「何でって……。お前さ、彼女いるんだろう？」
笹本「いるよ」
浜田「俺が『何で室田に彼女できて俺らにできないんだろう』って言ったら、『なあ』って言っただろう？」
笹本「言ったかな」
浜田「言ったよ。なんか適当に話合わしたんだろう？」
笹本「あ、ごめん。適当に話合わしちゃった」
浜田「適当に話合わしたんだ。最悪。マジ、へこむ」
笹本「何で？」
浜田「何でじゃねえよ」
笹本「なんか、ごめんね」
浜田「お前ってさ、学生の頃から、ぜったい回りに話合わせるよな」
笹本「そうかな」
浜田「もう、いいや。で？」
笹本「え？」
浜田「え、じゃねえよ。お前の彼女だよ。どんな子？可愛いの？」
笹本「ブスだよ」
浜田「ブスなの？ 自分の彼女、ブスとか言うなよ」
笹本「ごめん。本当は、可愛い」
浜田「はあ？ なんだ、それ。え、なんでブスだって言ったの？」
笹本「いや、俺が可愛い子と付き合ってるって言ったら、浜田がかわいそうだから」
浜田「なんか無性に腹たってきた。何でお前にかわいそうなんて言われなくちゃなんないんだ？」
笹本「あ、ごめん。やっぱりブス！」
浜田「もう、いいよ」
笹本「あ、ごめん」
間。
浜田「（ため息をついて）で、どこで知り合ったの？」
笹本「会社の子だよ」
浜田「いいよなあ。やっぱ会社に女がいるってのがいいよ」
笹本「いないんだっけ？」
浜田「いねえよ。若い女がわざわざタクシーなんか乗らないよ」
笹本「でも最近、女の人の運転手、増えてるんでしょ？」
浜田「いや、おばちゃんはいるよ。うちにも。おばちゃんじゃなあ」
笹本「そっか」
間。
笹本「でも、ほんとはさ、なんか、うまくいってないんだ」
浜田「何が？」
笹本「俺と彼女」
浜田「何で？ まだ付き合って３ヶ月しかたってないんだろう？ だったら一番楽しい時期じゃん」
笹本「そのはずなんだけど、なんかダメなんだ」
浜田「何が？」
笹本「なんか、彼女と一緒にいると、つらくなってくるんだ」
浜田「何がつらいんだよ」
笹本「ううん、よくわかんないんだけど」
浜田「好きじゃねえの？」
笹本「いや、好きなんだよ。好きなんだけど」
浜田「なんかわかんねえな」
笹本「俺、女の子とこんな風に幸せになったらダメなんじゃないかなって気がして。なんていうの？ 俺にそんな資格ないんじゃないかなって思って、辛くなってくるんだよ」
浜田「資格？ 資格ってなんだよ？ 女の子と付き合うのに資格とかあんのかよ」
笹本「わかんないけど」
浜田「俺がわかんないよ」
笹本「こないだ、彼女にも言われたんだよ。笹本君、私といると、なんか辛そうだって」
浜田「お前の悩みは贅沢なんだよ」
笹本「そうかな……」
間。
浜田「なあ、松子さん、どう思う？」
笹本「どうって？」
浜田「ずっと誰とも付き合ってないんだって」
笹本「……ああ」
浜田「ずっとだぞ。部長が死んでからずっと。そういうの、よくないと思うんだよ」
笹本「うん」
浜田「そんなんじゃ部長も喜ばないと思う」
笹本「うん」
浜田「だから、ちゃんと男と付き合ったほうがいいと思う」
笹本「うん」
浜田「笹本、なんとか言ってよ」
笹本「え？」
浜田「俺と付き合えって言ってよ」
笹本「いや、だから、俺、彼女いるし……」
浜田「お前じゃないよ！ 俺！ 浜田！ 浜田と付き合えって」
笹本「ああ……」
浜田「『ああ……』ってなんだよ」
笹本「いや……」
浜田「ダメかなぁ」
間。
浜田「俺、本当は、部長のことが嫌いだった」
笹本「何で？」
浜田「松子さん、何でこんな奴のことが好きなんだろうってずっと思ってたよ」
笹本「何で？ 部長、いい奴だったよ」
浜田「偉そうにしすぎなんだよ。たかがＵＦＯ研究会の部長だってだけで、自分が俺らより偉いと思ってんだよ」
笹本「そうかな」
浜田「だいたい、突然死ぬなんて、最低だよ。後に残された者がどんな気分になるか、ちょっとは考えて欲しいよ。そりゃ、自分は死にたいんだったら死ねばいいよ。死んだらおしまいだから、それで楽になれていいかもしんないけど……」
笹本「うん……」
浜田「だから、松子さんが、あんな奴のことをずっと引きずってるのは、よくないと思う」
間。
笹本「あのさ、わかんないけど、浜田っていい奴だから、松子さんも、浜田のいいとこ、わかってくれてると思うよ」
浜田「……お前、いい奴だな」
笹本「わかんないけど、浜田と松子さん、似合ってると思うよ」
浜田「お前、いい奴だな」
笹本「いや……」
浜田「じゃあ、松子さんに言ってよ。俺と付き合えって」
笹本「いやあ、それはちょっと……」
浜田「何でだよ！ 松子さん、俺と似合ってるんだろう？」
笹本「そうだけど、でも、自分で言った方がいいんじゃないかな」
浜田「いいじゃんかよ。言ってよ、言ってよ！」
笹本「俺、そういうの苦手なんだよ」
浜田「苦手とかそんなのないだろうが」
笹本「絶対自分で言った方がいいって」
浜田「言って！ 言って！」
笹本、逃げる。
浜田、追いかける。
室田正治（３０）が現れる。
浜田と笹本、暫く室田に気付かない。
浜田「頼むよ。言ってって」
笹本「いや、絶対自分で言った方がいいって」
室田「何を言うの？」
浜田「うわあ！」
笹本「室田！」
室田「何を言うの？」
浜田「何でもないよ！」
笹本「いや、浜田がさ、松子さんのことを……」
浜田「ああ！ やめろ！」
笹本「いいじゃん」
浜田「いいふらすなよ」
笹本「（室田に）浜田が松子さんのこと好きなんだって」
室田「へえ……。でね、ちょっと聞いて。俺、室田正治に彼女ができましたぁ！」
浜田「……お前、俺の話、興味ないのか？」
室田「ハマちゃんの話って？」
浜田「いや、もういいや」
室田「室田正治に彼女ができましたぁ！」
浜田「聞いたよ！」
室田「で、今日は、みんなに紹介しようと思って連れて来ちゃいました」
浜田「え、来てんの？キャバクラの……」
笹本「浜田！」
笹本、浜田の口を封じる。
室田「何、いいよ。別にキャバクラで働いてるのは恥ずかしい事じゃないんだから」
笹本「ああ、そうか」
浜田「え、で、今来てるんの？」
室田「言っとくけどね、純子ちゃん……あ、純子ちゃんっていうのね。白鳥純子ちゃん」
浜田「白鳥純子って、百パー美人の名前じゃん！」
室田「そうだよ。言っとくけど、純子ちゃんは、普通はお話しようと思ったら高い金払わなくちゃなんないような人なんだから」
浜田「わかったから早く呼べよ」
笹本「もったいぶってんの？」
室田「わかりました。じゃあ、呼びますよ。ダンシングクイーン！ 純子ちゃぁん！」
室田、突然歌いだす。
白鳥純子（２９）が歌に合わせて踊りながら現れる。お世辞にも美人とは呼べない太った女。
浜田と笹本、あっけにとられて見ている。
歌が終わって、
純子「こんばんは」
浜田「……ああ、こんばんは」
笹本「……どうも」
室田「どう？ どう？ 純子ちゃんね、昔ダンサーを目指してたんだって」
浜田「ああ……そうなんだ」
浜田、笹本に小声で、
浜田「あんまりうらやましくないぞ」
笹本「ああ、まあ」
室田「（純子に）こっちが、浜田」
純子「ハマチャンやな。はじめまして」
浜田「あ、どうも……」
室田「（純子に）で、こっちが笹本」
純子「ササモッチーやな。はじめまして」
笹本「いや、言われた事無い。ササモッチーって言われた事無い」
純子「私な、すごい楽しみにしてたんよ。ＵＦＯ研究会の同窓会やっていうからさ」
室田「純子ちゃんさ、俺がＵＦＯ研究会だって言ったら、すごい興味もってくれてさ」
純子「だってな、私、ＵＦＯ大好きやねんもん」
浜田「そうなんですか」
純子「私な、絶対宇宙人って、いると思うねん」
笹本「僕らもそう思うんですよ。だって、こんなにたくさん星があって、地球以外に生物がいないなんて考え方は無理があるんですよ」
室田「え、ちょっと待って、純子ちゃん、ＵＦＯ大好きって、何それ、俺とＵＦＯとどっちが好きなの？」
純子「……ムロリン、何言うてんの？」
笹本「ムロリン？」
純子「……あほな事聞かんといてよ」
室田「何があほな事なの？何ではっきり言えないの？そうか。純子ちゃん、俺のことなんか好きじゃないんだよ。俺なんかよりＵＦＯの方が好きなんだよ！」
純子「アホ！ 何言うてんの！ 私が一番好きなのは、ムロリンに決まってるやろう！」
室田「ウソだよ！ 信じられない！」
純子「何で信じてくれへんの？」
室田「だったら、ＵＦＯなんか嫌いだって言って！」
純子「（浜田に）あんたら、ＵＦＯ研究会なんやって？ ええ歳して、ＵＦＯ？はあ？アホちゃうの？ おるわけないやろ！ あたまわいとんのちゃうか！」
純子、室田の方に戻り、
純子「（室田に）ゆうたった！ ゆうたった！」
室田「純子ちゃん、それは言いすぎだよ」
純子「（浜田に）言いすぎ」
室田「俺も浜田たちも、学生の時はＵＦＯ研究会に青春をかけてたんだからさ。俺らの青春を否定しないで！」
浜田「お前が嫌いだって言えって言ったんだろう」
純子「ムロリン、ごめん。もう言わない。ＵＦＯがいないなんて絶対言わない！ ムロリンの青春を否定しない！」
浜田「何か意味わかんないなぁ」
純子「ムロリンがな、ＵＦＯ研究会の話をよくしてくれてたん。私な、アホやったから、大学なんかいってへんねんな。だから、ムロリンが大学でＵＦＯの研究してたっていうから、びっくりして、尊敬が愛情に変わってしもたん。大学ってＵＦＯの研究とかもするんやぁ、すごいなぁって思って」
笹本「大学でＵＦＯの研究してたって、別にＵＦＯ学部とかじゃないんだけど……」
純子「え？ 大学でＵＦＯの研究してたんやろう？」
浜田「まあ、間違いじゃないけど、単なるサークルだから。学部は、室田は商学部だから」
純子「サークルって何？私、大学いってへんからわからへん」
室田「サークルっていうのは……」
純子「ミステリーサークル？」
浜田「どんだけＵＦＯに食いついてんだよ！」
室田「大学で勉強してたのは、商学部って、商売の勉強だよ。で、ＵＦＯ研究会は、サークルって、要するに同好会だよ。趣味の集まり」
純子「いやあ、ムロリン、商売の勉強してたの？ すごおい！」
室田「すごくないよ！」
純子「すごいよ！」
室田「すごくないよ！」
純子「すごいよ！」
室田「すごくないよ！」
純子「すごいよ！」
浜田「なんかイライラする」
純子「え、ＵＦＯ見たい！ 早く見たい！」
笹本「来るかどうか、わかんないですよ」
室田「え、今日ＵＦＯ来るんじゃないの？」
笹本「いや、そりゃ、わかんないよ。１２年周期でこのあたりでＵＦＯ目撃されてるから、だから、今日も来る可能性が高いとは思うけどさ……」
室田「え、来ないかもしれないの？」
笹本「そりゃ、宇宙人しだいだから」
室田「おいおい、聞いてないよ。ＵＦＯが絶対来ると思って純子ちゃん呼んだのに、来なかったらどうしてくれるの？」
浜田「知らねえよ。お前が勝手に彼女連れてきたんだろう」
室田「（純子に）純子ちゃん、ごめんね。もしかしたらＵＦＯ来ないかもしれないって……」
純子「ええ！ いやや、ＵＦＯ見たい！ ＵＦＯ見たい！」
浜田「イライラする」
室田「なあ、頼む。純子ちゃんにＵＦＯ見せてやってくれよ！」
笹本「いや、頼まれても……」
室田「だって、ＵＦＯが来なかったら、俺立場ないだろう！ 純子ちゃん、ＵＦＯ見るの楽しみにしてたんだから」
浜田「だから知らねえって」
純子「ＵＦＯ見たい！ ＵＦＯ見たい！」
室田「なんとかしてやってよ！」
浜田「なんともできるわけないだろ」
純子「ムロリン、ウソついた！ ＵＦＯ見せてあげるっていうからこんなとこまで来たのに、ＵＦＯ見られへんやんかぁ！」
室田「ごめんね。でも、もしかしたらＵＦＯくるかもしれないから、ほら、望遠鏡覗いて」
純子、望遠鏡を覗く。
純子「ＵＦＯどこ？ ＵＦＯいてへんで！」
室田「そんなすぐには来ないよ。もうちょっと見てたら来るかもしれないから」
純子「ＵＦＯどこ？ どこ？ＵＦＯいてへんやんか！ （浜田たちに）あんたら、ＵＦＯの研究してるんやろ？ 大学でＵＦＯの研究してるくせに、何でＵＦＯ来るかどうかわからへんの？」
室田「純子ちゃん、ちょっと待ってよ！」
純子「いやや、待たれへん。はよＵＦＯ見せてよ！ （浜田たちに）あんたら、はよＵＦＯ連れてきてよ！」
浜田「うるさいよ！ 何だよ、お前は！ うっとおしい！ だいたいなんだよ！ キャバクラ嬢だっていうから、どんなきれいな女かと思ったら、なんだよお前は！ よくその顔でキャバクラ雇ってくれたな！」
笹本「おい、浜田……」
間。
純子「……私、帰る」
室田「純子ちゃん！ ちょっと待って！」
純子「ムロリン、悪いけど、もう電話せんといて」
室田「純子ちゃん！ 何言い出すの！」
純子「私、あんたの友達に侮辱されたんやで！ 陵辱されたんやで！」
浜田「いや、陵辱はしてないよ！」
室田「ごめん。浜田！ 謝ってくれよ！」
浜田「知らねえよ」
純子「私、こんな侮辱されたのはじめてや。帰る！」
室田「純子ちゃん、待ってよ。俺、純子ちゃんのこと、本気で好きなんだよ。純子ちゃんにとって、俺は、たくさんいるお客の中の一人かもしれないけど、俺にとって純子ちゃんは、たった一人なんだよ！ 俺には純子ちゃんしかいないんだよ！」
純子「冷静に考えたらな、ムロリン、私なんかと付き合っても、幸せになれるわけないねん」
室田「何でだよ」
純子「私は中学しか出てへんから、アホやし、水商売の女なんやで！ ムロリンは、大学も出てるエリートなんやから、私とはつりあわへんわ」
室田「何言ってるんだよ！ 俺、大学出てるっていっても、バカ大学だよ！ 俺の方こそ、純子ちゃんみたいなきれいな人につりあわないと思ってたよ。不細工だし、三流大学出で、パチンコ屋なんかにつとめてて、でも、俺、純子ちゃんが好きだから……」
浜田、突然、宇宙人を呼び出すためのダンスを踊りだす。
笹本「浜田……」
浜田「ＵＦＯが見られればいいんだろう！ 俺がダンス踊って、ＵＦＯを呼び出してやるからさ！ だから、もう、別れるとか言うな！」
純子「え、そのダンスでＵＦＯを呼び出すの？」
浜田「そうだよ。これ、ＵＦＯ研究家が考え出した、ＵＦＯを呼び出すためのダンスなんだよ！」
純子、浜田と一緒に踊り始める。
室田「純子ちゃん……」
純子「ダンスやったら負けへんでぇ！」
純子、激しく踊る。
室田も純子にからみつくように踊りだす。
突然、室田、純子を抱き寄せキスをする。
松子と真野がビールなどを持って現れる。二人のキスを見て、目が点。
室田「ウオオオ！」
間。
松子・真野「ウオオオ！」
笹本「わけがわからない！」
座り込む純子。
真野「ていうか、（純子と室田を見て）なんなの、この状況！」
室田「あ、あの、彼女、白鳥純子さん。僕がお付き合いしてる……」
純子「白鳥純子です」
室田「（真野を指して）真野さん。同期なんだけど、歳は３つ上で……」
真野「そんなこと言わなくていいよ」
室田「（松子を指して）で、こちらが千葉松子さん」
純子「いや、きれいな人やん」
松子「そんなことないですよ」
純子「（室田に）そんなことないですよ、やって。ちょっと本気にしてはる」
松子「え……」
浜田「やっぱ、むかつくんだけど……」
純子「え、何？」
浜田「松子さんは、俺らＵＦＯ研究会のアイドルだったんだから。みんな松子さんに憧れてたんだよ。室田だって」
純子「え、ムロリンも？」
室田「あ、いや、俺は……」
浜田「お前も学生の頃、言ってただろうが。松子さんのことが好きだって」
室田「いや、それはさぁ……」
純子「ムロリン、ほんま？ こういう人がタイプなん？」
室田「そんなことないよ。俺が好きなのは純子ちゃんなんだから」
真野「あ、そういえば、思い出した。お前、学生の頃、マッコチャンと二人で撮った写真、いつも大事そうに持ち歩いてたよな」
室田「うそですよ！ 何言ってるんですか！」
純子「ホンマ？ ムロリン、この人のこと、好きやったん？」
笹本「純子さん、別にいいじゃないですか。そりゃ、室田だって、学生時代に好きな女の子の一人や二人いますよ」
純子「だって、この人、私に出会って、はじめて人を愛する気持ちを知りましたって言うたんやで！」
真野「お前、そんな歯の浮くようなこと言うのか」
純子「私、騙された。もてあそばれたんや」
室田「純子ちゃん、何言ってんの？」
純子「だって、ムロリンは、（松子を指して）こういう顔が好きなんやろう？だって、この人、純和風な顔立ちやんか！ 私と全然違うやん！」
室田「いや、昔は和風の顔が好きだったけど、今は純子ちゃんみたいなフランス風の顔が好きなんだよ」
純子「うそや！ ムロリンは、ホンマは私みたいなフランス風の顔が嫌いなんや！」
浜田「何だよ、この会話……」
笹本「まあ、まあ、落ちつきましょうよ」
純子「おちついてられへん。ムロリンは、私が水商売の女やと思って、もてあそんで捨てるつもりなんや」
室田「そんなことないよ！ 何言ってるんだよ！」
純子「だったら、言って、この人のこと嫌いやって言って！」
室田「そんな、嫌いとか言う必要ないだろう！」
純子「やっぱり、この人のこと、今でも好きなんや！」
室田「違うよ！ 何度言ったらわかってくれるの？僕が好きなのは純子ちゃんだけだよ！」
純子「うそや！ 信じられへん！」
室田、純子を抱き寄せ、キスをする。
全員、目のやり場にこまり、視線を逸らす。
室田と純子、見詰め合う。
純子「……ムロリン、ごめんな」
室田「……いいよ」
純子「ムロリンが学生の頃、松子さんのこと好きやったとしても、もう昔のことやもんな。ごめんね。第一、私にムロリンのこと責める資格ないもんな」
室田「え、どういうこと？」
純子「ああ……いや、なんでもない。なんでもないやん！」
室田「……あ、そうなの？ 学生の頃、松子さんのこと確かに好きだったけど、それは、ライクだよ。ラブじゃないよ。ラブは、純子ちゃんだけだから」
純子「松子さんとムロリンはつきあわへんかったん？」
松子「私、学生の頃はずっと付き合ってた人がいたんです」
純子「そうなん？」
室田「松子さんは、ＵＦＯ研究会の部長と付き合ってたんだよ。山崎っていって、すんげえいい奴だったんだよ。だから、俺は、松子さんと部長がうらやましかったの」
純子「ふうん……」
間。
純子「部長さんは、今日はこおへんの？」
間。
真野「山崎は死んだんですよ。学生の時」
間。
純子「え、何で？ 何で？」
真野「原因ははっきりわからないんだけどね」
浜田「病気だったってわけでもないんだけど、突然死んじゃって、家族の人も、何で死んだのか教えてくれなかったから……」
間。
純子「それ、自殺とちゃうの？」
室田「おい、純子ちゃん」
純子「絶対そうやで。私もな、昔、同じ店で働いてた子がな、昨日まで普通に働いてたのに、突然死んでしまったんよ。で、お葬式いったんやけど、家族の人、全然、何で死んだか教えてくれへんの。店長に聞いたら、『家族が何にも言わないってことは、自殺なんだよ』って……」
松子「やめてよ」
純子「え、だってな、ちゃんと理由を知っておいた方がええやろう？」
松子「そんなことわかってるわよ！ 山崎君が多分自殺したんだろうって、そんなこと、あんたに言われなくてもわかってるのよ！」
間。
純子「え、何？ この人、私がせっかく親切で教えてやろうとしてるのに」
松子「大きなお世話なのよ」
室田「松子さん、ごめん。純子ちゃん、思ったこと全部言っちゃうタイプだから！」
純子「え、ムロリン、私が悪いの？」
室田「いや、そんなことないよ。そんなことないけど……」
笹本「ちょっと、落ち着こうよ。話変えようよ。部長の話は、今日はいいじゃん」
純子「（松子に）なあ、アンタ、その部長さんと付き合ってたんやろう？ 付き合ってたのに、なんで自殺を止めてあげられへんかったん？」
室田「純子ちゃん、もうやめようよ」
純子「私やったら、絶対自分の好きな人を自殺させるようなことはせえへんで。もしもムロリンが自殺したいと思って苦しんでたら、私も一緒に苦しむで。苦しみをわけあってあげるで。絶対に自殺なんかさせへん。苦しくても一緒に生きていこうって言うで」
松子、純子の頭をはたく。
松子「アンタに何がわかんのよ！」
純子「いたあ！ 何すんの！」
純子と松子、取っ組み合いの喧嘩になる。
それを制止しようとする男たち。
（暗転）
○明慶学院大学・屋上（夜）
二時間ほど経過の後。
空からは星明り。
真野、望遠鏡を覗いている。
松子がベンチに腰を下ろして、ぼんやり空を眺めている。
他の者はいない。
真野「こねえな」
松子「こないね」
真野「でも、今ＵＦＯが来たら、みんな絶対悔しがるだろうな」
松子「そうだね」
真野「みんな、今日なんの為に集まったのか、忘れてんじゃねえのかな。探検するも何も、昔と全然変わってないんじゃねえの？」
松子「そうだよね。でも、懐かしいからさ」
真野「今の学生って、あんまり夜、いないのな」
松子「そうだね。私らの頃って、よく学校に泊まったりしてたけどね。今、そんなことする人いないのかな」
真野「時代ですか」
松子「なんか、おじさんみたいなこと言うね」
真野「充分おじさんだから」
松子「私もおばさんか」
真野「マッコチャンは、まだギリギリ大丈夫だよ」
松子「ギリギリ？」
真野「歳とってくのは仕方ないよ。生きてるんだから」
間。
真野「あ、いや、別に、深い意味はないよ」
松子「山崎君は、永遠に２２歳だもんね」
真野「ああ……。山崎さ、マッコチャンのこと、本当に好きだったんだよ」
松子「うん」
真野「あいつ、俺んちに泊まりに来た時さ、二人で、朝まで飲んだんだよ。そん時、あいつ酔っ払ってさ、『俺、松子と結婚するぞぉ！ 松子と結婚するぞぉ！ 』って、何回も叫ぶんだよ。俺が、わかったから、黙れって言っても聞かねえの。アパートの隣の奴に怒られるから、静かにしろって言うのに、『俺、松子と結婚するぞぉ！ 』ってさ。結局、隣の奴が『うるせえ！ 』って怒鳴り込んできて、喧嘩になっちゃってよ。あいつ、喧嘩よええの。隣の奴に殴られちゃってさ……」
間。
真野「ＵＦＯこないなあ」
間。
松子「私、本当は、ＵＦＯ見たことあるの」
真野「え、ＵＦＯを？ マジで」
松子「うん」
真野「いつ？」
松子「学生の時」
真野「学生の時？ え、そうだったの？ 俺、全然知らなかったよ。何だよ。うちのＵＦＯ研究会、誰もＵＦＯ見たことないと思い込んでたけど、なんだ、見たことあったの？」
松子「うん！」
真野「俺、全然知らなかったよ」
松子「うん。言わなかったから」
真野「……え、何で？」
松子「……なんか、悪いなと思って。みんなＵＦＯ大好きでしょう？ みんながＵＦＯ見たい見たいと思ってるのに、見れなくて、私、あんまりＵＦＯに興味ないのに、見ちゃったら、なんか申し訳なくて」
間。
真野「え、何、その理由」
間。
真野「え、どんなだった？」
松子「ＵＦＯ？」
真野「うん」
松子「青白くって、丸かった。けっこう大きかった。５０メートルくらいあるんじゃないかな」
真野「すげえじゃん」
松子「はじめ、気付いた時、空に浮かんでたの。動いてなくて。ホント、空に浮かんでるってかんじで。見てたら、急にすごいスピードで動き出して、あっという間に消えちゃったの」
真野「すげえじゃん！ なんだよ！ なんでそんなすげえ話、内緒にしてるんだよ？え、山崎は？ 山崎、その話聞いたら悔しがったんじゃねえの？」
松子「山崎君には言ってない」
真野「え、何で？ 山崎にも内緒にしてたの？」
松子「うん。言えなかった。悔しがるだろうなと思って。だって、山崎君、いっつもＵＦＯ見たがってたから。二人で買い物とか行ってもさ、ふっと気付いたら、ぼおっと空見てんの」
真野「いっつも空見てたら、そのうちＵＦＯ見れるはずだって言ってたからな」
松子「そうなの。私と一緒にいるのに、私よりＵＦＯの方に頭がいってるのよ」
真野「ああ……」
松子「それに、その後、すぐだったから。私がＵＦＯ見て、山崎君に言おうかどうしようか迷ってたら、山崎君……」
真野「……そっか。残念だな。山崎、その話聞いたら、ぜったいうらやましがっただろうな！」
松子「うん」
真野「でも、絶対喜んだと思うよ」
松子「そうだね！」
真野、望遠鏡を覗き込んで、
真野「こねえなぁ」
松子「うん」
真野「どこで見たの？」
松子「ああ、うちで。自分の部屋の窓から」
真野「そっか」
松子「あ、でも、みんなには内緒にしてね」
真野「何でだよ」
松子「うーん、なんとなく」
笹本が現れる。
笹本「あれ、みんな戻ってない？」
真野「戻ってねえぞ」
笹本「おかしいな。はぐれちゃった。一号棟のとこでさ、トイレに行ってる間にみんなどっか行っちゃったんだよ。どこ行ったんだろう。あ、でも、すごい懐かしかったよ」
松子「変わってた？」
笹本「あんまり変わってない。あ、でも第一講義室の前の談話室にさ、自動販売機ができてた」
真野「中庭のヘンな埴輪みたいな奴、まだあった？」
笹本「あった、あった。室田がさ、彼女に得意になって話してるから、面白かった。『この埴輪みたいなやつ、ハニーっていう名前なんだよ』って言ったらさ、彼女が『すごぉい！ ムロリン、すごぉい！ 』とか言ってんの」
真野「何がすごいのかまったくわかんねえな」
松子「でも、あの人、ちょっと怖いよね」
真野「マッコチャンも全然負けてなかったよ」
笹本「来ました？ ＵＦＯ」
真野「こねえよ」
笹本「やっぱダメなんですかね」
真野「だって、ずっと１２年周期で来てるんだぞ。絶対来るよ」
松子「何で１２年周期なのかな？」
真野「あれだよ。その宇宙人が住んでる星から、地球まで片道６年かかるんじゃないか？だから、はじめのＵＦＯが地球に来て、もとの星に戻んじゃん、で、また次のＵＦＯが地球に来んじゃん、そしたら丁度１２年かかるんだよ」
笹本「ああ。きっとそうですよ。リレーしてるんじゃないですか？運動会かな？でないとおかしいもんな。わざわざ１２年もかけて往復したわりには、ちょっと姿現してすぐ帰っちゃうんだから」
真野「知らねえよ！ なんでリレーなんだよ。適当に話合わしてんじゃねえよ！」
笹本「あ、ごめんなさい！」
真野「１２年もかけてわざわざ地球往復するなんておかしいだろうが！」
笹本「そうですよね」
松子「真野さん、自分で言ったのに」
間。
真野「やっぱ、だめかなぁ」
笹本「来ないですね」
真野「世界中にさ、ＵＦＯの写真とか映像とかって、ものすごい数あんじゃん。あれって、どの程度本物なんだろうな」
笹本「どうなんですかね。でも、真野さんはＵＦＯ信じてるんでしょう？」
真野「信じてるよ。だけど、全部が全部本物ってことはないだろう。ぜったいインチキは多いと思うよ。あきらかにインチキだってわかるものもあるもんな」
笹本「ありますよ」
真野「こないだの特番のやつなんかさ、名古屋に現れた……」
笹本「金のシャチホコ型ＵＦＯ！ 見ました！」
真野「あれはねえよな」
笹本「あと、あれ、見ました？宇宙人の解剖手術してる映像」
真野「見た、見た！」
笹本「あれなんか、人形まるだしですよね」
真野「いや、あれは宇宙人だろう」
笹本「ええ！ そうですか？」
真野「当たり前だよ。だって、もし人形だったとしたら、あれだけリアルなもの作るのって、ものすごい金がかかるんだよ。いたずらだったらそこまでしないだろう」
笹本「ああ、そうですか。そうですよね」
真野「また人に合わせるんだから」
笹本「え？」
真野「お前、あれがインチキだと思ってるんだったら、俺が本物だって言っても、反論しろよ。そんな簡単に相手に合わすなよ」
笹本「ああ、すみません」
真野「あんなの人形に決まってんじゃん」
笹本「ええ……」
真野「でも、結構説得力はあるよ。あれ観て、宇宙人はいるって思う奴はいっぱいいただろうし」
笹本「はあ」
真野「だから、あの映像がインチキだとしても、俺は、あれを撮ったやつは偉いと思うよ」
笹本「何でですか？」
真野「だってよ、地球人と宇宙人が理解しあおうと思ったら、まずは、俺らが宇宙人はいるってことを知らないとだめなんだから。あ、『コンタクト』って観た？」
笹本「映画ですか？」
真野「うん」
笹本「ジョディ・フォスターが出てるやつですよね。俺、観てないんですよ」
真野「なんだよ、元ＵＦＯ研究会のくせに『コンタクト』観てねえのかよ」
笹本「すみません」
真野「あれさ、ジョディ・フォスターは、科学者で、絶対宇宙人はいると思ってんのよ。で、なんか、すごいでっかいアンテナみたいなやつで、こう、宇宙人から送られてくる電波とかをさ、キャッチしようとしてんの。だけど、そのプロジェクトって、ものすごい金がかかるのよ。で、世の中のたいはんの人って、宇宙人なんかいるわけないと思ってたり、宇宙人がいるかいないかとか、そういう研究を真剣にするなんてバカバカしいと思ってるわけじゃん」
笹本「まあ、そうですよね」
真野「だから、ジョディ・フォスターの研究も、予算をカットされて、研究続けられないような感じになるのよ。宇宙人なんて、そんなバカげたことに大金を使うことはできない、とか言われて」
笹本「まあ、宇宙人はいるわけないと思ってる人から見たら、そんな研究に大金使うのはバカだってことになるんでしょうね」
真野「だから、その風潮がだめなんだよ。宇宙人なんてバカバカしいって思ってる奴がたくさんいるってことが、よくないのよ」
笹本「あ、だから、あの宇宙人解剖の映像観て、宇宙人がいるって思う人が増えれば、あの映像も意味があるってことですか」
真野「そうだよ」
松子「え、で、結局ジョディ・フォスターは、どうなったの？」
真野「ああ、一旦研究中止になるんだけど、なんか、また別の大金持ちのスポンサーが現れてさ、研究続けてたら、宇宙人からの電波をキャッチすんの」
松子「それで？」
真野「それで、どうなったっけな。なんかいろいろあって、最終的にはレクター博士とかが出てくるんじゃなかったっけ？」
笹本「それ、別の映画とごっちゃになってません？」
真野「まあ、とにかく、世の中の宇宙人とかＵＦＯを信じてないやつらを、なんとか信じさせないとダメなんだよ。でないと、いつまでたっても俺らは宇宙人と理解しあえないんだから」
笹本「じゃあ、本物の映像撮って、宇宙人の存在を証明するしかないですね」
真野「……それか、逆に、絶対インチキだってばれないようなリアルなインチキ映像を撮るかだな」
松子「宇宙人の？」
笹本「明慶学院大学に宇宙人が現るって？」
真野、ビデオカメラを準備する。
笹本「え、マジですか？」
真野「マジだよ。当たり前だろ。せっかくビデオカメラ持ってきたんだから。俺らが撮った映像を観て、みんなが宇宙人を信じるようになればすげえじゃん」
笹本「そんなのすぐ偽物だってばれるんじゃないですか？」
真野「大丈夫だよ。俺が監督してやるから。すっげえリアルなの作ればいいんだよ」
笹本「ええ、でも、ばれたらかっこ悪くないですか？」
真野「大丈夫だって。あ、じゃあ、もし仮にばれたとしても、俺らが撮った映像だってわかんないように公表すればいいんだよ」
笹本「どうやって？」
真野「匿名で、ネットにのせるとか、いろいろあんじゃん。だいたい、あの宇宙人の解剖の映像だって、誰が撮ったものだかはっきりわかんないんだぞ」
笹本「まあ、それはそうですけど……」
松子「なんか、面白そう」
真野「だろ？（笹本に）なんだよ、お前、ノリ悪いな。やろうよ」
笹本「ええ……でも、どうやって宇宙人の映像なんか撮るんですか？」
三人、考え込む。
浜田が現れる。
浜田「あれ、室田たち、戻ってないですか？おかしいな、２号棟ではぐれちゃった。あ、笹本は戻ってたんだ」
真野たち、宇宙人の格好をした浜田をじっと見つめる。
笹本「いや、いや、ありえないでしょう」
真野「いや、大丈夫だよ？」
笹本「これ、宇宙人に見えますか？」
真野「まあ、確かにちょっと、色が違うんだけどよな。グレイがかった緑色なんだよ」
松子「だから、そういう問題？」
真野「でも、そんなに、バーンと映すわけじゃないから、大丈夫だよ」
浜田「何の話？」
松子「宇宙人襲来のビデオ撮るの」
浜田「はあ？ 何それ」
真野「明慶学院大学に宇宙人現る！ って。俺がビデオ撮るから。お前、それらしく現れてよ」
真野、ビデオカメラを構える。
浜田「それらしく現れてって……」
室田と純子が現れる。
浜田「どこ行ってたんだよ」
室田「３号棟の方まで行ってきた」
純子「私、大学ってはじめて見たわ。感動。すごいなぁ。ムロリン、こんなところでずっと勉強してたんやもん。すごいわ！」
室田「すごくないよ」
純子「すごいよ！」
室田「すごくないよ」
純子「すごいよ！」
純子、ビデオカメラに気付いて、
純子「あれ、ビデオ撮るの？」
純子、ビデオカメラに愛想を振りまいて、
純子「（カメラに）白鳥純子でぇす」
室田、純子が目の前にいないことに気付かず、
室田「すごくないよ」
浜田「宇宙人が現れたっていうビデオを撮るんだって」
純子「わあ！ 私も出たい！ 私も出して！」
浜田「だめだよ。だって、宇宙人が現れるっていうビデオなんだから、俺が出るんだよ」
純子「私も出てもいいやんか」
室田「純子ちゃんも出してやってよ」
純子「美女が宇宙人にさらわれるねん。宇宙人がやってきてな、『地球の女は美しいな。我々の星につれて帰ろう』とか言ってな、宇宙人が私のことさらっていくねん」
室田「そしたら、俺が宇宙人と戦うよ。俺、絶対純子ちゃんのためだったら宇宙人と戦うもん。『待て！ 純子ちゃんを帰せ！ 』とか言って」
純子「それ最高！」
浜田「ダメだよ！ そんなの。リアリティ無さ過ぎる」
室田「リアリティあるよ。美女といったら純子ちゃんだもん」
浜田「いや、そういう意味でリアリティがないっていうんじゃなくて」
松子「じゃあ、私がさらわれる？」
浜田「そういう問題じゃないの！」
真野「じゃあ、みんな出演して、宇宙人を目撃して怖がる人の役」
松子「私、やっぱり宇宙人の役がやりたい」
純子「私も宇宙人がいい！」
浜田「だめだって。宇宙人は俺だよ。どうみたって宇宙人じゃん！」
松子「その服貸してよ」
純子「私に貸して」
浜田「いやだよ。俺が宇宙人なんだよ」
笹本「でもさ、やっぱりリアリティを追求するんだったら、宇宙人はあんまりちゃんと映さない方がいいと思うよ」
真野「ああ、そうだ。チラッとだけ映るとかな」
笹本「声だけ聞こえるとか」
浜田「声だけなんてやだよ。せっかくこの格好してんのに」
真野「わかったよ。じゃあ、チラッと映るのにしよう。チラリズムだよ。その方がリアリティあって、怖いんだから」
浜田「ええ……」
松子「私、チラッとしか映らないんだったら、宇宙人じゃなくていいや」
純子「あんた、さっき宇宙人やりたい言うてたやんか、やったらええやん」
真野「『ブレアウィッチプロジェクト』みたいな感じにしようよ。なんだかわかんないけど、みんな絶叫してんの。怖がって。で、最後にチラッとだけ宇宙人らしき奴の姿が映ってるの。怖くない？」
笹本「面白そう」
真野「じゃあ、ちょっとリハーサルやろう。一人が、空を見てたら、ＵＦＯを見つけちゃうんだよ。で、『わあ、ＵＦＯだ！ 』みたいな台詞があって、で、みんなが、空を見る。で、だんだんＵＦＯが近づいてくるから、みんな恐怖で、叫び声あげたりするの。で、ＵＦＯが着陸して、宇宙人が中から出てきたっていう設定で、みんなパニクっちゃって、で、最後に宇宙人が屋上まで登ってきて……」
浜田「最後さ、宇宙人が、ビデオに気付いて、カメラを壊すんだよ。で、撮影がストップすると」
真野「おお！ なんか怖くなりそう」
純子「え、じゃあ、結局、私らって、叫んでるだけ？」
真野「叫んでるだけだけど、それがリアルなんだよ。純子ちゃんの演技力にかかってるんだから」
純子「ええ、なんか物足りんわ。もっと私に特別な役をちょうだいよ」
真野「もう、じゃあ、はじめにＵＦＯに気付く役。一番目立つ役だよ」
純子・室田「ヤッタ！」
真野「じゃあ、いくぞ。リハーサルな。はい、スタート。みんな、はじめは自然に話してるんだよ」
室田「自然に話すって、何話すの？」
真野「なんでもいいんだよ」
室田「何でもいいって言ったって……」
真野「何でもいいんだよ。天気の話題とかさ」
室田「ああ、今日はいい天気だね」
真野「いい天気だねって、夜だぞ」
室田「夜だけど、いい天気だね」
純子「（カメラ目線で）星がたくさんでてるわ」
真野「カメラ目線にしない」
純子、目線をはずして、
純子「星がたくさんでてるわ」
室田「きれいだね」
真野「他のみんなも、自然に話してよ」
笹本「ああ、星がたくさんでてるよ」
松子「ほんと、星がたくさんでてるわ」
浜田「星がたくさんでてるよ」
真野「ストップ！ お前ら、星がたくさん出てるしか言ってねえじゃん。全員同じ事ばっか言ってるなんて不自然だろう。っていうか、宇宙人がなんでもう出てるんだよ」
浜田「あ、そうか。俺はあとから？」
真野「あとからだよ。何でいきなり宇宙人が地球人となごんでるんだよ！」
笹本「自然に会話するってむずかしいよ」
真野「いつもやってるように、普通に話せばいいんだよ。全員で同じ話をしなくていいんだよ。はい、もう一回！」
純子、室田、笹本、松子、それぞれ、適当な話をする。
真野「で、純子ちゃんが空を見上げて、ＵＦＯに気付く！ はい台詞！」
純子「わああ！ ＵＦＯや！ みんな！ 見て！ 見て！」
真野「で、みんなもＵＦＯをみつけて騒ぎ出す！」
室田「わあ！ ほんとだ！ ＵＦＯだ！」
笹本「ＵＦＯだ！ ＵＦＯだ！」
松子「ＵＦＯよ！ すごいわ！ ＵＦＯよ！」
真野「だんだんＵＦＯが近づいてくる！」
純子「わあああ！ 近づいてきた！」
室田「どうしよう！ こっちにやってくるよ！」
真野「みんなもっとパニックになって！」
純子「うわあああ！」
松子「きゃあああ！」
真野「ＵＦＯが、グラウンドに着陸して、宇宙人が出てくる！」
純子「ＵＦＯが着陸したでぇ！」
松子「たいへん！ わああ！ ＵＦＯのドアがあいて、宇宙人が出てきた！」
室田「宇宙人がこっちにやってくるよ！」
純子「どうしよう！ 殺される！」
真野「宇宙人が階段登って、屋上に現れる！」
純子「階段登ってきた！ 助けてぇ！」
真野「で、宇宙人がチラっと姿を見せて」
浜田、顔を出して、
浜田「チラ！」
真野「で、ビデオカメラを壊すと」
浜田、カメラを殴るジェスチャー。
真野「おう。そういうこと、そういうこと」
笹本「なんかあんまりリアリティなくない？」
真野「だから、そこはみんなの演技力でさ」
純子「やっぱり、美女が宇宙人にさらわれる方がいいと思うで」
室田「真野さん、純子ちゃんがこう言ってるんで……」
真野「ダメだって。そんなのマンガだよ」
松子「私、やっぱり宇宙人の方がいいな」
浜田「ダメだよ。俺、宇宙人だよ」
真野「今の感じで、もうちょっとリアルに、本当に宇宙人が来たら、そんな感じじゃないだろう？もっとパニックになるだろう？『うわあああ！ ぎゃああ！ 』ってさ！」
純子「（ハイテンションで）ぎゃああ！」
真野「……そう、そういう感じ」
笹本「俺、なんかやっぱこういうの苦手だ。何て言っていいかわかんない」
真野「適当に騒げばいいんだよ。『ＵＦＯだ！ ＵＦＯだ！ たいへんだ！ 』みたいな感じでさ。じゃあ、本番、いこうか。みんなスタンバイして！」
純子「緊張する！」
真野「いきますよ！ ５、４、３、２」
真野、スタートのジェスチャー。
純子「星がきれいやわぁ」
室田「ほんとだね」
みな、それぞれにぎこちなく話し続ける。
純子「あ！ あれみて！ 何あれ？オレンジ色に光ってて、こう、丸い円盤の形してて、何やろうあれ。ＵＦＯや！ あれはＵＦＯや！ みんな、見て！」
真野「（小声で）説明的すぎるんだよ！」
室田「どこどこ？ わああ！ ほんとだ！ ＵＦＯだ！」
松子「何言ってるのよ、ＵＦＯなんているわけない……わあああ！ ＵＦＯよ！ きゃあああ！」
笹本「ＵＦＯだ！ ＵＦＯだ！ たいへんだ！」
真野「（小声で）ぎこちない！」
純子「わああ！ ＵＦＯがこっちに近づいてくる！」
松子「きゃああ！ こないで！ こないで！」
室田「わああ！ 来るな！」
笹本「ＵＦＯだ！ ＵＦＯだ！ たいへんだ！」
真野、『もっと騒げ』というジェスチャー。
純子「わああああ！」
松子「きゃあああ！」
室田「ぎゃあああ！」
笹本「ＵＦＯだ！ ＵＦＯだ！ たいへんだ！」
真野、『ＵＦＯが着陸した』というジェスチャー。
純子「ＵＦＯがグラウンドに着陸した！」
松子「私達をさらいに来たのかしら」
純子「見て、見て！ 中から、前身タイツを着た人が！」
真野「前身タイツって言っちゃってるよ」
室田「純子ちゃん、あれは宇宙人だよ！」
笹本「ＵＦＯだ！ ＵＦＯだ！ たいへんだ！」
松子「宇宙人がこっちにやってくるわ！」
純子「来ないで！ 来ないで！」
室田「たいへんだ！ 宇宙人が階段を登ってくる！」
純子「助けて！ 助けて！」
笹本「ＵＦＯだ！ ＵＦＯだ！ たいへんだ！」
松子「きゃあああ！ 来たわ！ 来たわよ！」
純子「きゃああ！」
室田「うわああ！」
松子「ぎゃああ！」
浜田、姿を見せる。と、同時に、純子が浜田の方に吸い寄せられる。
純子「助けて！ 私をさらうつもり？ 地球の女性が美しいからって、私をあなたの星につれていくつもりなの？ 助けて！ 助けて！ ムロリン！」
室田「純子ちゃんに何するんだ！ 純子ちゃんを離せ！」
純子「ムロリン！ 助けて！」
室田、浜田を引っ張ってくる。
浜田「おい！ 何だよ！」
室田「純子ちゃんをさらおうとする奴は、ただじゃおかないぞ！」
室田、浜田に蹴りをいれる。
浜田「イテ！ 何すんだよ！」
室田「純子ちゃん！ 今のうちに逃げて！」
純子「だめよ！ ムロリン一人残して、私だけ逃げるなんてできないわ！」
室田「だめだよ！ 僕はどうなってもいい！ 純子ちゃんさえ助かってくれれば！」
純子「だめよ！ 私も戦うわ！」
純子、浜田に蹴りをいれる。
浜田「いてえよ！ いてえって」
松子、いきなり室田と純子に蹴りをいれる。
純子「痛い！」
室田「松子さん、何すんだよ」
松子「千葉松子というのは仮の姿よ。地球人のふりをして、地球に潜入してたけど、私の正体は、本当は金星人なのよ！」
松子と純子と室田、乱闘になる。
笹本「ＵＦＯだ！ ＵＦＯだ！ たいへんだ！」
真野「何やってんだよ！」
松子達、乱闘をやめる。
真野「何だよ、これ！ 何が『僕はどうなってもいい』だよ！ バカかお前ら！ （笹本に）だいたい、お前も、『ＵＦＯだ！ ＵＦＯだ！ たいへんだ！ 』しか言ってねえじゃんかよ！」
笹本「だって、そう言えって……」
真野「バカか。どこが『ブレアウィッチ』っぽいんだよ。もうやめ！」
純子「なんや。せっかく熱演してたのに」
室田「そうだよ。せっかく純子ちゃんが熱演してたのに」
真野「だめ。こんなのリアリティなさすぎ！」
純子「ええ、もう一回やろう」
笹本「やっぱりインチキ映像撮るのは難しいんじゃないですか？」
浜田「こうなったら、本物の映像撮るしかないな」
真野「だって、ＵＦＯ来ねえんだもん」
笹本「もう、来ないんですかね」
真野「いや、来る！」
浜田「結局、俺らは誰もＵＦＯを見たことないＵＦＯ研究会だってことだ」
真野「そうやって、すぐあきらめるからダメなんだよ」
笹本「でも、俺、今日、ここに来てよかった。久しぶりにみんなに会えたし」
間。
真野「山崎ってさ、今みたいな感じで宇宙人にさらわれたのかな？」
間。
浜田「真野さん！」
真野「あ、いや、悪い。でも、もしもさ、山崎が宇宙人にさらわれたんだったら、まだ生きてるかもしれないってことだろう？」
浜田「何言ってるんすか？ 葬式の時に、顔見たでしょう？」
真野「ああ。でも、もしかしたら、あれはダミーなんじゃないのか？宇宙人がさ、山崎を連れて行くかわりに、山崎のコピーロボットみたいな奴を置いてったんだよ」
浜田「真野さん、いい加減にしてくださいよ。冗談でも言っていいことと悪いことがありますよ」
間。
真野「悪かったよ。でも、俺、山崎が死んだって、今でも信じられないんだよ」
間。
笹本「部長は、ＵＦＯなんかにさらわれたんじゃないですよ。ＵＦＯは、人をさらったりしませんよ」
真野「……なんだよ、それ？」
笹本「俺、ＵＦＯ見たことあるんです」
間。
浜田「え、マジで？」
笹本「うん」
純子「すごい！ いつ？」
笹本「学生の時」
室田「え、何だよ！ 何で今まで内緒にしてたんだよ」
浜田「本当に？ 何で教えてくんなかったんだよ？」
笹本「うん」
純子「どんなの？ ＵＦＯどんなんやったん？」
笹本「大きかったよ。青白くて、丸かった」
浜田「すげえ」
笹本「空中でぼんやり浮かんでたんだ。しばらくじっとしてたんだけど、急にすごいスピードで動き出して、消えちゃったの」
純子「うわああ！ すごい！」
浜田「何だよ、うらやましいな」
室田「ずっと黙ってたの？自分だけの秘密にしようと思って？ ずるいよ！」
真野「なあ、笹本」
真野、笹本を睨みつける。
真野「何でいままで黙ってたんだ？」
笹本「……」
真野「いつだよ。そのＵＦＯみたのっていつだよ」
真野の真剣な表情に、みな緊張する。
笹本「だから、学生の時」
真野「それって、山崎が死ぬ前か？ 死んだ後か？」
間。
浜田「何言ってるんすか？」
室田「真野さん……」
笹本「前。部長が死ぬ３日前」
真野「マッコチャン、マッコチャンが見たＵＦＯと、笹本が見たＵＦＯって同じものなの？」
間。
松子「……うん」
浜田「え、何？ 松子さんもＵＦＯ見たことあるの？」
真野「マッコチャンさ、じぶんちでＵＦＯ見たって言ったよね？ 笹本は？ お前はどこで見たんだよ？」
笹本「……松子さんの部屋で」
間。
浜田「え、何それ。どういうこと？」
真野「マッコチャンと笹本は、その日、いっしょにマッコチャンの部屋にいたってことだよな？で、二人で空をみてたら、ＵＦＯを目撃したってことか」
間。
真野「……なんで内緒にしてたんだ？」
間。
真野「何でだよ！ 言えよ！ 二人だけの秘密にしようって約束したのか？」
浜田「松子さん、笹本と？そうなの？笹本と付き合ってたの？」
松子「……」
浜田「何だよ！ それ！ 松子さんは部長のことがずっと忘れられないんだと思ってたよ。部長のことがそれほど好きだったんだと思ってたよ！」
真野「山崎は知ってたのか？」
松子「……」
真野「何で黙ってんだよ？ 山崎は知ってたのか？お前らが付き合ってること！」
笹本「部長は気付いてた」
浜田「ひどい。それ、ちょっとひどいんじゃないの？」
真野「山崎は、マッコチャンのことが大好きだったんだぞ！ わかってんのか？お前ら、山崎のこと裏切ったんだぞ！」
松子「……やめてよ。もう、やめてよ」
真野「そういうことか。わかった。山崎が死ぬ前の日、俺に電話があったって言ったよな。『これから宇宙人にあってくる』って。（笹本を指して）宇宙人って、お前のことなんじゃないのか？」
笹本「……そうかもしれない」
真野「そうかもしれないじゃねえよ！ お前だよ。お前、何考えてるかわかんないからな。宇宙人だよ。お前は」
笹本「部長が死ぬ前の日、部長、俺の家に来たんだ。で、『お前、松子と付き合ってるんだろう』って。だから、俺言ったんだ。『松子さんは、僕のことが好きなんだ。だから、部長、松子さんと別れてくれ』って」
浜田「笹本、お前、ひどいな。俺、松子さんのこと好きだって言ったよな。そしたらお前何て言った？」
笹本「……ごめん」
浜田「ごめんじゃねえよ。俺と松子さんは似合ってるって言っただろう？ 適当なことばっか言ってんじゃねえよ！」
笹本「……ごめん」
松子「……じゃあ、私、どうしたらいいの？ 山崎君のこと傷つけてしまったって思ったけど、もう謝ることもできないんだもん。やっぱり、山崎君が死んじゃったから、私もずっと死ぬまで苦しまなくちゃなんないってこと？」
間。
笹本「俺、もう、帰った方がいいよね」
真野「わるい。俺、もう話したくねえや」
真野、望遠鏡を覗き込む。
真野「浜田、あれ、ＵＦＯかな？」
浜田「どれっすか？」
笹本、真野に何かを言おうとするが、真野は笹本を無視するかのように空を見ている。
浜田「真野さん、あれは月ですよ」
真野「ああ、月か」
笹本「……じゃあ」
笹本、去る。
松子「私も、帰る。みんな、ごめんね。私のせいでへんな感じになっちゃって」
浜田「松子さん……あの、俺……」
真野「浜田！」
浜田「え？」
真野「あれ、ＵＦＯかな？」
浜田、見て、
浜田「真野さん、あれは月です」
松子「それじゃ……」
松子、去る。
浜田「松子さん！」
浜田、松子を追おうとする。
真野「浜田！ あれ、ＵＦＯか？」
浜田「だから、月ですって」
真野「浜田！ あれ、ＵＦＯか？」
松子去る。
（暗転）
○明慶学院大学・屋上（夜）
さらに２時間ほど経過した後。
室田、ドアをおもむろに開けて、顔をのぞかせる。
室田「あ、よかった。やっぱ、いない」
室田、出てくる。
後ろから純子も来る。
室田「ほら、言ったでしょ。絶対いないって」
純子「ほんまやな」
室田「真野さんも、ほんとは、ＵＦＯ見れても見れなくても、どっちでもいいんだよ。ただ、みんなが集まる口実なんだから」
純子「あの人、『俺は絶対ＵＦＯ見るまで帰らねえ』とか言うてたのに。口だけやな。ほんまに。口だけの男はあかんで」
室田「……純子ちゃん、なんか新鮮」
純子「え、何が？」
室田「もう一回言って」
純子「え、何を？」
室田「『俺は絶対ＵＦＯ見るまで帰らねえ』って」
純子「え、それが、何？」
室田「いや、純子ちゃんて、普段関西弁で、女の子っぽい話し方でしょ」
純子「うん、だって、女の子やもん」
室田「普段の純子ちゃんもいいんだけど、東京の言葉で、男っぽくしゃべる純子ちゃんもまたいい。なんかさ、宝塚の男役みたいで」
純子「そ……（男っぽいしゃべりで）そうか？」
室田「いい！」
純子「そんなにいいか？」
室田「いい！」
純子「やっぱりいいか？」
室田「いい！」
純子「俺は、絶対ＵＦＯ見るまで帰らねえ」
室田「いい！」
純子「俺は、絶対ＵＦＯ見るまで帰らねえ」
室田「いい！」
純子「俺は、絶対コーヒーはブラックしか飲まねえ」
室田「いい！」
純子「授業中に手を上げて、俺を好きだって言えたら、抱いてやるぜ！」
室田「いい！」
二人、見つめ合う。
室田、近くにあったビニールシートを広げる。
室田「（ビニールシートを指して）どうぞ」
純子、おもむろにビニールシートの上に横たわる。
純子「ムロリン、私、外でするの、はじめてやわ」
室田「俺も」
純子「シャワー浴びてへんから、くさいかもしれへんで」
室田「大丈夫だよ。（純子の体のにおいをかぎながら）くさくなんか……（臭そうに）うっ！」
純子「『うっ』って何？」
純子、自分の体のにおいをかぐ。
純子「うっ……」
室田「大丈夫だよ」
純子「ほんま？」
室田「本当だよ」
二人、見つめ合う。
純子、室田のズボンを下ろす。
突然、階段の方から真野と浜田の声が聞こえてくる。
室田「誰か来た！」
室田と純子、ブルーシートにくるまって身を隠す。
真野と浜田、来る。
真野「早くしろよ」
二人、望遠鏡などをセッティングする。
浜田「これで決定的瞬間を見逃したら、俺らバカっすね」
真野「調布で目撃されたってことは、こっちにくるとしたら……」
浜田「南から飛んでくるわけだから、向こうですよ」
浜田、望遠鏡を南の方向に向ける。
真野「でも、その情報、あてになんのかよ」
浜田「だって、一人や二人じゃないんですよ。同時に何人も書き込みしてるんだから」
真野「俺、なんかインターネットの情報って、信用できねえんだよな」
浜田「おやじみたいなこといいますよね」
真野「うるせえよ。もうとっくにおやじなんだよ」
浜田「あ、ＵＦＯだ！」
真野「どこ？ どこ？」
浜田「ウッソー」
真野「なんだよ！」
浜田「あ、ＵＦＯだ！」
真野「どこ？ どこ？」
浜田「ウッソー！」
真野「お前なあ！」
真野、言いながら、ブルーシートを浜田に投げつける。
浜田・真野「うわあああ！」
ブルーシートの下から、室田と純子の姿。
室田「何やってんの？」
真野「こっちが聞きたいよ！ 何やってんだよ！ そんなとこで！」
室田「いや、俺らは、別に……」
浜田「俺、さっきメールしたんだぞ」
室田「あ、電源切ってた。（純子に）だって、邪魔されたくないもんね」
純子「ねえ」
室田「真野さんたちこそどうしたんですか」
真野「ああ。（浜田を指して）こいつが、調布にＵＦＯが現れたから、こっちにも飛んでくるんじゃないかって」
浜田「ネットの掲示板でさ、いっぱい書き込みがあったんだよ。調布の空にＵＦＯが現れたって。ＵＦＯに関する掲示板があんのよ。俺、よくそれ見てるんだけど、家帰ってそれ見たら、すんげえ盛り上がってんの。『俺も見た』『私も見た』とかって」
純子「ええ、すごい！ やっぱりＵＦＯくるんとちゃう？」
浜田「そうなんだよ。俺らも、そう思ってさ。調布に現れたんだったら、そいつが、こっちにも飛んでくるんじゃないかと思ってさ」
真野「俺、家ついたら、すぐこいつから電話かかってきて、また急いでこっち戻ってきたんだよ」
室田「え、どんなやつ？ ＵＦＯ」
浜田「でかいらしいよ。こう、丸くて、回転しながら飛んでるって」
室田「マザーシップかな」
浜田「多分そうだと思うよ」
純子「うわあ、なんかわくわくしてきた」
室田「こっちに飛んでくんの？」
浜田「調布から、北の方に飛んでったって」
純子「じゃあ、ぜったいこっちくるやん！ すごい！ 見たい！ ＵＦＯ見たい！」
笹本が現れる。
一瞬、妙な間。
真野「おい、浜田、笹本呼んだのか？」
浜田「……うん。だって、こいつもＵＦＯ研究会だから……」
真野「なんだろなあ……」
笹本「……ごめん。やっぱ、来ない方がよかったよね」
真野「お前、ＵＦＯみたことあんだろ？ だったら、こなくていいじゃん」
笹本「はい……」
間。
笹本「松子さんは？」
真野「（浜田に）まっこちゃんにも連絡したのか？」
浜田「……うん。メールした。返事は来なかったけど！」
笹本「……松子さんさ、あの時、部長が死んだの知って、自分も死のうとしたんだよ。手首切って。でも、死にきれなかったって……」
真野「……それも、お前ら二人の秘密か。へえ。知らなかった。俺ら、みんな友達だと思ってたけどな」
長い間。
純子「なあ、ムロリン、私も実はな、ムロリンに秘密にしてたことがあんねん！」
室田「何？ もしかして、純子ちゃんもＵＦＯ見たの？ （笹本に）笹本、お前、松子さんだけじゃなくて純子ちゃんにまで？ チクショー！」
純子「違うねん。私な、結婚しててん！」
室田「……結婚？」
純子「うん。何、驚いた？ そりゃ、私、これだけいい女なんやから男がほっとくわけないやん。結婚しててもおかしくないやろ」
室田「え、バツイチってこと？」
純子「ええと、ちょっとちゃう」
室田「ちょっとちゃうって、まさか今も結婚してるの？ そんな！ ひどいよ！ そうか。どうせ、そうなんだ。死んでやる」
室田、飛び降りようとする。
笹本、浜田、それを止める。
室田「純子ちゃんにとって、俺はただの客の一人なんだもんね。本気にした俺がバカだったよ」
純子「違うねん。聞いてえな」
室田「何？」
純子「私、２０歳の時に結婚したん。ものすごい幸せやったんやけど、旦那さん、病気で死んでしもたん」
室田「え……」
純子「旦那さんが死んで、すごく悲しくて。私、絶対もう他の人のこと好きにならへんと思って、だから、籍もぬかへんかったん。でも、また好きになってしもた。だって、ムロリンと出会ってしもたんやもん」
室田「純子ちゃん……」
間。
純子「内緒にしててごめん。ムロリンが許せへんっていうんやったら、私、ムロリンのこと、あきらめるわ。ごめんな」
純子、去ろうとするが、室田が追う。
室田、純子の手を掴むと、抱き寄せ、キスする。
室田「純子ちゃん、旦那さんは死んじゃったけど、純子ちゃんは生きてるんだよ！」
純子「うん。私、生きてる。生きてるから、ムロリンのことが好きや！」
浜田、空を見上げて、
浜田「うわああああ！」
真野「何だよ？」
浜田「今、青白くて、丸いものが飛んでた」
真野「え、どこだよ？」
浜田「もう消えちゃった。一瞬だった」
真野「何だよ！」
浜田、喉をたたいて、宇宙人っぽい声で、
浜田「ワレワラハ、チキュウジンデス。ウチュウノトモヨ、ココニアラワレタマエ！」
真野「何だよ、それ！」
浜田「宇宙人って、テレパシーでしゃべるんだよ。だから」
真野「それ、全然テレパシーじゃねえぞ」
浜田「そうなの？」
純子「（喉をたたいて）ワレワレハ、チキュウジンデス。ウチュウノトモヨ、ココニアラワレタマエ！」
室田「（喉をたたいて）ワレワレハ、チキュウジンデス。ウチュウノトモヨ、ココニアラワレタマエ！」
純子と室田、宇宙人声でメッセージを発し続ける。
真野「浜田、電話しろよ」
浜田「え？」
真野「まっこちゃんに電話しろよ！」
浜田「でも……」
真野「早くしろよ。お前、まっこちゃんのこと好きなんだろ？」
浜田、しばらく考えるが、携帯を取って、電話をかける。
室田と純子は、宇宙人へのメッセージを送り続けている。
浜田「（留守電に入れる口調で）浜田です。まつこさん、いませんか？ みんな集まってるよ。きっとさ、ＵＦＯがくるから、すぐに来てよ。（次第に涙声になって）まつこさん、まつこさん、まつこさん……」
真野が電話を奪い取る。
真野「まっこちゃん、すぐに来てくれよ。まっこちゃん、山崎が死んだのは、つらいことだけど、まっこちゃんまで死んだらだめだよ。まっこちゃん、まっこちゃん……」
浜田「まつこさん、俺、まつこさんのこと、好きだから、ずっと生きててほしいから、だから、だから……」
扉が開いて、松子が現れる。
間。
笹本、松子に歩み寄って、
笹本「（喉をたたいて）ワレワレハ、チキュウジンデス。アナタノトモダチデス」
間。
室田、空を見て、
室田「あ、今、光った。青白かったよ！」
浜田、ＵＦＯを呼び出すためのダンスを踊り始める。
浜田「みんなで踊るんだよ！ みんなで踊ったら、またＵＦＯが戻ってくるから！」
真野たち、浜田の踊りに合わせてダンスを踊る。
笹本、松子も踊りに加わる。
純子「ＵＦＯ来た？」
真野「来ないよ！」
浜田「ダメだ！ やっぱり、このダンス、効果ないよ！」
松子「そうだ！ ミステリーサークル作ろうよ！」
真野「ミステリーサークル？」
松子「だって、ミステリーサークルって、ＵＦＯが着陸する目印なんでしょう？ だったら、グランドにミステリーサークル描いちゃおうよ！」
真野「麦畑じゃないから、ミステリーサークルっていうより、ナスカの地上絵みたいなもんか！」
浜田「何でもいいから描こうよ！ ＵＦＯ、ここに着陸しろっていう目印を描けばいいんだろう」
真野「でも、何を描けばいいんだ？」
松子「とりあえず、漢字で『米』って描いとけばいいと思う」
真野「よし、みんな、グランドに急げ！ 誰かひとり、こっから見て、携帯で指示を出してくれよ。上から見て、線が曲がってないかどうかとか」
笹本「わかった。じゃあ、俺がこっから見てる」
真野「よし、みんな、下にいくぞ！」
笹本以外、全員、下に向かう。
一人だけ取り残された笹本。
突然、上空が明るくなる。
笹本、空を見つめる。
笹本「ああ！ あああああ！」
ＵＦＯが飛来するような不思議な音が迫ってくる。
笹本「みんな！ みんな！」
上空は、真昼のような明るさになる。
笹本「（喉をたたいて）ワレワレハ、チキュウジンデス。イキテイマス。コレカラモズット、イキテイキマス」
上空から、まばゆいばかりの光が笹本を照らす。
（完）
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