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危機は回避の方向で
作・演出   皆木達也
 


〜登場人物〜
奥 静香    & 女A
大山 勝    & 男A
乃木 為雄   & 男B
野津 美由紀 & 女B
川村 一郎   & 男C
黒木 麗
児玉 健太郎


〜プロローグ〜

   政府危機管理センター。
   暗転中、声が聞こえてくる。

男A「どうした!停電か!?」
男C「わかりません!」
男A「わからない?」
男B「すべての電源がストップ・・・。」
男A「復旧急げ!予備電源は?切り替えろ!」
女A「・・・暗くて見えません。」
男A「心だ!心の目で見ろ!」
男C「そんな無茶な・・・。」
女B「予備電源、切り替えできません!」
男A「なんだと!?他は!?呼び出してみろ!」
女B「こちら政府危機管理センター、応答を。」
男A「どうだ?」
女B「・・・陸海空各方面隊、艦隊司令部各省庁その他いずれも応答なし。通信できません。」
男B「あ、あれ?」
男A「こんどはなんだ!?」
男B「ドアが開きません。」
男A「なに!?」
女B「総理官邸及び危機管理センターを新しくしたとき、全てのシステムが変わりましたのでマニュアルであったものは・・・。」
男A「わかった!もういい!くそ!我が国に脅威が迫っているというのに・・・早急に原因を調べろ!」
男B「復旧急げ!」
男A「痛!貴様、足を踏むな!」

   殴る音が聞こえる。

女A「今・・・ガツンって音が・・・。」
女B「・・・総理が気絶してます。」
男A「あ・・・やばい・・・。」
男C「総理が名誉の戦死を・・・。」
女A「死んでないから・・・。」
一同「・・・。」
男A「(咳払い)とにかく復旧急げ。」
男B・C/女A・B「・・・はい。」
女B「何か冷やすもの、持ってきましょうか?」
男A「そうしてくれ。」


〜シーン@〜

   ここは防衛庁資材課地下倉庫。
   通称・ガラクタ置場と呼ばれる場所。

   上手壁にはどこかの地図が掛けてあり、舞台中央に長テーブルと椅子が数脚ある。テーブルの上にはコーヒーメーカーと電話。お菓子もちらほら・・・。
   下手前には段ボールの重なりがあり、そばに丸椅子が置いてある。段ボールからは配線が延びてテーブル上のパソコンにつながったり、壁のほうに延びたりしている。
   付近には段ボールなどが散乱している。
   下手奥に階段があり、その奥の見えないところに部屋に入る入口がある。

   奥静香が真剣にぶつぶつ言いながらパソコンをいじっている。

静香「・・・相手を誘うなら今日が絶好のチャンス。本当???・・・しかし、様々な邪魔が入ります。・・・ダメじゃん。・・・その邪魔なものが取り除かれたとき、今までの苦労が報われて幸せが訪れるでしょう。何事も素直な気持ちが大事です。・・・素直な気持ちねぇ・・・。ええと、ラッキーアイテムはチケット・・・。これでいいんだよね?(何かのチケットを取り出して溜息)」

   大山勝が入ってくる。

大山「おっは〜。」
静香「(ビックリしてチケットをバックに慌ててしまう)」
大山「静ちゃん、今日も早いね〜。」
静香「先輩の出勤が遅いんです!今、何時だと思ってるんですか?」
大山「(時計を見て)・・・十一時。」
静香「普通に言わないでください!どこの世界に昼近くに出勤する下級公務員がいるんですか!」
大山「・・・。(自分を指差して)ここ。」
静香「(絶句)」
大山「まあまあ、静ちゃん。朝からそんなに怒ってるとお嫁に行けないぞ。」
静香「先輩には関係ないことです!あ・・・。(言っちゃった・・・)」
大山「それは、そうだけどさ。最近何だか機嫌が悪そうだな〜と思ってね。大丈夫?何かあった?」
静香「心配してくれるんですか?」
大山「当然でしょ?」
静香「(笑顔)」
大山「静ちゃんがいないと俺が仕事しなきゃいけないからさ。」
静香「な!?いてもいなくても仕事してください!」
大山「あはは・・・もしかして、この前言ってた彼氏と上手くいってないの?」
静香「え?彼氏・・・?」
大山「うん、先月の資材課の忘年会のときに言ってたじゃん。私にはラブラブな彼氏がいるって。」
静香「え・・・私、そんなこと言いました?」
大山「言ったよ、覚えてないの?課長が『静香さんは彼氏とかいないの?』って聞いたら『います!スマートでエリートで遅刻なんかしない私を一番に考えてくれるラブラブな彼氏がいるであります!』って敬礼しながら言ってたよ。」
静香「あ・・・そんな・・・。」
大山「その後すぐに寝ちゃったけどね。」
静香「あの時のことは、私まったく覚えてなくて・・・。」
大山「ああ、あの時静ちゃんはかなり酔っ払ってたからな〜。」
静香「先輩・・・私、本当は彼氏とかそういうのは・・・。」

   川村一郎が入ってくる。

川村「こんにちは。」
静香「あ・・・。」
大山「あ、どうも。」
川村「ええと、こちらは防衛庁資材課地下倉庫・・・さんですよね?」
大山「はい。どちら様ですか?」
川村「あ、申し遅れました。私、川村一郎と申します。」
大山「川村一郎さん?」
川村「はい、あの、電気屋です。先日、こちらから電気工事を依頼されまして・・・。」
大山「電気工事?(静香に)静ちゃん、聞いてる?」
静香「(クビを横に振って)聞いてないです。」
大山「(川村に)・・・というわけです。お引き取りください。」
川村「いやいやいや、ちょっと待ってください。」
大山「頼んでないですから・・・。」
静香「あ、もしかして、課長が頼んだのかも?」
大山「え?課長が?」
川村「そうなんです!こちらの課長さんから、依頼されまして・・・。」
大山「ああ、そういえばこの前からなんか作ってたよね?」
静香「(段ボールの固まりを指して)あれでしょ?」

   三人は段ボールの固まりに目をやる。

川村「段ボール・・・?」
大山「まったく・・・それでなくともガラクタばっかりおいてあるところなのに、わざわざゴミ捨て場から段ボールを持ってきてさ。『これは世界に冠たるシステムになるんだ!』とか言って・・・勘弁してくれよ。」

   三人は段ボールの固まりに近付く。
   乃木為雄が段ボールを抱えて入ってくる。

乃木「大変だよ!みんないる?あれ?」

   乃木は三人に一斉に見られ躊躇する。

乃木「ん?何かな?」
静香「課長、また段ボールですか?」
乃木「え?あ・・・あはは。」
大山「本当に段ボールが好きだね〜。(段ボールを叩く)」
乃木「(慌てて)大山くん!叩かない!中は精密機械なんだから!」
川村「精密機械?」
乃木「君はいつも扱いが乱暴すぎるんです。」
大山「そうかな?」
乃木「この前資材課に新しく来たパソコンを、使い方がわからないからって叩き壊したのは誰ですか?」
大山「いや、あれはさ・・・。」
静香「・・・。」
乃木「それにこれは、その辺のシステムと格が違うんです。」
静香「・・・格?」
乃木「そうです!聞きたいですか?聞いてみたいですか?」
大山「・・・いや、別に。」
乃木「そんなこと言わないで聞いて・・・。」
大山・静香・川村「・・・。」
乃木「よくぞ聞いてくれました!」
大山「聞いてないし・・・。」
乃木「これはですね、私が開発したスーパーコンピューター、名付けて『スパコンZ』です!」
大山・静香「は?」
乃木「ただ段ボールに覆われただけだと思ったら大間違いですからね!見た目は悪いですけど、凄い性能なんです!」
大山「へ〜。」
乃木「なんですか、その気のない返事は?」
大山「そんなことないよ。」
乃木「この『スパコンZ』は我が国に存在する二台のスーパーコンピューターの性能に勝るとも劣らないものなんです!」
静香「・・・。」
乃木「信じてませんね?この『スパコンZ』は、世界情勢からみかんの収穫高、日々の占いまであらゆる機能を備えた世界最高峰のシステムなのです!」
大山「みかんって何?」
静香「課長、みかんが好きだから・・・。」
乃木「(自慢気に照れつつ)実は先週ね、この『スパコンZ』を上に申請したんですよ。」
大山「はぁ?」
乃木「低予算で高性能!何だかわからないシステムに莫大な国家予算を投入するなら、私が開発した『スパコンZ』を政府で採用するべきだって・・・。」
静香「無理でしょうね。」
乃木「静ちゃん!そんなにあっさり言わないで!」
大山「こんな胡散臭い段ボールの固まりなんて、中小企業だって採用しないんじゃないんすか?(パソコンを叩く)」
乃木「うわ〜!だから、叩かない!精密機械なんだから!・・・まったく、君たちには『スパコンZ』の凄さがわからないんですよ・・・。」
川村「・・・凄いシステムですね。」
乃木「え?」
大山・静香「はい?」
川村「(『スパコンZ』をしげしげと見て)う〜ん、すごい!これは聞きしに勝るシステムです。」
乃木「え?わかりますか!?この『スパコンZ』の良さが!?」
川村「はい。世界的に見ても、これほどのシステムはありませんよ。」
大山・静香「・・・。」
川村「『スパコンZ』・・・ネーミングセンスも抜群ですね。スパコンという軽い響きの中に、新しい未来を創造させる名前・・・Zに籠められた開発者の思い、それら全てが絶妙なハーモニーを奏でている。」
乃木「(感激)やっと、やっと理解してくれる人が現れた・・・。」

   静香は大山の腕を引っ張っていく。

静香「(大山に)先輩、あの電気屋・・・怪しくないですか?」
大山「う〜ん、ちょっとな・・・。」
静香「あの段ボールを高く評価するなんてありえない・・・。」
大山「絶妙なハーモニーって何だよ・・・。」
静香「それに、あの笑顔・・・見た目から何から胡散臭い・・・。」
乃木「・・・ところで、あなた誰?」
川村「え?」
静香「あれ?課長、この人知らないんですか?」
乃木「うん、知らない。」
川村「何言ってるんですか、課長さん!この前、電気工事を依頼されたじゃないですか!?」
乃木「え?ああ・・・。」
大山「課長、頼んだの?」
乃木「うん、頼んだ。・・・ああ、川村電気さん?」
川村「はい、そうです!川村電気です。」
乃木「そうだったんだ。あれ?今日は一郎さんは?来ないの?」
川村「え?ああ、ちょっと風邪で寝込んでしまって。」
乃木「あ、そうなんだ。」
大山「(川村に)ちょっと、さっき一郎って言ったよね?(静香に)ねぇ?」
静香「うん、そう聞いた。」
川村「いえ、そんなことは・・・。」 突然、テーブルの上の電話が鳴る。

静香「(受話器を取って)はい、資材課地下倉庫・・・はい、課長ですか?はい、少々お待ちください。課長、お電話です。」
乃木「え?私?」
静香「はい、本庁から・・・。」
乃木「あ!忘れてた!(受話器を受け取って)はい、乃木です。はい、はい、申し訳ありません、今すぐに、はい、はい、はい、では、失礼致します。(受話器を置く)」
大山「課長、どうしたの?」
乃木「すっかり忘れてた!大変だ、大変だ。」
大山「うん、だから何?」
乃木「ここに危機管理センターが来ることになりました。」
大山・静香「・・・は?」
静香「どういうこと?」
乃木「今朝ね、危機管理センターのシステムが突然全部の機能が停止してしてしまったんだって。」
大山「機能停止?なんで?」
乃木「はっきりとは言われなかったんだけど、何者かがメインシステムをダウンさせたらしいんですね。」
静香「え、それってもしかして・・・テロ?」
乃木「どうなんだろうね?ちょっとわからないけど、とにかくここに政府の方が来ます。お偉いさんが来るんです。」
大山「なんで、ここに?」
乃木「それは、ほら?私が開発した『スパコンZ』があるからに決まってるじゃないですか。」
大山「は?」
乃木「まだ申請だけで、正式認定はされていないシステムですけど、今はそんなことを言ってられない緊急事態ですからね。高性能なわが『スパコンZ』を政府で使うのは当然のことです。まあ、採用寸前だったってことですかね〜。」
大山「・・・。」
静香「課長、疑問なんですけど、どうして危機管理センターが狙われたんですか?」
乃木「う〜ん、ちらっと聞いた話では、隣の国が何か事を起こしそうだという情報が今朝同盟国より入ったみたいです。その情報収集とかをするために危機管理センターを立ち上げた。まあ、それをさせないために『バキッ!』ってやられたんじゃないかと・・・。」
川村「・・・。」

   電話が鳴る。

乃木「(受話器を取って)はい、資材課・・・あ、はい、はい、そうでした、はい、すみません。今すぐに、はい、はい、失礼致します。」
大山「え?今度は何?」
乃木「というわけで、私たちはここから出て行くことになります。」
大山「はあ?」
静香「出て行くって?」
乃木「ここを政府で使いますので、私たちはいらないと、そういうことですね。」
大山「ちょっと待ってよ!ここは俺たちの仕事場だよ?出て行けって、どこに行けばいいの?」
乃木「・・・それは各自で考えてください。」
大山「課長!」
乃木「とにかく!今すぐ出て行きましょう!怒られちゃいますから。さあ、さあ。」
大山「おいおい。」
静香「ちょっと・・・。」

   乃木はみんなを促して外に出す。

乃木「あ、電気屋さん、すいません。今日はそういうわけなんで、電気工事はまた後日ということに・・・。」
川村「え・・・あ・・・。」

   乃木は川村も外に出す。

乃木「我が愛しの『スパコンZ』・・・お国の為に働くんだぞ・・・。(涙々)」

   乃木は部屋を指差し確認して出て行く。


〜シーンA〜

   川村一郎がなにやら警戒しつつ戻ってくる。
   あたりを見回し、誰もいないことを確認すると、持っているカバンから道具を出して『スパコンZ』を確かめ始める。
   野津美由紀が入ってくるが川村は気付かない。

美由紀「・・・あの?」
川村「(ビックリ!)」
美由紀「こちらは防衛庁資材課ですよね?」
川村「え?ええと、はい、そうです。」
美由紀「よかった。」
川村「えっと・・・。」
美由紀「乃木課長さんはいらっしゃいますか?」
川村「え?あ、課長さんは今外出していますので、帰ってきましたらご連絡差し上げますので、あの・・・。」
美由紀「では、待たせてもらいます。」
川村「はい!?あ、いや、その・・・。」
美由紀「?」
川村「どうぞ!(椅子をすすめる)」
美由紀「すみません。(座る)」

   川村は気まずそうに美由紀を見つつ、ハンカチを取り出して美由紀に近付く。

美由紀「あの?」
川村「(ビックリ!)はい!(ハンカチを隠す)」
美由紀「あなたは資材課の方ですか?」
川村「な!?・・・どうして・・・?」
美由紀「いえ、胸のところに川村電気って書いてあるので、電気屋さんなのかな〜って。」
川村「あ、はい、そうなんです!私、電気屋なんです。こちらから配線工事を頼まれまして・・・。」
美由紀「そうだったんですか。ご苦労様です。」
川村「いえ、あはは・・・。」

   川村は再びハンカチを出して美由紀に近付く。
   そこに静香がバックを取りに戻ってくる。
   川村は慌てて段ボールの陰に隠れる。

静香「まずい、忘れるところだった・・・ん?」
美由紀「え?・・・あ、静ちゃん。」
静香「あれ・・・美由紀???」
美由紀「久しぶり〜。」
静香「うん、久しぶり!元気にしてた!?」
美由紀「うん、元気だよ。静ちゃんも元気そうだね。」
静香「元気元気!何年ぶりかな?大学卒業してからだから、四年くらい?」
美由紀「そうだね。静ちゃんは今何してるの?」
静香「あはは、一応ここで公務員やってる。」
美由紀「ここって・・・資材課で?」
静香「うん、そう。」
美由紀「そうだったんだ!よかった、知ってる人がいて。」
静香「ん?どういうこと?」
美由紀「今日、私はここにお仕事で来たの。」
静香「お仕事?・・・美由紀は今何してるんだっけ?」
美由紀「秘書をやってるんだ。」
静香「秘書?」
美由紀「うん。防衛対策特別補佐官、児玉健太郎さんの。」
静香「児玉健太郎って・・・ええ?あの、この前できた内閣補佐官の中で、若手でただ一人抜擢されたっていう、あの人?」
美由紀「うん。」
静香「すごいね!・・・え?ということは、もしかして今日ここに来る政府のお偉いさんって・・・。(美由紀を指差す)」
美由紀「うん。」
静香「なんだ、そうだったんだ。課長が早く出て行けって言うから、私はてっきり『私は政治家です!私は偉いです!』っていう感じの人が来るかと思ったよ〜。」
美由紀「(笑う)」
静香「(川村に気付いて)あれ?電気屋さん、何してるの?」
川村「え?あ、いや、あはは・・・ちょっと忘れ物を・・・。」
静香「早く出て行ったほうがいいよ。」
川村「はい、わかりました。」
静香「ところでさ、危機管理センターがダメになったって聞いたけど・・・。」
美由紀「うん、そうなんだ。私は補佐官と用事でセンターにはいなかったんだけど、突然電気が消えちゃって大変だったみたい。」
静香「そうなんだ。」
美由紀「ここだけの話なんだけど、荒井さんがやられちゃったみたいなの・・・。」
静香「あらいさん?」
美由紀「荒井総理大臣!」
静香「荒井さんって・・・その辺のおっさんみたいに。」
美由紀「荒井総理がね、システムがダウンしたのと同時に総理が倒れて・・・命に別状はないみたいだけど・・・。」
静香「何があったの?」
美由紀「その場にいなかったからわからないけど、きっと危機管理センターをダウンさせた犯人が総理も一緒に狙ったんじゃないかってみんなが話してた。」
静香「うわ・・・シリアスな展開だね。」
川村「・・・。(聞き耳を立てている)」
静香「(川村に気付いて)ん?何ですか?」
川村「え?あ、いや、何でもないです。」
美由紀「でも、本当によかった。静ちゃんがいてくれて。」
静香「え?」
美由紀「始めて来たところでは、知り合いがいないと心細いでしょ?」
静香「ああ・・・それなんだけど、私たち、ここのメンバーは出て行くことになってるみたいなんだ。」
美由紀「え?」
静香「やっぱり政府で使うから、私たちみたいな下級公務員はいらないってことじゃないかな?」
美由紀「そんなの嫌!久しぶりに会えたのに・・・。」
静香「嫌って言われても、ねぇ。上から言われちゃったら・・・。」
美由紀「よし!私が出て行かなくていいように頼んでみる!」
静香「ええ?」

   川村が出て行こうとするところに大山が入ってくる。

大山「静ちゃん、何やってるの?みんなでボーリングに行くよ〜。(美由紀に気付いて)あ・・・。」
静香「先輩。ええと、彼女は・・・。」
大山「イッツ、ビューティフル!」
静香「はい?」
大山「ああ、防衛庁資材課、みんなからガラクタ置場とバカにされるこの狭い空間に舞い降りた天使!野に咲く一輪の薔薇!」
美由紀「あの・・・。」
大山「はじめまして、大山勝です。(手を差し出して)よろしく。ニカッ!(笑顔)」
美由紀「は、はじめまして・・・。」
静香「・・・ニカッ!じゃないでしょ!」
大山「うるさいな、かっこよくヒーローばりにアクションしたのに・・・。」
静香「カレー大好きイエローみたいな人が何言ってるの!」
大山「静ちゃん、それはないよね!?」
美由紀「あの・・・静ちゃん、この方は?」
静香「ええと、それは・・・。」
大山「二度目の自己紹介!天下の防衛庁資材課主任、大山勝です!」
美由紀「私は静ちゃんの友達で野津美由紀と言います。」
大山「のづみゆき・・・美由紀さんか〜、いい名前だ!」
静香「私の小学校からの同級生なの。」
大山「(美由紀を見つめている)」
静香「無視かい・・・。」
大山「(美由紀に椅子をすすめて)どうぞ。」
美由紀「あの、ええと・・・ありがとうございます。」
大山「電気屋、美由紀さんにコーヒーを。」
川村「え?あ、はい。(用意する)」
大山「お砂糖とミルクは?」
美由紀「いえ、お構いなく・・・。」
大山「遠慮なさらずに。」
美由紀「では、ミルクを・・・。」
大山「電気屋、ミルクを。」
川村「はい。(差し出す)」
静香「・・・。」
大山「ところで美由紀さんはどうしてここに?」
美由紀「え、あの・・・。」
静香「美由紀は仕事で来たの。」
大山「静ちゃんには聞いてないよ。」
静香「く!」
美由紀「こちらで危機管理センターを立ち上げることになりまして・・・。」
大山「え?じゃあ、政府から来るお偉いさんって美由紀さんのことなんだ!」
静香「・・・。」
大山「美由紀さんのような女性が政府の第一線で活躍する・・・何とも頼もしいね!」
美由紀「あの、私は先に来て・・・。」
大山「よし!決めた!俺はここを出て行かないぞ!」
静香「はあ?何言ってるんですか、先輩!」
大山「静ちゃん、考えてもみろよ。こんなかよわい女性の肩に国の存亡という重責が乗っかっている・・・そんな美由紀さんのお手伝いがしたいではないか!」
静香「ちょっと!」
大山「美由紀さん、俺がこの仕事を選んだのは、この国のためになる仕事がしたかったからなんです。俺が好きな言葉『尽忠報国』・・・忠義を尽くし、国に報いる。なんていい言葉じゃないですか?そうは思わないか、電気屋!」
川村「尽忠報国・・・良い言葉ですね!」
大山「この微温湯に浸りきった軟弱堕落した世の中・・・今、自分に何が出来るかを常に考え、全力を尽くす!ひとりの男が此の世に生まれ、生きて、死んだ!そんな証を残す仕事がしたい!俺はいつもそう思っているんです。」
川村「(感動)」
静香「嘘ばっかり・・・。」
大山「お手伝いさせていただいてよろしいですか?」
美由紀「ええと・・・静ちゃんもいる?」
静香「え?私?」
大山「当然です!この防衛庁資材課、通称ガラクタ置場!上は課長から下は部外者の電気屋まで、全身全霊でお手伝いさせていただきます!」
静香「ちょっと、勝手に・・・。」
大山「なあ!電気屋!」
川村「手伝わせていただきます!」
静香「ええ?」
大山「そうか!さすが電気屋、ビリッとくる返事だね!」
静香「意味がわからない・・・。」
美由紀「・・・わかりました。よろしくお願いします。」
大山「やった〜!」
川村「(小さくガッツポーズ)」
静香「ちょっと美由紀、いいの?そんなこと勝手に決めちゃって・・・?」
美由紀「うん、大丈夫・・・だと思うよ。なんか面白そうだし・・・。」
静香「面白そうって・・・あんたね・・・。」
大山「(美由紀の手をとり)美由紀さん、二人で我が国の未来をつくっていきましょう!なんなら、私たち二人の未来も・・・。」
静香「あ、蚊だ!(大山の頭をファイルで叩く)」
大山「(痛みにうずくまる)・・・。」
静香「この季節に蚊がいるなんて珍しいよね、美由紀。」
美由紀「え、うん、そうだね・・・。」

   乃木が入ってくる。

乃木「あ、いた。何やってるんですか?早く出て行かないと怒られます。(苦悶の大山を見て)どうしたんですか?」
静香「(ごまかして)課長・・・また段ボールを持ってるんですか?」
乃木「え?あはは、段ボールを持ってると安心するんですよ。」
美由紀「乃木課長さんですよね?」
乃木「ええと、どちら様ですか?」
静香「さっき話していた危機管理センター設置のために今日ここに派遣されてきた野津美由紀さん。ちなみに私の同級生なんです。」
乃木「そうなんですか。のづ・・・?」
美由紀「はい、野津美由紀です。よろしくお願いします。」
乃木「資材課の乃木為雄です。政府から・・・野津・・・もしかして、野津慎太郎さんの・・・。」
美由紀「はい、私のパパです!」
乃木「そうですか!大学時代に野津先輩にはお世話になりました。」
大山「課長・・・俺たちはここから出て行かなくてもいいことになった・・・。」
乃木「え?どういうこと?」
美由紀「皆さんがここに残れるように私が許可しました。」
乃木「ああ・・・そうですか。」
美由紀「もう外には危機管理センターの人たちが準備していると思いますから、皆さんはこちらで少し待っていてください。」
乃木「ああ、だからあんなに人がいたんですね。」
美由紀「はい。ここに入りきれないので外で準備してもらっています。メインシステムへは外からつなげて、ここは本部として使うことになると思います。」
乃木「凄い!危機管理センターのシステムと私の開発した『スパコンZ』をつなげる・・・これは貴重ですよ。見ないと一生後悔することになります。私はちょっと見てきますので、後はよろしく!」
川村「私も見たいです!」
乃木「さすが電気屋さん!いざ!現場へ!」

   乃木と川村は出て行く。

大山「好きだな〜、課長も・・・完全に病気だね。」
静香「うん。」
美由紀「(笑顔)」
大山「では、美由紀さん。俺たちは準備が出来るまで二人で楽しいひとときを過ごしましょう。」
静香「な!?ちょっと二人って何!?」
大山「え?」
静香「え?じゃないでしょ!私だっているんだからね!」
大山「(静香に小声で)静ちゃん、ちょっとは気をきかせろよ。」
静香「何で!?」
大山「何でって・・・。」
静香「(美由紀に)私たち友達だもんね〜、久しぶりだもんね〜、話すこといっぱいあるんだもんね〜。」
大山「・・・。」
美由紀「(笑顔で)三人で待ちましょう。」
大山・静香「・・・。」


〜シーンB〜

   黒木麗が入ってくる。

麗「(人がいるのに気付いて)ん?・・・。」
静香「(麗に気付いて)あ・・・。」
美由紀「あ、黒木さん。」
麗「美由紀さん、その二人は資材課の?」
美由紀「はい。こちらが大山勝さん、奥静香さん。静香さんは私の同級生で友達で、久しぶりに会えたんです。」
麗「(美由紀の手を引っ張って)美由紀さん、どうしてまだ資材課の連中がここにいるんですか?」
美由紀「え?」
麗「資材課の連中にはすぐにここから出て行かせることになっていたでしょ?」
美由紀「そうでしたっけ・・・?。」
麗「(頭を抱えて)まもなく補佐官がここにお見えになるんですから。」
静香「美由紀・・・あの、そちらの方は?」
美由紀「私と同じ補佐官の秘書をしている黒木麗さん。」
麗「防衛対策特別補佐官付、黒木麗です。」
静香「はじめまして、私は・・・。」
麗「紹介は結構、時間がありません。あなた方は今すぐにここから出て行ってください。」
静香「え?」
美由紀「黒木さん。」
麗「美由紀さん、あなたが先に来たのは何のためですか?資材課の連中を外に出しておくように言われていませんでしたか?」
美由紀「・・・あ。」
麗「あ、じゃないですから。しっかりと仕事をしていただかなければ困ります!」
美由紀「ご、ごめんなさい・・・。」
大山「ちょっと待った!」
麗「?」
大山「秘書だか何だか知らないが、俺の美由紀さんに小言を言うのはやめてくれないか、レディ。」
静香「俺のって・・・。」
麗「・・・何なの?このブタゴリラは?」
大山「誰がブタゴリラじゃい!」
静香「そうです!カレー大好きイエローならまだしも、ブタゴリラはひどいです!」
大山「静ちゃん、その例え好きだね・・・フォローになってない気がするし・・・。」
美由紀「黒木さん、見た目であだ名を付けては失礼ですよ!」
大山「美由紀さんまで・・・。」
麗「とにかく、今すぐ出て行きなさい。」
美由紀「そのことなんですけど・・・。」
麗「どうしたんですか?」
美由紀「資材課の皆さんがここに残れるように私が許可しました。」
麗「な!?・・・美由紀さん?どうしてあなたはいつもそうやって勝手なことばかりなさるんですか?」

   美由紀が麗に気圧され下がるのを大山はかばう。

麗「・・・ブタゴリラ・・・。」
大山「・・・。」

   大山と麗は無言で対峙する。
   その緊張を破るが如く電話が鳴る。
   大山が麗を警戒しながら受話器をとる。

大山「はい、資材課。・・・少々お待ちを。(麗に)お電話です。」
麗「私に?・・・はい、黒木です。はい、はい・・・準備はまもなく終わります・・・はい、わかりました。失礼致します。」
静香「どうしたんですか?」
麗「なんでもありません。あなた方は今すぐここから退去しなさい。これは政府命令です。美由紀さん、私は補佐官をお迎えしますから、この連中を必ず退去させといてくださいね。」
美由紀「え?」
麗「(出て行こうとする)」
美由紀「(麗よりも先に出て行こうとする)」
麗「美由紀さん?」
静香「美由紀?どこ行くの!?」
美由紀「健ちゃんに頼んでみる!」
大山・静香「健ちゃん???」
麗「な!?美由紀さん!?そんなことはさせません!あなたが頼んだら・・・。」

   麗が美由紀に近付くのを大山が立ちはだかる。

大山「おおっと、ここから先は行かせないぜ。」
麗「ブタゴリラ・・・。」
大山「美由紀ちゃん、その健ちゃんとやらによろしくな。」
美由紀「うん!」

   美由紀は出て行く。

麗「ブタゴリラ・・・こうなれば実力行使するしかないわね・・・。」
大山「やれるもんならやってみろ。俺はこう見えても剣道初段だぜ?」
麗「・・・初段?(苦笑)」
大山「何だよ?」

   乃木が戻ってくる。

乃木「いや〜、さすがに政府で使う機材は凄いね。みんな一級品ばっかりだ。あれじゃ金がかかるわけだよね。」
静香「課長!」
乃木「電気屋さんなんてすごく真剣に見てるよ。(場の雰囲気に気付いて)あら?どうしたんですか?」
静香「(麗を指差して)あれ・・・。」
乃木「(麗をまじまじと見て)ん?・・・美由紀さん、大きくなりましたね。」
静香「何ボケてるんですか!どう見たって違う人でしょ!?」
乃木「だれ?」
静香「(乃木に耳打ち)」
麗「(乃木に)資材課の乃木課長ね。」
乃木「はい。」
麗「政府から退去指示が出されてあったはずよね?」
乃木「え?あ、はい。」
麗「今すぐにここから退去を。」
乃木「・・・でも、さっき・・・。」
麗「これは政府命令です。ただちに退去しなさい。」
乃木「はい!了解しました!さあ、皆さん出て行きましょう。」
静香「課長!」
大山「課長、その必要はないぜ。」
乃木「え?」
大山「今、美由紀さんが健ちゃんとやらに頼みに行ってる。」
乃木「そうなんですか?・・・え?健ちゃん?」
静香「きっと・・・。(乃木に耳打ちする)」
乃木「ええ!?補佐官???」
麗「乃木課長、資材課全員を今すぐに退去させなさい!」
乃木「(麗に)はい!皆さん・・・あの・・・。」

   乃木は大山たちに睨まれ、麗にも睨まれ・・・。

乃木「どうすればいいんですか?」
大山・静香・麗「(溜息)つかえねぇ・・・。」
乃木「うわ・・・ひどい・・・。」

   川村が戻ってくる。

乃木「あ!我が友!」
川村「え?え?」

   乃木は川村に抱きつく。

麗「・・・だれ?」
乃木「私の心からの友達さ!」
静香「あの、電気屋さんです。」
麗「電気屋?」
乃木「我が友はすごいんですよ!」
麗「?」
乃木「電気屋さんは勉強熱心なんですから。」
川村「ええと・・・。」
乃木「いろいろといっぱいメモしてたでしょ?」
川村「え?あはは、ばれました?」
乃木「配線のひとつひとつ書き込むなんて、専門的な知識がないとなかなかできないことです。さすがですよ。」
麗「・・・。」
川村「あはは・・・。」

   児玉健太郎が入ってくる。

麗「(姿勢を正して)補佐官!」
大山・静香・乃木・川村「ええ?」
児玉「黒木君、この連中は?」
麗「はい、申し訳ありません。資材課の退去がまだ完了しておりませんでした。」
児玉「・・・みゆき・・・野津君は?」
麗「はい、今補佐官を入口まで出迎えに行ったのですが・・・お会いしてませんか?」
児玉「うん、会ってない。」
麗「よし!(ガッツポーズ)」
児玉「ん?」
麗「いえ何でもありません。それでは今すぐ・・・。」
大山「健太郎?」
静香「え?」
児玉「?」
大山「お前・・・健太郎だよな?」
児玉「・・・だれ?」
大山「(こけて)お前の永遠のライバル!大山勝だ!」
児玉「・・・。」
静香「どういうこと?」
大山「健太郎とは小学校、中学校、高校と同じ学校、同じクラス。そして、同じ部活だったんだ。」
静香「ええ?」
大山「こいつとは全てを競い合ってきた宿命のライバルと言っても過言ではない!残念ながら勉強も運動も、ありとあらゆることで勝つことが出来なかった。いつも俺の目の前には、こいつがいた。」
静香「・・・。」
大山「だがしかし!いつかは、俺が勝利する。勝利を掴む、その日が来るまで、俺は自分を信じて日々努力を重ねてきたんだ!」
静香「なんかさっきも同じようなフレーズを・・・。」
大山「俺はお前には絶対に負けない!」
児玉「・・・。」

   大山と児玉は対峙する。

児玉「(時計を見て)時間がない。黒木君、他のメンバーは?」
麗「はい、外に。ここでは狭すぎますので・・・。」
児玉「案内してくれ。」
麗「はい!あの・・・資材課の連中は?」
児玉「かかわっている暇はない。(出て行こうとする)」
麗「わかりました。」
大山「健太郎!逃げるのか!?」
児玉「・・・相変わらず小賢しいな、大山勝。」

   児玉と麗は出て行く。

大山「うが〜〜〜!健太郎!(崩れる)」
静香「完全に相手にされてないね。」
乃木「若手で補佐官になるくらいの人は怖いですね・・・まるでカミソリですよ。」
川村「今の人は・・・?」
静香「防衛対策特別補佐官、児玉健太郎。まあ、この国の防衛関係の最高責任者ってとこかな。」
川村「・・・。」
大山「ふん!あいつにできるくらいの仕事なら、補佐官なんて俺にも出来る仕事だっつーの!」
静香・乃木「・・・。」
乃木「あれ?そういえば美由紀さんは?」
大山「健ちゃんさんを迎えに・・・。」
乃木「え?でも今補佐官は来ましたよね?」
大山「は?」
静香「先輩、健ちゃんと言うのは、きっと児玉補佐官のことです。」
大山「・・・はあ!?健太郎???なんで!?」
静香「なんでって言われても・・・名前が健太郎だから『健ちゃん』なんじゃないのかな?」
大山「・・・。」
乃木「どうしたんですか?」
大山「美由紀さんに『健ちゃん』と呼ばれているだと・・・。」
静香「え?」
大山「宿命のライバルは、恋のライバルでもあるわけか・・・。」
静香「いや、それは・・・。」
大山「児玉健太郎!貴様に美由紀さんは絶対に渡さん!」
静香「ちょっと!先輩!」

   大山は出て行く。

静香「・・・。」
乃木「静ちゃん、大山君と美由紀さんは・・・そういう関係なの?何かあるの?」
静香「・・・。」
乃木「何かあるの?」
静香「うるさい!」
乃木「ええ?」
静香「バカ!」

   静香は走って出て行く。

乃木「え?ちょっと!静ちゃん!(川村を見る)」
川村「(追いかけたら?という動き)」
乃木「そうですね。」

   乃木は出て行く。



〜シーンC〜

   川村は乃木が出て行ったのを確認して、自分のカバンをいじり始める。
   カバンの横からアンテナを立ててインカムを取り出し耳に付ける。

川村「はい、成功です。システムの図案もおおよそ・・・はい、名前は『スパコンZ』です。・・・そうです。(時計を確認して)はい、その時間までには必ずスパコンZを・・・。」

   突然電話が鳴り出す。
   川村はビックリして電話を見る。

川村「(インカムに)いえ、今潜入している部屋の電話が鳴っているだけです。」

   川村は鳴り続く電話を見る。
   無視して通信しようとするが電話は鳴り止まない。

川村「え?あ、申し訳ありません、閣下・・・え?電話に出ろ・・・と?気になる・・・?(電話を見て)・・・はい、わかりました。では、一旦通信終わります。」

   川村はインカムをはずして電話を取る。

川村「はい・・・もしもし・・・。はい、え?補佐官ですか?はい、ええと・・・ここにはいません。時間をおいてあらためて電話を・・・。」

   電話で怒鳴られたらしく受話器から耳を離す。

川村「あの・・・はい?緊急ですか?わかりました、今探してきます。」

   川村は困ったと言う様子で電話を切る。

川村「(溜息)上からモノを言われると思わず従ってしまう自分が情けない・・・職業病かな・・・?」

   カバンの中から先程書きとめた配線資料を見つつ・・・。

川村「このシステムを導入すれば我が国は救われるんだ。(スパコンZを見て)そして・・・これを破壊すれば・・・。」

   児玉と麗の会話が聞こえる。

麗「補佐官、少々お待ちを・・・。」
児玉「ん?なぜ?」
麗「いえ、あの・・・もしかしたらまだ資材課の連中がいるかもしれませんので・・・。」

   川村は声が聞こえたので段ボールの中に隠れる。
   児玉と麗が入ってくる。

児玉「(見回す)・・・。」
麗「あ・・・いない・・・。」
児玉「出て行ったようだ。」
麗「(信じられずに)いえ、でもさっきまで、かなりゴネていたはずなのに・・・。」
児玉「きっと美由紀が一生懸命頑張ったんだろう。」
麗「は?」
児玉「資材課のようなガラクタ共のところへ美由紀を行かせるのは気が引けたのだが・・・ガラクタ共を退去させる大仕事・・・よくやった、美由紀。。」
麗「いえ、あの、補佐官・・・実は、美由紀さんは資材課の連中に・・・。」
児玉「美由紀がしっかりと仕事ができるようになったのは、黒木君、君のおかげだ。君の指導が的確だったからだろう。」
麗「(困って)それは・・・どうでしょう?」
児玉「ちょっと前まではどうなることかと思ったが・・・。」
麗「・・・。」
児玉「以前のように自由奔放だが、しかし触れたら折れそうなかわいらしい美由紀だったら、このような大役は任せられなかった。」
麗「(児玉の親バカぶりに呆れる)ああ・・・。」
児玉「ありがとう、黒木君。君は本当に頼りになる。」
麗「それは・・・。(児玉に聞こえないように)・・・素直に喜べません・・・。」

   乃木が入ってくる。

乃木「静ちゃん・・・。」

   乃木は児玉と麗がいるのでビックリ硬直。

乃木「あ・・・。」
麗「乃木課長・・・。」
児玉「(無言で乃木を見ている)」
乃木「え・・・あの・・・。」
麗「乃木課長、資材課の連中は?」
乃木「え?(周りを見回しつつ)あ、ええと・・・。」
麗「補佐官。彼が、例のシステムを開発した乃木為雄です。」
児玉「そうか・・・システムを使わせてもらっている。礼を言う。」
乃木「・・・はい!」

   乃木が何か言おうとしたが突然電話が鳴る。

乃木「あ・・・。(電話を取って)はい、資材課・・・はい・・・(児玉と麗に)あの、お電話です・・・。」

   児玉と麗が顔を見合わせ、麗が電話を受け取る。

麗「はい、特別対策本部、黒木です。はい、そうですか、わかりました。(電話を切る)補佐官、総理が・・・。」
児玉「ん?」
麗「(乃木に配慮しつつ)荒井総理が目を覚まされたそうです。」
児玉「そうか。」
乃木「あの・・・何かあったんですか?」
麗「あなたには関係ありません。」
乃木「すみません。」
児玉「黒木君、私は総理のところに行ってくる。(時計を見つつ)近くだからすぐ戻ってこれると思うが。」
麗「はい。」
児玉「それと、ここの警備を厳重にするように。今まではガラクタを警備する必要はなかっただろうが・・・危機管理センターのセキュリティも破られた。今の状態ではまるで警備をしていないに等しい。」
麗「はい、私にお任せください。」
児玉「そうか、そうだな。警備は君の専門だった。」
麗「は!」
児玉「美由紀は、危険だから本部で待機させるように・・・そういえば、美由紀の姿が見えないが・・・。」
麗「補佐官、お急ぎになられたほうが!本部を離れている時間は少しでも短いほうがよろしいかと思いますので!」
児玉「ん?ああ、そうだな。後は頼む。」
麗「はい!」

   児玉は出て行く。
   児玉の後姿を見送った麗は胸をなでおろす。

乃木「あの・・・。」
麗「(ビックリして)乃木課長・・・あなた、まだいたの?」
乃木「ひどい・・・。」
麗「(取り繕って)いいわ。乃木課長、資材課の警備状況について聞きたいことがあります。」
乃木「え?警備ですか?してたかな〜?」
麗「(頭を抱えて)では、昨日から今日にかけて、怪しい人物を見たとか、おかしな出来事があったとか、そういうことは?」
乃木「(かなり考えて)・・・あ!ないです。」
麗「その『あ!』は何!?」
乃木「いえ、別に意味は・・・。」
麗「・・・本当に使えないわね。(何かに気付いて)そうだ、乃木課長。さっきここにいた胡散臭い笑顔を振りまいていた男は?」
乃木「胡散臭い笑顔?」
麗「あなたが『心の友』だとか何とか主張していた・・・。」
乃木「ああ!電気屋さん。」

   段ボールがガサリと動く。

麗「(身構えて)何!?」
乃木「きっと『スパコンZ』が働く場を与えられて喜んでいるんですよ。(スパコンZをなでなでしながら)お〜、よしよし。」
麗「(乃木の行動に顔をしかめる)・・・。(気を取り直して)その電気屋だけど・・・。」
乃木「あの人は私がいつもお世話になっている川村電気の方ですから大丈夫ですよ。」
麗「川村・・・。」
乃木「川村電気はですね、大型家電からマニアックな配線、小物類まで、ありとあらゆる品物を取り揃えていて、なんと言うんですか、痒いところに手が届くと言いますか・・・。」
麗「そんなことは聞いてません。」
乃木「そうですか。」
麗「(何か考えて)乃木課長、話があります。私についてきて。」
乃木「え、あ、はい・・・あ、でも私は静ちゃんを探していて・・・。」
麗「つべこべ言わずついてきなさい!」
乃木「あ、はい!」

   麗と乃木は出て行く。
   川村は段ボールから出てくる。

川村「ふぅ・・・焦った・・・。しかし、あの課長さん、いい年して強く言われると従ってしまうなんて・・・使えない窓際族の典型だね。ああはなりたくないな・・・。」

   川村は段ボールから出て、再び配線資料を出して、スパコンZと照らし合わせようとする。

川村「警備を強化されると厄介だな。早くしなければ。」

   大山が入ってくる。

大山「健太郎!どこ行った!」
川村「!(ビックリ慌ててカバンに資料をしまう)」
大山「電気屋!健太郎を見なかったか!?」
川村「え?補佐官さんですか?見てないですけど・・・。」
大山「久しぶりに俺に会って、ビビってトイレに駆け込んで泣いてるかと思ったが(舌打ちして)いなかった。あいつめ・・・俺に勝てないとわかって逃げ出したんだな・・・負け犬め。」
川村「あの・・・今、補佐官さんに電話があって・・・。」
大山「電話?なんの?」
川村「ええと、緊急とか何とか・・・。」
大山「そんなものは緊急ではない!」
川村「ええ!?」
大山「健太郎に緊急の用事があるのはこの俺だ!」
川村「(苦笑)そうですね、じゃあ、あの、また探しにいかれたらどうですか?」
大山「よし!電気屋!健太郎を探すのを手伝え!」
川村「私が!?あの・・・私は今すぐにやらなければならないことが・・・。」
大山「そんなのは後でやれ!」
川村「ええ!?そんな〜。」
大山「行くぞ!電気屋!俺についてこい!」
川村「ええ・・・あ、はい!」

   大山と川村は出て行く。


〜シーンD〜

   静香がゆっくりと入ってくる。

静香「・・・。」

   バックからおもむろにチケットを取り出し見つめる。

静香「・・・。(座る)」

   美由紀が入ってくる。

美由紀「静ちゃん。」
静香「美由紀・・・。」
美由紀「来なかった・・・いなかった・・・。」
静香「え?」
美由紀「ずっと、ずっと待ってたのに・・・。」
静香「えっと・・・補佐官さん?」
美由紀「うん。」
静香「・・・。」
美由紀「私、怒った。もう健ちゃんなんか知らないからね。明日のデートは中止なんだから!」
静香「・・・え?デート?」
美由紀「うん。明日行く予定だったの。」
静香「あの、美由紀・・・美由紀と児玉補佐官ってどういう関係なの?」
美由紀「関係?」
静香「そう。美由紀は確か補佐官の秘書・・・なんだよね?デートってどういうこと?」
美由紀「健ちゃんはね、私のフィアンセなんだ。」
静香「・・・ええ?フィアンセって・・・婚約者?」
美由紀「うん。」
静香「そうだったんだ。知らなかった・・・。」
美由紀「あれ?言ってなかったっけ?」
静香「聞いてないよ、初耳だよ。」
美由紀「健ちゃんのお仕事次第だけど、来年、もしくは再来年には結婚することになってるんだ。結婚式には静ちゃんも絶対来てね。」
静香「え、うん。」
美由紀「約束ね!・・・でも、今は私と健ちゃんには最大の危機が訪れているからどうなるかわからないけど。(ぷんぷん)」
静香「あ、あはは・・・。なんだ、そうだったんだ。(座る)」
美由紀「どうしたの?」
静香「じゃあ、美由紀が他の男に・・・例えば、うちの大山先輩に迫られたりしても、気持ちが動く・・・なんてことはないよね?」
美由紀「・・・だれ?」
静香「(コケてから気を取り直して身振り手振りを交えて)ええと、身体が大きくて、変な動きして、やたらとテンションが高くて、カレー大好きイエローみたいな人・・・。」
美由紀「ああ・・・あの、大山勝さん?」
静香「そう!」
美由紀「(きっぱりと)ない。」
静香「あ、そう。きっぱり言い切ったね。」
美由紀「だって、ありえないもん。」
静香「そうだよね。(小声で)うれしいけど、なんだかかわいそうな気もする・・・。」
美由紀「もしかして、静ちゃんは大山さんが好きなの?」
静香「え?いや、それは・・・どうして?」
美由紀「どうしてって・・・そんなこと聞かれたら、もしかしたらって思うじゃない?」
静香「いや、それは・・・ねぇ・・・。」
美由紀「そうだよね、ありえないよね。あんな男が好きなんて、よっぽどのモノ好きしかいないもん。黒木さんも言ってたでしょ?ブタゴリラだよ?昔の言葉で言えば『言いえて妙』って感じ。」
静香「あが・・・。」
美由紀「世の中に、あんな男は必要ないもん。いらない、いらない。」
静香「相変わらず笑顔でさらっときついこと言うね。」
美由紀「そうかな?いらないものはいらない。誰もゴミを取っておく人はいないでしょ?ちゃんとゴミは捨てないとね。」
静香「その考えはどうかな・・・。」
美由紀「(笑顔で)普通だと思うよ。普通、普通。」
静香「(小声で)そうだった・・・美由紀ってこういう娘だった・・・。」
美由紀「それで、静ちゃんは今好きな人はいないの?」
静香「え?あの、いや、その・・・。」
美由紀「うん。(わくわく)」
静香「実はね、モノ好きなんだ・・・。」
美由紀「え?」
静香「その・・・大山先輩が・・・ね、好きなんだ。」
美由紀「・・・。」
静香「・・・。」

   間。

美由紀「いいじゃない!大山さん、魅力的だよね!」
静香「え?みゆき?」
美由紀「なんか、キモいけどぷくぷくして熊さんみたいだし、テディベアには悪いけど、テディベアみたいだし、くまのぷーさんには悪いけど、ぷーさんみたいだし、ブタみたいだけど、ゴリラみたいに強そうで、あのテンションの高さははっきり言ってひいちゃうけど、なんだか一人で楽しそうだし、すごく・・・かっこいいよね!」
静香「みゆき・・・あんたね・・・。」
美由紀「よし!静ちゃん、私がその恋、応援してあげる!」
静香「ええ?ちょっと、いいよ、そんなことしなくても。」
美由紀「遠慮しないで!(真剣に)私、どうしても静ちゃんの役に立ちたいの!」
静香「美由紀・・・。」
美由紀「私、こう見えても魔法使いを目指していたんだから!」
静香「は?まほう???」
美由紀「この夢の国から来たラブリーエンジェル美由紀ちゃんが、ひとりの悩める乙女の恋路を叶えてあげる!」
静香「夢の国、ラブリー?美由紀、ちょっと落ち着いて。」
美由紀「(笑顔で)大丈夫だよ、静ちゃん。私は大丈夫。安心して私に任せていいからね。」
静香「え?」
美由紀「プリンス・デーモンはね、本当はこんなことをする人じゃないの。」
静香「プリンス・デーモン???」
美由紀「私にはわかるよ。この人の気持ちが・・・。本当は心の優しい人・・・でも、魔王の命令には逆らえない。」
静香「魔王って・・・。」
美由紀「逆らえば、自分自身の命が危ないもの・・・。」
静香「どういうこと?」
美由紀「あは!これね、この前最終回だったアニメの科白なの!」
静香「アニメ???」
美由紀「一度言ってみたいと思ってたんだ!」
静香「わけがわからなくなってきた・・・。」
美由紀「では、私が魔法をかけます。」
静香「いや、だから、いいって・・・。」
美由紀「(アドリブ期待します)鏡よ鏡よ鏡さん、くるくるハートでラブリンラブリン・・・。」
静香「聞いてないし・・・。」
美由紀「えい!」

   美由紀はポケットから普通に封筒を取り出す。

美由紀「じゃーん!」
静香「何?」
美由紀「夢の国、私の故郷!ディズニーランドのチケット二枚です!」
静香「ええ?」
美由紀「これで大山さんを誘うのです。」
静香「なんでそんなもの持ってるの?」
美由紀「・・・内緒だよ。魔法で出しました。」
静香「いや、それはいいから。」
美由紀「実はね、明日健ちゃんとディズニーランドに行く約束をしていたの。」
静香「そうなの?・・・って児玉補佐官とディズニーランド???」
美由紀「うん。」
静香「補佐官とディズニーランド・・・なんかイメージわかない・・・。」
美由紀「そうかな?でも、急に大変なお仕事が入っちゃったでしょ?早く片付けば行けるけど、明日には無理かな〜って思うし・・・。」
静香「まあ、そうだよね。」
美由紀「それに、さっき私が待っていたのに来なかったから、明日のデートは中止なの。だから、これは静ちゃんにあげる。」
静香「でも、ディズニーランドのチケットって高いよね。それも二枚も・・・もらえないよ、いいよ。」
美由紀「高い?高いかな〜?」
静香「高いよ。」
美由紀「でも、百万や二百万とかするわけじゃないし・・・。」
静香「それは別な意味で夢の国に行っちゃうよね・・・。」
美由紀「はい、静ちゃん。(渡そうとする)」
静香「でも・・・。」
美由紀「大丈夫!これはパパに言って政府のお金で買ったものだから安心して使っていいよ。遠慮しないで。」
静香「それこそ、かなりまずいんじゃない?」
美由紀「ノープロブレム!みんなやってることだし、大丈夫。」
静香「みんな???」
美由紀「うん。他の人は、マンションを買ったり、海外旅行に行ったり、行きつけのお店の女の人に貢いだり、いろいろやってるんだよ。それと比べたら可愛いもんでしょ?」
静香「ああ・・・これが今話題の公務員の不祥事・・・。」
美由紀「だから、はい。(封筒を渡す)」
静香「(受け取らないで)あ、でもね、美由紀。私も実はね、他に用意して・・・。」
美由紀「そっか!静ちゃん、照れてるんだね?かわいい!」
静香「は?」
美由紀「うんうん、わかるよ、その気持ち。よし!じゃあ、私が大山さんをディズニーに誘ってあげる!これならバッチリ!」
静香「いや、だから、チケットは・・・。」
美由紀「静ちゃん、ここで待っててね!(美由紀は出て行く)」
静香「ちょっと、美由紀!」

   静香は出て行く。


〜シーンE〜

   川村が入ってくる。

川村「・・・とんだところで時間を食ってしまった。」

   川村は再び通信を始める。

川村「こちら特別対策本部潜入班・・・。いえ、まだ・・申し訳ありません。」

   麗が入ってくる。

川村「・・・はい。」
麗「何をしているの?」
川村「(ビックリ)え?あ、いや、その・・・。」
麗「(不審な目で見る)」
川村「(汗)・・・。」
麗「(アンテナを見つつ)・・・それは・・・。」

   大山が入ってくる。

大山「健太郎!」
麗「!」
川村「(助かった)あ!大山さん!」

   川村は大山に抱きつく。

大山「な!なに???」
麗「・・・ブタゴリラ・・・。」
大山「ヒステリックレディ・・・。」
麗「な!」

   大山と麗は対峙する。

川村「・・・。」
大山「ところで電気屋、ここで何やってんだよ?」
川村「え?」
大山「健太郎は見つかったのか?」
川村「あの、いえ、まだ・・・。」
大山「あいつめ・・・どこにいきやがった。こんなに探してもいないということは、やはり俺に恐れをなして逃げ出したとしか思えん。」
麗「何を寝言を言ってるの。」
大山「(麗を睨んで)くっ!」
川村「・・・そういえば、補佐官さんはさっき出て行ったような・・・。」
大山「出て行った?どこに?」
川村「ええと、総理のところとか何とか・・・。」
大山「総理?・・・なんで?」
川村「新井総理が、危機管理センター内で倒れたみたいで・・・そのお見舞いじゃないですかね。」
大山「はあ?お見舞い?」
麗「ちょっと、あなた。どうしてそのことを知ってるの?」
川村「(しまった)いえ、さっきちらっと外で聞きまして・・・。」
大山「け!これだからキャリア組のエリートは・・・。(麗に)あんたもそういうタイプか?」
麗「私は無能な輩にはへつらわない。」
大山「つーことは、総理は無能ってこと?」
麗「・・・。」
大山「怖いね〜、上の世界は・・・。」
川村「そうですね。」
麗「とにかく、あなた方はここから出て行きなさい。」
川村「あ・・・。」
大山「ふん、やなこった。」
麗「これは政府命令です。」
大山「(麗の真似で)私は上の輩にはへつらわない。」
麗「くっ!」
川村「大山さん!今の似てましたよ〜。」
大山「そう?俺、物真似って意外と・・・。」

   美由紀が入ってくる。

麗「こら!てめぇら!言うことが聞けねぇのか!?こんちくしょ〜!」
大山・川村「(ビックリ)」
麗「(美由紀に気付いて)あ・・・美由紀さん。」
美由紀「黒木さん・・・???」
麗「(恥ずかしくなって咳払い)とにかくあなた方は早く出て行くように!」

   麗は出て行く。

大山「うわ〜、こわ〜い。」
川村「ですね〜。」
美由紀「二人とも、黒木さんを怒らせちゃダメですよ。」
大山「は〜い。」
川村「ごめんなさい。」
美由紀「あ、そうだ、大山さん。」
大山「え?」
美由紀「今、ちょうど大山さんを探してたところなんです。」
大山「俺を?マジですか????」
美由紀「はい。」
大山「(襟を正して)どうしたんですか?」
美由紀「大山さん、明日のご予定はありますか?」
大山「予定・・・ですか?特には・・・。」
美由紀「では、大山さんはディズニーランド、お好きですか?」
大山「ディズニーランド?ああ、まあ・・・好きとか、そういうのはあまり・・・。」
美由紀「(ムッとする)」
大山「突然、どうしたんですか?ディズニーランドなんて・・・?」
美由紀「(照れながらチケットを取り出して)これ・・・。」
大山「それは?」
美由紀「ディズニーランドのチケットです。」
大山「チケット・・・?」
美由紀「実は・・・大山さんをデートに誘おうと思って。」
川村「!」
大山「・・・デート???」
美由紀「はい。」
大山「お、お、お、俺を・・・で、で、で、デートに?」
美由紀「(頷く)」
大山「決めポーズで)勝った!」
美由紀「え?」
大山「健太郎と初めて会ったのは今からおよそ二十五年前・・・。あいつとは全てを競い合ってきた宿命のライバル。勉強、運動、ありとあらゆることで僅差で、そう!僅かな、ほんの僅かな差で勝つことが出来なかった。」
川村「・・・。」
大山「俺は、必ず勝利することを夢見て、健太郎に勝つその日が来るまで、今まで努力を重ねてきた。」
美由紀「(キョトン)」
大山「(電気屋に)その苦労が、苦労が今、報われたんだ〜!(泣)」
川村「(苦笑)よかったですね。」
美由紀「あの、大山さん?ディズニーランドには・・・?」
大山「行きます!是非、行かせていただきます!」
美由紀「本当!?よかった!ありがとう!すごくうれしい!」
大山「(美由紀の言葉に感激して)そこまで、そこまで俺とデートすることを喜んでくれるなんて・・・神様、仏様、キリスト様・・・みんな、みんな本当にいたんだ・・・。」
美由紀「(静香を探して)あれ?静ちゃん、どこに行ったんだろう?」
大山「どうしたんですか、美由紀さん?」
美由紀「静ちゃんに、大山さんをディズニーランドに誘えたことを早く伝えたいなって。」
大山「きゃわいい〜!デートのお誘いが成功したことを友達に真っ先に知らせる。乙女の純情、純粋無垢で可憐な女性・・・。」
美由紀「私、静ちゃんを探してきます。」
大山「そうですか。この喜びを早く伝えてやってください。」
美由紀「はい!」

   美由紀は出て行く。

大山「(川村に抱きついて)電気屋!俺は愛を手に入れた!」
川村「(苦笑)よかったですね。」
大山「あんなにかわいくて、心が清らかな女性は俺は見たことがない。そう思うだろ?電気屋!」
川村「あはは、そうですね・・・。(ふと時計を見て)あ、こんな時間・・・。」
大山「時間?」
川村「(しまった)そうです、時間です!大山さん、大変ですよ!」
大山「ん?何が?」
川村「明日の、デートの待ち合わせ時間を決めてないんじゃないですか?」
大山「・・・あ、そうか!忘れてた!」
川村「デートに誘われたんですから、そのくらいは大山さんがビシッと決めてあげないと・・・男として恥ずかしいかもしれませんよ?」
大山「そうだよな!折角美由紀さんが勇気を出してディズニーランドに誘ったんだもんな・・・ここは一番、男、大山勝を見せる刻!明日はだいたい六時に起きて・・・ちょっと早いかな・・・。」
川村「大山さん、一刻も早く美由紀さんのところへ!」
大山「よし!(大山は出て行く)」
川村「行ってらっしゃいませ!」

   川村は大山を見送る。

川村「(汗)ヤバい・・・もうこんな時間だ・・・。」

   川村は自分のカバンのところに行く。
   川村は何かに気付く。

川村「・・・あれ?ない・・・配線資料がない・・・。しまった!あれがないと・・・。(手でクビを切る)うわ〜!どうしよう!落ち着け、まずは落ち着け・・・こんな時は心を鎮めて冷静になる・・・工作員学校で習ったはずだ。(何度か深呼吸する)」

   乃木が手に段ボールと資料を持って入ってくる。

乃木「あれ?我が心の友人、電気屋さん。」
川村「(ビックリ咳き込む)あ、課長さん。」
乃木「帰ったんじゃなかったんですか?」
川村「え?あはは、ちょっと忘れ物を・・・。」
乃木「そうだったんですか。あ、ちょうど良かった・・・実はですね・・・。」

   児玉と麗の会話が聞こえる。

麗「補佐官、どうなされたんですか?」

   乃木は入口の方向を見る。
   川村は段ボールに身を隠す。

麗「お早いですね。総理は・・・。」
児玉「総理は大丈夫だ。それよりも緊急事態だ、黒木君。」
麗「緊急事態?」
児玉「通信部で発信者不明の電波を受信した。」
麗「電波・・・。」
児玉「発信場所は資材課。この建物からだ。」
麗「では、まさか工作員がすでに・・・。」
児玉「おそらくな。警備の状況は?」
麗「はい、この資材課のまわりは警備完了しています。」
児玉「うん。・・・配備する前に侵入されていたんだろう。迂闊だな、黒木君。」
麗「申し訳ありません。」
児玉「いや、君の責任ではない。乃木課長、システムに異常は出ていませんか?」
乃木「はい、今のところ正常に動いていますけど・・・。」
麗「(児玉に)まだシステムには手をつけていないのかもしれません。」
乃木「あの・・・何か?」
児玉「何者かがここに侵入して、あなたが開発したシステムを狙っている可能性があります。」
乃木「ええ!?私のスパコンZをですか???」
児玉「そうです。」
乃木「・・・私の娘とも言うべきスパコンZを狙うなんて・・・許せん!」
麗「娘だったんだ・・・。(何かに気付いて)あ、そういえば・・・。」
児玉「?」
麗「乃木課長、あなたが言っていたあの胡散臭い笑顔の電気屋は今どこに?」
乃木「電気屋さんですか?さっきまでここに・・・あれ?いない・・・。」
児玉「(麗に)何か?」
麗「いえ、少々怪しい人物が資材課に紛れ込んでいましたので・・・。」
乃木「今までここにいたんですけどね・・・どこに行ったんだろう?」
麗「使えないわね。」
乃木「ひどい・・・。」

   児玉はふと乃木が持っている資料を見る。

児玉「乃木課長、それは?」
乃木「・・・あ、これは電気屋さんの持ってた資料です。」
麗「電気屋が・・・?」
乃木「はい。置きっぱなしになっていたので拾ってきました。まあ、戻ってきたら渡してあげようとおもいまして・・・。」
児玉「見せていただけますか?」
乃木「はい。(資料を渡す)」
児玉「(資料を見る)」
乃木「しかし、本当に詳細な図面ですね・・・これだけの技量があるなんて、相当努力したんですね。電気屋さんにしておくにはおしいですよ。」
児玉「黒木君・・・。」
麗「はい。(児玉から資料を受け取り見る)補佐官、これは・・・。」
児玉「(頷く)乃木課長・・・これが何を書かれているかわかりますか?」
乃木「え?(資料を見て)・・・私のスパコンZや危機管理センター用の機材の詳細な情報ですね。」
児玉「・・・。」
乃木「何か?」
児玉「乃木課長、システムの管理はどうなっていますか?」
乃木「管理ですか?一応、二重三重の防御システムを備えています。大事な大事な箱入り娘ですから。」
児玉「それを破られた場合は?」
乃木「その場合はスパコンZ最終防衛システムが作動するようにしてあります。」
麗「(呆れて)最終防衛システムって・・・。」
児玉「さすがですね。政府科学技術研究所、乃木為雄主任研究員・・・。」
麗「・・・ええ?」
乃木「あはは・・・元、ですから。」
麗「・・・。(乃木を見つめる)」
乃木「何ですか?」
麗「見えない・・・。」
乃木「ひどい・・・。」
児玉「黒木君。」
麗「はい。」
児玉「君はいつもの通り、配置についてくれ。危機管理センターでは後手に回ったが、君自らが警備してくれれば安心だ。二度の失敗は許されない。」
麗「了解しました。黒木麗、配置につきます。」
乃木「どうしたんですか?」
児玉「乃木課長、この資料は私が預かります。」
乃木「え?あ、でも、電気屋さんの・・・。」
児玉「その電気屋ですが・・・再び会うことがあればその場に引き止めておいてください。」
乃木「どうしてですか?」
児玉「(頭を抱える)あなたがキャリアの道を放棄した理由が何となくわかりそうな気がします。」
乃木「いや、そんな〜。」
児玉「ほめてません。」
乃木「すみません。」
児玉「・・・ところで、黒木君。・・・美由紀は?」
麗「え?」
児玉「さっきから美由紀の姿が見えなくて非常に心配なんだ。」
麗「ええと、美由紀さんにはいろいろ仕事をしてもらっていますので・・・。」
児玉「そうか・・・無理するなよ、美由紀。(遠い目)」
麗「・・・。」
児玉「黒木君・・・実はね、美由紀にプレゼントを買ってきたんだ。」
麗「は?」
児玉「(カバンから袋を出しつつ)美由紀が前から欲しがっていたものなんだが・・・買うのに苦労したよ。人気があるらしくて朝から店に並んでしまった。」
麗「補佐官、外のほうにも指示を出されたほうが・・・そろそろ準備が整うと思いますので・・・。」
児玉「ん?ああ、そうだな。」
麗「おカバンはこちらに。」
児玉「うん。」

   児玉は出て行く。

麗「(溜息)・・・あれがなければ尊敬に値する人なんだけど・・・。」
乃木「補佐官さん、面白い方ですね。」
麗「・・・乃木課長。」
乃木「はい?」
麗「あなたが政府科学技術研究所、主任研究員だったなんてね。」
乃木「先ほども言ったとおり、元・・・ですから。」
麗「そういえば聞いたことがる・・・エジソンやアインシュタインの再来と言われた科学者がいるって・・・乃木課長・・・あなたが・・・。」
乃木「あはは・・・。」
麗「まったく見えないけど・・・。」
乃木「ひどい・・・。」
麗「・・・どうしてあなたのような人が、こんなガラクタ置場とよばれるところにいるの?」
乃木「・・・。」
麗「研究所にいれば、今頃はきっと・・・。」
乃木「ここはいいですよ。」
麗「?」
乃木「何かのしがらみにとらわれることもないし・・・。」
麗「・・・。」
乃木「研究所にいたころは、まあ、研究費用には困りませんでしたけど、なんだか息苦しくて・・・。それに比べたらここは最高ですよ。」
麗「ガラクタ置場が・・・?」
乃木「研究所だってごちゃごちゃしてガラクタ置場みたいなもんです。そこにいろんな事情が入ってきて・・・。もしかしたら、ここよりもひどいかもしれません。例えていうならば、有毒な産業廃棄物置場かもしれませんよ、あそこは。(笑)」
麗「・・・。」
乃木「それを考えたら、ここのほうがずっと過ごしやすい。そこに人間が存在しますから・・・。」
麗「・・・では、任務がありますので、これで。(出て行こうとする)」
乃木「あ、はい、お気をつけて。」
麗「(ふと立ち止まり引き返して)乃木課長、これを。(笛を取り出す)」
乃木「これは?」
麗「何か危機的な状況になったら、この笛を吹いてください。では、失礼します。」

   使命を帯びた表情で麗は出て行く。

乃木「(笛を見つつ)・・・どういうことでしょう?・・・我が愛しの娘・スパコンZ・・・。」

   川村はそうっと段ボールから出てきて、乃木に迫る。

乃木「(おもむろに歌いだす)長かろうと・・・。」
川村「(ビックリ)」
乃木「短かろうと、我が人生、悔いはない〜♪いいな〜、石原裕次郎・・・。」


〜シーンF〜

   静香と美由紀が入ってくる。

静香「・・・美由紀。」
美由紀「よかったね!静ちゃん!」
静香「でも、本当にオーケーしてくれたの?」
美由紀「本当だよ。」
静香「ほんとにほんと???」
美由紀「うん!すごく喜んでたよ。『是非行かせていただきます』って言ってたもん。」
静香「・・・そうなんだ。大山先輩が・・・喜んでた。(うれしさにうっとり)」
乃木「静香さん、どうしたんですか?」
静香「え!?課長!」
美由紀「実はですね、静ちゃんが、大山さんと・・・。」
静香「(美由紀を遮って)わー!わー!わー!ちょっと美由紀!」
乃木「(ビックリして)何ですか?何かあったんですか?」
静香「課長には関係ないの!」
乃木「うわ、ひどい。(川村に気付いて)あれ?電気屋さん?」
川村「あ・・・。」
乃木「どこに行ってたんですか?急にいなくなっちゃったから心配しましたよ。」
川村「あはは・・・。」
美由紀「これで静ちゃんが幸せになれば、私もすごく幸せ・・・。」
静香「美由紀・・・。」
美由紀「でも、大山さんのどこがいいの?」
静香「へ?」
美由紀「私では絶対にありえないな。」
静香「ちょっと美由紀!」
乃木「え?なんですか?静ちゃんと大山くんはそういう関係なんですか?」
静香「課長、いえ、それは・・・。」
美由紀「そうなんです!静ちゃんは大山さんが大好きなのです!」
静香「きゃー!きゃー!」
乃木「そうだったんですか。まあ、なんとなくそんな気はしてましたけどね。」
静香「うう・・・。」
乃木「あ、そういえば、先月の忘年会で言ってた彼氏さんはどうしたんですか?」
美由紀「?」
静香「いえ、あれは、その・・・言葉のあやというか、その場のノリというか・・・。」
乃木「?」
静香「本当はいないんです。」
川村「・・・。(この雰囲気にやきもき)」
乃木「(笑)・・・でも、静香さんが元気になってよかった。」
静香「え?」
乃木「さっきは、もうこれ以上ないってほど落ち込んでたように見えましたので心配してました。」
静香「あ・・・。」
乃木「静香さんは落ち込んでる顔より、明るくて元気な笑顔のほうが似合いますよ。」
静香「・・・課長・・・。」
美由紀「うん、私もそう思う。」
静香「美由紀・・・ありがとう。」
川村「あの、皆さん。積もる話はここではなく、どこが食事をしながらとか、もっと別の場所で話されたらいかがでしょうか?」
乃木「そうですね、そうしましょう。政府の方々がここは使いますし、私たちは今日はもうあがりということで。」
川村「はい。」
静香「え、でも・・・。」
川村「さあさあ、善は急げです!(出て行くように促す)」
美由紀「(テーブルのカバンとプレゼントに気付いて)あれ?これ・・・。」
静香「へ?」
乃木「ああ、今さっき児玉補佐官が・・・。」
美由紀「健ちゃんが来たの?」
乃木「はい。」
美由紀「もう、健ちゃんめ・・・美由紀が探してるって言うのに・・・。」
川村「あ、では児玉補佐官を探しに行きましょう!(出て行くように促す)」
美由紀「(プレゼントに気付いて)あれ、これは?」
川村「・・・。」
乃木「ああ、補佐官さんが美由紀さんにって・・・。」
美由紀「健ちゃんが私に?」
静香「補佐官からのプレゼント?すごいじゃない、美由紀!」
川村「(拍手しながら)素敵です!というわけで、補佐官さんにお礼を言いに行きましょう!(出て行くように促す)」
美由紀「(嬉しいけど・・・)でも、健ちゃんは私を待たせたりしたから、私は怒ってる・・・。」
静香「あけてみたら?」
美由紀「え?」
乃木「あ、でも、勝手に・・・。」
美由紀「あけてみよう。」

   美由紀は袋をあける。
   川村は時計を見ながら焦りつつ、どうしようもなくなり、三人を尻目にそうっと出て行こうとする。

静香「政府の補佐官からフィアンセへのプレゼント・・・きっとすごいものだよね。」
乃木「そうですね。」

   美由紀はプレゼントを取り出す。
   中身はアニメに出てきそうな魔法のステッキ。

静香・乃木・川村「あ・・・。(絶句)」
美由紀「これ・・・。」
静香「課長・・・これ、本当に補佐官から美由紀へのプレゼントなの?」
乃木「確かです。朝から並んでまで手に入れたって言ってました。」
美由紀「・・・。」
静香「美由紀・・・?」
美由紀「うれしい!」
静香・乃木「はい?」
美由紀「これ、前から欲しかったの!健ちゃん、ありがとう!」
静香「そうなの???」
美由紀「うん!魔法のステッキだよ?かわいいよね!」
乃木「そう・・・ですね。」
川村「・・・。」
美由紀「あは!」
静香「これは予想外だよ・・・。」
川村「(苦虫を噛み潰した感じで出て行く)」
美由紀「ミラクルハートでラブリンラブリン、魔法のステッキお願いね・・・。(アドリブを期待します)」

   大山の声が聞こえる。

大山「電気屋!美由紀さんは?」

   大山が川村を押しつつ入ってくる。

川村「(この状況に愕然)」
静香「あ・・・先輩・・・。」
大山「スイート・マイ・エンジェル!(美由紀に駆け寄る)」
静香「え、あの・・・。」
大山「探しましたよ、美由紀さん。(ステッキを見て)これ、何?」
美由紀「魔法のステッキです!」
大山「きゃわいい!」
美由紀「ありがとう!」
静香「先輩・・・?」
大山「あ、そうだ。明日の待ち合わせ場所、決めていませんでしたよね?」
美由紀「・・・あ、そういえば。」
大山「何時くらいがいいですか?」
美由紀「ええ?ええと、静ちゃんは何時がいい?」
静香「え?・・・明日のディズニーランドの開演時間は何時かな?」
美由紀「明日の開演時間は九時だよ。」
静香「そうなの?」
美由紀「ディズニーについては、開演時間からイベント情報まで、全部頭に入ってるもん。」
大山「すげぇ・・・。」
静香「じゃあ、八時半に駅に待ち合わせすれば・・・。」
美由紀「うん、それがいいね!」
大山「じゃあ、それで決まりということで!(笑)」
静香「・・・?(大山の腕を引っ張り)先輩、ちょっと・・・。」
大山「ん?何?」

   静香は大山を離れた場所に連れて行く。

静香「ええと・・・。」
大山「静ちゃん、美由紀さんに聞いた?」
静香「え?」
大山「ディズニーランドの話のこと。」
静香「う、うん。」
大山「そっかそっか。」
静香「あの、先輩・・・。」
大山「静ちゃん、喜んでくれた?」
静香「え?あ、うん。ビックリしてる。」
大山「そうだろ、そうだろ。」
静香「まさか、先輩がディズニーランドを・・・。」
大山「まあ、ここだけの話、ディズニーランドが死ぬほど好きってわけじゃないけどさ、誘われちゃったら、ねえ?二人で出かけることができるなら、ディズニーランドであろうが、資材課の食堂であろうが、どこでも幸せかなって・・・でしょ?」
静香「先輩・・・。」
大山「美由紀さんとデートが出来るなんて、俺はなんて幸せ者なんだ!」
静香「・・・え?」
美由紀「?」
乃木「大山くん、どういうことですか?」
大山「課長〜。さっきね、美由紀さんからデートに誘われたんです。」
乃木「デートですか???」
静香「(呆然)」
大山「『明日お暇ですか?ディズニーランドに行きませんか?』って言われちゃって〜!(照笑)」
静香「あ・・・あ・・・。」
乃木「でも、美由紀さんは、児玉補佐官の・・・。」
大山「勝ったんですよ!」
乃木「へ?」
大山「俺はあいつに勝ったんですよ。最後の最後で『愛』という名の勝負に・・・。」
静香「・・・。」
乃木「でも・・・。」
大山「静ちゃんも美由紀さんから聞いたでしょ?俺をディズニーランドに誘ったんだって。」
静香「(呆然と)う、うん、聞いたけど・・・なんか微妙に話がずれてる気がするんだよね・・・。」
大山「そうなの?(笑)」
静香「ははは・・・微妙どころか、完全にずれちゃってると思う・・・。」
川村「では皆さん、今からディズニーランドに行きましょう!早くここから出て行きましょう!(泣)」

   児玉が入ってくる。

川村「(もう嫌・・・)」
児玉「増えてる・・・。」
美由紀「あ、健ちゃん!」
大山「健太郎、やっと現れたな!今まで俺を恐れて・・・。」
美由紀「健ちゃん、ありがとう!(児玉に駆け寄り抱きつく)」
大山「!?」
児玉「美由紀?」
美由紀「これ・・・。(ステッキを見せる)」
児玉「あ、それは・・・。」
美由紀「健ちゃんからのプレゼント、私、すごくうれしい。」
児玉「ああ、喜んでくれてよかった。」
大山「健太郎!お前は、永遠のライバルであるこの俺を、いつも相手にしてくれなかった!こんなにもお前をライバル視しているのに・・・。」
児玉「でも、私の手から渡したかったな。」
美由紀「ごめんなさい。」
児玉「いいよ。」
大山「健太郎!俺の話を聞け!」
児玉「・・・。」
大山「・・・(咳払い)いろんなことでお前に勝てなかったのはこの際認めよう。しかし!俺はお前に勝ったのだ!」
児玉「・・・それはよかった。美由紀、このボタンを押すと光るんだぞ。」
美由紀「すご〜い!」
大山「こら!児玉健太郎!『光るんだぞ〜』じゃない!」
児玉「・・・。」
大山「そうやって俺を無視するのもこれまでだ!」
美由紀「?」
大山「俺はな、明日、美由紀さんとデートすることになったのだ!」
静香「あ・・・。」
児玉「(ピクッ)なに・・・?」
大山「それも、デートスポットの定番『ディズニーランド』に・・・。(勝ち誇った表情)」
児玉「・・・。」
美由紀「あれ?」

   大山と児玉は対峙する。

児玉「美由紀とディズニーランド・・・。」
大山「そうだ。それも美由紀さんから誘ってきたんだぞ。」
児玉「・・・バカな。(呆然)」
川村「・・・。」
児玉「美由紀・・・大山勝と明日ディズニーランドに行くというのは本当か?」
美由紀「え?」
児玉「どうなんだ?」
美由紀「ううん、行かないよ。」
大山「(カクン)・・・え?」
静香「・・・。」
大山「いや、だって、さっき美由紀さんは俺をディズニーランドに一緒に行こうって誘いましたよね?」
美由紀「ううん、誘ってないよ。」
児玉「お前の妄想だ。」
大山「(ショック)そんな・・・。電気屋、さっきお前も聞いたよな?美由紀さんが、俺をディズニーに・・・。」
川村「(茫然自失でクビを振っている)」
大山「電気屋・・・。(ガックシ)」

   児玉は川村に気付く。

児玉「乃木課長・・・。」
乃木「はい。」
児玉「あの男は・・・?」
乃木「え?あ、彼が私の心からの友人、電気屋さんです。」
児玉「・・・。」
乃木「電気屋さん、電気屋さん、大丈夫ですか?」
静香「(児玉に)どうしたんですか?」

   児玉が川村に近付く。

大山「なんだよ?」
児玉「(大山を制して)あなたが電気屋さんですか?」
川村「・・・え?」

   児玉が目の前にいるのでビックリする川村。

川村「あ・・・あの・・・。」
大山「健太郎、俺との話が・・・。」
児玉「(大山を制して)大山・・・この男、知ってるのか?」
大山「はあ?(川村を見て)電気屋だろ?」
児玉「・・・。」
乃木「あの・・・。」
児玉「まんまと資材課の連中を騙したわけか・・・?」
川村「!・・・あはは・・・。」

   川村は自分のカバンのところに行く。

川村「(汗)」
大山「健太郎、どういうことだよ?」
児玉「大山、今朝危機管理センターの機能が停止したのは知ってるな?」
大山「ああ。だからお前がここにいるんだろ?」
児玉「犯行を行ったのは、おそらく隣国の特殊工作員。」
大山「マジで?」
静香「そういえば、荒井総理が襲われた・・・んだよね?」
美由紀「うん。」
大山「マジで?」
児玉「いや、それは・・・。まあ、ともかく、工作員が破壊活動をおこなったのは事実だろう。」
乃木「それと電気屋さんと何か関係があるんですか?」
児玉「・・・乃木課長、この部屋は携帯電話は使えますか?」
乃木「え?いえ、地下ですので圏外です。」
静香「携帯が使えないので、ここでの連絡はその電話でしかできなくて・・・。」
乃木「この場所から外部との通信をしようとしたら(手を広げて)このくらいのアンテナに、良質の通信機を使わないといけませんよ。」

   間・・・全員の視線が川村のカバンのアンテナに。

美由紀「カバンからアンテナ・・・かわいい!」
全員「(コケる)」
大山「電気屋・・・そのアンテナは?」
静香「そういえば来たときはあんなのなかったよね。」
川村「いや、これはただの飾りで・・・。(アンテナをたたむ)」
静香「まさか・・・電気屋さんが・・・工作員?」
川村「あはは・・・そんなわけないじゃないですか?私は川村電気からこちらにやってまいりました、正真正銘、紛れもない電気屋です。」
大山「相変わらず胡散臭い笑顔だ・・・。」
静香「うん。」
川村「そんなことないですよ、あはは・・・。」
児玉「(懐中より資料を出して)乃木課長、この図面はその男のものですね?」
乃木「はい、そうです、電気屋さんのです。」
児玉「何が書いてありますか?」
乃木「私が開発したスパコンZと危機管理センターの機材などの詳細な情報が・・・。」
川村「勉強しようと思って・・・。」
児玉「ただの電気屋が、そんな情報を調べてどうする?」
川村「それは・・・。」
児玉「そしてそのカバンのアンテナは何に使っているんだ?」
川村「・・・。」
児玉「外部との連絡か・・・?」
川村「・・・。」
児玉「そのカバン・・・見せてもらえますか?」
川村「・・・。(汗)」

   川村はカバンからナイフを出す。

全員「!」
大山「電気屋!?」
静香「電気屋さん?」
児玉「やはり、貴様が工作員か・・・。」
川村「・・・。」
乃木「・・・電気屋さんが工作員だったんですか???(呆然)」
静香「課長・・・。」
大山「・・・。」
乃木「電気屋さん・・・。」
児玉「(乃木を制して)乃木課長、下がっていてください。」

   児玉は持っていた魔法のステッキをかまえる。

静香「補佐官さん!」
川村「児玉健太郎・・・。」
児玉「・・・。」
川村「任務に失敗するくらいなら、お前をいっそこの手で葬れば・・・。」
大山「電気屋、ちょっと言っとくぞ。」
川村「?」
大山「健太郎はな・・・今は魔法のステッキを構えてるけど、子供の頃から剣道をやっていて、学生の時、インターハイで優勝するくらい強いんだぞ。」
川村「・・・え?」
児玉「・・・。」
乃木「そうなんですか?」
大山「俺のよきライバルだったからな。(ふんぞり)」
静香「・・・。」
川村「(汗)・・・マジデスカ?」
児玉「・・・。」

   児玉は一歩前に出る。

川村「(ビクッ!)」
美由紀「ダメ〜!」
全員「!?」

   美由紀は児玉と川村の間に割って入る。

静香「美由紀???」
美由紀「(児玉からステッキを奪って)健ちゃん、ダメ!魔法のステッキはそういうことに使うものじゃないの!」
児玉「え?」
美由紀「せっかく健ちゃんがプレゼントしてくれたんだよ?叩いたりしたら壊れちゃう。」
静香「美由紀、そんな場合じゃ・・・。」

   川村は呆然と見ていたが、気を取り直して美由紀を人質に取る。

美由紀「え?」
児玉「美由紀!」
川村「動くな!動くとこの人を傷つけるぞ!」
児玉「貴様・・・。」
大山「電気屋!お前、自分が何やってるかわかってんのか!?」
川村「・・・。」
大山「美由紀さんを人質に取るなんて許せん!」
静香「美由紀・・・。」
乃木「電気屋さん、そんなものを人に向けるなんて危ないですよ。」
川村「そんなことわかってます!」
乃木「わかってるならやめましょう。」
川村「乃木課長・・・あなたが開発したこのスパコンZ、本当に素晴らしい。低予算で高性能・・・このシステムを貧困で喘ぐ我が祖国に導入できたらどんなにか・・・。私も機械類が好きでして・・・できることなら、私もこんなシステムを作ってみたかった。しかし!もう、おしまいだ!」
児玉「美由紀!」
美由紀「(ステッキを胸に抱き)大丈夫だよ、健ちゃん。私は大丈夫。」
児玉「え?」
美由紀「電気屋さんはね、本当はこんなことする人じゃないの。」
川村「(ビックリ)」
静香「美由紀・・・。」
美由紀「私にはわかるよ、この人の気持ちが・・・。」
静香「・・・どこかで聞いたフレーズだけど・・・!(さっきのことを思い出す)」
美由紀「電気屋さんは本当は心の優しい人。でも、命令には逆らえない。逆らえば、電気屋さん自身の命が危ないもの。」
川村「あ・・・あ・・・。」
美由紀「そうですよね?電気屋さん。」
川村「・・・どうして、それを・・・?」
美由紀「私には伝わっています。あなたの心が、思いが・・・。」
川村「・・・。」
大山「美由紀さん・・・なんて清い心だ・・・。(泣)」
静香「・・・。」
乃木「電気屋さん・・・。」

   川村は意を決して美由紀を突き放す。

静香「美由紀!」
川村「あなたのような人に、最期に、あなたのような人に会えて、よかった・・・。」
美由紀「え?」
大山「電気屋・・・?」
川村「(笑顔)」
美由紀「似ている・・・。」
児玉「美由紀?」
美由紀「ダメ!電気屋さん!」
児玉「(何かに気付き)まさか・・・乃木課長!笛を吹け!」
乃木「え?あ、はい。」
川村「(ナイフをクビに持っていこうとする)」

   乃木は笛を吹く。
   突然暗転する。
   金属音。
   入口にスポット照明がつくと麗が忍者装束で立っている。

麗「君に危険が迫ったら、笛の音響けば現れる、黒ストッキングの麗、只今参上!」
一同「・・・。」

   照明が全部入る。
   麗はすかさず川村を取り押さえる。
   児玉はナイフを拾う。

麗「最初から怪しいと思っていましたが、やはりこの男が工作員でしたか。(川村を後ろ手に手錠をかける)」
児玉「ああ。」
静香「黒木さん・・・その姿は・・・?」
美由紀「黒木さんは、戦国時代よりずっと続いている忍者の家系なんです。」
大山・静香・乃木「ええ?」
児玉「政府直属の隠密部隊。その隊長が『黒ストッキングの麗』こと黒木麗・・・。」
大山・静香・乃木「ああ・・・。」
川村「任務に失敗した。もう祖国にも戻れない・・・。(自嘲気味の笑い)まあ、いいさ。どうせ天涯孤独なんだから・・・。」
静香「どういうこと?」
川村「私は捨て子だったんですよ。知ってるでしょ?私の国がどんな状況になっているのか・・・?私と同じ境遇の奴なんて数え切れないほど存在する・・・。」
児玉「・・・。」
川村「何もなくなってしまった。生きる希望も・・・何もかも・・・。もう私は死んだほうがいいかな・・・。」
静香「死ぬなんて簡単に言わないで。」
川村「え?」
静香「任務に失敗したくらい何なの?」
大山「静ちゃん・・・。」
静香「ここにいる人たちは失敗しかしたことないんだよ!?」
大山・乃木「・・・え?」
麗「え?」
児玉「(俺も?というジェスチャー)」
美由紀「(何もわかっていない)」
静香「死ぬ気になれば、なんだって出来る。絶対に出来る!」
川村「しかし、私は、こんな私は何の価値もない・・・生きている資格なんて・・・。」
乃木「価値はあります!」
川村「え?」
乃木「資格もあります。誰にでも生きる資格はあるんです。」
静香「課長・・・。」
乃木「あなたは私の心の友です。人間臭いというか何というか・・・それに素晴らしい技術を持っているエキスパートです。あなたには価値も資格もちゃんと存在するんです。」
美由紀「そうです!課長さんの言うとおりです。」
川村「あ・・・。」
大山「ま、俺たちのノリについてこれるなんてなかなかないぜ。」
静香「先輩・・・。(笑顔)」
乃木「・・・生きてください。」
川村「あなた方は・・・。」

   間。

児玉「・・・黒木君、警備班を。」
麗「え?あ、はい。」
大山「ちょっと待て、健太郎!お前・・・今のこの状況を見て何も感じないのか!?」
児玉「・・・。」
乃木「児玉さん・・・。」
麗「(この状況に戸惑いつつ)・・・補佐官。」
児玉「・・・。」
美由紀「健ちゃん、お願いがあるの・・・。」
児玉「?」
美由紀「電気屋さんを許してあげて。」
児玉「!」
美由紀「電気屋さんは、こんなことしたくてしたわけじゃないと思うの。だから、お願い。」
児玉「しかし、この男のやったことは犯罪だ。見逃すわけには・・・。」
乃木「児玉さん。電気屋さんはスパコンZも破壊してませんし、システムの図案もまだ持ち出していません。」
児玉「しかし、美由紀を・・・。」
美由紀「健ちゃん、私は何もされてないよ。」
川村「!」
美由紀「さっきは魔法少女ごっこをしていただけ。ね、静ちゃん。」
静香「美由紀・・・あなた、まさか最初から・・・?」
美由紀「電気屋さん、そうですよね?遊んでいただけですよね?」
川村「私は・・・。」
美由紀「(川村ににっこり)」
川村「・・・。(涙)」
静香「児玉さん、私たちからもお願いします。電気屋さんを許してあげてください。」
児玉「・・・。」
大山「健太郎・・・。」
児玉「・・・。(何事か考えている)」
麗「補佐官・・・?」
児玉「黒木君・・・君のところは人手不足だったね。」
麗「え?」
児玉「・・・。」
麗「(児玉の真意を悟りわざとらしく)そうでした、人手不足です。それも電気・機械関係の人材がいない。その方面のエキスパートが欲しいと思っていたところです。」
川村「・・・。」
児玉「(川村に)どうかな?」
川村「私を・・・?」
児玉「(頷く)」
川村「でも、私は・・・。」
児玉「戸籍・経歴その他一切は政府で何とかする。」
川村「(呆然)」
美由紀「健ちゃん!」
乃木「よかったですね、電気屋さん!」
川村「あ・・・ありがとうございます・・・。(声を殺して泣く)」
静香「児玉さん・・・。」
大山「健太郎・・・やるじゃん。」
児玉「・・・。」
麗「補佐官・・・よろしいんですか?」
児玉「・・・内緒だ。」
麗「(苦笑)」


〜シーンG〜

   電話が鳴る。

静香「(電話を取って)はい、資材課・・・え?野津さん、ですか?」
美由紀「あ、もしかして?」
静香「児玉補佐官ですか?はい、少々お待ち・・・。」
美由紀「(受話器を奪い取り)もしもし・・・やっぱりパパだ!うん、うん、大丈夫、元気だよ。そうだよ、ちゃんと健ちゃんのお仕事を手伝ってるんだから。・・・え?健ちゃん?ちょっと待ってて。健ちゃん、パパから。」
児玉「(襟を正して)ああ・・・はい、児玉です。」
静香「(児玉の対応を見て)ねえ、美由紀。美由紀のパパって・・・。」
美由紀「パパ?」
静香「うん、名前は確か・・・。」
美由紀「慎太郎だよ。」
乃木「野津慎太郎?」
静香「やっぱり。」
静香・乃木「・・・。」
大山「・・・って、だれ?」
静香・乃木「(カクン)」
静香「次の総理候補ナンバー1。」
乃木「野津慎太郎外務大臣です。」
大山「外務大臣・・・ええ???」
静香・乃木「(頭を抱える)」
児玉「は!失礼致します。(電話を切る)」
美由紀「健ちゃん、パパ、何だって?」
児玉「同盟国及び隣国との交渉を終えて今空港に着いたらしい。これからまっすぐ総理官邸に向かうそうだ。」
美由紀「パパ、帰ってきたんだ。」
児玉「黒木君、これから総理官邸で緊急閣議がある。」
麗「わかりました。では、先行して準備をしておきます。」
児玉「頼む。(川村に)君、黒木君と一緒に行きたまえ。これからは黒木君の指示に従うように。」
川村「・・・はい!」
麗「では、失礼致します。(出て行こうとする)」
児玉「(麗を引き止めて)黒木君。」
麗「はい。」
児玉「その格好で行くのかね?」
麗「あ・・・。」
児玉「ちゃんと着替えてから行くように。」
麗「・・・は!(敬礼)」

   麗と川村は出て行く。

静香「黒木さんって・・・いつもあんな格好をしてるの?」
美由紀「う〜ん、時々かな・・・。」
静香「時々はしてるんだ・・・。」
大山「・・・あ、そうだ。すっかり忘れてた!」
静香「え?」
大山「美由紀さん、俺とのデートは?」
静香「先輩!」
大山「ディズニーランドに一緒に行くという話・・・。」
美由紀「どうして私が大山さんとディズニーランドに行かなきゃならないんですか?」
大山「いや、だって、さっき一緒に行こうって・・・。」
美由紀「言ってません。」
大山「いや、だって・・・。」
美由紀「ありえません。」
大山「いや・・・。」
美由紀「しつこいです。」
大山「(大ショック)」

   大山は茫然自失で硬直。

静香「先輩・・・。」
児玉「美由紀・・・これはどういうことだ?」
美由紀「う〜ん・・・静ちゃん・・・どういうこと?」
静香「美由紀・・・誘う時、大山先輩になんて言ったの?」
美由紀「え?ええと・・・『ディズニーランドに行きませんか?』って。」
静香「それだけ?」
美由紀「うん、それだけ。」
静香「(自分を指して)私と・・・って言ったの?」
美由紀「・・・あ、言ってない・・・。」
静香「(頭を抱える)それじゃ誤解するよね・・・。」
美由紀「てへっ!」
児玉「・・・。」
乃木「(呆然としている大山の目の前で手を振りながら)大山くん・・・大丈夫ですか?」
大山「・・・ディズニーランドのチケットまで用意してあったのに・・・。」
美由紀「あれは私と健ちゃんで行く予定だったの。」
大山「けんたろうと???何で・・・。」
美由紀「健ちゃんは私のフィアンセだもん。一緒に行くのは当然でしょ?」
大山「・・・フィアンセ?」
静香「先輩・・・美由紀と児玉補佐官は婚約しているんです。」
大山「へ・・・?」

   大山は美由紀と児玉を指差しながら交互に見る。

大山「・・・ええ!?(ショックで崩れる)今になって衝撃の事実が・・・。」
静香「せんぱい・・・。」
児玉「・・・。」
大山「健太郎!お前は政府の補佐官なんだろ?ディズニーランドになんか行くのかよ?」
美由紀「大山さん、健ちゃんはね、ディズニーランドが大好きなんだよ!」
静香「ええ?」
大山「マジで?」
美由紀「ねえ、健ちゃん。」
乃木「そうなんですか?」
児玉「・・・めちゃくちゃ好きなんだよ。」
静香・大山・乃木「ああ・・・。」
美由紀「健ちゃんはくまのぷーさんが気にいってるんだよね。」
静香「そうなんだ・・・。」
大山「ぷーさんって・・・お前・・・。」
美由紀「あ、もしかして、健ちゃんがぷーさんを気になるのは・・・。」
児玉「(咳払い)それでは、これで失礼します。」
乃木「はい、お気をつけて。」
大山「?」
静香「(苦笑)」
美由紀「静ちゃん、結婚式には絶対出てね!」
静香「う、うん。あ、でも、お偉いさんとか、きっといっぱい来るんでしょ?私・・・そういうのは苦手で・・・。」
美由紀「わかった!じゃあ、そういう人たちは呼ばないで、私たちだけでやることにしよう!」
静香「ええ???」
児玉「美由紀、それはちょっと・・・。」
美由紀「大丈夫だよ、健ちゃん!美由紀に考えがあるもん。」
児玉「?」
美由紀「来てほしくない人には招待状を出さなきゃいいんだから!」
児玉「そういう問題では・・・。」
美由紀「資材課の皆さん全員にはちゃんと招待状、送りますね。」
静香「あはは・・・。」
児玉「(呆然)」
大山「(児玉の肩を叩く)」
児玉「大山・・・。」
大山「苦労・・・してるんだろ?」
児玉「・・・いや、これでなかなか楽しいよ。」
大山「お前、本当はMだったのか?」
児玉「・・・違うと信じてる。」
美由紀「では、皆さん、さようなら。健ちゃん、行こう。」
児玉「・・・ああ。では、失礼します。」

   大山と児玉は視線を合わせ、お互いの友情に乾杯。

美由紀「(行きながら)ねえ、健ちゃん。明日、政府のお金でディズニーランド貸しきっちゃおうか?」
児玉「(行きながら)いや、それは無理だろ・・・。」

   美由紀と児玉は出て行く。

大山「(おもむろに)ああ・・・疲れた。」
静香「・・・うん。・・・本当に様々な出来事が起きちゃったな・・・。」

   大山は椅子に座る。
   静香は何か感慨深い表情。
   間。
   乃木は静香の雰囲気を悟り・・・。

乃木「(わざとらしく)あ、そういえば、『スパコンZ』の申請の件、児玉さんに聞いておかなきゃ!」
大山「は?もう申請したんじゃなかったんですか?」
乃木「本採用になるかどうか、聞いておきたいと思いましてね。」
大山「そんなのあとでも・・・。」
乃木「今から追いかければ間に合うだろうし、他に聞きたいこともあるから、ちょっと行ってきます!」

   乃木は静香に目配せして出て行く。

大山「(苦笑)課長・・・元気だな〜。俺はもう、心も身体も・・・。(テーブルに突っ伏す)」

   間・・・。
   静香はおもむろに・・・。

静香「あの・・・勝・・・さん。」
大山「・・・(起きて)はい?今・・・なんと?」
静香「いや・・・あの・・・勝さんって・・・。」
大山「(怯えて)なに?静ちゃん、なんか企んでる???」
静香「ムカッ!先輩、ご飯食べに行くよ!」
大山「何だよそれ!?」
静香「全部、先輩のおごりですからね!」
大山「はあ?なんで・・・。」
静香「つべこべ言わない!もう疲れてるんだから!」
大山「それは俺だって・・・。」
静香「いいから!(腕を引っ張る)」
大山「ちょっと、おい!」
静香「車、出しといてくださいね!」
大山「静ちゃ〜ん!?」

   静香は大山の背中を押して外へ出す。
   自分のハンドバックを持ってチケットを取り出し見つめ、またそれをしまいつつ出て行く。


〜終幕〜





 
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