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〜海ゆかば〜
作・演出  皆木達也
 



*登場人物*
夏野 愛海
佐藤 岬
藤井 寛太
北山 大吉
日高 武雄


*舞台設定*
太平洋の中央・マリアナ諸島。
グアム・サイパン・テニアンなどの島々が存在する。
その島々のひとつ、小さな島の小さな砂浜。
砂浜の周辺は岩場や熱帯植物などに囲まれ、ちょっとしたプライベートビーチの様相である。
舞台奥から段差を設け、砂浜の緩やかな傾斜を表す。
舞台中央にカバンがひとつ。
下手側に出入口がふたつ。
下手奥は島の中央に続く小道、下手前は砂浜から岩場、桟橋に続く。


〜シーン@〜

波の音が聞こえてくる。
舞台中央に夏野愛海が立っている。

愛海「青く青くどこまでも青く澄み切った青空。エメラルドブルーのどこまでも果てしなく広がる海。こんなに美しい景色を私は見ることが出来た。私の身体が時代の波に掻き消されようとも、この景色は残るのだ。願わくば・・・願わくば・・・。」
寛太「(声のみ)お〜い、愛ちゃ〜ん!」

愛海は声のほうを振り向く。
藤井寛太が変てこな機械を運びながら小道側から入ってくる。

寛太「愛ちゃん、ちょっとは手伝ってくれよ。」
愛海「あ、ごめんなさい。」

佐藤岬が小道側から入ってくる。

岬「(寛太に)何言ってるの!愛ちゃん、手伝わなくていいからね。」
愛海「え、いいんですか?」
岬「うん、いいの。自分が勝手に持ってきたんだから。」
寛太「こら、ちょっと待て。これは我が大学始まって以来の快挙となりうる大発明だぞ!」
岬「は?あんた、本気で言ってるの?」
寛太「当たり前だろ!そのために大学で何年研究してきたと思っているんだ!」
岬「(機械を押しながら)ただ単に留年していただけでしょうが!」
寛太「わ、バカ!押すなって!」

寛太はよろけながら辛うじて機械を下におく。

寛太「ふう・・・。」
愛海「(寛太に)先輩、大丈夫ですか?」
寛太「(岬に)危ないだろうが!中は精密機械なんだぞ!壊れたらどうしてくれるんだ!」
岬「どうせガラクタでしょ?」
寛太「な!?」
岬「どっかの倉庫に転がってた段ボールを引っ掻き回して集めてきたガラクタ。」
寛太「何を!?お前にその苦労がわかるのかよ!研究費は出ない、留年しているから仕送りもない、ないないづくしの俺の苦労が・・・。」
岬「でもガラクタでしょ?」
寛太「ガラクタって言うな!親戚のおじさんに頼み込んでやっともらうことができたんだぞ・・・。(泣き崩れる)」
岬「ああ、もう、うっとおしい。」
愛海「(機械を見ながら寛太に)先輩、気になってたんですけど、これなんなんですか?」
寛太「(輝く瞳で愛海を見る)!」
岬「ああ、愛ちゃん、相手にしないほうが・・・。」
寛太「さすが愛ちゃん!俺の研究を手伝ってくれるんだね!」
愛海「え?いえ、誰もそんなことは・・・。」
寛太「うんうん、わかっていたよ。家が近所で、小さい頃から面倒を見ていた頼りになる憧れのイケメンお兄さんに恩返しがしたくて、同じ大学に入学してきた君の気持ちは俺には手に取るようによくわかる!」
愛海「い、イケメン・・・。」
岬「イケてないメンズの略・・・。」
寛太「違う!略し方、間違ってる!」
岬「・・・。」
愛海「(苦笑)」
寛太「(愛海の手をとって)愛ちゃん、この世界初の快挙となる気象発生装置を我々の手で完成させようではないか!」
愛海「きしょうはっせいそうち?」
寛太「そう!この気象発生装置が完成すればありとあらゆる天気を自在に操れることになるんだ!」
愛海「・・・。」
寛太「よし!そうと決まれば準備だ!」

寛太は機械の用意を始める。

岬「(愛海を手招きして)愛ちゃん・・・。」

岬は愛海を寛太から遠ざけつつ。

岬「相手にしちゃダメ。わかるでしょ?」
愛海「え・・・。」
岬「(目で訴える)・・・。」
愛海「あ、はい。(苦笑)」
岬「あんなおバカなもの、わざわざ南の島まで来てやることじゃないのに・・・。さあ、愛ちゃん。バカはほっといて、せっかく海外旅行に来たんだから楽しまないとね。」
愛海「はい。」
岬「でも、愛ちゃん、こんな穴場、よく知ってたね。ちょっとしたプライベートビーチって感じじゃない?」
愛海「兄に教えてもらったんです。グアム・サイパンに遊びに行くならこの島に行かないと損するって。」
岬「そうなんだ。確かにこんなところ知っちゃったら観光客ばかりのところは嫌になっちゃうよね。」
愛海「はい。」
岬「ここって無人島?」
愛海「そうなんですかね?そこまでは・・・。」
岬「ま、いっか。遊ぼう!」
愛海「はい!」
寛太「組み立て完成!」
愛海・岬「あ・・・。」
寛太「よし、みんな手伝え!」

岬は無視して愛海を連れて桟橋側から出て行こうとする。

寛太「ちょっと待て!どこへ行く。」
岬「私たちは遊びに行くの。ね、愛ちゃん。」
寛太「遊び・・・。お前、俺たちが何をしにここに来たのかわかってるのか!?」
岬「遊び。」
寛太「研究!実験!」
愛海「(苦笑)」
岬「ひとりで勝手にやってなさい。」
寛太「ちょっと待ってくれよ。この研究成果が俺の卒業に深く深くかかわっていること、お前ならよくわかるだろ?荒井教授の助手なんだからさ!」
岬「あのね、そんな気象装置だか何だか知らないけど、もっとまともな研究したらどうなの?」
寛太「まともだよ、どこがおかしいんだよ?」
岬「・・・ねえ、あなたは何学部ですか?」
寛太「え?(誇らしげに)歴史学部日本史学科。」
岬「(頭を抱える)」
愛海「先輩・・・文系の学部だったんですか・・・知らなかった。」
寛太「そう、俺は根っからの文系人間。理数系は算数、理科ってよばれてるころから苦手・・・てへっ。」
岬「『てへっ』っじゃない!だったら自分の得意分野の研究すればいいでしょ!」
寛太「(ニヒル笑い)岬・・・わかってないな、お前は。」
岬「は?」
寛太「何もわかっちゃいない。」
岬「・・・。」
寛太「苦手なものに敢えて挑戦する・・・不可能を可能にする、これが、これこそが男の浪漫・・・。」
岬「・・・荒井教授がお情でも卒業させないのがよくわかるわ。」

愛海は寛太に近付く。

岬「ん?え?あいちゃん?」
愛海「藤井先輩・・・。」
寛太「なんだい、愛ちゃん。(歯がキラリ)」
愛海「私にお手伝いさせてください!」
岬「・・・ええ!?」
寛太「(驚いて)・・・本気かい?」
愛海「はい。」
寛太「(遠い目)・・・この先、辛く厳しい茨の道だよ。それでも君は付いてこれるのかい?」
愛海「はい!」
寛太「OK。よろしく頼むよ、シェイクハンド。」

寛太と愛海は握手する。
寛太は颯爽と機械の用意をし始める。

岬「愛ちゃん、ダメだって!あんなバカのこと、まともにとりあってはダメ。」
愛海「岬先輩!私は藤井先輩の言葉に感動してるんです。」
岬「愛ちゃん、熱・・・ない?」
寛太「愛ちゃん!」
愛海「はい、先輩!」
寛太「(紙コップを出して)これにマリアナ海溝の水を汲んできてくれ。」
岬「はあ?」
愛海「(紙コップを受け取って)水・・・ですか?」
寛太「この気象発生装置にはマリアナ海溝の熟成された海水が必要なんだ。重要なファクター・・・といったところか・・・。そのためにこの南の島まで来たんだ。」
岬「意味がわからない。それにマリアナ海溝の海水なんてどうやって用意するのよ!」
愛海「・・・。」
寛太「簡単だよ。(海を指差して)そこから汲めば万事OK。」
岬「は?」
寛太「ここはマリアナ諸島・・・その近くの、この海水もマリアナ海溝の海水ってことさ。」
岬「だったら海で繋がってる湘南海岸の海水だって一緒じゃない!」
寛太「・・・。」
岬「・・・。」
寛太「・・・(咳払い)とにかく、愛ちゃん・・・海水を。」
愛海「あ、はい。」

愛海は海水を汲む。
岬は呆れてカバンからお菓子を出して食べ始める。

愛海「(紙コップを差し出して)こんな感じでいいですか?」
寛太「OK、OK。」
寛太は海水を機械にセットする。

寛太「これで準備完了だ。俺の一世一代の研究の成果が今試される!」
愛海「はい!」
寛太「このスイッチを入れれば気象発生装置が作動する!あはははは〜!」
愛海「はい。えい。(スイッチを入れる)」
寛太「・・・。」
愛海「?」
寛太「ああ!愛ちゃん、何勝手にスイッチを入れてるんだよ!」
愛海「え?ダメ・・・だったんですか?」
寛太「こういうことはさ、開発者である俺にスイッチを入れさせるのが筋ってもんじゃないの?筋ってもんじゃないの?ねえ!?」
愛海「ごめんなさい・・・。」
寛太「(落ち込む)・・・。」
岬「それで、その装置は動いたわけ?」
愛海「・・・その気配はないですけど・・・。」
岬「(嘲笑)当然よね。」
寛太「装置が動くにはタイムロスがあるんだ。」
愛海「・・・。」
岬「・・・。」
寛太「動くまでにちょっと時間がかかるの!部品のせい!俺、悪くない!」
愛海「せ、先輩・・・。」
岬「(溜息)はい、研究失敗、留年決定。」
寛太「うわ!俺にとっての一番不吉な言葉を・・・。」
岬「もう諦めなさい。」

岬はお菓子の袋を機械に突っ込む。

寛太「岬!お前、これはゴミ箱じゃないんだぞ!」
岬「どうせ動かないんだからゴミと一緒でしょ。まったく・・・海外旅行に来てまで粗大ゴミを出すなんて・・・呆れてものが言えない。」
寛太「な!この・・・。」
岬「な〜に?言いたいことがあるならはっきりどうぞ。」
寛太「こ、き・・・く・・・。」

岬と寛太は対峙。
突然、機械から変な音が聞こえてくる。

愛海「あれ?」

愛海は変な音に気付き機械に耳を傾ける。
愛海「あの、先輩。」

岬と寛太は対峙中。

愛海「先輩!」
岬・寛太「何!」
愛海「!(恐る恐る)あの・・・機械・・・変な音がしてますけど・・・。」
岬・寛太「・・・え?」

暗転。
ドーンと爆発音。

愛海・岬・寛太「(悲鳴)!」


〜シーンA〜

爆発がおさまると三人は様々な格好で倒れている。

寛太「うぐぅ・・・。」
愛海「(咳込む)」
岬「いたたた・・・。」
寛太「みんな、大丈夫か?愛ちゃん、大丈夫?」
愛海「・・・はい、なんとか・・・。」
寛太「岬は・・・大丈夫、と。」
岬「大丈夫じゃないでしょ!」
寛太「ほら、大丈夫だ。(汗)」
岬「(頬ピクピク)・・・。」
寛太「ご、ごめん・・・。」
岬「キッ!(機械に近寄りつつ)こんなガラクタ、私がギッタンギッタンに成敗してやる・・・。」
寛太「(機械をかばいつつ)あ、待て、話せばわかる・・・。」
岬「大丈夫。寛太もすぐにグッシャグッシャにしてあげるから。(二コリ)」
寛太「その微笑が怖い!」
愛海「(岬に)岬先輩、みんな無事だったわけですから・・・。」
寛太「そう!そうだよ!あんなデカイ爆発だったのに傷ひとつない!」
岬「そういう問題じゃない。」
寛太「だから、目が据わってて怖いって!」
愛海「(機械を見つつ)爆発したはずなのに機械もそのままですよ。すごい・・・。」
寛太「え、ほんと?(機械を調べて)ほんとだ、壊れてない。壊れてないよ、岬さん。」
岬「大丈夫・・・すぐに壊れるから。(ニヤリ)」
寛太「壊すの間違いじゃないのか!?」
愛海「ん?あれ?」

愛海はふと何かのカバンを見つける。

愛海「(カバンを手に取り)カバン?」

寛太は岬に殺られそうになり愛海の後ろに隠れる。

愛海「わあ!」
寛太「愛ちゃん、助けて!」
岬「寛太・・・今日という今日は許さん。」
愛海「ちょっと先輩・・・。」
岬「愛ちゃん、ごめんね。そのまま動かないで。」
愛海「え?」
寛太「は?」
岬「(微笑)」
愛海「え?私もろとも!?」
寛太「人でなし!」

寛太と愛海は桟橋側に逃げて行く。
岬はそれを追いかけて行く。
間。
北山大吉が小道側から入ってくる。

北山「あれ・・・参ったな・・・。」

北山は必死に何かを探している。

北山「どこにいったんだろ・・・。(確認しながら)預かって、しっかりと肩にかけて、ここに来て、それから、それから・・・どこにやっちゃったかな???(絶望)」

北山はふと機械に気付く。

北山「あ?・・・なんだこれ?」

北山は機械に近付き不思議そうに見る。

北山「・・・すごい!こんな奇抜な機械は見たことがない!まさに、芸術だ・・・。(我に返って)は、こんな感動している場合じゃない。カバンだ!カバンを探さなければ!」

北山はバタバタと探し始める。
岬が桟橋側から入ってくる。

岬「何してるの?」
北山「え?(ビックリ)あ、あ、あが・・・。」
岬「(北山の驚きを見て)何?なんでそんなに驚いてるのよ。失礼な・・・。」
北山「あ・・・。(絶句)」
岬「お聞きしますが、怪しげな変な男と普通の女の子を見ませんでした?」
北山「・・・。」
岬「あれ?日本語が通じないのかな?ええと・・・キャンユースピークジャパニーズ?」
北山「日本人・・・。」
岬「え?日本人なの?なんだ、おどかさないでよ。こっちの人かと思った。」
北山「あなたは日本人ですか?」
岬「は?うん、そうだけど・・・。」
北山「・・・。」
岬「なに?」
北山「どうして・・・日本人がここにいるんですか?」
岬「え?どうしてって・・・観光に来てるんだけど。」
北山「観光・・・。(呆然)」

寛太と愛海が背中向きで桟橋側から忍び足で入ってくる。

北山「(それを見てビックリ)!」
岬「?(振り向く)」

岬は二人に気付き仁王立ち。

寛太「夏野上等兵・・・敵は追いかけて来ないか?」
愛海「はい、藤井軍曹殿・・・大丈夫であります。」
寛太「よーし、一息入れろ。」
愛海「ラジャー。」

寛太と愛海は振り向くと岬が立っている。

寛太「はわ!」
愛海「!」
寛太「敵襲!敵襲だ!」
岬「何が敵襲よ!」

寛太と愛海は逃げ回るが観念して土下座する。

寛太「すいません、ごめんなさい、許してください。」
岬「まったくもう!」
愛海「ごめんなさい。」

北山は三人の様子を不思議そうに見ている。

北山「あの・・・。」
三人「?」
北山「あなたがたは・・・もしや陸軍の方々ですか?」

三人は顔を見合わせる。

寛太「・・・は?」
岬「ええと、どういうこと?」
北山「いえ、今、陸軍の階級呼称をされていましたので。」
寛太「階級?」
岬「呼称?」
愛海「?」

三人は北山から離れた場所でひそひそ話。

寛太「岬、あれ、誰?」
岬「え?知らない。」
寛太「知らないって・・・お前、一緒にいたんだろ?」
岬「今、会ったばかりだし!」
愛海「あの、服装とか昔の人みたいですね。」
寛太「え?」

寛太はじっくりと北山を見る。

寛太「そういえば・・・。」
岬「ええと、お名前は・・・。」
北山「あ、申し遅れました!私は大日本帝国海軍一等水兵・北山大吉であります!(敬礼)」
三人「・・・。」

三人は顔を見合わせる。

寛太「ええと・・・。」
岬「あ、撮影!映画の撮影!」
愛海「ああ。」
寛太「なんだ、そっか、そうだよな。」
三人「あははは。」
北山「ええと・・・。」
寛太「(北山の肩を押して)あんたも早く言ってくれればいいのに。撮影でしょ?何?この島で撮影してるの?」
北山「あの・・・。」
岬「誰が出てるの?映画?テレビ?」
愛海「でも、最近、新しく映画を作ってるって聞いたことないですよ。」
寛太「撮影が終了するまで秘密にしとくんじゃないの?(北山に)ねえ?」
北山「ああ・・・わかりました。あなた方は陸軍の記録映画撮影隊の方々ですね。」
寛太「・・・え?」
北山「お勤め、ご苦労様です。」
寛太「いやいやいやいや・・・。」
北山「お国の為に良い映画を作ってくださいね。私も内地に帰ったとき『マレー作戦』を見たんですが、凄いですね。あの戦艦プリンス・オブ・ウェールズとかはどうやって撮影されたんですか?あれは模型ですか?私も海軍に入る前は模型作りの職人でありましたので興味津々なのです!」
寛太「(質問攻めに困り)ああ、そうなんですか、職人を・・・。」
岬「(寛太に)ちょっと・・・。(北山に)ちょっと失礼します。」
北山「(笑顔で)あ、はい。」

岬は寛太の腕を引き、三人で話す。

岬「(寛太に)ちょっとおかしくない?」
寛太「うん、まったく話が噛み合わない。」
愛海「お国の為に・・・って言ってましたよ。」
寛太「戦艦プリンス・オブ・ウェールズ・・・。」
岬「何それ?」
寛太「太平洋戦争が始まったときのイギリス東洋艦隊の新型戦艦だよ。」
岬「戦艦?」
寛太「うん、始まってすぐに日本軍が攻撃して沈めたんだ。」
愛海「北山さん・・・まるでその当時の人みたいですね。」
三人「(顔を見合わせる)・・・。」

三人は北山を見る。

北山「(会釈)」
三人「・・・まさかね。」
岬「あの・・・北山さん。」
北山「はい。」
岬「ええと・・・(寛太に)ちょっと。」
寛太「ええ?俺が言うの?」
岬「早く!」
寛太「いや、だって・・・。」
愛海「北山さん、今、何年ですか?」
北山「は?あ、はい。海軍に入って四年になります。」
愛海「そうじゃなくて、ええと・・・(寛太に)先輩、平成とかそういうの、なんて言うんでしたっけ?」
寛太「あ、ええと・・・元号、そう、元号。」
愛海「(北山に)元号。」
北山「(姿勢を正し)は、皇紀二六〇四年であります。」
愛海「こうき?」
岬「にせん・・・ろっぴゃく・・・(寛太に)ちょっと、どういうこと?」
寛太「皇紀二六〇四年・・・昭和十九年。」
愛海・岬「・・・。」
岬「昭和十九年!?」
愛海「・・・。」
寛太「北山さん、昭和十九年ですよね?」
北山「はい、その通りです。昭和十九年、恐れ多くも神武天皇御即位から二六〇四年であります。それが何か?」
三人「・・・。」
北山「しかし、驚きました。こんな無人島で日本人に会えるとは思いませんでした。そうですか、撮影隊の方々ですか。その奇抜な服装、荷物、そして機械類。そうじゃないかとは思っておりました。」
愛海「昭和・・・十九年・・・。」
岬「寛太、私、まだ信じられないんだけど・・・。」
寛太「俺も・・・。」

岬は何かに気付く。

愛海「岬先輩、どうしたんですか?」
岬「愛ちゃん、携帯。」
愛海「え?」
岬「愛ちゃんの携帯、たしか海外通話にしてるよね?」
寛太「ああ、そっか!」
愛海「・・・ああ!」
北山「?」

愛海は携帯を出す。

寛太「こんなこともあろうかと海外通話に登録しておいてよかった。」
岬「あんたがしてるわけじゃないでしょ!」
寛太「く・・・。」
北山「・・・。」

愛海は電話をかける。

愛海「・・・。」
寛太「どう?」
愛海「・・・ダメです、全然ダメです。音も何も・・・。」
寛太「あが・・・。」
三人「(落胆)」
寛太「まさかとは思ったが・・・俺たち・・・。」
岬「タイム・・・ス・・・リ・・・。」
愛海「・・・。」

三人は呆然。

北山「あの・・・。」
三人「・・・はえ?」
北山「あの、それ、なんですか?その手にされてるもの・・・。」
岬「え?ああ・・・。」
愛海「携帯です、携帯電話。」
北山「携帯・・・電話?・・・電話!?」
愛海「はい。」
北山「電話って、あの『電話』ですか?」
愛海「え、あ、はい。」
北山「見せてもらっていいですか!?」
愛海「え?あ、どうぞ。」

北山は携帯を受け取り、しげしげと眺める。

北山「これが・・・電話・・・。」
寛太「(力無く)ははは・・・。そりゃ昭和十九年に携帯電話なんてないよな・・・。」
岬「(力無く)まあね、驚くよね。」
北山「・・・内地ではすでにこんなものが開発されているんですか・・・。」
愛海「あの、北山さん。これは私たちの時代の・・・。」
北山「電話線は無くても平気なんですか?」
愛海「は?」
北山「無いということは、無電の技術の応用で、電波を送るための・・・。(ぶつぶつ)」
愛海「北山さん、そういうのに詳しいんですか?」
北山「あ、いえ、そこまで詳しくは。海軍に入る前に電話局に勤めていましたので。」
岬「・・・え?」
寛太「あんた、さっき模型作りの職人って・・・。」
北山「(携帯を返して)どうも貴重な品を見せていただきありがとうございました。」
愛海「あ、いえ、どういたしまして。」

北山がおもむろに空を見上げる。

愛海「(北山に)どうしたんですか?」
北山「・・・飛行機。」
愛海「え?」
寛太「ひこうき?」
岬「どこ?」
北山「右三十度、高角四十度。航空機一機。」
愛海「よく見えますね・・・。」
北山「こう見えても海軍に入る前は大日本帝国・野鳥の会の会員でしたから。」
岬「野鳥の会・・・。」
寛太「当時もあったんだ・・・。」
北山「皆さん!隠れて!敵機かもしれません!」
三人「え?」
北山「急いで!」
三人「ちょ、ちょっと!」

北山は三人を小道側に押し込む。
空を確認しつつ北山はポケットから迷彩布を取り出し、機械などにかけて、小道側に隠れる。
徐々に爆音が聞こえてくる。
何かの落下音。
爆発音。
徐々に爆音が遠ざかる。
北山がゆっくりと警戒しながら出てくる。

北山「行ったみたいだ。(小道の方に)皆さん、もう大丈夫ですよ。」

三人は驚愕しながら出てくる。

北山「(布を仕舞いつつ)引き返していきました、やはり敵の偵察機でした。隠れてよかった。・・・あれは艦載機だ。」
三人「・・・。」
北山「どうしたんですか?」
岬「今の・・・爆発・・・。」
北山「大丈夫ですよ、攻撃されたわけではありませんから。」
岬「そうじゃなくて!」
北山「は?」
岬「・・・。」
北山「偵察の帰りに爆弾を捨てていったんですよ。爆弾を積んだまま空母に着艦できませんからね、危険ですから。」
寛太「本物の爆弾・・・。」
愛海「・・・昭和十九年・・・太平洋戦争真っ只中のマリアナ諸島・・・。」

〜シーンB〜

北山「あ、そうだ、大事なことを忘れていた!」
愛海「え?」
北山「カバンを探さなきゃ!見つけなきゃ!」
愛海「カバン・・・あ、あの・・・。」
北山「では、失礼致します!(敬礼)」

北山は桟橋側から出て行く。

愛海「あ・・・。」
岬・寛太「(力無く手を振る)」

間。

岬「・・・どうして?」
寛太「あ?」
愛海「?」
岬「どうしてこんなことになったの?」
寛太「どうしてって?」
岬「なんで私たちが昭和十九年にいるのよ。私たちは平成、平成にいたのよ!どうして昭和なの!」
愛海「岬先輩・・・。」
寛太「平成十九年と昭和十九年・・・話にしちゃおもしろいな、あははは。」
岬「キッ!『あははは』じゃない!今、どうなっているのかわかってるの!」
寛太「いや、だってさ。」
岬「(何かに気付く)あ・・・。(機械を見る)」
愛海「・・・(岬に)先輩、どうしたんですか?」
岬「私たちは普通の生活を送り、普通に海外旅行に来て、この島に遊びに来た。」
寛太「いや、研究・・・。」
岬「それ!(寛太を指差す)」
寛太「・・・え?」
岬「ここまでの間にタイムスリップとして考えられる原因はただひとつ・・・。」
愛海「・・・気象・・・発生装置。」
岬「(頷く)」
愛海「・・・。」
寛太「・・・まさか〜。」
岬・愛海「(寛太を見る)」
寛太「・・・なんてことだ・・・。」
岬「(ゴゴゴ)か・ん・た・・・。」
寛太「あ・・・。」
岬「結局問題の張本人はお前か!」
寛太「いや、俺は、気象発生装置をだな・・・。これが原因かわからないし・・・。」
岬「(機械に近付き)これしかないでしょ!他に考えられる!?」
寛太「(汗)・・・。」
岬「(ため息)」
愛海「あの、岬先輩。気象発生装置が原因なら元に戻せばいいんじゃないですか?」
岬「え?」
愛海「(頷く)」
岬「ああ、そうね!」

岬は機械に近付く。

寛太「岬、乱暴に扱わな・・・。」
岬「(寛太を睨む)」
寛太「(汗)・・・。」

岬は機械のスイッチを入れる。
間。

寛太「うんともすんとも・・・。」
岬「・・・。」
愛海「今、平成・・・ですかね?」
寛太「ここじゃわかりづらいな・・・。」
岬「キー!(スイッチをガチガチ)」
愛海「岬先輩!」
寛太「ああ!バカ!壊れるから!」
岬「うっさい!」

スイッチがもげる。

岬「あ・・・。」
愛海「!」
寛太「あああ!お、お、お前!どうしてくれるんだ!俺の大事な研究品をぉぉ!」
岬「ちょっとした手違いよ。」
寛太「意味わかんねぇよ!(スイッチを抱えて)おおお・・・修理道具、持ってきてないのに・・・。」
岬「(咳払い)愛ちゃん、携帯、電話してみて。」
愛海「え?あ、はい。」
寛太「最初からそうやって確認すれば・・・。」
岬「自業自得。」
寛太「ひでぇ・・・。」

愛海は携帯を取り出す。

愛海「あ・・・。」
岬「どうしたの?」
愛海「・・・電源が・・・。」
岬「あいちゃん・・・。(悲痛)」
愛海「ごめんなさい・・・。」
三人「(溜息)」
愛海「あ、そうだ。(岬に)先輩、ボートですよ。」
岬「え?」
愛海「私たちが乗ってきたボート。ボートがあれば平成に戻ってきたことになるんじゃないですか?」
岬「そっか、そうだよね。」
愛海「私、ちょっと見てきます!」
岬「え、ひとりで?」
愛海「大丈夫ですよ。任せてください!」
寛太「うん、夏野上等兵、行って来い。」
愛海「はい!行ってきます!(敬礼)」

愛海は小道側から出て行く。

岬「ちょっと、愛ちゃん!」
寛太「ええ子や。」
岬「『ええ子や』じゃない!本来ならあんたが行くべきでしょうが!」
寛太「いや、だって、これ修理しないと・・・。」
岬「こんなものはね、叩けば直るのよ、叩けば!」
寛太「うわ、ちょっと待って!」

北山が落胆しつつ首をふりふり桟橋側から入ってくる。

北山「やっぱりない。」
岬・寛太「(ビックリ)!」
北山「そうだよな、あっちは行ったことないもん、あるわきゃない!」
岬・寛太「あ・・・あ・・・。」
北山「どこにいったんだろ・・・カバン・・・。」
岬「き、北山さん・・・。」
北山「あ、撮影隊の・・・ええと、お名前は・・・。」
岬「岬、佐藤・・・岬。」
北山「佐藤岬さん・・・と、藤井軍曹殿。(敬礼)」
寛太「いや、だから違うから。」
岬「・・・まだ昭和だ・・・。(岬はへたり込む)」
北山「は?」
寛太「いえ、何でもないです。」
岬「(寛太に)もう!あんたがこんな変な機械なんて作るから悪いのよ!(機械を壊そうとする)」
寛太「(岬を遮って)ああ、ちょっと待って!」
岬「待てといわれて待ったら女が廃る。」
寛太「意味がわからないけど、とにかく落ち着いて。」
北山「あの・・・。」
岬「何!?」
北山「あ・・・ええと、この機械なんですが、これは藤井軍曹殿が開発されたんですか?」
寛太「うん、まあ・・・。」
北山「そうだったんですか!このように斬新で奇抜で芸術的な機械を、藤井軍曹殿が・・・。(感動)」
寛太「え?」
岬「北山さん・・・?」
北山「最初にこの機械を見たときから素晴らしいと思っていましたが・・・そうですか、藤井軍曹殿が・・・。」
岬「北山さん・・・もしかして・・・そっちの人?」
北山「(寛太に)あなたは天才ですか?」
寛太「(北山の手を取り)北山さん!あなたは他の人とはどこか違うと思っていました。この気象発生装置の素晴らしさを一目で理解できるなんて!私の目に狂いはなかった。」
岬「どんな目よ。」

北山はスイッチがはずれているのに気付く。

北山「あの・・・これ?」
寛太「気付きましたか・・・そうなんです。壊れたんです、いや、壊されたと言うべきかな・・・。」
北山「壊された!?だ、誰に?」
寛太「この世でもっとも恐ろしく、凶暴な存在によって・・・。」
北山「何と言うことだ!そんな鬼畜な輩が存在するとは・・・。(握り拳)」
寛太「(岬を見てニヤリ)」
岬「く!」
北山「藤井軍曹殿!この私に是非修理のお手伝いをさせてください。」
寛太「北山さんが?いや、これは模型作りとはわけが違うんです。機械工学を結集した装置なんです。」
岬「何が機械工学よ。」
北山「あ、私、海軍に入る前に機械工学研究所で働いていた経験がありますのでお手伝いできると思います。」
寛太「え?」
岬「・・・。」
北山「はい、ですから少しはお手伝いできるかな、と。それにこのような斬新で奇抜な素晴らしい機械はそうないですからね。言うなれば、これはひとつの芸術作品といっても過言ではない。」
寛太「(北山の手を取って)是非、手伝ってください。」
北山「はい。」
岬「何、この二人・・・。」
北山「あ、そうだ。」
寛太「え?」
北山「・・・あの、実は皆さんにお聞きしたいことがあるのですが・・・この辺でカバンを見かけませんでしたか?」
寛太「カバン?」
北山「はい。(大きさを示しつつ)このくらいのカバンで、肩からかける仕様になっているカバンなのでありますが・・・。」
岬「無くしたんですか?」
北山「・・・くっ。(泣く)」
岬「あ・・・。」
北山「参謀殿からお預かりした大事な大事な、命よりも大事なカバンなのであります!」
寛太「そんな大げさな・・・。」
北山「大げさではありません!私の上官たる参謀殿からお預かりした大事なカバン、それは恐れ多くも大元帥陛下からお預かりしたものと同じこと!」
岬「だいげんすい?」
寛太「当時の天皇陛下のこと。」
北山「ああ・・・カバンが・・・カバンが・・・。(崩れる)」
岬「そんなに大事なカバンなんですか?」
北山「はい、参謀殿のお荷物の中でも一番大事なものであります。ですから内地からここに来るまで肌身離さず持っていたのに・・・参謀殿がこの私を、この北山大吉を信頼して預けてくれたのに・・・よりにもよってそのカバンを・・・。(泣く)」
岬「あの、北山さん。私たちカバンを探すのをお手伝いしましょうか?」
北山「え?」
寛太「(岬に)おい。」
岬「聞いちゃったらほっとけないでしょ?それに(機械を示して)修理を手伝ってもらうんでしょ?」
寛太「そうだけど・・・。」
北山「いいいんですか?」
岬「うん。(寛太に)ね?」
寛太「・・・はい。」
北山「ありがとうございます!この北山大吉、心から感謝いたします!」

〜シーンC〜

愛海が桟橋側から戻ってくる。

愛海「夏野愛海、ただいま戻りました。」
寛太「お〜。」
岬「愛ちゃん、おかえり。」
愛海「岬先輩、桟橋まで行ったんですけど、ボートがありませんでした。というより、桟橋自体が無かったです。」
岬「うん、そうだろうね。」
愛海「え?」
岬「(北山を見る)」
愛海「北山さん!」
北山「(笑顔で会釈)」
愛海「先輩・・・まだ昭和なんですね・・・。」
岬「(頷く)」
寛太「(苦笑)」
北山「?」
愛海「あ、そうだ。桟橋に行く途中でこんなもの拾ったんですけど。(肩に掛けていたカバンを出す)」
岬「・・・カバン?」
愛海「はい。」
寛太「北山さん、このカバン・・・。」
北山「・・・ああ!カバン!私のです!私のカバンです!」
愛海「そうなんですか?」
北山「ああ、カバン、カバン、カバン!(抱きしめて泣く)」
愛海「(北山にちょっとひく)」
岬「北山さんね、カバンを無くして探していたんだって。大事なカバンらしいから・・・。」
愛海「ああ・・・。」
北山「ありがとうございます!ありがとうございます!」
愛海「お役に立てて光栄です。」
岬「よかったですね。」
北山「はい!これでこの北山大吉の面目が立ちます。」
寛太「北山さん、そのカバンの中には何が入ってるの?」
北山「え?・・・知りません。」
愛海・岬・寛太「・・・え?」
寛太「あの、大事なカバンなんでしょ?中身、知らないの?」
北山「はい、知りません。私は参謀殿の従兵としてこちらにやってまいりました。参謀殿のお荷物の中に何が入っているのか、私は知る必要がないのです。何が入っていようとも、参謀殿のお荷物をしっかりと管理しておくのが私の任務です。」
岬・寛太「そうなんだ・・・。」
愛海「じゃあ、しっかりと管理できていなかったってことですね。任務失敗です。」
岬・寛太・北山「・・・。」
愛海「あれ?」
北山「うわ〜ん!(泣く)」

北山は小道側から出て行く。

岬「愛ちゃん・・・。」
寛太「時々、さらりと毒をはくよね・・・。」
愛海「え?あれ?」

北山がまた小道側から戻ってくる。

岬「北山さん?」
愛海・寛太「?」

北山は直立姿勢。
日高武雄が桟橋側から入ってくる。

北山「参謀殿!(敬礼)」
愛海・岬・寛太「え?」
日高「な!」

日高はピストルを取り出し三人に向ける。

三人「うわ〜!」
北山「(三人をかばって)参謀殿!お待ちください!」
日高「北山・・・。」
北山「この方々は日本人です!」
日高「日本人?」
北山「はい!」
日高「・・・君たちの名前は?」
寛太「藤井寛太。」
岬「佐藤岬です。」
愛海「夏野愛海です。」
日高「どうして民間人がここにいるんだ?」
寛太「それは・・・。」
北山「参謀殿!皆さんは民間人ではありません。」
日高「?」
北山「この方々は陸軍の・・・。」

三人は北山の口を塞ぐ。

北山「むぐ・・・。」
岬「ややこしくなるから黙ってて。」
愛海「あの、私たちは未来から来たんです、きっと。」
日高「未来・・・?」
愛海「はい、2007年、平成十九年の・・・。(何かに気付く)」
日高「2007・・・。」
岬「昭和十九年から六十年以上先の世界から来たんです。」
寛太「いわゆるタイムスリップということかな、と。」
日高「(呆然)・・・。」
北山「どういうことですか?」
寛太「そういうことです。」
北山「・・・ええと、皆さんは陸軍の記録映画撮影隊の方ではないんですか?」
岬「違います。」
寛太「(頷く)」
北山「違う?だって先程・・・。」
岬「北山さんの誤解です。」
北山「・・・つまり・・・日本人ではないと?」
愛海・岬・寛太「(カクン)」
岬「誰もそんなこと言ってないでしょ!?」
寛太「俺たちは正真正銘の日本人。」
北山「???」
日高「・・・。」
岬「いきなり『未来からやってきました』って言われて理解は難しいと思いますが・・・。」
日高「どうやって?」
岬・寛太「へ?」
日高「どのような手段で六十年以上先から来たのか?」
岬「あの・・・信じてくれたんですか?」
日高「話をすべて聞いてみないことには判断がつかない。」
岬「そうですよね。寛太、説明して。」
寛太「ええ?俺?」
岬「あんたのせいでこうなったんでしょ!」
寛太「・・・ええとですね、あの、私が開発したこの気象発生装置が原因だとは思うんですけど、これを動かしたら、ドカーンとなって・・・こういう次第になったわけでありまして・・・その・・・。」
日高「要領を得ない。つまり、その機械が原因で六十年後の未来から来た、と言いたいんだな?」
寛太「その通りです。」
日高「・・・。」
岬「あの・・・。」
日高「にわかには信じられん。」
寛太「ですよね。」
岬「私たちも信じられません。」
日高「不可能なことを消去して、あとに残ったものが、どんなにあり得そうになくても、それが真実なのだ。」
岬・寛太「はい?」
岬「ええと、どういうことでしょう?」
日高「この場合、君たちの言葉が真実ということだ。」
岬・寛太「?」
日高「北山。」
北山「は、はい!」
日高「便宜を図ってやれ。」
北山「は!(敬礼)」

日高は返礼して小道側から出て行こうとする。

愛海「(日高に)あの!」
日高「(振り向く)ん?」
愛海「あ・・・いえ、なんでもないです。」
日高「何かあったら私でも北山でも遠慮なく言いなさい。」

日高は敬礼して出て行く。

愛海「・・・。」
岬「愛ちゃん、どうしたの?」
愛海「え?いえ・・・。」
寛太「・・・。(何事か考えている)」
愛海「北山さん・・・今の人が参謀さん、ですよね?」
北山「はい。」
愛海「・・・。」
岬「愛ちゃん?」

愛海は小道側から出て行く。

岬「え?愛ちゃん、どこ行くの!?」
寛太「(何かに気付いて)あ!」
岬「え?」
寛太「そうだよ。今の参謀さん・・・。」
北山「参謀殿がどうしたのでありますか?」
寛太「どこかで見たことあるなとは思ったけど・・・似てるんだ。」
岬「似てるって?」
寛太「洋平さんに・・・。」
岬「誰?」
寛太「夏野洋平・・・十年前に亡くなった愛ちゃんのお兄さんに。」
岬「ええ!?」
北山「・・・。」

暗転。


〜シーンD〜

前シーンより少し時間の経過がある。
寛太が下手のほうを気にしながら機械をいじっている。

寛太「(軽いため息)」

北山が工具を持って小道側から入ってくる。

北山「持ってきました。でも、そんなに大した量はありませんよ。通信機の修理用で用意したものですから。」
寛太「ありがとうございます。(工具袋を見て)いえ、これだけあれば十分です。」
北山「こんな素晴らしい機械を作って工具を忘れてしまうなんて、藤井軍曹殿はどこか抜けているんですね。」
寛太「北山さんに言われると何故かすごく悲しくなるのはどうしてだろ・・・。」
北山「え?」
寛太「いえ、何でもありません。」

北山と寛太は機械を直し始める。

寛太「どうです?」
北山「外装はすぐに直ると思います。ただ、どうやって動かすかですね。」
寛太「何言ってるんですか、それは簡単じゃないですか。」
北山「え?」
寛太「スイッチを入れれば・・・。」
北山「いや、そうではなく、仕組みです。機械の中身。」
寛太「・・・(誤魔化しつつ)ですよね。さすが北山さん、よくわかってる。」
北山「恐縮です。」
寛太「(親指、決め!)」
北山「(機械を見て)しかし、皆さんがこの機械で未来から来たとは・・・。」
寛太「信じられないでしょ?」
北山「はい、信じがたい話ではありますが、皆さんが嘘をついているようには見えませんし・・・それに私はそういった空想世界の話が好きなんです。これでも空想小説家を目指したこともあったんですよ。」
寛太「空想小説・・・。」
北山「はい。『事実は小説より奇なり』とはよく言ったものです。」
寛太「(苦笑)」
北山「藤井軍曹殿、この機械ですが・・・。」
寛太「北山さん、その『軍曹殿』っていう呼び方、やめませんか?」
北山「どうしてです?」
寛太「どうしてって・・・俺は、あの、未来からやってきた普通の学生であって、軍曹とか、そういうのではないからさ。」
北山「学生???(寛太をマジマジと見る)」
寛太「・・・なに?何か問題でもありますか?」
北山「いえ、そんなことは・・・。」
寛太「・・・。」
北山「藤井軍曹・・・じゃなかった、藤井さんを見ていると、私が学生のとき、教練指導に学校に配属されていた軍曹殿に似ているんですよね。」
寛太「俺が?」
北山「はい。私は昔からドン臭くて、教練が苦手で・・・いつも怒られてばかりでした。(動きを交えて)『そんな突きでは銃剣の先にハエが止まるぞ!』とか『それで伏せたつもりか!尻に鉄砲玉を食らうぞ!』とか、それはもうきつくしごかれました。」
寛太「・・・。」
北山「教練でなぐられなかったことは一度もなかったかな。まあ、海軍に入ってからも似たり寄ったりでしたけど。(苦笑)」
寛太「教練・・・。」
北山「藤井軍曹・・・藤井さんは教練は得意でした?」
寛太「いや、俺たちの時代に教練はないから。」
北山「え?どうしてです?」
寛太「どうしてって・・・。」
北山「必修ではないんですか?」
寛太「俺たちの時代は学校の科目に軍事訓練なんてないんです。(苦笑)」
北山「そうなんですか???」

岬が桟橋側から入ってくる。

岬「(ため息)」
北山「あ・・・。」
寛太「岬、愛ちゃんは?」
岬「ずっと参謀さんと話してる。」
寛太「そっか。」
岬「愛ちゃん、すっごく幸せそうだよ。」
寛太「そうだろうな。愛ちゃん、お兄ちゃんっ子だったから。」
岬「私、知らなかった。」
寛太「ん?」
岬「愛ちゃんにお兄さんがいるのは知ってたけど、亡くなってるなんて・・・。」
寛太「まあ、あえて話す話じゃないからな。」
岬「そうだけど・・・。」
北山「藤井軍曹・・・じゃない、藤井さん・・・。」
寛太「もう軍曹でいいです。」
北山「すみません。その愛さんのお兄さんですが、藤井軍曹殿はお知り合いなんですか?」
寛太「ええ、家が近所で一緒によく遊んだり、勉強を教えてもらったりしたんです。」
北山「そうだったんですか。」
岬「十年前なんでしょ?亡くなったの・・・。」
寛太「まあね・・・。」
北山「どうして亡くなられたんですか?」
岬「うん、十年前とはいえ愛ちゃんのお兄さんだったらまだ若いよね?病気とか?」
寛太「それは・・・洋平さんは、亡くなったというか・・・行方不明になったんだ。」
岬「行方不明?」
寛太「うん。」
北山「どういうことですか?」
寛太「当時、洋平さんは海洋調査の研究の仕事をしていたんだけど、その途中、船が嵐か何かに巻き込まれて・・・それで行方不明に。」
岬「そんな・・・。」
寛太「すぐに辺り一体をかなり捜索したみたいだけど見つからなくて、おそらく亡くなったんだろうって・・・。」
北山「・・・。」
岬「・・・。」
寛太「愛ちゃん、いつも洋平さんのそばにくっついてたな・・・洋平さんが出かけるときとか『お兄ちゃん、行っちゃやだ〜』って、わんわん泣いてた・・・。」
岬「お兄さんが大好きだったんだね。」
寛太「うん。」
北山「その愛さんのお兄さんと、参謀殿が似ている・・・。」
寛太「うん、似てる。」
岬「そんなに?」
寛太「ああ。十年前の洋平さんとそっくりだ。」

間。

岬「・・・ねえ、北山さん。」
北山「はい。」
岬「参謀さんってまだ若いよね?私たちと同じくらい?」
北山「そう・・・だと思います。」
岬「参謀って、もっと年上の人がなるのかと思ってた。」
寛太「あの年で参謀・・・まあ、当時としても異例だろうな。」
岬「そうなんだ。」
北山「参謀殿は、こちらに来る直前に少佐に昇進されて、大本営から中部太平洋方面艦隊司令部に参謀として派遣された凄い方なんです。」
岬「少佐って偉いの?」
寛太・北山「偉いです。」
岬「なんで二人して言うのよ。」
寛太「それは常識ですもんね。」
北山「はい。」
岬「何意気投合してるのよ・・・北山さんより偉いんですか?」
北山「(首をプルプル)と、とんでもない!参謀殿は私なんて比較にならないほど偉い方です!」
寛太「そうだよ!少佐だよ?知らないにもほどがある。一等水兵と少佐では・・・。」
寛太・北山「月とスッポン!(決め!)」
岬「何なのよ、この二人・・・。(気を取り直して)ところで、機械は直ったの?」
寛太「・・・え?」
岬「(機械を指差して)それ。」
寛太「まだ・・・。」
岬「何やってるの、早く直してよね。」
寛太「な!元はといえばお前が・・・。」
北山「あの、機械はすでに直しました。」
岬「え?」
寛太「いつの間に???」
北山「壊れていたのはスイッチの部分だけでそれはすぐに治りました。あとはどういう仕組みで、何が原因で未来から来たのか調べないといけません。」
岬「・・・。」
寛太「そう!そんなんだよ、わかるか?」
岬「あのね・・・じゃあ、早くやりなさいよ。北山さんにばっかりやらせないで。」
寛太「・・・はい。」
北山「私のことなら心配ご無用です。このような素晴らしい機械に出会えただけでも光栄ですから。」
寛太「(北山の手を取り)北山さん、あなただけだ、わかってくれるのは・・・。」
岬「(溜息)」
北山「あ、そういえば参謀殿に通信機の用意をするよう言われていたんだ。藤井軍曹殿、私はこれから通信機の用意をします。原因の調査はその後でよろしいですか?」
寛太「OK。」
北山「は!では、行ってきます。」

北山は敬礼して小道側から出て行く。

寛太「これで先が見えてきたな。」
岬「え?」
寛太「俺たちの時代に戻れるかどうか。」
岬「まだわからないけどね。」
寛太「どうしてお前はいつもそう否定的なの?」
岬「私は可能性を言っただけ。」
寛太「かわいくね〜な〜。」
岬「キッ!かわいくなくて結構!」
寛太「まったく・・・。」
岬「それに・・・。」
寛太「ん?」
岬「愛ちゃんのこともあるし・・・。」
寛太「あ・・・。」
岬「愛ちゃんが参謀さんとお兄さんをダブらせてるなら、これ以上愛ちゃんが参謀さんと一緒にいると戻れることになっても・・・。」
寛太「別れが辛くなる・・・。」
岬「うん。」
寛太「だからって、『もう話すな、一緒にいるな』とは言えないだろ・・・。」
岬「そうだよね・・・。」
岬・寛太「(溜息)」


〜シーンE〜

愛海が桟橋側から入ってくる。

愛海「先輩!」
岬・寛太「!」
愛海「気象発生装置、直りました?」
岬「・・・愛ちゃん・・・。」
愛海「はい?」
岬「あの・・・ええと・・・。」
寛太「・・・。」
愛海「(機械に近寄り)あ、スイッチが付いてる。直ったんですね。」
寛太「はい、一応。」
岬「北山さんが全部やってくれたの。」
愛海「そうだったんですか。私もお手伝いしようかと思ってたのに。」
寛太「すいません。」

愛海は機械をいじる。
岬は寛太の腕を引いていく。

岬「ちょっと・・・。」
寛太「・・・ん?」
岬「愛ちゃんさ・・・。」
寛太「うん・・・。」

岬と寛太は愛海を見る。

愛海「(視線に気付き)どうしたんですか?」
寛太「あ、いや、なんでもないよ。」
岬「うん、そう。」
愛海「気象発生装置が直ったら、現代へ戻ることになるんですよね?」
岬「え?」
寛太「そうだね。」
愛海「そっか・・・。」
岬「愛ちゃん・・・。」
愛海「(苦笑)」

北山が通信機を持って入ってくる。

北山「あわわわ!」

北山はガクガクブルブル。

愛海「北山さん?」
岬「どうしたの?」
北山「(三人の顔を見て)・・・くッ!(泣く)」
岬・寛太「え?(困惑)」
北山「通信機が・・・通信機が・・・。」
愛海「通信機がどうしたんですか?」
北山「動かないんです!ああ、どうしよう、どうしよう!」
岬「北山さん、落ち着いて。」
北山「ああ・・・。」
三人「・・・。」
北山「こんなことなら無理にいじらなきゃよかった・・・。」
岬「ああ、無理に。」
寛太「いじったんだ。」
北山「はい。通信を傍受されないように改造しようと思いまして・・・。」
寛太「それはそれですごいね。」
北山「司令部と連絡をとる準備をしなきゃいけないのに・・・私は、私という人間はどうしてこういつもいつも・・・。参謀殿、申し訳ありません。北山大吉、この命を持ってお詫びさせていただきます。」
岬「・・・ええ?」
寛太「ちょっと!」

北山は両手で口鼻を押さえる。

北山「・・・。」
三人「・・・。」
岬「あの・・・北山さん?」
寛太「何してるの?」

北山は口鼻を押さえたまま悟った表情で三人に会釈。

岬「まさかとは思うけど・・・。」
寛太「それで死のうと・・・?」
北山「・・・。」

愛海は北山をチョップ!

愛海「えい!」
北山「ごは!(咳込む)」
愛海「ダメです、北山さん。」
北山「はい・・・苦しかった。」
岬・寛太「そうだろうね・・・。」
愛海「あの、北山さん・・・通信機ですけど、これ、使えませんか?(携帯を出す)」
北山「え?」
愛海「携帯も一応通信機ですよね。」

北山は携帯を受け取り呆然。

岬「愛ちゃん、いいの?」
愛海「はい。」
北山「いいんですか?こんな貴重なものを・・・。」
愛海「はい、使ってください。参謀さんに言われたんですよね?お役に立てるならうれしいです。」
北山「あ、ありがとうございます!」

北山は早速通信機に取り付け始める。

愛海「(笑顔)」
寛太「いくらなんでも携帯と昔の通信機じゃ、つなぐのは無理じゃないの?」
愛海「やっぱりそうですかね?」
岬「あれ・・・愛ちゃん、そういえば携帯の電池は・・・。」
愛海「え?」
寛太「そうだ!電池がなかったんだよね?」
愛海「・・・あ!そうだった!北山さん!あの・・・。」

北山はすでに携帯に配線をつなげ手動発電機のハンドルを回し充電中。

北山「・・・はい、何か?」
愛海「あの・・・それ?」
北山「あ、これは私が開発した簡易発電機です。」
寛太「発電機・・・北山さん、ほんとすごいね。」
岬「あんたとは大違い。」
寛太「な!」
岬「(嘲笑)」
愛海「ところで北山さん。」
北山「はい。」
愛海「(通信機を指して)それでどこに通信するんですか?」
北山「はい、サイパンの中部太平洋方面艦隊司令部に。」
愛海「サイパン?」
北山「はい。参謀殿と私は命令によりサイパンへ赴任することになっていますので。」
愛海「そうなんだ・・・。」
岬「なんでこの島にいるんですか?サイパンに直接行かないんですか?」
北山「今、この方面は戦の準備で大変なんですよ。ですから直接サイパンに行けず、この島で司令部からの迎えを待っているんです。でもなかなか来なくて、やむを得ず連絡を。」
岬「そうだったんですか。」
北山「よし!通信機完成!これで通信も傍受されず司令部と連絡がとれるぞ。」
岬「北山さんって本当に何者?」
愛海「すごいですね。」
寛太「・・・。」
岬「どうしたの?」
寛太「昭和十九年、夏のサイパン・・・。」
岬「え?」
愛海「?」
寛太「いや、なんでもない。」
北山「では通信機の準備が出来たことを参謀殿に報告してきます。」
愛海「北山さん、私が行きます。」
北山「え?あ、いや・・・。」
愛海「行ってきます!」
北山「ちょっと!それは私の仕事です!」

愛海と北山は小道側から出て行く。

岬「(苦笑)」
寛太「・・・。」

寛太は自分のカバンから観光資料(ガイド?)を取り出し読む。

岬「ん?どうしたの?」
寛太「(見て)・・・やっぱり・・・。」
寛太「1944年昭和十九年、夏・・・アメリカ軍がマリアナ諸島を攻撃、サイパン・テニアン・グアムを次々に占領。日本守備隊は玉砕した・・・。」
岬「・・・え、どういうこと?」
寛太「・・・北山さんと参謀さんが行こうとしているサイパンは、まもなくアメリカ軍の攻撃にさらされる。」
岬「ええ?」
寛太「そして、現地にいる日本軍は全滅するんだ。」
岬「全滅って・・・。」
寛太「・・・。」
岬「二人はこのこと知らないの?」
寛太「知るわけないだろ。これから起こることなんだから。」
岬「そっか、そうだよね。」

北山が小道側から入ってくる。

北山「愛さんは足がすこぶる速いですね。私には追いつけませんでした。」
岬「北山さん・・・。」
北山「はい?」
岬「ええと・・・なんて言えばいいの?」
寛太「え?俺に聞くなよ。」
北山「どうしたんですか?」
岬・寛太「あ・・・。」
岬「あのね、北山さん。北山さんと参謀さんは絶対にサイパンに行かなきゃいけないんですか?」
北山「え?あ、はい、そうです。」
岬「延期するとか・・・出来ない?」
北山「それは無理です。参謀殿と共にサイパンへ行くことが私の任務ですから。」
寛太「例えば、北山さんがこれから行こうとしているサイパンが、アメリカ軍とかに攻撃されるとしても行かなきゃいけない?」
北山「当然です。攻撃されるならなおさら急いでサイパンに行かないと。」
岬「危険じゃないですか?」
北山「危険でしょうね。」
寛太「だったら・・・。」
北山「危険はどこにいても同じです。内地にいようとも、サイパンに行こうとも、ここにいようとも。でも、大丈夫です。サイパンは我が国の防衛の要、難攻不落です。たとえアメリカの大軍が来ようともバッサバッサと薙ぎ倒して追い返して見せますよ!」
岬「でも、でもね・・・。」
北山「私は参謀殿と共に。」
寛太「北山さん・・・。」
北山「参謀殿は、私の命の恩人なんです。」
寛太「命の恩人・・・。」
北山「はい。」
岬「どういうこと?」
北山「二年前のミッドウェイ作戦のとき、私は整備兵として赤城に乗っていたんですが、当時司令部付将校だった参謀殿に助けられたんです。」
寛太「赤城に・・・。」
岬「?」
寛太「空母。」
岬「ああ。」
北山「アメリカの急降下爆撃にやられて、総員退艦命令が出たのに、飛行甲板でもたもたしていた私を狙って、敵の戦闘機が機関砲を撃ってきたんです。そのとき咄嗟に私をかばって・・・(動きを交えて)軍刀で一閃、機関砲の弾を弾き飛ばして助けてくれたんです。」
寛太「・・・マジ?」
岬「・・・すごいね。」
北山「それ以来、私は参謀殿の従兵としておそばに。ですから参謀殿が行くところサイパンであろうとどこであろうと、私は参謀殿について行く所存であります。」
岬・寛太「・・・。」

愛海と日高が小道側から入ってくる。

日高「北山、通信機の準備が出来たそうだな。」
北山「は!(敬礼)」
日高「何故夏野さんに報告を頼んだ?」
北山「え?いえ、それは・・・。」
愛海「私が勝手にやっただけです。北山さんは悪くありません。」
日高「そうですか。北山、以後気をつけるように。」
北山「はい。」

日高はポケットから紙片を取り出す。

日高「これを司令部へ打電せよ。」
北山「は!」
日高「敵さんに通信を傍受されるかもしれないが・・・。」
北山「あ、それなのですが・・・。」
日高「ん?」
北山「通信機材をお借りして取り付けましたので、敵に傍受される可能性はないと思います。」
日高「傍受されない?」
北山「はい。」

北山は通信機に取り付けられた携帯を日高に見せる。

愛海「私の携帯です。」
北山「携帯という名前の電話だそうです。」
岬・寛太「え・・・。」
日高「電話・・・。」

日高は携帯を手に取り見る。

日高「(ストラップが気になる)」
北山「遠い未来では電話もこのようになるんですね。」
愛海「はい。」
日高「・・・。」
北山「参謀殿?」
日高「ん?うん、そうだな。」
岬「あの・・・。」
日高「ん?」
岬「ひとつご相談があるんですけど・・・。」
日高「何かな?」
岬「サイパンに行くのを中止・もしくは延期しませんか?」
北山「まだ言ってるんですか?参謀殿と私は任務としてサイパンに派遣されたのです。中止や延期は出来ません!」
寛太「いや、でもね・・・。」
日高「どうしてそんなことを?」
岬「それは・・・。」
寛太「もしかしたらお二人が今から行くサイパンが、まずいことになるかもしれないかな・・・と。」
愛海「先輩、まずいことって?」
寛太「あ、いや・・・。」
北山「さっきも言ったじゃないですか。サイパンは我が国の絶対国防圏の要、難攻不落です。それに我が海軍の無敵の機動部隊がアメリカをコテンパンにやっつけますよ。」
日高「・・・。」
岬・寛太「あ・・・。」
日高「北山、汗をかいた。手拭を持ってきてくれ。」
北山「・・・え?」
日高「急げ、駆け足。」
北山「は!(敬礼)」

北山は小道側から出て行く。


〜シーンF〜

日高「・・・未来から来た君たちは、これから何が起きるのか、知っているのですね?」
岬「あ・・・。」
寛太「ええと・・・。」
愛海「?」
日高「北山は知りませんが、わが海軍の機動部隊は先日マリアナ沖で壊滅している。これによってマリアナの各拠点は孤立無援。大本営はサイパンの放棄を決定しました。俺の任務はそれを司令部へ伝えること。」
岬「それはどういう・・・。」
寛太「サイパンを見捨てる、ということ。」
岬「え?」
日高「・・・。」
岬「でも、だとすれば、そこに行こうとしている参謀さんと北山さんは・・・。」
日高「元より覚悟の上です。」
岬「そんな・・・。」
愛海「・・・。」
寛太「(意を決して)参謀さん、あなたが行こうとしているサイパンはこれから・・・。」
日高「(遮って)君たちはこれから起こることを知っているかもしれないが、俺たちは知らないのだ。未来を先に伝えてはいけない。例えこの先、俺たちに何が起ころうとも・・・。」
岬・寛太「・・・。」
愛海「・・・。」

北山は小道側から入ってくるが雰囲気に圧されて立っている。

日高「現有勢力のまま戦い、本土防衛の時間稼ぎをして、最後に到らば潔く玉砕せよ・・・死ぬ気で、ではなく必ず死ね、というのだ。これはもう、命令統率の限界を超えている。」
岬「参謀さん・・・。」
寛太「・・・。」
日高「すまない・・・言わでものことを言ってしまったな。」
三人「・・・。」
日高「ひとつ頼みごとをしていいかな?君たちが未来へ帰るとき、北山を連れて行ってはくれないだろうか?」
北山「!」
岬「え?」
寛太「それは・・・。」
日高「北山は見てのとおり、軍人としては非常に物足りない。しかし、誰にも負けぬ優しさと好奇心と探究心がある。それに手先が器用でね。戦争さえなければ、わが日本を代表する科学者か何かになっていただろう。」
三人「ああ・・・。」

北山はゆっくりと小道側に隠れる。

日高「俺は軍人として国のために命を捨てることに何の未練も・・・未練もないが、北山は、せめて北山だけでも・・・。」
愛海「・・・命を捨てる・・・どういうことですか?」
日高「?」
愛海「命を捨てるって、どういうことですか!?」
岬「愛ちゃん!」
寛太「あ・・・。」

北山は意を決して入ってくる。

北山「ただいま戻りました!」
岬・寛太「北山さん!」
北山「参謀殿、手拭です!どうぞ!」
日高「ああ。」
北山「新しい手拭ですので吸水性が心配でありますが、何とかなると思います。」
日高「ありがとう。」
北山「はい!」
日高「では、失礼する。」

日高は会釈して足早に小道側から出て行く。
愛海は日高を追おうとするが北山がさりげなく止める。

北山「さあ、皆さん。皆さんがどうやって未来から来たのか、今からその原因を説明いたします。さあ、さあ。」
愛海「・・・。」
岬・寛太「・・・え?」
岬「北山さん・・・。」
寛太「今、なんと?」
北山「ですから、皆さんが未来から来た原因を。」
寛太「わかったんですか???」
岬「いつの間に???」
北山「さきほど。」
岬「北山さん、ほんとすごいね・・・。」
寛太「ああ・・・。」
愛海「・・・。」
北山「(手帳を出して)ええと、この機械が空間を捻じ曲げて、効果を及ぼす範囲が半径約5メートル。作動させるときっちり六十三年分、時を移動します。」
寛太「ほう。」
岬「それで、タイムスリップした原因は何なんですか?」
北山「(お菓子の袋を手に取り)これです。」
岬・寛太「・・・え?」
寛太「お菓子の・・・。」
岬「袋・・・?」
北山「はい、この袋が影響を及ぼして、皆さんがここに来てしまったというわけです。」
岬・寛太「・・・。」
北山「はい。」
寛太「み・さ・き!結局張本人はお前だったのか!」
岬「そんな!北山さん、それは本当なの!?」
北山「間違いありません。」
寛太「散々俺のせいにしておいて・・・。」
岬「いや、だって・・・。」
寛太「俺が作ったものが誤作動を起こすわきゃない。」
岬「元はといえばあんたがこんなくだらないガラクタを作ったのがいけないんでしょ!」
寛太「何を・・・。」
岬「なに!」
愛海「今はそんな言い争いしてる場合じゃない!」
岬・寛太「あ・・・ごめんなさい。」
愛海「(寛太に)先輩!」
寛太「はい!」
愛海「さっきのどういうことですか?サイパンを見捨てるとかまずいことになるって・・・。」
寛太「あ・・・。」
岬「愛ちゃん・・・。」
愛海「教えてください!」
北山「・・・きっと、サイパンにアメリカ軍が攻めてきて、日本軍が玉砕する、ということじゃないですかね。」
岬・寛太「え???」
寛太「どうしてそれを・・・。」
愛海「・・・。」
北山「私たちは、もう二年半もアメリカと戦ってきたんです。そのくらいの予想はつきます。」
愛海「じゃあ、参謀さんと北山さんが行こうとしているサイパンは・・・。」
北山「とても危険です。危険というより、死にに行くということと同じことかもしれません。」
岬「北山さん・・・それを知ってて・・・。」
北山「軍人たるもの、負けるなどとは口が裂けても言えません!っと言うことです。(苦笑)」
愛海「そんな・・・それじゃ・・・参謀さんが命を捨てるとか、そう言ってたことはすべて・・・。」
北山「・・・。」
寛太「・・・。」
愛海「ダメ・・・ダメだよ。」
三人「・・・。」
愛海「死ぬなんてダメ!絶対にダメ!」
岬「愛ちゃん・・・。」
愛海「北山さん!サイパンに行かないようにはできないんですか!?」
北山「それは無理です。」
愛海「参謀さんも北山さんも死んじゃうかもしれないんですよ!」
北山「それが私たちの任務ですから。」
愛海「(絶句)」
北山「私は参謀殿と共に。」
三人「・・・。」
北山「(ポツリと)たとえ参謀殿が・・・。(気を取り直して)では、荷物の整理がありますのでこれで。」

北山は敬礼して小道側から出て行く。
間。

岬「説得は・・・無理みたいね。」
寛太「そうだな。」
岬「でも、このままじゃ・・・。(愛海を見る)」
寛太「・・・。」
愛海「(意を決して)よし!決めた!」
岬「愛ちゃん?」
寛太「決めたって、何を?」
愛海「あの二人を私たちの時代に一緒に連れて行く!」
岬「ええ!?」
寛太「ちょっと待って・・・。」
愛海「そうすれば、参謀さんも北山さんもサイパンに行かなくて済みます!」
岬「そうだけど・・・そんなことして大丈夫なの?」
愛海「え?」
寛太「ああ。ほら、よくあるじゃん。歴史とか、そういうのが歪んだりしちゃうって・・・。」
愛海「先輩、いまさら何を言ってるんですか!私たちがここに来ていること自体、すでに歪んでるんです!」
岬「それは・・・。」
寛太「そうだけど・・・。」
愛海「それに・・・参謀さんと北山さんをこのままサイパンに行かせるんですか?放っておくんですか!?」
岬・寛太「あ・・・。」
愛海「(涙を堪える)・・・。」
岬「愛ちゃん・・・。」
寛太「でも、どうやって二人を・・・?」
岬「連れて行くとすると、私たちも含めて五人全員がこの場にいないといけない。」
寛太「効果範囲が5メートルって言ってたしな・・・。」
愛海「ごちゃごちゃ言わない!強引にでも何でも、二人をこの場に連れてくるんです!」
岬・寛太「え?」
愛海「いいですか!?」
岬・寛太「は、はい!」
愛海「私は参謀さんを連れてきます。先輩たちは北山さんを連れてきてください!」
岬・寛太「ラジャー!(敬礼)」

愛海は小道側から走って出て行く。

寛太「・・・。」
岬「愛ちゃんって・・・あんなキャラだったっけ・・・?」
寛太「いや、そんなことは・・・。」

愛海が小道側からもう一度戻ってくる。

愛海「何やってるんですか!?急いで!」
岬・寛太「は、はい!(気を付け)」

岬と寛太は桟橋側から出て行く。
愛海は何事か思い海を見つめるが意を決して桟橋側から出て行く。
間。
日高と北山が小道側から入ってくる。

北山「参謀殿、待ってください!」
日高「・・・。」
北山「どういうことですか?従兵の任を解くって・・・。」
日高「そのままの意味だ。貴様はサイパンに来る必要はない。」
北山「どうして今更そんなことをおっしゃるんですか!私に何か落ち度が・・・。」
日高「(北山を見る)」
北山「いえ、落ち度は数え切れないほどありますが、でも、それは・・・。」
日高「北山・・・貴様はこのままあの三人と一緒に未来へ行け。」
北山「参謀殿!」
日高「・・・。」
北山「・・・それは命令でありますか?」
日高「いや、命令ではないが・・・。」
北山「では、お断りいたします。」
日高「北山・・・。」
北山「命令でないことに私は従いません。」
日高「・・・。」
北山「・・・。」
日高「・・・北山、命令だ。これは命令だ。」
北山「お断りいたします。」
日高「な!?」
北山「抗命いたします。」
日高「上官の命令に逆らうのか?」
北山「はい。」
日高「抗命罪は銃殺刑だぞ!」
北山「承知しております。」
日高「北山・・・。」
北山「たとえ敬愛する参謀殿の命令でもこれだけは聞けません!」
日高「北山!(軍刀を抜こうとする)」
北山「(目を閉じ姿勢を正す)」
日高「!?」
北山「参謀殿のお刀に助けられたこの命・・・参謀殿のお刀で死ぬのであれば本望です。」
日高「・・・北山。」
北山「・・・。」

日高は軍刀を納める。

日高「・・・北山。」
北山「(目を開け日高を見る)」
日高「・・・共に行くか?」
北山「はい!」
日高「お前というやつは・・・。」
北山「(笑顔)」
日高「・・・。」
北山「では参謀殿、私はすべての荷物を取りまとめておきます。」
日高「ああ。」

北山は敬礼して小道側から出て行こうとする。
愛海が小道側から走って入ってくる。

北山「(ビックリ)」
日高「・・・。」
愛海「はあ、はあ、はあ・・・。」
北山「愛さん・・・どうしたんですか?」
愛海「参謀さん・・・行かないでください。」
日高「・・・。」
愛海「サイパンに行かないでください、死なないでください。」

愛海は膝をつく。

日高「夏野さん!」
北山「!」
日高「北山、水を!」
北山「はい!」

北山は敬礼して小道側から出て行く。


〜シーンG〜

日高「大丈夫ですか?」
愛海「はい、久しぶりに全力で走りすぎました。」
日高「無理はいけません。」
愛海「大丈夫です。これでも陸上で鍛えてましたから。」
日高「そうですか、陸上を。」
愛海「はい。(笑顔)」

愛海は日高を見るも、兄の面影をそこに見出し正視できない。

愛海「参謀さん。」
日高「?」
愛海「参謀さんも北山さんも、どうして危険とわかっているサイパンに行かなければならないんですか?」
日高「・・・。」
愛海「どうして・・・。」
日高「それが私の任務だからです。」
愛海「任務・・・。」
日高「私へ課せられた責任と言ってもいいかな。これまで多くの仲間や戦友たちがこの戦争で死んでいきました。銃弾に倒れ、炎に焼かれ、餓えに苦しみ、病気に倒れる。それを間近に見てきた。私だけ、それを避けるわけにいかない。」
愛海「でもそれは、参謀さんに責任は・・・。」
日高「責任はある。」
愛海「え?」
日高「その場にいて、それにかかわり、そこで行動する。それだけで私には立派に責任というものがある。」
愛海「・・・。」
日高「サイレントネービー・・・。」
愛海「サイレントネービー?」
日高「『言い訳をしない』ということかな。」
愛海「あ・・・。」
日高「・・・。」
愛海「私の兄も、同じことを言ってました。愛海、言い訳をしてはいけないって・・・。」
日高「あいみ?」
愛海「あ、ええと、私の名前で夏野愛海。海を愛すると書いて愛海です。」
日高「海を愛する・・・。」
愛海「私が『でも・・・』とか『だって・・・』とか言い訳をすると、それでよく兄に怒られたんです。」
日高「お兄さんが・・・。」
愛海「・・・参謀さんは私の兄に似てるんです、とっても・・・。」
日高「私が?」
愛海「はい。最初に会ったとき、行方不明の兄が現れたのかなって・・・。」
日高「・・・。」
愛海「でも、そんなはずないですよね。兄は十年前に亡くなってるんです。参謀さんと兄は別人・・・。でも、それでも・・・参謀さん、お願いです。死なないでください。もう、こんなの嫌なんです。お願いします。」
日高「夏野さん・・・。」
愛海「・・・。」
日高「ええ、死にません。私は死にません。」
愛海「あ・・・。」
日高「(頷く)」
愛海「じゃあ、一緒に私たちの時代に来てくれますか?」
日高「・・・え?」
愛海「(頷く)」
日高「それは・・・。」

北山が水筒を持って小道側から入ってくる。

北山「参謀殿、水を持ってきました!」
愛海「北山さん・・・。」
北山「え?」
愛海「あの・・・先輩たちに、あの二人に会いませんでした?」
北山「いえ、会ってませんが・・・。」
愛海「使えない!」
日高・北山「え?」
愛海「参謀さん、北山さん。ここを動かないでくださいね。私は先輩たちを連れてきます。(桟橋側から行こうとする)」
北山「ええと・・・。」
愛海「(振り返って)絶対ここにいてくださいね!約束ですよ!」

愛海は桟橋側から出て行く。

北山「参謀殿、どういうことでしょう?」
日高「(ため息)おそらく、私たちを未来に連れて行く気なんだろう。」
北山「ええ!?」
日高「北山、その機械だが片道用に改造できるか?」
北山「え?あ、はい、すでにそのようにしてあります。」
日高「何?」
北山「はい。」
日高「さすがだな。」

岬と寛太が小道側から入ってくる。

岬「はあ、はあ・・・。」
寛太「ぜえ、ぜえ・・・。」
北山「あ、皆さん。」
岬「(北山を指差して)ああ!」
寛太「見つけた!」
北山「え、ちょっと!」

岬と寛太は北山を取り押さえる。

岬「もう、どこにいたのよ!」
寛太「こんなに走ったのは何年ぶりか・・・。」
日高「君たち・・・。」
岬・寛太「え?・・・ああ!?」
寛太「参謀さん???」
岬「二人ともいる!?」
寛太「ということは、ええと・・・。」
岬「愛ちゃんは???」
北山「愛さんは皆さんを探しに行きましたよ。」
岬・寛太「ええ???(へたり込む)」
日高「北山。」
北山「は!」

日高と北山は小道側から出て行こうとする。

岬「あ!」
寛太「ちょっと待ってください。」
日高「ん?」
寛太「あの、その・・・。」
岬「もう少し、ここにいませんか?」
北山「(日高を見る)」
日高「(苦笑)俺たちは君たちと未来へ行くことはできない。」
岬・寛太「えええ???」
岬「あの・・・どうしてそれを?」
岬「愛ちゃんとお会いしました?」
日高「ああ。」
寛太「愛ちゃんに聞いたんですか?」
日高「いや、正式に聞いたわけではないが、察しはつく。」
岬・寛太「あ・・・。」
日高「・・・君たちに頼みがある。」
岬・寛太「え?」
日高「北山、カバンを。」
北山「はい!」

北山は日高にカバンを渡す。

日高「(カバンを開け手帳を出して)これを彼女に、夏野さんに渡してほしい。」
寛太「え?」
岬「愛ちゃんに・・・。」

日高は手帳を二人に渡す。

日高「それでは。」
岬「ちょっと待ってください。それじゃ、愛ちゃんが・・・。」
寛太「参謀さんと愛ちゃんのお兄さんはすごく似ていて・・・。」
日高「ああ、夏野さんから聞いたよ。」
岬「だったら・・・。」
日高「だからこそ、私は目の前にいないほうがいい。」
寛太「・・・。(何かに気付く)」
日高「では、お達者で。(敬礼)」
北山「(敬礼)」

日高と北山は小道側から出て行く。

岬「寛太・・・。」
寛太「(唇を噛締めつつ)・・・。」

寛太は機械の用意をする。
愛海が桟橋側から入ってくる。

愛海「ああ、先輩!どこにいたんですか!」
岬「愛ちゃん・・・。」
愛海「あれ?参謀さんと北山さんは?」
岬「うん、ちょっとね。」
愛海「でも、これで安心しました。」
岬「愛ちゃん、ちょっと・・・。(岬は愛ちゃんの腕を掴む)」
愛海「はい?」
岬「寛太!」

寛太はスイッチを入れる。
機械から変な音が聞こえてくる。

愛海「え?先輩?何を?」
岬・寛太「・・・。」
愛海「え、待って!参謀さんと北山さんがまだ!」

愛海は行こうとするのを岬と寛太が押さえる。

愛海「やだ、離して!やだ!」
岬「愛ちゃん!」
寛太「・・・。」
愛海「参謀さん!北山さん!嫌!」

暗転。
爆発音。
しばらくして日高と北山が出てくる。

日高「・・・。」
北山「参謀殿・・・。」
日高「ん?」
北山「これでよかったんですか?」
日高「いいさ。」
北山「(頷く)」
日高「北山、その機械は廃棄するように。」
北山「は!」

北山は機械を持ち出て行こうとする。
日高はふと通信機が目に入る。

日高「北山・・・これは・・・。」
北山「あ、通信機・・・無事だったんだ。」

日高は通信機を持つ。

北山「参謀殿、私が。」
日高「いいよ。」
北山「は!」

北山は出て行く。
日高は通信機から携帯を取り出し見つめる。

日高「(海を見つつ)元気で・・・。」

日高は出て行く。
暗転。
爆発音。
三人は現代に戻ってきている。

寛太「いたた・・・。」
岬「(咳込む)」
愛海「(呆然)」
寛太「戻ってきたのか・・・?」
岬「どうかな・・・。」
寛太「あれ?気象発生装置がない。」
岬「ほんとだ・・・。」
愛海「どうして・・・どうして・・・。」
岬「・・・愛ちゃん・・・。」
寛太「(岬に首を振って制止)」
岬「・・・。」

岬と寛太は愛海を見守る。

寛太「岬・・・俺、桟橋を見てくる。」
岬「うん。」

寛太は出て行く。

岬「愛ちゃん・・・。」
愛海「・・・。」

岬は日高に渡された手帳を出す。

岬「参謀さんから・・・。」
愛海「え?」
岬「参謀さんが愛ちゃんに・・・って。」
愛海「(顔を伏せる)」

岬は手帳を愛海に渡す。

愛海「あ・・・。」
岬「(頷く)」

愛海は手帳を見つめる。
岬はゆっくりと出て行く。
愛海が立ち上がりゆっくりと手帳を開き見る。

愛海「・・・!」

愛海は息を呑み呆然。
愛海は手帳を読み始める。

愛海「青く青くどこまでも青く澄み切った青空。エメラルドブルーのどこまでも果てしなく広がる海。こんなに美しい景色を私は見ることが出来た。私の身体が時代の波に掻き消されようとも、この景色は残るのだ。願わくば・・・願わくば・・・。」

愛海は遠く海を見つつ・・・。


〜終幕〜




 
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