シアターリーグ > シナリオ > BACKRooM! >
 
BACKRooM!
作 ダニエル藤井
 


(年齢順)
安西多喜男:男
松本隆弘:男
店長:男
宮城はな:女(副店長)
深津春子:女
三井広一:男
潮崎ナオミ:女

はじけた女性客:女


音楽。音楽が消えていく。明転
場所は、とあるカジュアル洋品店のバックルーム(休憩室)。ダンボール箱や売り物の服などが雑多に置かれている。椅子とか机とかも置いてある。冷蔵庫なんかも置いてある。電話なんかも置いてある

深津が、思いっきり変なポーズで、冷蔵庫を睨んでいる。松本が部屋に入ってきて、それを見る。ビクっとなって固まる。間

松本:どうし…
深津:なぁぁぁぁぁい!
松本:え?
深津:なぁぁぁぁぁい!
松本:え、何が?

深津、冷蔵庫の中をごそごそとあさり始めて、さっきとはまた違う思いっきり変なポーズで固まる。三井が部屋に入ってきて、それを見る。ビクっとなって固まる。間

三井:(深津を指差して、松本に)え、どうした…
深津:なぁぁぁぁぁぁい!

松本、三井、ビクっとなる。深津、振り返って二人をにらむ。松本、三井、さらにおびえる

深津:松本さんですか!?
松本:え、え、何が?
深津:それとも、ヒロ?広一が食べたの?
三井:た、食べた?
松本:何を?
深津:わたしのなめらかプリン!

間。松本、三井、緊張からとけて休み始める

深津:ちょ、ちょっと、なんでスルー?
松本:だって、いつものことじゃん
三井:ですよね
深津:いつものこと?わたしの生きがい、パステルのなめらかプリンがなくなるのは、そんなに当たり前な小さなこと?
松本:先週もそんなことで騒いでたじゃん
三井:そうそう
松本:しかも、結局自分で食べてた
深津:あれは…ちょっと、ど忘れしてて…
松本:その前もなんか騒いでたじゃん
三井:そうそう
松本:そして、結局自分で食べてた
深津:でも、今日は違います!だって、わたし、朝一番に来て入れたもん。で、仕事してて、さっき昼休憩になって、ご飯食べて、さあ、デザートだ、ってわくわくしながら冷蔵庫開けて見たら…わたしの生きがいが
松本:プリンが生きがいって
深津:プリンじゃ、ありません。パステルのなめらかプリンです

三井:やっぱプリンじゃないですか
深津:ただのプリンと一緒にしないでくれる?
松本:なんか寂しいよねえ
深津:なにがですか?
松本:なんだかねえ
三井:甘いもの食べることしか幸せのない負け犬、って感じがします
深津:ねえ、ヒロくん、ちょっと言い過ぎなんじゃないかなあ

宮城、部屋に入ってくる

宮城:もう、うるさいなあ
三井:あ、副店長
深津:はなさんですか?わたしのなめらかプリン食べたの
宮城:なに騒いでるの?こんな、とあるカジュアル洋品店の休憩室で
三井:それは誰への説明なんでしょうか、副店長
宮城:春子ちゃん、もうそろそろ休憩終わりでしょ?売り場入ってよ
深津:まだ、あと五分あります
宮城:あんた、十分早く休憩入ったでしょ
深津:ぎくっ
松本:またさぼったんだ
深津:さぼってません!もう、仕事ないかなぁ、って思ったから…
宮城:今は仕事たっぷりあるから。行った行った
深津:…絶対、犯人見つけ出してやるから

深津、部屋を出て行く

宮城:またなんか食い物なくなったの?
三井:みたいです
宮城:自分で食べたの忘れちゃってんじゃないの?
松本:あ、やっぱ、はなちゃんもそう思う?
宮城:あの、その呼び方やめてください、って何度言えば分かるんですか?
松本:え、いいじゃん。俺、年上だし
宮城:わたし副店長であなたヒラでしょ?わたし正社員であなた準社員でしょ?
松本:えー、そういうこと持ち出すんだ。そういう立場的なこと言っちゃうんだー、はなちゃんも
宮城:クビにしますよ
松本:ごめんなさい、宮城さん
三井:松本さん、意外と権力に弱いですよね
松本:おじさんくらいの年になるとね、人生守りに入ってしまうのだよ
三井:なんか世知辛いっす

潮崎、高校の制服姿で部屋に入ってくる

潮崎:おはよーございまーす
宮城:ちょ、ちょっと、ナオミちゃん、なに、その格好
潮崎:すいませーん、部活から直で来ちゃったんで
宮城:制服で店出てくるな、って何度言ったら分かるの?
潮崎:ごめんなさーい。着替えてきまーす

潮崎、部屋の奥に入っていく。宮城、頭を抱える

宮城:反省の色ゼロだ
三井:副店長、お疲れですか?
宮城:ちょっとね
三井:肌のしみがいつも以上に目立ってますけど
宮城:…今日、月末会計だったから
三井:ああ、例の五時出勤ですか
宮城:店長と二人で売り上げ金確認して。もう眠い眠い
松本:あ、そういえば、店長は?
宮城:本社です
松本:なに?店長なんかトラブったの?
宮城:違いますよ
三井:3ヶ月ごとの定例会議でしょ。月末だから。ほら、うちの店長エリアマネージャーも兼ねてますから
松本:そうなんだ?
宮城:そうですよ
松本:若いのに。俺より年下なのに
宮城:で?店長になんか用ですか?
松本:いやあさ、来週のシフト変えてもらいたいなあ、って思ってたんだけど
三井:あ、あれですか?
松本:そうそう、あれ、あれ
宮城:なんですか?
松本:娘のさ、発表会があるのよ、劇の
宮城:劇?
松本:娘がさ、演劇部でさ、今度の日曜に発表なんだけど、休みにしてもらえないかなあ、とね
宮城:娘さんいくつでしたっけ?
松本:高サン。受験生のくせに部活なんぞに一生懸命になりやがって。しょうがないやつなんだよ
三井:でも、そこが好き
松本:そうなんだよねえ、そのひたむきさが、またかわいいんだよね
三井:松本さんにはもう無いですもんね、そういうひたむきさ
松本:…三井くん、最近言うねえ
宮城:松本さんも、もう休憩終わりですよ
松本:はいはい、じゃ、家族のためにもう一働きしてこようかな、と

松本、部屋を出る

宮城:松本さんの娘さん、なんて名前だっけ
三井:さぁ
宮城:大変だよねえ、あの年でリストラってねえ。家族持ちなのに
三井:確か、安西さんもですよね、リストラで家族持ち
宮城:ああ、そうだね

安西、部屋に入ってくる

安西:お疲れ様でーす
三井:あれ、安西さん
宮城:どうしたんですか?今日非番でしょ?
安西:いや、ちょっと。店長いますか?
宮城:今日、ちょっといないんですよ。本社出勤で
安西:ああ…定例会議?
三井:そういうこと
宮城:店長になんか用ですか?
安西:ええ、ちょっと。店長、今日ここ帰ってくるんですか?
宮城:さあ…電話で聞いてみましょうか?
安西:すいません

宮城、携帯を取り出して部屋の奥に入っていく

三井:最近、全然仕事来ないから、みんな心配してたんですよ
安西:いろいろ忙しくて。シフト外してもらってたんですよ

深津、忙しそうに部屋に入ってくる

深津:あ、安西さん
安西:あ、お久しぶりです
深津:あ、まさか安西さんが食べたんですか?わたしのなめらかプリン
安西:え?
三井:そんなわけないじゃないですか、安西さん今来たんだから
深津:そうかぁ…
三井:もう休憩ですか?
深津:まさか。あ、そうそう、ねえ、この前出たVネックのTシャツってもう在庫ない?
三井:メンズっすか?
深津:ううん、女もの
三井:どうですかねぇ。色は?

三井、深津、ダンボール箱をあさる

深津:赤。なんかどうしてもそれが欲しいって言うおばちゃんがいてさ、しつこいの。でも、ないもんはないよねぇ?
安西:先週末に安売りしちゃいましたからねぇ、そのTシャツ

潮崎、そのTシャツを着て出てくる

深津:あ、ちょっと、ナオミちゃん、早く売り場行って、人足りてないから
潮崎:はーい

潮崎、はけかける。深津、三井、安西、潮崎をゆっくりと見る

深津&三井:ちょっと待った!
潮崎:どうしたんですかー?
深津:ナオミちゃんそれ、どうしたの?
潮崎:なにがですかー?
深津:それ、着てるの
潮崎:あ、今日、仕事で着る服忘れてきちゃったんですよぉ。それで、更衣室にになんかこのシャツが在庫で一枚置いてあったからちょっと貸してもらおっかなぁ、って思って
三井:で、商品の在庫勝手に着ちゃったんだ
深津:脱げぇ!今すぐ脱げぇ!
潮崎:ええ?先輩セクハラですかぁ?
深津:いいから、早く着替えてこーい!
三井:ほらこれ着りゃいいから

三井、その辺に置いてあった商品を渡す。宮城が戻ってくる

宮城:安西さん、店長一回ここ来るって…
潮崎:ええー?でも、わたしこれ結構気に入って…
深津:黙れ!そして着替えて来―い!
安西:ナオミちゃん、こういう時は早く行くのが身の安全ですよ
潮崎:先輩たちこわーい

潮崎、部屋の奥に入っていく

深津:ああ、もうイラッイラする!あの子!

深津、机を激しく叩く。おびえる宮城

宮城:どうしたの?
三井:いや、ちょっと色々あって
安西:あ、で、店長来るんですか?
宮城:はい。あ、でも夕方くらいになるかもって
安西:そうですか。じゃあ、ちょっとここで待たせてもらいます

松本、部屋に入ってくる

松本:ちょっと、ちょっと!知らない間に売り場俺一人になってんだけど、どういうこと?
三井:あ、ぼくそろそろ休憩終わりだ
安西:わたしも手伝いましょうか?
松本:あらら、安西さん来てたの?
宮城:大丈夫です、本来人手足りてますから
深津:それに、今日非番でしょ?
宮城:はいはい、みんな行った行った
三井:あれ、副店長、今休憩入ったところじゃないっすか?
宮城:もういいや、今日は昼飯抜き
深津:そのうち死にますよ
宮城:体は丈夫なの
三井:逆にどこら辺がか弱いのかっていう…
宮城:三井くん、そんなに世界に敵を作ってどうする…

安西以外、そんなことをしゃべりながら部屋を出て行く。一人残された安西。息をついて休憩室を見まわす。売上の入った手提げ金庫のところで視点が止まる。挙動不審。出入り口から誰も入ってこないのを確かめて手提げ金庫に手をのばす。そこに潮崎が着替えて戻ってくる

潮崎:なにやってるんですかぁ?
安西:(ひどくビックリ)!い、いや、なんでも…
潮崎:そうですかー

深津、入ってくる

深津:ナオミちゃん、早くTシャツ貸して!
潮崎:はーい。これ気に入ってたのになぁ
深津:早く、来る。レジ入って!

深津、潮崎、はける。安西。大きく息をつく。再び手提げ金庫に手を伸ばし、開け、金を抜き取り、ポケットにねじこむ。足早に部屋を出て行こうとする。すると、部屋の電話が鳴る。驚いて、電話の前で出るかどうか迷う。そこに宮城が入ってくる

宮城:あ、すいません、ちょっと出てもらえません
安西:あ、はい

宮城、なんか仕事してる。安西、受話器を取る

安西:はい、もしもし…はい、あ、店長…はい…あ、そうですか、分かりました。はい

受話器を置く

宮城:店長、なんですって?
安西:会議が早く終わったので、もうすぐ帰ってこられそうだって
宮城:そうですか、良かったですね
安西:はい…

宮城、慌ただしく部屋を出て行く。安西、考えた末、金を金庫に戻そうとするが、そこに潮崎を引きずって深津が入ってくる。安西、慌てて金庫から離れる

深津:こぉの、どあほ!
潮崎:先輩こわーい
深津:どあほ!ぼけなす!
安西:どうしたんですか?
潮崎:先輩こわーい
深津:なんとか言ってやってくださいよ、どうしようもないですよ、この子
潮崎:先輩こわーい
深津:オウムか、お前は!

宮城が入ってくる

宮城:今度はなにー?
安西:なにかミスでも?
深津:ミスなんてもんじゃないですよ。レジでお釣り900円のところ9000円渡しちゃったんですよ、この子
宮城:うっそぉ!
安西:そりゃひどい…
潮崎:だってぇ、レジの表示にそうやってでたんだもーん
深津:それは、お前が打ち間違えたからだぁ!
安西:店長にばれるとまずいですね
宮城:ねえ、ナオミちゃん、レジの差額は絶対出しちゃいけないって言ったでしょ?
潮崎:聞いてませーん

宮城、ため息をつく

宮城:とりあえず、春子ちゃんは売り場戻って。レジ詰まっちゃってるから
深津:はーい…このどあほ!ヒキガエル!ドラえもん!

深津、出て行く

安西:ドラえもん…
宮城:もうしょうがないから、店長が帰ってくるまでに始末書書いときな、わたしも一緒に説明するから
潮崎:えー?店長こわーい
宮城:あんたがミスったんだからしょうがないでしょう!
潮崎:とりあえず、レジに8000円入れておいたら分かんなくないですかー?
宮城:あのねぇ、そんなことしたら、あんたクビなの。そんでもってあんたの教育係のわたしは3ヶ月減給なの
潮崎:あ、そうだ、これ使えばいいじゃないですかぁ

潮崎、金庫に近寄る

宮城:って、ほんと人の話聞かないな。あんたねぇ、それ店の売り上げだよ。それ使っちゃったらクビとかじゃなくて、警察に捕まるよ…ちょっと、壊さないでよ、それ開かないから、鍵かかってるから
潮崎:開きましたー
宮城:え?

開いている金庫。宮城、慌てて金庫を見る

宮城:え…!うそ…お金、入ってない
潮崎:えぇー、それじゃぁレジごまかせないじゃないですかぁ
宮城:ナオミちゃん、売り場行って松本さん呼んで来て
潮崎:えぇー、でもわたしのレジ…
宮城:いいから行きなさい!早く!
潮崎:先輩こわーい

潮崎、部屋を出て行く

宮城:なんで…どうしよう…
安西:お金、無かっ…たんですか?
宮城:はい…警察に連絡しないと…
安西:いや、警察は、もうちょっと様子見ましょうよ。なにかの間違いかもしれないし、ことを大きくしない方が
宮城:…ですね
安西:落ちついてください。今はあなたがリーダーなんだから
宮城:ですよね、わたしが慌てちゃいけませんよね
安西:そ、そうですよ

松本、潮崎が入ってくる

松本:どしたの、はなちゃん
宮城:すいません、ちょっと聞きたいんですけど
松本:あれ、つっこまない
宮城:昨日の売り上げ保管したのって松本さんですよね
松本:そうだけど?
宮城:その時、ちゃんと鍵かけましたよね?
松本:かけたよ、ちゃんと律儀に規則通り三井くんにも立ち会ってもらって
宮城:ナオミちゃん三井くん呼んで来て
潮崎:またわたしですかー?
宮城:行って
潮崎:…はーい

潮崎、部屋を出て行く

松本:どうしたの?ほんと
宮城:…これ

宮城、金庫を見せる

松本:!…うっそぉん…え、俺、違うよ!
宮城:分かってます。けど、だって鍵の番号知ってるの店長とわたしと準社の松本さんだけじゃないですか!

三井、潮崎、部屋に入ってくる

三井:お金なくなったって本当ですか?
宮城:三井くん、昨日松本さんの保管立会いしたんだよね
三井:はい、ちゃんと売り上げ全部入れてましたよ
松本:外部じゃないのかなあ。こういう鍵ってけっこうプロなら開けれるって聞くよ
宮城:昨日、わたしがちゃんと戸締りしたんです。警備システムだって異常無しだったし…
三井:月末会計
宮城&松本:え?
三井:宮城さん、今日の朝、月末会計したんですよね?
宮城:あ、そっか
三井:今日の朝には、ちゃんとお金入ってたんでしょ?
宮城:そう…だよね
松本:そうなの?
宮城:そうです!今日の朝には金庫の中に売り上げ金全部入ってました!
松本:じゃ、ますます不思議だなぁ…いつ無くなったんだろ
安西:あ、あの…
松本:どうしたの?安西さん
安西:すいません…こんな時になんなんですけど、わたし帰りますね
松本:え?帰っちゃうの?
宮城:でも、店長に話があるんじゃ…
安西:さっき、電話で急な用事が入っちゃって。店長には謝っておいてください、それじゃ
宮城:ちょ、ちょっと…

安西、急いで部屋を出て行こうとする。そこに店長が入ってくる

安西:あ…
店長:あ、安西さん、すいません、待たせて
宮城:あの、店長…
店長:どうしたの?みんなそろって。あ、そうだ、ちょうどいいから発表しとく。みんな注目!安西さん、昨日づけで準社員に昇進しました。拍手!

店長、1人で拍手

店長:…あ、あれ、なにこの空気?今日、みんなノリ悪いね
宮城:店長…それじゃ…
店長:これからは安西さんにも会計業務に参加してもらいます。金庫の番号は昨日教えましたよね?

一同、安西を注視

店長:なに、どうしたの?みんな
宮城:店長…今日、金庫に入ってた店の売り上げ金が紛失しました
店長:…は?…うそだろ
宮城:本当です…それで…

一同、安西を注視。店長も見る。安西、ポケットから札をぶちまけ土下座する

安西:ごめんなさい!
三井:安西さん…

深津が部屋に入ってくる

三井:安西さんが犯人だったんですか…

深津、みんなの顔を見渡す

深津:…あ!やっぱ安西さんだったんですか~?わたしのなめらかプリン食べたの!やっぱりな。なーんか怪しいなぁ、と思ってたんだよなぁ
宮城:…春子ちゃん、そうじゃないの
深津:え、違うんですか?あ!店長!まさか店長ですか?なめらかプリン食べた犯人!

一同、沈黙

深津:あれ、もしかして、今、わたし空気読めてない?
三井:気づくのがすごく遅いです

深津、後ろに下がる。再び沈黙

店長:どういうことですか?…説明してください。安西さん
安西:ごめんなさい…こんなことするつもりじゃなかったんです!
店長:じゃ、これはどういうことですか?

三井、落ちた札の中に、一枚の封筒を見つける

三井:あれ、これ…
松本:退職願?

一同、安西を注視

松本:なんでよ、安西さん…だって、準社員に昇進したんでしょ?

沈黙

安西:これ以上ここにいたら、みなさんに迷惑がかかるんです…
店長:現状以上に迷惑なことが思いつきませんが
宮城:店長…
安西:自己破産したんです、わたし…
宮城&深津&松本&三井:破産!?
安西:リストラされて、働き口が無くて、それでもここだけじゃやっていけなくて、借金が膨らんで…



安西:でも、破産したからってあきらめるような人間じゃないんです、やつらは。これ以上ここにいたら、借金取りがこの店にまで押しかけてくる。だから…



安西:お金を盗んだのは、本当にでき心です。申し訳ありません
宮城:安西さん…



店長:松本さん、このお金が無くなった売り上げ金の額と一致するか確認して下さい
松本:…あいよ

松本、金を拾い集める

店長:宮城副店長…警察に連絡してください。それと本社監査部の堂本さんにもです
宮城:
店長:どうしたんですか?
宮城:…分かりました

宮城、電話をかける

宮城:(会話の裏で)もしもし、お疲れ様です、名東店副店長の宮城です。あの、監査部の堂本さんにつないでいただきたいんですが…あ、そうですか…はい、分かりました、お願いします…はい、失礼します

一同、店長を見る

店長:安西さんのしたことは立派な犯罪です

一同、沈黙

宮城:堂本さんは今外出中で、おり返してもらえるそうです
店長:警察には?
宮城:まだ…です
店長:
宮城:あの…もうちょっと考えてあげてもいいんじゃないでしょうか?確かに、安西さんのしたことは犯罪だし、謝って許されることじゃない、けど……誰にだって、過ちはあるじゃないですか…
松本:俺もさ、安西さんの気持ち、わからなくないんだ。似たような境遇だし。だからって俺は金盗んだりしないけど…店長だってあるだろ、どうしようもない時にどうしようもないことしちゃうこと…それに…俺たち仲間じゃない
宮城:店長…



深津:あの…さ…。ねぇ、松本さん、お金、全部あったんですよね?
松本:あ、ああ…
深津:わたし、売り場にいたからよくわかんないんですけどぉ、つまり、こういうことでしょ?お金が無くなって…で、見つかった。それで、良くないですか?



深津:ちなみに、わたし、なにも知らないから。誰かが盗んだ、とか聞いてないから



松本:あー、俺も最近物忘れが激しくてさぁ、今何があったのかよく覚えてねえや
三井:あ、ぼ、ぼくも
宮城:…わたしも。なにも知りません



潮崎:えー?みんな、どうしちゃったんですかぁ?だって、安西さんがぁ…
宮城:ナオミちゃんはちょっと黙ってな
潮崎:先輩こわーい

電話が鳴る。宮城、出る

宮城:はい…はい、店長と代わります…堂本さんです

宮城、受話器を店長に渡す

宮城:店長…

店長、無視する。一同、店長を注視

店長:電話代わりました…はい…実は…

店長、一同を見る。そしてそらす

店長:店内で窃盗事件が発生しました

一同、ため息。落胆

店長:はい…盗まれたのは…店の…



店長:なめらかプリンです
一同:は!?
店長:当店のアルバイト店員が店内休憩室の冷蔵庫に保管していたパステルのなめらかプリンが紛失しました…そうです、なめらかプリンです。なめらかなやつです、パステルの…はい…しかし、本社からはどんなちいさなことでも業務上のトラブルは監査部に報告するようにと指示されているので…はい…しかし…あの…ですね…

店長、うんざりしてくる

店長:詳しいことは明日こちらからお伺いして報告します!それでは!

店長、受話器を置く。固まった一同を見渡す

店長:…あぁーっ!…
松本:店長、やっちゃった
宮城:店長、本社に行く時には、お供します
店長:頼むよ
安西:店長…
店長:それなりのことはしてもらいますからね

店長、退職願を破り捨てる

店長:とにかく向こう一ヶ月は鬼のように働いてもらいますから

安西、深深と頭を下げる

店長:で、結局誰なのさ、なめらかプリン食べたの。一応、俺、本社で犯人報告しなきゃいけないんだけど
松本:春ちゃんが自分で食べたと思う人!
一同:はいっ!

深津以外の全員手を上げる

深津:違うって!だから今日、朝一番に来て持ってきたんだってば、そんで…
三井:月末会計
一同:え?
三井:今日、朝一番に来てるわけないじゃないですか、店長たち、月末会計で5時出勤なのに
松本:そういや、そうだ
宮城:春子ちゃん?

一同、深津を注視

深津:あ、ごっめーん!それ、昨日のことだったぁ、今日、なめらかプリン持ってきてなかったぁ。あはははは、わたしバッカー、あはははっ…



店長:さ、みんな仕事、仕事

みんな動き出す。深津、せき払い

三井:なんか、春子さんってかわいそうな人ですね
深津:あれ?それはわたしにケンカを売っているのかな?
宮城:っていうか、もしかして今誰も売り場いないの?
松本:やばいじゃん、それ!

みんな、売り場に向けて動き出す。見知らぬ女性が入り口に現れる。一同、びくっ

女性:ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉ!どうして誰も店員がいないのぉぉぉぉぉぉ!

一同、固まる

松本:だれ?
女性:客よ!



女性:責任者を出しなさぁぁぁぁぁぁぁぁい!

…店長、そろりと逃げようとする

一同:店ちょぉぉぉぉ!

一同、店長を中心に動き出す、その瞬間にフリーズ。それと同時にノリのいい音楽がかかって、暗転


                                   完

*上演にあたって*
初演時には、エンディングで簡単なダンスをし、散らばっていた段ボール箱の底に「B・A・C・K・R・oo・M・!」の文字をそれぞれ書いて八人の登場人物で一つずつ持ち、横一列に並んでタイトルを作り、エンディングとしました。
ダンスはオープニングでやっても、省略してもいいと思います。


 
シアターリーグ > シナリオ > BACKRooM! >