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銀河のかたすみで
作 ダニエル藤井
 



登場人物

清水純子
大矢一広
近藤正夫
鳩ヶ谷香織
高嶋美樹
小山祐司

謎のおじさん



宇宙の様々な音がする。色々な曲やDJの声がごちゃごちゃと聞こえてきては消えていく。音が大きくなり、その中に携帯電話の着信音が聞こえてくる。宇宙の音や音楽は徐々に小さくなり、着信音だけが残る

Scene 1
舞台前面に照明がつく。どこかの路上。大矢一広がカバンやポケットから携帯電話を探しながら歩いてくる。立ち止まって取り出す

一広:はい、もしもし…あぁ…うん、今日の夜行でそっちに行くよ…え?…うん…ん?…もしもし…もしもし

電話が突然切れたようだ。一広、首を傾げて携帯電話をにらみ、携帯をしまう。ふと、手を空にかざす

一広:雪か…

となりで真っ青な服を着た謎のおじさんがラジオを聞いている。さきほどの色々な曲やDJの声がラジオから流れている。チューニングを合わせようとしている謎のおじさん。通りすぎようとする一広。ラジオの音質が多少安定して、「タイム・アフター・タイム」がかかる。ラジオのほうに振り向く一広。謎のおじさんと目が合う。目をそらして行こうとする一広

謎のおじさん:ラジオ聞いてんだ!
一広:…は?
謎の:ラジオ聞いてんだよ、俺は!
一広:はぁ…すいません…え?

謎のおじさん、何事もなかったかのように再びラジオを聞き始める。一広、おじさんと同じように夜空を見上げる。オープニングかかる。一広、去る。謎のおじさん、客席に軽くあいさつをして、はける。暗転


Scene 2
緞帳上がる。明転。舞台はとある地方のローカルFMラジオ局。舞台下手にブースがあり、小さな机の上にマイクが2本置かれている。ブースの外にはミキサーデスクや、長い机、パソコンの置かれたデスクなどがある。奥に時計がある。ブースとの間には扉があり、舞台前面には大きな窓がある
近藤正夫、鳩ヶ谷香織、高嶋美樹がいる。美樹は双眼鏡で空を見ている。あとの二人も同じ窓から空を見ている。近藤は美樹のすぐ後ろにいる

近藤:(美樹の耳元で)何見てるの?

美樹、ひどく驚く

美樹:近藤さん!びっくりさせないでください
近藤:どうしたの?そんな真剣に
香織:もうミーティング終わっちゃいましたよ
近藤:ごめんごめん、道が大渋滞でさ
美樹:雪、やまないですかねぇ
近藤:すごいよねぇ、こんな大雪何年ぶりか
香織:もう三月なのにね
近藤:異状気象ってやつだね

一同、空を見上げる。純子が入ってくる

純子:ねむぅぅぅぅい!
近藤:おぉ、売れっ子DJのおでましだ
美樹:お疲れ様でーす
純子:ちょっと聞いてよ、一広、昨日十二時から打ち合わせでさ、その後深夜三時まで番組やって、終わった後スタッフの人たちと飲みに行って朝になってバイト行って夕方になってバイトの子と飲みに行って夜になってまた番組の打ち合わせして…マル一日寝てないんだよね
近藤:アル中みたいだね
純子:だからちょっと寝るね、お休み
香織:寝るな!
純子:あ、香織さん
香織:そんなとこで寝られるとすごく邪魔なんだけど
純子:えぇ?
香織:出てってよ、生放送一時からなんだから
純子:だって、そこに局長いるんですよ?局長に見つかったらまたなんか長話の相手されられるんですよ?
近藤:ああ、あのブタゴリラ
純子:あ、似てる、ブタゴリラ
香織:良いじゃない、どうせ局長に気に入られてDJになったんだから
純子:は?
香織:どんな風にごますったら、スタッフのアルバイトがDJになれるんだか
純子:なにそれ!
近藤:まぁまぁ
純子:あれ、一広、いないじゃん
美樹:今、気付いたんですか?
純子:休み?
美樹:え…純子さん・・・
近藤:(すぐに)うん、多分ね
純子:なんだ…ねぇ、なんでわたしあんなに嫌われてんの?
近藤:誰に?
純子:香織さん。この番組でバイトしてる時から妙にきついんだけど
美樹:別にそんなことないと思いますけど
近藤:そういえば、田所くんもまだ?
香織:今日、風邪で休みだそうです
近藤:え、じゃ、俺のアシスタント誰がすんの?
純子:あ、わたしやります!
近藤:え?
純子:ねぇ、良いでしょ、香織さん、人手足りないんだから、ここいさせてくださいよ
香織:勝手にして
美樹:純子さん二時から本番じゃないんですか?
純子:良いの良いの、もうミーティング終わっちゃったし
近藤:純子ちゃん、機材使えたっけ?
純子:もちろん
香織:あ、あと、近藤さんには言ってあったと思うけど、今日のゲスト、キャンセルになったから、今日はゲストなしなんで
近藤:あれ、そうだったっけ?
香織:先週言いましたよね
近藤:そういえば聞いたような気もする
香織:頼みますよ、ほんと
近藤:あいあい
香織:放送事故なんか起こしたらわたし一発でクビなんだから。ったく、あのブタゴリラ、たかがケーブルテレビのラジオ局長になったからって、大統領気取りやがって

近藤、新聞を広げる

純子:それ、昨日のです
近藤:え?
純子:っていうか、もう十二時回ってるから、一昨日の
近藤:昨日の新聞どこ?
美樹:前の番組のスタッフとかが持ってっちゃったんじゃないですか?
近藤:あ、ねぇ、ピザ屋来なかった?
純子:ピザ?
近藤:来る途中に電話で注文したんだけど
美樹:多分まだ
香織:他のとこに頼めばいいのに
近藤:だって安いんだもん、あそこ。こんな深夜までやってるのあそこくらいしかないし
純子:ピザ屋変える前にこの番組のDJ変えた方が良いんじゃないですか?本番ニ十分前になってもDJがいないなんて
美樹:大丈夫ですかねぇ、こんな大雪で
香織:いつものことでしょ、どうせまた本番五分前くらいに来るって
純子:なめてんだよ、地方のローカルFMだからって。自分だって二三年前に面白くもない一発ギャグでちょっと売れただけの三流芸能人のくせに
近藤:でも、結構楽しみにしてるおばちゃんとかいるからね(客席に)「カルボナーラ田中の今夜もあなたにチェックイン…チェックイン…チェックイン(エコー)」。深夜にしては数字も良いし
美樹:結構いい声してますね
近藤:そぉ?
純子:(客席を見て)誰に言ってるんですか?

美樹、双眼鏡で空を見る

香織:さっきから何見てるの?
美樹:今日は星、見えないですかねぇ
純子:そりゃ見えないでしょ、だって雪ふってるもん
美樹:300年に一度だったのになぁ
純子:は?なんの話?
近藤:そういえば、青森も雪とか大変そうだよね
純子:青森?
近藤:美樹ちゃんの実家
純子:え、出身青森だっけ?
近藤:だって、美樹ちゃん2004年度ミス津軽リンゴだもん
純子:そうなの?
美樹:まぁ
純子:ふぅん、
近藤:すごいよね、ミス津軽リンゴって
純子:あ、で、なんなの?300年に1度って
美樹:え、純子先輩知らないんですか?オッペケホッペケー彗星
純子:は?
近藤:なに、それ
美樹:え?香織さんは知ってますよねえ、オッペケホッペケー彗星
香織:知らない、そんな頭悪そうな彗星
美樹:えぇ、なんでみんな知らないんですか?
純子:で?なんなの?それ
美樹:今日の深夜に、オッペケホッペケー彗星が地球に大接近して、北の空に大きく、青く、光り輝くんです
純子:へぇー
近藤:ほんとかなぁ
美樹:オッペケホッペケー彗星は非常に強い電磁波を発してて、地球に接近すると、地球上の色んな電波を混乱させるんです。例えば、電気で動く機械がおかしくなっちゃったり、地方のFM電波が、何千キロも離れたところで聞けるようになったり!
近藤:じゃあ、この番組が世界中に発信されちゃうかもしれないわけだ
美樹:もしかしたら!
純子:なんかめちゃくちゃうそくさいんだけど
香織:っていうか、名前、残念すぎない?その星
美樹:なんか、富山県のおじいさんが名づけたらしいですよ
純子:発見者日本人なんだ
近藤:しかも、おじいさん
美樹:それだけじゃないんですよ。オッペケホッペケー彗星は宇宙の電波を少しずつ吸収してて、その電波をまた少しずつ発信していくんです
純子:は?
美樹:だから、宇宙のはしっこで発信されてる電波とか、宇宙をずっと向こうまで旅していた何十年も前のラジオ電波を地球に運んでくるかもしれないんです
純子:ねぇ、そんな話どこで仕入れてきたの?
近藤:まさか、インターネットとかだったりして
純子:まさかぁ
美樹:…ダメですか?

一同、一瞬固まる。その後、仕事に戻る

美樹:なんですか!
純子:あのさぁ
香織:なんていうか、もうあきれて
美樹:インターネットをバカにするんですか?
香織:っつーか、その情報を全部鵜呑みにするあんたがバカだ
近藤:おお、毒舌
純子:この前もなんか、東京タワーは実は火星人のロケットだ、って話信じてわざわざ調べに行ったでしょ
美樹:あれは…まだ調査中です
純子:その前は、ジャイアント馬場はまだモンゴルで生きてる、ってやつ
近藤:それで整形して朝青龍になったって!
美樹:嘘だって証明できるんですか?
香織:こりゃ、もう救いようないや
純子:どっちにしろ、その窓からは見えないんじゃない?その、パープリン彗星
美樹:なんでですか?っていうか、名前かすってもない
純子:だって、その星北の空に見えるんでしょ?
近藤:このビル南向きに建ってるから
香織:あんたが今見てるの、南の空

一同、再び夜空を見上げる

美樹:あ、そっか!
純子:残念でした
美樹:わたし、ちょっと外見てきます!
近藤:あ、じゃぁさ、ついでに下のコンビニでなんか夜食買ってきてくんない?
美樹:えー
近藤:なんでもいいからさ、つまめるもの
美樹:ピザ頼んだんじゃないんですか?
近藤:だってこないんだもん、この雪で足止め食ってんだよ、きっと
純子:わたしタマゴサンド
近藤:あと、ついでに昨日の新聞も
美樹:香織さんは?
香織:わたし、いい
近藤:あれ、珍しい
香織:さっき、豪華フランス料理のフルコース食べてきたから
美樹:えぇー、いいなぁ
近藤:さては、男か?
香織:まあねぇ
美樹:え!香織さん彼氏いるんですか?
純子:早く行った行った
美樹:(小さくため息をついて)じゃ、いってきまーす

美樹、出て行く

近藤:俺もちょっとトイレ

一広、入ってくる

近藤:おぉ、一広くん
一広:お疲れ様です
純子:よっ

近藤、純子をちらりと見てから出て行く


Scene 3
一広:お前、ここにいたのか
純子:え、なんで?
一広:いや、局長が探してたから
純子:え、うそ
一広:話し相手がほしいんだろ
純子:うわぁ、やっぱここ出れないじゃん
一広:なんの話?
純子:わたし、今日、ここのADだから
一広:は?
純子:田所くんが休みだから、その代わりに
一広:なにそれ
純子:そういえば、あんた昨日も休んでたよね
一広:あぁ、ま、色々忙しくてさ
純子:バンドとか?
一広:まぁね
純子:どうしたの?そのカバン、旅行でもすんの?
一広:ちょっと、この後夜行で東京にさ
純子:この後?何しに来たの?ここ
一広:あぁ、これ、返そうと思って

一広、袋を渡す

純子:なにこれ
一広:お前に借りてたビデオ
純子:別に今日じゃなくても良かったのに
一広:一本レンタルの混じってたぞ
純子:うそ!
一広:相当延滞してる
純子:あちゃぁ…
一広:なんか、酒臭くない?
純子:あ、ばれた?
一広:のどに良くないからアルコールは禁止、じゃなかったの?
純子:ちょっとくらい飲んだって一緒だよ
一広:お前さぁ…
純子:あ、そういえば、修学旅行の時も夜行乗ったよね。ほら、新幹線が台風で止まっちゃってさ、乗り換えて。そんで近くの席にいたおじさんがラジオ大音量でかけててさ
一広:あぁ、あったあった。あれ、うるさかったよな
純子:それが結構好きな曲だったりしてさ、懐かしいねぇ
一広:お前さ、あの時、確かなんかものすごく臭いこと言ったよな
純子:は?
一広:「あ、星がきれい…ねぇ、一広、あの星からも、私たちの地球が、見えてるのかな」みたいな
香織:くさっ
純子:言ってませんよ!
一広:言ったよ
純子:言ってないって!万が一言ったとしてもそんな言いかたはしてないよ!
一広:見えるわけないよ、地球。恒星じゃないんだから、別に光ってないんだから
純子:ケンカ売ってんのか?

小山祐司が、必死に勢い良く入ってくる

祐司:お待たせしました!ギャラクシーピザです!
香織:あ、来た
祐司:来ました。遅れて申し訳ありません。雪でバイクがスリップしてしまって
香織:あ、そうですか
祐司:あの、こんなに遅れたことは、秘密にしておいて頂きたいんですが。店長が厳しいので、もしばれたら…
純子:もう分かったから、それ、ください
祐司:あ、はい!
一広:え、お前が頼んだの?
純子:いや、近藤さんだけど、いいじゃん、一口くらい
祐司:こちらご注文のペペロンチーノピザと、マルゲリータピザです!
純子:はい、ご苦労様

純子、ピザの箱を受け取って椅子に戻る

純子:いただきまーす
祐司:あ、あの…

祐司、箱を開けようとする純子の手をつかむ

純子:な、なんですか?
祐司:お代金をまだ頂いてないので
純子:あ、すいません…近藤さんいないからな
一広:立て替えといてあげたら?
純子:わたし頼んでないもん
一広:食べようとしたくせに
純子:あの、悪いんだけど注文した人が来るまで待っててもらえますか
祐司:はぁ
純子:トイレなんで、すぐ帰ってくると思うんで
祐司:分かりました
純子:そこら辺座っててください
祐司:失礼します

祐司、座る

一広:そういう適当なのやめた方が良いんじゃない?
純子:なにそれ
一広:お前、機材全然使えないだろ?
純子:うん
一広:うん、って
純子:いいじゃん、別に。だいたい近藤さん一人でもできるんだし
(上の会話と同時に)
祐司:あの、ここって(客席に)「カルボナーラ田中の今夜もあなたにチェックイン…チェックイン…チェックイン(エコー)」のスタジオですよね?
香織:ええ、まぁ
祐司:いやぁ、感激だなぁ、大ファンなんですよ、ぼく。カルボナーラさんは、今どこにいるんですか?
香織:まだちょっと

一広、驚く。近藤、入ってくる。祐司には気づかない。祐司、近藤を見て驚く

近藤:寒い寒い、あ、ピザ届いたんだ
一広:カルボナーラ田中まだ来てないの?

一広、自分の腕時計を、純子、部屋にかかっている時計を見る

純子:そうだよ、もう、本番二十分前だって言うのに

一同、固まる

香織:二十分前?
近藤:あれ、さっきも確か…二十分前、って…

一同、部屋の時計を凝視

一同:…止まってるぅぅぅ!!
香織:大矢君、今、本当は何時?
一広:十二時五十八分です
近藤:本番ニ分前じゃん!
香織:みんな、準備して!
純子:で、っでもカルボナーラ田中さんが

電話が鳴る。一同固まる

香織:なんか、すごくやな予感がする

純子、受話器を取る

純子:はい、こちら、キラキラケーブルテレビジョンのキラキラFM「カルボナーラ田中の今夜もあなたにチェックイン」製作部…
香織:長いっ!
純子:田中さん!?…今、どこにいるんですか?…え…そんな…ちょっと!

電話は切れたようだ。純子が、ゆっくりと受話器を置く

純子:大雪で、電車が止まって…間に合いそうにないって…

沈黙

香織:あ、星がきれい…
純子:現実から逃げないでください!
一広:本番1分前です!
近藤:DJいなきゃ番組始めらんないよ!
純子:だからあのスパゲッティ野郎嫌いなんだ
香織:だから、ピザハットにしようっていったじゃん!
一広:香織さん、話ずれてる
近藤:そうだ、純子ちゃん!
純子:え?
近藤:純子ちゃんが代わりにやればいいんだよ
純子:え、いやですよ!わたしはただADとして手伝いに来てるんですよ
近藤:頼むよ!ね?昔の仲間のよしみでさ
純子:そんな、急に…
近藤:ほら、香織ちゃんからも何か言ってよ

香織、ゆっくりと純子の前に近づく。微笑を浮かべて勝ち誇る純子

香織:…めっちゃむかつく!
近藤:香織ちゃん!
一広:本番30秒前!
香織:そうだ!近藤さん
近藤:へ?
香織:近藤さん、昔東京でDJやってたって言ってましたよね?
一広:そうなんですか?

祐司、激しくうなずく

近藤:だからなに?
香織:だから、近藤さんがカルボナーラの代わりにDJやるんです!
近藤:ええ?俺、カルボナーラの物真似なんてできないよ?
香織:別に真似しなくていいから、とにかくタイトルコールだけして、すぐ曲入るから
純子:誰が音出しするんですか?
香織:ADなんでしょ!
近藤:だって、カルボナーラ田中いないじゃん。タイトルに「カルボナーラ田中の」って入っちゃってるじゃん
香織:そこだけ、なんか適当に変えてさ
一広:10秒前!9、8、7、6…
近藤:無理だよぉ。曲終わった後どうすんの?
香織:それはその時考える!
祐司:ゴンさん、ファイト!
近藤:誰だよ、お前!

香織、近藤をブースに連れ込む。純子、意地を張るが、ミキサーの使い方が分からないでパニック。ラインをミキサーから抜いてしまい、愕然とする。祐司が純子の腕をつかみ、ラインを差し込み直し、ミキサーの前に座りインカムをつける

一広:5秒前!4、3、2、1…
近藤:無理だって!
香織:堪忍しろ!
祐司:曲入ります!

オープニングの音楽かかる。驚く純子。ためらう近藤。外から促す一同。音楽小さくなる。美樹がコンビニの袋を持って入ってきて、固まる。近藤、ピザの箱をチラッと見る

近藤:ぺ、ペペロンチーノ近藤の、今夜もあなたにチェックイン!チェックイン…チェックイン…(エコー)こ、今晩は、ペ、ペペロンチーノ近藤です。皆さん、お元気ですか?今日は、すごい雪ですねぇ。今日はちょっと事情で、カルボナーラ田中に代わって、このペペロンチーノ近藤がお送りします…
美樹:どうしてこんなことに…
祐司:ノリノリですね
一広:っていうか、やけくそかも
純子:(祐司に)っていうか、あなた誰
近藤:それでは、早速今日の一曲め…えー…一曲目でーす

曲かかる。近藤、レバーを下げてブースを出る


Scene 4
近藤:寿命縮んだよ
美樹:なにやってるんですか?カルボナーラ田中さんは?

美樹、コンビニの袋を机に叩き付ける

純子:タマゴサンド!
一広:大雪でこれないって。だからピンチヒッター
美樹:えぇ…
近藤:俺、ちょっとトイレ行ってくるわ

近藤、部屋をでかける

香織:待ちなさい!
近藤:なんだよぉ?
純子:逃げる気か?
近藤:違うよ!
香織:(祐司に)君、見張ってきなさい
近藤:なんだよ、それ
祐司:了解です、隊長!
近藤:誰だよ、お前!
祐司:え、ゴンさん、待ってくださいよぉ!…

祐司、近藤を追いかけて出て行く。一同、一息つく

美樹:どうするんですか?
一広:香織さん、取り乱しすぎ
香織:ちょっとさっきは自分見失っちゃって…
純子:あーあ…FAXじゃんじゃん来てる
一広:クレームの嵐ですね、こりゃ
香織:はぁ…
一広:うわ、これひどい、「ペンネームどんどこハム野郎。
純子:なんじゃそりゃ
一広:誰だお前、帰れ、くたばれ、お前の声なんて聞きたくもねぇ。このくそったれ野郎」
美樹:そこまで言わなくても…
香織:なんていうか、それペペロンチーノには見せない方がいい気がする
一広:同感です
香織:とりあえず、リクエストとかは昨日までに届いてたやつがあるでしょ?それでなんとかして、あとは曲多めにしてなんとかしのぐ
純子:いつものコーナーはどうすんですか?「カルボナーラ田中の一発ギャグ道場」は?「ペロッと解決お悩み相談室」は?
一広:しかも、昨日までに届いてるのって、全部「カルボナーラ田中さんへ」ってやつじゃないですか
香織:本人いないのにその葉書読めないか
純子:お便り無しの番組はまずいんじゃないかなぁ
美樹:「ペペロンチーノ近藤さん、始めまして!いつもと違ったのでビックリしたけど、わたし、ペペロンチーノ近藤さんの声も、とっても好きです!ピンチヒッター、頑張ってくださいね、ハート」

一同、あぜん

純子:うっそ…
美樹:…っなーんて、FAX来たらいいですけどね

一同、沈黙

美樹:な、なんですか?
香織:それしかないな
一広:俺も、それしかないと思います
美樹:なに言ってんですか?
香織:今、言ったの、すぐその紙に書いて
美樹:は?
一広:俺たちでお便り作って出すんだよ!
純子:それってつまりやらせじゃん
一広:背に腹は変えられない
純子:いいんですかぁ?
香織:やるっきゃねぇな
美樹:香織さん?
香織:絶対に番組やりきってやる。あのブタゴリラ見返してやる
一広:あの、香織さーん
香織:大矢くん、まだ時間ある?
一広:あ、えぇ、もうしばらくは
香織:どっかから時計借りてくるまでいてくれない?タイムキープしてほしいんだけど
一広:分かりました
香織:あと、近藤さん盛り上げてね
一広:盛り上げる?
香織:結構頑固だから、のせないと
一広:…分かりました、やってみます
香織:美樹ちゃんも分かってるね
美樹:はーい

近藤、祐司の声が聞こえてくる

近藤:トイレの中まで入ってくることないだろ
祐司:自分の任務なので

近藤、祐司、入ってくる。美樹、一広、机に覆いかぶさって偽お便りを隠す

近藤:なにやってんの?
香織:あ、近藤さん、もう曲あけちゃうから、ブース入ってください
近藤:入って、ったってなに喋るの?なんか緊張したら急に腹減ったよ、ピザピザ…

ピザに近づく近藤、防ぐ香織

香織:お便りすぐ渡すから、それ読んでその後はカルボナーラ…じゃなくて「ペペロンチーノ近藤の…
祐司:「一発ギャグ道場」!
近藤:出きるわけないじゃん、俺芸人じゃないのに
一広:大丈夫、きっとできる!
香織:いつもの寒い親父ギャグでなんとかなる!
美樹:普段はすべりまくってるけど、多分大丈夫!
近藤:ねぇ、誰に言わされてるの?
一広:あ、でも、ディレクターいなくなっちゃいますよ
香織:そっかぁ、ADが使い物にならないもんね
美樹:音とかキューとか、誰が出すんですか?
近藤:無理だよ、田所君いないんだもん
香織:大矢くんは?
一広:俺、機械苦手なんすよ
純子:それでもミュージシャンのささくれか!
美樹:…それ、端くれです
純子:端くれか!
一広:遅いよ
香織:(祐司に)君、ミキサー触れるんだね
祐司:え?
香織:さっき、ドサクサにまぎれて音出ししてたでしょ
祐司:あ、自分、小山祐司っていいます
香織:別に名前は聞いてないけど
祐司:実は、昔近藤さんの番組でラジオのADやってて
純子:うそぉ
近藤:うそぉ!
祐司:忘れたんですか?ゴンさん、コヤマン、と呼び合う仲だったじゃないですか
近藤:全然覚えてない
一広:一方通行な愛だな
香織:まだ配達残ってるの?
祐司:いや、ここで最後ですけど…
香織:もし良かったら手伝ってくれないかな
祐司:えぇ?
純子:そんな無茶な
香織:ADだったんでしょ?
祐司:いや、確かに1度でいいからキュー!出してみたいなぁ、とは思ってましたけど、そんな突然に…
香織:ピザの配達が遅れたこと、店に連絡してもいいんだけどなぁ



祐司:やります
近藤・一広・美樹:うそぉっ!
純子:性格わるぅ…
香織:これ、タイムテーブル…近藤さん中入って!

香織、近藤をブースの中に押し込む。祐司、ミキサーの前に座って、インカムをつける


Scene 5
祐司:曲あけます、ゴンさん、キュー!

快感に浸る祐司

純子:やる気あるんじゃん
近藤:あ、改めまして、今晩は。ペペロンチーノ近藤です…
一広:書けました
美樹:わたしも

香織、偽お便りをかき集めて、ブースの中の近藤に渡す

近藤:っで、では、お便り、いきたいと思います。ラジオネーム・トトロ大好きさんからのお便り

純子、吹き出す

純子:トトロ…

それを睨み付ける美樹

一広:でもそう簡単に騙されるかなぁ?
近藤:(だんだん盛り上がって行く)「ペペロンチーノさん、はじめまして今晩は。いつもと違ったのでビックリしたけど、わたし、ペペロンチーノ近藤さんの声も、とっても好きです!ピンチヒッター、頑張ってくださいね、ハート」
一広:(近藤に拍手しながら)騙されてるな
近藤:では、もう1通。ラジオネーム・恋するテディベアさんから

純子、一広を指差して笑う

純子:テディベア…
近藤:「ペペロンチーノ近藤さん、元気で良いですね。カルボナーラさん好きです。でもペペロンチーノさんはもっと好きです。近藤さん、ファイト!」ありがとうございます!頑張ります!お便りはFAXナンバー064−532−3939まで
一広:(拍手しながら)完全に乗っちゃったな
純子:超単細胞
美樹:なんか…かわいそう
祐司:すごいじゃないですか!ゴンさん!

近藤と祐司、お互いにガッツポーズ。一広も少し遅れてガッツポーズ

美樹:なんか、分かり合っちゃいましたね
近藤:では、最初のコーナーいきたいと思います。ペペロンチーノ近藤の、一発ギャグ道場!
香織:

祐司、慌ててボタンを押す。効果音が流れる

近藤:では、最初の1発目
香織:

祐司、ボタンを押す。効果音が流れる

近藤:そのギャグの内容は、笑えないよう

祐司、ボタンを押す。間違えてクイズの不正解音が流れる。驚く近藤

香織:違う!

祐司、別のボタンを押す。笑い声が流れる。一広・美樹も笑う

近藤:では、二発目

効果音

近藤:布団がふっとんだー!

笑い声。一広・美樹、さらに大げさに笑う。が、香織が、フェーダーを下げると同時に固まる。ブースの中の音が消えて、近藤は口パクになる

香織:ごめん、ちょっとめまいがしちゃって。音、お願いね
祐司:了解!

近藤の一人演技は続く

美樹:とりあえず一段落って感じですね
一広:近藤さんもやる気だし
純子:予想以上につまんないけど
香織:なんとかなるかな、これで

美樹、何気なくコンビニの袋の中にあった新聞を広げ、固まる

美樹:あ、あの!…なんか、恐ろしいもの見つけちゃったんですけど
純子:うわっ、タマゴまみれ
美樹:いや、そうじゃなくて

美樹、新聞のラジオ面を指指す。一同、覗きこむ

一広:「カルボナーラ田中の今夜もあなたにチェックイン。いつものコーナー、一発ギャグ道場、お悩み相談室の他、大物ゲストが登場…」

沈黙

香織:ゲストぉ!?
一広:(状況がつかめずに)どういうことですか?
美樹:ゲスト中止になったんじゃなかったんですか?
香織:なったよ、新聞の原稿も近藤さんに変えといて、って言ったのに…

一同、はっとして近藤をにらむ。それに驚いた祐司が誤ってフェーダーを上げてしまう

近藤:ジャイアン、飛んじゃイアーン!

笑い声。香織、怒涛の勢いでフェーダーを下げる

香織:あの野郎ぉぉ…
純子:新聞はまずいですねぇ
美樹:今から呼べるゲストとかいないですかね?
純子:いないでしょ、そんな安い芸能人
香織:わたし、他のスタジオ行ってスタンバってるのとかいないか探してくる
一広:俺、向かいのライブハウス行ってみます、あそこのオーナー知り合いなんで
香織:じゃ、美樹ちゃん、メッセージよろしくね
美樹:はーい

香織、一広、部屋を出て行く

祐司:曲入ります

近藤、ブースから出てくる

近藤:俺、ちょっとトイレ行ってくる
純子:またぁ?
近藤:緊張すると近くなるんだよ
祐司:自分も一緒に行きます
近藤:逃げないよ、今さら
祐司:任務ですから
近藤:今度は外で待ってろよ
祐司:ゴンさんなんで靴下はいてないんですか?
近藤:うるせぇ

ごちゃごちゃ喋りながら、二人出て行く

美樹:のんきなもんですねぇ
純子:ほんと

二人、偽お便りを書き始める

純子:そういえば、星見えたの?さっき。オッケーホッケー彗星
美樹:オッペケホッペケー彗星です。見えませんでした。やっぱりまだちょっと雪降ってて
純子:ふぅん

純子、本物のFAXの中から、一枚に目を留める

純子:あれ、これ、あんたが書いたやつ?
美樹:違うと思いますけど、なんでですか?

純子、美樹に紙を渡す

美樹:ペンネーム、ゆきこ「ペペロンチーノ近藤さん、今晩は。この番組は初めて聴きます。わたしは、高校二年生なんですが、仲の良かった友達がもうすぐ遠くに引っ越してしまいます、とても寂しいです。」へぇー
純子:まともなお便りも来るんだねぇ。それ、お悩み相談室行きだね
美樹:はーい…でも、この子の気持ち分かるなぁ
純子:え?
美樹:わたしも、中学の時転校したんですけど、友達と別れるのがつらくて泣いて泣いて
純子:ふーん
美樹:純子さんないんですか?そういうの
純子:ないかなぁ。特に。卒業式とかでも全然泣かなかったし。ほら、特別に仲のいい子とかいなかったからさ。そういう、別れの寂しさ、とか、遠く離れた誰かを想う、とか、わかんないかも
美樹:一広先輩とは高校の同級生だったんですよね?
純子:んん…だから?
美樹:…いや、別に


Scene 6
近藤と祐司が戻ってくる

近藤:君、近いよ
祐司:だって寒いじゃないですかぁ
近藤:いや、でも、すごく近いよ、君

美樹、さりげなく隠す。祐司、ミキサーの前に座る

近藤:何やってんの?さっきから。あ、ピザピザ、もう冷めちゃってるよ…
美樹:近藤さん、もうすぐ曲終わっちゃうから
近藤:え、でも、お腹減ったしさ…
美樹:(すごく怖く、ゆっくりと)もうすぐ、曲、終わっちゃうから
近藤:…うん

近藤、いぶかりながらブースの中に入る。香織と一広も帰ってくる

美樹:あ、どうでした?
香織:だめだね、全然。向こうも結構ぐちゃぐちゃで。こっちに構ってる余裕ない感じ

一広、戻ってくる

一広:ライブハウス、この雪で休んでるらしいです
香織:そっか、ありがと
一広:そこの階段で局長とすれちがいましたよ
香織:うそ、ブタゴリラ?
一広:「ゲストは中止になったんじゃなかったの?ブヒ」って
純子:ブヒ?
香織:なんて嫌味な
美樹:ゲストって、芸能人じゃないといけないんですかね?
香織:なにそれ、どういうこと?
美樹:いや、一般の人でも近所じゃ有名人とか、別に有名じゃなくてもこの地域で頑張ってる人とか
香織:そう言ってもねぇ
純子:いっそのこと美樹ちゃん出ちゃえば?
美樹:なに言ってるんですか?
祐司:曲あけます
香織:やっぱり正直に謝るしかないか
祐司:キュー!
一広:それが無難でしょ
近藤:さて、つづきましては、お待ちかねゲストの登場です
一同:はぁ!?
近藤:本日のゲストは…

近藤、気づいて固まる

一広:あ、フリーズした
祐司:どうしたんですか?タイムテーブル通りですけど
純子:やばい、放送事故
香織:え、わたしクビ?
一広:近藤さん、なんか喋って
近藤:えーっと、あのー…ゲストは…ですねぇ
香織:美樹ちゃん!
純子:マジですか
美樹:勘弁してくださいよ!
香織:美樹ちゃん、元ミス津軽リンゴなんでしょ?
一広:そうなの?
香織:その話すればいいじゃん!
美樹:で、でも、友達とかも聞いてるんですよ
香織:いいじゃん!人気者じゃん!
祐司:あ、あの、ぼくの実家のばあちゃんも今聞いてると思うんですけど…
純子:そりゃ良かったね
香織:ね、美樹ちゃん、お願い、今度なんかおごるから!
美樹:えぇ…
祐司:いや、だから、もし良ければぼくが…
香織:あんたはミキサーついてて!
祐司:はいっ
香織:一生のお願い!

間。一同、美樹に注目

美樹:…分かりました
香織:ゲストぉ!
祐司:ゲスト入ります!
近藤:お待たせしました、本日のゲストは…

香織、美樹をブースの中に押し込む。近藤、驚く

近藤:えー…この番組でアルバイトをしている、元ミス津軽リンゴの高嶋美樹さんです
美樹:こ、今晩は
純子:リスナーなんも興味ないと思うんですけど
香織:形が大事なの
一広:そういうもんかなぁ
近藤:えっとぉ…高嶋さんは、いつからここのケーブルテレビで働いてるんですか?
美樹:に、に、に、ににににににに…にんにん!
近藤:は?
美樹:あ、いや、あの、に、二ヶ月前からです
一広:がちがちだし
近藤:アルバイトですよね
美樹:は、はい。で、でももしかしたら今度、社員になるかもしれません
近藤:そうですかぁ、それはよかったですねぇ

沈黙。純子、どこかから、何かの紙を取り出す

香織:なんか喋って
祐司:なんか喋って
近藤:た、食べ物は何が好きですか
美樹:お、お、おおお、お母さん?
近藤:お母さん?
美樹:いや、あの、お、お茶漬け…です
近藤:そうですか
純子:(上と同時に)これ、渡してあげたら?
一広:なんだよ、それ
純子:ゲスト用の、「マシンガンクエスチョンカード」

香織、それをひったくる

沈黙。香織が近藤にカードを渡しにいく

近藤:あ、えーっと、休みの日とかはなにしてんの?
美樹:えっと、休みの日とかは、特に予定ないので、家でごろごろしながら、録画した昼メロまとめて見てます
近藤:昼メロ?
美樹:もしくは、家でゴロゴロしながら、録画した通販の番組、まとめて見てます
近藤:なんか、どっちにしろ、中年の主婦みたいな休日送ってるね
美樹:え?(ひどく動揺)
香織:余計なこと言うな!
祐司:余計なこと言うな!
近藤:あ、あの、(カードを見ながら)好きな色は?
美樹:やまぶき
近藤:好きな映画は?
美樹:「となりのトトロ」
近藤:好きな女優は?
美樹:加藤あい
近藤:好きな俳優は?
美樹:阿藤快?
近藤:好きなドラマは?
美樹:「牡丹と薔薇」!
近藤:座右の銘は?
美樹:「牡丹じゃなくてブタよ」!
近藤:あ、えっと、なんか趣味とかないんですか?
美樹:しゅ、趣味ですか?え、えーと…あの…昼メロと、通販と…あ、そうだ、あの、ほくろから生えてる長い毛とか抜くの好きです
近藤:は?
純子:何言ってんだ?あいつ
美樹:なんか毛抜く時のスッ、って感じが快感で
近藤:え、趣味ですよ?
美樹:趣味ですよ、いけませんか?
近藤:いや、別にいいですけど、趣味、ほくろから生えてる長い毛抜くことですか?
美樹:そうですよ、ダメですか?
近藤:いや、ダメじゃないけどさぁ
香織:話題変えて
祐司:話題変えて!
近藤:あ、えっとぉ…あ、そうそう、昔ミス津軽リンゴになったって言ってたよね?すごいよねぇ、ミス津軽リンゴだもんね
美樹:
近藤:ねえ、ミス津軽リンゴってさ、どうやって選ばれるの?やっぱリンゴとか食べてさ、PRとかすんの?「青森のリンゴ、あおもリンゴ!」みたいな、あはは…くだらねぇ、あははは…

一広、笑うふり

美樹:…(なんかぼそぼそ言っている)
近藤:え、なに?
美樹:ウソです…
近藤:…え?
美樹:ミス津軽リンゴ、ウソです

一瞬の沈黙

近藤:…ウソなの?
一広:うわっ
美樹:うそですよ。なんでそんなの信じてるんですか?
近藤:逆ギレ?
美樹:んなわけないじゃないですか、だいたいわたし青森出身じゃないんですよ?岐阜ですよ!岐阜!
近藤:知らないよ!だってだいたいなんでそんなウソつくんだよ!
美樹:だって、だって近藤さんが「美樹ちゃんは愛嬌あるけど、美人って顔じゃないよね」とかいうから、なんか悔しくて
近藤:俺、そんなこと言ってないよ!
美樹:言いましたよ!
近藤:言ってないって!
美樹:言いましたよ!男の人っていつもそう。言ったこととか約束したこととかすぐに忘れて、「俺、そんなこと言ったっけ?」とか、ほんとなに考えてんの!
純子:美樹ちゃん、なんかあったの?
一広:この前彼氏に振られたって
近藤:そんなこと言ってるけどなぁ、女だって勝手じゃないか!としこだって勝手じゃないか!
祐司:ゴンさん?
香織:としこ、誰?
一広:奥さんです
近藤:自分の意見ばっか押し通そうとして、人の話なんか聞いちゃいない。いびきがうるさいだの、靴下は自分で洗え、だの、がみがみと!
美樹:なにそれ、人の話聞いてないのはそっちじゃないですか!
近藤:話聞かないのはまゆみだろ!
香織:まゆみ、誰!
一広:娘さんです
近藤:人が一生懸命面倒見てきてやったのに、勝手に出て行きやがって!
美樹:あんたに面倒見られた覚えはない!
近藤:なんだと!
美樹:なによぉ!
香織:CM入れて!

祐司ボタンを押す。笑い声がかかる

香織:それじゃない!

祐司、慌てて押しなおす。CM、かかる。美樹、近藤、我に帰る。一同、頭を抱える。美樹、ブースから出てきて泣き崩れる。近藤も気まずそうに出てくる


Scene 7
香織:はぁぁ…
純子:ほとんど放送事故ですね
香織:どうしてこうなるかなぁ
一広:予想できなかったこともない
美樹:わたし、もうお嫁行けない!
純子:まぁまぁ、しょせん、ローカル放送だから

電話が鳴る

香織:またしてもすごく嫌な予感がする
純子:はい、もしもし、キラキラケーブルテレビジョンのキラキラFM「ペペロンチーノ近藤の今夜もあなたにチェックイン!」製作部…
香織:そして長いっ!
純子:あ…はい、分かりました、今、代わります…香織さん、局長から
香織:あのブタゴリラ…

香織、受話器を取る

香織:(豹変)はい、もしもし、お電話代わりました…いぃえぇ、ブタだなんて滅相もございません…いや、ましてやゴリラなどとは…はい…それは…はい、色々とハプニングがありまして…はい…はい、必ず最後まで番組を無事にやりきって見せますので、はい…あ、わっかりましたぁ、すぐ、そちらに…はぁい、失礼しまぁす

香織、受話器を置く

純子:ごますってんのはどっちだ
近藤:この後、どうするの?
一広:ゲストの次は、「今日のお天気」、その後は、「ペロッと解決お悩み相談室」ですね
香織:時間持つかなぁ
祐司:ギャグ道場と、ゲストコーナーが予定より早く終わっちゃったみたいですね

香織、近藤を見てため息をつく

近藤:俺のせい?
純子:そうでしょ、どう考えても
近藤:だって、ゲストが来なかったのは俺関係ないよ
香織:それをタイムテーブルに入れてたのは誰だ
近藤:…申し訳ない
一広:お便りいっぱい読んで時間持たすしかないですね
香織:わたし、局長室行って来るから
純子:怒ってるだろうなぁ、ブタゴリラ

香織、立ち止まる

純子:まぁ、しょうがないかぁ
香織:ねぇ…とりあえずぶっとばしていいかな
近藤:ちょ、ちょっと!

香織、純子に詰め寄る。とめる近藤と一広

香織:この小娘が!
美樹:うぁぁぁぁん!
一広:(純子に)お前なぁ
近藤:香織ちゃん、ここは我慢!

香織、振り切る

香織:あのさぁ、あんた、春の改編の話知らないの?
純子:へ?
香織:四月から「今夜もあなたにチェックイン!」は放送時間が十二時からになるの。それに会わせて「清水純子の今夜もあなたとテイクオフ!」も多分一時間繰上がるはず
純子:え!ほんとですか?
香織:でも!もしかしたらその話なくなるかもね、この騒動で!
純子:…香織さん、わたし、DJやっても良いですよ?
一広:遅いよ
香織:今さら代役から代役に変えられるわけないでしょ!カルボナーラ本人が来るならまだしも
純子:そんなぁ
香織:協力しろとは言わないけど、せいぜい邪魔しないでよ
祐司:CMあけまーす

香織、出て行く。近藤、ブースに入る

純子:おいおい、美樹ティしっかりしな、お便りつくんなきゃ
美樹:わたし、もう外歩けない
一広:顔見えてないんだから大丈夫だよ

美樹、泣きながらはける

一広:ちょっと美樹ちゃん?

一広、追いかける

純子:あーあ、ぐちゃぐちゃになっちゃって…この辺?

純子、机の上のファックスの束を適当につかんで、ブースの中の近藤に渡す

祐司:ゴンさん、キュー
近藤:ここで、また何通かお便りお読みしたいと思います。ラジオ・ネーム昼メロ大好きさんから。「わたしは牡丹と薔薇が大好きです。特に決め台詞の『牡丹じゃなくてブタよ!』という台詞が好きです。人生で一度は言ってみたいもんです」
なるほど、わたしの知り合いにも昼メロ好きの女の子がいますねぇ。その子は座右の銘が「牡丹じゃなくてブタよ!」だそうです。昼めろ大好きさんもそこまでじゃないですよねぇ

純子:(上と同時に)ったく、改編とか早く言えっつーの。あー、腹減った…

純子、ピザを食べようとするが、祐司に腕をつかまれる

祐司:お代金をまだ頂いていないので
純子:(振り払って)口で言えよ…(コンビニの袋の中を見て)うわっ…一広なんか食いもんもってないの?

純子、一広のカバンを開け、中を探る。ふと、一枚の写真を見つける

純子:あ…わたし?なんで一広わたしの写真なんか持ち歩いてんだろ…

一広、入ってくる。純子、写真をカバンの中に押し込む

近藤:続きまして、ラジオネーム・旅するラジオおじさんからのお葉書
一広:葉書?
純子:あれ、本物混じってたかな
近藤:「最近、何年も一緒に旅をしてきた犬のヨシオが突然いなくなってしまいました。飢え死にしていないか心配です」。そうですかぁ、それは心配ですねぇ。でも、きっとヨシオは元気にやっています。何でかって?ヨシオだけに、いなくなってもヨシオ!はっはっは…しょうもな…はっはっは…。続きまして…
一広:(近藤が喋っている裏で。カバンを見て)なにやってんだよ
純子:いや、なんか食べるものないかなぁ、と思ってさ
一広:人のカバン勝手に漁るなよ
純子:ごめんごめん
一広:そんなんだから香織さんに嫌われるんだよ
純子:なにそれ
一広:え、お前覚えてないの?
純子:何を?
一広:ほら、お前がDJになる前、ここでバイトしてた時、置いてあったサンドイッチ勝手に食べたろ
純子:え?…あ!あれ、香織さんのだったの!?
一広:めちゃくちゃ怒ってたよ
純子:言えば良いのに
一広:まぁ、そんなこと根に持つ香織さんもどうかと思うけど、とにかく、ちゃんとしろよ、これからは
純子:恋するテディベアにお説教されたくないんだけど
近藤:続きまして、FAX、ラジオネーム、どんどこハム野郎さんからのお便り

一広、純子、固まる

一広:あ!
純子:それ読んじゃだめ!
近藤:(高いテンションのままで)「誰だお前、帰れ、くたばれ、お前の声なんて聞きたくもねぇ。このくそったれ野郎!」

近藤、笑顔のまま固まる。しばらく固まっている

一広:あ、フリーズした
純子:なんか、曲入れて!
祐司:どれですか?
純子:なんでもいいから!

祐司、悲劇的な曲をかける。近藤、シュンとなる

純子:うわぁ、めちゃくちゃ落ち込んでる…


Scene 8
香織が入ってくる

香織:腹立つなー…「しっかりしてくれなきゃ、困るよ。うほっ」

近藤、ブースから出てくる

香織:あれ、近藤さん、どうしたんですか?
一広:どんどこハム野郎が…
香織:え?
純子:こ、近藤さん、あ、あれはね…
近藤:俺、ちょっと、トイレ行ってくるわ…

近藤、部屋を出て行こうとする

一広:絶対逃げるぞ!
純子:捕まえて!

悲しげな音楽突然大きくなる。一同、スローモーション。大パニック。逃げようとする近藤の前に美樹が入ってきて近藤の顔をはたく。ドタバタの末に、祐司が逃げようとする近藤にしがみつく。音楽消えてスローモーション終わり

祐司:兄貴、逃げたらダメです!ここで逃げたら男近藤の名が廃ります!
近藤:だから、誰なんだよ、お前は!

みんなで近藤をブースの中に押し込む。祐司も腕をつかんで一緒に入る

近藤:分かったよ…

祐司、手を放す。近藤、再び逃げようとする。が、ブースの扉が開かない。香織、ポケットの中から鍵を取り出す

香織:閉じ込めちゃった
近藤:な、なにをぉ!
香織:(インカムマイクを掴んで)外から鍵かけてやったのさ!堪忍しな!
純子:こわっ
一広:っていうか、なんでそんな構造に
祐司:っていうか、なんでぼくまで!
香織:ねぇ、近藤さん、あと、ちょっとだから、何とかお願い
近藤:やだ!
純子:それでもDJのささくれか!
美樹:だから端くれです
一広:近藤さん!
近藤:いぃやぁだ!
祐司:兄貴ぃ!
近藤:絶対嫌だ!どうせ、今までのお便りだって偽物だったんだろ

一同、沈黙して目をそらす。近藤、ショックを受ける

近藤:…本当に?
香織:いや、あのね、近藤さん
近藤:そういうことかよ…みんなで俺のこと笑い者にしてたのかよ!
純子:いや、笑ってなんかないですよ…

はずみで何かのボタンを押してしまう純子。笑い声がかかる、慌てて止めようとする純子、だがなかなか止まらない。いろいろいじってやっと止まる

近藤:もういいよ
一広:あーあ、完全にふてくされちゃった
美樹:(インカムマイクを付けて)近藤さん!…ちょっとこっち見て下さい

近藤、しぶしぶ振り返る。美樹、変な動きを始める。近藤、呆然としている

美樹:あなたはだんだんラジオのDJがやりたくなるぅ。あなたはだんだんラジオのDJがやりたくなるぅ…
一広:美樹ちゃん…なにそれ?
美樹:催眠術です
純子:どこで覚えたの?
美樹:ネットで見ました

近藤、徐々にぼんやりとしてくるが、はっと我に返る

近藤:そんなのにかかるか!(実はちょっとかかるかと思った)
香織:美樹ちゃん、もういいからちょっとカルボに電話してみて
美樹:おかしいなぁ
香織:おかしいのはあんただ

美樹、電話する

祐司:あのぉ、トイレ行きたいんですけど…
純子:また?
祐司:今までは、ゴンさんを見張ってたので…あの、ぼくだけでも出してもらえたりは
香織:その男を説得するまではだめ
祐司:ゴンさぁん

近藤、無視。電話はつながらない

美樹:ダメですね、携帯つながんないです
香織:そっか…悪いんだけど、美樹ちゃん、正面玄関いって様子見てきて。カルボナーラが着き次第教えて
美樹:えぇ、外ですか?
純子:星見えるよぉ
美樹:…分かりました

美樹、出て行く

一広:どうすんですか、曲あけちゃいますけど
香織:もう一曲つないで

一広、インカムをつける

一広:ねぇ、これ、どうやるの?
祐司:あ…そこのボタンです
香織:近藤さぁん…頼みますよ
近藤:…そりゃ、そうだよなぁ…俺の声なんか聞きたいやつ、いるわけないよなぁ

一同、沈黙

近藤:だから前の番組だってクビになったんだもんな。あの時にあきらめときゃよかったんだよなぁ。けど、俺、バカだからさぁ、もう一回「グッナイ!」って最後に言いたくて…いつまでもラジオにしがみついて。…娘がさ、まゆみがさ、海外で勉強したいっつって3年前に家出てったきり会ってなくて、今、どこにいるのかもわかんないんだけどさ、その時に言われちゃったんだよねぇ、お父さんみたいにはなりたくない、って。なんも言い返せなかったよ。そりゃ、そうだよなぁ…俺、なにやってんだろうなぁ、って…あいつ、今元気かなぁ…

長い沈黙

一広:できたじゃないですか、DJ
近藤:あ?
一広:今夜のDJはペペロンチーノ近藤ですよ
近藤:だれも聞いちゃいないよ
一広:聞いてますよ、誰かが必ず。娘さんだって…聞いてるかもしれない
近藤:だから、今あいつは海外に…
一広:オッペケホッペケー彗星が来てるじゃないですか
一同:は?
純子:それ、誰から聞いたの?
一広:ネットで見たんだよ
香織:大矢くんまでそんなガセネタを
一広:もしかしたら、どっかで聞こえてるかもしれないじゃないですか、このラジオ、オッペケホッペケー彗星のおかげで。近藤さんの頑張ってる声を聞いてるかもしれない
近藤:そんな話…
一広:信じるか信じないかの問題だと思います。彗星は来るのか、DJになれるのか、ラジオを聞いてる人はいるのか…まず信じなきゃ
近藤:
純子:ねぇ、いつまでうじうじしてんの?
近藤:
純子:わたしオッペケホッペケー彗星なんて信じてないし、番組の時間が繰り上がるとかあがんないとか、まぁ、別にどっちでもいいんだけどさ…やりだしたことなら最後までやったら?
近藤:
一広:俺は信じたいです…まゆみさんも、近藤さんの声を聞いて、元気になってるって
近藤:
祐司:…す、すいません…もう限界
純子:黙ってろ
祐司:



近藤:開けてやれよ
香織:え?
近藤:開けてやってよ、ここで漏らされたらたまらん
香織:
近藤:早くトイレ行って曲開けには間に合わせろよ
祐司:は、はい!

香織、ドアを開けに行く

祐司、弾けるようにブースを出て行く

近藤:香織ちゃん、ちょっと打ち合わせ
香織:はい

香織、ブースの中に入る


Scene 9
電話が鳴る。純子、出る

純子:もしもし…あっ…はい…えっ?…でも、もうすぐ番組…ちょっと!…

純子、受話器を置く。香織、ブースから出てくる

香織:電話、なに?
純子:
香織:純子ちゃん?
純子:…カルボナーラさんから
香織:うそ?なんて?
純子:今、裏口についたって。「お悩み相談室には間に合ったかな」、ってやる気まんまんで。今さら遅いですよね?
香織:…そう…じゃ、迎えに行ってくる
純子:香織さん!
香織:当たり前でしょ、近藤さんはあくまで代役なんだから
純子:あとちょっとなんだからやらせてあげてもいいじゃないですか。近藤さん、もう一回番組の最後しめたかったって…
香織:大矢くん、局長に報告してきて。それ終わったら、もう行って良いよ、今時計借りてきたから
一広:分かりました

一広、出て行く。祐司が入ってくる

祐司:次、「今日のお天気」でーす

純子、香織を見つめる

香織:…そりゃ、やらせてあげたいよ私だって。でも、わたしにはプロデューサーとして番組をより多くの人に聞いてもらわなきゃいけないっていう責任があるの…

香織、行きかける

純子:香織さん、冷たく見えて、本当は結構優しいんだと思ってたけど…やっぱり本当に冷たい人なんですね
香織:
純子:近藤さんだってさんざんのせといて…人の気持ちなんか全然考えてないんだ
香織:…人の気持ち分かってないのはどっちだよ
純子:は?

間。香織、振り返る

香織:明日からもう来ないよ、大矢くん
純子:…え?
香織:もう、ここ辞めるから
純子:
香織:バンドも辞めて、東京の会社に就職するんだって
純子:
香織:最後の日だってのに

香織、いらだたしげにため息をついて、出て行く。呆然とする純子

祐司:キュー
近藤:それでは、今日のお天気のコーナーです。雪もだいぶ小降りになってきたようですね。現在降っている雪はこの地域ではまもなくやみ、時折晴れるところもあるでしょう。朝六時以降は一日中さわやかに晴れた天気が続くでしょう。今週日本列島に居座った寒気は、あしたには太平洋に押し出され、今日以降は陽気な日が続くでしょう。さて、そろそろ桜の開花も間近かもしれません。もう春ですねぇ。春と言えばやはり出会いと別れの季節。もうすぐ大好きな誰かとの別れが待っている、あるいは、もう辛い別れを経験した、という人も多いと思います。そこで今日は、ラジオ電波の不思議な現象についてお話しましょう。皆さんは、スポラディックE層というものをご存知ですか?特殊な電離層の影響で、ラジオの電波を反射して通常よりも遠くでラジオ電波を受信できるようになるという現象です。例えば、沖縄や北海道のFM電波が突然東京で聞こえたりするんです。不思議でしょぉ?ということは、遠くへ離ればなれになってしまったあの人も、このラジオを聞いているかもしれません。では、ここで一曲。シンディーローパーで、タイムアフタータイムです

近藤の喋っている途中で一広が戻ってくる

一広:じゃ、俺、そろそろ行くわ、時間、なくなってきたから
純子:(背中を向けて)うん
一広:近藤さん、様になってるよな
純子:そうだね
一広:ビデオ、ちゃんと返しとけよ
純子:うん

長い間。言うべき言葉を探す一広

一広:あのさ…

一広、カバンから写真を取り出す

一広:これ、ずっと渡しそびれてたから、修学旅行の時の

振り向かない純子。タイムアフタータイム、かかる。近藤、二人の様子を見て、何かを察し、ブースから出てくる

近藤:おい、ちょっと、トイレ行くぞ
祐司:え、ゴンさん、さっきも行ったじゃないですか
近藤:良いからいくぞ…コヤマン!
祐司:え…思い出してくれたんすね、ゴンさーん!

二人、はける

一広:あの…
純子:シュー、ってさ、聞こえた気がしたんだよね、あの時
一広:へ?
純子:修学旅行の帰りさ、電車の中から星見ててさ、流れ星が見えて、その時、シューって、聞こえた気がしたんだ
一広:
純子:シュー、って
一広:
純子:でも、そんなわけないか
一広:
純子:…バカだねぇ、わたし、近くにいたのに、自分ばっか喋って、自分のことばっか考えて、全然気付かなかった
一広:
純子:でも…なんで言ってくれないかなぁ



一広:楽しかったからさ、お前の話聞いてるの…お前が気使うのとか、似合わないし
純子:
一広:そこの部長が親父の親戚とかでさ、結構おいしい話
純子:これからは、ずっと、東京?
一広:うん…最初の何年か海外で研修して、うまく行けば、そのまま向こうで暮らすことになるかもしれない
純子:…そっか
一広:音楽は続けるよ、趣味として、多分
純子:

「タイムアフタータイム」が聞こえてくる

一広:見たかったなぁ、オッペケホッペケー彗星、東京でも見れるかな
純子:
一広:そいじゃ、頑張れよ

一広、行きかける。照明が徐々に変わる。二人の意識に、夜行列車に乗って交わした会話の記憶が蘇る

(回想)
純子:好きなんだ、この曲
一広:え、なんの曲?
純子:ほら、そこのラジオでかかってるの
一広:あぁ
純子:タイムアフタータイムって曲、知らないの?
一広:うん
純子:それでもミュージシャンの端くれか
一広:それ、ささくれだよ
純子:え、そうだっけ?
一広:うん、多分、ささくれだよ
純子:そっか、ささくれか



純子:星、きれいだね
一広:あぁ
純子:ねぇ、一広…あの星からもさ、わたしたちの地球って見えてるのかな
一広:さぁ、どうだろうな、もしかしたら、あの星は、もうあそこにはないかもしれないし
純子:え、なにそれ
一広:星の光はさ、ずぅっと長い時間をかけてここまで届いてるから、俺たちまで光が届く頃には、星自体は消えちゃってるかもしれない
純子:へぇ、そうなんだ…じゃぁさ、いつか、わたしの声がラジオの電波に乗って、わたしが死んじゃった後とかに、どっか遠くの星に届くかもしれないんだ
一広:それはありえないよ
純子:なんで?
一広:ラジオの電波はそんな遠くまでは届かないよ、FMは150キロくらいまでだし、AMだってせいぜい…
純子:信じるか信じないかだと思う、そういうの。いつか、きっとわたしの声は、宇宙の向こう側まで届く

間。回想終わり。照明、徐々に戻る。二人の意識が現在のスタジオに引き戻される

一広:そうかもな…届くかもな
純子:
一広:お前の声が、俺のところまで、届いたらいいな
純子:…届くかな
一広:300年かけて、はるばるやってきた彗星なんかに比べたら、しょせん、せまっ苦しい同じ星の上に住んでんだから
純子:

二人、お互いを見る。一広、出て行く。間。音楽、消えて行く


Scene 10
香織が入ってくる

香織:言いたいことはちゃんと言えたの?
純子:香織さん…
香織:お説教するつもりはないし、別にどうでもいいんだけど…伝えたいこと伝えられる時に言葉にしとかないと、いつか後悔するかもよ

香織、缶コーヒーを渡す。受け取らない純子。机の上に置く、香織

香織:わたしもさっきまでデートしてたんだけど、伝えたいことなんも伝えられなかった
純子:香織さん、彼氏いたんですね
香織:60近いおっさんだけどね
純子:
香織:なんだよ、そんな目で見ないでよ…親父だよ、父親
純子:あぁ…
香織:こんな仕事してると、恋人なんてなかなか見つかんないんだよね
純子:
香織:ちょうど10年だったからさ、お母さんが死んでから。今まで面倒みてくれてありがとう、みたいなことでも言おうと思ってたんだけど、なんか照れくさくてさ、結局言いそびれちゃった



香織:あ、星見えてきた
純子:雪、やんじゃったみたいですね
香織:もう、春だしね

二人、しばし、薄く曇った星空を見上げる

純子:あ、そういえば、カルボナーラ田中は?
香織:閉じ込めちゃった
純子:どこに!
香織:2階の倉庫
純子:なんでそんなとこの鍵持ってるんですか
香織:うそだよ…あんたとは違うんだから
純子:なんですか、それ
香織:今日のところは帰ってもらったよ、丸め込むの大変だったけど
純子:
香織:個人的な感情に流されたわけじゃないから。プロデューサーとして、ペペロンチーノ近藤の方がこの番組のDJにふさわしいと判断した。少なくとも今夜は

純子、缶コーヒーを手に取る

純子:賛成です、その判断
香織:また、ブタゴリラがうるさそうだなぁ
純子:…タマゴサンド
香織:は?
純子:すいませんでした、タマゴサンド、勝手に持ってっちゃって
香織:あぁ…
純子:でも、あれ、結局ブタゴリラに食べられちゃったんですよ
香織:は?
純子:あの後、「あれ、純子ちゃん、おいしそうなの持ってるじゃーん、ぶほっ」って
香織:ぶほっ?
純子:ったく、ブタなのかゴリラなのかはっきりしろって話ですよね

純子、言いながらコーヒーのタブを開けて、一口飲む

香織:ほんと

二人、笑う。近藤と祐司がくっついて入ってくる

祐司:ゴンさん!(うきうき)
近藤:コヤマン(ぐったり)
祐司:ゴンさん!!
近藤:コヤマン…
祐司:曲あけまーす、最後のコーナー、お悩み相談室でーす
香織:放送終了まであと5分です
近藤:意外となんとかなったね
純子:これ、お便りです
近藤:あいよ…そういえば、美樹ちゃんどこ行ったんだろ

近藤、ブースの中に入る

純子:あ!そういえば…
香織:あの子!

舞台別の場所にピンスポがつく。美樹が凍えながら立っている

美樹:さむぅぅぅぅぅぅい!全然来なぁぁぁぁぁぁい!(携帯電話を耳に当てて)携帯つながんなぁぁぁぁぁぁぁい!(変な動きを始めて)わたしはだんだん暖かくなるぅ…

照明消える

香織:ま、いっか
祐司:ゴンさん、キュー!

照明、暗くなる。ブースの中だけついている

祐司:うわっ
純子:停電?
香織:大丈夫、自家発電機があるから
近藤:なに?なんだって?
祐司:あれ、おかしいな
香織:なに?
祐司:マイクが入ってない、っていうか、ミキサーとかも全部死んでます
香織:うそ、なんで!

近藤、ブースから出てくる

近藤:どうしたの?
香織:自家発電がちゃんと働いてないんです
近藤:えぇ?
香織:これじゃ、ほんとに放送事故だ
純子:まさか、香織さん、ほんとにカルボナーラ閉じ込めたんじゃ…
近藤:は?
祐司:閉じ込めた?
香織:なんで?
純子:発電機が置いてあるのは…2階の倉庫です



香織:あ、すごく星がきれい…
純子:香織さん!
近藤:どういうことよ?
香織:あの野郎!近藤さん、来て!
近藤:え、香織ちゃん、どこ行くの?
祐司:ちょっと、どうするんですか?ゴンさん!

香織、近藤、祐司、はける。照明、ますます暗くなり、ブースの中の明かりだけが、舞台にこぼれている

一人残された純子。机の上に置かれた写真を手に取り、ブースから漏れる明かにかざして見る

純子:好きなんだ、この曲…それでもミュージシャンの端くれか…そっかささくれか…

間。星空を見上げる純子

純子:端くれだよ、ばーか!!

間。純子、写真を机の上に置く。ふと、一枚のFAXに目を留める。かすかに、冒頭でかかった宇宙の音が聞こえてくる。はっとしてちらりと星を見る。宇宙の音、消える。照明、急に明るくなる

香織、近藤、慌てて戻ってくる

香織:あのスパゲッティ野郎!
純子:あ、あの…
近藤:カルボナーラが勝手に配電盤いじってたんだよ
香織:放送終了まであと3分!

近藤、ブースに飛び込む。祐司が駆け込んでくる

祐司:ゴンさん、キュー!
近藤:さて、いよいよ今日最後のコーナー「ペペロンチーノ近藤の、ペロっと解決お悩み相談室」リスナーからの相談をペロッと解決していきたいと思います。では、さっそく今日の相談お便り、ラジオネーム・ゆきこさんから。「ペペロンチーノ近藤さん、今晩は。この番組は初めて聴きます。わたしは、高校二年生なんですが、仲の良かった友達がもうすぐ遠くに引っ越してしまいます、とても寂しいです。」なるほどぉ、これは難しいですねぇ

純子、意を決してブースの中に飛び込む

近藤:え…(マイクに手をかぶせて)純子ちゃん?

純子、マイクの前に座る

純子:今晩は、マルゲリータ純子です

音楽、かかる

近藤:あ、え?
純子:ゲストに呼んで頂いて光栄です
近藤:あ、はぁ
純子:ペペロンチーノさんと一緒にお悩みをペロッと解決していきたいと思います
近藤:…あ、そうですね、よろしくお願いします。では、このゆきこさんのお悩みはどうしたら…
純子:今日、オッペケホッペケー彗星っていう星が地球に接近しているらしいですねぇ、ペペロンチーノさん
近藤:は?

電話がかかってくる。香織がとる

純子:その彗星の電磁波の影響で、色々不思議なことが起きるかもしれないそうです。電気系の機械がおかしくなったり、FMラジオが世界中で聞けちゃったり…もしかしたら、このラジオもゆきこさんの友達に、聞こえてるかもしれない
(以下、近藤の台詞まで純子の裏で)
香織:はい、あ、局長…え?今、ちゃんと放送してますけど…え、おかしい、って何がですか?…え?電波?は?もしもし?…局長?

電話が切れたようだ。不思議そうな顔で空を見上げる香織。美樹に照明が当たる。美樹が携帯を耳に当てている

美樹:もしもし?…あ、お母さん?…いや、あんなうそつくつもりなかったんだけど…え、お母さん、今どこにいるの?もしもし?…

電話が切れたようだ。照明消える

近藤:純子ちゃん、なに言ってるの?
純子:もしかしたら、誰かを想う気持ちは、その人に伝わるのかもしれない…だって、所詮、わたしたちは、みんな…ゆきこさんも、ゆきこさんの友達も、よしおくんも、ハム野郎さんも、富山のおじいさんも、岐阜のお母さんも、ミス津軽リンゴも、アメリカにいる人もインドにいる人も…みんな、大して遠い所に住んでるわけでもないんだから

舞台別の場所、駅でラジオを聴いている謎のおじさんと一広に照明が当たる

純子:だから、ゆきこさん、ラジオを聞いてくれているみなさん、叫んでみませんか?誰かへの想いを。その人に伝わるように
祐司:ゴンさん、まいて…

香織、祐司の肩に手を置いて制する。

近藤:純子ちゃん、ちょっとさ…
純子:ここで、もう一通お便りお読みしたいと思います。ラジオネームまゆみさんから
近藤:え…
純子:「頑張っている、お父さんへ。わたしも今、一生懸命勉強しています。今度休みができたら会いに行くので。くれぐれも体に気をつけて」
近藤:そんな…
純子:きっと、まゆみという名前の人はこの星の上に何百人といる。けど…



純子:ゆきこさんの友達さーん!ゆきこさんは、今でもあなたのことを大事に想ってますよー!

近藤、FAXをじっと見て、顔を上げる

近藤:まゆみー!元気かー!風邪ひいてないかー!頑張れよー!お父さんも日本で頑張ってるからなー!(ここで純子も重なる。以下、近藤役のキャストが自作して『純子一広ー!』まで続ける)
純子:ゆきこさんの友達さーん!ゆきこさんはあなたとずっと友達だって、信じてるからねー!(ここで香織も重なる)離れてても、ずっと友達だからねー!ゆきこさんも、きっと、今、あなたのこと想ってるんだからねー!忘れないでねー!本当の親友になれる人は、そんなにいないんだからねー!
香織:お父さーん!今まで育ててくれてありがとーう!これからもずっと、わたしのことよろしくねー!(ここで祐司も重なる。以下、香織役のキャストが自作して『純子:一広ー!』まで続ける)
祐司:ばーちゃーん!今度会いに行くからなー!それまで生きて待ってろよー!(ここで謎のおじさんが入る。以下、祐司役のキャストが自作して『純子:一広ー!』まで続ける)
謎の:よしおー!元気かー!腹減ってないかー!

美樹に照明が当たる

美樹:(携帯を耳にあてながら)寒いー!彼氏ほしいー!…あれ?

美樹、空を見上げてなにかに気づき、はける

純子:一広ー!

近藤、香織、祐司、黙る

純子:あんた、いつも偉そうなことばっか言って、頭いいふりして、大っ嫌いだったけど、それでも結構好きだったんだからねー!東京行っても頑張れよー!わたしも、頑張るからー!同じ星見ながら頑張ってんだからねー!銀河のかたすみの、同じ星の上で、あんたと一緒に頑張ってんだからねー!
祐司:ゴンさん!ラスト、キュー!
近藤:みんな、グッナイ!

音楽大きくなる。放送が終わり、ブースから出てきて、祐司に抱き付かれる近藤。部屋に美樹が飛び込んできて、うれしそうになにやらわめいている。美樹にひっぱられて出て行く近藤と祐司。香織は純子をそっと見てから出て行く。星空を見上げる一広。ブースの中から、同じ星空を見上げる純子。緞帳降りる





*上演にあたって
蛇足ですが、「銀河のかたすみで」を上演するにあたって、疑問に感じられるかもしれない点で、初演時にどのように表現されたか、以下にいくつか挙げます。他にも演出の仕方があると思いますが、ヒントにしていただければと思います。
1.ブースの明かりについて
初演時には、レコーディングブースに独立した照明(実際はSS)を用意して、登場人物がミキサーのフェーダーを上げるとブースの中に照明が当たり、フェーダーを下げると照明が消える、という演出をしました。これは、フェーダーが上がっているとブースの中の声がスタジオにスピーカーから流れ、下がっているとインカムのイヤフォンからしか聞こえなくなる、という設定を表現したものです。(ちなみに初演時には、ブースの中のマイクと、スタジオのミキサー・スピーカーを接続して、実際に増幅した音を出しました)Scene10の「照明、ますます暗くなり、ブースの中の明かりだけが、舞台にこぼれている」というのは、このブースの明かりだけ残し、他の照明を落とした状態です
2.番組内で流れる曲
何回かかかる番組中の曲は、基本的には冒頭だけ流してF/Oしました。Scene6のCM、Scene9の、最初の「タイム・アフター・タイム」も同様です。ちなみに、ここで流れる曲は必ずしも「タイム・アフター・タイム」でなくても良いです。台本上、Scene1の冒頭謎のおじさんと一広のシーンで流れる曲と、Scene9で二度流れる曲は同じ曲だ、と理解してもらえるように「タイム・アフター・タイム」と表記しました。一広と純子の思い出の曲としてふさわしい、という演出上の判断であれば、どんな曲であっても構いません
3.インカムの設定
基本的にスタジオの声はインカムマイクを通してのみブースに伝えられます。オンエア中近藤はイヤフォンかヘッドフォンをつけていてスタジオの声はイヤフォンからしか聞こえない、オフエアの時はブース全体にオープンで聞こえる、という設定です。演出次第でもう一つスイッチ付きのオープンマイクをセットしてもいいかもしれません



 
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