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2010年12月 5日

書籍の再販制度と電子書籍

前回の続き。本の再販制度の話です。

前回書店の仕組みで書いたように、
書店の買切で販売される書籍は、あまり売れる見込みはないけれど刷る意義のある良質な本と、
発売と同時に爆発的な売れ行きが期待できるものの、返本されると出版社が困ってしまう本と、おおよそ2種類があると言えそうです。

書店が買切で購入した本でも、岩波文庫のようなものは書棚の品格を保つためにも並べておくと良さそうですが、
何十冊、何百冊と仕入れたベストセラーが売れ残ってしまうと、目も当てられない事態に陥ってしまうわけです。
では、そんな本はいったいどこに行くのか・・・謎ですね。

ブックオフオンライン

他の商品であれば、売れ残りそうなものは安く叩き売られることになると思うのですが、
書籍は再販売価格維持制度、いわゆる再販制度に守られているため、それができません。
再販制度とは、小売店が決まった価格で商品を販売することを義務づける制度で、
日本では書籍・雑誌・新聞・音楽CD・音楽テープ・レコードの6商品が指定されています。
一般の商品は、価格競争を阻害すると独占禁止法に抵触してしまいますが、
書籍や音楽CDは、逆に定価で販売しなければならない仕組みになっているわけです。

では、なぜこんな制度が定められているのかというと、
書籍などの文化的に価値のある資産に関しては、
国家の文化水準を維持する上で不可欠な多用なものが、
全国どこにいても同じ値段で入手できるということ、とされているため。
例えば、ガソリンの値段が東京の倍もする離島であっても、
本や音楽CDは再販制度のおかげで東京と同じ値段で購入できますし、
同じ値段で卸されるので書店も商売が成立するわけです。

では再販制度がなくなってしまうと、どうなるかというと・・・
日本書籍出版協会のQ&Aには、

1.本の種類が少なくなり、
2.本の内容が偏り、
3.価格が高くなり、
4.遠隔地は都市部より本の価格が上昇し、
5.町の本屋さんが減る、という事態になります。

と記されています。
たしかに再販制度がなくなってしまうと、
売れる本は安くなってますます売れ、売れない本は高くなってますます売れなくなり、
出版されるもの自体が売れるような本ばかりになり、
やがて売れさえすれば良いというような、くだらない本ばかりになりそうです。
流通する書籍も、他の商品と同様に企業の力関係が影響してくるでしょうから、
小さな出版社の書籍は買い叩かれたり、そもそも市場に出回らなくなったりして、
現在様々な業種で見られるような大手の寡占状態が進むことも予想されます。
また、輸送費などのコストがかかる遠隔地では都市部より確実に値上がりするでしょうし、
結果的に町の本屋さんもなくなってしまいそうです。

と言うと、再販制度は大切な感じもしてきますが、
よく考えてみると、これらはすべて現在既に起こっている出来事でもあることに気がつきます。
特に私たち一般の読者にとっては一番重要である書店に関して、
遠隔地どころか町の本屋さんも確実に姿を消してしまっていますものね。

なぜ本屋を町で見かけなくなってしまったのか、
それはAmazonに代表されるネットショップの影響が大きい、というのは言うまでもないと思います。
これはCDショップなども同じ理由ですよね。
また、雑誌や新聞が売れなくなったのはネットの普及で情報の即時性や無料化云々というのが最大の要因でしょうし、
音楽CD・レコード・音楽テープの音楽関連は、ダウンロード販売に取って代わられつつある、という理由が思い当たります。
さらに言えば、書籍や雑誌は電子書籍に移り変わろうとしている真っ最中ですしね。

つまり、再販制度に指定されている6商品というのは、
インターネットの普及によって、その商品形態、販売形態が大きく変貌していると言えそうです。
そもそも、レコードや音楽テープを指定しているこの制度で電子書籍が考慮されているはずもなく、
電子書籍は再販制度の対象外となっています。
と言うことは、電子書籍は値段の設定が自由にできる媒体であり、
なぜ日本の出版業界が電子書籍の導入に積極的でないか、という答えはこの辺りにありそうな感じがします。

電子書籍が普及すれば、書籍化の費用や敷居が下がるので本の種類が少なくなったりしないでしょうし、
著者と出版社と書店と読者さえ居れば成立するので取次は不要、よって価格は安くなるはずですし、
当然遠隔地だろうと都市部だろうと価格は同一。
つまり、電子書籍にはそもそも再販制度で守るべきポイントがない、と言えそうです。
ですから本に関して言えば、これまでの紙の書籍とリアル店舗の時代、
再販制度は有効なものだったかもしれませんが、
書店がリアル店舗からネットショップに推移し、電子書籍が普及しようとしている現在、
定価販売が義務づけられる再販制度は、逆に手枷足枷となってしまいそうな感じがします。

では、再販制度を廃止すれば良いのかと言うと話はそう簡単ではなく、
長々と書いてきたように、書籍には独特の仕入・流通のシステムがあるので、
再販制度を見直すのであれば、その辺りを含めての全体的な再考が必要になるのではないかと思います。
また長くなるので簡単に個人的見解を記すと、
電子書籍は再販制度の対象外、紙の書籍はフランスや韓国が導入しているような
時限・値幅を制限した再販制度の導入が、現状ではベターではないかと思っています。

近年、音楽CDが売れなくなり、業界やJASRACは違法ダウンロードなどを理由にしていますが、
日本の音楽CDは再販制度に守られているため、諸外国と比較しても異常な高額となっていることが、
CDが売れない大きな要因の一つを占めているのは間違いないところだと思います。
書籍に関しても、古き再販制度に縛られたままでいると、
音楽CDと同じような衰退の途を歩むことになってしまうのではないかと危惧しています。
何がベストなのかは非常に難しいところですが、何かしらの対応・対策は必要になってきているのではないでしょうか。

「書籍の再販制度と電子書籍」奥付

  • Posted : 2010年12月 5日 18:58
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