「鳥屋」(とや)
舞台にある花道の突き当たり、
揚げ幕に隠された部屋を「鳥屋」と呼びます。
以前、東京では「揚げ幕の内」と言われていたこともあるそうですが、
現在では「鳥屋」が一般的になっています。
鳥屋は、花道に出入りするための控え部屋のことで、
たいていは非常に小さな部屋なことから、
「鳥小屋」を意味する「鳥屋」と呼ばれるようになりました。
少し洒落て捉えると、
「大空に羽ばたく前の鳥が囲われている場所」といった意味かもしれませんね。
劇場によっては、この「鳥屋」と「奈落」や「袖」が、
秘密の道で繋がっていることもあります。
俳優の早い移動によるトリックなどには、こうした舞台機構のタネがあるわけです。
現代劇でも多用されていますが、
歌舞伎の世界が生み出した、舞台のおもしろさの1つですよね。
また、旅公演を行っている一座や俳優が、
主にお客様の不入りのため次の公演地に出発することができず、
同じ宿場に滞在して引きこもってしまうことを「鳥屋に就く」、
または「鳥屋籠り」「鳥屋踏み」などと言います。
これは、宿場を劇場にある「鳥屋」に見立て、
そこから俳優が出を待っている様子に例えているわけです。
前述のように「鳥屋」という言葉自体が比喩から生まれたものですが、
それをさらに比喩に使うとは、
洒落心のある芸能の世界だからこそ生まれた言葉かもしれませんね。