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2009年12月23日

■公共劇場の芸術監督

公共の劇場に有名な演出家が就任するケースが増えていますが、
それについて、今年新聞各紙が取り上げたニュースをまとめてみます。

まずは読売新聞が6月19日に掲載した記事。
"劇場の「顔」芸術監督"という見出しで、芸術監督の仕事について取り上げています。

野田秀樹が7月に東京芸術劇場の芸術監督に就任すること、
世田谷パブリックシアターで芸術監督を務める野村萬斎、
新国立劇場芸術監督を務める鵜山仁を取り上げた後、
キラリ☆ふじみの芸術監督を経験した平田オリザのコメントを記しています。

「2002年から5年間、芸術監督を務めた。予算が少なく、外部から自分のコネで資金を調達することも大事な仕事だった」と振り返る。

「フランスでは国立の劇場が各地にあり、芸術監督人事は地元の大きな関心事。
スター的な監督なら街がにぎわうし、引き抜かれたら打撃を受ける。
監督は街の象徴の要素を持つ大事な地位だ」と現地事情を語る。

芸術監督に求められる資質として、「コネと資金獲得能力。そして芸術家として尊敬を得られるか」と言い切る。
「日本でも、監督を置く劇場が増えれば競争も激化し、消える劇場も出るだろう」と予測する。

そして最後に、野田秀樹のコメント。

「以前は劇団が人を育て、芝居も打ち、演劇界を引っ張ったが、今はその力はない。劇場主導型に移行している」と野田。
「(主宰の)NODA・MAPで活動中だが、金銭面を含めて個人の力には限界がある。
昔の『夢の遊眠社』時代は企業の支えがあったが、近年はなくなった」と語る。
劇場の「顔」芸術監督 | 読売新聞


続いて、9月7日の朝日新聞。
"演劇人、公共劇場の「顔」に"という見出しで、芸術監督全体について取り上げています。

前述の野田秀樹・野村萬斎の他、
2011年開場予定の神奈川芸術劇場に就任する宮本亜門
シアターコクーン芸術監督を経てまつもと市民芸術館館長兼芸術監督に就任した串田和美、
彩の国さいたま芸術劇場の蜷川幸雄などを例に挙げています。

運営全般に強い権限を持つ欧州の芸術監督に比べて日本の監督の立場はまだ弱い。

事業に関する人事権と予算執行権を持つのは静岡県舞台芸術センターの宮城聰芸術総監督(50)ぐらい。
新国立劇場では、鵜山仁芸術監督(56)が1期3年で退任する人事の選考過程をめぐり、
監督交代を主導した劇場執行部と疑問視する演劇人との間で、意見の相違や信頼関係の欠如が露呈した。

野村萬斎は芸術家の経験不足もあると指摘する。
「英国では地方の劇場で頭角を現した芸術監督がロンドンの劇場へとステップアップできる環境がある。
経験のない人が突然就任する日本では、スタッフの支えがより重要になる」

劇場が増えるにつれ、ソフト不足も深刻化している。
ある民間の演劇プロデューサーは「人気を当て込み、特定の作り手や俳優に仕事が集中する。
人材や作品を育てるべき公共劇場が過剰に営利や集客を追う傾向が強まっている」と懸念する。

初めて劇場付きの演劇人となった野田は、こう抱負を語る。
「20歳のときから劇団(夢の遊眠社)では、芝居で黒字にすることを意識してきた。
ここではそれに加え、演劇界の活性化や人材育成といった『文化的な黒字』も生みだしていきたい」
演劇人、公共劇場の「顔」に | 朝日新聞


最後に、10月20日の産経新聞。
"地域振興の担い手期待 公共劇場に著名芸術監督次々誕生"という見出しで、
やはり野田秀樹・野村萬斎・蜷川幸雄などを例に挙げ、芸術監督について解説しています。

芸術監督が増えたのは、平成14年に文化庁が始めた芸術拠点形成事業がきっかけだ。 劇場が、舞台を上演するだけの「ハコモノ」ではなく、地域におけるソフトの発信拠点と位置づけられた。 この結果、劇場の役割に人材育成や地域振興が重視され、その担い手として芸術監督にスポットライトが当てられた。

芸術監督の知名度が、劇場の「公共性」を支えるという一面もある。
東京芸術劇場の高萩宏副館長は「公共劇場がどこまでコストをかけていいものか。
判断のカギは、市民など一般への理解だが、著名人が"顔"なら、プログラムへの理解を得られやすい」と話す。

「公共劇場こそ芸術監督が必要」と語るのは、
埼玉県富士見市の富士見市民文化会館キラリ☆ふじみで芸術監督を務めたことのある劇作家の平田オリザだ。
「プログラムを組むにも専門家が必要だし、上演にかかる適正価格も分かる。
税金の無駄遣いが少なくなる効率のいいシステムです。
ただ、成功させるには行政やスタッフのサポートが重要で、
芸術監督が自分でプログラムを決めて助成金も取ってくるような状況ではいけない」と話している。
地域振興の担い手期待 公共劇場に著名芸術監督次々誕生 | 産経新聞


昨年から、新国立劇場の演劇部門次期芸術監督人事についての問題もありましたが、
まず、そもそも芸術監督の役割とは何なのか、
劇場における演目を選定したりするディレクターなのか、
それとももっと大きな視野で運営までを担うプロデューサー的役割なのか
議論を進めていく必要がありそうですね。

演劇とは縁もゆかりもない職員が上演作品を選定している状況も異常な感がありますし、
公共の劇場は税金なども使っているわけですから、
一般の市民に納得してもらえ、また理解してもらえるような説明ができる
芸術監督、もしくはプロデューサーというのは重要性を増してくると思いますし、
今後も多くの劇場で起用が増えてくるのかもしれません。

芸術監督 | 舞台・演劇用語

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「公共劇場の芸術監督」奥付

  • Posted : 2009年12月23日 17:15
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